フリッツ・ヴンダーリヒ(Fritz Wunderlich)、ドイツ・リートを歌う 1955~1965年 (CD)

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早世した往年の名テノール、フリッツ・ヴンダーリヒ(Fritz Wunderlich)がSWR放送曲に録音した歌曲を集めた3枚組のCDが発売されるようです。
HMVの情報で2018年10月16日発売とのことで、まだamazonにも掲載されていないので、少し先なのですが、3枚たっぷりヴンダーリヒのドイツ・リートを聞けるというのは嬉しいです。

 こちら

詳細は上記のサイトにありますが、簡単に記しておきます。

●CD1

1955年11月録音:ブラームス民謡集&ヴォルフ「イタリア歌曲集」より:ヨーゼフ・ミュラー=マイエン(P)

1962年11月録音:ヴォルフ、ベートーヴェン、シューベルト、R.シュトラウス歌曲集:ロルフ・ラインハルト(P)

●CD2

1965年5月録音:シューマン「詩人の恋」、ベートーヴェン歌曲集、シューベルト歌曲集:フーベルト・ギーゼン(P)

●CD3

1964年2月録音:シューベルト「美しい水車屋の娘」:フーベルト・ギーゼン(P)

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CD2とCD3は名盤と名高いスタジオ録音が別にありますが、異なる日付、場所での演奏ということで、記録的価値は高いでしょう。

特に注目すべきはCD1です。
ブラームスのドイツ民謡集や、ヴォルフの「イタリア歌曲集」は、彼の正規のスタジオ録音にはこれまでなかったレパートリーと思われます。
1955年録音ということはヴンダーリヒ25歳の時の録音ということになります。
大歌手は早熟なことが多いですが、ヴンダーリヒもおそらくそうなのでしょう。

興味のある方は入手してみてはいかがでしょうか。

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フリッツ・ヴンダーリヒ/ライフ・アンド・レジェンド:生涯と伝説

Wunderlich_dvd昨年で没後40年だったドイツの名テノール、フリッツ・ヴンダーリヒ(1930.9.26, Kusel - 1966.9.17, Heidelberg)を記念したDVDが海外より1年遅れで国内でも発売された。ヴンダーリヒといえば、多くのオペラファンはタミーノの名演を思い出すであろう。だが彼は、レパートリーは必ずしも多くないもののリートにも積極的に取り組み、特に「詩人の恋」はあまたの名演の中で未だにベスト演奏の1つだと思っている。

これまで録音を通じて彼の美声とみずみずしい表現に接してきたが、今回初めて彼の歌う姿や家族や同僚とのくつろいだ姿が映像で見られ、さらに彼を偲ぶ多くの人(夫人エーファから恩師や同僚、友人)のインタビューも盛り込まれ、35歳の若さで散ったヴンダーリヒを様々な角度から知ることが出来る作品に仕上がっている。

(これから先はネタばれもあるので、まだ知りたくない方は気をつけてください。)

ヴンダーリヒの一見順風満帆に思えるキャリアも実際にはそうでなかったことが語られている。彼は指揮者の父親とヴァイオリニストの母親という音楽一家に生まれるが、ナチスの台頭と共に父親は追いつめられ、最終的には自ら命を絶つ。この時、フリッツはわずか5歳。それ以来女手一つで母親はフリッツたち子供を養い、フリッツも生活費の足しにするためにアコーディオンやピアノ、ホルンを習い、各地の祭りなどで演奏する。フリッツの音楽の才能に気付いた母は、指揮者エメリヒ・スモーラの薦めに従い、彼をフライブルクの音楽学校に入学させる。フリッツは当時ホルンを専攻していたが、最終的には声楽に力を注ぐようになり、入学試験の試験官だった盲目の女性マルガレーテの前でシューベルトの「道しるべ」を歌った。彼女曰く「出来は素晴らしく、情感はたっぷりで温かみがあった」。ヴンダーリヒが彼女に「俗っぽかったか」と尋ね、彼女が「少しね」と答えると、「だから学びたい」と言ったそうだ。他の人のエピソードでもヴンダーリヒは似たようなことを言っており、自分の意欲を積極的にアピールするタイプだったようだ。それは、長く辛い経験をした少年時代があったからこその成功願望だったのかもしれない。

1954年に「魔笛」のタミーノを歌い、その成功により2つの終身雇用の依頼が舞い込む。1つはフライブルクでの主役、もう1つはシュトゥットガルトでの端役で、ヴンダーリヒはシュトゥットガルトを選ぶ。

最初は端役だったが、当初タミーノを歌う予定だったヨーゼフ・トラクセルが機転を利かせ、1959年ヴンダーリヒにタミーノを歌わせる機会を与え、彼の輝かしい道が開かれた。

その後、ベーム指揮で「無口な女」を歌ったり、各地で成功を収め、テレビ出演にも進出し、依頼は殺到した。

ヘルマン・プライとの交友は、エーファ夫人曰く「互いに共鳴しあっていた」。うまが合っていたのだろう。プライによれば、ヴンダーリヒはプライに音楽上のヒントを与え、プライは逆に演技上の助言をしたとのこと。

歌曲のピアニストとしてロルフ・ラインハルトを抜擢して1963年3月にミュンヒェンで催したリサイタルでは、「歌い方がオペラのアリアみたいで、プログラムも単調」との酷評が出て、ヴンダーリヒを悩ませる。その時にプライの助言に従ってフーベルト・ギーゼンの門を叩き、彼との共演が始まった。ギーゼンといくつかの名盤を残して結果的には彼のリート歌手としての成功のきっかけとなったのだろう。F=ディースカウはギーゼンについて辛口のコメントをしているが、テクニックを超えた歌手との相性という意味ではヴンダーリヒとギーゼンは理想的なコンビだったのではないだろうか。

また、彼は成功の裏で心の均衡を自然に求め、自分自身だけの時間を大切にしたそうで、成功した人にしか分からないプレッシャーの大きさがあったのであろう。故郷クーゼルの友人たちとも連絡を取り続け、彼らに支えられてきたと夫人も語っている(友人たちと一緒の映像もある)。

1966年ニューヨークのメトロポリタン歌劇場からのオファーを受け、気乗りのしないままサインすると、出発する前にエディンバラでギーゼンとリサイタルを開き、さらにシュヴァーベンに狩りに出かける。その翌日に出かけた知り合いの館の階段から足をすべらせてそれが原因で35年の生涯を閉じる。この時のことを語る友人ペーター・カーガー氏が涙に声を詰まらせるのに対して、エーファ夫人は事態を受け止めようとしたと冷静に語っているのが好対照だった。

クリスタ・ルートヴィヒやブリギッテ・ファスベンダー、アンネリーゼ・ローテンベルガーといった往年の名歌手がインタビューに応じて、久しぶりに姿を現しているのもとても興味深かったし、現役のトマス・ハンプソンやロランド・ビリャソンがヴンダーリヒを絶賛しているのも今なお彼の名唱が生き続けているのを実感させられた。

さらに特典として、ペルゴレージの歌劇「音楽の先生」、モーツァルトの歌劇「魔笛」、R.シュトラウスの歌曲「舟歌」Op. 17-6、エックの歌劇「サン・ドミンゴの婚約」、チャイコフスキーの歌劇「エフゲニー・オネーギン」の映像で彼の名唱を目にすることが出来る。

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