ヴォルフ:悲しい道 (Wolf: Traurige Wege)

Traurige Wege
 悲しい道

1.
Bin mit dir im Wald gegangen;
Ach! wie war der Wald so froh!
Alles grün, die Vögel sangen,
Und das scheue Wild entfloh.
 きみと森に行った。
 ああ!森はなんと朗らかだったことか!
 すべてが緑に染まり、鳥たちは歌い、
 臆病な動物は逃げて行った。

2.
Wo die Liebe frei und offen
Rings von allen Zweigen schallt,
Ging die Liebe ohne Hoffen
Traurig durch den grünen Wald.
 自由であからさまな愛が
 あたりのあらゆる枝々から鳴り響くところで
 望みのない愛は
 悲しげに緑の森を歩いて行った。

3.
Bin mit dir am Fluß gefahren;
Ach! wie war die Nacht so mild!
Auf der Flut, der sanften, klaren,
Wiegte sich des Mondes Bild.
 きみと川を渡った。
 ああ!夜はなんと穏やかなことか!
 やさしく澄んだ水面に
 月影が揺れていた。

4.
Lustig scherzten die Gesellen;
Unsre Liebe schwieg und sann,
Wie mit jedem Schlag der Wellen
Zeit und Glück vorüberrann.
 若者たちは楽しそうに戯れあっていた。
 一方ぼくらの愛は押し黙り思いにふけっていた。
 波が打ち寄せるにつれ
 なんと時と幸福は通り過ぎて行くことか。

5.
Graue Wolken niederhingen,
Durch die Kreuze strich der West,
Als wir einst am Kirchhof gingen;
Ach! wie schliefen sie so fest!
 灰色の雲が垂れ込め
 十字架の間を西風がかすめ渡ったものだった、
 かつてぼくらが墓地に出かけたときには。
 ああ!みななんとぐっすり眠っていたことか!

6.
An den Kreuzen, an den Steinen
Fand die Liebe keinen Halt;
Sahen uns die Toten weinen,
Als wir dort vorbeigewallt?
 十字架にも墓石にも
 愛は休息を見出せなかった。
 死者たちはぼくらが泣くのを見ていただろうか、
 ぼくらがあそこを通り過ぎたときに?

詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), "Traurige Wege", appears in Gedichte, in 4. Viertes Buch, in Liebesklänge 
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Traurige Wege", 1878 [ voice and piano ] 

作曲:1878年1月22-25日, Wien
(終わりに追記:1878年2月3日)

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ヴォルフは、1877年5月にレーナウの詩による「~に寄せて(An*)」を作曲して以来半年ぶりに同じ詩人のテキストによる「願い(Wunsch)」を作曲します。
1877年11月26日~12月17日までヴィーンで作曲を進めましたが、52小節まで書いて、未完のまま放置されました。恋人と一緒に遠くの海へ旅したいというレーナウにしてはかなり前向きでロマンティックな内容なのが珍しく、それゆえにヴォルフも作曲の筆が止まってしまったのでしょうか。未完ということもあり、Stone Recordsのヴォルフ歌曲全集の録音にも「願い」は収録されていません(いつか未完成作品ばかり集めた録音がどこかのレーベルからリリースされるといいのですが)。なお、楽譜はMusikwissenschaftlilcher Verlagの全集VII/4巻に掲載されています。

曲名:願い(Wunsch)
詩:ニコラウス・レーナウ(Nikolaus Lenau)
歌いだし:Fort möcht ich reisen weit, weit in die See,(※テキスト全文はこちらのリンク先にあります)
作曲:1877年11月26日~12月17日, Wien
未完成(52小節まで:テキストは"Sie würde frohlockend dich halten im Sturm."まで)
Leidenschaftlich bewegt(情熱的に動いて)
拍子:C (4/4)
ハ長調 (C-dur)

「願い」の翌月には同じレーナウの詩による「悲しい道(Traurige Wege)」に作曲し、こちらは完成されました。
レーナウのテキストは、主人公が恋人と共に森へ行き、川を渡り、墓地を通り過ぎる際の周囲の明るさと自分たちの悲しみとの対比が描かれています。
ヴォルフは、テキストの内容を応じて歌声部やピアノパートを変化させて通作形式の趣で進めながらも、基本的には共通の素材を使ってA-Bの繰り返しで構成しています。

●使用楽譜:Lieder aus der Jugendzeit: herausgegeben von F. Foll: Ed. Bote & G. Bock, Berlin

前奏
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第1連
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第2連
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第3連
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第4連
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第5連
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第6連
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2連と4連は歌詞の後半のフレーズをピアノ間奏の右手最高音が繰り返す手法をとり、最終連(6連)では歌声部にこのフレーズがあらわれないにもかかわらず、ピアノ後奏に再びこのフレーズを取り入れて全体を有機的に構築しています。

2連後半2行と間奏
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4連後半2行と間奏(2連後半と同様)
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6連最後の3行と後奏(後奏にのみ同じフレーズがあらわれる)
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全体を通じてピアノパートは心理描写と情景描写をうまく組み合わせていて、例えば3連最終行で歌われる揺れる水面を模してピアノ間奏が引き継ぎます。
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他にも5連の暗い雲が立ち込める箇所では、歌声に同音反復が見られ、ピアノ右手はシンコペーションで胸の動悸を暗示し、ピアノ左手は2度下降進行で不気味さを醸し出すなど、テキストへのヴォルフの共感が強く感じられます。
フィッシャー=ディースカウは全集でこの作品を録音しませんでしたが、若い世代は続々と録音し、この曲の再評価を待っているかのようです。
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6/8拍子
変ホ短調(es-moll)
Sehr getragen (非常に荘重に;十分に音を保って)

●[Hugo Wolf:] Traurige wege
ニコ・ファン・デル・メール(T), ディド・クーニン(P)
Nico van der Meel(T), Dido Keuning(P)

Channel名:Dido Keuning - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
録音:January 1996, Utrecht

●Wolf: Traurige Wege
シュテファン・ゲンツ(BR), ロジャー・ヴィニョールズ(P)
Stephan Genz(BR), Roger Vignoles(P)

Channel名:ロジェ・ヴィニョールズ - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
録音:18-22 February 2002, Tonstudio Teije van Geest, Sandhausen, Germany

●[Wolf: Traurige Wege] ("Traurige Wege"は32:21まで進めてからご覧ください)
WolfZWölf Vol 7 「ハイネ・レーナウ作品集」
天羽明恵(S), 松川儒(P)
Akie Amou(S), Manabu Matsukawa(P)

Channel名:tan t.(オリジナルのリンク先はこちら)
2005年10月7日 ヴォルフ歌曲全曲演奏会「シリーズⅦ」

●[Hugo Wolf:] Traurige Wege
ベルンハルト・ベルヒトルト(T), アンヌ・ル・ボゼック(P)
Bernhard Berchtold(T), Anne Le Bozec(P)

Channel名:ベルンハルト・ベルヒトルト - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

●[Hugo Wolf:] Traurige Wege (Bin mit dir im Wald gegangen)
アンナ・ハントリー(MS), ショルト・カイノホ(P)
Anna Huntley(MS), Sholto Kynoch(P)

Channel名:アンナ・ハントリー - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:13 & 15 October 2012, Holywell Music Room, Oxford, U.K.

●[Hugo Wolf:] Traurige Wege (Bin mit dir im Wald gegangen)
エネアス・フム(BR), ユディット・ポルガル(P)
Äneas Humm(BR), Judit Polgár(P)

Channel名:Äneas Humm - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

●【参考】同じテキストによるファニー・ヘンゼル=メンデルスゾーン作曲「悲しい道」
[Fanny Hensel-Mendelssohn:] Traurige Wege
マールテン・コニンスベルハー(BR), ケルヴィン・グラウト(P)
Maarten Koningsberger(BR), Kelvin Grout(P)

Channel名:Maarten Koningsberger - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

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(参考)

The LiederNet Archive

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder I (1877/78)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag

IMSLP

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ヴォルフ:~に寄せて(An ***)

An ***
 ***に寄せて

O wag' es nicht, mit mir zu scherzen,
Zum Scherze schloß ich keinen Bund;
O spiele nicht mit meinem Herzen;
Weißt du noch nicht, wie sehr es wund?
 おお、私をからかわないでくれ、
 ひやかしで契りを結んだのではない。
 おお、私の心をもてあそばないでおくれ、
 どれほど傷ついたことか君にはまだ分からないのか?

Weil ich so tief für dich entbrannte,
Weil ich mich dir gezeigt so weich,
Dein Herz die süße Heimat nannte,
Und deinen Blick mein Himmelreich:
 私はこれほど深く君に燃え上がったので、
 君にこれほど自分の弱さを見せたので、
 君の心を「かわいい故郷」と呼び、
 君のまなざしを「私の天国」と呼んだのだ。

O rüttle nicht den Stolz vom Schlummer,
Der süßer Heimat sich entreißt,
Dem Himmel, mit verschwiegnem Kummer,
Auf immerdar den Rücken weist.
 おお、眠っている誇りを揺り起こさないでくれ、
 それは「かわいい故郷」から身を振りほどき
 苦しみを秘めたまま
 永遠に「天国」に背を向けているのだ。

詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), "An *", appears in Gedichte, in 4. Viertes Buch, in Liebesklänge
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "An ...", 1877 [ voice and piano ]

作曲:1877年4月27日-5月8日, Windischgraz

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マティソンの詩による歌曲「追憶(Andenken)」の作曲から2週間ほど後、ヴォルフは再びレーナウの詩に戻り、「***に寄せて(An ***)」という歌曲を作曲します。

タイトルに伏字(*)が使われていることが気になりますが、レーナウが誰を想定していたのか何か分かったら追記したいと思います(AIに聞くとレーナウの当時の恋人の名前を答えてくれるのですが、エビデンスが見つからないのでここに書くのは今は控えますね)。

このテキストの男女、愛情の温度差が相当大きいように思えます。男女を特定する言葉は詩の中にありませんが、おそらく男性がこのテキストの主人公でしょう。
主人公は女性が彼の心を「もてあそぶ(spiele)」といって非難します。
どのようにもてあそんだのか具体的な記述はありませんが、「どれほど傷ついたことか(wie sehr es wund)」と言っていることから、主人公のプライドはずたずたにされたのでしょう。

第2連で主人公の彼女に対する愛情の深さを示すエピソードが歌われます。君にこれほど燃え上がり、自分の弱いところもさらけだしたからこそ、君の心を「かわいい故郷(die süße Heimat)」と呼んだし、君のまなざしを「私の天国(mein Himmelreich)」と呼んだんだ。それなのに...という恨み節なのでしょう。愛する二人だけの世界に入り込んでしまっていますね。

第3連で再び現実に戻って、心の奥底に眠らせておいた「誇り=プライド」を起こさないでほしいと彼女に頼みます。
プライドが目を覚ますと、「かわいい故郷=君の心」から「身を振りほどき」、「天国=君のまなざし」から「永遠に背を向ける」ことになるからです。

第1連と第3連が恋人のした仕打ちに対する主人公からの非難、まんなかの第2連は愛したからこそプライドを捨てて君のことを「故郷」だの「天国」だのとのろけたのだよと訴えます。

ヴォルフがA-B-A'の三部形式で作曲したのは、テキストの内容に寄り添っていることが分かります。第1連と第3連での各フレーズの歌い始めが休符で始まるのは主人公のためらいを表しているかのようです。
一方第2連は強起(拍のはじめ)から歌い始めていて、こんなに愛していたんだという思いを強くぶつけて、それが情熱的な第2連後のピアノ間奏にも受け継がれます。ただ、この第2連もピアノはシンコペーションを貫き、心臓がバクバク打っているような印象を受けます。
ヴォルフがこのレーナウのテキストに深く感情移入して作曲したことがうかがえると思います。
フィッシャー=ディースカウは2度にわたるヴォルフ全集だけでなく、演奏活動晩年にヴォルフの初期作品をまとめて録音した時にもこの曲を一度も歌いませんでした。曲としてはよく出来ていると思うのですが、センチメンタルに過ぎると思ったのでしょうか。

Lieder aus der Jugendzeit: Herausgegeben von F. Foll: Berlin: Bote & Bock, 1900

第1連(A)
An-1 

第2連(B)
An-2 

第2連の後の情熱的なピアノ間奏
An-2_20260125155801 

第3連(A')
An-3 

2/4拍子
ニ短調(d-moll)
Langsam und ausdrucksvoll (ゆっくりと表情豊かに)

●[Hugo Wolf:] An* * *
ニコ・ファン・デル・メール(T), ディド・クーニン(P)
Nico van der Meel(T), Dido Keuning(P)

Channel名:ダーモン…ニコ・ヴァン・デア・メール(テノール) - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
録音:January 1996, Utrecht

●Wolf: Lieder aus der Jugendzeit: No. 1, An ***
シュテファン・ゲンツ(BR), ロジャー・ヴィニョールズ(P)
Stephan Genz(BR), Roger Vignoles(P)

Channel名:ロジェ・ヴィニョールズ - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
録音:18-22 February 2002, Tonstudio Teije van Geest, Sandhausen, Germany

●[Hugo Wolf:] An* (O wag es nicht)
ベンジャミン・ヒューレット(T), ショルト・カイノホ(P)
Benjamin Hulett(T), Sholto Kynoch(P)

Channel名:ベンジャミン・ヒューレット - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:13 & 15 October 2012, Holywell Music Room, Oxford, U.K.

●[Hugo Wolf:] An (O wag' es nicht)
エネアス・フム(BR), ユディト・ポルガル(P)
Äneas Humm(BR), Judit Polgar(P)

Channel名:Äneas Humm - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

●【参考:アルベルト・ネポムセーノ(Alberto Nepomuceno: 1864-1920)作曲】O wag' es nicht
Erika Machado(MS), Regina Barros(P)

Channel名:Alberto Nepomuceno além da língua portuguesa(オリジナルのリンク先はこちら)

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(参考)

The LiederNet Archive

Gedichte / von Nicolaus Lenau / Stuttgart / Verlag der J. G. Cotta'schen Buchhandlung / 1879
("An *"はP.189)

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder I (1877/78)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag

IMSLP

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ヴォルフ:夕暮れの情景-N.レーナウによる3つの頌詩(Wolf: Abendbilder - 3 Oden von N. Lenau)

Abendbilder - 3 Oden von N. Lenau
 夕暮れの情景-N.レーナウによる3つの頌詩

1. Friedlicher Abend senkt sich aufs Gefilde
 平穏な夕暮れが広野に垂れ込め

Friedlicher Abend senkt sich aufs Gefilde;
Sanft entschlummert Natur, um ihre Züge
Schwebt der Dämmrung zarte Verhüllung, und sie
      Lächelt, die holde;
 平穏な夕暮れが広野に垂れ込め
 穏やかに自然は眠り込む。自然の連なりのまわりで
 たそがれの柔らかいベールが漂い流れ
 愛らしい女(ひと)は微笑みかける。

Lächelt, ein schlummernd Kind in Vaters Armen,
Der voll Liebe zu ihr sich neigt; sein göttlich
Auge weilt auf ihr, und es weht sein Odem
      Über ihr Antlitz.
 父親の腕の中でまどろむ子供のように微笑みかけ、
 父は、彼女への愛にあふれて身をかがめ、その神々しい
 瞳は彼女を見つめたまま、
 その顔に息を吹きかける。

詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), no title, appears in Gedichte, in 1. Erstes Buch, in Oden, in Abendbilder, no. 1
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Friedlicher Abend", from Abendbilder, no. 1

2. Schon zerfließt das ferne Gebirg
 雲のかかった遠くの山脈はもう

Schon zerfließt das ferne Gebirg mit Wolken
In ein Meer; den Wogen entsteigt der Mond, er
Grüßt die Flur, entgegen ihm grüßt das schönste
      Lied Philomelens
 雲のかかった遠くの山脈はもう
 海へと溶けていく。波間から月がのぼり、月は
 野原に挨拶する。その月に向かって、美しい
 さよなきどりの歌が挨拶を送る、

Aus dem Blütenstrauche, der um das Plätzchen
Zarter Liebe heimlichend sich verschlinget:
Mirzi horcht am Busen des Jünglings ihrem
      Zaubergeflöte.
 優しい愛を営む場所のまわりで
 ひそかに絡み合う花咲く茂みから。
 ミルツィは、若者の胸に抱かれながらさよなきどりの
 魔法の笛に聞き耳を立てる。

Dort am Hügel weiden die Schafe beider
Traulichen Gemenges in einer Herde,
Ihre Glöcklein stimmen so lieblich ein zu
      Frohen Akkorden.
 あちらの丘では
 ねんごろに一体となった二人が連れてきた羊たちが、一つの群れをなして草を食む。
 羊たちの首のベルは
 朗らかな和音となり、心地よく調和する。

詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), "Abendbild", appears in Gedichte, in 6. Sechstes Buch, in Erste Gedichte
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Schon zerfließt das ferne Gebirg", from Abendbilder, no. 2

3. Stille wird's im Walde
 森の中は静まりかえる

Stille wird's im Walde; die lieben kleinen
Sänger prüfen schaukelnd den Ast, der durch die
Nacht dem neuen Fluge sie trägt, den neuen
      Liedern entgegen.
 森の中は静まりかえる。かわいい小さな
 歌い手たちが枝を揺すって吟味している、
 この枝が夜の間、新たに飛び立ったり
 歌ったりするのに耐えられるかどうかを。

Bald versinkt die Sonne; des Waldes Riesen
Heben höher sich in die Lüfte, um noch
Mit des Abends flüchtigen Rosen sich ihr
      Haupt zu bekränzen.
 まもなく日が沈む。森の巨人たちは
 空へさらに高く聳え立つ、
 わずかな間の夕焼けの薔薇色で、
 まだ頭に冠を飾ろうとして。

Schon verstummt die Matte; den satten Rindern
Selten nur enthallt das Geglock am Halse,
Und es pflückt der wählende Zahn nur lässig
      Dunklere Gräser.
 すでに草地は沈黙し、満腹な牛たちは
 めったに首のベルを鳴らさない。
 そしてえり好みする歯は無造作に
 暗くなった草を摘む。

Und dort blickt der schuldlose Hirt der Sonne
Sinnend nach; dem Sinnenden jetzt entfallen
Flöt und Stab, es falten die Hände sich zum
      Stillen Gebete.
 そして無垢な羊飼いは
 物思いに耽りながら、太陽が沈むのを目で追う。物思う者の手から今
 笛と杖がすべり落ち、両手を組み合わせる、
 静かに祈りを捧げるために。

詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), no title, appears in Gedichte, in 1. Erstes Buch, in Oden, in Abendbilder, no. 2
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Stille wird's im Walde", from Abendbilder, no. 3

作曲:1877年1月4日(木)夜10時着手、
   1877年2月24日午前10時完了

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ベートーヴェンはかつて歌曲集『遥かな恋人に寄せて(An die ferne Geliebte, Op. 98)』を作曲した際、ヤイテレスの6編の詩を1編ずつ独立した曲にせず、それぞれの曲をピアノ間奏でつないで途切れることのない1つの作品としました。その後、シューベルト『美しい水車屋の娘』『冬の旅』、シューマン『リーダークライス』『詩人の恋』などの多くの歌曲集が誕生しましたが、それらは『遥かな恋人に寄せて』とは異なり、1曲ずつが独立した作品としての歌曲集でした。
フーゴー・ヴォルフも、後に『アイヒェンドルフ詩集』『メーリケ詩集』『ゲーテ詩集』『ケラー詩集』『ミケランジェロ詩集』などの詩人ごとにまとめた歌曲集(連作歌曲集ではありませんが)を作曲し、出版しましたが、どれも1曲ずつ独立した曲の集合体でした。
しかし、ヴォルフが17歳の時(1877年)に作曲した『夕暮れの情景(Abendbilder)』は、ニコラウス・レーナウが「夕暮れの情景」のタイトルのもとに3つ(I, II, III)に分けた詩をピアノ間奏でつないで1つの作品にしたもので、ベートーヴェンの『遥かな恋人に寄せて』と同じ手法をとった珍しい試みといえると思います。『N.レーナウによる3つの頌詩(3 Oden von N. Lenau)』という副題も付けられていて、いわば3曲からなる歌曲集ととらえることも可能だと思います。

ピアノ前奏の「ソーミーファーラソードー」が曲全体を統一するモティーフとしてあちこちに現れ、最終的にピアノ後奏でも繰り返されます。3つの詩がこのモティーフによって1つの作品として結びつきます。ただ、歌声部にはこのモティーフはそのままの形では使われず、もっぱらピアノパートにのみ現れます。

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歌声部は概してピアノパートの対旋律のようなフレーズで、美しい旋律というよりは語りの要素が強まっているように感じられます。

歌、ピアノ共にテキストの展開に沿って通作的に進んでいきます。
第2曲の最後に羊たちが草を食みながらカウベルの音が朗らかに調和すると歌った後、第3曲との間のつなぎのピアノ間奏は細かい音価でかなりドラマティックに進行します。カウベルの響きというよりは第3曲の静かな情景との対比を際立たせる為にあえて派手な間奏にしたのではないかと想像します。

私はこの小さな歌曲集で描かれている夕暮れ時の敬虔な祈りの光景を聞くと、ミレーの「晩鐘」を思い出します(レーナウやヴォルフが意識していたかどうかは別として)。最終節の羊飼いは、日が沈もうとする時間帯に、一日の活動を無事終えることの出来た感謝の気持ちを祈っているのでしょうか。

【第1曲冒頭】
Abendbilder-1 

【第2曲冒頭】
Abendbilder-2 

【第3曲冒頭】
Abendbilder-3 

【第1曲:Friedlicher Abend senkt sich aufs Gefilde】
3/4拍子
変ニ長調(Des-dur)
Sehr langsam (非常にゆっくりと)

【第2曲:Schon zerfließt das ferne Gebirg】
3/4拍子
イ短調(a-moll)
langsam, mit freiem Vortrag (ゆっくりと、自由に演奏して)

【第3曲:Stille wird's im Walde】
3/4拍子 - C (4/4拍子) - 2/4拍子 - 3/4拍子
変ホ長調(Es-dur)→変ニ長調(Des-dur)
Langsam (ゆっくりと)

●Wolf: Abendbilder
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ダニエル・バレンボイム(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Daniel Barenboim(P)

Channel名:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
0:00- 第1曲
2:32- 第2曲
5:11- 第3曲

●Wolf: Abendbilder
シュテファン・ゲンツ(BR), ロジャー・ヴィニョールズ(P)
Stephan Genz(BR), Roger Vignoles(P)

Channel名:ロジェ・ヴィニョールズ - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

●[Hugo Wolf:] Abendbilder (Friedlicher abend)
マーカス・ファーンズワース(BR), ショルト・カイノホ(P)
Marcus Farnsworth(BR), Sholto Kynoch(P)

Channel名:マルクス・ファーンズワース - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:13 & 15 October 2012, Holywell Music Room, Oxford, U.K.

●Hugo Wolf: Abendbilder. Drei Oden - Matthias Winckhler (Bariton) & Ammiel Bushakevitz (Klavier)
マティアス・ヴィンクラー(BR), アミエル・ブッシャケヴィツ(P)
Matthias Winckhler(BR), Ammiel Bushakevitz(P)

Channel名:Internationale Hugo-Wolf-Akademie(オリジナルのリンク先はこちら)

●ピアノパートのみの演奏
Hugo Wolf: Abendbilder, Piano Accompaniment

Channel名:Mario L. S. Barbosa(オリジナルのリンク先はこちら)

●【参考:夕暮れの情景1のテキストによる】ファニー・ヘンゼル=メンデルスゾーン作曲:夕暮れの情景 Op. 10, No. 3
[Fanny Hensel-Mendelssohn:] 5 Lieder, Op. 10: No. 3. Abendbild
ドロテア・クラクストン(S), バベッテ・ドルン(P)
Dorothea Craxton(S), Babette Dorn(P)

Channel名:Dorothea Craxton - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

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(参考)

The LiederNet Archive

Gedichte / von / Nicolaus Lenau. / Stuttgart und Tübingen, / Verlag der J. G. Cotta'schen Buchhandlung. / 1832.
Abendbilder: 1
Abendbilder: 2
Abendbilder: 3

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder II (1876-1890)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag

IMSLP

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ヴォルフ:別れのまなざし(Wolf: Scheideblick)

Scheideblick
 別れのまなざし

Als ein unergründlich Wonnemeer
Strahlte mir dein tiefer Seelenblick;
Scheiden mußt' ich ohne Wiederkehr,
Und ich habe scheidend all' mein Glück
Still versenkt in dieses tiefe Meer.
 底知れぬ歓喜の海のように
 君の深い魂のまなざしが僕に向けて輝いていた。
 僕は別れなければならず、もう戻ってくることはない。
 そして僕は別れる際、僕の幸せすべてを
 ひそかにこの深い海に沈めた。

詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), "Scheideblick", appears in Gedichte, in 1. Erstes Buch, in Vermischte Gedichte
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Scheideblick", 1876

作曲:1876年後半 (2. Jahreshälfte 1876)
※この曲が出版されたヴォルフ全集第7/3巻(1976年)では編集者のHans Jancikは「1876年末頃(um das Jahresende 1876)」の作曲と記載している。その後、第7/4巻(1998年)の中で、編集者のLeopold Spitzerは、未完の「密猟者(Der Raubschütz, Op. 5)」(レーナウ詩)の第2稿(1876年6月24日作曲)同様、歌声部がヘ音譜表で書かれ、声部進行の誤り(Stimmführungsfehler)が時折みられることから、「密猟者」第2稿が作曲された後「ある墓(Ein Grab)」(1876年12月8-10日作曲)が作曲される前に作曲されたものと記している。

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前回取りあげた「静かな安心」同様、レーナウによる「別れのまなざし(Scheideblick)」も1876年後半に作曲されたものと推定されています(自筆譜は「静かな安心」の楽譜の裏側に書かれています)。こちらも歌声部がヘ音譜表で書かれていて、低声歌手が歌うことを想定しているものと思われます。

ちなみにヴォルフはこの曲にもタイトルを付けておらず、ヴォルフ全集第7/3巻に記載されているタイトル「別れのまなざし(Scheideblick)」は、詩人レーナウのオリジナルのタイトルによるものです。

詩は、恋人と別れる際に、これまでの幸せを海のような恋人のまなざしの奥深くに沈めたと歌われます。どことなくハイネの詩を思い起こさせます。

繊細な和音のピアノにのせて、歌は最初の2行で「君」の魂のまなざしの深さを順次進行で述べ、3行目以降の「僕」の別れの辛さを跳躍進行で表現しています。コラールのような信仰告白の響きのうえで苦悩が切々と歌われ、聴きごたえのある作品になっていると思います。

3/4拍子
ト短調(g-moll)
Sehr langsam (非常にゆっくりと)

●[Hugo Wolf:] Scheideblick (Als ein unergrundlich Wonnemeer)
マーカス・ファーンズワース(BR), ショルト・カイノホ(P)
Marcus Farnsworth(BR), Sholto Kynoch(P)

Channel名:マルクス・ファーンズワース - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:13 & 15 October 2012, Holywell Music Room, Oxford, U.K.

●【参考】ヨゼフィーネ・ラング(1815-1880):別れのまなざし Op. 10, No. 5
[Josephine Lang:] Scheideblick, Op. 10 No. 5
カトリオナ・モリソン(MS), マルコム・マーティノー(P)
Catriona Morison(MS), Malcolm Martineau(P)

Channel名:Release - Topic(オリジナルのリンク先はこちら)

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(参考)

The LiederNet Archive

Gedichte von Nicolaus Lenau: Erster Band: Stuttgart und Augsburg: J. G. Cotta'scher Verlag: 1857 ("Scheideblick"はP. 378)

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag

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ヴォルフ:静かな安心(Wolf: Stille Sicherheit)

Stille Sicherheit
 静かな安心

Horch, wie still es wird im [dunklen]1 Hain,
Mädchen, wir sind sicher und allein.
 耳をすましてごらん、暗い林の中のなんと静かなこと、
 娘よ、僕らは心安らかで他に誰もいない。

Still [umsäuselt hier den Wiesenhang]2
Schon der Abendglocke müder Klang.
 静かにここの草原の斜面のまわりで
 もう夕暮れの鐘のかすかな音が響いている。

Auf den Blumen, die sich dir verneigt,
Schlief das letzte Lüftchen ein und schweigt.
 君におじぎをした花々の上で
 最後に吹いたそよ風が眠りにつき、沈黙する。

Sagen darf ich dir, wir sind allein,
Daß mein Herz ist ewig, ewig dein.
 君に言わせてほしい、僕らは二人きりだ、
 僕の心は永遠に永遠に君のものだ。

1 Lenau: "dunkeln"
2 Lenau: "versäuselt hier am Wiesenhang"

詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), "Stille Sicherheit", appears in Gedichte, in 1. Erstes Buch, in Vermischte Gedichte
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Stille Sicherheit", 1876

作曲:1876年後半 (2. Jahreshälfte 1876)
※この曲が出版されたヴォルフ全集第7/3巻(1976年)では編集者のHans Jancikは「1876年末頃(um das Jahresende 1876)」の作曲と記載している。その後、第7/4巻(1998年)の中で、編集者のLeopold Spitzerは、未完の「密猟者(Der Raubschütz, Op. 5)」(レーナウ詩)の第2稿(1876年6月24日作曲)同様、歌声部がヘ音譜表で書かれ、"Baryton"と記載されていて、声部進行の誤り(Stimmführungsfehler)が時折みられることから、「密猟者」第2稿が作曲された後、パウル・ギュンターの詩による「ある墓(Ein Grab)」(1876年12月8-10日作曲)が作曲される前に作曲したのだろうと記している。

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レーナウの詩による「静かな安心」は、同じくレーナウによる「別れのまなざし(Scheideblick)」(次回投稿予定)とともに1876年後半に作曲されたものと推定されています。両曲ともに歌声部がヘ音譜表で書かれ、「静かな安心」については「バリトン(Baryton)」と声種の指示まで書かれています(第7/3巻の校訂報告(Revisionbericht)参照)。

ちなみにヴォルフはこの曲にタイトルを付けておらず、ヴォルフ全集第7/3巻に記載されているタイトル「静かな安心(Stille Sicherheit)」は、詩人レーナウのオリジナルのタイトルによるものです。

恋人が二人きりでないことを心配している心理状態を反映したかのように曲は短調ではじまりますが、最後の2行で主人公がとうとう二人きりになったと宣言するところで、長調の穏やかな響きに変わり、ピアノ後奏が余韻を美しく奏でて終わります。

第1行の"im dunk-len"の3つの音が半音下降(e-es-d)しているのは偶然かもしれませんが、後のヴォルフの小さな萌芽かもしれないとつい思いたくもなります。しかし全体的には半音進行はほぼ見られず、素直な小品です。ただ、以前にはよく見られた過剰な装飾・メリスマは見られなくなり、簡潔なやりかたでテキストの音楽化を実現できているのは、ヴォルフの進歩に思えます。作品自体もなかなか魅力的だと思います。

2/4拍子
ニ短調(d-moll)
Langsam (ゆっくりと)

●[Hugo Wolf:] Stille sicherheit (Horch, wie still es wird)
マーカス・ファーンズワース(BR), ショルト・カイノホ(P)
Marcus Farnsworth(BR), Sholto Kynoch(P)

Channel名:マルクス・ファーンズワース - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:13 & 15 October 2012, Holywell Music Room, Oxford, U.K.

●【参考】ローベルト・フランツ(1815-1892):静かな安心 Op. 10, No. 2
[Robert Franz:] 6 Gesange, Op. 10: No. 2. Stille Sicherheit
白井光子(MS), ハルトムート・ヘル(P)
Mitsuko Shirai(MS), Hartmut Höll(P)

Channel名:白井光子 - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

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(参考)

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Gedichte von Nicolaus Lenau: Erster Band: Stuttgart und Augsburg: J. G. Cotta'scher Verlag: 1857 ("Stille Sicherheit"はP. 375)

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
stretta music
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ヴォルフ:愛の春(Wolf: Liebesfrühling, Op. 9, No. 2)

Liebesfrühling, Op. 9, No. 2
 愛の春

Ich sah den Lenz einmal
Erwacht im schönsten Tal;
Ich sah der Liebe Licht
Im schönsten Angesicht.
 私はかつて
 きわめて美しい谷間で春が目覚めたのを見た。
 私は愛の光を
 きわめて美しい顔の中に見た。

Und wandl' ich nun allein
Im Frühling durch den Hain,
Erscheint aus jedem Strauch
Ihr Angesicht mir auch.
 そして私が今ひとりきりで
 春の林をぶらついていると
 各々の茂みから
 彼女の顔があらわれるのだ。

Und seh ich sie am Ort
Wo längst der Frühling fort,
So sprießt ein Lenz und schallt
Um ihre süße Gestalt.
 そして彼女を
 春がとうに過ぎ去った場所で見ると
 春が芽生え、響きわたるのだ、
 彼女の愛らしい姿のまわりで。

詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), "Liebesfrühling", appears in Gedichte, in 4. Viertes Buch, in Liebesklänge 
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Liebesfrühling", op. 9 no. 2 (1876)

作曲:1876年1月29日(木)に着手・完成

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ヴォルフが付与した作品番号9の第2曲も、第1曲同様ニコラウス・レーナウの詩によるもので、タイトルは「愛の春」です。

ドイツ語で「春」はFrühlingですが、雅語としてLenzも使われます。このレーナウの詩ではFrühlingとLenzが両方使われていて、意図的に使い分けているのかと思ったのですが、全ての行が弱強のリズムで統一している為、2音節の時にFrüh-ling(強-弱)、1音節の時にLenzを使っているようです。

第1連では主人公の過去の体験が語られ、ある谷間で春が目覚めた(レーナウの原詩では「花開いた」)のを見て、美しい顔の中に愛の光を見たと言います。
第2連以降は現在形で、春の林を散策しているとあらゆる茂みから彼女の顔(ihr Angesicht)があらわわれます。この「彼女」というのが、主人公の恋人なのか、もっと一般的な対象なのかはっきりしませんが、おそらく主人公が愛する対象なのでしょう(春をあらわすFrühling、Lenzはどちらも男性名詞なので、春の擬人化ではなさそうです)。
春がとっくに過ぎ去った場所で「彼女」を見ると、彼女の姿のまわりで「春が芽生え、響き渡る」のです。この「春の芽生え」は「愛の芽生え」なのかもしれません。季節の春は過ぎたものの、人生の春である「愛」が芽生えたということでしょうか。主人公にとっては明るい未来が予感されそうですね。

ヴォルフはこの詩にト長調の軽快な響きで作曲しており、「Allegro scherzando(速く、戯れるように)」という指示を与えています。
ピアノの右手と左手が下行音型をずらして演奏し、主人公と愛する姿がじゃれあっているさまを暗示しているかのようです。
第2連で「そして私が今ひとりきりで/春の林をぶらついていると」の箇所で"langsam(ゆっくりと)"に変わりますが、その後すぐに彼女があらわれる箇所で「lebhaft(生き生きと)」となり、陽気な音楽が戻ってきます。第3連も「そして彼女を/春がとうに過ぎ去った場所で見ると」で「langsamer(よりゆっくりと)」という指示に変わり、続く「春が芽生え、鳴り響くのだ」で「sehr lebhaft(非常に生き生きと)」になります。テキストに細かく対応するところは、後年のヴォルフの兆しが感じられるように思います。これまでの作品同様、この曲でもメリスマのパッセージはいくつかあります。当時のヴォルフはオペラ的な技巧を歌曲に盛り込もうとしていたのかもしれません。あっというまに終わる短い作品ですが、なかなか魅力的だと感じました。

2/4拍子
ト長調(G-dur)
Allegro scherzando

●[Hugo Wolf:] Liebesfrühling (Ich sah den lenz einmal) , Op. 9, No. 2
ベンジャミン・ヒューレット(T), ショルト・カイノホ(P)
Benjamin Hulett(T), Sholto Kynoch(P)

Channel名:ベンジャミン・ヒューレット - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:13 & 15 October 2012, Holywell Music Room, Oxford, U.K.

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(参考)

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Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
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ヴォルフ:春の挨拶(Wolf: Frühlingsgrüße)

Frühlingsgrüße
 春の挨拶

Nach langem Frost, wie weht die Luft so lind!
Da bringt Frühveilchen mir ein bettelnd Kind.
 長かった極寒が過ぎて、風は何と穏やかに吹くことか!
 すると早咲きのすみれを物乞いの子が私に持ってくる。

Es ist betrübt, daß so den ersten Gruß
Des Frühlings mir das Elend bringen muß.
 春の最初の挨拶を
 惨めな状態で私にしなければならないのは悲しいことだ。

Und doch der schönen Tage Liebespfand
Ist mir noch werter aus des Unglücks Hand.
 だが素晴らしい日々の愛のあかしは
 不幸な手から与えてもらう方が私には価値がある。

So bringt dem Nachgeschlechte unser Leid,
Die Frühlingsstimmen einer bessern Zeit.
 だから私たちの苦悩は後世に
 より良き時代の春の声をもたらすのだ。

詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), "Frühlingsgrüße", appears in Gedichte, in 4. Viertes Buch, in Vermischte Gedichte
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Frühlingsgrüße", 1876

作曲:1876年(※ヴォルフは誤って1875年と記載している)1月3日夕方6時着手

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1875年8月以前に書かれたOp. 3の5つの歌曲は、ヴォルフ15歳の若書きではありましたが、うち4曲をゲーテの詩でまとめているのは後年に作曲した詩人ごとのアンソロジーの小さな萌芽と見ることもあるいは可能かもしれません。
その後、ヴォルフはレーナウの詩による歌曲をいくつか作曲しますが、「春の挨拶」はその最初の試みの一つとなります。

ヴォルフは1876年1月(ヴォルフは1875年と書いていますが、誤りとみなされています)にレーナウの詩による「春の挨拶(Frühlingsgrüße)」の2つの稿を作曲しました。第1稿は未完成で36小節まで書かれたト長調(G-dur)の断片で、第2稿は40小節からなる完成作品で、ホ長調(E-dur)です(1998年出版のMusikwissenschaftlicher Verlag社のヴォルフ全集第7/4巻(Nachgelassene Lieder IV)に掲載されています)。ちなみにこの2つの稿のうち、第2稿には27小節(Prestoの箇所)から6小節にわたるヴァリアンテが作曲されています。1976年出版のヴォルフ全集第7/3巻に掲載されている楽譜は編纂者のハンス・ヤンツィク(Prof. Dr. Hans Jancik)が第2稿をもとに演奏可能な形にアレンジしたもののようで、この6小節のヴァリアンテが採用されています(第2稿は完成されているとはいえ、歌いにくい箇所がある為、1オクターブ下げたり、テキストの割り振りを多少変更しています)。いつかヴォルフのオリジナルの第2稿を演奏してくれる方がいたら嬉しいですが、大変そうです。

この曲へのヴォルフ自身による作品番号は、最初にOp. 6, No. 2が付与され、続いてOp. 9, No. 1に変更されましたが、最終的には作品番号なしとなったそうです。この作品番号は出版とは無関係で、単なるヴォルフ自身による整理番号ということになります(ヴォルフは最初期のみ自作に作品番号を付与していました)。

レーナウの詩は、春の到来を最初に伝えてくれたのが物乞いの子供だったが、苦しい境遇から得られた春の到来の方が価値があるのだと歌われます。

ヴォルフの作品は同じフレーズを繰り返す際のピアノパートの変奏の仕方や、テキストに応じた明暗の使い分けなど注目に値する箇所はあります。
一方で、歌声部は装飾的なパッセージが目立ちます(例えば、第2連の「Elend bringen muß」や最終連の「Frühlingsstimmen einer bessern」)。
また、高音への大きな跳躍もあります(最終連の「einer bessern Zeit」の「ei-ner」の10度)。このあたりはイタリアオペラの要素を取り入れたかのようです。後年の洗練された技法には聞かれない試行錯誤の様子を感じることが出来て、微笑ましい作品だと思います。

ちなみにシューマンも断片ながら同じテキストによる美しい歌曲を作っていますので、聞き比べてみるのも興味深いと思います。

【第1稿】未完成
C (4/4拍子)
ト長調(G-dur)
(冒頭の標示記号なし)

【第2稿】完成
C (4/4拍子)
ホ長調(E-dur)
(冒頭の標示記号なし。最後の方でPrestoになり、再びTempo Iで元に戻る)

●[Hugo Wolf:] Frühlingsgrusse (Nach langem frost) , Op. 6
ベンジャミン・ヒューレット(T), ショルト・カイノホ(P)
Benjamin Hulett(T), Sholto Kynoch(P)

Channel名:ベンジャミン・ヒューレット - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:13 & 15 October 2012, Holywell Music Room, Oxford, U.K.
ここでは、ヴォルフ全集第7/3巻のHans Jancik編曲版で演奏されています。

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●【参考】シューマン:春の挨拶(断片)
Schumann: Frühlingsgrüsse (Fragment)
リュディア・トイシャー(S), グレアム・ジョンソン(P)
Lydia Teuscher(S), Graham Johnson(P)

Channel名:Lydia Teuscher - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

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(参考)

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Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
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ヴォルフ:海の静寂(Wolf: Meeresstille, Op. 9, No. 1)

Meeresstille, Op. 9, No. 1
 海の静寂

Sturm mit seinen Donnerschlägen
Kann mir nicht wie du
So das tiefste Herz bewegen,
Tiefe Meeresruh!
 雷鳴轟く嵐も
 お前以上に
 私の心を動かせはしない、
 海の深き安らぎよ!

Du allein nur konntest lehren
Uns den schönen Wahn
Seliger Musik der Sphären,
Stiller Ozean!
 お前だけが
 私たちに
 天球の至福の音楽という美しい空想を教えることができるのだろう、
 静かな大洋よ!

Nächtlich Meer, nun ist dein Schweigen
So tief ungestört,
Daß die Seele wohl ihr eigen
Träumen klingen hört;
 夜の海よ、今やお前の沈黙は
 妨げられることなく深いので
 魂が自身の
 夢の響きを聞けるほどだ。

Daß im Schutz geschloss'nen Mundes,
Doch mein Herz erschrickt,
Das Geheimnis heil'gen Bundes
Fester an sich drückt.
 口を閉じたことに助けられて、
 私の心は驚愕しているのだが、
 神聖な結束の秘密を
 より固く抱きしめる。

詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), "Meeresstille", appears in Gedichte, in 4. Viertes Buch, in Reiseblätter (Viertes Buch)
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Meeresstille", op. 9 no. 1 (1876)

作曲:1875年8月以前, MarburgあるいはWindischgrazにて
(※1976年に出版されたヴォルフ全集第7/3巻(Hans Jancik編)では「1876年1月初旬あるいは中旬, Wienにて」と記載されていましたが、1998年に出版されたヴォルフ全集第7/4巻(Leopold Spitzer編)において、アレクサンダー・ペッヒ(Alexander Pöch)宛てのヴォルフの手紙でこの曲が言及されていることから、すでに8月半ばまでには作曲されていて、後にOp. 9に組み込む際にもしかしたら改訂したかもしれないと書かれています)

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Op. 3の5曲と同じ1875年8月以前に、ヴォルフはニコラウス・レーナウの詩による「海の静寂(Meeresstille, Op. 9, No. 1)」を作曲しました。
ヴォルフによってOp. 9と付けられた作品は「海の静寂(レーナウの詩)」「愛の春(Liebesfrühling)(レーナウの詩)」「はじめての喪失(Erster Verlust)(ゲーテの詩)」「夕暮れの鐘(Abendglöcklein)(ヴィンツェンツ・ツスナーの詩)」「五月(Mai)(ゲーテの詩)」「黄金色の朝(Der goldene Morgen)(ルートヴィヒ・アウアーバハの詩)」です。

歌声部はヘ音譜表で書かれ、海を歌うのにヴォルフは低声歌手がふさわしいと考えたのでしょう。ただ後半に高いト音(G)が出てくるのは低音歌手には若干酷かもしれません。

10小節からなる前奏に導かれて歌がはじまりますが、ピアノの右手パートはしばらく前奏と同じ音楽を奏で、途中で歌と右手が美しいデュエットを奏でます("So das tiefste Herz bewegen"の箇所)。第3節が終わると再び前奏とほぼ同じ音楽が奏でられ、第4節が終わったところで再び後奏としてほぼ同じ音楽が奏でられるのは変化が欲しいところですが、この音楽をヴォルフが気に入っていたのかもしれません。前奏ではピアニッシモ(pp)の指示だったのに対して、後奏はフォルテ(f)で力強くはじまり、徐々に音量を下げて、最後はピアニッシモ(pp)で終わります。

例えばゲーテの詩によるシューベルトの「海の静寂 (Meeres Stille, D215A, D216)」などは、まさに波一つ立っていない不気味なほどの静けさが音楽で見事に表現されていましたが、レーナウの詩によるこのヴォルフの「海の静寂」は必ずしも"静寂"に焦点を当てておらず、むしろ静けさの中における心の"動き"が描かれているように思えます。後半のピアノパートの両手にわたる急速なアルペッジョのパッセージも当時の彼なりの試みなのでしょう。若かりしヴォルフの意欲が感じられる作品だと思いました。

C (4/4拍子)
ホ短調(e-moll)
Ruhig bewegt

●[Hugo Wolf:] Meeresstille (Sturm mit seinen donnerschlägen) , Op. 9, No. 1
マーカス・ファーンズワース(BR), ショルト・カイノホ(P)
Marcus Farnsworth(BR), Sholto Kynoch(P)

Channel名:マルクス・ファーンズワース - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:13 & 15 October 2012, Holywell Music Room, Oxford, U.K.

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(参考)

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Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
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メンデルスゾーン/春の歌Op. 47-3(レーナウ詩)

Frühlingslied, Op. 47-3
 春の歌 作品47-3

Durch den Wald, den dunkeln, geht
Holde Frühlingsmorgenstunde,
Durch den Wald vom Himmel weht
Eine leise Liebeskunde.
 森を、暗い森を通って、
 心地よい春の朝の時間がやってくる。
 森を通って、天から
 かすかな愛の知らせが吹いてくる。

Selig lauscht der grüne Baum,
Und er taucht mit allen Zweigen
In den schönen Frühlingstraum,
In den vollen Lebensreigen.
 喜んで緑の木は耳を傾け、
 あらゆる枝でひたるのだ、
 美しい春の夢に、
 生の輪舞に満ちた中に。

Blüht ein Blümchen irgendwo,
Wird's vom hellen Tau getränket,
Das versteckte zittert froh,
Daß der Himmel sein gedenket.
 一輪のかわいい花がどこかで咲くと、
 明るい色の露にぬれる、
 その人目につかず咲く花はうれしくて震えている、
 天が自分を思ってくれているから。

In geheimer Laubesnacht
Wird des Vogels Herz getroffen
Von der Liebe Zaubermacht,
Und er singt ein süßes Hoffen.
 ひそかな木陰道の夜に
 鳥の心は撃ち抜かれる、
 愛の魔力によって、
 そしてその鳥は甘美な希望を歌うのだ。

All' das frohe Lenzgeschick
Nicht ein Wort des Himmels kündet,
Nur sein stummer, warmer Blick
Hat die Seligkeit entzündet.
 快活な春の運命がすべての
 天の言葉を伝えているわけではなく、
 ただその無言であたたかい眼差しのみが
 至福の火を灯してくれたのだ。

Also in den Winterharm,
Der die Seele hielt bezwungen,
Ist dein Blick mir, still und warm,
Frühlingsmächtig eingedrungen.
 すなわち冬の悲しみは
 魂を抑え続けるが、その中で
 おまえの眼差しは私に、静かにあたたかく
 春の力強さで沁みいったのだ。

詩:Nikolaus Lenau (1802.8.13, Csatád (Schadat) - 1850.8.22, Oberdöbling)
曲:Jakob Ludwig Felix Mendelssohn Bartholdy (1809.2.3, Hamburg - 1847.11.4, Leipzig)

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メンデルスゾーンの「春の歌」と題された作品は歌曲だけでもいくつかあり、以前の記事でも触れた。
今回はそれらの中でもっとも有名なニーコラウス・レーナウの詩による「春の歌」Op. 47-3をとりあげる。

詩を書いたレーナウのオリジナルのタイトルは"Frühlingsblick"(春の眼差し)。
森を通って春という“愛の知らせ”が吹き渡ると、緑映える木は喜んで春の夢を見、一輪の花はうれしくて露の涙を流し、鳥は愛を感じて希望の歌を響かせる。
その陽気な側面だけでなく、何も語らぬまま温かい眼差しを向ける春の力が、冬の悲しみを溶かしてくれるのだと歌われる。

詩の2節分を音楽の1節にした全3節の有節形式(第3節はピアノパートに若干の変化がある)。
ピアノパートは第1~2節を通して、16分音符の急速な分散和音と、リズムを刻む8分音符の連打が1つのパターンになっており、第3節では前半に16分音符の分散和音が増え、テキストの内容に反応してrit.も付加されて若干変化をもたらしているが、歌の旋律は基本的に変わらない。
しかし、第3節第4行の"Seligkeit"(至福)のピアノのハーモニーは前節より明るく響かせており、詩句に沿った工夫を凝らしていることが分かる。

また、曲の各節(詩の2節分)最終行は第2音節から繰り返される。
つまり、第1節の場合は"In den vollen Lebensreigen"の"In"を除いて"den"から、そして第2節は"Und er singt ein süßes Hoffen"の"Und"を除いて"er"から繰り返されるので問題ない。
しかし、第3節は"Frühlingsmächtig eingedrungen"となっており第2音節("Frühlingsmächtig"の"-lings")からはじめることは不可能であり、メンデルスゾーンは苦肉の策として"Ja mächtig eingedrungen"と、民謡などでよく使われる"ja"を加えて"Frühling"を取っ払ってしまった。
この箇所だけ音符を増やして対応することも可能だったかもしれないが、あえてそうしなかったのはメンデルスゾーンなりの有節形式へのこだわりがあったのかもしれない。
また、作曲家が有節形式で作曲する時には、第1節のリズムを基にする1つの証拠とも言えるかもしれない。

Allegro assai vivace
8分の9拍子
変ロ長調
最高音は2点変ロ音、最低音は1点ヘ音

シュライアー(T)&オルベルツ(P):BERLIN Classics:1971年9月録音:全盛期のシュライアーの美声で端正、かつほれぼれするほど魅力的に歌う。オルベルツの積極的で美しいタッチの演奏は歌に劣らず魅力的に感じた。
シュライアー(T)&エンゲル(P):BERLIN Classics:1993年10月録音:20年前の演奏より若干テンポが遅くなった以外はほぼ同じ解釈で歌っているが、それが出来るのはすごいことではないか。エンゲルも濃淡をわきまえたいい演奏だ。
アーメリング(S)&ヤンセン(P):CBS:1979年12月録音:温かいアーメリングの歌唱は慈しむように言葉を紡いでいる。ヤンセンも丁寧に演奏している。
プロチュカ(T)&ドイチュ(P):CAPRICCIO:1989年1月&11月録音:プロチュカは春の喜びを歌うのにぴったりな柔らかい美声で丁寧に表現している。ドイチュもしっかりとしたリズム感でプロチュカを導いていた。
F=ディースカウ(BR)&サヴァリシュ(P):EMI CLASSICS:1970年9月録音:低く移調している為、若干曲の生気は減っているように感じるが、ディースカウのメリハリの利いた歌は魅力的。サヴァリシュはペダルを多用して落ち着いた風情。

(ほかにボニー&パーソンズ、M.プライス&ジョンソンの録音がある筈なのですが、見つからないので、名前を挙げるにとどめておきます。)

以下の曲目リストの1トラック目をクリックすると、シュライアー&オルベルツの演奏(抜粋)が聴けます。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3501597

フランツ・リストによるピアノ・ソロ編曲版(リストの全曲録音を達成したレスリー・ハワードによる独奏)
http://www.youtube.com/watch?v=VwMl07Ize-U

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