ヴォルフ:はじめての喪失(Wolf: Erster Verlust, Op. 9, No. 3)

Erster Verlust, Op. 9, No. 3
 はじめての喪失

Ach wer bringt die schönen Tage,
Jene Tage der ersten Liebe,
Ach wer bringt nur eine Stunde
Jener holden Zeit zurück!
 ああ、誰が美しかった日々を戻してくれるのか、
 初恋のあの日々を。
 ああ、誰が
 あのいとしい時のほんの一時間だけでも返してくれるというのか!

Einsam nähr' ich meine Wunde
Und mit stets erneuter Klage
Traur' ich um's verlorne Glück.
 一人さびしく私は傷をはぐくみ
 絶えずわき起こる嘆きとともに
 失った幸せを悲しむまでだ。

Ach, wer bringt die schönen Tage,
[Jene holde Zeit zurück!]1
 ああ、誰が美しかった日々を
 あのいとしい時を返してくれるというのか!

1 Schubert: "Wer jene holde Zeit zurück!"; Medtner, Zelter: "Wer bringt die holde, süße, liebe Zeit zurück?"

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Erster Verlust", first published 1789
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Erster Verlust", op. 9 no. 3 (1876)

作曲:1876年1月30日(日)午前9時半着手、午前11時半完成

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ヴォルフが付与した作品番号9の第1,2曲はレーナウの詩による歌曲でしたが、第3曲はゲーテの詩による「はじめての喪失(Erster Verlust, Op. 9, No. 3)」です。前曲「愛の春」の1日後に作曲されています。

はじめて失恋をした主人公の心の痛手を歌ったゲーテの詩に多くの作曲家が曲を付けていますが、中でもシューベルトの作品(D 226)は簡素ながら非常に優れていると思います。
この若きヴォルフによる作品は、「つらい!苦しい!」と訴えるのではなく、全編を穏やかな長調の響きで貫き、自ら心の傷を癒そうとしているかのように感じられます。

初期のヴォルフの歌曲で顕著なのが、歌声部にメリスマを使うことで、この歌曲でも使われています。興味深いのが、歌声部に合わせてピアノパートもメリスマと同じリズムを奏でることで、しかも右手と左手両方がそれぞれ異なるフレーズを奏で、あたかも歌と三重唱を奏でているかのようです。あまり一般的なやり方ではないように思いますが、若かりしヴォルフは、オペラアリアの手法を歌曲に取り入れようとしていたのかもしれません。

第2連の最初"Einsam"のところにヴォルフは"Recitativ(レチタティーヴォ)"、"innig(内面的に)"と記しており、少しの間無伴奏になります。とはいえ、いわゆる語りというよりはメロディーの続きのようにも聞こえるので、ヴォルフはこの部分を語るように歌ってほしいと考えたのかもしれません。

若さゆえの未熟さはありますが、あれこれ工夫しようという意欲も伺えて、美しさも感じられる作品だと思います。

3/4拍子
変ホ長調(Es-dur)
Mäßig (中庸のテンポで)

●[Hugo Wolf:] Erster Verlust, Op. 9, No. 3
トマス・ホッブス(T), ショルト・カイノホ(P)
Thomas Hobbs(T), Sholto Kynoch(P)

Channel名:トーマス・ホッブス - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:29 June 2013, St John the Evangelist, Oxford, U.K.

●Hugo Wolf: Erster Verlust - Andre Morsch (Bariton) & Marcelo Amaral (Klavier), 23.03.2017
アンドレ・モルシュ(BR), マルセル・アマラウ(P)→※余談ですが、このバリトン歌手モルシュ、少しプライと声質が似ているように感じました
André Morsch(BR), Marcelo Amaral(P)

Channel名:Internationale Hugo-Wolf-Akademie(オリジナルのリンク先はこちら)

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●【参考】ツェルター:はじめての喪失 D 226
[Carl Friedrich Zelter:] Sämtliche Lieder, Balladen und Romanzen, Z. 124, Book 4: Erster Verlust
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), アリベルト・ライマン(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Aribert Reimann(P)

Channel名:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

●【参考】シューベルト:はじめての喪失 D 226
Schubert: Erster Verlust, D. 226
ヘルマン・プライ(BR), カール・エンゲル(P)
Hermann Prey(BR), Karl Engel(P)

Channel名:ヘルマン・プライ - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

●【参考】ファニー・ヘンゼル=メンデルスゾーン:はじめての喪失(I)
[Fanny Hensel (1805-1847):] Erster Verlust (I)
トビアス・ベルント(BR), アレクサンダー・フライシャー(P)
Tobias Berndt(BR), Alexander Fleischer(P)

Channel名:Alexander Fleischer - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

●【参考】ファニー・ヘンゼル=メンデルスゾーン:はじめての喪失(II)
[Fanny Hensel (1805-1847):] Erster Verlust (II)
トビアス・ベルント(BR), アレクサンダー・フライシャー(P)
Tobias Berndt(BR), Alexander Fleischer(P)

Channel名:Alexander Fleischer - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

●【参考】フェーリクス・メンデルスゾーン:はじめての喪失 Op. 99, No. 1
[Felix Mendelssohn:] 6 Songs Op.99 : I Erster Verlust
バーバラ・ボニー(S), ジェフリー・パーソンズ(P)
Barbara Bonney(S), Geoffrey Parsons(P)

Channel名:バーバラ・ボニー - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

●【参考】ニコライ・メトネル:はじめての喪失
[Nikolai Medtner (1880-1951):] 9 Lieder von W. Goethe, Op. 6: VIII. Erster Verlust - First Love
エカテリナ・レヴェンタル(MS), フランク・ペータース(P)
Ekaterina Levental(MS), Frank Peters(P)

Channel名:Ekaterina Levental - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

●【参考】アルバン・ベルク:はじめての喪失
[Alban Berg (1885-1935):] Erster Verlust
白井光子(MS), ハルトムート・ヘル(P)
Mitsuko Shirai(MS), Hartmut Höll(P)

Channel名:白井光子 - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

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(参考)

The LiederNet Archive

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag

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エリーの要点「芸術歌曲における演劇?」(Elly's Essentials; “Theatre in Artsong ???")-ヴォルフ:アナクレオンの墓(Hugo Wolf: Anakreons Grab)

●Elly's Essentials; “Theatre in Artsong ???"

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です。音声が出ます。)

2:56-6:10 Hugo Wolf: Anakreons Grab
Elly Ameling, soprano
Rudolf Jansen, piano
Recording: June/August 1981, Haarlem
Etcetera; Globe

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Anakreons Grab
 アナクレオンの墓

Wo die Rose hier blüht, wo Reben um Lorbeer sich schlingen,
  Wo das Turtelchen lockt, wo sich das Grillchen ergötzt,
Welch ein Grab ist hier, das alle Götter mit Leben
  Schön bepflanzt und geziert? Es ist Anakreons Ruh.
Frühling, Sommer, und Herbst genoß der glückliche Dichter,
  Vor dem Winter hat ihn endlich der Hügel geschützt.
ばらがここで花咲き、ぶどうが月桂樹にからみつき、
 きじばとが相手を呼び、こおろぎが楽しみに興じるところ、
あらゆる神々が生きたもので
 美しく植えられ飾られているこの墓はどなたのだろうか?それはアナクレオンの安息地だ。
春、夏、秋をこの幸せな詩人は満喫して、
 冬からようやくこの丘が詩人を守ってきたのだ。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Anakreons Grab"
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Anakreons Grab", 1888-9, published 1891 [ voice and piano ], from Goethe-Lieder, no. 29, Mainz, Schott

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(参考)

Elly's Essentials; “Theatre in Artsong ???" (YouTube)

The LiederNet Archive

アナクレオン (Wikipedia:日本語)

Anacreon (Wikipedia:英語)

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ヴォルフ:湖上にて(Wolf: Auf dem See, Op. 3, No. 5)

Auf dem See, Op. 3, No. 5
 湖上にて

Und frische Nahrung,neues Blut
[Saug' ich aus freier Welt;]
Wie ist Natur so hold und gut,
Die mich am Busen hält!
Die Welle wieget unsern Kahn
Im Rudertakt hinauf,
Und Berge,wolkig himmelan,
Begegnen unserm Lauf.
 そして、新鮮な糧と新しい血潮を、
 [私は自由な世界から吸収する。]
 なんといとおしく、素晴らしいのだろう、
 私を胸に包み込んでくれる自然というのは!
 波は我らの小舟を揺り上げる、
 櫂のリズムに合わせて。
 そして、雲のかかった山々は天高く聳え、
 我らの行く手に立ちはだかる。

Aug',mein Aug',was sinkst du nieder?
Goldne Träume,kommt ihr wieder?
Weg,du Traum! so hold du bist;
Hier auch Lieb' und Leben ist.
 目よ、我が目よ、何を沈んでいるのだ?
 金の夢よ、またお前達なのか?
 夢よ、消え失せろ!どれほどいとおしくとも。
 ここにも愛と生はあるのだ。

Auf der Welle blinken
Tausend schwebende Sterne,
Weiche Nebel trinken
Rings die türmende Ferne;
Morgenwind umflügelt
Die beschattete Bucht,
Und im See bespiegelt
Sich die reifende Frucht.
 波の上に漂うのは、
 幾千もの星々の輝き。
 柔らかい霧があたりに立ち込め、
 遠方に聳え立つものを飲み込んでいく。
 朝風は
 日陰の入江を掠める。
 そして、湖には
 実った穀物が姿を写す。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Auf dem See", written 1775, first published 1789
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Auf dem See", op. 3 no. 5 (1875)

作曲:1875年8月以前, MarburgあるいはWindischgrazにて

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フーゴー・ヴォルフ(Hugo Wolf: 1860-1903)最初期の歌曲Op. 3の第4曲「さすらいの歌(Wanderlied, Op. 3, No. 4)」は以前の記事で触れたようにピアノパート左手の最後の8小節分が空白の為、Op.3の他の歌曲(第7/3巻)とは異なり、未完成作品を集めたヴォルフ全集第7/4巻ではじめて出版されており、現在のところ録音はないようです。ただ、全体の骨組みは完成しているのでちょっと補えば演奏可能にも思えます。

第5曲はゲーテの詩による「湖上にて(Auf dem See, Op. 3, No. 5)」です。この詩に作曲した作品としては、シューベルトの歌曲(D 543)が有名です。
Op. 3の中ではじめて通作形式を試みたという意味で、ヴォルフの野心が感じられる作品です。未熟な点は多々ありますが、前へ前へという推進力が感じられる爽快な作品だと思います。一方で、第2節では詩の内容に応じてテンポを落とし、言葉の合間にしばしば休符を入れ、詩人の言葉が思いあふれて途切れ途切れになるさまを描いているかのようです。こういうところにヴォルフの詩への共感があらわれているように思います。

私が2006年に歌曲投稿サイトの「詩と音楽」にこの曲について投稿した内容が、こちらのリンク先からご覧いただけますのでよろしければご覧ください。

C (4/4拍子)
イ長調(A-dur)
Allegro moderato

●[Hugo Wolf:] Auf dem See, Op. 3, No. 5
トマス・ホッブス(T), ショルト・カイノホ(P)
Thomas Hobbs(T), Sholto Kynoch(P)

Channel名:トーマス・ホッブス - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:29 June 2013, St John the Evangelist, Oxford, U.K.

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●【参考】シューベルト:湖上にて D 543
Schubert: Auf dem See D.543 - Peter Schreier, Walter Olbertz, 1965 - MHS 3380
ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)

Channel名:davidhertzberg(オリジナルのリンク先はこちら)

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(参考)

The LiederNet Archive

「詩と音楽」-湖上にて

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag

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ヴォルフ:釣り人(Wolf: Der Fischer, Op. 3, No. 3)

Der Fischer, Op. 3, No. 3
 釣り人

1.
Das Wasser rauscht',das Wasser schwoll,
Ein Fischer saß daran,
Sah nach der Angel ruhevoll,
Kühl bis an's Herz hinein.
Und wie er sitzt und wie er lauscht,
Teilt sich die Flut empor;
Aus dem bewegten Wasser rauscht
Ein feuchtes Weib hervor.
 水がざわめき、膨らんだ。
 一人の釣り人が座りこみ、
 平然と竿を見つめていた、
 心の底まで冷えきって。
 彼が座って、耳を澄ましていると、
 水は盛り上がって、二つに割れた。
 波立つ水から音立てて、
 濡れた女が現れた。

2.
Sie sang zu ihm,sie sprach zu ihm:
Was lockst du meine Brut
Mit Menschenwitz und Menschenlist
Hinauf in Todesglut?
Ach wüßtest du,wie's Fischlein ist
So wohlig auf dem Grund,
Du stiegst herunter wie du bist,
Und würdest erst gesund.
 女は彼に歌いかけ、語りかけた。
 どうしてあなたは、私の仲間達を
 人間共の機知や策略で誘き寄せて、
 死に至る灼熱の地上に引き上げようとするのですか。
 ああ、魚達が
 水底でどれほど快適か御存知ならば、
 あなたも下りて行って、
 ようやく健やかになるでしょうに。

3.
Labt sich die liebe Sonne nicht,
Der Mond sich nicht im Meer?
Kehrt wellenatmend ihr Gesicht
Nicht doppelt schöner her?
Lockt dich der tiefe Himmel nicht,
Das feuchtverklärte Blau?
Lockt dich dein eigen Angesicht
Nicht her in ew'gen Tau?
 お日様も、月も、
 海の中で元気を取り戻すではないですか。
 波を吸って、お日様の顔が
 倍も美しくなって、帰って来るではないですか。
 底深い蒼穹があなたを呼んでいませんか、
 水気を帯びた、抜けるような青さが?
 水鏡の御自身のお顔が
 永遠の露の中へと誘っていませんか?

4.
Das Wasser rauscht',das Wasser schwoll,
Netzt' ihm den nackten Fuß;
Sein Herz wuchs ihm so sehnsuchtsvoll,
Wie bei der Liebsten Gruß.
Sie sprach zu ihm,sie sang zu ihm;
Da war's um ihn geschehn:
Halb zog sie ihn,halb sank er hin,
Und ward nicht mehr gesehn.
 水がざわめき、膨らんで、
 彼の裸足を濡らした。
 彼の心は憧れに膨らんでいた、
 恋人に挨拶される時のように。
 女は彼に語りかけ、歌いかけた、
 あなたはもうおしまいよと。
 半ばは女に引かれ、半ばは自ら沈み行き、
 もはや彼の姿は見られなかった。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Der Fischer", written 1778?, first published 1779
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Der Fischer", op. 3 no. 3 (1875)

作曲:1875年8月以前, MarburgあるいはWindischgrazにて

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フーゴー・ヴォルフ(Hugo Wolf: 1860-1903)最初期の歌曲Op. 3の第3曲はゲーテの詩による「釣り人(Der Fischer)」です。この詩には、シューベルト(D 225)やレーヴェ(Op. 43, No. 1)など多くの作曲家が作曲しており、ヴォルフも先輩の書法から学ぼうとしたのかもしれません。詩は4節からなり、ヴォルフの自筆譜では1節分の歌詞のみを記載して、最後にリピート記号を付けている為、有節歌曲を想定しているのかもしれませんが、第1節だけで音楽が完結していて、長い前奏と後奏も付いているので、全節繰り返して演奏すると冗長になりかねないと思います。「濡れた女(Ein feuchtes Weib)」が現れたところで音楽を終えるのも余韻があっていいかもしれません。

私が2005年に歌曲投稿サイトの「詩と音楽」にこの曲について投稿した内容が、こちらのリンク先からご覧いただけますのでよろしければご覧ください。

C (4/4拍子)
ハ短調(c-moll)
冒頭の速度表示なし

●[Hugo Wolf:] Der Fischer, Op. 3, No. 3
ウィリアム・バーガー(BR), ショルト・カイノホ(P)
William Berger(BR), Sholto Kynoch(P)

Channel名:ウィリアム・バーガー - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:29 June 2013, St John the Evangelist, Oxford, U.K.

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●【参考】シューベルト:釣り人 D 225
[Schubert:] Der Fischer, Op. 5, No. 3, D. 225
白井光子(MS), ハルトムート・ヘル(P)
Mitsuko Shirai(MS), Hartmut Höll(P)

Channel名:白井光子 - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
※バラードの内容を完全な有節形式で表現するシューベルトはやはり天才です。

●【参考】レーヴェ:釣り人 Op. 43, No. 1
C. Loewe: 3 Balladen, Op. 43 - No. 1, Der Fischer
エリー・アーメリング(S), ドルトン・ボールドウィン(P)
Elly Ameling(S), Dalton Baldwin(P)

Channel名:エリー・アーメリング - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
※水がふくらむさま、男を魅了する女の誘いなど、レーヴェの細やかな工夫が感じられます。

●【参考】ファニー・ヘンゼル・メンデルスゾーン:釣り人
[Fanny Hensel:] Der Fischer
トビアス・ベルント(BR), アレクサンダー・フライシャー(P)
Tobias Berndt(BR), Alexander Fleischer(P)

Channel名:Alexander Fleischer - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
※有節形式ですが、緊迫感を高めていくファニー・ヘンゼルの才能に脱帽しました。この曲はもっと知られていいと思います。

●【参考】シューマン:釣り人 RSW Anh. M2.6
Schumann: Der Fischer, RSW Anh. M2.6
マーク・パドモア(T), クリストファー・モルトマン(BR), グレアム・ジョンソン(P)
Mark Padmore(T), Christopher Maltman(BR), Graham Johnson(P)

Channel名:Christopher Maltman - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
※語り手をモルトマン、海から現れる女をパドモアが歌っています。

●【参考】R. シュトラウス:釣り人 TrV 48
[Richard Strauss:] Jugendlieder: Der Fischer
アンドレアス・シュミット(BR), ルドルフ・ヤンセン(P)
Andreas Schmidt(BR), Rudolf Jansen(P)

Channel名:アンドレアス・シュミット - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
※後半にシューベルトの「海に潜る男(潜水者) D 111」のピアノ間奏が引用されているのが興味深いです。

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(参考)

The LiederNet Archive

「詩と音楽」-釣り人

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag

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エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:シューベルト「ズライカⅠ(Schubert: Suleika 1, D 720)」

●Musings on Music by Elly Ameling - Suleika 1 - Schubert

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です)

26:08-31:54
Schubert: Suleika 1
Elly Ameling, soprano
Jörg Demus, piano
Recording: 10-13 January 1970, Electrola Studio Zehlendorf, Germany
EMI
(※レーベル名は、動画の最後と概要欄に表示されるPhilipsではなく、EMIが正しいと思われます。)

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Suleika I, D 720 (Op. 14, No. 1)
 ズライカⅠ

Was bedeutet die Bewegung?
Bringt der [Ost mir]1 frohe Kunde?
Seiner Schwingen [frische]2 Regung
Kühlt des Herzens tiefe Wunde.
 こみあげてくるこの思いはどういう意味なのでしょう?
 東風が私にうれしい知らせを運んでいるのでしょうか?
 東風の翼の新鮮なそよぎが
 心の奥深くにある傷を冷やしてくれます。

Kosend spielt er mit dem Staube,
Jagt ihn auf in leichten Wölkchen,
Treibt zur sichern [Rebenlaube]3
Der Insecten frohes Völkchen.
 東風は埃といちゃつき戯れ
 それを軽やかな雲状のものへと追いやります。
 また、安全なぶどうの葉へ
 昆虫たちの楽しい群れを駆り立てます。

Lindert sanft der Sonne [Glühen]4,
Kühlt auch mir die heißen Wangen,
Küßt die Reben noch im [Fliehen]5,
Die [auf Feld]6 und Hügel prangen.
 太陽の灼熱を穏やかに和らげ、
 私の火照った頬も冷まし、
 通り過ぎる時に
 野や丘に生い茂っているぶどうと口づけします。

Und [mir bringt]7 sein leises Flüstern
Von dem Freunde [tausend Grüße]8;
Eh noch diese Hügel düstern
[Grüßen mich wohl tausend Küsse]9.
 そしてその微かなささやきは私に
 友からの千もの挨拶を運んでくれます、
 まだこの丘が薄暗くなる前に
 千もの口づけが私に挨拶してくれるでしょう。

Und [so kannst du weiter ziehen!]10
Diene [Freunden]11 und Betrübten.
Dort wo hohe Mauern glühen,
[Dort find' ich bald]12 den Vielgeliebten.
 さらに進みなさい!
 友人たちや悲しみにくれる人々にお仕えなさい。
 高い塀が赤く染まっているあそこ、
 あそこで私はじきに恋人を見つけるでしょう。

Ach, die wahre Herzenskunde,
Liebeshauch, [erfrischtes]13 Leben
Wird mir nur aus seinem Munde,
Kann mir nur sein [Athem]14 geben.
 ああ、真の心からの知らせ、
 愛の息吹、蘇る生命は
 あの方の口からのみ私にもたらされ、
 ただあの方の息吹だけが私に与えることが出来るのです。

1 Willemer's original poem: "Ostwind"
2 Arnim: "leise"
3 Arnim: "Rosenlaube"
4 Arnim: "Gluten"
5 Arnim: "Flug"
6 Arnim: "an Busch"
7 Willemer's original poem: "mich soll"
8 Willemer's original poem: "lieblich grüßen"
9 Willemer's original poem: "Sitz ich still zu seinen Füßen"
10 Willemer's original poem: "du magst nun weiterziehen,"
11 Willemer's original poem: "Frohen"
12 Goethe's revision: "Find' ich bald"; Willemer's original poem: "Finde ich"
13 Arnim: "verklärtes"
14 modernized, this would be "Atem", but it should be left as "Athem" (an anagram of "Hatem", the beloved Suleika is singing about.)

詩:Marianne von Willemer (1784-1860), title 1: "Suleika", title 2: "Ostwind", written 1815, first published 1819
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828), "Suleika I", op. 14 (Zwei Lieder) no. 1, D 720 (1821), published 1822 [ voice, piano ], Cappi und Diabelli, VN 1163, Wien

※マリアンネ・フォン・ヴィレマー(Marianne von Willemer)の詩「東風(Ostwind)」はゲーテの『西東詩集(West-östlicher Divan)』の「ズライカの巻(Buch Suleika - Suleika Nameh)」の一部として、「ズライカ(Suleika)」のタイトルのもと匿名で出版された。その際、ゲーテによって若干の詩句が変更された。

(The LiederNet Archive)

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(参考)

Musings on Music by Elly Ameling - Suleika 1 - Schubert (YouTube)

The LiederNet Archive

West-östlicher Divan (Wikipedia:ドイツ語)

西東詩集 (Wikipedia:日本語)

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ヴォルフ:憧れ(Wolf: Sehnsucht, Op. 3, No. 2)

Sehnsucht, Op. 3, No. 2
 憧れ

1.
Was zieht mir das Herz so?
Was zieht mich hinaus?
Und windet und schraubt mich
Aus Zimmer und Haus?
Wie dort sich die Wolken
Um Felsen verziehn!
Da möcht' ich hinüber,
Da möcht' ich wohl hin!
 これほど私の心を惹きつけるのは何?
 何が私を外に連れ出すのか?
 私にぐるぐる絡み付き、
 部屋から家から連れ去ろうとするのは?
 雲が、あそこの
 岩山のあたりで消えていく!
 あそこに行ってみたい、
 行きたくてたまらないのだ!

2.
Nun wiegt sich der Raben
Geselliger Flug;
Ich mische mich drunter
Und folge dem Zug.
Und Berg und Gemäuer
Umfittigen wir,
Sie weilet da drunten,
Ich spähe nach ihr.
 今、鴉の群れが
 ゆらゆらと飛んでいる。
 私はその群れに加わり、
 列の後を追って行く。
 山超え、壁越え、
 飛んで行く。
 すると、下に彼女が居り、
 私はそちらをそっと窺う。

3.
Da kommt sie und wandelt;
Ich eile sobald,
Ein singender Vogel,
Zum buschichten Wald.
Sie weilet und horchet
Und lächelt mit sich:
“Er singt es so lieblich
Und singt es an mich.”
 彼女はやって来て、あたりをぶらつく。
 途端に私は大急ぎで
 歌う鳥となって、
 生い茂る森へと向かう。
 彼女はそこで耳を澄ませ、
 独り微笑む。
 「あの鳥はあんなに素敵に歌っている。
 私に向かって歌っているのね。」

4.
Die scheidende Sonne
Verguldet die Höhn;
Die sinnende Schöne
Sie läßt es geschehn.
Sie wandelt am Bache,
Die Wiesen entlang,
Und finstrer und finstrer
Umschlingt sich der Gang.
 沈み行く太陽が
 丘を金に染める。
 思いに沈む、麗しき彼女は
 その場に身を委ねる。
 彼女は小川のほとりをぶらつき、
 草地に沿って歩く。
 そのうち、徐々に暗さが増し、
 足元をおぼつかなくさせる。

5.
Auf einmal erschein' ich
Ein blinkender Stern.
“Was glänzet da droben,
So nah und so fern?”
Und hast du mit Staunen
Das Leuchten erblickt;
Ich lieg' dir zu Füßen,
Da bin ich beglückt!
 その時、突然私は
 きらめく星となる。
 「あの上空で
 あんなに近く、遠く、輝いているのは何かしら?」
 そして、君が驚いて
 その光を認めると、
 私は君の足元にひれ伏す。
 それで私は幸せなのだ!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Sehnsucht", written 1802, first published 1804
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Sehnsucht", op. 3 no. 2 (1875)

作曲:1875年8月以前, MarburgあるいはWindischgrazにて

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フーゴー・ヴォルフ(Hugo Wolf: 1860-1903)最初期の歌曲Op. 3の第2曲はゲーテの詩による「憧れ(Sehnsucht)」です。この詩には、ベートーヴェン(Op. 83/2)やシューベルト(D 123)も作曲しており、ヴォルフもそれらの歌曲を知っていたのかもしれません。5節からなる有節歌曲で、Op. 3の中で個人的には最も魅力的な作品だと思います。

私が2005年に歌曲投稿サイトの「詩と音楽」にこの曲について投稿した内容が、こちらのリンク先からご覧いただけますのでよろしければご覧ください。

6/8拍子
ホ長調(E-dur)
Allegretto

●Sehnsucht, Op. 3, No. 2
ウィリアム・バーガー(BR), ショルト・カイノホ(P)
William Berger(BR), Sholto Kynoch(P)

Channel名:ウィリアム・バーガー - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:29 June 2013, St John the Evangelist, Oxford, U.K.

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(参考)

The LiederNet Archive

「詩と音楽」-憧れ

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag

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エリーの要点「不動」(Elly's Essentials; “Inactivity")-シューベルト:海の静寂 D 215A(第1稿) (Schubert: Meeres Stille, D 215A (Erste Bearbeitung))

●Elly's Essentials; “Inactivity"

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です。音声が出ます。)

(エリー・アーメリングのコメント大意)

歌うということは常に活動的な筋肉の運動です。
しかし、音楽が要求している場合は、演奏において完全に非活動的な効果を生み出すことが出来なければなりません。
その例として、ゲーテの詩によるシューベルト作曲「海の静寂」のあまり知られていない最初の稿が挙げられます。
水の中には深い静寂があります。
"Tiefe Stille herrscht im Wasser."

0:55-4:00 Schubert: Meeres Stille, D 215A
Elly Ameling, soprano
Graham Johnson, piano
Recording: 15-18 August 1989, Rosslyn Hill Unitarian Chapel, Hampstead, London
Hyperion records

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Meeres Stille, D 215A
 海の静寂

Tiefe Stille herrscht im Wasser,
Ohne Regung ruht das Meer,
Und bekümmert sieht der Schiffer
Glatte Fläche rings umher.
Keine Luft von keiner Seite!
Todesstille fürchterlich!
In der ungeheuern Weite
Reget keine Welle sich.
 深い静寂が水の中を支配し、
 動きもなく、海は憩っている。
 すると船乗りは心配になり
 あたり一面の滑らかな水面を見回す。
 どの方角からも風がない!
 死の静寂の恐ろしさ!
 果てしなく遠くまで
 波一つ立っていない。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), title 1: "Meeres Stille", title 2: "Meeresstille", first published 1795
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828), "Meeres Stille", D 215A (1815), published 1952 [ voice and piano ], first version

作曲:1815年6月20日(第1稿)

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(参考)

Elly's Essentials; “Inactivity" (YouTube)

The LiederNet Archive

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エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:ヴォルフ「ミニョン(あの国をご存知ですか)(Wolf: Mignon "Kennst du das Land?")」

●Kennst du das Land Wolf

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です)

Mignon (Kennst du das Land?)
 ミニョン(あの国をご存知ですか)

Kennst du das Land, wo die Zitronen blühn,
Im dunklen Laub die Gold-Orangen glühn,
Ein sanfter Wind vom blauen Himmel weht,
Die Myrte still und hoch der Lorbeer steht?
Kennst du es wohl?
Dahin! dahin
Möcht ich mit dir, o mein Geliebter, ziehn.
 あの国をご存知ですか、そこはレモンが花咲き、
 暗い葉の中に金色のオレンジが光り、
 青空からやさしい風が吹き、
 ミルテは静かに、そして月桂樹は高くそびえているのです。
 その国をご存知ですか。
 そこへ!そこへ
 あなたと行きたいのです、おお、私の恋人よ。

Kennst du das Haus? Auf Säulen ruht sein Dach.
Es glänzt der Saal, es schimmert das Gemach,
Und Marmorbilder stehn und sehn mich an:
Was hat man dir, du armes Kind, getan?
Kennst du es wohl?
Dahin! dahin
Möcht ich mit dir, o mein Beschützer, ziehn.
 あの家をご存知ですか。そこの屋根は円柱の上で安らいでいます。
 広間は光輝き、居間はほのかな明りを放ち、
 そして大理石像が立っており、私を見つめて
 「かわいそうな子よ、おまえは何をされたというのか」とたずねるのです。
 その家をご存知ですか。
 そこへ!そこへ
 あなたと行きたいのです、おお、私の保護者よ。

Kennst du den Berg und seinen Wolkensteg?
Das Maultier sucht im Nebel seinen Weg;
In Höhlen wohnt der Drachen alte Brut;
Es stürzt der Fels und über ihn die Flut!
Kennst du ihn wohl?
Dahin! dahin
Geht unser Weg! O Vater, laß uns ziehn!
 あの山とその雲のかかった通路をご存知ですか?
 らばは霧の中で道を探し求めます。
 洞穴には竜の古いやからが住んでいるのです。
 岩が落下し、その上を大水が覆っています!
 その山をご存知ですか。
 そこへ!そこへ
 私たちの道は向かうのです。おお、父上よ、行きましょう!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

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エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:ヴォルフ「ただ憧れを知る者だけが(Wolf: Nur wer die Sehnsucht kennt)」

●Musings on Music by Elly Ameling - Wolf - Nur wer die Sehnsucht kennt

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です)

エリー・アーメリングによる説明(大意)

親愛なる、ゲーテの詩とフーゴ・ヴォルフの歌曲のファンの皆さん、私たちは再び、大人の感情を持つ少女ミニョンを聴くことにします。ゲーテの小説「ヴィルヘルム・マイスターの修行時代」の中で、彼女の言葉はほとんど言葉で表すことの難しい「憧れ」を意味する「Sehnsucht」にあふれています。
「憧れを知る者だけが、私の苦しみを理解することができます。」
最初の小節から、このゲーテの詩のフーゴ・ヴォルフによる歌曲は、以前に「Musings on Music」シリーズで聞いたシューベルトの同じテキストの解釈とは全く異なることが明白です。ヴォルフのバージョンには、シューベルトの独唱版やソプラノとテノールの二重唱版のような胸を打つ叙情性はありません。ヴォルフの場合、前奏の最初の小節から歌の最後までドラマティックです。

(1:36-3:56 ヴォルフ:ミニョンII「ただ憧れを知る者だけが」全曲の演奏)

(3:57-5:06 アーメリングによる詩の朗読と英訳)

メロディーラインの半音階と、ほとんど無調といえる絶えず変化する和声によって生じるドラマと興奮が聞かれます。さらに、テンポは常に前後に揺れます。これらすべてが、ヴォルフの記譜で綿密に示されています。
楽譜編纂者がヴォルフの書いたあらゆる記譜と音符に正確に従っているかどうかを常に注意深くチェックしていたことはよく知られています。

(5:53-6:52 冒頭から"nach jener Seite"まで)

私たちは「jener Seite(あちら側)」という言葉を聞きました。そしてピアノは、この断片を毎回デクレッシェンドしながらどんどんゆっくりと繰り返し、聴く人にまさに「永遠」の感覚を与えています。

(7:19-7:39 "Seh ich an's Firmament nach jener Seite.")

ここでミニョンは「ああ、私を愛し、知る方は遠方にいる」と言います。
そしてヴォルフは、この歌詞の上に再びデクレッシェンドとリタルダンドを書き、その後2小節のピアノソロで「遠方にいる」を表現します。確かに遠く離れています。しかし、直前の「nach jener Seite」という歌詞で「永遠」を表現したときほど遠くはありません。永遠は愛する人の不在よりも遠いのです。

(8:30-9:11 "Seh ich ans Firmament"から"in der Weite."まで)

「私は眩暈がして、体が燃え上がります」
少女は自分の感情に溺れ、それはたった4小節、たった7語で表現されます。その後、ピアノソロがその2倍以上の時間でこの制御不能な状態を表現し、後に彼女が落ち着いて我に返り、悲しく孤独な憧れに戻ります。
「Nur wer die Sehnsucht kennt」の箇所に「innig」という指示があります。これは「親密に」または「内側から」という意味で、演奏者にとって非常に重要です。
最後のフレーズでは、冒頭の同じ単語がここでは違った響きになります。

(10:17-11:24 "Es schwindelt mir, es brennt mein Eingeweide."から最後まで)

フーゴ・ヴォルフは、わずか2分半の歌で、この詩の感情の完全なスケールを表現しました。
シューベルトと異なり、ヴォルフは詩のどの部分も繰り返しませんでした。
ただ、ゲーテ自身と同様に、ヴォルフは詩の最初の行だけを最後に繰り返しました。
この歌曲は 1888 年に作られました。シューベルトがこの詩に最後に2つのバージョンで作曲してから62年後のことです。
時代は変わり、スタイルも異なります。

それではフーゴ・ヴォルフのミニョンをもう一度聞きましょう。

(12:27-14:48 全曲の演奏)
エリー・アーメリング
ルドルフ・ヤンセン(ピアノ)
1983年10月18日, アムステルダム・コンセルトヘバウ

Elly Ameling
Rudolf Jansen, piano
18-10-1983, Concertgebouw Amsterdam

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Nur wer die Sehnsucht kennt
 ただ憧れを知る人だけが

Nur wer die Sehnsucht kennt
Weiß, was ich leide!
Allein und abgetrennt
Von aller Freude
Seh ich an's Firmament
Nach jener Seite.
Ach, der mich liebt und kennt,
Ist in der Weite.
Es schwindelt mir, es brennt
Mein Eingeweide.
Nur wer die Sehnsucht kennt
Weiß, was ich leide!
 ただ憧れを知る人だけが
 私が何に苦しんでいるのか分かるのです!
 ひとり
 あらゆる喜びから引き離されて
 私は天空の
 あちら側に目をやります。
 ああ、私を愛し、知る方は
 遠方にいるのです。
 私は眩暈がして、
 内臓がちくちく痛みます。
 ただ憧れを知る人だけが
 私が何に苦しんでいるのか分かるのです!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Mignon", written 1785, appears in Wilhelm Meisters Lehrjahre, first published 1795
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Mignon II", published 1891 [ voice and piano ], from Goethe-Lieder, no. 6, Mainz, Schott

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(参考)

ヴィルヘルム・マイスターの修業時代 (Wikipedia)

Wilhelm Meisters Lehrjahre (Wikipedia: 独語)

The LiederNet Archive

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エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:シューベルト「ただ憧れを知る者だけが(Schubert: Nur wer die Sehnsucht kennt, D 877/1)」(二重唱曲)

●Musings on Music by Elly Ameling - Schubert - Nur wer die Sehnsucht kennt, Duet version D.877

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です)

エリー・アーメリングによる説明(大意)

視聴者の皆様、前回の「Musings on Music」では、シューベルトが女性1人の声とピアノ用に作曲した「憧れを知る者だけが(Nur wer die Sehnsucht kennt, D 877/4)」を聴きました。
今回はソプラノ、テノール、ピアノという編成の二重唱曲です。
この詩は、小説「ヴィルヘルム・マイスターの修行時代(Wilhelm Meisters Lehrjahre)」の中で、ミニョンが朗読した一連の詩のうちの1つです。
このドイツ文学の古典作品は、ヨーハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe)によって書かれ、1796年に発表されました。
シューベルトは、このバージョンと、前に聞いたバージョン、そしてミニョンの他の2つのテキスト(※訳注:Heiß mich nicht reden; So laßt mich scheinen)を1826年に書きました。

(1:34-6:11 Nur wer die Sehnsucht kennt, D 877/1(二重唱曲)の全曲演奏)

この二重唱曲は、前回聞いたシューベルトの独唱曲よりもさらに感動的であることに、皆さんも同意されることでしょう。

(6:31-7:45 詩の朗読と英訳)

シューベルトはゲーテの小説「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」を正確に読みました。
ミニョンと竪琴弾きが二重唱として歌っていた歌は、最も心のこもった表現でした。

この竪琴弾きは白ひげの老人で、茶色の修道服を着ており、小説の冒頭で一団に加わりました。ここでミニョンと竪琴弾きは、ロマン派、そしてシューベルトの音楽のほとんどに特徴的な憧れ(longing)、切望(yearning)を表現しています。

ピアノの前奏は、3小節目ですでに驚異的な和声、つまりアクセント付きのハ長調の和音に変わり、その後ロ短調に戻ります。

(9:19- 前奏の演奏)

続いて、ソプラノとテナーがお互いに絡み合います。

(9:48-11:02 冒頭から"Weiß, was ich leide"までの演奏)

曲の中間部「ひとり引き離されて(Allein und abgetrennt)」はピアニシシモ(ppp)で始まり、天空(Firmament)をあらわすかのようにフォルテ(f)に強まり、「あちら側(jener Seite)」つまり永遠(Ewigkeit)に達します。

(11:33-12:24 "Allein und abgetrennt"から"nach jener Seite."までの演奏)

そして、「ああ、私を愛し、知る方は遠く離れています(Ach, der mich liebt und kennt, ist in der Weite)」は不在の雰囲気を表すppで始まり、悲しみの叫びはテノールの高音、そして何よりもピアノの最高音にあらわれています。
わずか2小節でフォルテッシモ(ff)からピアニッシモ(pp)へと移るのです。

(13:04-13:52 "Ach, der mich liebt und kennt, ist in der Weite."の演奏)

そして「私は眩暈がして、内臓がちくちく痛みます(Es schwindelt mir, es brennt mein Eingeweide.)」の
左手のトレモロが取り乱した様子を表現しています。
この部分の後、最初のゆっくりのセクション
「Nur wer die Sehnsucht kennt」が繰り返されますが、最初と異なるのはピアノパートにトレモロが加わっていることです。

(14:41-16:33 "Es schwindelt mir"から最後までの演奏)

16歳から19歳頃までに、シューベルトは既にこの詩の独唱用と男声五重唱用の曲を書いていました。
そして1826年には、前に述べたように、ここで議論した2つのバージョンがさらに作曲されました。
フィッシャー=ディースカウは、この二重唱曲について「シューベルトが独唱曲としてこのテキストに作曲したすべてのバージョンを凌駕している」と評しています。

それでは、二重唱曲全体をもう一度聴いてみましょう。

(17:27- 全曲の演奏)

エリー・アーメリング(S)
ピーター・ピアーズ(T)
ドルトン・ボールドウィン(P)
1977年ベンソン&ヘッジズ音楽祭
スネイプ・モールティングスでのライヴ録音

Elly Ameling, soprano
Peter Pears, tenor
Dalton Baldwin, piano
Benson & Hedges Music Festival 1977
Recorded live at Snape Maltings

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Nur wer die Sehnsucht kennt
 ただ憧れを知る人だけが

Nur wer die Sehnsucht kennt
Weiß, was ich leide!
Allein und abgetrennt
Von aller Freude
Seh ich an's Firmament
Nach jener Seite.
Ach, der mich liebt und kennt,
Ist in der Weite.
Es schwindelt mir, es brennt
Mein Eingeweide.
Nur wer die Sehnsucht kennt
Weiß, was ich leide!
 ただ憧れを知る人だけが
 私が何に苦しんでいるのか分かるのです!
 ひとり
 あらゆる喜びから引き離されて
 私は天空の
 あちら側に目をやります。
 ああ、私を愛し、知る方は
 遠方にいるのです。
 私は眩暈がして、
 内臓がちくちく痛みます。
 ただ憧れを知る人だけが
 私が何に苦しんでいるのか分かるのです!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Mignon", written 1785, appears in Wilhelm Meisters Lehrjahre, first published 1795
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828)

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(参考)

ヴィルヘルム・マイスターの修業時代 (Wikipedia)

Wilhelm Meisters Lehrjahre (Wikipedia: 独語)

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