ジェラール・スゼー&ドルトン・ボールドウィンによるシューベルト「幻の太陽」「ライアー弾き」映像(1977年)

先日シュライアーとリヒテルによるシューベルト「冬の旅」全曲の映像が見つかり喜んでいたところに、もう一つ貴重な映像がアップされた。
フランスのバリトン歌手で仏独両歌曲を得意としたジェラール・スゼー(Gérard Souzay: 1918-2004)と名パートナー、ドルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin: 1931-)による「冬の旅」最後の2曲の映像である。
この二人の演奏映像は(他の曲だが)かつてモノクロではDVDで出ていて、動画サイトにも一部アップされているが、カラー映像は私ははじめて見た。
カナダでの聴衆を前にした1977年のライヴらしい。

幻の太陽(幻日)(Die Nebensonnen)

ライアー弾き(辻音楽師)(Der Leiermann)

スゼーの声は盛期を過ぎていて、ちょっとのっぺりした歌い方が気になる方もいるだろう。
だが誠実で真摯な表現は、声が衰えていても聴き手に伝わるものなのである。
アップで映し出される顔の表情は、スゼーが歌の世界に入り込んでいることを示している。

「幻の太陽」の前半、3つの太陽が見えると歌われる間、スゼーは上方の一点を見つめて視線を離さない。
その後「おまえは私の太陽ではない」と歌うところでようやく視線を落とす。
そして「暗闇の中のほうがここちよい」と目を閉じて歌いおさめるのである。

「ライアー弾き」ではスゼーは各フレーズの最後の音を普通よりも伸ばして歌う。
それと対照的にボールドウィンはきっちりとリズムを守り、ドローンの低音をかすかに響かせる。
スゼーはアンニュイな疲れたような声で中ぐらいのボリュームで歌い、時々ささやくようにボリュームをおとす。
しかし、「私の歌にあなたのライアーを合わせてくれまいか」と締めくくる時には強めにしっかりと歌い、決してボリュームをおとさない。
希望とも絶望ともつかない歌声は、聴き手の想像力を刺激する。
スゼーの歌う「ライアー弾き」は、若者とライアーを弾く老人が一体になってしまったような印象すら受ける。
年を重ねたかつての若者が過去の苦い思い出を回顧しているのか?
一方ボールドウィンのピアノはきりっと弾き締まったリズムと響きで主人公の若さを反映しているかのようだ。

それにしても海外の聴衆は「冬の旅」の後でも全員がスタンディング・オベーションで熱狂的に演奏者をねぎらっていたのが印象的だった。

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鎌田滋子ほか&ダルトン・ボールドウィン/プーランク没後50年記念ガラコンサート(2013年11月19日 白寿ホール)

プーランク没後50年記念ガラコンサート
(Francis Poulenc 50 Anniversary Gala Concert)
2013年11月19日(火)19:00 白寿ホール(全自由席)
(休憩15分。21:20終演)

ダルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(ピアノ)({対話」以外)
鎌田滋子(Shigeko Kamada)(ソプラノ)
高橋さやか(Sayaka Takahashi)(ソプラノ)
池端 歩(Ayumi Ikehata)(メゾ・ソプラノ)
坂本貴輝(Takateru Sakamoto)(テノール)
武田正雄(Masao Takeda)(テノール)
坂下忠弘(Tadahiro Sakashita)(バリトン)
鈴木靖子(Yasuko Suzuki)(ピアノ)(「対話」)

企画構成:鈴木靖子;鎌田滋子

プーランク(Poulenc)作曲

1.アポリネール(Guillaume Apollinaire)の詩による
「動物詩集(Le Bestiaire, ou le Cortège d'Orphée)」(池端)
1. らくだ(Le dromadaire)
2. チベットの牝山羊(La chèvre du Thibet)
3. いなご(La sauterelle)
4. イルカ(Le dauphin)
5. ザリガニ(L'Écrevisse)
6. 鯉(La carpe)

モンパルナス(Montparnasse)(坂本)
ハイド・パーク(Hyde Park)(坂本)
矢車菊(Bleuet)(坂本)

「四つの詩(Quatre poèmes)」(池端)
1. ウナギ(L'Anguille)
2. 絵はがき(Carte-Postale)
3. 映画の前に(Avant le cinéma)
4. 1904(1904)

「月並み事(Banalités)」(坂下)
1. オルクニーズの歌(Chanson d'Orkenise)
2. ホテル(Hôtel)
3. ワロニーの沼地(Fagnes de Wallonie)
4. パリへの旅(Voyage à Paris)
5. すすり泣き(Sanglots)

2.アラゴン(Louis Aragon)の詩による
「二つの詩(Deux Poèmes de Louis Aragon)」(坂本)
1. セーの橋(C)
2. 艶なる宴(Fêtes Galantes)

3.ヴァレリー(Paul Valéry)の詩による
対話(Colloque)(高橋;坂下)

4.ジャコブ(Max Jacob)の詩による
「マックス・ジャコブの5つの詩(5 Poèmes de Max Jacob)」(鎌田)
1. ブルターニュ風の歌(Chanson bretonne)
2. 墓地(Cimetière)
3. ちいさな召使い(La petite servante)
4. 子守唄(Berceuse)
5. スリックとムリック(Souric et Mouric)

「パリジアーナ(Parisiana)」(武田)
1. ビューグルを吹く(Jouer du Bugle)
2. もう手紙をくれないの?(Vous n'écrivez plus?)

〜休憩〜

5.ヴィルモラン(Louise de Vilmorin)の詩による
「かりそめの婚約(Fiançailles pour rire)」(高橋)
1. アンドレの奥さん(La Dame d'André)
2. 草の中で(Dans l'herbe)
3. 飛んでいるの(Il vole)
4. 私の屍は手袋のようにぐったりと(Mon cadavre est doux comme un gant)
5. ヴァイオリン(Violon)
6. 花(Fleurs)

6.エリュアール(Paul Éluard)の詩による
「そんな日、そんな夜(Tel jour, telle nuit)」(武田)
1. よい1日(Bonne journée)
2. からの貝殻のかけら(Une ruine coquille vide)
3. 失われた旗のような額(Le front comme un drapeau perdu)
4. 瓦礫に覆われた四輪馬車(Une roulotte couverte en tuiles)
5. 全速力で(A toutes brides)
6. 一本の哀れな草(Une herbe pauvre)
7. 私は君を愛したいだけだ(Je n'ai envie que de t'aimer)
8. 燃え上がる荒々しい力の姿(Figure de force brûlante et farouche)
9. 私たちは夜を作った(Nous avons fait la nuit)

「燃える鏡(Miroir brulante)」より
君は夕暮れの火を見る(Tu vois le feu du soir)(池端)

7.カレーム(Maurice Carême)の詩による
「くじ引き遊び(La courte paille)」(鎌田)
1. 眠け(Le sommeil)
2. 大冒険(Quelle aventure!)
3. ハートの女王(La reine de Coeur)
4. バ、ベ、ビ、ボ、ブ(Ba, be, bi, bo, bu)
5. 音楽家の天使たち(Les anges musiciens)
6. 小さなガラスびん(Le carafon)
7. 四月のお月さま(Lune d'Avril)

8.オペラ「ティレジアスの乳房(Extrait de "Les Mamelles de Tirésias")」より
「いいえ、旦那様」("Non, Monsieur, mon mari")(高橋;武田)

〜アンコール〜
愛の小径(Les chemins de l amour)(全員)

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今年もドルトン・ボールドウィンが来日し、多くの日本人歌手たちと共演している。
そのうちの一つを聴いた。
今年はヴァーグナーやヴェルディばかりが盛り上がっているが、プーランクも没後50年の記念年なのであった。
この夜は、プーランクの歌曲ばかりを集めたガラコンサートである。
まずはパンフレットに掲載されたボールドウィンの言葉から。

「ジェラール・スゼーと私が50年以上前、日本で最初にプーランクの歌曲を演奏した時、観客は困惑し、批評家からは好評を得られませんでした。いつの世も新しい芸術の形式を受け入れるのには時間が掛かります。」
Poulenc_20131119_03

ボールドウィンが日本でプーランクを演奏してから50年経ち、日本のプーランク受容は変わったのか。
少なくとも当時と比べれば演奏される機会が増えたことは確かだろう。
ただ言葉の壁がある歌曲に関して言えば、まだまだ浸透しているには程遠い状態ではないか。
かく言う私も、プーランクの歌曲の中で好んで聴く曲は限られている(曲調に慣れるとこの上なく楽しい作品ばかりだが)。
そういう状況で、このようなプーランクの歌曲にどっぷり浸かるコンサートは大きな意味を持つのではないか。
実際、ボールドウィンの演奏目当てで来たこのコンサートで、私はプーランクの魅力にあらためて惹きこまれてしまったのである。

ここ数年ボールドウィンの実演を聴いていると、どうしても記憶力の面で年齢を感じてしまう場面に少なからず遭遇してきた(楽譜は置いているのだが)。
それが、この日のコンサートでは、十八番のプーランクの作品ということもあるのか、行方不明になることがほとんどなく、しかもテクニカルな面で難曲の多い彼の歌曲をものの見事に弾いていた。
来月で82歳を迎えるピアニストとしてはそれは驚異的なことではないだろうか。
相変わらずタッチは骨太でよく歌い、それでいながら歌手それぞれへの細やかな配慮は怠りない。
まさに円熟の演奏であった。
ボールドウィンの名人芸にサポートされた日本の優れたフランス歌曲歌手たちも気持ちよく歌えたのではないだろうか。
一つだけ苦言を呈させてもらうと、曲が終わって最後の音をペダルで伸ばしながら次の曲の楽譜を置く時の音ががさがさ大きすぎ、余韻に浸りにくいということはあった。
いっそ譜めくりを頼んではどうかと思ってしまったが、あるいはプーランクの歌曲は余韻に浸ることを拒むものなのだろうか。
そのあたりは分からず仕舞である。

今回は詩人ごとにまとめられた歌曲集をそれぞれ担当の歌手が登場して歌っては袖に戻り、次の歌手が登場して歌うということを繰り返し、ボールドウィンはただ1曲愛の二重唱「対話」でお弟子さんの鈴木靖子が演奏した以外は全曲ひとりで通して演奏した。
その鈴木さんが伴奏した時はボールドウィンは客席1列目の左端に腰を下ろし、弟子たちの演奏を満足そうに見ていた。
ボールドウィンは本当に歌が大好きで、演奏するのも大好きで、また仲間の歌手たちがうまく歌ったのがうれしくて仕方がないという風に見えた。
歌い終えて引っ込む歌手それぞれに拍手を送ったり声や合図を送ったりするボールドウィンの姿は慈愛にあふれていた。
以前EMIのプーランク歌曲全集の解説書にボールドウィンが寄稿した文章によれば、確かプーランクにはじめて彼が会った時、手を調べられたという。
プーランクの歌曲を演奏するのに必要な厚みがあるかどうかを見られたのだとか。
プーランク自身が優れたピアニストであり、自作の演奏をピエール・ベルナックらと数多く演奏してきたわけで、彼の歌曲においていかにピアノパートが充実しているかは想像に難くない。
そのような歌曲を解釈するうえで、ボールドウィンの経験がこうして次代の歌手たちに引き継がれていくことがどれほど意義深いことか。
例えば、最初の「動物詩集」を歌った池端歩は、歌う前に各曲のタイトル(動物名)をフランス語で語るのだが、そのうちの一つの発音が正しくなかったのか、すぐにボールドウィンが正しい発音をし直していた。
その妥協のなさと、歌手たちへの指導の一端が垣間見えた瞬間であった。

プーランクの歌曲は大まじめだったり、おふざけがあったり、華やかだったり、シンプルだったり、早口だったり、ゆったりだったりと実に多彩である。
しかし、その多彩さの中にプーランクの色が強く刻印されているのがすごいとあらためて感じた。
「動物詩集」の第1曲「らくだ」という曲は下降するピアノパートに乗って、荘厳と言ってもいい真面目さで「私に4匹のらくだがいたら、ドン・ペドロ・ダルファルベイラがしたように世界を巡り歩いただろう」と妄想が歌われる。
しかし、最後のピアノ後奏はどう見てもおちゃらけた響きである。
大真面目に妄想を繰り広げ、「なーんちゃって」と煙に巻くかのようだ。
一方で「矢車菊」や「セーの橋」は戦争で傷ついたフランスの現実を真摯に表現する。
そうかと思えば早口の「艶なる宴」のナンセンスな内容を実に面白おかしく表現する。
ポール・ヴァレリーの「対話」は男女の官能的な対話を静かに表現する(この曲の最後で坂下さんが急に背中を向けて高橋さんと口づけを交わす演技が唐突でびっくりしたが、テキストの内容がストレートに伝わってきた)。
「かりそめの婚約」や「くじ引き遊び」は今やフランス歌曲の重要なレパートリーに定着したのではないか。
「そんな日、そんな夜」はフェリシティー・ロットで聴き馴染んでいた為、武田さんのバリトンでの歌唱は新鮮だった。

歌手たちはヴェテランも若手も実にフランス歌曲に真摯に向き合って、素晴らしい歌唱を聴かせてくれた。
メゾの池端さんはきれいな声が印象的で、テノールの坂本さんもよい声をしており、将来を期待させてくれた。
バリトンの坂下さんは昨年はじめてボールドウィンとのコンサートで聴いたが、今回も豊かに響くディクションと響きが素晴らしく、特に抑えた声が良かった。
ソプラノの高橋さんは声量も豊かでディクションも美しく、歌曲だけでなく、オペラ「ティレジアスの乳房」からの一場面を実に生き生きと歌って、強く印象に残った。
ソプラノの鎌田さんはベテランの味わいを滲ませた声の響きが美しく、表情も愛らしい。
テノールの武田さんもベテランらしい安心感で、フランス語の美しさと、プーランクらしい響きを堪能した。
武田さんだけ「もう手紙をくれないの?」という快活な歌を歌った後にボールドウィンに耳打ちされて、もう一度歌った。
前半の最後なので、アンコール的な意味合いもあるのだろうが、それにしてもボールドウィンのスタミナには驚かされた。

全曲が終わったアンコールでは、ボールドウィンが「愛の小径」の前奏を弾きはじめると、一人ずつ順番に歌いながら再度登場して、全員が最後に舞台に勢ぞろいするという形だった。
こうしてボリュームたっぷりのプーランク祭りは楽しく幕を閉じたのだった。

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大島富士子&ダルトン・ボールドウィン/リーダーアーベント(2012年11月20日 ルーテル市ヶ谷ホール)

大島富士子リーダーアーベント「後期ロマン派以降の作品より」

2012年11月20日(火) 19:00 ルーテル市ヶ谷ホール(全自由席)

大島富士子(Fujiko Oshima)(ソプラノ)
ダルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(ピアノ)

大嶋義実(Yoshimi Oshima)(お話し)

ツェムリンスキー(Zemlinsky: 1871-1942)作曲
青い小さな星(Blaues Sternlein Op. 6/5)
妖精の歌(Elfenlied Op.22/4)
真夜中に(Um Mitternacht Op. 2/4)
愛らしいつばめ(Liebe Schwalbe Op. 6/1)
受胎(Empfängnis Op. 2/6)
私は手紙を書いた(Briefchen Op.6/6)

ヴォルフ(Wolf: 1860-1903)作曲
ミニヨンⅠ(Mignon I Op. 10/90)
ミニヨンⅡ(Mignon II Op. 10/91)
ミニヨンⅢ(Mignon III Op. 10/92)
ミニヨンⅣ(Mignon Op. 10/94)

~休憩~

ミヨー(Milhaud: 1892-1974)作曲
「花のカタログ(Catalogue des fleurs)」
 1.スミレ(La Violette)
 2.ベゴニア(Le Begonia)
 3.フリティラリア(Les Fritillaires)
 4.ヒヤシンス(Les Jacinthes)
 5.クロッカス(Les Crocus)
 6.ヒメコスモス(Le Brachycome)
 7.エレムルス(L’Eremurus)

メシアン(Messiaen: 1908-1992)作曲
「ミの為の詩(Poèmes pour Mi Op. I/17a)」より
 1.感謝の祈り(Action de grâces)
 2.風景(Paysage)
 8.首飾り(Le Collier)

「地と天の歌(Chants de terre et de ciel Op. I/19)」より
 6.復活(Résurrection)

ホセ=ダニエル・マルティネス(José-Daniel Martinez: 1957, Washington D.C.-)作曲
「水の渇き」第2部(La sed del agua: Segundo grupo I, II &III)(2000)全曲(本邦初演)

バーンスタイン(Bernstein: 1918-1990)作曲
「ソングフェスト(«Songfest»)」より「フリア・デ・ブルゴスへ(A Julia de Burgos)」

~アンコール~
1.不明(英語で歌われた)
2.ツェムリンスキー/受胎

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ダルトン・ボールドウィンの出演する演奏会をもう一つ聴いた。
ソプラノの大島富士子は初めて聴いたが、澄んだ透明な美声と芯のある響きが魅力的で、今後も機会があれば聴きたいと思わせる歌手だった。

ボールドウィンの演奏については数日前の演奏と大差はない。もちろん全曲楽譜を見ながらの演奏である。ただ、ミスや迷子になるところがありながらも、最終的には辻褄を合せるところも健在である。楽曲を知っている場合、やはり歯がゆく感じるところも出てくるが、ボールドウィンのタッチの無駄のない強さと温かい響き、そして歌と「共に歩む」演奏でありながら、歌手をこまやかにサポートしている点、これらの魅力は演奏上の衰えを充分補っていると言えるのではないだろうか。

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大塚恵美子&坂下忠弘Joint Concert~Dalton Baldwin氏を迎えて~(2012年11月15日 ルーテル市ヶ谷センターホール)

大塚恵美子&坂下忠弘Joint Concert~Dalton Baldwin氏を迎えて~
2012年11月15日(木)18:30 ルーテル市ヶ谷センターホール(全自由席)

大塚恵美子(Emiko Otsuka)(ソプラノ)
坂下忠弘(Tadahiro Sakashita)(バリトン)
ダルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(ピアノ)

~フォーレとシューマンの夕べ~

シューマン(R.Schumann)作曲(大塚&ボールドウィン)
献呈(Widmung)作品25-1
くるみの木(Der Nußbaum)作品25-3
わたしのばら(Meine Rose)作品90-2
レクイエム(Requiem)作品90-7

フォーレ(G.Fauré)作曲(坂下&ボールドウィン)
夜明け(Aurore)
ひめごと(Le secret)
流れのほとりにて(Au bord l'eau)
漁夫の歌(La chanson de pêcheur)

シューマン(R.Schumann)作曲(大塚&ボールドウィン)
夕暮れの歌(Abendlied)作品107-6
月の夜(Mondnacht)作品39-5
羊飼いの別れ(Des Sennen Abschied)作品79-23
もう春だ(Er ist's)作品79-24

フォーレ(G.Fauré)作曲(坂下&ボールドウィン)
月の光(Clair de lune)
ひそやかに(En sourdine)
憂うつ(Spleen)
マンドリン(Mandoline)

シューマン(R.Schumann)作曲(大塚&ボールドウィン)
ミニョンの歌(4 Mignon Lieder)
語らずともよい(Heiss mich nicht reden)作品98a-5
ただ憧れを知る者だけが(Nur wer die Sehnsucht kennt)作品98a-3
もうしばらくこのままの姿でいさせてください(So lasst mich scheinen)作品98a-9
ご存知ですか、レモンの花の咲く国を(Kennst du das Land)作品98a-1(作品79-29)

シューマン(R.Schumann)作曲(大塚&坂下&ボールドウィン)
夜に(In der Nacht)作品74-4

フォーレ(G.Fauré)作曲(坂下&ボールドウィン)
夕暮れ(Soir)
アルペジオ(Arpège)
ゆりかご(Les berceaux)
いつの日も(Toujours)

フォーレ(G.Fauré)作曲(大塚&坂下&ボールドウィン)
金の涙(Pleurs d'or)

~アンコール~
フォーレ/金の涙(Pleurs d'or)(大塚&坂下&ボールドウィン)

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歌曲ピアニストの名手として著名なダルトン・ボールドウィンが今年も秋に来日して、数人の日本人歌手たちと演奏会を開いた。
現在80歳のピアニストのここ数年の演奏を聴いた者としては、今年はパスした方がいいのだろうかなどと迷いもしたが、結局聴いてよかったと思うことが出来た。

数年ぶりに出掛けたルーテル市ヶ谷センターホールは、東京メトロ「市ヶ谷」駅5番出口から1、2分という便利な場所にある。

ソプラノの大塚恵美子がシューマンの独唱曲、バリトンの坂下忠弘がフォーレの独唱曲、そして各作曲家の二重唱曲を1曲ずつ2人で歌うという構成であった。
ソプラノとバリトンが数曲ずつ交互に歌っては袖に下がり、ボールドウィンは交替の間もピアノの前に座って次の歌手を待つという形で進められた。

楽譜を見ながらピアノの蓋を開けて演奏したボールドウィンは、今宵も確かにミスは散見された。
ペダルで響かせた和音が濁っていることも少なくない。
ただ、興味深いのが、どれほど行方不明になりそうになりながらも、演奏が決して止まらないのである。
年齢からくる記憶力の衰えはあるにしても、止まってもう一度やり直すということには全くならなかった。
それは長年舞台で積み重ねてきた様々な対処法が今も役立っているということではないだろうか。

「危なっかしい演奏は受け付けない」という人には現在のボールドウィンの実演はお勧めできないが、それを脇に置いて、彼の音楽そのものを聴いていると、ますます自在にピアノで歌って、今だからこそ聴ける豊かな音楽が確実にここにはあった。
歌とピアノが対決しているわけでもないのだが、いい意味で歌に遠慮がないのである。
もちろん配慮はいたるところに感じられるが、「控え目」という言葉は今のボールドウィンには当てはまらない。
歌とピアノが対等に二重唱を奏でているのである。
今宵のボールドウィンの演奏が聴けてこれほどうれしく感じたのはきっと私だけではないだろう。
技に頼れなくなった時に、音楽性でどれだけ聴衆を魅了できるかというのは多くの演奏家にとって切実な問題ではないだろうか。
そうした時にボールドウィンの演奏は、一つのヒントを与えてくれるのではないだろうか。

なお、若手歌手のお2人は、この日はじめて聴いたが、どちらも豊かな才能をもった人たちであった。

ソプラノの大塚恵美子はとても澄んだ美しい声をしていた。
最初のうちこそ若干固さも感じられたが、徐々にシューマンの世界を素直にのびのびと表現して、気持ちよい歌を聴かせてくれた。

バリトンの坂下忠弘は、ノーブルでどこまでも安定した豊かな響きをもち、時折スゼーを思わせるほどであった。
スゼーのよきパートナーであったボールドウィンが「フォーレを歌うための声を持って生まれてきた」と坂下氏を称賛したというのもうなずけるほど素晴らしい逸材と感じた。
フランス語の響きもとても美しく、今後の歌曲における活躍を大いに期待したい。

若い歌手の発掘という意味でもボールドウィンの毎年秋の来日はやはり意義深いことだと感じた。

なお全プログラムが休憩なしで演奏され、1時間半ぐらいのコンサートであった。

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メゾソプラノ本多厚美リサイタル~ダルトン・ボールドウィンとともに~(2011年11月22日 サントリーホール ブルーローズ)

メゾソプラノ本多厚美リサイタル~ダルトン・ボールドウィンとともに~
LOVE SONGS~Viva L'Italia

2011年11月22日(火)19:00 サントリーホール ブルーローズ(小ホール)(全自由席)
本多厚美(Atsumi Honda)(Mezzo Soprano)
ダルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(Piano)

カッチーニ/アマリッリ
ドナウディ/どうか吹いておくれ
ヴィヴァルディ/わたしは蔑ろにされた花嫁(歌劇「バヤゼット」より)

ロッシーニ/競艇前のアンゾレータ
ヘンデル/私を泣かせてください(歌劇「リナルド」より)
ヴェルディ/ストルネッロ(民謡)

レスピーギ/夜
レスピーギ/深い海の底で
レスピーギ/恋の悩み

ドニゼッティ/ああ私のフェルナンド(歌劇「ラ・ファボリータ」より)

~休憩~

プッチーニ/栄えあれ 天の女王よ
プッチーニ/そして小鳥は(子守唄)
チマーラ/愛の神よ ようこそ(「カレンディマッジョの3つのバラータ」より)
チマーラ/ストルネッロ

トスティ/最後の歌
トスティ/セレタータ
アーン/ヴェネツィアの小舟
クルティス/帰れソレントへ
クルティス/勿忘草
デンツァ/フニクリ・フニクラ(日本語訳詞による)

~アンコール~
カルディッロ/カタリ・カタリ

数年前にドルトン・ボールドウィンの実演を聴き、これで彼の生演奏を聴くのは最後にしようと思っていたのだが、その後も毎年秋に来日を重ね、気にはなっていた。
今年の12月で80歳を迎える偉大な歌曲ピアニストにもう一度だけ接したくなり、サントリーホール 小ホールに出かけてきた。
ロビーがやけに賑わっているなと思ったら、お隣の大ホールはベルリン・フィル公演だった。

メゾソプラノの本多厚美のリサイタルを生で聴くのは今回が初めて。
大ホールとの同時公演でこれほどのお客さんを呼べるのは、彼女がそれだけ信奉者を得ている証だろう。
前半は黒、後半は赤と衣裳を替えて登場した本多さんはメゾとしてはかなり透明度の高い声である。
細かいヴィブラートが特徴的である。
その声はソプラノとしても全く違和感のない澄んだ響きだが、時折その声にメゾらしいコクのある深みが感じられる。
リサイタルの最初のうちは声があたたまっていない感もあったが、それはどの声楽家でも同じこと。
徐々に調子をあげて、芯のある響きが聴かれるようになってきた。

今回のリサイタル、私の疎い分野であるイタリア歌曲が中心。
半分以上は未知の作品だったが、その選曲はどれも非常に魅力的で、プログラミングを担当したボールドウィンのセンスが光る。
中でもレスピーギは歌曲作曲家としても素晴らしく、ピアノパートも含めて、非常に魅力的な作品であった。
本邦初演とうたわれた「恋の悩み」は原題が"Soupir"なので「ため息」が直訳であり、デュパルクの有名な歌曲と同じシュリ・プリュドムのテキストによる。
聴いていると、デュパルクの「悲しい歌」と近い雰囲気が感じられた。

プッチーニの歌曲など珍しい作品も含まれ、レイナルド・アーンの「ヴェネツィアの小舟」という曲も本邦初演らしい。
「帰れソレントへ」と「勿忘草」はメドレーで続けて演奏されたが、最後の3曲は馴染みのメロディーが楽しく、日本語によった「フニクリ・フニクラ」は聴衆も巻き込んで(お弟子さんたちが多いのだろうか、美しいソプラノコーラスが客席から聴かれる)盛り上がった。
アンコールで歌われた「カタリ・カタリ」は、女声では珍しいのではないか。
随分昔のフランシスコ・アライサとアーウィン・ゲイジの実演での感銘が忘れがたく記憶に残っており、久しぶりにこの作品を懐かしく聴いた。

さて、お目当てのボールドウィンの演奏であるが、年齢による衰えは目立ったと言わざるをえない。
しばしば演奏している場所が曖昧になったり、違うバス音が大きめに響くのを聴くのは、全盛期の彼の完璧な録音を知る者にとっては辛いものがある。
だが、それを脇に置いてその音楽性のみに耳を向けると、なんともいえない彼独自の魅力あふれる豊かな響きが依然維持されていることに驚かされる。
太くくっきりとしたマルカートの音が歌と見事なデュエットを奏でているのは、他のピアニストからはなかなか味わえないボールドウィンならではの素晴らしさであった。
演奏の完璧さを求めるか、それとも音楽性の魅力を求めるかで、彼の現在の演奏に対する評価は二分されるであろう。
演奏家の引き際というのは難しい問題かもしれないが、円熟味を増すと同時に多くの場合技術の衰えは避けられない。
昔100歳近くでみずみずしい音楽を奏でたホルショフシキーのようなタイプのピアニストがいかに例外的な存在だったのかをあらためて感じさせられた一夜であった。

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アーメリングの1982年シューベルト歌曲ライヴ録音(ボールドウィンのピアノ)

某サイトにアーメリングの珍しいライヴ録音がアップされていた。
1982年1月10日、オランダ、ユトレフト(Utrecht)での録音でシューベルトの歌曲4曲である。

 こちら

エリー・アーメリング(Elly Ameling)(soprano)
ドルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(piano)

シューベルト(Schubert)作曲
1.秘めた愛(Heimliches Lieben)D922(クレンケ詩)
2.はなだいこん(Nachtviolen)D752(マイアホーファー詩) [4分48秒から]
3.月に寄せて(An den Mond)D259(全4節の有節歌曲の第1,2,4節が歌われている)(ゲーテ詩) [8分12秒から]
4.笑ったり泣いたり(Lachen und Weinen)D777(リュッケルト詩) [11分17秒から]

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「はなだいこん」ではアーメリングが歌の入るタイミングを間違える箇所があり、それをボールドウィンがうまくつないでいるのも、ライヴ録音ならではの楽しみである。
「秘めた愛」も「笑ったり泣いたり」もスタジオ録音はあるものの、その時のピアニストはどちらもデームスだったので、ボールドウィンとのコンビによる貴重な音源といえるだろう。
しかし、今回最も興味深いのが、ゲーテの詩による「月に寄せて」である。
実は彼女は1982年に「月に寄せて」の同じテキストによる第2作(D296)をボールドウィンとスタジオ録音しているが、この第1作(D259)は私の知る限りスタジオ録音していないので、今回のライヴ音源を知るまでは彼女のレパートリーに含まれていると思っていなかった。
第1作は原詩の2節分を歌詞の1節にまとめた4節の有節形式で作曲されており(原詩の第5節は省略されている)、ヘルマン・プライのとろけるような甘美な歌が印象的だったが、まさかアーメリングも歌っていたとは・・・。
まぁ最も多く歌ったのがシューベルトだと述懐している彼女のことだから、この曲を歌っていても不思議はないのだが・・・。

今回の4曲、いずれもアーメリングの温かい歌が堪能できるライヴ録音である。

「月に寄せて」より

Füllest wieder Busch und Tal
Still mit Nebelglanz,
Lösest endlich auch einmal
Meine Seele ganz.
 再びおまえが茂みと谷を
 静かに霧のきらめきで満たすとき、
 ようやくおまえは
 私の魂も完全に解き放ってくれる。

Breitest über mein Gefild
Lindernd deinen Blick,
Wie des Freundes Auge mild
Über mein Geschick.
 わが広野の上へ
 心を和らげてくれながらおまえは眼差しを広げていく、
 友の目のように穏やかに、
 わが運命の上へと。

・・・・・・・・・

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アーメリングの映像

オランダの名花エリー・アーメリング(Elly Ameling: 1933.2.8生まれ)は今日76歳を迎えた。
彼女のファンとして何か記念の記事を書こうと思ったのだが、それよりも今回はネット上で見られる映像をご紹介して彼女の偉業をたたえることにしたい。

私がアップしたものではないので、こちらに引用するのも若干気が引けるが、この動画共有サイトの機能に他サイトへのリンクも含まれているので、リンクさせていただきたいと思う(もし不都合があればリンクは外します)。

おそらく1980年のプエルト・リコでのカザルス音楽祭のライヴと思われる映像で、ピアノ共演は阿吽の呼吸のドルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)。

この日の演奏のうちまだアップされていないものもあるが、かなり出揃っているので、以下に当日のプログラムと動画へのリンクを記しておきたい(リンクしていないものはまだアップされていない曲)。

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シューマン作曲
1.献呈Op. 25-1
2.はすの花Op. 25-7
3.くるみの木Op. 25-3

歌曲集「女の愛と生涯」Op. 42
4.第1曲)彼にお会いして以来
5.第2曲)誰よりも素晴らしい彼
6.第3曲)私には分からない、信じられない
7.第4曲)私の指にはめた指輪よ
8.第5曲)手伝ってちょうだい、姉妹たち
9.第6曲)やさしい友よ、あなたはいぶかしげに私を見つめています
10.第7曲)わが心に、わが胸に
11.第8曲)今あなたは私にはじめての苦痛を与えました

12.フォレ/夢のあとにOp. 7-1
13.ドビュッシー/歌曲集「忘れられた歌」~それは物憂い恍惚
14.ドビュッシー/マンドリン
15.プランク/歌曲集「きまぐれな婚約」~ヴァイオリン
16.ショソン/ハチドリOp. 2-7
17.デュパルク/悲しい歌
18.ロドリーゴ/歌曲集「4つの愛のマドリガル」~ポプラの林へ行ってきた
19.グァスタヴィーノ/バラと柳
20.サティ/エンパイア劇場の歌姫
21.アーン/ラスト・ワルツ
22.シェーンベルク/ギーゲルレッテ

アンコール
23.シューベルト/ハナダイコンD752
24.ガーシュウィン/バイ・シュトラウス

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彼女がどれほど言葉を大切にしているか、大ホールでも明瞭に伝えようとしていたかが分かる。
彼女の魅力を端的に示しているのはサティ「エンパイア劇場の歌姫」(20)だろう(演奏前に彼女自身の解説があり、歌詞に出てくる「グリーナウェイの帽子」について説明している)。
個人的には特にドビュッシー「それは物憂い恍惚」(13)やプランク「ヴァイオリン」(15)が気に入っている。

ボールドウィンの切れのいい演奏も聞きものである(「マンドリン」「ヴァイオリン」など)。

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(追記:アーメリングのネット放送)

オランダのネットラジオで9日(月)の日本時間21時3分(現地時間13時3分)からアーメリングが出演した1991年のユトレフトでのライヴ公演が放送されます。
マラルメ歌曲集やマーラーは昨年発売された5枚組の放送録音集にも収録されていますが、ドビュッシー「放蕩息子」やモーツァルトのアリアは聴く価値があるのではないでしょうか。
また当日のコンサートの全貌が聴けるという意味でも楽しみです。
興味のある方は聴いてみてください。

http://www.radio4.nl/page/programma/14/2009-02-09

エリー・アーメリング(S)エト・スパンヤールト(C)オランダ放送室内管弦楽団

モーツァルト/歌劇「イドメネオ」~序曲
サティ(ドビュッシー編)/ジムノペディ第1番&第3番
ドビュッシー(スパンヤールト編)/ステファヌ・マラルメの3つの詩(溜息;むなしい願い;扇)
ドビュッシー/カンタータ「放蕩息子」~前奏曲;リアの歌;行列;舞曲風エール
ヴェーバー(マーラー編)/「三人のピント」~間奏曲
マーラー/「リュッケルト歌曲集」~私はほのかな香りを吸った;私はこの世から忘れられ
モーツァルト/哀れな私,私は一体どこにK369

モーツァルト/ああ話しているのは私ではないK369

1991年6月1日, ユトレフト、フレーデンブルフ音楽センター(Muziekcentrum Vredenburg in Utrecht)録音

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エリー・アーメリングのクリスマス・ソング集

「エリー・アーメリングとのクリスマス:英独仏西蘭のクリスマス・ソング」(Kerst met Elly Ameling: kerstliederen uit Engeland, Duitsland, Frankrijk, Spanje en Nederland)
Kerst_met_ameling_2Brilliant Classics: 99623
録音:[1976年頃?]
エリー・アーメリング(Elly Ameling)(S)
ドルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(P)(1,6,7,10,13-19)
佐藤豊彦(Toyohiko Satoh)(Lute)(2-5,9,11,12)
ジョージ・センデ(George Szende)(VLA)(7)
アルバート・ド・クラーク(Albert de Klerk)(ORG)(8)
弦楽五重奏及び2本のホルン(Strijkkwintet en twee hoorns)(8)

イギリス編
1.イギリス民謡~フェリックス・ド・ノーベル編曲/明るい土手にすわっていたら(As I sat on a sunny bank)
2.イギリス民謡~アルネ・デルムスゴー編曲/その歌はやさしかったよ(Sweet was the song)

ドイツ&オーストリア編
3.ヘンリクス・ベギニケルによる写本1622より/イン・ドゥルチ・ユービロ(私の心は、甘き歓喜に酔いしれます)(In dulci jubilo)
4.ヘンリクス・ベギニケルによる写本1622より/また新たな喜びが(Ecce nova Gaudia)
5.ヘンリクス・ベギニケルによる写本1622より/さあ、坊やをあやしましょう(Nun wiegen wir das Kindlein)
6.シレジア民謡~フェリックス・ド・ノーベル編曲/山の上を(Uff'm Berge)
7.ブラームス/宗教的な子守唄(Geistliches Wiegenlied)Op. 91-2
8.ハイドン/はした女(め)(Cantilene pro adventu "Ein' Magd, ein' Dienerin")XXIIId, Nr.1

オランダ&フランダース編
9.オランダ民謡~フェリックス・ド・ノーベル編曲/おお、イスラエルの聖(きよ)らかな処女よ(O suver maecht van Ysraël)
10.フランダース民謡~フェリックス・ド・ノーベル編曲/小さな、小さなイエス(Klein, klein Jezuken)

スペイン編
11.カタルーニャ民謡~フランセスコ・アリオ編曲/クリスマスの歌(Cancó de nadal)
12.カタルーニャ民謡~ヘルムート・アルトマン編曲/ビリャンシーコ~クリスマスの踊り唄(Villancico - Baile de nadal)
13.アンダルシア民謡~ホアキン・ニン編曲/コルドバのビリャンシーコ(Villancico de Córdoba)
14.アンダルシア民謡~ホアキン・ニン編曲/アンダルシアのビリャンシーコ(Villancico Andaluz)

フランス編
15.フランス民謡~ヴィレム・ペイパー編曲/牡牛と灰色ロバにはさまれて(Entre le boeuf et l'âne gris)
16.フランス民謡~ヴィレム・ペイパー編曲/羊飼いの呼び声(L'appel des bergers)
17.フランス民謡~ヴィレム・ペイパー編曲/マリアのために(Noël pour l'amour de Marie)
18.ドビュッシー/家のない子どもたちのためのクリスマス(Noël des enfants qui n'ont plus de maisons)
19.ラヴェル/おもちゃのクリスマス(Noël des jouets)

(上記の日本語表記は主に国内盤LPレコード(EMI: EAC-80485)のライナーノーツを参考にしました)

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この時期になるとクリスマスに因んだアルバムが多くリリースされる。
最近もヘルマン・プライがホカンソンとDGに録音したコルネーリウス&ヴォルフのクリスマス歌曲集が初CD化されたばかりだが、1970年代にEMIから国内盤LPとして発売されて以来、日の目を見ることのなかったアーメリングの"Ameling sings Christmas"(国内盤LPのタイトルは「ヨーロッパのクリスマスを歌う」)がHMVのサイトの発売予定に掲載された時、久しく味わうことのなかったほどの待ち切れない思いでいっぱいになった。
どうやらオランダ国内では随分前から出回っていたようだが、日本で入手できるようになったのが今秋だったということなのだろう。
オランダのBrilliant Classicsがオリジナル音源のEMIから販売のライセンスをとったようだが、このレーベルはメジャーレーベルの録音を廉価で再発売することで知られており、今回のこのCDもHMVTower Recordで1000円を切る価格で入手することが出来る。
注文から随分待たされてようやく土曜日に届いたCDを何度もリピートして聴いている。

廉価盤だけあって、CDには解説や歌詞などは全く付けられていないが、国内盤LPのライナーノーツと歌詞対訳を参照しながら聴き進めている。
録音データは明記されていないが、丸P年表示が1977年となっているので、おそらく1976年前後の録音なのだろう。
ということはアーメリング40代前半の時の歌唱ということになる。
実際聴いてみても、その伸び伸びとした声の張りと美しさはまだいささかも衰えを見せておらず、全盛期だった頃の貴重な記録である。
そして彼女特有の温かい雰囲気を醸し出す声の表情は、クリスマスソングとの最高の相性の良さを感じずにはいられない。
アーメリングの素晴らしい点の一つはそのディクションの明晰さにあると思う。
どんな言語を歌ってもどんな子音にいたるまではっきり言葉が発音され、母音の響きも彼女なりにその言語の特徴に近づけようと尽力し、多くの場合は成功しているように思う。
この録音で彼女は英語、ドイツ語、ラテン語、オランダ語、カタルーニャ語、スペイン語、フランス語を披露している。
私にとってはいずれも外国語なので、ネイティヴ同然と断言する自信はないが、少なくとも違和感なくどの言語の作品も生き生きと自分のものにして聞かせているということははっきりと感じる。
国内盤LPの解説を書いておられる濱田滋郎氏の「諸国語それぞれの歌には、それぞれ固有の“いのち”がある。そしてアメリンクはじつによくその“いのち”に迫りえている」という言葉に全く共感するのである。

選ばれた作品は世界各地の民謡が多く、それらをオランダの共演ピアニスト・指揮者のフェリックス・ド・ノーベル(Felix de Nobel)や、ノルウェーの作曲家・編曲家のアルネ・デルムスゴー(Arne Dørumsgaard)たちがピアノ共演、あるいはリュート共演の形に編曲している。
一方で、ブラームスやハイドン、ドビュッシー、ラヴェルなどのオリジナル曲もあり、クリスマスというテーマから様々な側面を引き出している。
クリスマスといえば、キリスト教徒でもない限りは楽しい(あるいは淋しい?)イベントというところにとどまってしまいがちだが、ここに選曲された作品で、キリストの誕生を喜んだり、人々の救済者となるための悲劇的な運命を悲しんだりしながら、キリスト教の根付いている国々の人々の信仰心を一時的にでも体験することが出来ると思う。
異色なのがドビュッシーの「家のない子どもたちのためのクリスマス」で、戦争で家も両親も学校も失った幼い子供が「フランスの子供に勝利をください」とキリストに祈るという内容である。
第1次大戦中にドビュッシー自身によって書かれたテキストに作曲されたこの作品は明らかに反戦歌であり、戦火の中でクリスマスを迎えなければならない人が今もなくならない現状を思い起こさせる選曲である。
特に面白かったのが「ビリャンシーコ~クリスマスの踊り唄」というカタルーニャ地方の民謡で、12月25日、聖母マリアの御子が生まれたと歌われるが、随所に出てくる"fum, fum, fum"という掛け声に呼応するスペイン情緒たっぷりの手拍子が入る。
アーメリング本人が手を叩いているのかどうかは分からないが、リズミカルで浮き立つような曲にぴったりで、オリジナルでも同じように楽器や手をたたいて囃したそうだ。
このCDの曲の中で唯一実演で聴いたことがあるのがホアキン・ニンの編曲した「アンダルシアのビリャンシーコ」で、はじめてアーメリングの実演を聴いた1987年のアンコールで、「クリスマスが近いのでニンのクリスマスソングを歌います」と前置きしてこの曲が歌われたのが懐かしく思い出される。
情熱的な前奏に導かれて明るい旋律が歌われる。
なお、安藤博氏の解説によれば、ビリャンシーコとは元来は15-16世紀のスペインの3~4声部の歌曲を指していたそうだが、18世紀以後はクリスマス賛歌のことを指すようになったそうである。
「さあ、坊やをあやしましょう」という曲はブラームスの「砂男(眠りの精)」にそっくりで、解説者も触れているようになんらかの関連があるのかもしれない。
このアルバムでブラームスの「宗教的な子守唄」が聴けるのがうれしい。
民謡「ヨーゼフ、私のいとしいヨーゼフ」(Josef, lieber Josef mein)をヴィオラパートに置き、苦しみで疲れている幼児を起こさないでくださいというガイベルのテキストが厳粛な中にも優しく穏やかな響きで歌われ、素晴らしい聞き物になっている。
アーメリングの優しい歌声は幼児への最高の子守唄となっていた。
有名な「イン・ドゥルチ・ユービロ」や哀愁を漂わせる「牡牛と灰色ロバにはさまれて」、あるいは歌とオルガン、弦楽五重奏、2本のホルンという編成のハイドンの「はした女」なども素晴らしいが、中世オランダ語とラテン語が混ざった「おお、イスラエルの聖(きよ)らかな処女よ」は古風な旋律を真摯に歌い上げるアーメリングと絶妙にからむリュートが印象深かった。
「羊飼いの呼び声」のユーモラスな表現はアーメリングの独壇場だ。
こういう曲を歌わせたら彼女は最高である。
アルバムの最後を飾るのはラヴェルの自作の詩による「おもちゃのクリスマス」。
機械仕掛けの動物やモミの木につらされた飾りがラヴェルのクールな肌触りの曲の中で繊細に描かれ、最後は「クリスマスだ!(Noël!)」と高らかに歌われて締めくくる。

ボールドウィンのどんなタイプの曲にもぴったり対応する演奏は相変わらず素晴らしいし、佐藤豊彦のリュートの素敵な響きがどれほどアットホームな雰囲気を加味していることか。

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鎌田滋子&ボールドウィン/リサイタル(2008年11月15日 サントリーホール ブルーローズ)

「鎌田滋子ソプラノ・リサイタル」
Kamada_baldwin2008年11月15日(土)14:00 サントリーホール ブルーローズ

鎌田滋子(Shigeko Kamada)(S)
ダルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(P)

フランス古典歌曲
1.15世紀のシャンソンより/私の恋
2.ピエール・ゲドゥロン/羊飼いたちの喜びと楽しみ
3.ミシェル・ランベール/重き理由
4.ジャン・バティスタ・リュリ/愛の神よ、来よ!
5.17世紀のミュゼットより/タンブリン

レイナルド・アーン
6.クロリスへ
7.美しい婦人のあずま屋で
8.私の詩に翼があれば
9.オレンジの木の下で
10.私は、シブレットと申します!(オペレッタ「シブレット」より)

ヘクトール・ベルリオーズ
11.ヴィラネル
12.バラの妖精
13.ツァイーデ

 ~休憩~

山田耕筰
「三木露風の詩による歌曲」
14.唄
15.野薔薇
16.君がため織る綾錦
17.たたえよ、しらべよ、歌ひつれよ!

フーゴ・ヴォルフ
18.朝露
19.小鳥
20.冬の子守唄
21.夏の子守唄
22.ねずみ取りのおまじない

スペイン歌曲
23.ホアキン・ロドリーゴ/愛しい人が顔を洗う時
24.ホアキン・ロドリーゴ/お母さん、私ポプラの並木に行ったの!
25.フェデリコ・モンポウ/パストラル
26.マヌエル・マリア・ポンセ/アレルヤ

 ~アンコール~

27.イラディエール/ラ・パロマ(鳩)
28.山田耕筰/赤とんぼ
29.アーン/私は、シブレットと申します!(オペレッタ「シブレット」より)

(上記は、アンコール曲を除いて、プログラム冊子の表記に従いました。)

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曇り空の土曜日の午後、サントリーホールの小ホール(「ブルーローズ」という名前が付いたのはいつからなのだろうか)で鎌田滋子のソプラノ・リサイタルを聴いてきた。
1973年のデビューから今年でちょうど35周年ということで、その記念も兼ねているようだ。
共演はドルトン・ボールドウィン。
ボールドウィンの実演を聴くのは2002年の「ダルトン・ボールドウィン来日45周年を記念して~祝・70歳~」というコンサート以来だったと思う。
この時には鎌田さんも出演し、中田喜直とバーンスタインの歌曲を歌っていた。

鎌田さんはまず登場時のドレスが目を惹いた。
前半はまばゆい宝石をちりばめた緑のドレス、そして後半は配布されたプログラムの配色にも似た薄紫の美しいドレスで、視覚的にも楽しませてくれた。
プログラミングはボールドウィンのアドバイスによるものとのことで、前半がフランス物、後半が日本、ドイツ、スペイン歌曲と幅広い選曲がされていた。

最初のフランス古典歌曲、ほとんど私にとって初めての曲ばかりだったが、しっとりとした高貴な香りが漂う美しい作品が揃っていた。
軽快な曲や深刻な曲がある中、私が唯一知っていた楽しい「タンブリン」という曲は、アーメリングと共演したボールドウィンのレコードで聴いていたので、こうして実演で彼の弾く姿を見ながら聴けるのは感慨深かった。
そのレコードではヴェッケルリン(Weckerlin)という人の作曲と表記されていたが、今回プログラム冊子に名前の表記がないところを見ると確実ではないのかもしれない。
鎌田さんは生き生きと表情豊かに歌っており、ボールドウィンのますます豊かさを増した音楽性に導かれて絶妙なアンサンブルを築いていた。

ベネズエラ出身のレイナルド・アーンは歌もピアノもこなすシンガーソングライターだが、彼の歌曲はサロン風の軽さと古典的な要素の適度な融合具合が演奏者に愛されているのではないだろうか。
「クロリスに」などバッハのような美しく静謐なピアノにのって厳かに歌われるが、詩の内容は熱烈なラブソングである。
軽快な「美しい婦人のあずま屋で」や流れるような甘美な「私の詩に翼があれば」(アーン12歳の作品!)はアーン歌曲の代表作と言えるだろうが、これらもとても真摯にメッセージを伝えようという鎌田の思いが感動的だった。

ベルリオーズは歌曲集「夏の夜」からの2曲と、「ツァイーデ」という歌曲。
「ツァイーデ」ははじめて聴いたが、スペイン風のリズムが特徴的な作品だった。
プログラムの締めくくりにふさわしい選曲だった。

休憩中、自由席だったこともあり、私は席を離れなかったのだが、真後ろに座っていた2人組の上品なご婦人のうちの1人がなにか憤慨している。
聞こえてきた話は要するに、前の列の真ん中あたりの席が空いていて演奏者に申し訳ない。
端の人が真ん中にずれればいいのに・・・という内容だった(「端の人」というのが私のことを言っていたのは明らかだった)。
私は前から3列目の真ん中ブロックの左端に座っていたが、ボールドウィンの弾く姿を見たかったし、通路側の気楽さもあるので、そこが私にとってのベストポジションだったのである。
結局私はその席を離れなかったのだが、後ろのご婦人も「席の好みがあるから仕方ないわよ」ともう1人になだめられていた。
でも私の後ろの席は真ん中は人が埋まっているわけだし、そんなに空席が気になるのなら、同じくブロックの端に座っているお2人が前の列に移って真ん中を埋めればいいのにと釈然としないものを感じた。
演奏者に気を遣った席にするべきなら自由席の意味はないのではないだろうか。
そんなことを考えてもやもやしたまま後半の演奏が始まったので、正直山田耕筰の曲は集中して聴くことが出来なかった(「唄」という曲は「蝶々」の調べが引用された面白い曲だった)。

続いて待望のヴォルフの歌曲。
このブロックの前に楽譜立てがステージに運ばれ、鎌田さんは楽譜を見ながらヴォルフの5曲を歌った。
ボールドウィンが選曲した作品ならば彼女に馴染みの薄い曲が含まれていても不思議はない。
出来れば暗譜で歌ってほしかったが、無理をして不安定な歌になるくらいなら楽譜を見ながら歌うのも一つの見識だろう。
「女声のための6つの歌曲」として出版された中から「糸紡ぎの娘」を除いた5曲がまとめて歌われるのはレパートリー的にも珍しく貴重な機会である。
そして鎌田さんは確かに不慣れな感じはあったものの、彼女の声によく合った選曲で、ボールドウィンの選曲眼の確かさを感じた。
特に「冬の子守唄」「夏の子守唄」では「おやすみなさい」という歌詞で客席に視線を向けるなど温かい雰囲気を醸し出していた。

最後のブロックはスペイン歌曲4曲。
ここが最も彼女の生き生きとした側面が遺憾なく発揮されていて、素晴らしかった。
ロドリーゴは民謡風の素朴さが魅力的で、モンポウは独特の和音がスペイン情緒を醸し出し、最後の「アレルヤ」は締めくくりにふさわしい壮大な讃歌であった。

アンコール3曲はハバネラのリズムによる「ラ・パロマ」ではじまり、しみじみとした哀愁を呼び起こす「赤とんぼ」が素晴らしかったが、「しっとりした曲で終わるのは私らしくないので」と前置きして、前半に歌われたアーンの「私は、シブレットと申します!」が再度歌われた。
ここでは「あるところに夢中症の女性がおりました。ジュリーと申します。・・・」と様々な女性の名前が挙げられ、最後に「私はシブレットと申します。・・・それは男の子たちが大好きな名前なのです。」と締めるのだが、最初は原曲通りに歌い、途中から日本語の替え歌となり、「ユーモラスな女性がおりました。・・・と申します」というように日本人女性の名前をあてはめて聴衆の笑いを誘っていた(お弟子さんたちの名前だろうか)。

鎌田さんの声はきめの細かい繊細な声質をしているように感じた。
高音を響かせるとヤノヴィツのような輝かしい声がたちあらわれる。
音程が若干上がりきらない箇所も聴かれたが、総じて彼女の歌は聴き手の心を温かくした。
アンコールの時に話し声も披露していたが、地声もとても美しく、優しい人柄が歌に反映しているように思った。

久しぶりに聴いたボールドウィンは、来月で77歳になる。
そのせいか以前には殆ど聴かれなかったミスタッチや思い違いも少なからずあったが、それでも彼の引き締まったタッチととてもよく歌う魅力的な音色、そして生き生きとした推進力のあるリズム感は健在で、ますます熟してきている印象を受けた。
最近の潮流の中では珍しく、ピアノの蓋は短い棒でわずかに開けられただけだったが、それで充分なほどに雄弁な音楽を聴かせてくれた。
演奏を終えるたびにステージから袖に向かいながらしきりに彼女に話しかけていたのが印象的だった。
それは愛弟子をどこまでも支え見守る師の姿と映った。

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アーメリング&ボールドウィンのCBS SONYオムニバスLP2種

エリー・アメリンク・リサイタル(SOUVENIRS)(全17曲)
Ameling_baldwin_souvenirsCBS SONY: 25AC 680 (LP)
録音:1977年11月, 30th Street Studio, NYC
エリー・アメリンク(Elly Ameling)(S)
ダルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(P)

1.ロッシーニ(Rossini)/踊り(La danza)2'54
2.カントルーブ(Canteloube)/「オーヴェルニュの歌」:子守歌(Brezairola)3'16
3.ロドリーゴ(Rodrigo)/お母さん、ポプラの林へ行ってきたよ(De los alamos)1'58
4.ヴュイエルモズ(Vuillermoz)/愛の庭(Jardin d'amour)2'59
5.ラフマニノフ(Rachmaninoff)/雪解け(Spring waters)1'57
6.アーン(Hahn)/ラストワルツ(La dernière valse)4'41
7.アイヴズ(Ives)/追憶(Memories)2'38
8.シェーンベルク(Schönberg)/ギゲールレッテ(Gigerlette)1'39
9.中田喜直(Nakada)/おやすみなさい2'12

10.パーセル(Purcell)/憩いの音楽(Music for a while)4'11
11.ウェルドン(Weldon)/眠らないよるうぐいす(The wakeful nightingale)1'52
12.ブリトゥン(Britten)/おお、あわれよ(O Waly, Waly)3'49
13.マルタン(Martin)/菩提樹の下で(Unter der Linden)2'47
14.リスト(Liszt)/おお、いとしい人よ(O lieb)5'20
15.シベリウス(Sibelius)/春は飛ぶが如く足早に(Våren flyktar hastigt)1'38
16.オランダ民謡(Dutch folk song)/母(Moeke)1'47
17.フレブレーク(Hullebroeck)/アフリカーンスの子守歌(Afrikaans Wiegeliedjie)2'35

(日本語表記はジャケット記載に従った)

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愛の小径~エリー・アメリング愛唱集(Think On Me: Personal Favourites)(全16曲)
Ameling_think_on_meCBS SONY: 28AC 1242 (LP)
録音:1979年10月, オランダ
エリー・アメリング(Elly Ameling)(S)
ダルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(P)

1.スコットランド古謡(Old Scots Air)/わたしのことを思ってね(Think on me)4'29
2.ヴェッケルリン(Weckerlin)/タンブラン(Tambourin)1'11
3.オランダ民謡(Dutch folk song)/冬に雨が降ると(Des winters als het regent)2'36
4.ヴォーン・ウィリアムズ(Vaughn Williams)/しずかな真昼(Silent noon)4'47
5.ドヴォルザーク(Dvořák)/わが母の教え給いし歌(Als die alte Mutter)2'18
6.リスト(Liszt)/愛はすばらしいもの(Es muss ein Wunderbares sein)2'12
7.ブラームス(Brahms)/乙女の唇はバラのように赤い(Mein Mädel hat einen Rosenmund)1'51
8.ワーグナー(Wagner)/夢(Träume)5'33

9.グラナドス(Granados)/かしこいマホ(El majo discreto)1'31
10.グァスタビーノ(Guastavino)/バラと柳(La rosa y el sauce)2'52
11.ニン(Nin)/パーニョ・ムルシアーノ(Paño murciano)1'40
12.モンサルバーチェ(Montsalvatge)/黒人の子守歌(Canción de cuna para dormir a un negrito)2'40
13.トゥリーナ(Turina)/恋狂い(Las locas pór amor)1'18
14.プーランク(Poulenc)/愛の小径(Les chemins de l'amour)3'54
15.アーン(Hahn)/リラにくる夜ウグイス(Le rossignol des lilas)2'00
16.ガーシュイン(Gershwin)/シュトラウス礼讃(By Strauss)2'46

(日本語表記はジャケット記載に従った)

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エリー・アーメリングは1970年代にCBS SONYのためにいくつかのLP録音を行った。
シューベルトの四季に因んだ歌曲集やメンデルスゾーン歌曲集、クリスマス・アルバムなどがあるが、とりわけ印象深いのが、ここに挙げた1977年と1979年にドルトン・ボールドウィンとともに録音した2枚のオムニバス・アルバムである。

1977年の"SOUVENIRS"と題されたLPはアーメリングのアメリカ演奏旅行中に録音されたそうだ。
ここで歌われる言語は細かく分ければ実に13ヶ国語!
イタリア語ではじまり、仏オヴェルニュ地方方言、スペイン語、フランス語、ロシア語、米語、英語、ドイツ語、日本語、中世ドイツ語、スウェーデン語、オランダ語、アフリカーンス語まですべて原語のままである!
ロッシーニの「踊り」は月ののぼった浜辺で男女が夜を徹して踊ろうではないかと歌われる。
8分の6拍子のタランテラのリズムによるダンスミュージックをボールドウィンが全く破綻もなく軽やかに弾きこなし、アーメリングが余裕のある早口で楽しげに歌う。
カントルーブ「子守歌」の前奏でのボールドウィンの歌にあふれた演奏は特筆すべきだろう。
なかなか眠らない子に向けた子守歌はどこまでも心地よく、歌いながら眠ってしまいそうな甘美さだ。
アーメリングの魅力全開である。
ロドリーゴの「お母さん、ポプラの林へ行ってきたよ」は実演でも聴いたが、意外とピアノパートが複雑のようで、その時弾いていたヤンセンの手の動きがあわただしかったのを覚えている。
言うまでもなく恋人との逢引を歌った内容である。
ラフマニノフの有名な歌曲「雪解け」(「春の洪水」という訳でも知られる)はオリジナルのロシア語で歌われているが、アーメリングのロシア語の歌唱が聴ける録音はほかにないのではないだろうか。
彼女はムソルクスキーの歌曲集「子供部屋」なども手がけているが、いつもドイツ語訳で歌っていたようだ。
ラフマニノフらしい超絶技巧が求められる「雪解け」のピアノパートもボールドウィンは完璧に弾きこなしていて素晴らしい。
面白いのがアイヴズの「追憶」という曲で、アイヴズ自身の2つの詩を合わせて1曲にしている。
前半は歌曲史上最も早口が要求されるのではないかと思われるほどの高速で"Very Pleasant(非常に楽しく)"と指示され、劇場で開幕を待つときめきを歌う。
早口の間にアーメリングの軽快な口笛まで聞ける!
一方、後半は一転して"Rather Sad(かなり悲しげに)"と指示され、懐かしいメロディーを耳にして、祖父がその歌を歌っていた思い出にひたるという哀愁漂う音楽である。
陽気さとメランコリーの両面を瞬時に切り替えて、どちらも見事に歌うアーメリングの表現の幅広さを堪能した。
中田喜直の「おやすみなさい」は彼女の言葉に対する感覚の見事さを実感させてくれる見事な歌唱だった。
もちろん"r"が巻き舌になっていたり、"e"を伸ばす時ドイツ語のように「エ」と「イ」の中間のような発音になったり(極端に言えば「帰るまで」が「カエルマディー」のように聞こえる感じ)完璧でない箇所を指摘することは出来るが、そういう部分を含みながらも、彼女が歌の核心を理解しようとして、かなり成功しているように感じられるのは、単なる私の贔屓だけではないように思う。
日本語をはっきりと聞き手に伝え、しかもその言葉を西洋の法則に則ってつくられた旋律に乗せて魅力を引きだすのは日本人でも容易なことではないと思う。
その意味で彼女がこのレコードで聞かせた「おやすみなさい」は、ネイティヴではない外国人が日本語の響きを一から学んで歌ったがゆえの魅力を引きだすことに成功していると言えるのではないか。
私は彼女がこの曲を来日公演のアンコールで歌ったのを実際に聴いたことがあるが、さらに海外の音楽祭のアンコールでも彼女がこの曲を歌っているのを知り、単なる日本人へのサービスではなく、国境を問わず、気に入った作品を世界に発信しようとしている姿勢に感銘を受けた。
パーセルの「憩いの音楽」(「しばしの音楽」などとも訳される)はヴィブラートを抑制気味にして、装飾的なパッセージも織り込むなど、アーメリングの古楽風アプローチが耳に心地よい。
リストの「おお、いとしい人よ」(「愛せる限り愛せ」)は、あまりにも有名なピアノ曲「愛の夢第3番」の元歌だが、私もピアノ曲の方を先に知っていて、このアルバムではじめて原曲に接することが出来たものだった。
ピアノ編曲版での即興的なパッセージはオリジナルのこの歌曲には無く、リストが歌曲をピアノ曲に編曲する術は他人の作品でも自作でも変わらないようだ。
シベリウスの有名な歌曲に続いて、最後に母国語の民謡「母」と、南アフリカのオランダ語であるアフリカーンス語による「アフリカーンスの子守歌」でアルバムを締めくくる。
コミカルなリフレインが印象的な「母」と、素朴で非常に美しい「アフリカーンスの子守歌」、どちらもオランダ語であるがゆえの自在さはあるのだろうが、他国の歌曲と基本的にアプローチは変わらないように感じられ、アーメリングの歌曲との接し方に一切のブレがないのが、「歌曲の女王」たる所以ではないだろうかと感じた。

77年のアルバム紹介だけで長くなってしまった。
79年録音のアルバムも彼女の多彩さと温もりの詰まった素晴らしい作品である。
ヴァーグナーの官能的な「夢」のような作品にあえてチャレンジしているのもうれしい。
「夢」での彼女の歌唱は、オペラティックに歌われることの多いこの曲からリートらしさを取り戻したような歌いぶりであった。
意外と相性のよさを感じさせたのがスペイン歌曲。
アルゼンチンのグァスタビーノ「バラと柳」は、柳が思いを寄せていたバラが少女に折られてしまい悲しむという内容だが、そのメランコリックな曲調は彼女の声質にぴったりはまって美しかった。
一方、ニンの「パーニョ・ムルシアーノ」でも気取りのない声がこの作品と意外なほど相性がよく、見事だった。
ほかにもヴォーン・ウィリアムズ「しずかな真昼」、ドヴォルザーク「わが母の教え給いし歌」、プーランク「愛の小径」など素敵な歌唱が盛り沢山である。
最後に置かれたガーシュウィンの「シュトラウス礼讃」(バイ・シュトラウス)は、作曲家の兄アイラの詩によるもので、アーヴィン・バーリンもコール・ポーターもガーシュウィン(!)も聞きたくない、ウィーンのワルツを流しておくれ、「ドーナウ」や「こうもり」のようなJ.シュトラウスのワルツを!という内容である。
こういう音楽も彼女流に律儀に調理してしまうのが素晴らしい。
ポピュラー畑の人の歌唱とはもちろん違うが、これはこれでなんとも楽しい。
YouTubeにもこの曲を歌う彼女のライヴがアップされているので興味のある方はご覧ください。
http://jp.youtube.com/watch?v=j0Pq9X29mEo

とにかく彼女の温かく、気取りがなく、聞き手の心にじかに歌いかけてくれるような親密な空間を作り出す彼女の魅力が詰まった非常に楽しい2枚のアルバムです。
CD化は期待できないかもしれませんが、東京文化会館の音楽資料室ではおそらく聞けるでしょうし、中古店やオークションなどでLPが入手できる可能性はあるので、機会があれば是非聴いてみてください。

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