メンデルスゾーン/春の歌Op. 47-3(レーナウ詩)
Frühlingslied, Op. 47-3
春の歌 作品47-3
Durch den Wald, den dunkeln, geht
Holde Frühlingsmorgenstunde,
Durch den Wald vom Himmel weht
Eine leise Liebeskunde.
森を、暗い森を通って、
心地よい春の朝の時間がやってくる。
森を通って、天から
かすかな愛の知らせが吹いてくる。
Selig lauscht der grüne Baum,
Und er taucht mit allen Zweigen
In den schönen Frühlingstraum,
In den vollen Lebensreigen.
喜んで緑の木は耳を傾け、
あらゆる枝でひたるのだ、
美しい春の夢に、
生の輪舞に満ちた中に。
Blüht ein Blümchen irgendwo,
Wird's vom hellen Tau getränket,
Das versteckte zittert froh,
Daß der Himmel sein gedenket.
一輪のかわいい花がどこかで咲くと、
明るい色の露にぬれる、
その人目につかず咲く花はうれしくて震えている、
天が自分を思ってくれているから。
In geheimer Laubesnacht
Wird des Vogels Herz getroffen
Von der Liebe Zaubermacht,
Und er singt ein süßes Hoffen.
ひそかな木陰道の夜に
鳥の心は撃ち抜かれる、
愛の魔力によって、
そしてその鳥は甘美な希望を歌うのだ。
All' das frohe Lenzgeschick
Nicht ein Wort des Himmels kündet,
Nur sein stummer, warmer Blick
Hat die Seligkeit entzündet.
快活な春の運命がすべての
天の言葉を伝えているわけではなく、
ただその無言であたたかい眼差しのみが
至福の火を灯してくれたのだ。
Also in den Winterharm,
Der die Seele hielt bezwungen,
Ist dein Blick mir, still und warm,
Frühlingsmächtig eingedrungen.
すなわち冬の悲しみは
魂を抑え続けるが、その中で
おまえの眼差しは私に、静かにあたたかく
春の力強さで沁みいったのだ。
詩:Nikolaus Lenau (1802.8.13, Csatád (Schadat) - 1850.8.22, Oberdöbling)
曲:Jakob Ludwig Felix Mendelssohn Bartholdy (1809.2.3, Hamburg - 1847.11.4, Leipzig)
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メンデルスゾーンの「春の歌」と題された作品は歌曲だけでもいくつかあり、以前の記事でも触れた。
今回はそれらの中でもっとも有名なニーコラウス・レーナウの詩による「春の歌」Op. 47-3をとりあげる。
詩を書いたレーナウのオリジナルのタイトルは"Frühlingsblick"(春の眼差し)。
森を通って春という“愛の知らせ”が吹き渡ると、緑映える木は喜んで春の夢を見、一輪の花はうれしくて露の涙を流し、鳥は愛を感じて希望の歌を響かせる。
その陽気な側面だけでなく、何も語らぬまま温かい眼差しを向ける春の力が、冬の悲しみを溶かしてくれるのだと歌われる。
詩の2節分を音楽の1節にした全3節の有節形式(第3節はピアノパートに若干の変化がある)。
ピアノパートは第1~2節を通して、16分音符の急速な分散和音と、リズムを刻む8分音符の連打が1つのパターンになっており、第3節では前半に16分音符の分散和音が増え、テキストの内容に反応してrit.も付加されて若干変化をもたらしているが、歌の旋律は基本的に変わらない。
しかし、第3節第4行の"Seligkeit"(至福)のピアノのハーモニーは前節より明るく響かせており、詩句に沿った工夫を凝らしていることが分かる。
また、曲の各節(詩の2節分)最終行は第2音節から繰り返される。
つまり、第1節の場合は"In den vollen Lebensreigen"の"In"を除いて"den"から、そして第2節は"Und er singt ein süßes Hoffen"の"Und"を除いて"er"から繰り返されるので問題ない。
しかし、第3節は"Frühlingsmächtig eingedrungen"となっており第2音節("Frühlingsmächtig"の"-lings")からはじめることは不可能であり、メンデルスゾーンは苦肉の策として"Ja mächtig eingedrungen"と、民謡などでよく使われる"ja"を加えて"Frühling"を取っ払ってしまった。
この箇所だけ音符を増やして対応することも可能だったかもしれないが、あえてそうしなかったのはメンデルスゾーンなりの有節形式へのこだわりがあったのかもしれない。
また、作曲家が有節形式で作曲する時には、第1節のリズムを基にする1つの証拠とも言えるかもしれない。
Allegro assai vivace
8分の9拍子
変ロ長調
最高音は2点変ロ音、最低音は1点ヘ音
シュライアー(T)&オルベルツ(P):BERLIN Classics:1971年9月録音:全盛期のシュライアーの美声で端正、かつほれぼれするほど魅力的に歌う。オルベルツの積極的で美しいタッチの演奏は歌に劣らず魅力的に感じた。
シュライアー(T)&エンゲル(P):BERLIN Classics:1993年10月録音:20年前の演奏より若干テンポが遅くなった以外はほぼ同じ解釈で歌っているが、それが出来るのはすごいことではないか。エンゲルも濃淡をわきまえたいい演奏だ。
アーメリング(S)&ヤンセン(P):CBS:1979年12月録音:温かいアーメリングの歌唱は慈しむように言葉を紡いでいる。ヤンセンも丁寧に演奏している。
プロチュカ(T)&ドイチュ(P):CAPRICCIO:1989年1月&11月録音:プロチュカは春の喜びを歌うのにぴったりな柔らかい美声で丁寧に表現している。ドイチュもしっかりとしたリズム感でプロチュカを導いていた。
F=ディースカウ(BR)&サヴァリシュ(P):EMI CLASSICS:1970年9月録音:低く移調している為、若干曲の生気は減っているように感じるが、ディースカウのメリハリの利いた歌は魅力的。サヴァリシュはペダルを多用して落ち着いた風情。
(ほかにボニー&パーソンズ、M.プライス&ジョンソンの録音がある筈なのですが、見つからないので、名前を挙げるにとどめておきます。)
以下の曲目リストの1トラック目をクリックすると、シュライアー&オルベルツの演奏(抜粋)が聴けます。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3501597
フランツ・リストによるピアノ・ソロ編曲版(リストの全曲録音を達成したレスリー・ハワードによる独奏)
http://www.youtube.com/watch?v=VwMl07Ize-U
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