歌曲の名手ジェフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons)による器楽曲演奏

ジェフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons: 15 June 1929, Sydney – 26 January 1995, London)といえば、エリーザベト・シュヴァルツコプフやゲルハルト・ヒュッシュ、ハンス・ホッター、ビクトリア・デ・ロサンヘレス、クリスタ・ルートヴィヒなどの往年の巨匠から、トマス・ハンプソン、オラフ・ベーア、ジェスィー・ノーマン、バーバラ・ボニーまで数えきれないほど多くの歌手たちから共演を求められた名ピアニストです。
私がパーソンズの実演を聴けたのはベーア数回とノーマン1回だけでしたが、特にベーアとの共演時にはその神業を目の当たりにしてただただ感銘を受けたことが懐かしく思い出されます。

●1977年アムステルダムでのエリーザベト・シュヴァルツコプフ・コンサートからの映像(ヴォルフ「ペンナに住んでいる恋人がいるの」)
Elisabeth Schwarzkopf.FILM. First Encore in Amsterdam.I have a Lover Living in Penna.Hugo Wolf.1977.
FILM of FIRST of three encores in Grote Zaal Concertgebouw,Amsterdam in 1977.
I HAVE A LOVER LIVING IN PENNA by Hugo Wolf.

チャンネル名:lochness11

そんなパーソンズですが、歌手だけでなく楽器奏者とも数多くの録音を残していることはあまり知られていないかもしれません。

動画サイトにいくつかアップされている貴重な音源をこちらにまとめてみます。
彼は技術がとても素晴らしいうえに、音がとてもきれいです。その響きの美しさは歌曲ピアニストの中でも筆頭にあげられるかもしれません。

それから動画サイトにはないのですが、Hyperionレーベルからピアニスト、レスリー・ハワードがリリースしたリストのピアノ曲全集の中で4手用の作品、「マイアベーアの歌劇『予言者』のコラール「アド・ノス、アド・サルタレム・ウンダム」による幻想曲ととフーガ S624」にパーソンズが参加しています(おそらくプリモがハワード、セコンドがパーソンズではないかと思われます)。伴奏者は独奏者よりも技術的に劣るといった昔からある偏見を覆すに足る超絶技巧を聞かせてくれます。こちらから一部は試聴できますので興味のある方はぜひ聴いてみてください。

●イェフディ・メニューヒンのマスタークラス映像
エルガー:ヴァイオリン協奏曲(デズモンド・ブラッドリー(VLN)、ジェフリー・パーソンズ(P))
Desmond Bradley plays excerpts from the Elgar Violin Concerto with Geoffrey Parsons in accompaniment

チャンネル名:Desmond Bradley Archive
Yehudi Menuhin masterclass 1965

●シューベルト:アルペッジョーネ・ソナタ(アマリリス・フレミング(VLC)、ジェフリー・パーソンズ(P))
Amaryllis Fleming: Schubert Arpeggione Sonata

チャンネル名:Thomas Conrad
Amaryllis Fleming and Geoffrey Parsons perform Franz Schubert's Arpeggione Sonata in a minor. Performed on Ms. Fleming's revived 5 string Amati violoncello piccolo. Recorded in 1977.

●ブラームス:チェロソナタ第1番ホ短調(アマリリス・フレミング(VLC)、ジェフリー・パーソンズ(P))
Amaryllis Fleming: Brahms Cello Sonata No 1 in e minor

チャンネル名:Thomas Conrad
Amaryllis Fleming and Geoffrey Parsons perform Johannes Brahms' first cello sonata, in e minor. Recorded in 1977.

●C.Ph.E.バッハ:4つのチェンバロのための協奏曲(マルコム&アヴェリング&パーソンズ&プレストン(Cembalo)他)
C.Ph.E.Bach. Concerto en fa pour 4 clavecins et orchestre.
(Adaptation, par Raymond Leppard, du Concerto pour 2 clavecins., et orchestre. W46).
George Malcolm, Valda Aveling, Geoffrey Parsons, Simon Preston, clavecins T.Goff.
The English Chamber Orchestra, dir: R.Leppard.
1967

チャンネル名:Robert Descombes

●パガニーニ(クライスラー編):鐘Op.7(イダ・ヘンデル(VLN)、ジェフリー・パーソンズ(P))
Ida Haendel - Paganini La Clochette (La Campanella), Op. 7 (Ed. Kreisler)

チャンネル名:Jaewook Ahn
Recorded September 1978, Abbey Road Studios, London

| | | コメント (0)

クリスタ・ルートヴィヒ&ジェフリー・パーソンズ(Christa Ludwig and Geoffrey Parsons)/パリ・リサイタル(1977年11月9日, Salle Pleyel, Paris)

フランスのインターネットラジオ局francemusiqueに、クリスタ・ルートヴィヒ&ジェフリー・パーソンズの1977年11月9日、パリのサル・プレイエルでのライヴ音源がアップされていました!

https://www.francemusique.fr/emissions/les-tresors-de-france-musique/recital-de-christa-ludwig-a-la-salle-pleyel-une-archive-de-1977-95251

Christa Ludwig, mezzo-soprano
Geoffrey Parsons, piano
Enregistré le 9 novembre 1977, Salle Pleyel (Paris)

クリスタ・ルートヴィヒ(Christa Ludwig)(MS)
ジェフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons)(P)

シューベルト:
笑ったり泣いたり(Lachen und Weinen, D777)
悲しみ(Wehmut, D772)
ます(Die Forelle, D550)
死と乙女(Der Tod und das Mädchen, D531)
糸を紡ぐグレートヒェン(Gretchen am Spinnrade, D118)

ブラームス:
サッポー風頌歌(Sapphische Ode, Op. 94/4)
墓地で(Auf dem Kirchhofe, Op. 105/4)
セレナード(Ständchen, Op. 106/1)
娘の歌(Mädchenlied, Op. 106/5)
永遠の愛について(Von ewiger Liebe, Op. 43/1)

シューマン:
はすの花(Die Lotosblume, Op. 25/7)
私のばら(Meine Rose, Op. 90/2)
あなたは花のよう(Du bist wie eine Blume, Op. 25/24)
孤独な涙は何を望むのか(Was will die einsame Träne, Op. 25/21)
静かな涙(Stille Tränen, Op. 35/10)

ブラームス:歌曲集『ジプシーの歌(Zigeunerlieder, Op. 103)』

--------------

このライヴ音源は私にとっては初めて聴くもので、とても惹き込まれました。シューベルト、シューマン、ブラームスといった王道リートプログラムですが、彼女が歌うと人生の喜びのようなものが感じられます。

ルートヴィヒの素晴らしいレガート、豊麗な深い響き、直接的な感情表現などをたっぷり味わえるライヴでした。
彼女はどの曲も比較的たっぷりとしたテンポ設定で歌い進めていくのですが、以前ムーアが著書内で言っていたように「少しおそめのテンポは、彼女の豊かな声に、まさにぴったり」でした。

そしてジェフリー・パーソンズのピアノの素晴らしさ!パーソンズはテクニシャンだと思います。テクニック面での不安が全くない為、歌をしっかり支えつつピアノパートの音色や表現の魅力を存分に響かせます。

よろしければぜひ聞いてみてください!

| | | コメント (2)

ジェシー・ノーマン(Jessye Norman)&ジェフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons)/1990年グラナダ・ライヴ映像

今年亡くなったジェシー・ノーマンと、生誕90周年を迎えた故ジェフリー・パーソンズによる1990年のグラナダ音楽祭におけるライヴ動画がアップされていました。

途中にインタビューシーンも挟みながら、おそらくプログラム全曲がたっぷりと放送されています。
インタビューを受けるノーマンがご機嫌で、ステージとは違った素朴な服装と髪型なのが印象的です。

Jessye Norman (soprano)
Geoffrey Parsons (piano)

録音:1990.7.1, Festival de Granada

Henry Purcell(パーセル作曲):
DIDO AND AENEAS: Thy hand Belinda...When I am laid in Earth (歌劇『ダイドーとエネアス』より「あなたの手を貸しておくれ、ベリンダよ~私が地中に寝かされるとき」)

Johannes Brahms(ブラームス作曲):
Ständchen (セレナード) (Kingler) Op 106 núm 1
Dein blaues Auge (あなたの青い瞳) (Groth) Op. 59 núm 8
Wie Melodien zieht es mir (メロディのように) (Groth) Op 105 núm 1
Feldeinsamkeit (野の孤独) (Almers) Op. 86 núm. 2
Meine Liebe ist grün (わが恋は緑) (Schumann) Op.63 núm 5

Gustav Mahler(マーラー作曲):
"Lieder eines fahrenden Gesellen" (歌曲集『遍歴職人の歌(さすらう若者の歌)』全曲)
1. Wenn mein Schatz Hochzeit macht (僕の愛した人が結婚式をあげるとき)
2. Ging heut morgen übers Feld (今朝野原を歩いた時)
3. Ich hab' ein glühend' Messer (僕は燃え盛るナイフを持っている)
4. Die zwei blauen Augen (二つの青い瞳)

Erik Satie(サティ作曲):
La Diva de L'empire (ランピールの歌姫)
Chanson (歌)
Elégie (エレジー)
Tendrement (優しく)

Manuel de Falla(ファリャ作曲):
"7 Canciones populares Españolas" (歌曲集『7つのスペイン民謡』全曲)
1. El paño moruno (ムーア人の織物)
2. Seguidilla murciana (ムルシア地方のセギディーリャ)
3. Asturiana (アストゥーリアス地方の歌)
4. Jota (ホタ)
5. Nana (子守歌)
6. Canción (歌)
7. Polo (ポロ)

Encores(アンコール)
Georges Bizet(ビゼー作曲):
CARMEN: Habanera (歌劇『カルメン』より「ハバネラ」)

ノーマンの歌唱はやはり素晴らしく、その場の空気をノーマンの世界に染め上げています。
パーソンズのテクニックの素晴らしさと定評のあるステージマナーも見どころです。

| | | コメント (0)

ヘルマン・プライ&ジェフリー・パーソンズ/シューベルト「美しい水車屋の娘」(1976年)(Radio4 期間限定配信)

オランダのインターネットラジオ局Radio4が、ヘルマン・プライとジェフリー・パーソンズの「美しい水車屋の娘」を配信していることを某SNSでお世話になっている方の情報で知りました。
著名な歌曲ピアニストだったジェフリー・パーソンズの没後20年を記念しての配信と思われます(説明がパーソンズについて書かれているので)。

 こちら

ジェフリー・パーソンズは1929年6月15日オーストラリア、シドニー生まれで、若い頃はブラームスのピアノ協奏曲第2番などもステージで弾いていたのですが、ロンドンに渡り、ヒュッシュやシュヴァルツコプフ、ホッターなどの歌曲の伴奏者として、ムーアの後継者として位置づけられるほどにまでなりました。
そして、ニルソン、シュトライヒ、ボニー、ベイカー、ルートヴィヒ、オッター、アレン、ハンプソンなどの多くの声楽家だけでなく、イダ・ヘンデル、ミルシテイン、トルトゥリエなど楽器奏者とも共演を重ねて、この世代の最高の伴奏ピアニストの地位を確立したのです。
残念ながら1995年1月26日に癌の為に亡くなってしまうのですが、オーラフ・ベーアやジェシー・ノーマンとの来日公演で彼の至芸を何度か実際に聴けたことがいい思い出です。
1994年には本来ロス・アンヘレスの共演者として来日する予定だったので、楽しみにして会場に行ったら、ピアニスト変更の張り紙が貼ってあり、何故か嫌な予感がしたと思っていたら、翌年の新聞に訃報記事を見つけて力が抜けたことを思い出します。
ムーアの実演に接することが出来なかった私にとって、パーソンズのソリスト顔負けのテクニックに支えられた美しいタッチを生で聴くことはリートを聴き始めてからの念願で、ベーアとの来日公演でそれが実現した時は今後何度もベーアと共にパーソンズの至芸を味わえると喜んだものでした(茅ヶ崎公演の時、楽屋でサインの列に並んだのですが、ベーアとパーソンズが何かを言い合って楽しそうに笑っていたのが今でも印象に残っています)。
しかし、再度ベーアが来日した際と、ノーマンのコンサートを聴くだけで、パーソンズの実演を聴く機会は失われてしまったのです。
幸いなことにパーソンズには多くの録音が残されています。
それこそ、彼の基礎をつくったと言えるだろうシュヴァルツコプフとその夫のウォルター・レッグとの薫陶を得て作られた多くの録音はパーソンズの非凡さを示していると思います。
シュヴァルツコプフは実はムーア引退後、コンサートではパーソンズと共にブライアン・ランポートともかなりの頻度共演しているのですが、録音ではもっぱらパーソンズと共演しているのが興味深いところです。

プライとは、スタジオ録音はCapriccioレーベルのブラームス「ドイツ民謡集」1枚しか残していないのですが、ザルツブルク音楽祭では4回(1977,1978,1981,1988年)共演しており、今回のオランダでのライヴは1976年の共演です。
プライの自伝『ヘルマン・プライ自伝:喝采の時』(原田茂生、林捷訳:1993年 メタモル出版)でパーソンズについて「ジェラルド・ムーアの正統な後継者と呼ぶにふさわしいピアニストだ」と書いています。

-----------

シューベルト(Schubert)/「美しい水車屋の娘」D795 全20曲 (Die schöne Müllerin)
シューベルト/はじめての喪失D226 (Erster Verlust)
シューベルト/ムーサ(ミューズ)の息子D764 (Der Musensohn)

録音:1976年10月20日, Sonesta Koepelkerk Amsterdam

ヘルマン・プライ(Hermann Prey) (bariton)
ジェフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons) (piano)

-----------

プライは厚みのある朗々とした美声はそのままに、弱声でも魅力を聴かせています。
熱っぽさよりはコントロールの利いた歌唱で、「好きな色」での消え入りそうな声が特に印象的でした。
パーソンズは粒立ちの良い明晰なタッチが特徴的で、リズムがかっちりしているので、いつものホカンソンとは違った演奏になっていると思います。
アンコールの「ミューズの子」はパーソンズのがっちりしたリズムに乗って、プライ本来の明るさが全開で、とても楽しい演奏でした。

Wigmore HallのライヴCDシリーズでもパーソンズの没後20年を記念して、ヴォルフガング・ホルツマイアとの「美しい水車屋の娘」がリリースされています。
私も近く入手して聴いてみたいと思っています。

ヴォルフガング・ホルツマイア&ジェフリー・パーソンズ「さすらい」

| | | コメント (12) | トラックバック (0)

シュヴァルツコプフ&パーソンズ/1977年アムステルダム・フェアウェル・コンサートの映像

某動画サイトは最近投稿可能な時間が長くなったようだ。
1977年のシュヴァルツコプフのアムステルダムでのさよならコンサートの模様が10曲まるまるアップされていた(29分55秒)。

 こちら

これまで、テレビ放送用のリサイタル映像は何度か見ることが出来たが、このようにコンサート会場でのライヴを映像で見ることはほとんど無かったので、彼女の実演を一度も聴けなかった私にとっては非常に貴重な動画である。
鳴り止まない拍手を手でしずめてから歌い始める場面なども見ることが出来る。

曲目は以下のとおり。

1.ヴォルフ/「メーリケの詩」より「眠りに寄せて」
2.ヴォルフ/「メーリケの詩」より「思いみよ、おお魂よ」
3.ヴォルフ/「イタリアの歌の本」より「どんなに長いこと待ち焦がれたことでしょう」
4.ヴォルフ/「メーリケの詩」より「捨てられた娘」
5.シューベルト/糸を紡ぐグレートヒェン
6.ヴォルフ/「イタリアの歌の本」より「おお、あなたのお家が透けていたらいいのに」
7.ヴォルフ/「スペインの歌の本」より「愛なんか信じちゃだめ」
8.ヴォルフ/「イタリアの歌の本」より「ペンナに住んでいる恋人がいるの」
~アンコール~
9.グリーグ/睡蓮に寄せて(独語訳による)
10.シューベルト/至福

いかにもシュヴァルツコプフらしいヴォルフ中心の選曲である。
彼女のリサイタル歌手としての円熟の境地をたっぷり楽しめる。
それにしてもピアノのパーソンズの上手いこと!
彼のピアノはテクニックと音楽性のどちらも非常に優れていた。
第3曲の後奏では下手なヴァイオリニストの迷演奏まで見事に演じてみせる。
しかし、当時の聴衆は非常に熱狂的で、ピアノの音が消えないうちから拍手を始める。
「ペンナに・・・」の後奏ではパーソンズが実に見事な名人芸を聴かせるのだが、ほとんどが拍手にかき消されてしまう。
気の毒だが、こういう時代もあったということである。

ヴォルフの歌曲に人一倍精力を注いだシュヴァルツコプフの演奏の集大成を見せてもらった気分である。
長いので、お時間のある時にぜひご覧ください。

| | | コメント (2) | トラックバック (0)

ホッター日本公演曲目1974年(第7回)

第7回来日:1974年3~4月

ハンス・ホッター(Hans Hotter)(BSBR)
ジョフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons)(P)

3月26日(火)19:00 東京文化会館(プログラム1)
3月29日(金)19:00 大阪・フェスティバルホール(プログラム1)
4月1日(月)18:30 札幌・北海道厚生年金会館(プログラム1)
4月4日(木)19:00 岡山市民会館(プログラム1)
4月10日(水)19:00 虎ノ門ホール(プログラム2)

●プログラム1 共演:ジョフリー・パーソンズ(P)

シューベルト(Schubert)/歌曲集「冬の旅」作品89[D.911](Winterreise)
(おやすみ;風見の旗;凍った涙;凝結;菩提樹;溢れる涙;川の上で;かえりみ;鬼火;休息;春の夢;孤独;郵便馬車;霜おく髪;からす;最後の希望;村にて;嵐の朝;まぼろし;道しるべ;宿;勇気;幻の太陽;辻音楽師)

●プログラム2 共演:ジョフリー・パーソンズ(P)

シューマン(Schumann)作曲
歌曲集「詩人の恋」作品48(Dichterliebe)
(美しい五月に;わたしの涙から;ばらを、ゆりを、はとを、太陽を;おまえの瞳を見つめるとき;私の心をひたそう、百合のうてなに;神聖なラインの流れの川波に;私は恨むまい;花が知っていたら;鳴るのはフルートとヴァイオリン;あの歌がひびくのを聞くと;ひとりの若者がある娘を愛した;光りかがやく夏の朝に;夢の中で私は泣いた;夜ごとの夢に;昔話の中から;あのいまわしい昔の歌も)

ブラームス(Brahms)作曲
教会墓地にて(Auf dem Kirchhofe)
いこえ、やさしい恋びとよ(Ruhe, Süssliebchen)
サッフォー風の頌歌(Sapphische Ode)
ことづて(Botschaft)

シューベルト(Schubert)作曲
「白鳥の歌」[D.957]より(From "Schwanengesang")
~愛のたより(Liebesbotschaft);春のあこがれ(Frühlingssehnsucht);別離(Abschied);鳩の使い(Die Taubenpost);彼女のおもかげ(Ihr Bild);漁師の娘(Das Fischermädchen);まち(Die Stadt);影法師(Der Doppelgänger)

(上記の演奏者名と曲目の日本語表記はプログラム冊子に従いました)

--------------------

ハンス・ホッター(Hans Hotter: 1909.1.19, Offenbach am Main – 2003.12.6, Grünwald)の第7回目の来日は前回の2年後の1974年だった(ホッター65歳)。
共演ピアニストはシュヴァルツコプフの共演者として1968年以降何度も来日しているジェフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons: 1929.6.15, Sydney - 1995.1.26, London)で、この同じ年の暮れにはシュヴァルツコプフの最後の来日公演のために再び来日することになるのである。

今回のツアーも、4月10日に虎ノ門ホールでシューマン、ブラームス、シューベルトによる歌曲の夕べが催されたほかはすべて「冬の旅」であり、このプログラミングがホッターの来日公演ではすっかり定着した感がある。
ほとんどの聴衆はホッターの「冬の旅」が聴きたいということなのだろう。

プログラム2では過去の来日公演で披露したもののほかに、ブラームス「教会墓地にて」「いこえ、やさしい恋びとよ」、シューベルト「別離」「鳩の使い」「漁師の娘」といった初披露の作品も含まれている。
ブラームスの選曲など、同時期にDECCAレーベルにこのコンビで録音(外国でCD化されている)したレパートリーを思い出させる。

ジェフリー・パーソンズがジェラルド・ムーア以降の最高の歌曲ピアニストの一人であることは言うまでもないだろう。
オーストラリアのシドニー生まれの彼は、ブゾーニ門下のWinifred Burstonのもとで学び、1947年のABC演奏歌唱コンクールではブラームスのピアノ協奏曲第2番を弾いて優勝。
1950年にはピーター・ドーソンとイギリス演奏旅行を行い、ヒュッシュとの「冬の旅」の共演などを経て、1961年以降シュヴァルツコプフのピアニストとなった。
日本へは1968年のシュヴァルツコプフのリサイタルに同行したのが初めてで、彼女以外の演奏家と来日したのはホッターの1974年公演が最初だった。
その後しばらく来日していなかったが、オーラフ・ベーアやジェシー・ノーマンの共演者として再来日を果たし、さらにロス・アンヘレスとも来日する予定だったがキャンセルとなり、その翌年、65歳の若さで亡くなった。
ホッターとの来日公演のころは私はまだ幼かったのでもちろん聴いていないのだが、ベーアやノーマンとの来日公演を聴くことが出来たのはかけがえのない貴重な体験となった。
実際にパーソンズの演奏を聴いて、やはりずば抜けて非凡な存在だったと感じたものだった。
その音の美しさはなかなか聴けないほど魅力的だった。
楽屋のサイン会の列に並んだ際、ベーアと楽しそうに談笑していたパーソンズの表情が思い出される。
早すぎる死が悔やまれるピアニストだった。

リサイタル・ツアーとしてのハンス・ホッターの来日は今回が最後だが、実はもう1度長い不在の期間を経て来日し、講演と小リサイタルを組み合わせた形で舞台に登場している。
その内容についてはまた次回。

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

サラ・ブライトマン&パーソンズ/「ザ・ツリーズ・ゼイ・グロウ・ソー・ハイ」

これまでのオリンピック、普段からあまりスポーツ観戦をしない私は開会式もあまりじっくり見たことがなかったのだが、今回の北京五輪は珍しく最初から選手の入場までかなりしっかりと見ることが出来た。
著名な映画監督のチャン・イーモウがプロデュースをした開会式は、2年以上もかけて構想を練ったというだけあって、よく考えられていて芸術的だったと思う。
中国の悠久の歴史を表現したパフォーマンスは、長いこと国内開催を待ち望んでいたというだけあって、中国の威信をかけているのが痛いほど伝わってきた。
もう少しコンパクトにまとめた方が見ている人には親切かもしれないという気もしたが、中国人にとっては自国をアピールする絶好の機会とばかりにあれこれ繰り出してくる気持ちも分からなくはない。
だが、これだけのパフォーマンスの連続とそれにかかわる膨大な数の人を采配するのは大変なことだろう。
混乱もなく次々にパフォーマンスを進めるその手際のよさは、社会主義国ならではかもしれない。
200国以上の選手団が入場してくる間、中国の女性たちがずっと踊り続けていたが、これは結構体力的にきついのではないかと余計な心配をしてしまいたくなる。
テロ予告があったり、ロシアとグルジアが戦争状態に入ったり、観光スポットで米国人が事件にまきこまれたりと、平和とは程遠い中での開催だが、とにかく出来る限り無事に全日程が進むことを祈りたい。

この開会式の後半で、中国のピアニスト、ラン・ランが出てきたりして、パフォーマーも中国の一流どころの妙技で世界に向けてアピールしているのが感じられたが、この五輪のために作られたという曲を中国の男性歌手と共に歌っていたのが、イギリスのミュージカル歌手サラ・ブライトマンであった。
彼女はこのようなイベントには引っ張りだこのようだが、最近は日本のCMなどでも聞く機会が増え、他の歌手と間違えようのないその個性的で澄んだハイトーン・ボイスがもてはやされるのは何となく分かる気がする。
彼女の声は“癒し”が求められる現代にあって、まさに歌声でそれを実現できる希少な存在であることは間違いないだろう。

ミュージカル「オペラ座の怪人」などでよく知られた歌手だが、彼女は若い頃、ジェフリー・パーソンズと組んで、ベンジャミン・ブリテンの編曲した民謡集を19曲録音している。
それを久しぶりに引っ張り出して聴いてみた。

-----------------------

「ザ・ツリーズ・ゼイ・グロウ・ソー・ハイ」
Brightman_parsons_britten東芝EMI: EMI CLASSICS: TOCE-9688
録音:1986年8月2~4日、11月14日、アビーロード 第1スタジオ
サラ・ブライトマン(Sarah Brightman)(S)
ジェフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons)(P)

ブリテン(Benjamin Britten)編曲
1.ある朝早く(Early one morning)
2.ニューカッスルからおいででは?(Come you not from Newcastle?)
3.優しのポリー・オリヴァー(Sweet Polly Oliver)
4.木々は高だかと(The trees they grow so high)
5.とねりこの木立(The Ash Grove)
6.ああ、ああ(O Waly, Waly)
7.答えのなんと優しいことか(How sweet the answer)
8.牧童(The Plough Boy)
9.春が過ぎてゆく(Voici le Printemps)
10.夏の最後のバラ(庭の千草)(The last rose of summer)
11.美しいひとは愛の庭に(La belle est au jardin d'amour)
12.糸を紡ぐ女(Fileuse)
13.愛しきわが祖国のハープ(Dear Harp of my Country!)
14.小さなサー・ウィリアム(Little Sir William)
15.ねえ、クッションを縫える?(O can ye sew cushons?)
16.しんとした夜にはよく(Oft in the stilly night)
17.おいらが親父のところで(Quand j'étais chez mon père)
18.慰めてくれる人もなく(There's none to soothe)
19.オリヴァー・クロムウェル(Oliver Cromwell)

-----------------------

ブライトマンの20代半ばの歌唱はさすがに現在の声の印象とは違う。
今のミュージカル歌手としての押しの強さはあまりなく、黙って聴いていると普通のクラシック歌手が歌っているようにすら思える。
だが、彼女の美声はブリテン編曲の素朴な民謡にも新鮮な魅力を表現しているように感じた。
言葉の発音がしっかりしていて、表情がとても豊かなのは、ミュージカルでの鍛錬がものを言っているに違いない。

普段TVや企画CDなどでいわゆる“癒し系”の楽曲を歌う彼女の声は確かに聴く人の心を癒やすことに大きな比重が置かれた作品をその意図にのっとって歌っているのだろう。
それらが大きな需要をもっていることは言うまでもない。
一方、このブリテン歌曲集、彼女のどこまでも伸びる高音の美しさはすでに満喫できるのだが、このCDを“癒し系”と呼べるかというとそうは思えない。
もちろん楽曲が“癒し”を目指したものではないということもあるのだが、彼女の声が、これらの民謡の中の苦悩や悲しみ、ユーモアなどの要素に対して内的に掘り下げたアプローチをしているため、癒すどころか時に聴き手の心の傷に触れる可能性すらある。
つまりこの録音では正統的な歌曲歌手と同じアプローチで歌われていると考えていいのではないだろうか。

ジェフリー・パーソンズが亡くなってすでに13年が過ぎた。
返す返すもこのような巨匠級の歌曲ピアニストを65歳の若さで失ったのは残念なことこのうえない。
テクニックも音楽性もずばぬけた偉大な存在だった。
ベーアやノーマンの共演者として何度か来日公演を聴くことが出来たが、どの演奏会でも彼の手から生まれた音はこれ以上ないほどの美しさと歌心があった。
この録音でもパーソンズ節はいたるところに聴くことが出来る。

わが国でも好まれた「庭の千草」という曲がある。
あまりにも日本で親しまれたため、日本の曲と思っている人がいてもおかしくないが、実際にはトマス・ムーアの詩によるアイルランド民謡である。
正確に訳せば「夏の最後のバラ」となるのだろう。
ブリテンもこの曲を編曲しており、歌声部はお馴染みの旋律に特に手を加えていないと思われるが、ピアノはくすんだ不協和音を分散させて不安をかきたてるような響きで貫いている。
夏に最後に残ったバラの花が一輪寂しがっている。それを見た者がバラに呼びかける「最期には仲間たちの墓の上に撒いてあげるよ」と。私も友に逝かれたら最後のバラの後に続こうと、友に先立たれる者の悲しみが歌われている。

--------------------

庭の千草(詩:里見義)

庭の千草も 虫の音も
枯れて寂しくなりにけり
ああ白菊 ああ白菊
一人遅れて 咲きにけり

露もたわむや 菊の花
霜におごるや 菊の花
ああ あわれあわれ ああ白菊
人の操(みさお)も かくてこそ

--------------------

The last rose of summer

'Tis the last rose of summer,
Left blooming alone;
All her lovely companions
Are faded and gone;
No flow'r of her kindred,
No rosebud is nigh
To reflect back her blushes,
Or give sigh for sigh.

I'll not leave thee, thou lone one,
To pine on the stem;
Since the lovely are sleeping,
Go, sleep thou with them;
Thus kindly I scatter
Thy leaves o'er the bed
Where thy mates of the garden
Lie senseless and dead.

So soon may I follow,
When friendships decay,
And from love's shining circle
The gems drop away!
When true hearts lie wither'd,
And fond ones are flown,
Oh! who would inhabit
This bleak world alone?

| | | コメント (0) | トラックバック (1)

ヴェンベルイ&パーソンズ/グリーグ、ラングストレム、シベリウス歌曲集

今年はノルウェー出身のグリーグ(Edvard Hagerup Grieg, 1843.6.15, Bergen - 1907.9.4, Bergen)の没後100年、そしてフィンランド出身のシベリウス(Jean Sibelius, 1865.12.8, Hämeenlinna - 1957.9.20, Ainola)の没後50年にあたるので、この両者の歌曲を含むCDを引っ張り出して聴いてみた。

「グリーク/歌曲集“山の娘”」
Wennberg_parsons_grieg東芝EMI: EMI: CE30-5495
録音:1973年6月26,28日&7月1日, Abbey Road Studios, London
シーヴ・ヴェンベルイ(Siv Wennberg)(S)
ジョフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons)(P)

グリーク/歌曲集“山の娘”作品67(歌い;ヴェスレモェイ;青い実の斜面;逢引き;愛;子山羊のダンス;悪い日;小川で)[ガルボルグ]
ラングストレム/セメレ[ストリンドベルイ];新月の下の少女[ベルイマン];パン(牧羊神)[ベルイマン];ヴィッレモ[ストリンドベルイ];アマゾン(女の戦士)[ボイエ]
シベリウス/はじめての口づけ作品37の1[ルネベルイ];“牧歌と警句”より作品13の7[ルネベルイ];逢引きから帰った乙女作品37の5[ルネベルイ];黒いバラ作品36の1[ヨセフソン]

(以上の演奏者名と曲名表記は解説書表記に従った。)

-------------------------------------------

グリーグの歌曲集「山の娘」は全8曲からなり、菅野浩和氏の解説によれば「田園(むしろ丘といったほうがよい)に育った乙女の身の上に起ったできごと」が歌われている。
1曲目では何者か(娘の心の声なのか、超自然的な存在によるものなのか)による娘に対する山への誘いが歌われる。声の高低の差の大きい印象的な曲。
2曲目で娘ヴェスレモイの外見や所作が描写される。曲は静かな中に熱さをもっている感じ。
3曲目はこの娘がブルーベリーの斜面にきて、熊や狐が近づいてきた時のことを想像し、最後にすてきな男性が来たらと空想して終わる。明るく軽快な曲。
4曲目は娘と恋人との幸せな逢引の一時を歌ったもの。各節とも静かな響きから徐々に盛り上がり、気持ちの高揚感を表現する。
5曲目は娘の恋人への熱い思いを歌ったもの。
6曲目は一転して子山羊のダンスが描写される。ちょっとした気分転換の曲という感じだ。
7曲目は恋人に裏切られた娘の傷つきもだえる様が描写される。
最終曲は小川を前にした娘がここで私を眠らせておくれと歌う。シューベルトの「美しい水車屋の娘」の女性バージョンと言えるだろうか。5節からなるが、完全な有節形式ではなく、内容に応じて微妙な変化を見せている。

ラングストレムの5曲はいずれも個性的な作品で、とりわけ「セメレ」は歌、ピアノ共にインパクトが強かった。

シベリウスの4曲はいずれも有名な作品だろう。
「はじめての口づけ」は、「恋人にはじめて口づけするときに何を考えるの」と少女が星に尋ねるという内容。
「“牧歌と警句”より」は、人生を四季にたとえ、人生の春や夏は急いで逃げてしまうが、去るものはそのままにして愛せよという内容。
「逢引きから帰った乙女」は、母親との対話の形で、恋人との逢引きのすえ、最後は恋人の裏切りにあい青ざめて帰ってきたという内容。
「黒いバラ」は、悲しみというのは漆黒のバラをもっているので私はそれに苦しめられて死にそうだという内容。前半の静かな箇所から徐々に切迫し最後に盛り上がる構成が素晴らしい。

スウェーデン北部に生まれたシーヴ・ヴェンベルイ(1944-)は実に清冽な美声をもっている。「山の娘」の羊飼い娘にはうってつけの爽快な声と強靭な表現力で素晴らしかった。その声の魅力とパワーを兼ね備えた彼女らしさが特によくあらわれていたのがラングストレムの「セメレ」や「アマゾン」であった。シベリウスの深い内部から湧き出るような爆発力も見事に表現し尽くしていて見事であった。ヴァーグナー歌手として知られていたようだが、北欧歌曲歌いとしても知られざる逸材だったのではないだろうか。

パーソンズは相変わらず極上の美しいタッチでグリーグの清冽な空気を表現するかと思えば、「セメレ」では雄弁に歌手と拮抗する。そしてシベリウス特有の暗い情熱にも対応して、その変幻自在ぶりにあらためて驚嘆させられた。

古い国内CDなのでおそらく現在では入手不可能だろうが、「山の娘」のみは輸入盤で入手可能である(F=ディースカウ&ヘルのグリーグ歌曲集などとのカップリング)。

| | | コメント (2) | トラックバック (0)

ルチア・ポップ/スラヴ歌曲集

ソプラノ歌手のルチア・ポップ(Lucia Popp: 1939.11.12, Uhorška Veš (Bratislava) - 1993.11.16, München)は、歌曲の歌い手として私の好きな一人である。
細く、メタリックな光沢をもった透明な美声はそれだけでも十分魅力的だが、細かいヴィブラートを付けて歌われるその歌は知性的で、詩のメッセージを優しく的確に伝えてくれる。コロラトゥーラ出身ながらリリックで繊細な表現を聴かせる。故井上直幸さんのピアノ共演で東京で開いたリサイタルの翌年に亡くなってから、もう14年が経ってしまった。そんな彼女の演奏の中で特に素敵な録音「スラヴ歌曲集」について記してみたい。

-----------------------

Popp_parsons_dvorakルチア・ポップ/スラヴ歌曲集

クラウンレコード: PALETTE/ACANTA: PAL-1092
ルチア・ポップ(Lucia Popp)(S)
ジェフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons)(P)
録音:1979年8月24~26日、Bavaria Studio, München

ドヴォルザーク(Dvořák)/“民謡の調べで”作品73 
1)娘が草を刈っていた (Žalo dievča, žalo trávu) (no.2)
2)ああ、ここにはないの (Ach, není tu) (no.3)
3)エイ、俺の馬は天下一 (Ej, mám já koňa faku) (no.4)
4)おやすみ (Dobrú noc) (no.1)

プロコフィエフ(Prokofieff)/“ロシア民謡(独唱用編曲)”作品104より
5)茶色の瞳 (Кари глазки) (no.10)
6)緑の木立 (Зелёная рощица) (no.2)
7)修道僧 (Чернец) (no.12)
8)白い小雪 (Снежки булыу) (no.5)

コダーイ(Kodály)/“ピアノと声楽のためのハンガリー民俗音楽”より
9)森は緑の時がきれい (Akkor szép az erdö mikor zöld)
10)若さはあの鷹のよう (Ifjúság mint sólyom madár)
11)馬車、荷車、馬車、橇 (Kocsi szekér, kosci szán)
12)恋人を呼ぶ (Elkiáltom magamat)

ヤナーチェク(Janáček)/“モラヴィアの民俗詩による歌曲”より
13)恋 (Łáska)
14)分からないの (Nejistota)
15)歌う娘 (Zpĕvulenka)
16)あの人の馬 (Koníčky milého)
17)ムギナデシコ (Koukol)
18)ハシバミの実 (Oříšek léskový)
19)花の魔力 (Kvítí milodĕjné)
20)手紙 (Psaníčko)
21)慰めの涙 (Slzy útěchou)

(上記の日本語表記はすべてCD記載の通り)

-----------------------

ドヴォジャーク

1)「娘が草を刈っていた」
娘が草運びを若者に頼むと、俺との結婚に反対したご両親に頼むがいいと断り、未練の気持ちを訴えるという内容。活気のある曲。

2)「ああ、ここにはないの」
ここには私を喜ばせるものは無い。私の貰うものは欲しくないものばかり。心のない男を押し付けないでほしいという内容。前曲とこの曲をつなげて配置しているのはなかなかよく考えられていると思う。ゆったりとした優しいピアノの響きの上で心に響く印象的な旋律が歌われる。

3)「エイ、俺の馬は天下一」
天下一の馬を持っていた。シジュウカラを飼っていた。火花のような恋人もいたが、俺を裏切りほかの男に心変わりしたと歌われる。各節とも最初のうちは冷静に事情を報告しているが、最後の行で雰囲気が一転し、切々と歌われる。ここでも前の曲の次にこの曲が配置されたのはドヴォジャークの意図を感じる。

4)「おやすみ」
本来はこの“民謡の調べで”の第1曲に配置されているもの。詩は穏やかで、ありがちな子守歌だが、その哀しげなメロディーは心を揺さぶられるほど美しい!全2節の有節形式。

プロコフィエフ

5)「茶色の瞳」
茶色の瞳の恋人と離れ、会えない気持ちを嘆き、獣に私の体を引き裂かせて心臓を恋人に届けさせたいと歌う。細かい音型のピアノに乗って、深刻な歌を響かせる。右手の三連符(おそらく)と左手の低音の旋律の動きや、後奏の感じなど、どことなくブラームスを思わせる。

6)「緑の木立」
緑の木立はどうして花を咲かさず、ナイティンゲールはどうして歌わないのかという問いに対して、あの人が来ないから、振り向いてくれないからと答える歌。ぽつぽつと刻むピアノの上で問いが低い音で歌われ、答える箇所は一転して流れるような響きになり、最後に元の調子に戻る。

7)「修道僧」
修道僧が散歩をしていると、向こうからお婆さんの群れ、若い女性の群れ、年頃の娘の群れが次々とやってくる。最初は修行の身であるから惑わされないように自分に言い聞かせていたが、最後には祈りはもう十分、結婚したっていいじゃないかと開き直るという内容。早口な歌は終始コミカルで、韻を踏んだ言葉の羅列が楽しい。ピアノはリズミックな箇所と旋律的な箇所が交代したり交差したりして縦横無尽に活躍する。一見メカニックで情を排したようなピアノの書法がかえってユーモラスな味を出している。プロコフィエフの面目躍如たる作品。

8)「白い小雪」
雪は野原を覆うが、私の悲しみは覆い隠せない。だが、私の涙が尽きるころには雪も溶けて緑が生い茂るだろうという内容。ゆったりとした息の長い旋律が歌われ、最後には気持ちが浄化されたかのように希望を感じさせて終わる。

コダーイの4曲はいずれもハンガリー情緒豊かで耳に残る作品ばかりである。とりわけ「若さはあの鷹のよう」は、鷹のような自由さに憧れながらもそれが出来ない者の苦悩と祈りが歌われるが、1曲の芸術歌曲として通用する内容の充実と訴求力の強さを感じる。
「馬車、荷車、馬車、橇」は(おそらく)意味のないリフレイン"libilibi lim, lom,..."がコミカルで、ピアノの洒落た響きも楽しい。

ヤナーチェクの9曲は作風の異なる様々な曲が選ばれて、ポップの選曲眼のうまさを感じさせられた。
中でも私が一番印象に残ったのは「あの人の馬」という曲。「馬の駆け足を思わせる音画的手法」(解説の佐川吉男氏の表現)として、ピアノの片手は早いスピードでスケールを繰り返し、もう片方の手による後打ちのリズムも加わり、軽快で実に楽しい作品になっている。
「歌う娘」はピアノの独特なユニゾンの響きの上で民族色の濃いメロディが印象的である。
あなたを愛しているのか私には分からないけれど、今晩家に来れば母が教えてくれると歌う「分からないの」や、林の小枝で庭を作り、そこにムギナデシコの種を蒔くのはあなたのためと歌う「ムギナデシコ」では、細かい同音(あるいはオクターヴ)反復がピアノに聴かれ、佐川氏曰くツィンバロンに影響を受けた書法とのこと。
個性の強い曲の中で、素朴な民謡風の「ハシバミの実」はほっと一息つける小品である。
私が鳥ならあの人の庭の上から見てみたい、すると恋人は私に手紙を書いていると歌われる「手紙」は、流れるピアノの分散和音の上で懐かしいような優しい歌が歌われ、民族色の強い他の曲とは違った普遍的な魅力が感じられた。
アルバム最後を締めくくる「慰めの涙」は、まるでシュヴァルツコプフが好んで歌ったスイス民謡のような簡素で気楽な3拍子の曲で、「歌うのが好きな人もいれば涙に慰められる人もいる、だから私が泣いていても放っておいて」という詩の内容と一見合わないようにも感じられる。だが、悲しみを明るく歌い飛ばすのも民謡の魅力の一つなのかもしれない。

解説によるとポップはこの録音で、チェコ語、スロヴァキア語、ロシア語、ハンガリー語をすべて原語で歌っているという。その発音がどうこうということは私には分からないが、明瞭な言葉の響きはとても心地よい。その音楽への姿勢は、いつも通り誇張を排し、作品に誠実に向き合っているのが感じられる。美しい高音は繊細であると同時に華やかで、一時も飽きることなく、一気にこれらの小さな民謡たちを最後まで魅力的に聴かせてくれる。

ヤナーチェクの「あの人の馬」はコジェナー&G.ジョンソンの録音(DG)もあるが、あちらが競争しているような早いテンポで若干あわただしい感があるのに比べ、ポップたちのテンポはちょうどいい感じで、印象的なメロディが楽しげに歌われ、パーソンズの弾く馬の表現と後打ちのリズムも素晴らしい。また、プロコフィエフ「修道僧」での二人の絶妙な表現と、ドヴォジャーク「おやすみ」でのこの上なく美しい子守歌の演奏もとりわけ印象的だった。

ジェフリー・パーソンズの数多い録音の中でもこのCDはベストの一つだと思う。「節度がある」という評は共演ピアニストにとってはあまり有難くない言葉だろうが、良い意味で彼の演奏には考え抜かれたコントロールの妙味があり、行き過ぎない範囲でそれぞれの音に最大の息吹を吹き込んでいるとでも言ったらいいだろうか。確かに彼の演奏に民謡のもつ粗野なエネルギーはあまり求められないだろうが、落ち着いた響きの中から作曲家の意図したであろう響きが見事なまでに浮かび上がってくる。卓越したリズム感覚と素晴らしく美しい音色で貫かれ、そのテクニックの巧みさは「修道僧」などに遺憾なく発揮されていた。

上記のCDはすでに廃盤になっているかもしれませんが、手にする機会がありましたらぜひ聴いてみていただけたらと思います。

(佐川吉男氏によるCD解説と、橋本ダナ氏(プロコフィエフ以外)、一柳富美子氏(プロコフィエフ)による訳詩を参照させていただきました。)

| | | コメント (2) | トラックバック (0)

シュヴァルツコプフ日本公演曲目1974年

シュヴァルツコプフ4回目の来日公演は、4種のプログラムで8都市9公演が行われた。演奏家としての来日はこの時が最後である。彼女の公演はこれまでもそうだったが、2日連続で行われることは一度もない。声の管理に留意して最高の状態で披露するためのスケジューリングなのだろう。

4種類中、作曲家のあらわれる回数は以下の通り。
4回:シューベルト、R.シュトラウス、ヴォルフ
3回:シューマン
2回:ブラームス、マーラー
1回:リスト、プフィッツナー、キルピネン、グリーグ、バッハ、グルック、モーツァルト

これまでの3回の来日公演では、全プログラムに共通の作曲家は1人もいなかったが、今回はシューベルト、R.シュトラウス、ヴォルフの3人の作品がすべてのプログラムに含まれているのが興味深い。

また、これまでの来日プログラムでは異なるプログラムに共通の作品を含めることは無かったが、今回の最後(12月10日)に行われた“さよなら”演奏会の曲目は、プログラムA~Cに含まれる曲も多く含んでいる。ドイツリートの歴史を辿るような彼女の十八番ばかり集めた一夜と言えるだろう。おまけに彼女の代名詞のような元帥夫人の一場面まで歌っている(元帥夫人の衣装をつけて歌ったそうである)。

今回の選曲の中で、現在までに録音で聴くことの出来ないレパートリーは以下の通りである。
プログラムA:シューベルト「春の思いD686」;同「春のあこがれD957-3」;ブラームス「ザラマンダーOp. 107-2」
プログラムB:シューベルト「辻音楽師D911-24」;プフィッツナー「孤独な女Op. 9-2」;キルピネン/歌曲集「愛の歌」第2集(全5曲)
プログラムC:グリーグ「ばらのつぼみOp. 18-8」

キルピネンの歌曲集「愛の歌」の中の「小さな歌」だけはDECCAへの最後のレコード用に1979年1月3日にヴィーンで録音されているが、残念ながらお蔵入りとなった。シュヴァルツコプフは「冬の旅」の中の曲を「菩提樹」以外録音で残さなかったが(「菩提樹」もライヴ録音だが)、「辻音楽師」をどのように歌ったのか聴いてみたいものである。

(以下、曲名の日本語表記は原則としてプログラム冊子の記載通り。整理番号のないものには原タイトルを併記。)

--------------------

第4回来日:1974年11~12月

11月12日(火)19時 東京文化会館(プログラムA)
11月15日(金)18時30分 千葉県文化会館(プログラムC)
11月18日(月)18時30分 宮城県民会館(プログラムC)
11月21日(木)19時 立川市市民会館(プログラムB)
11月25日(月)19時 大阪フェスティバル・ホール(プログラムA)
12月2日(月)18時30分 中日劇場(名古屋)(プログラムC)
12月4日(水)19時 東京文化会館(プログラムC)
12月7日(土)19時 藤沢市民会館(プログラムB)
12月10日(火)19時 東京厚生年金会館(“さよなら”演奏会)

●プログラムA 共演:ジェフリー・パーソンズ(P)

シューベルト/春の思いD686;春のあこがれD957-3;菩提樹D911-5;緑野の歌D917
シューマン/歌曲集「リーダークライス」Op. 39より(2.間奏曲;3.森の対話;4.静けさ;9.悲しみ)
ブラームス/静かな夜(In stiller Nacht);私のまどろみはいよいよ浅くOp. 105-2;ザラマンダーOp. 107-2
~休憩~
R.シュトラウス/「三つのオフィーリアの歌」Op. 67-1~3(どうしたら私は本当の恋人を;お早よう,今日はヴァレンタインのお祭;むき出しのまま棺台にのせられ)
ヴォルフ/フィリーネ(Philine);捨てられた娘(Das verlassene Mägdlein);あの国をご存じでしょうか(Kennst du das Land);どんなに長い間(Wie lange schon);あたしの恋人はとてもおチビさん(Mein Liebster ist so klein);いえ、お若い方(Nein, junger Herr);ペンナにあたしの恋人がいる(Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen)

●プログラムB 共演:ジェフリー・パーソンズ(P)

シューベルト/シルヴィアにD891;独りずまいD800;糸を紡ぐグレートヒェンD118;辻音楽師D911-24
シューマン/献呈Op. 25-1;くるみの木Op. 25-3;トランプを占う女Op. 31-2
リスト/三人のジプシー(Die drei Zigeuner)S320
プフィッツナー/孤独な女Op. 9-2
マーラー/ラインの伝説(Rheinlegendchen)
~休憩~
キルピネン/歌曲集「愛の歌(Lieder der Liebe)」第2集(ふるさと;小さな歌;お前のばらを胸につけて;千の山々を越えて;甘美なしめし合わせ)
R.シュトラウス/わが子にOp. 37-3;母親の自慢話Op. 43-2;あした!Op. 27-4
ヴォルフ/明るいお月様が(Wie glänzt der helle Mond);朝露の中を踏みわけて(Wandl' ich in dem Morgentau);炭焼きの女房が酔っぱらって(Das Köhlerweib ist trunken)

●プログラムC 共演:ジェフリー・パーソンズ(P)

シューベルト/音楽に寄せてD547;「ロザムンデ」のロマンスD797-5;子守歌D498;ますD550
グリーグ/最後の春(Letzter Frühling)Op. 33-2;すいれんを手にして(Mit einer Wasserlilie)Op. 25-4;ばらのつぼみ(Die Rosenknospe)Op. 18-8;おん身を愛す(Ich liebe dich)Op. 5-3
マーラー/魚に説教するパドヴァの聖アントニウス(Des Antonius von Padua Fischpredigt);ほのかな香りを(Ich atmet' einen linden Duft);いたずらっ子をしつけるために(Um schlimme Kinder artig zu machen)
~休憩~
ヴォルフ/春に(Im Frühling);思いみよ,おお心よ(Denk' es, o Seele);妖精の歌(Elfenlied);眠っている幼児キリスト(Schlafendes Jesuskind);隠棲(Verborgenheit);ことづて(Auftrag)
R.シュトラウス/親しき幻Op. 48-1;父がいいましたOp. 36-3;あらしの日Op. 69-5

●“さよなら”演奏会(Farewell Concert) 共演:ジェフリー・パーソンズ(P)

バッハ/御身はわがかたわらにBWV508
グルック/小川は流れる(La rencontre imprévue: Einem Bach der fließt)
モーツァルト/すみれK. 476;いましめK. 433(416c)
シューベルト/シルヴィアにD891;菩提樹D911-5;糸を紡ぐグレートヒェンD118;幸福D433
R.シュトラウス/楽劇「ばらの騎士」Op. 59:第1幕より~元帥夫人のエピソード(Da geht er hin ~ Der Herr Graf weiss ohnehin.)
~休憩~
ヴォルフ/あの国をご存じでしょうか(Kennst du das Land);捨てられた娘(Das verlassene Mägdlein);フィリーネ(Philine)
シューマン/くるみの木Op. 25-3;トランプを占う女Op. 31-2
ブラームス/私のまどろみはいよいよ浅くOp. 105-2;甲斐なきセレナーデOp. 84-4
ヴォルフ/どんなに長い間(Wie lange schon);いえ、お若い方(Nein, junger Herr);ペンナにあたしの恋人がいる(Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen)

--------------------

彼女の演奏が日本で披露されたのはこの年で最後だったが、公開講座の講師として1984年に再来日している。

彼女とジェフリー・パーソンズは1979年3月19日にチューリヒ・オペラ・ハウスでリサイタルを開いたが、その3日後に彼女を常にプロデュースしてきた夫のウォルター・レッグが亡くなり、それと共に彼女の演奏家としての経歴にピリオドが打たれた。

| | | コメント (2) | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

CD DVD J-Pop LP 【ライラックさんの部屋】 おすすめサイト アイヒェンドルフ アンゲーリカ・キルヒシュラーガー アンティ・シーララ アーウィン・ゲイジ アーリーン・オジェー イアン・ボストリッジ イェルク・デームス イタリア歌曲 イモジェン・クーパー イングリート・ヘブラー ウェブログ・ココログ関連 エディタ・グルベロヴァ エディト・マティス エリック・ヴェルバ エリーザベト・シュヴァルツコプフ エリー・アーメリング エルンスト・ヘフリガー オペラ オルガン オーラフ・ベーア カウンターテナー カール・エンゲル ギュンター・ヴァイセンボルン クラーラ・シューマン クリスタ・ルートヴィヒ クリスティアン・ゲアハーアー クリスティーネ・シェーファー クリストフ・プレガルディアン クリスマス グリンカ グリーグ グレアム・ジョンソン ゲアハルト・オピッツ ゲアハルト・ヒュッシュ ゲロルト・フーバー ゲーテ コルネーリウス コンサート コントラルト歌手 シェック シベリウス シュテファン・ゲンツ シューベルト シューマン ショスタコーヴィチ ショパン ジェシー・ノーマン ジェフリー・パーソンズ ジェラルド・ムーア ジェラール・スゼー ジュリアス・ドレイク ジョン・ワストマン ソプラノ歌手 テノール歌手 テレサ・ベルガンサ ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ ディートリヒ・ヘンシェル トマス・ハンプソン トーマス・E.バウアー ドビュッシー ドルトン・ボールドウィン ナタリー・シュトゥッツマン ノーマン・シェトラー ハイドン ハイネ ハルトムート・ヘル ハンス・ホッター バス歌手 バッハ バリトン歌手 バレエ・ダンス バーバラ・ヘンドリックス バーバラ・ボニー パーセル ピアニスト ピーター・ピアーズ ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル フェリシティ・ロット フランク フランス歌曲 フリッツ・ヴンダーリヒ ブラームス ブリテン ブログ プフィッツナー ヘルマン・プライ ヘルムート・ドイチュ ベルク ベートーヴェン ペーター・シュライアー ペーター・レーゼル ボドレール マティアス・ゲルネ マルコム・マーティノー マーク・パドモア マーティン・カッツ マーラー メシアン メゾソプラノ歌手 メンデルスゾーン メーリケ モーツァルト ヤナーチェク ヨーハン・ゼン ルチア・ポップ ルドルフ・ヤンセン ルードルフ・ドゥンケル レナード・ホカンソン レルシュタープ レーナウ レーヴェ ロシア歌曲 ロジャー・ヴィニョールズ ロッテ・レーマン ロバート・ホル ローベルト・フランツ ヴァルター・オルベルツ ヴァーグナー ヴェルディ ヴォルフ ヴォルフガング・ホルツマイア ヴォーン・ウィリアムズ 作曲家 作詞家 内藤明美 北欧歌曲 合唱曲 小林道夫 岡原慎也 岡田博美 平島誠也 指揮者 日記・コラム・つぶやき 映画・テレビ 書籍・雑誌 歌曲投稿サイト「詩と音楽」 演奏家 白井光子 目次 研究者・評論家 藤村実穂子 音楽 R.シュトラウス