レナード・ホカンソンのソロ録音

ヘルマン・プライなどの共演者としてよく知られているアメリカのピアニスト、故レナード・ホカンソン(Leonard Hokanson: 1931.8.13,Vinalhaven-2003.3.21,Bloomington)はソリストとしても活動していて、なかでもブラームスの後期小品集のCD(Bayer)は珠玉の一枚でしたが、動画サイトでもいくつかの音源がアップされていたのでご紹介します。
特にショパンは、まさかホカンソンのレパートリーに含まれていたとは想像もしていませんでした。

ベートーヴェン「エリーゼのために」

シューマン「トロイメライ」

ショパン「幻想即興曲 嬰ハ短調 Op.66」

ブラームス「間奏曲 変ホ短調 Op.118-6」

まだ私が学生だった頃、FMでリストのオケ編曲版によるシューベルト「さすらい人幻想曲」をホカンソンが弾いたライヴが放送されたのを覚えています。
決してテクニシャンではなかったホカンソンですが、時に聴き手の心に訴えかける歌心を感じさせるピアニストだったと思います。

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プライ日本公演曲目1990年(第9回来日)

第9回来日:1990年11月

Prey_hokanson_1990_pamphletヘルマン・プライ(Hermann Prey)(BR)
レナード・ホカンソン(Leonard Hokanson)(P)
東京フィルハーモニー交響楽団(Tokyo Philharmonic Orchestra)
NHK交響楽団(NHK Symphony Orchestra)
佐藤功太郎(Kotaro Sato)(C)
ヴァーツラフ・ノイマン(Václav Neumann)(C)

11月2日(金)19:00 秋田:アトリオン音楽ホール:プログラムA
11月3日(土)18:00 甲府:山梨県民文化ホール:プログラムA
11月5日(月)18:45 水戸:水戸芸術館:プログラムA
11月6日(火)19:00 横浜:神奈川県立音楽堂:プログラムA
11月8日(木)19:00 大阪:ザ・シンフォニーホール:プログラムA
11月10日(土)13:30 大阪:金蘭短期大学佐藤講堂:プログラムA
11月12日(月)19:00 東京:サントリーホール:プログラムB
11月15日(木)19:00 東京:NHKホール:NHK交響楽団第1125回定期演奏会
11月16日(金)19:00 東京:NHKホール:NHK交響楽団第1125回定期演奏会
11月19日(月)19:00 東京:サントリーホール:プログラムA
11月22日(木)19:00 東京:サントリーホール:プログラムC

●プログラムA 共演:レナード・ホカンソン(P)

シューベルト(Schubert)/<冬の旅>(Winterreise)D911
(おやすみ/風見/凍った涙/氷結/ぼだい樹/雪どけの水流/凍った川で/かえりみ/鬼火/休息/春の夢/孤独/郵便馬車/霜おく頭/からす/最後の希望/村で/あらしの朝/まぼろし/道しるべ/宿/勇気/幻の太陽/辻音楽師)

●プログラムB 共演:レナード・ホカンソン(P)

シューマン(Schumann)/<12の詩>(12 Gedichte)Op. 35
(あらしの夜のたのしさ/愛と歓びは捨て去るのです/旅するよろこび/はじめての緑/森への憧れ/亡き友の酒盃に寄す/さすらい/ひそかな愛/問い/ひそかな涙/だれがおまえを傷つけたのか/むかしのラウテ)

 ~休憩~

シューマン/<詩人の恋>(Dichterliebe)Op. 48
(うるわしい、妙なる五月に/ぼくの涙はあふれ出て/ばらや、百合や、鳩/ぼくがきみの瞳を見つめると/ぼくの心をひそめてみたい/ラインの聖なる流れ/ぼくは恨みはしない/花が、小さな花がわかってくれるなら/あれはフルートとヴァイオリンのひびき/かつてあのひとの歌ってくれた/ある若者がある娘に恋をした/まばゆく明るい夏の朝に/ぼくは夢のなかで泣きぬれた/夜ごとにぼくはきみの夢を見る/むかしむかしの童話の国から/いまわしい歌草を)

●プログラムC「オペラ・アリアの夕べ」 共演:東京フィルハーモニー交響楽団;佐藤功太郎(C)

モーツァルト(Mozart)作曲
<フィガロの結婚>序曲(<Le nozze di Figaro> Overture)
フィガロのアリア「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」(Non più andrai, farfallone amoroso)

モーツァルト作曲
<魔笛>序曲(<Die Zauberflöte> Overture)
パパゲーノのアリア「おいらは鳥刺し」(Der Vogelfänger bin ich ja)

モーツァルト作曲
<コシ・ファン・トゥッテ>序曲(<Cosi fan tutte> Overture)
グリエルモのアリア「彼に眼を向けなさい」(Rivolgete a lui lo sguardo)

ロルツィング(Lortzing)作曲
<密猟者>序曲(<Der Wildschütz> Overture)
伯爵のレシタティーヴォとアリア「やさしい朝の太陽はなんと晴れやかにかがやき」(Wie freundlich strahlt die holde Morgensonne)

クロイツァー(Kreutzer)作曲
<グラナダの夜営>より狩人のロマンス「ぼくは射撃手だ」(<Nachtlager in Granada> Ein Schütz' bin ich)

ワーグナー(Wagner)作曲
<タンホイザー>序曲(<Tannhäuser> Overture)
ヴォルフラムの歌「ああ!わたしのやさしい夕星よ」(O! du mein holder Abendstern)

ワーグナー作曲
<ニュルンベルグのマイスタージンガー>よりハンス・ザックスのモノローグ「にわとこのモノローグ」(<Die Meistersinger von Nürnberg> Flieder-monolog)
<ニュルンベルグのマイスタージンガー>前奏曲(<Die Meistersinger von Nürnberg> Prelude)

●NHK交響楽団第1125回定期演奏会 共演:NHK交響楽団;ヴァーツラフ・ノイマン(C)

マーラー/「亡き子をしのぶ歌」

マーラー/交響曲第1番ニ長調「巨人」

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ヘルマン・プライ9回目の来日は、前回から2年後の1990年。
ピアニストは1973年以来日本で共演していなかったレナード・ホカンソン(1931.8.13, Vinalhaven, Maine, US - 2003.3.21, Bloomington, Minnesota, US)が久しぶりに登場した。
オーケストラは初共演の佐藤功太郎(1944年東京生まれ)指揮、東京フィルハーモニー交響楽団が務めている。

曲目については、再び「冬の旅」がすべての地方で歌われ、1980年を除いてすべての来日公演で歌われたことになる。
私は「冬の旅」ではなく、サントリーホールで1回だけ披露されたシューマン歌曲の夕べ(11月12日)を聴きに行った。
「詩人の恋」は1971年に日本公演で披露していたが、ユスティーヌス・ケルナーによる「12の詩」は彼にとって日本初披露である。
「はじめての緑」や「だれがおまえを傷つけたのか」「むかしのラウテ」などは単独でもよく歌われる曲であるし、プライも80年代にDENONレーベルにホカンソンと12曲まとめて再録音していた。
この時も安いP席(舞台後ろ側の席)で聴いたのだが、プライの歌うシューマンを生で聴くのはこの時がはじめてだった。
この演奏会のころはすでに感想メモを取らなくなっていたので、どのような演奏だったのかはっきりとは思い出せない。
ただ、ホカンソンの実演を聴いたのははじめてで(同時に最後になってしまったが)、弾く姿をかなり間近で見れた記憶が残っている。

ところで、ホカンソンだが、現在もご健在で悠々自適な生活を送っているのだろうと思いこんでいたのだが、実はすでに亡くなっていて、今年が没後5年ということを最近知った。
当時音楽メディアでは報道されたのだろうか、そうだとしたら私が見過ごしていただけなのだが。

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プライ日本公演曲目1973年(第3回来日)

第3回来日:1973年10~11月

ヘルマン・プライ(Hermann Prey)(BR)
レナード・ホカンソン(Leonard Hokanson)(P:プログラムA~C)
読売日本交響楽団(プログラムD)
山田一雄(C:プログラムD)

10月19日(金)18:30 北海道厚生年金会館:プログラムC
10月22日(月)19:00 東京文化会館大ホール:プログラムA
10月26日(金)19:00 東京文化会館大ホール:プログラムD「第96回読売日本交響楽団定期演奏会」
10月28日(日)18:30 新潟県民会館:プログラムB
10月30日(火)19:00 東京厚生年金会館大ホール:プログラムC
11月2日(金)19:00 東京文化会館大ホール:プログラムC
11月5日(月)19:00 大阪フェスティバルホール:プログラムC
11月9日(金)18:30 千葉県文化会館:プログラムB
11月11日(日)18:30 神奈川県立音楽堂:プログラムB
11月13日(火)19:00 東京文化会館大ホール:プログラムB

●プログラムA「シューベルトとレーヴェのバラード」 共演:レナード・ホカンソン(P)

シューベルト/魔王(Erlkönig)D328
 トゥーレの王(Der König in Thule)D367
 歌びと(Der Sänger)D149
 潜水者(Der Taucher)D77

レーヴェ/アーチボード・ダグラス(Archibald Douglas)Op. 128
 オルフ氏(Herr Oluf)Op. 2-2
 海を行くオーディン(Odins Meeresritt)Op. 118
 忠実なエッカルト(Der getreue Eckardt)Op. 44-2
 婚礼の歌(Hochzeitslied)Op. 20-1
 魔王(Erlkönig)Op. 1-3

●プログラムB「白鳥の歌とザイドルの詩による四つの歌/シューベルト」 共演:レナード・ホカンソン(P)

・ザイドルの詩による五つの歌
シューベルト/まちの外で(Im Freien)D880
 あこがれ(Sehnsucht)D879
 さすらい人が月に寄せて(Der Wanderer an den Mond)D870
 窓辺にて(Am Fenster)D878
 鳩の使い(Die Taubenpost)D965A(D957-14)

・歌曲集「白鳥の歌」よりハイネの詩による六つの歌
シューベルト/アトラス(Der Atlas)D957-8
 彼女のおもかげ(Ihr Bild)D957-9
 漁師の娘(Das Fischermädchen)D957-10
 まち(Die Stadt)D957-11
 海辺で(Am Meer)D957-12
 影法師(Der Doppelgänger)D957-13

・歌曲集「白鳥の歌」よりレルシュタープの詩による七つの歌
シューベルト/愛の便り(Liebesbotschaft)D957-1
 兵士の予感(Kriegers Ahnung)D957-2
 春のあこがれ(Frühlingssehnsucht)D957-3
 セレナーデ(Ständchen)D957-4
 わが宿(Aufenthalt)D957-5
 遠い国で(In der Ferne)D957-6
 わかれ(Abschied)D957-7

●プログラムC 共演:レナード・ホカンソン(P)

シューベルト/歌曲集「冬の旅」(Winterreise)D911

●プログラムD「第96回読売日本交響楽団定期演奏会」 共演:読売日本交響楽団;山田一雄(C)

モーツァルト/交響曲第36番ハ長調K.V.425<リンツ>
ヘンツェ/「5つのナポリの歌」(5 neapolitanische Lieder)
マーラー/歌曲集「さすらう若人の歌」(Lieder eines fahrenden Gesellen)(彼女の婚礼の日は/朝の野辺を歩けば/燃えるような短剣で/彼女の青い目が)
ファリャ/舞踊組曲<三角帽子>

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ヘルマン・プライ3回目の来日は、前回からわずか2年後の1973年。
プログラムはレナード・ホカンソンとの3種類と、読売日本交響楽団定期公演でのヘンツェとマーラーである。
ホカンソンとのリサイタルでは前2回同様「冬の旅」が歌われているほかに、Aプログラムではシューベルトとレーヴェのバラードばかりを集め、東京で1回だけ披露され、Bプログラムでは「白鳥の歌」全曲にザイドルの歌曲を加えた意欲的な選曲である。
プライはハースリンガー出版の「白鳥の歌」を“解体”した最初の一人だろう。
ハースリンガーが最後に置いたザイドルの「鳩の使い」をほかのザイドル歌曲と共に最初に置き、続いて後半のハイネ歌曲集を置き、ハースリンガー版最初のレルシュタープ歌曲集を最後に置く。
この順序の解体がプライにとってどのような意味を持つのかは分からないが、「白鳥の歌」の曲順がシューベルトの意思とは無関係である以上、プライの試みを否定する理由は全くない。
今回のプログラムで最も注目すべきなのはやはりプログラムAのシューベルトとレーヴェのバラードの夕べであろう。
シューベルトの「魔王」で始まり、同じ詩によるレーヴェの「魔王」で終えるというプログラミングは良く考えられたものだと思う。
30分近くかかる長大なシラーの詩によるバラード「潜水者」など、当時はほとんど演奏されることのない珍しい選曲だったのではないか。
レーヴェ歌曲の部では、10分ほどかかる「アーチボード・ダグラス」で始め、「オルフ氏」や「海を行くオーディン」などよく知られた曲が続いている。
プライのレーヴェはF=ディースカウのような歯切れのよい芝居っ気ではなく、のびのびとした屈託のなさに良さがある。
そういう意味ではプライの美質を生かす曲とは必ずしもいえない深刻な曲が多く選ばれているのが興味深い。
読売日本交響楽団の定期演奏会では前2回の来日公演でも歌われた「さすらう若人の歌」と、初来日時に歌われたヘンツェ「5つのナポリの歌」を再度取り上げている。
初期のプライが気に入っていた歌曲集なのだろう。

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プライ日本公演曲目1971年(第2回来日)

第2回来日:1971年6月

ヘルマン・プライ(Hermann Prey)(BR)
レナード・ホカンソン(Leonard Hokanson)(P:プログラムA~C)
東京都交響楽団(プログラムD)
森正(もり・ただし)(C:プログラムD)

6月2日(水)19:00 東京文化会館:プログラムA
6月5日(土)19:00 東京文化会館:プログラムB
6月8日(火)18:30 神奈川県立音楽堂:プログラムB
6月10日(木)19:00 大阪フェスティバルホール:プログラムB
6月14日(月)19:00 東京文化会館:プログラムD(都民劇場)
6月16日(水)19:00 東京文化会館:プログラムD(都民劇場)
6月18日(金)19:00 東京文化会館:プログラムC

●プログラムA 共演:レナード・ホカンソン(P)

シューマン/歌曲集「詩人の恋」(Dichterliebe, Op. 48)

ヴォルフ/「アイヒェンドルフ歌曲集」より
期待(Erwartung)
音楽師(Der Musikant)
セレナード(Das Ständchen)
友人(Der Freund)
語らぬ愛(Verschwiegene Liebe)
兵士Ⅰ(Der Soldat 1)
なによりいいのは(Lieber alles)
学生(Der Scholar)
絶望した恋人(Der verzweifelte Liebhaber)
災難(Unfall)
愛の喜び(Liebesglück)
船乗りの別れ(Seemanns Abschied)

●プログラムB 共演:レナード・ホカンソン(P)

シューベルト/歌曲集「冬の旅」(Winterreise, D911)

●プログラムC 共演:レナード・ホカンソン(P)

シューベルト/歌曲集「美しき水車屋の娘」(Die schöne Müllerin, D795)

●プログラムD「都民劇場音楽サークル第190回定期公演」 共演:東京都交響楽団;森正(C)

ワーグナー/オペラ「ローエングリン」第1幕への前奏曲
マーラー/歌曲集「さすらう若者の歌」(Lieder eines fahrenden Gesellen)
~休憩~
ブラームス/ハイドンの主題による変奏曲Op. 56a
マーラー/歌曲集「なき子をしのぶ歌」(Kindertotenlieder)

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ヘルマン・プライ2回目の来日は、初来日から10年後の1971年。
この頃にはすでにプライの知名度は前回とは比較にならないほど上がり、F=ディースカウのライバルと目されていたようだ。
プログラムはレナード・ホカンソン(プログラム冊子での表記はレオナルド・ホカンソンとなっている。彼はこの時が初来日)との3種類と、東京都交響楽団定期公演でのマーラーだった。
ホカンソンとのリサイタルでシューベルトの2つの歌曲集が歌われたのは特に目新しいことではないが、Aプログラムとして東京で1回だけ歌われた作品に「詩人の恋」と同時にヴォルフの「アイヒェンドルフ歌曲集」抜粋があったとは驚きである。
まさかプライが日本でヴォルフを歌っていたとは想像もしていなかった。
もちろん彼はコンラート・リヒターやギュンター・ヴァイセンボルンと「アイヒェンドルフ歌曲集」を録音しており得意なレパートリーであることは確かだが、1970年代の日本ではまだヴォルフが歌われることは稀だったのではないだろうか。
プログラム冊子によれば、全20曲中、12曲が歌われている。
実直だったり、豪快なキャラクターをもった人物の飾らぬ心情を歌った曲が選ばれているのは、前半の「詩人の恋」と対比させる意味も込められているのかもしれない。
ヴォルフの曲の中で「イタリア歌曲集」と共に最もプライに合った歌曲集といえるだろう。
「美しき水車屋の娘」は東京で1回披露されただけで、他の3公演が「冬の旅」というのは日本人の好みを反映した結果だろう。
マーラーの「さすらう若者の歌」は初来日時に小林道夫のピアノで披露しているが、1971年は「なき子をしのぶ歌」と共にオケとの共演である。
この公演を聴かれたさすらい人さんによると、この時のプライは音程があがり切らず不調だったようだ。
好不調の波が大きかったプライだが、それでも聴衆が彼を愛し聴き続けてきたのは聴き手を惹きつけてやまない何かがあったということなのだろう。

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プライ/シューベルティアーデ1977

「シューベルティアーデ」(SCHUBERTIADE)
Donath_prey_hokansonRESONANCE: 453 978-2
ライヴ録音:1977年6月29日、Hohenems, Austria

ヘレン・ドーナト(Helen Donath)(S)
マルガ・シームル(Marga Schiml)(A)
ペーター・シュライアー(Peter Schreier)(T)
ヘルマン・プライ(Hermann Prey)(BR)
ローベルト・ホル(Robert Holl)(BS)
レナード・ホカンソン(Leonard Hokanson)(P)

シューベルト
1.ダンスD826(ドーナト、シームル、シュライアー、ホル)
2.弁護士D37(シュライアー、プライ、ホル)
3.歌手ヨーハン・ミヒャエル・フォーグルの誕生日に寄せるカンタータD666(ドーナト、シュライアー、プライ)
4.光と愛D352(ドーナト、シュライアー)
5.祈りD815(ドーナト、シームル、シュライアー、ホル)
6.生きる喜びD609(ドーナト、シームル、シュライアー、ホル)
7.太陽に寄せてD439(ドーナト、シームル、シュライアー、ホル)
8.若者と死D545(シュライアー、プライ)
9.雷の中の神D985(ドーナト、シームル、シュライアー、ホル)
10.世界の創造者たる神D986(ドーナト、シームル、シュライアー、ホル)
11.古いスコットランドのバラードD923(シームル、プライ)
12.結婚式の焼肉D986(ドーナト、シュライアー、プライ)

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1998年に亡くなったヘルマン・プライ(Hermann Prey)の没後10年にあたる今年、彼の膨大な歌曲録音のいくつかをじっくり聴き直してみたいと思う。

プライは1970年代にオーストリアのホーエネムスで、シューベルトの全作品を作曲された順番で演奏するという目的で「シューベルティアーデ」と称する演奏会のシリーズを立ち上げ、その後、ニューヨークでも同様のコンサートを始めた。
結局作曲順の全曲演奏という目標は挫折したようだが、今でもオーストリアでは場所を変えながらも継続している。
私が一度だけ行ったシューベルティアーデはホーエネムスではなく、フェルトキルヒ(駅のアナウンスでは「フェルトキルフ」のように聞こえた)で行われ、A.シュミット&ヤンセンの「冬の旅」、シュライアー&シフのシューベルト「ゲーテ歌曲集」、それにバンゼ、ツィーザク、ファスベンダー、プレガルディエン、ベーア、シュミット、ヤンセン、リーガーという錚々たるメンバーによるシューベルトの重唱曲を聴いた。
どこまでいっても田園風景が続くこの美しい町(村?)の中で聴いたシューベルトは今でもいい思い出である。

以前Deutsche GrammophonからLPで出ていた1977年のシューベルティアーデ・ライヴをCD化したものがこの録音である。
シューベルトの重唱曲12曲のうち、プライは5曲に参加している。

最初にプライが参加しているのは「弁護士」というコミカルな三重唱曲である。
原曲はアン・デア・ヴィーン劇場の指揮者アントーン・フィッシャー(1778-1808)という人の作品らしく、D37というドイチュ番号が示すとおり、15歳の若かりしシューベルトによる編曲作品であるが、G.ジョンソンによれば、フィッシャーの原曲とはピアノパートがほとんど変わり、声の線も別物とのことである。
二人の弁護士をシュライアーとホルが演じ、支払いを滞納している顧客のセンプロニウスをプライが演じている。
支払いを督促し、法がすべてと語る弁護士たちと、これまでに用立てした飲食物も勘定に含めてほしいと訴える顧客が最後は法廷で決着しようと言って明るく終わる。
プライは素朴な青年をキャラクターそのものの美声で歌い、シニカルな表現にかけて無敵なシュライアーが金に目のくらんだ弁護士を見事に演じている。

10分以上かかる大曲「歌手ヨーハン・ミヒャエル・フォーグルの誕生日に寄せるカンタータ」はシューベルト歌曲を世間に広めた盟友フォーグルを讃えた内容だが、ソプラノとテノールが主役で、プライの歌う箇所はごくわずかである。
しかし、最後に「そしていつの日か歌手の言葉が消えるときが来ても/その魂は響き続けるのです」と歌うプライの声は温かく感動的である。

普段は独唱曲として歌われることの多い「若者と死」を、シュライアーと役割分担して歌っているのが興味深い。
この詩は「死と少女」の男性版(パロディー?)とでもいうような内容で、死を望む若者と死神との対話という形をとっている。
ここでは若者をシュライアー、そして死神をプライが歌っているが、後半の短い旋律で聞かせるプライの歌は静かに優しく死に誘う感じで、詩の内容を汲み取った表現といえるだろう。

「古いスコットランドのバラード」の詩に付けられた曲としてはレーヴェ作曲の「エドワード(エトヴァルト)」がより有名である。
ブラームスもこの詩に触発されたピアノ曲を書いており、よく知られた詩だったのだろう。
父親殺しをした息子と母親の対話の形で詩は進むが、最後にそれを唆した張本人が明らかになるという筋である。
こういう一見単純な有節歌曲ではオペラ歌手プライの本領発揮で、手に汗握る緊張感を演出する。
"Mutter, Mutter!"と語るときのプライの2音節目(-ter)がシューベルトの音符より常に前のめりになるのがいかにもプライらしい。
焦っている様を演出しているのだろう。
落ち着いた風を装うアルトのシームル(彼女も素晴らしい!)がリズムを正確に刻むのと好対照である。

「結婚式の焼肉」も10分近い大曲だが、時間の長さを感じさせない、よく出来た楽しい作品である。
結婚式を明日に控えた若いカップルが禁猟区で式の料理に出すうさぎ狩りをしているところを見張りのカスパルに見つかり、ムショ行きにすると脅されるも、最後には大目に見てもらい、式の肉も用意してくれることになったという内容である。
ここでも一見目立つのは若いカップル2人で、特にうさぎを追う役をするソプラノが"gsch! gsch! prr, prr."という音を立てるところなどコミカルな聴きどころと言えるだろう。
だが、途中から登場し厳しい態度で接していたのにカップルの口車に乗せられ、最後にはまんまと丸め込まれるカスパルの実直さこそこの曲の成功の鍵を握っているのではないか。
F=ディースカウもこの曲を録音しているが、プライはディースカウよりもかなり激昂しているように歌う。
聴衆を前にしていることがプライの表現をヒートアップさせ、そのムキになったような歌い方がカップルの表現と対照的で哀愁すら漂わせるのは芸の力だろう。
コンサートの最後に置かれるにふさわしい作品と演奏であった。

シューベルティアーデの企画にも携わっているプライは、他の歌手たちの後ろで見守るように数曲に参加するだけだが、ひとたび彼の声が加わると、途端に曲に温かさが増し、とろけるような美声で聴く者を魅了してしまうのはさすがと言うべきだろう。

アメリカ人のソプラノ歌手には清流のように透明な声でストレートに歌う一つの伝統があるように思われる。
アーリーン・オージェ、ドーン・アップショーといった名手と共にヘレン・ドーナトも同系列の一人だろう。
どこまでも健康的で明るいドーナトの声と表現はシューベルトの重唱曲で主旋律を朗々と響かせる時にその美質を発揮している。
マルガ・シームルというアルト歌手は私にとってはじめて聞く名前だが、ふくよかで包み込むような声はとても魅力的である。
シュライアーは持ち前の清潔さだけでなくライヴならではの熱さもあり、シューベルト歌手としての貫禄を感じさせる。
今やベテランのオランダ人、ローベルト・ホルは当時はそれほど知られていなかったのではないか。
ここでの重唱曲のようなレパートリーでは低音歌手は縁の下の力持ちに徹することが多いが、その存在感はすでに非凡さの片鱗を感じさせる。
粘りがあり重いホルの声は好き嫌いが分かれそうだが、丁寧な曲へのアプローチは誰もが認めるのではないか。

ホカンソンはプライのピアニストとしてお馴染みだが、歌曲だけでなく、独奏、コンチェルト、室内楽までオールラウンドにこなすピアニストである。
シュナーベルの最後の弟子の一人で、古き時代の名残を留めているということなのか、リズムやアゴーギクに独特の癖を見せることがあり、同様の癖のあるプライと組むと一層助長されることもあるが、それがいい方向に転ぶと彼ならではの効果を出す(例えば「古いスコットランドのバラード」でのリズムの切り方など)。
音色は鋭利さよりはまろやかさで聞かせるピアニストである。

amazon.deで中古盤がまだ入手できるようなので(1月12日現在)興味のある方はぜひ聴いてみてください。

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