モーツァルトの誕生日に寄せて「喜びに寄せて(An die Freude)」

An die Freude, K. 53(47e)
 喜びに寄せて

1:
Freude, Königin der Weisen,
Die, mit Blumen um ihr Haupt,
Dich auf güld'ner Leier preisen,
Ruhig, wenn die Torheit schnaubt:
Höre mich von deinem Throne,
Kind der Weisheit, deren Hand
Immer selbst in deine Krone
Ihre schönsten Rosen band!
 喜び、それは賢さの女王、
 頭のまわりを花で飾り、
 金のライアーであなたを称え、
 愚かさが鼻息を荒げても、落ち着いている。
 あなたの玉座から私の話をお聞きください、
 賢さの子、その手は
 常に自分であなたの冠を
 もっとも美しいバラで編んでいた!

2:
Rosen, die mit frischen Blättern,
Trotz des Nords, unsterblich blüh'n,
Trotz des Südwinds, unter Wettern,
Wenn die Wolken Flammen sprüh'n:
Die dein lockicht Haar durchschlingen,
Nicht nur an Cytherens Brust,
Wenn die Grazien dir singen,
Oder bei Lyäens Lust.
 バラは青々した葉を付け、
 北方だろうが、枯れずに咲く、
 南風に吹かれようが、雷雨にさらされようが、
 雲が炎を放つときでも。
 バラはあなたの巻き毛の髪にもからみつくのだ、
 それは美の女神キュテレイア(アフロディーテ)の胸を飾るだけでない、
 美の女神グラティアがあなたに歌ったり、
 酒神リュシオス(ディオニュソス)のところで楽しむときに。

3:
Sie bekränzen dich in Zeiten,
Die kein Sonnenblick erhellt,
Sahen dich das Glück bestreiten,
Den Tyrannen uns'rer Welt,
Der um seine Riesenglieder
Donnerndes Gewölke zog
Und mit schrecklichem Gefieder
Zwischen Erd' und Himmel flog.
 バラはあなたを花輪で飾る、
 太陽の輝きが照らさない時に。
 幸福はあなたが反論しているのを見た、
 われらの世界の暴君に向かって。
 彼は巨大な四肢のまわりに
 雷鳴轟く雲の群れを浮かばせ、
 そしておそろしい羽で
 大地と空の間を飛び回った。

4:
Dich und deine Rosen sahen
Auch die Gegenden der Nacht
Sich des Todes Throne nahen,
Wo der kalte Schrecken wacht.
Deinen Pfad, wo du gegangen,
Zeichnete das sanfte Licht
Cynthiens mit vollen Wangen,
Die durch schwarze Schatten bricht.
 あなたとあなたのバラを見たのだ、
 夜になった地域でもまた、
 死の玉座がそれらに近づくのを。
 そこでは冷たい戦慄が目覚めている。
 あなたが歩んだ小道を
 穏やかな光が線を描いた、
 ふくよかな頬のキュテレイアの光が。
 彼女は黒い影の中から現れるのだ。

5:
Dir war dieser Herr des Lebens,
War der Tod nicht fürchterlich,
Und er schwenkete vergebens
Seinen Wurfspieß wider dich:
Weil im traurigen Gefilde
Hoffnung dir zur Seite ging
Und mit diamant'nem Schilde
Über deinem Haupte hing.
 あなたにはこの生の支配者である
 死は恐ろしくなかった。
 そして死は無駄に振り回した、
 投げ槍をあなたに向けて。
 なぜなら、わびしい平野で
 希望があなたの脇に行き、
 そしてダイアモンドの盾をもって
 あなたの頭上に掛かっていたから。

6:
Hab' ich meine kühnen Saiten
Dein lautschallend' Lob gelehrt,
Das vielleicht in späten Zeiten
Ungeborne Nachwelt hört;
Hab' ich den beblümten Pfaden,
Wo du wandelst, nachgespürt
Und von stürmischen Gestaden
Einige zu dir geführt:
 私は自らの大胆な心に、
 あなたに向けて大きく響き渡る賛美を教えた、
 ひょっとすると晩年に
 まだ生まれていない後世が聞くかもしれない賛美を。
 私は花咲き乱れた小道を、
 あなたが歩いた小道をたどり、
 そして嵐吹き荒れる岸辺から
 何人もあなたのもとへ連れて行った。

7:
Göttin, o so sei, ich flehe,
Deinem Dichter immer hold,
Daß er schimmernd' Glück verschmähe,
Reich in sich, auch ohne Gold;
Daß sein Leben zwar verborgen,
Aber ohne Sklaverei,
Ohne Flecken, ohne Sorgen
Weisen Freunden teuer sei!
 女神よ、おお、かくあれと、私は願う。
 あなたの詩人に常に好意をもっていておくれと、
 彼がかすかな幸福をすげなく拒絶して、
 金(きん)はなくとも、心豊かでいられるように。
 彼の人生は人に知られてはいないが、
 奴隷でなく、
 汚点もなく、心配事もない、
 賢い友にとってかけがえのない存在であれ!

詩:Johann Peter Uz (1720-1796)
曲:Wolfgang Amadeus Mozart (1756-1791)

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本日1月27日はモーツァルトの265歳の誕生日!というわけで、彼の一番最初の歌曲を聴き比べてみます。

モーツァルト12歳の時に作られた「喜びに寄せて」はウーツの詩による全7節からなる有節歌曲です。多くの録音では最初と最後の節(つまり第1節と第7節)を演奏していますが、プライのように第7節の代わりに第4節を歌うと、第1節との内容的なつながりが感じられます。
ちなみに以前この作品について投稿した記事はこちらです。

●ヘルマン・プライ(BR) & ベルンハルト・クレー(P)
Hermann Prey(BR) & Bernhard Klee(P)

第1,4節。1975年11月録音。プライがマティスのご主人のクレーのピアノで歌っています。Deutshce Grammophonでマティスと分担してモーツァルト歌曲全集を作った時の録音です。プライは荘厳な響きで真摯に歌っています。クレーは第4節で装飾を加えていて華やかさを加えています。

●ルート・ツィーザク(S) & ウルリヒ・アイゼンローア(P)
Ruth Ziesak(S) & Ulrich Eisenlohr(P)

第1,7節。ツィーザクのしっとりとした歌唱に聞き惚れてしまいます。

●バーバラ・ボニー(S) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Barbara Bonney(S) & Geoffrey Parsons(P)

第1,7節。1990年8月録音。かなりゆっくり目のテンポで噛みしめるように歌うボニーの歌が素晴らしいです。楽譜付き

●エリー・アーメリング(S) & ドルトン・ボールドウィン(P)
Elly Ameling(S) & Dalton Baldwin(P)

第1,7節。1977年8月録音。アーメリングは他の歌手に比べて明るい表情で軽やかに歌っていて、楽しい気分にさせてくれます。ボールドウィンのタッチは明らかにこの当時の鍵盤楽器を意識した弾き方で、明瞭です。

●【ピアノパートのみ】フランクリン・アギラル(P)
Franklin Aguilar(P)

ゆっくり目のテンポなので合わせて歌いやすいと思います!2節分演奏しています。

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エリー・アーメリングが歌うモーツァルト『コジ・ファン・トゥッテ』抜粋(1958.2.2, Hilversum)

Mozart: "Così fan tutte, KV. 588" excerpts (Hilversum, 1958)

Recording from February 2, 1958 in Hilversum, Netherlands

Elly Ameling(エリー・アーメリング) (Fiordiligi)
Sophia van Sante(ソフィア・ファン・サンテ) (Dorabella)
Simon van der Geest(シモン・ファン・デア・ヘースト) (Ferrando)
Jan Derksen(ヤン・デルクセン) (Guglielmo/Don Alfonso)
Netherlands Radio Chamber Orchestra(オランダ放送室内管弦楽団)
Maurits van den Berg(マウリツ・ファン・デン・ベルフ) (C)

I. "Overture(序曲)"   0:00
II. "Ah guarda sorella(4.ねえ見て、妹)"(Fiordiligi/Dorabella)   4:55
III. "Non siate ritrosi(15.恥ずかしがらないで)"(Guglielmo)   9:50
IV. "Temerari.... Come scoglio(13.向こう見ずな人たちね…14.岩のように動かず)"(Fiordiligi)   11:12
V. "Soave sia il vento(10.風は優しく、波は穏やかに)"(Fiordiligi/Dorabella/Don Alfonso)   17:00
VI. "Un aura amorosa(17.愛の吐息)"(Ferrando)   19:53
VII. "Ah scostati.... Smanie implacabili(10.あっち行って!…11.耐えがたい不安が)"(Dorabella)   24:04
VIII. "Fra gli amplessi(29.もうすこしすれば, いとしい婚約者の)"(Fiordiligi/Ferrando)   27:32

オランダのヒルファスムで1958年におそらく放送録音として収録されたモーツァルト『コジ・ファン・トゥッテ KV. 588』の抜粋がアップされていました。
ここで注目すべきなのがフィオルディリージ役のエリー・アーメリングです。
1972年のエド・ドゥ・ヴァールト指揮のよるモーツァルト・アリア集では"Temerari.... Come scoglio"を録音していますが、全曲盤のスタジオ録音に参加することはありませんでした。
1958年Hilversumでの録音が演奏会形式だったのか、それともオペラとして上演されたのかは分かりませんが、おそらく前者だったのではないかと想像しています。
彼女の75歳記念のCD(75 jaar)にIVとVIIIは収録されており、バリトンのヤン・デルクセンの80歳記念CDにはVが収録されています。
ここでアーメリングはII,IV,V,VIII番目の4曲を歌っています。
1933.2.8生まれのアーメリングにとって数日後に25歳を迎えるという若かりし頃の録音ということになります。
すでにテクニック的には完成されており、声もディクションも完璧で、すでに非凡さがはっきり分かります。
ぜひお聞き下さい!

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アーメリングの「エクスルターテ・ユビラーテ(踊れ、喜べ、幸いなる魂よ)」(1969年11月8日, アムステルダム・コンセルトヘバウ)

アーメリングの歌う「エクスルターテ・ユビラーテ(踊れ、喜べ、幸いなる魂よ)」の放送録音が聴けるサイトがありましたので、ご紹介します。
ただし、Internet Explorerでサイトを開くと画面がずれて、再生ボタンが表示されませんので、お手数ですが、下記のサイトを開く時はブラウザをGoogle Chromeにして下さい。

 こちら

36歳のアーメリングのまばゆいほどのつやつやした美声を堪能できます。
指揮は彼女との共演も多いハイティンクです。

Mozart: Exsultate, jubilate

rec. 8 November 1969, Concertgebouw, Amsterdam

Elly Ameling, soprano
Netherlands Radio Philharmonic Orchestra
Bernard Haitink, Conductor

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ペーター・シュライアー&ルドルフ・ドゥンケル/モーツァルト歌曲ライヴ動画(1979年モスクワ)

往年の名テノール、ペーター・シュライアーの歌曲コンサートの動画がアップされていたので、ご紹介したい。
ファンにとってはシュライアーのライヴ映像が続々アップされるのは有難いことである。
1979年モスクワでのライヴとのことで、以前のリヒテルとの「冬の旅」といい、ロシアでのライヴが続々発掘されているのは偶然だろうか。
今回のピアニストはルドルフ・ドゥンケル。
かつて、テーオ・アーダムの共演者として、何度も来日した歌曲ピアニストである。
シュライアーともドヴォルジャークの「ジプシーの歌」などの録音で魅力的な演奏を聴かせていた。
ドゥンケルはすでに亡くなってしまったが、生で一度だけ聴くことが出来たのはよい思い出である(アーダムとの来日公演で)。
ここでの動画は、まず女性がロシア語で何か挨拶をしてから、二人の演奏者を呼び、演奏が始まる。
その演奏についてはぜひ動画をご覧いただきたい。
端正で明晰なシュライアーの歌唱がモーツァルトの歌曲にぴたっとはまった名演である。
ドゥンケルも堅実ながらシュライアーにどこまでも溶け込んだ演奏をしている。

それではお楽しみ下さい。全部で50分ぐらいするので、お気に入りの曲だけ下の開始時間を参考に聴いてもいいでしょうし、時間のある時に全曲まとめて聴くのもコンサートに参加しているような臨場感が味わえるのではないでしょうか。

録音:1979年、モスクワ(Moscow)

ペーター・シュライアー(Peter Schreier)(T)
ルドルフ・ドゥンケル(Rudolf Dunckel)(P)

Peter Schreier singing Mozart lieder, live in Moscow in 1979. The pianist is Rudolf Dunckel. Timing below:

01:46 - Ich würd' auf meinem Pfad(私は私の小道で), K.390(340b) (An die Hoffnung(希望に寄せて))
04:55 - Die Zufriedenheit(満足), K.349(367a)
07:29 - Die betrogene Welt(偽りの世), K.474
11:10 - Komm, liebe Zither, komm(おいで、いとしいツィターよ), K.351(367b)
13:23 - Das Veilchen(すみれ), K.476
16:35 - Das Lied der Trennung(別れの歌), K.519
23:15 - Abendempfindung(夕べの想い), K.523
29:13 - An Chloe(クローエに), K.524
32:50 - Das Traumbild(夢の姿), K.530
38:04 - Dans un bois solitaire(寂しい森の中で), K.308(K6.295b) (Einsam ging ich jüngst im Haine)
41:35 - Die ihr des unermesslichen Weltalls Schöpfer ehrt(小カンタータ『無限なる宇宙の創造者を崇敬する君達よ』), K.619, Little German Cantata

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東京二期会/モーツァルト作曲《イドメネオ》(2014年9月13日 新国立劇場 オペラパレス)

ウィーン・オリジナル・プロダクション
《アン・デア・ウィーン劇場との共同制作》
東京二期会オペラ劇場 

《イドメネオ》

オペラ全3幕
日本語字幕付き原語(イタリア語)上演
台本:ジャンバッティスタ・ヴァレスコ
原案:アントワーヌ・ダンシェ『イドメネ』
作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト

2014年9月13日(土)15:00 新国立劇場 オペラパレス
上演予定時間:約3時間30分(第1&2幕:90分-休憩:25分-第3幕:70分)

イドメネオ:又吉秀樹
イダマンテ:小林由佳
イリア:経塚果林
エレットラ:田崎尚美
アルバーチェ:北嶋信也
大祭司:新津耕平
声:倉本晋児

助演:猪ヶ倉光志、和田京三
子役(映像/イダマンテの幼少時代):岡田拓也

合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京交響楽団
指揮:準・メルクル

演出:ダミアーノ・ミキエレット

装置:パオロ・ファンティン
衣裳:カルラ・テーティ
照明:アレクサンドロ・カルレッティ
演出補:エレオノーラ・グラヴァグノラ
合唱指揮:大島義彰
演出助手:菊池裕美子
舞台監督:村田健輔
公演監督:曽我榮子

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二期会のオペラ「イドメネオ」の2日目キャスト公演を見てきた。
このオペラ、実際に生で見るのははじめてだが、私にとっては念願の実演だった。
ひいきのソプラノ、エリー・アーメリングがかつて唯一舞台で全幕上演に出演したのが、このオペラのイリア役だったのだ。
神話の世界を扱ったオペラセリアだが、今回のダミアーノ・ミキエレットの演出では時代を特定せず、服装もスーツやブランド服に身を包んだりしている。
舞台は一面砂が敷き詰められ、その上に無数の靴が散乱している。
戦争の跡をあらわしているようだ。
途中で椅子が大量に持ち込まれたり、中央にベッドが置かれたりする。
敵国クレタにとらわれたトロイヤの王女イリアは冒頭から登場するが、お腹が大きく、演出の結末をすでに予感させる。
イリアにとって敵国の王子でありながら恋心を抱いている相手のイダマンテは、メゾソプラノ、カウンターテノール、テノールなど、様々な声種によって歌われるようだが、今回はメゾソプラノが起用されている。
いわゆるズボン役である。
アルゴスの王女エレットラは、えせセレブ風のいでたちで登場。
気性は荒く、彼女もイダマンテを狙っているため、イリアに辛くあたる。
だが、単なるこわい女ではなく、どことなくコミカルな雰囲気がついて回る。
息子をネプチューンに生贄として捧げたくない父イドメネオの命令で、イダマンテはエレットラと共にアルゴスに避難することになるのだが、それを喜んだエレットラがブランド品の袋を大量に持って登場、脱いでは着てを繰り返す。
彼女に限らず、この演出服を脱いだり着たりの場面が多い(イダマンテ、エレットラ、映像の子役、合唱団)。
そこに演出家の意味がそれぞれ込められているのだろう。
イドメネオは戦争に勝ったものの血に対する恐怖心が生まれたようで、助演の血付け役たちがイドメネオの服にべったり血をつける場面もある。
イドメネオとイダマンテの親子関係を強調したのが、オペラの序曲中に幕に映し出された子役のイダマンテに父イドメネオがスーツを着せる場面である。
これがあって、2幕で父が息子に冷たく接することに対する息子の戸惑いが生きてくるとも言えるだろう。
最後、神の信託が下り、イドメネオが息子に王位を譲り、イリアを妃に命じたことにより、エレットラはすべてを悟り、狂い死ぬ。
その歌がまた素晴らしく、さらに泥だらけになってぶっ倒れる最期は強烈で、聴衆からの一番盛んな拍手を受ける結果となった。
また王位を譲ったイドメネオが静かに横になると息絶える設定になっていたが、その後、イドメネオの上に登場者たちが砂をかけ弔う。
群衆が去ると、イリアが産気づき、イダマンテとの子供を出産するシーンを経て、幕が下りた(この場面では普段は省略されるバレエ音楽が使われたらしい)。

登場者たちの喜怒哀楽を、この砂地と靴の舞台、さらに持ち込まれる椅子やスーツケース、ベッドなどを用いつつ、効果音も加えながら、基本的に暗めの色合いの中で描き出した。
この演出、群衆役の合唱団が一斉に体を掻き出したシーンはちょっとよく分からなかったが、それなりに納得の出来た面白い演出だったように感じた。

歌手たちは歌いにくい舞台の上で大健闘。
際立って印象に残ったのが、タイトルロールのイドメネオを歌った又吉秀樹である。
私ははじめて聴いたが、まさに逸材である。
美しいテノールの響きに奥行きも感じられ、よく伸びるボリュームも素晴らしかった。
スターの誕生を見た思いがした。

それからイダマンテの小林由佳はズボン役を見事にこなし、声、歌、容姿、演技ともに若々しい青年になりきっていた。
また、その恋人イリアの経塚果林もぴったりのキャスティング。
清楚だが芯の強い雰囲気がその歌唱と演技から伝わってきた。

エレットラの田崎尚美は己の信ずるままに生きるセレブをうまく演じてみせた。
だが、自分の思い通りにいかない悲哀のようなものも感じられ、それが表情の奥行きを作っていた。
怖いのだが、どこか憎めないコミカルなところは彼女の持ち味なのか、演出の狙ったところなのか、そこはあえて追求しないでおこう。

アルバーチェの北嶋信也はイドメネオの忠臣としてのけなげさが感じられた。
結構長めのアリアもあり、演出上も単なる脇役ではない重要さを持たされていた。

二期会合唱団は歌はもちろん、演技も健闘していて、拍手を送りたい。

準・メルクル指揮の東京交響楽団は鋭利さもありながら、軽やかさも失わず、心地よい音楽を作り上げた。
通奏低音の箇所はピアノとチェロが使用されていた。

なお、舞台写真などを多く掲載しているぶらあぼのサイトをご紹介しておきます。
 こちら

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モーツァルト/「コジ・ファン・トゥッテ」(2011年5月29日 新国立劇場 オペラパレス)

モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart)/「コジ・ファン・トゥッテ(Così fan tutte)」
【全2幕/イタリア語上演/字幕付】(3時間25分:休憩30分含む)

2011年5月29日(日) 14:00 新国立劇場 オペラパレス (4階3列25番)

フィオルディリージ(Fiordiligi):マリア・ルイジア・ボルシ(Maria Luigia Borsi)(S)
ドラベッラ(Dorabella):ダニエラ・ピーニ(Daniela Pini)(MS)
デスピーナ(Despina):タリア・オール(Talia Or)(S)
フェルランド(Ferrando):グレゴリー・ウォーレン(Gregory Warren)(T)
グリエルモ(Guglielmo):アドリアン・エレート(Adrian Eröd)(BR)
ドン・アルフォンソ(Don Alfonso):ローマン・トレーケル(Roman Trekel)(BR)

合唱:新国立劇場合唱団(New National Theatre Chorus)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団(Tokyo Philharmonic Orchestra)
指揮:ミゲル・A.ゴメス=マルティネス(Miguel A. Gómez-Martínez)

演出:ダミアーノ・ミキエレット(Damiano Michieletto)
美術・衣裳:パオロ・ファンティン(Paolo Fantin)
照明:アレッサンドロ・カーレッティ(Alessandro Carletti)

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「トリスタン」以来久しぶりに新国立劇場に出かけてきた。
演目は「コジ・ファン・トゥッテ」。
放射線漏れによる健康上の不安から当初予定されていた外国人のうちの3人がキャンセルし、代理のアーティストを呼んで開催した。
こういう時でもスタンバイしている日本人カバー歌手を使わずにわざわざ海外から呼ぶものなのかと若干不思議な気持ち(何の為のカバー歌手?)。

今回の演出は舞台をキャンプ場にして、ドン・アルフォンソの経営するキャンプ場に2組の恋人たちがやってくるという設定。
舞台装置は実によく出来ていて、緑豊かな自然を見事に再現していた。
舞台は回転式になっていて、アルフォンソの逗留している小屋やら池やら焚き火やらが回転することによって順にあらわれては消えていく。
池には本当に水が張ってあり(新国立劇場は「水」を使うことが多い印象を受ける)、男性陣2人が水着1枚になって遊ぶシーンすらある(女性陣も服を着たまま一緒に池で戯れるが、水温はどのぐらいなのだろうか、湯気が出ていないから寒いのではないか、などとどうでもいいことを思ってしまった)。

最後に種明かしを聞いた男女たちはそれぞれ怒りのあまりばらばらに散っていき、最後に一人ぽつんとアルフォンソがとり残されて幕が下りるという何ともほろ苦い終わり方ではあった。
しかし、あれだけ騙しあいをしておいて、元のさやに戻るというのは現実味に乏しいだろうから、今回の演出は理にかなっているのではないか。

歌手は代役も含めて歌唱、演技ともに満足。
フィオルディリージ役のボルシなどは休憩後に急にエンジンがかかったような素晴らしい歌を聴かせてくれた。
ドラベッラ役のピーニは終始安定した歌だった。
男声陣も尻上がりに良くなってきたが、ドン・アルフォンソ役のローマン・トレーケルはやはり素晴らしい。
堂々たる見事な歌唱である。

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オケと歌が若干ずれて聞こえる箇所もあったが、全体的には楽しい舞台だった。
それにしても歌手たちは始終喧嘩したり喜怒哀楽の激しいこと!
もみ合いになる場面では傷でもつかなかったか、見ている方が心配になるほど。
持っているかばんを大きな音を立ててほっぽり投げたりして音楽外の音にびっくりさせられる場面もしばしばあった。

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「子供の遊び」K598(モーツァルト作曲)

モーツァルト・イヤーも残りわずか。彼が最後に書いた3つの歌曲のうち2曲の詩をすでにご紹介してきたが、最後に何とも天真爛漫で楽しい作品を。「子供の遊び」は「春への憧れ」と同じOverbeckの詩による有節歌曲で、8分の3拍子、イ長調。「元気に(Munter)」と指示されている。「春への憧れ」同様に、ピアノの右手は歌声部をそのままなぞる。子供がしゃべっているように訳すのは無理がある箇所もあり、かなり難しかったが、オーファーベクの詩自体も大人の視点が若干見えてしまっている気がしなくもない。全9節の長い詩だが、実際にはいくつかの節を選んで演奏される。なお、歌詞は版によって若干異なる(特に第8節)が、以下は新全集の楽譜に掲載されている歌詞に従った。

Das Kinderspiel, K. 598
 子供の遊び

[第1節]
Wir Kinder, wir schmecken
Der Freuden recht viel!
Wir schäkern und necken
(Versteht sich, im Spiel!)
Wir lärmen und singen
Und rennen uns um
Und hüpfen und springen
Im Grase herum!
 ぼくら子供って、
 楽しいことが本当に好きなんだ!
 ふざけたり、からかったりね
 (もちろん、遊びでだよ!)
 騒いだり、歌ったり、
 駆け回ったり、
 飛んだり跳ねたりするんだ、
 草むらでね!

[第2節]
Warum nicht? -  Zum Murren
Ist's Zeit noch genug!
Wer wollte wohl knurren,
Der wär' ja nicht klug.
Wie lustig steh'n dorten
Die Saat und das Gras!
Beschreiben mit Worten
Kann keiner wohl das.
 遊んでもいいでしょ。文句を言う時間なら
 まだ十分にあるじゃない!
 不平を言おうとするヤツなんか
 賢くないよ。
 なんてうれしそうに、あの
 苗や草が生えていることだろう!
 言葉じゃ
 誰も言いあらわせないほどだ。

[第3節]
Ha, Brüderchen, rennet
Ha, wälzt euch im Gras!
Noch ist's uns vergönnet,
Noch kleidet uns das.
Ach! werden wir älter,
So schickt sich's nicht mehr;
Dann treten wir kälter
Und steifer einher.
 さあ、弟たち、駆けっこだ、
 さあ、草の中で転がろう!
 まだぼくらはそうやっていいんだ、
 まだぼくらにふさわしいんだ。
 ああ!もっと年上になると
 もうそういうことが似合わなくなってしまう。
 そのころにはぼくらはもっと冷静に
 ぎこちなく歩いているんだろうな。
   
[第4節]
Ei, seht doch, ihr Brüder,
Den Schmetterling da!
Wer wirft ihn uns nieder?
Doch schonet ihn ja!
Dort flattert noch einer,
Der ist wohl sein Freund;
O schlag' ihn ja keiner,
Weil jener sonst weint!
 ほら、見てよ、弟たち、
 あそこに蝶々が!
 ぼくらのうち誰が捕まえる?
 でもやっぱり捕まえないでおこう!
 あそこにもう一匹ひらひら飛んでいるよ、
 あれはきっとさっきの蝶の友達だよ。
 おお、この蝶を誰も捕まえないでね、
 そうでないとさっきの蝶が泣いてしまうから!

[第5節]
Wird dort nicht gesungen? -
Wie herrlich das klingt!
Vortrefflich, ihr Jungen!
Die Nachtigall singt.
Dort sitzt sie! Seht oben
Im Apfelbaum dort;
Wir wollen sie loben,
So fährt sie wohl fort.
 あそこで何かが歌ってないかい?
 なんて素敵な響きなんだ!
 素晴らしいよね、きみたち少年!
 ナイティンゲールが歌っているんだよ。
 あそこにいる!上を見て、
 あのリンゴの木にいるよ。
 ぼくらがこのナイティンゲールをほめてあげよう、
 そうすればたぶん歌を続けてくれるさ。

[第6節]
Komm, Liebchen, hernieder
Und lass' dich beseh'n!
Wer lehrt dich die Lieder?
Du machst es recht schön!
O laß dich nicht stören,
Du Vögelchen du!
Wir alle, wir hören
Sehr gerne dir zu.
 下りて来て、かわいいきみ、
 そしてきみをよく見せてよ!
 誰がきみにその歌を教えたの?
 本当に美しい声だよ!
 おお、ぼくらにはおかまいなく、
 小鳥さん!
 ぼくらはみんな
 とってもきみの歌が聞きたいんだ。

[第7節]
Wo ist sie geblieben?
Wir seh'n sie nicht mehr!
Da flattert sie drüben!
Komm wieder, komm her!
Vergeblich! die Freude
Ist diesmal vorbei!
Ihr tat wer zuleide,
Sei, was es auch sei. 
 どこにいるんだい?
 もう見えなくなってしまったけど!
 あそこ、向こうで羽ばたいているよ!
 またおいでよ、こっちへ来て!
 無駄だったか!楽しみが
 今度は行ってしまったなぁ!
 誰かがいじめたんだね、
 何をしたのかはともかく。

[第8節]
Laßt Kränzchen uns winden,
Viel Blumen sind hier!
Wer Veilchen wird finden,
Empfänget dafür
Von Mutter zur Gabe
Ein Mäulchen, wohl zwei:
Juchheißa! Ich habe,
Ich hab' eins, Juchhei!
 花輪を編もうよ、
 ここにいっぱいお花があるよ!
 スミレを見つけた人は
 代わりに受け取るんだ、
 お母さんからプレゼントとして
 1回のキッスを、もしかして2回かも。
 ヤッター!見つけたぞ、
 ぼくが1輪見つけたんだ、ヤッター!

[第9節]
Ach, geht sie schon unter,
Die Sonne, so früh?
Wir sind ja noch munter;
Ach, Sonne, verzieh!
Nun morgen, ihr Brüder!
Schlaft wohl! gute Nacht!
Ja, morgen wird wieder
Gespielt und gelacht!
 ああ、もう沈んじゃうの、
 太陽、こんなに早く?
 ぼくらはまだ元気なのに。
 ああ、太陽、まだいてよ!
 また明日、きみたち兄弟!
 よく眠ってね!おやすみ!
 そう、明日になったらまた
 遊んだり笑ったりしようね!

詩:Christian Adolf Overbeck (1755-1821)

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●録音と演奏されている節(録音年順)

1)Irmgard Seefried(S) Gerald Moore(P):1、2、9節(TESTAMENT:SBT 1026:1950年11月16-18日録音)
2)Rita Streich(S) Erik Werba(P):1、2、9節(Deutsche Grammophon:474 738-2:1956年5月27-29日&10月13日録音)
3)Ingeborg Hallstein(S) Erik Werba(P):1、2、9節(ORFEO:C 709 062 I:1968年8月19日ザルツブルク・ライヴ録音)
4)Hermann Prey(BR) Jörg Demus(Hammerklavier):1、2、3、9節(PHILIPS:442 687-2:1970年代前半頃録音)
5)Elly Ameling(S) Dalton Baldwin(P):1、2、9節(PHILIPS:416 893-2:1977年8月14-16, 18, 20-23日録音)
6)Arleen Augér(S) Erik Werba(Hammerklavier):1、6、9節(ORFEO:C 509 011 B:1978年5月11日ザルツブルク・ライヴ録音)
7)Edith Mathis(S) Karl Engel(P):1、2、3、5、9節(Novalis:CRCB-1501:1986年8月録音)
8)Barbara Bonney(S) Geoffrey Parsons(P):1、2、3、8、9節(TELDEC:2292-46334-2:1990年8月録音)
9)Josef Protschka(T) Helmut Deutsch(P):1、2、3、9節(CAPRICCIO:10/446/447:1991年録音)

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「春のはじめに」K597(モーツァルト作曲)

Ch. シュトゥルムの詩による「春」(モーツァルト自身は「春のはじめに」と題した)は、モーツァルトが最後に作曲した歌曲3曲のうちの1曲。
同じ1月14日にはほかに「春への憧れ」「子供の遊び」が作曲されている。

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Im Frühlingsanfang (Der Frühling), K. 597
 春のはじめに(春)

モーツァルト:1791年1月14日、ヴィーンにて作曲

[第1節]
Erwacht zum neuen Leben
Steht vor mir die Natur,
Und sanfte Lüfte wehen
Durch die verjüngte Flur!
Empor aus seiner Hülle
Drängt sich der junge Halm;
Der Wälder öde Stille
Belebt der Vögel Psalm.
 新たな生命に目覚めた
 自然が私の前に佇んでいます。
 そして穏やかな風は
 若返った野を渡ります。
 覆いの中から上へと
 若い茎が押し出てきます。
 森々の荒涼とした静寂に
 鳥たちの歌が息吹を吹き込みます。

[第2節]
O Vater, deine Milde
Fühlt Berg und Tal und Au,
Es grünen die Gefilde,
Beperlt vom Morgentau;
Der Blumenweid' entgegen
Blöckt schon die Herd' im Tal,
Und in dem Staube regen
Sich Würmer ohne Zahl.
 おお、父よ、あなたの寛大さを
 山や谷や野原が感じて、
 野は緑になり、
 朝露で覆われます。
 花咲く牧場の向かいで
 すでに谷間の家畜の群れがかたまっています。
 そして塵の中では
 無数の虫がうごめいています。

[第3節]
Glänzt von der blauen Feste
Die Sonn' auf unsre Flur,
So weiht zum Schöpfungsfeste
Sich jede Kreatur,
Und alle Blüten dringen
Aus ihrem Keim hervor,
Und alle Vögel schwingen
Sich aus dem Schlaf empor.
 青空の
 太陽は私たちの野の上で輝いています。
 こうして創造者の宴のために
 被造物はみな自らを捧げるのです。
 そしてあらゆる花が
 芽から吹き出て、
 鳥はみな
 眠りから飛び立つのです。

[第4節]
Die Flur im Blumenkleide
Ist, Schöpfer, dein Altar,
Und Opfer reiner Freude
Weiht dir das junge Jahr;
Es bringt die ersten Düfte
Der blauen Veilchen dir,
Und schwebend durch die Lüfte
Lobsingt die Lerche dir.
 花の衣装をまとった野原は、
 創造者よ、あなたの祭壇です。
 そして純然たる喜びの供物を
 新しい年があなたに捧げます。
 それは青いスミレのはじめての香りを
 あなたに運んできます。
 そして、空中を漂いながら
 ヒバリがあなたを讃えて歌うのです。

[第5節]
Ich schau' ihr nach und schwinge
Voll Dank mich auf zu dir,
Dem Schöpfer aller Dinge,
Gesegnet seist du mir!
Weit über sie erhoben,
Kann ich der Fluren Pracht
Empfinden, kann dich loben,
Der du den Lenz gemacht.
 私はヒバリを目で追います、すると
 あなたへのあふれんばかりの感謝が私の心にこみ上げてきます。
 万物の創造者に
 祝福あらんことを!
 ヒバリよりはるか高みまで上昇し、
 私は野原の輝きを
 感じ、あなたを讃えることが出来ます。
 あなたが春をもたらした野原の輝きを。

[第6節]
Lobsing' ihm, meine Seele,
Dem Gott, der Freuden schafft!
Lobsing' ihm und erzähle
Die Werke seiner Kraft!
Hier von dem Blütenhügel
Bis zu der Sterne Bahn
Steig' auf der Andacht Flügel
Dein Loblied himmelan.
 讃えて歌いなさい、わが魂よ、
 喜びを創られた神に対して!
 神を讃えて歌い、そして語りなさい、
 神の御力による行いのことを!
 ここの花咲く丘から
 星の道筋にいたるまで、
 敬虔な翼にのせて
 あなたの讃歌を天まで立ちのぼらせなさい。

詩:Christoph Christian Sturm (1740-1786)

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現在、国際モーツァルテウム財団のWebサイトで、新モーツァルト全集の楽譜が無料で公開されています。
http://dme.mozarteum.at/DME/nma/nmapub_srch.php?l=1
ページ上にあるKVの右の空欄に597と入力して、右の「GO」をクリックすると検索結果が表示されるので、その楽譜の巻数とページ数の記されたリンクをクリックすると「春のはじめに」の楽譜を見ることが出来ます。もちろん、ほかの作品の楽譜も閲覧できるので、大変便利です。

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おいで、いとしい五月

Sehnsucht nach dem Frühlinge, K. 596 (Mozart)
 春へのあこがれ(モーツァルト)(1791年1月14日、ヴィーン作曲)(独唱とピアノ)

Mailied, Op. 79-9 (Schumann)
 五月の歌(シューマン)(1849年作曲)(2声とピアノ)(1,2,9,10節のみ。詩の変更が多い)

Komm, lieber Mai, und mache
Die Bäume wieder grün,
Und laß mir an dem Bache
Die kleinen Veilchen blüh'n!
 おいで、いとしい五月、
 木々をまた緑でいっぱいにしてよ、
 それから小川のほとりに
 ちっちゃなスミレの花を咲かせてよ!

Wie möcht' ich doch so gerne
Ein Veilchen wieder seh'n!
Ach, lieber Mai, wie gerne
Einmal spazieren geh'n!
 ぼくはほんとうに
 スミレがまた見たくてたまらないんだ!
 ああ、いとしい五月、
 お散歩したくてしょうがないよ!

Zwar Wintertage haben
Wohl auch der Freuden viel;
Man kann im Schnee eins traben
Und treibt manch' Abendspiel;
 たしかに冬のあいだは
 楽しいことがいっぱいあるさ、
 雪の中、ひとりで駆けずり回ったり、
 夕方だっていっぱい遊んだりする。

Baut Häuserchen von Karten,
Spielt Blindekuh und Pfand;
Auch gibt's wohl Schlittenfahrten
Aufs liebe freie Land.
 カードでお家をつくったり、
 目隠しして鬼ごっこしたり、罰ゲームをしたり。
 ソリに乗って
 広々とした田舎に出かけたりもするよね。

Doch wenn die Vöglein singen,
Und wir dann froh und flink
Auf grünen Rasen springen,
Das ist ein ander Ding!
 でもね、小鳥が歌い出してから、
 ぼくたちが大喜びですばしっこく
 緑の芝生を飛び跳ねるのは
 また別物なんだ!

Jetzt muß mein Steckenpferdchen
Dort in dem Winkel steh'n,
Denn draußen in dem Gärtchen
Kann man vor Kot nicht geh'n.
 今、ぼくの木馬は
 あの隅っこに置かれたまんま、
 なぜかって外のお庭は
 泥だらけで動かせないでしょ。

Am meisten aber dauert
Mich Lottchens Herzeleid.
Das arme Mädchen lauert
Recht auf die Blumenzeit!
 でも一番かわいそうなのはね、
 ロットヒェンが悲しんでいることなんだ。
 あのかわいそうな女の子は
 お花が咲くときを本当に待っているんだよ。

Umsonst hol' ich ihr Spielchen
Zum Zeitvertreib herbei:
Sie sitzt in ihrem Stühlchen
Wie's Hühnchen auf dem Ei.
 ぼくがあの子の
 気晴らしに遊ぶものをもってきても無駄なだけ。
 あの子は椅子にすわったまんまなんだ、
 卵を抱えたニワトリみたいにね。

Ach, wenn's doch erst gelinder
Und grüner draußen wär'!
Komm, lieber Mai, wir Kinder,
Wir bitten dich gar sehr!
 ああ、お外がもっと穏やかになって
 緑が生えてくれさえすればなあ!
 おいで、いとしい五月、ぼくたちこどもは
 きみに本当にお願いします!

O komm und bring' vor allen
Uns viele Veilchen mit!
Bring' auch viel Nachtigallen
Und schöne Kuckucks mit!
 おお、おいで、とくに
 スミレをいっぱい連れてきてくれよ!
 それからナイティンゲールもいっぱい、
 きれいなカッコウも連れてきてね!

詩:Christian Adolf Overbeck (1755.8.21-1821.3.9)

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モーツァルト最初の歌曲

モーツァルトの最初の歌曲とされているのが、「喜びに寄せて(An die Freude)」という作品である。ケッヒェル初版の番号はK. 53だが、第6版ではK. 47eに変更されている。新全集の記載によると、1768年秋、つまり12歳の時にヴィーンで作曲されたと推測されている。ちなみに同じ頃にはミサ曲ハ短調「孤児院ミサ」K. 139(47a)などが作曲されている。

歌声部とピアノ低声部の2段楽譜で表記されているが、書かれていないピアノの右手は当時即興的に和声を付けていたらしい(和音を指定する数字は付いていないので、演奏者が自由に解釈できる)。ちなみに同じ手法で書かれた作品にはほかに「荘厳なヨハネ支部への賛歌」K. 148がある。
モーツァルトにとって歌曲は創作の中心ではなかったが、最初の歌曲であってもすでに一つの芸術作品になっているのは彼の早熟さを示しているのだろう。
4分の2拍子、ヘ長調で、曲の冒頭にMäßig(中庸の速度で)と指定されている。詩の各行が規則正しく4小節分に当てられているが、各節4行目のみさらに4小節繰り返される。

詩はウーツにより全7節からなる。モーツァルトは有節形式で作曲したが、実際の演奏は第1節プラスほかの1つの節という形で歌われることが多い。今回、全7節の訳に挑戦したが、比喩や神様の名前など、かなり難解で内容がうまくとれなかった。

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An die Freude, K. 53(47e)
 喜びに寄せて

Johann Peter Uz (1720-1796)
 詩:ヨーハン・ペーター・ウーツ
Wolfgang Amadeus Mozart (1756-1791)
 曲:ヴォルフガング・アマデーウス・モーツァルト

[第1節]
Freude, Königin der Weisen,
Die, mit Blumen um ihr Haupt,
Dich auf güld'ner Leier preisen,
Ruhig, wenn die Torheit schnaubt:
Höre mich von deinem Throne,
Kind der Weisheit, deren Hand
Immer selbst in deine Krone
Ihre schönsten Rosen band!
 喜び、それは賢さの女王、
 頭のまわりを花で飾り、
 金のライアーであなたを称え、
 愚かさが鼻息を荒げても、落ち着いている。
 あなたの玉座から私の話をお聞きください、
 賢さの子、その手は
 常に自分であなたの冠を
 もっとも美しいバラで編んでいた!

[第2節]
Rosen, die mit frischen Blättern,
Trotz des Nords, unsterblich blüh'n,
Trotz des Südwinds, unter Wettern,
Wenn die Wolken Flammen sprüh'n:
Die dein lockicht Haar durchschlingen,
Nicht nur an Cytherens Brust,
Wenn die Grazien dir singen,
Oder bei Lyäens Lust.
 バラは青々した葉を付け、
 北方だろうが、枯れずに咲く、
 南風に吹かれようが、雷雨にさらされようが、
 雲が炎を放つときでも。
 バラはあなたの巻き毛の髪にもからみつくのだ、
 それは美の女神キュテレイア(アフロディーテ)の胸を飾るだけでない、
 美の女神グラティアがあなたに歌ったり、
 酒神リュシオス(ディオニュソス)のところで楽しむときに。

[第3節]
Sie bekränzen dich in Zeiten,
Die kein Sonnenblick erhellt,
Sahen dich das Glück bestreiten,
Den Tyrannen uns'rer Welt,
Der um seine Riesenglieder
Donnerndes Gewölke zog
Und mit schrecklichem Gefieder
Zwischen Erd' und Himmel flog.
 バラはあなたを花輪で飾る、
 太陽の輝きが照らさない時に。
 幸福はあなたが反論しているのを見た、
 われらの世界の暴君に向かって。
 彼は巨大な四肢のまわりに
 雷鳴轟く雲の群れを浮かばせ、
 そしておそろしい羽で
 大地と空の間を飛び回った。

[第4節]
Dich und deine Rosen sahen
Auch die Gegenden der Nacht
Sich des Todes Throne nahen,
Wo der kalte Schrecken wacht.
Deinen Pfad, wo du gegangen,
Zeichnete das sanfte Licht
Cynthiens mit vollen Wangen,
Die durch schwarze Schatten bricht.
 あなたとあなたのバラを見たのだ、
 夜になった地域でもまた、
 死の玉座がそれらに近づくのを。
 そこでは冷たい戦慄が目覚めている。
 あなたが歩んだ小道を
 穏やかな光が線を描いた、
 ふくよかな頬のキュテレイアの光が。
 彼女は黒い影の中から現れるのだ。

[第5節]
Dir war dieser Herr des Lebens,
War der Tod nicht fürchterlich,
Und er schwenkete vergebens
Seinen Wurfspieß wider dich:
Weil im traurigen Gefilde
Hoffnung dir zur Seite ging
Und mit diamant'nem Schilde
Über deinem Haupte hing.
 あなたにはこの生の支配者である
 死は恐ろしくなかった。
 そして死は無駄に振り回した、
 投げ槍をあなたに向けて。
 なぜなら、わびしい平野で
 希望があなたの脇に行き、
 そしてダイアモンドの盾をもって
 あなたの頭上に掛かっていたから。

[第6節]
Hab' ich meine kühnen Saiten
Dein lautschallend' Lob gelehrt,
Das vielleicht in späten Zeiten
Ungeborne Nachwelt hört;
Hab' ich den beblümten Pfaden,
Wo du wandelst, nachgespürt
Und von stürmischen Gestaden
Einige zu dir geführt:
 私は自らの大胆な心に、
 あなたに向けて大きく響き渡る賛美を教えた、
 ひょっとすると晩年に
 まだ生まれていない後世が聞くかもしれない賛美を。
 私は花咲き乱れた小道を、
 あなたが歩いた小道をたどり、
 そして嵐吹き荒れる岸辺から
 何人もあなたのもとへ連れて行った。

[第7節]
Göttin, o so sei, ich flehe,
Deinem Dichter immer hold,
Daß er schimmernd' Glück verschmähe,
Reich in sich, auch ohne Gold;
Daß sein Leben zwar verborgen,
Aber ohne Sklaverei,
Ohne Flecken, ohne Sorgen
Weisen Freunden teuer sei!
 女神よ、おお、かくあれと、私は願う。
 あなたの詩人に常に好意をもっていておくれと、
 彼がかすかな幸福をすげなく拒絶して、
 金(きん)はなくとも、心豊かでいられるように。
 彼の人生は人に知られてはいないが、
 奴隷でなく、
 汚点もなく、心配事もない、
 賢い友にとってかけがえのない存在であれ!

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演奏者によって、どの節を歌っているか、あるいは通奏低音をピアニスト自身の解釈で演奏しているか、それとも特定の楽譜の例を使用しているかなど、比較してみるのも興味深い(手元にある新全集の楽譜に掲載されているピアノ右手をそのまま使用しているのは以下の演奏ではパーソンズだけだった)。

1) Elly Ameling(S) Dalton Baldwin(P) [PHILIPS: 1977年8月録音] : 第1、7節。ピアノ右手は新全集とは別の版(旧全集?)。歌は第7節の時、全体に装飾を加えている。2分32秒。
2) Barbara Bonney(S) Geoffrey Parsons(P) [TELDEC: 1990年8月録音] : 第1、7節。ピアノ右手は完全に新全集のまま(手を加えていない)。歌6小節目の装飾音の音価は7節は新全集の指示の通りだが、1節は短前打音で歌っている。この中でもっともゆっくりのテンポによる演奏。3分38秒。
3) Edith Mathis(S) Karl Engel(P) [Novalis: 1986年8月録音] : 第1節のみ。ピアノ右手は新全集とは別の版(旧全集?)。ボールドウィンの版(1)とおそらく同じ。1分19秒。
4) Josef Protschka(T) Helmut Deutsch(P) [CAPRICCIO: 1991年録音] : 第1、7節。ピアノ右手は新全集に則っているが、若干装飾したり変更している。歌6小節目の装飾音の音価も新全集の指示の通り。2分29秒。
5) Konrad Jarnot(BR) Alexander Schmalcz(P) [OEHMS CLASSICS: 2005年12月録音] :  第1、7節。ピアノ右手は新全集とは別の版(旧全集?)。ボールドウィンの版より右手の音が多いように感じた(シュマルツによる自由な解釈を加えていると思われる)。2分24秒。
6) Hermann Prey(BR) Bernhard Klee(P) [DG: 1975年11月録音] : 第1、4節。ピアノ右手は基本は新全集のようだが、かなり自由に手を加えている。歌6小節目の装飾音の音価は全集の指示と異なり、十六分音符で歌っている。2分34秒。

●詩人ヨーハン・ペーター・ウーツ(Johann Peter Uz: 1720年10月3日、Ansbach生-1796年5月12日、Ansbach没)について
アンスバハ(現在のドイツ南部、バイエルン州)生まれの官僚、詩人。1739-1743年にハレで法律を学んだ後、アンスバハとニュルンベルクの役所に勤務し、枢密法律顧問官になる。ハレの同級生、グライム(Johann Wilhelm Ludwig Gleim)やゲッツ(Johann Nikolaus Götz)と共に、酒、女性、歌を賛美するアナクレオン派の詩人として知られるようになる。
モーツァルトは「喜びに寄せて」のみ彼の詩に作曲しているが、シューベルトは彼の8編の詩(「春の神」D. 448など)に作曲している。

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