没後50年に因み オトマール・シェック「若き日の歌」
2007年11月9日(金)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
内藤明美(MS)
平島誠也(P)
シェック作曲
山のあなたo. Op. No. 11(ブッセ)
やすらぎの谷Op. 3-1(ウーラント)
葦の歌ⅠOp. 2-1「彼方には陽も沈みゆき」(レーナウ)
葦の歌ⅡOp. 2-2「空は曇りて雲は飛ぶ」(レーナウ)
葦の歌ⅢOp. 2-3「こもりたる森の小径を」(レーナウ)
別れOp. 3-3(ウーラント)
さよならOp. 3-4(ウーラント)
礼拝堂Op. 3-2(ウーラント)
九月の朝Op. 7-1(メーリケ)
捨てられた娘Op. 6-1(シュヴァーベン民謡)
エリーザベトOp. 8-1(ヘッセ)
知らせOp. 8-3(ヘッセ)
二つの谷からOp. 8-2(ヘッセ)
非難o. Op. No. 27(ヘッセ)
~休憩~
美しいところOp. 14-3(フライ)
思い出Op. 10-1(アイヒェンドルフ)
森の湖Op. 15-1(ロイトホルト)
わが母にOp. 14-1(メーリケ)
眠りよ 眠りOp. 14-4(ヘッベル)
プラハ学生の旅の歌Op. 12-2(アイヒェンドルフ)
ペレグリーナⅠOp. 15-6「人言うに 恋人は杭に」(メーリケ)
ペレグリーナⅡOp. 17-4「かつて神聖であった愛の」(メーリケ)
秋にOp. 17-2(ウーラント)
春の教会墓地Op. 17-3(ウーラント)
[アンコール]
シェック/山のあなたo. Op. No. 11
レーガー/マリアの子守歌
山田耕筰/赤とんぼ
島原の子守唄
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いつもお世話になっている歌曲投稿サイト「詩と音楽」の甲斐さんに声をかけていただき、メゾソプラノの内藤明美さんとピアニストの平島誠也さんによるオトマール・シェックの歌曲のみによるリサイタルを聴いてきた。
シェックは今年が没後50年のアニバーサリーなので、それに因んでのプログラミングだが、歌曲創作に人一倍力を注ぎ、重要な歌曲作曲家でありながら知名度は必ずしも高くないシェックの歌曲ばかりを実演で聴けるということはどれほど貴重なことだろうか。
しかも、後年の熟した作品ではなく、シェックの若かりし頃の作品ばかりで一晩のプログラムを組むというのは今後もなかなか無い快挙ではないだろうか。
シェックの歌曲創作はシューベルトからヴォルフに至る大家たちをリスペクトしているのが感じられるが、彼らの作曲している多くの詩に果敢にチャレンジしていながら、メーリケの「ペレグリーナ」作品群の中でヴォルフが作曲している2編を避けているのが興味深い。
特に「ペレグリーナⅡ」は深刻なピアノパートも含め、惹き込まれる名曲だった。
上田敏の「海潮音」で有名なブッセの「山のあなた」には素直な旋律が付けられ、リサイタルの最初とアンコールの2回歌われた。
ブラームスも同じ詩に作曲している「捨てられた娘」(ブラームスの題名は「悲しむ娘」Op. 7-5)はシュヴァーベン民謡の詩により、ブラームス歌曲の深い悲しみとは異なり、民謡的な素朴さを追求しているようだ。
ヘッセの詩による4曲はいずれもなかなか魅力的な作品だが、特にたゆたうような響きが聞かれる「エリーザベト」が美しく素晴らしかった。
アイヒェンドルフの「プラハ学生の旅の歌」は3節からなる歌曲で、ヴォルフのアイヒェンドルフ歌曲に通ずる物語展開の面白さがあり楽しかった。
プログラム最後の「春の教会墓地」はしっとりとした趣が印象的で、平島さんのピアノ後奏が深い思いを反映した美しさだった。
アンコールは4曲歌われたが、ドイツリートとは全く異なる世界をもった「島原の子守唄」の感動的な歌唱には驚かされた。
ほんの数分の中で1つのドラマがくっきり浮かび上がってくるようで、内藤さんの持ち駒の豊かさを感じさせられた。
ちなみに内藤さんは前半では髪を束ね青いドレスで登場し、後半では鮮やかな赤いドレスに衣装を変え、髪もほどき、さらにペレグリーナを歌うセクションではショールをまとい、奔放な放浪癖のある女性を演出していた。
寡聞にして私はこれまで内藤さんのお名前も演奏も存じ上げなかったのだが、今回、その歌唱を聴き、甲斐さんが絶賛しておられたのが納得できる素晴らしい名唱であった。
これほどリートの歌唱に適性をもった歌手にはそう出会えるものではない。
声はどこをとっても美しく練られているばかりか、色合いの豊富さと深みがあって、1曲1曲に思いが込められているのがしっかりと伝わってくる。
そのドイツ語は明晰でネイティヴのような自然さだった。
珍しい作品を演奏する人の中には手探りで危なっかしい演奏を聴かされることもあるものだが、内藤さんは暗譜で完全にご自分の血肉とされていた。
これは平島さんのピアノにも感じられ、芸術家としての誠実で真摯な姿勢に感銘を受けた。
客席はほとんどがお弟子さんで占められていた感もあり、一般の歌曲ファンと思われる客層があまりいなかったのは残念だが、派手なプロモーションはなさらない主義なのかもしれない。
平島氏のピアノは見事なまでの完成度の高さで、自在に操る音色の美しさはベテランならではの底力のようなものを感じさせられた。
特に「ペレグリーナⅡ」での深みのある表現が素晴らしかった。
内藤明美という屈指の名歌手を知ることが出来、さらに平島誠也という現役最高の歌曲ピアニストの妙技を味わえて、とても収穫の多いコンサートだった。
今後は是非このコンビでの録音を望みたいものである。
なお、今回は甲斐さんと初めてお会いできたばかりか、甲斐さんのお知り合いの方たちとも知り合えて、充実した楽しい時間を過ごすことが出来た。
同じ趣味を持つ方たちと時間を共有する楽しみを感じられて感謝!
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