内藤明美&平島誠也/メゾソプラノリサイタル(2012年11月9日 東京オペラシティ リサイタルホール)

内藤明美メゾソプラノリサイタル

2012年11月9日(木)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール(全自由席)
内藤明美(Akemi Naito)(mezzo soprano)
平島誠也(Seiya Hirashima)(piano)

ゲーテの詩による歌曲(Lieder nach Gedichten von Goethe)

シューベルト(Schubert)/湖の上で(Auf dem See)
ベートーヴェン(Beethoven)/悲しみの喜び(Wonne der Wehmut)
レーヴェ(Loewe)/安らぎは失せ(Meine Ruh ist hin)
ヘンゼル(Mendelssohn-Hensel)/旅人の夜の歌(Wanderers Nachtlied)
リスト(Liszt)/空より来たりて(Der du von dem Himmel bist)

シュトラウス(Strauss)/見つけたものは(Gefunden)
クシェネク(Krenek)/新しいアマディス(Der neue Amadis)
シェック(Schoeck)/黄昏は空より降り(Dämmrung senkte sich von oben)
ベルク(Berg)/失った初恋(Erster Verlust)
レーガー(Reger)/孤独(Einsamkeit)

~休憩~

ヴォルフ(Wolf)作曲

アナクレオンの墓(Anakreons Grab)
現象(Phänomen)
ガニメード(Ganymed)

ミニョンⅠ(語れとは言わず)(Mignon I)
ミニョンⅡ(ただ憧れを知る人だけが)(Mignon II)
ミニョンⅢ(この装いのままで)(Mignon III)
ミニョンⅣ(あなたはご存知ですか)(Mignon IV)

~アンコール~
ブラームス(Brahms)/セレナーデ(Serenade)op.70-3
チャイコフスキー(Tchaikovsky)/ただ憧れを知る人だけが(Nur wer die Sehnsucht kennt)
島原の子守唄

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毎年秋に催される内藤明美と平島誠也によるリサイタルを聴くようになって何回目になるであろうか。
今宵もまたテーマをもったプログラミングと充実した演奏で、歌曲ファンを満足させてくれた。
今年のテーマは「ゲーテの詩による歌曲」。
前半は10人の作曲家による10様のゲーテ作品、後半はヴォルフ作曲という軸のもとで様々なゲーテ解釈を味わうという趣向。
昨夜ルプーを聴いた東京オペラシティを再び訪れ、今回は小ホールの響きを味わった。

ゲーテの詩による歌曲はシューベルトやヴォルフをはじめ膨大な作品が存在する。
その中から歌手の声や質に合った作品を選び出し一夜の選曲をするというのはそれだけでも気が遠くなるほど大変な作業であろう。
事実プログラムノートに山崎裕視氏が記しているように「その彼女(注:内藤さんのこと)をしても長い間、ゲーテへの接近は心怯むものがあったに違いない」のである。

今回の選曲、前半は私が初めて聴く作品が圧倒的に多く、いつもながらその選曲の斬新さに敬意を覚えずにいられない。
シューベルトの「糸を紡ぐグレートヒェン」ではなく、同じ詩にレーヴェが作曲した「安らぎは失せ」、またシューベルトの「旅人の夜の歌Ⅰ」ではなく、ファニー・ヘンゼルやリストによる同じ詩による作品、さらにヴォルフではなくクシェネクによる「新しいアマディス」など、その変化球の見事さに興味は尽きない。

内藤さんの歌唱は相変わらず懐の深いもの。
声が聴き手を包み込み、そして作品の各キャラクターに変幻自在に対応して、短い時間に一つのドラマを凝縮して描き出す。
年々増してきた温かみは、通好みの作品であろうが、ポピュラーな作品であろうが、平等に聴き手の作品への近寄りやすさを感じさせる。
だが、もちろんホールいっぱいに広がる豊かで強靭さすら感じさせる響きも健在である。
こうして、日の目を見ることの少ない作品をも照らし出して、それを自分のものとして消化して提示するということを毎年続けていると、これほどまでに充実した空間を作り出せるものなのだろう。

今回楽しみだったヴォルフの「ミニョン」歌曲群は、その真摯さと充実感で、感動的であった。
とりわけ「この装いのままで」の最後の一節"Macht mich auf ewig wieder jung!(永遠の若さをまた私にお与えください!)"(山崎裕視訳)の高音から低く降りて、再度ディミヌエンドしながら高く舞い上がる際の内藤さんのメッツァヴォーチェの見事さは本当に胸に響いた。

平島誠也氏のピアノはいつもながらストレートに作品に向き合ったものだった。
実直なまでにくっきりと作品の細部まで照らし出す平島氏だが、例えばヴォルフの「あなたはご存知ですか」ではテンポの変化や強弱、音色など、いつも以上の大胆さを見せ新鮮な驚きを覚えた。
彼のその柔軟な対応が作品の壮大さを充分に描き出していたことは特筆すべきだろう。

なお、この日会場ロビーで待望のCD「ブラームス歌曲集」が販売された。
内藤さんのホームページでも買えるようだ。
秋の夜長に温かい声に包まれるのも素敵ではないだろうか。

毎年最後に同じことを書いている気もするが、来年のコンサートが今から待ち遠しい。

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ヴォルフ/俺たちゃみんな酔っ払わなくちゃ!(Trunken müssen wir alle sein!)

Trunken müssen wir alle sein!
 俺たちゃみんな酔っ払わなくちゃ!

Trunken müssen wir alle sein!
Jugend ist Trunkenheit ohne Wein;
Trinkt sich das Alter wieder zu Jugend,
So ist es wundervolle Tugend.
Für Sorgen sorgt das liebe Leben,
Und Sorgenbrecher sind die Reben.
 俺たちゃみんな酔っ払わなくちゃ!
 若さとはワインなしで酩酊すること。
 老いたら若返るために酒を飲む。
 このように素敵な効能があるのだ。
 人生では心配事に気を揉んでは、
 憂さ晴らしにワインを飲むというわけ。

Da wird nicht mehr nachgefragt!
Wein ist ernstlich untersagt.
Soll denn doch getrunken sein,
Trinke nur vom besten Wein!
Doppelt wärest du ein Ketzer
In Verdammnis um den Krätzer.
 それならもう聞かないでくれ!
 ワインは厳格に禁止されているのだ。
 それでも飲みたいというのなら
 最高級のワインだけを飲め!
 さもないと二重の意味で劫罰を受ける異端者となってしまうぞ、
 安物のワインを飲んだかどで。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

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ヴォルフ作曲の歌曲集「ゲーテの詩」の第35曲。
1889年1月18日夕方, Döbling作曲。

ゲーテの「西東詩集(West-östlicher Divan)」の"Schenkenbuch"に含まれる詩による。

この歌曲をはじめて聴いたのは、F=ディースカウとバレンボイムによる録音だったが、私にとっては本当に衝撃的だった。
歌もピアノも乱痴気騒ぎに徹して、最初から聴き手を興奮の渦に巻き込んでしまう。
こういうタイプの歌曲はヴォルフによってはじめて聴くことの出来るタイプの作品だった。
瞬発力とリズムの切れが歌手にもピアニストにも求められるため、そう頻繁に聴くことが出来ないのが残念である。

Bacchantisch(酔っ払って)
8分の6拍子 - 4分の2拍子 - 8分の6拍子
嬰ヘ短調
全82小節
歌声部の最高音:2点嬰ヘ音
歌声部の最低音:1点嬰ホ音

動画サイトでは今のところ以下の1件のみ見つかった。

Reina Boelens & Vaughan Schlepp
この曲の女声による歌唱は珍しい。
歌の入りを間違えてはいるが、全体的に魅力的な演奏。

シュライアーとサヴァリッシュによる録音がかなり良かったので機会があればぜひ!

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梅丘歌曲会館「詩と音楽」投稿

日頃からお世話になっている歌曲サイト「詩と音楽」に、本当に久しぶりに投稿しました。
ゲーテの259回目の誕生日が8月28日とのことで、それに合わせて2曲投稿しました。

梅丘歌曲会館「詩と音楽」更新情報:ゲーテ生誕259年記念投稿六篇
http://umekakyoku.at.webry.info/200808/article_16.html

シューベルト「あらゆる姿の恋人」
http://homepage2.nifty.com/182494/LiederhausUmegaoka/songs/S/Schubert/S1914.htm

ブラームス「たそがれが上方から降り来て」
http://homepage2.nifty.com/182494/LiederhausUmegaoka/songs/B/Brahms/S1915.htm

どちらも非常に魅力的な曲ですが、ゲーテの詩はやはり難しく、かなり悩みながらなんとか仕上げました。
よろしければご覧ください。

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シェック「秋の感情」(詩:ゲーテ)

Herbstgefühl, Op. 19a-1
 秋の感情

Fetter grüne, du Laub,
Am Rebengeländer
Hier mein Fenster herauf!
Gedrängter quellet,
Zwillingsbeeren, und reifet
Schneller und glänzend voller!
Euch brütet der Mutter Sonne
Scheideblick, euch umsäuselt
Des holden Himmels
Fruchtende Fülle;
Euch kühlet des Mondes
Freundlicher Zauberhauch,
Und euch betauen, ach!
Aus diesen Augen
Der ewig belebenden Liebe
Vollschwellende Tränen.
 より分厚く緑になれ、木の葉よ、
 葡萄棚に接した
 この私の窓辺へ上っておいで!
 さらにせかされてふくらむのだ、
 双子の葡萄よ、そして実るのだ、
 よりはやく、より輝きにあふれて!
 おまえたちを母なる太陽が
 別れの眼差しで照りつけ、おまえたちのまわりで
 素敵な天からの
 豊かな実りが音をたてる。
 おまえたちを月の
 親しげな魔法の息吹が冷やす。
 そしておまえたちを露でぬらすのは、ああ!
 この瞳から、
 永遠に元気づける愛の瞳から、
 いっぱいに溢れる涙なのだ。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749.8.28, Frankfurt am Main - 1832.3.22, Weimar)
曲:Othmar Schoeck (1886.9.1, Brunnen - 1957.3.8, Zürich)

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今年はスイスの作曲家オットマル・シェックの没後50年目である。
彼は膨大な数の歌曲を残し、F=ディースカウやヘフリガーなどによって歌われてきたものの、必ずしも質と量に見合った知名度、評価を得ていない。
実は私自身も彼の歌曲はこれまでほんの一部しか聴いておらず、Jecklinレーベルの11巻からなる歌曲全集も1、5、10巻を所有しているのみである。
この機会に少しシェックの歌曲に触れてみようと1、5巻の初期歌曲から聴き始めているのだが、これがなかなか良い。
R.シュトラウスのような爛熟した陶酔ではなく、もっと自然で丁寧な作風が一見地味なのだが、詩に対して誠実に向き合っているのがとても心地よい。
ゲーテ、ハイネ、メーリケ、アイヒェンドルフといったシェックにとっても過去の偉人たちに作曲しているだけでなく、ヘルマン・ヘッセのような彼の同時代人の詩も積極的に取り上げている(かつてF=ディースカウはヘッセの詩のみによるシェック歌曲集を録音していた)。

ここで訳したゲーテの「秋の感情」はブラームスによるヘルティの詩による「秋の感情」とは全く趣が異なり、秋の「実り」を歌っているようだ。
シェックの曲はゲーテの詩ばかりを集めた作品19aの第1曲目で、しっとりとした中に詩の展開を反映させた動きも感じられ、味わい深い作品である。

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