メンデルスゾーン/眠れぬ瞳のともしび(Schlafloser Augen Leuchte)

Schlafloser Augen Leuchte
 眠れぬ瞳のともしび

Schlafloser Augen Leuchte, trüber Stern,
Dess' tränengleicher Schein, unendlich fern,
Das Dunkel nicht erhellt, nur mehr es zeigt;
O wie dir ganz des Glück's Erinn'rung gleicht!
So leuchtet längst vergang'ner Tage Licht:
Es scheint, doch wärmt sein matter Schimmer nicht,
Dem wachen Gram erglänzt die Luftgestalt,
Hell, aber fern, klar, aber, ach, wie kalt!
 眠れぬ瞳のともしび、悲しげな星よ、
 その涙のような輝きは、果てしなく遠い、
 暗闇を明るくすることはなく、ただそれを指し示すだけ。
 おおなんとおまえに似ていることか、幸福の思い出は!
 このように長いこと過ぎ去った日々の光は輝いている。
 それは光を放つが、その弱々しい微光は暖めたりはしない、
 目覚めた苦悩に空に浮かぶものが輝き放つ、
 明るいが遠くで、澄んでいるが、ああ、なんと冷たく!

原詩:George Gordon Noel Byron, Lord Byron (1788-1824)
曲:(Jakob Ludwig) Felix Mendelssohn-Bartholdy (1809-1847)

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先日記事にしたフーゴ・ヴォルフの「眠れぬ者の太陽」と同じバイロンの英語詩に、ヴォルフの時とは異なる訳者による独訳詩によってメンデルスゾーンが歌曲をつくっているので、比較の意味で取り上げたい。

バイロンの詩による作品番号なしの"2 Romanzen"の2曲目。

メンデルスゾーンの音楽は詩の4行ずつで2節の有節形式に近い形をとる。
しかし、言葉の抑揚に応じて細かい変化を付けたり、終止の旋律を変えたりしている。
ピアノパートのターンターンタの付点リズムは月の光のまたたきをイメージさせる。
歌声部はヴォルフのように言葉の一語一語に反応していくのではなく、全体的に暗く重苦しい雰囲気を保っていく。
高音域でオクターブを響かせるピアノパートが月の「冷たさ」を表現しているかのようだ。

Assai sostenuto
4分の2拍子
ホ短調
全32小節(うちピアノ前奏3小節)
歌声部の最高音:2点ト音
歌声部の最高音:1点嬰ニ音

動画サイトではこの曲の演奏を見つけることが出来なかったが、F=ディースカウ&サヴァリッシュのCDを扱ったamazonのサイト(19曲目)で試聴できます。
 amazonのサイト

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内藤明美&平島誠也/メゾソプラノリサイタル(2009年11月6日 東京オペラシティ リサイタルホール)

内藤明美 メゾソプラノリサイタル
Naito_hirashima_20091106二人のフェリックス
~メンデルスゾーン生誕200年に因んで~
メンデルスゾーンとドレーゼケの歌曲

2009年11月6日(金) 19:00 東京オペラシティー リサイタルホール(自由席)

内藤明美(Akemi Naito)(MS)
平島誠也(Seiya Hirashima)(P)

メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn Bartholdy: 1809-1847)作曲

月op.86-5
ふたつの心が離れる時op.99-5
問いop.9-1
最初の喪失op.99-1
恋する女の手紙op.86-3
ズライカop.34-3
ズライカop.57-3

花束op.47-5
あいさつop.19-5
思い出(Erinnerung)(1841)(詩:Heine)
君のもとに飛んで行けたら(O könnt' ich zu dir fliegen)(1840)(詩:Schenkendorf)
民謡(Volkslied)(1845?)(詩:Burns)
葦の歌op.71-4
夜の歌op.71-6

~休憩~

ドレーゼケ(Felix Draeseke: 1835-1913)作曲

捨てられた娘op.2-11
夕暮れの輪舞op.17-1
アグネスop.81-2
君は翳らぬ日の光op.67-2

「風景画集」op.20(中声のための六つの歌曲)
 小舟
 おまえの息吹の香を
 私はただ人生について考えた
 夜の慰め
 ローマの夜
 ヴェネツィア

~アンコール~
1.メンデルスゾーン/歌の翼にop.34-2
2、リスト(Franz Liszt)/それは素晴らしいことにちがいない(Es muss ein Wunderbares sein)S.314
3.島原の子守唄

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内藤明美&平島誠也によるリサイタルは毎年地道に続けられ、その意欲的なプログラミングと聴き手を魅了する演奏は毎回貴重な体験をさせてくれる。
今回のリサイタルでは生誕200年ながらなかなかまとまった歌曲のレパートリーとして聴くことの出来なかったメンデルスゾーンと、彼の名前にあやかって同じくフェリックスという名前の付けられたドレーゼケという作曲家の歌曲が披露された。
私はメンデルスゾーン歌曲が大好きなのだが、実演で聴ける機会が殆どないので、今回のリサイタルはおおいに期待して出かけてきた。

内藤さんは前半は金色のシックなドレス、後半は鮮やかなブルーのドレスで、それぞれ髪型も変えて魅せてくれた。

メンデルスゾーンの歌曲というと「歌の翼に」「新しい恋」「あいさつ」あたりが定番で、そのほかに数種類ある「春の歌」や「月」「ヴェネツィアのゴンドラの歌」などが歌われることが多いが、今回の内藤さんのレパートリーはそれらの有名曲はあまりとりあげず、作品番号のついていない非常に珍しい3曲(そのうちの1曲「思い出」はシューマンの「寂しさの涙は何を望むのか」Op.25-21と同じハイネの詩による)も含めて、意欲的な選曲をしているのが目を引く。
次々披露されるメンデルスゾーンの歌曲を聴きながら、これほど魅力的な作品を彼女のような優れた歌唱で聴ける幸せを感じる一方で、なかなか彼の歌曲が普及しないのは案外聴衆を惹きつけるような演奏をするのは歌手たちにとって難しいのかもしれないと感じた。

はじめて聴くドレーゼケの歌曲の中では、最初に演奏された「捨てられた娘」がかなりドラマを感じさせる作品で印象に残った。
同じ詩によるヴォルフの歌曲以上に革新的といってもいいぐらいである。
一方で同じくヴォルフの曲がある「アグネス」では、詩の悲壮感よりも民謡の味わいを前面に出して、ヴォルフとは対照的な解釈をしていたのが興味深かった。
「風景画集」という歌曲集はウーラントら様々な詩人のテキストによる、諸国を旅しているかのような情景描写が歌われている。
そのテキストの性格上、いくらでも手の込んだ描写的な音楽にもなりそうなものだが、ドレーゼケはそのようには作曲しなかったように感じた。
カラーの美麗なパンフレットで充実した解説を執筆されている山崎裕視氏の言葉を借りれば「古典的とも言える様式性と落ち着き」ということになるだろう。

内藤さんは最初のうちこそ若干固く感じられたが、徐々に本来の響きを聞かせてくれたと思う。
内藤さんの深さと官能性を併せ持った声はどちらかというとメンデルスゾーンの清潔で軽快な歌曲とは対照的な印象を持っていたが、実際に聴いていくうちにいつのまにか彼女の世界に引き込まれていくのを感じた。
「最初の喪失」や2曲の「ズライカ」など、シューベルトの歌曲との比較も楽しい。
「ズライカ」についてはシューベルトの曲に劣らず魅力的な作品だと思うがいかがだろうか。
詩人レーナウの憂愁をそのまま音に移し変えたかのような「葦の歌」では、彼女の深みのある声が最大限に生きて、平島さんのピアノともども素晴らしい演奏だった。
アイヒェンドルフの詩による「夜の歌」ではボリューム感のある声でクライマックスを築き、ストレートに胸に迫ってくる名唱だった。
ドレーゼケのはじめて聴く歌曲の数々も決して近寄りがたいものとならず、接しやすい雰囲気で歌ってくれたのは彼女ならではといえるかもしれない。

平島さんのピアノはいつものことながら周到に細部まで目配りの行き届いた演奏。
ピアノの蓋は一番短いスティックでわずかに開けられているに過ぎないが、どの音もつぶすことなく美しく響かせる。
そして各曲の終わりの音をたっぷり伸ばして最後まで曲の雰囲気を大切にしていた。
その作品に対するデリカシーに溢れた感性は、外来のピアニストたちにも見習ってもらいたいほどである。

アンコールの最初で有名な「歌の翼に」が流麗に演奏され、温かい雰囲気に包まれたが、2曲目の作曲家のリストはドレーゼケと深い交流があったようだ。
最後は演奏者お2人の故郷、長崎の歌、辛い境遇に巻き込まれた女性たちを歌った悲しい子守歌だが、内藤さんは独特の節回しを情感豊かに表現し、平島さんは楽譜なしで深い共感をもって演奏していた。

次回はどんなプログラムを聴かせてくれるのか、今から楽しみである。

Naito_hirashima_20091106_chirashi

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アーメリングのメンデルスゾーン・ディスコグラフィー

ソプラノのエリー・アーメリング(Elly Ameling: 1933-)は、今年生誕200年を迎えたメンデルスゾーンの歌曲も当然ながらレパートリーに加えているが、録音されたものはそれほど多くはなく、以下のとおりである。

1)アメリンク~歌の翼に

Ameling_baldwin_1972_emi_2東芝EMI: SERAPHIM: TOCE-8956 (CD)
録音:1972年9月6-11日, Gemeindehaus Studio, Zehlendorf, Berlin
Elly Ameling(S)
Dalton Baldwin(P)

歌の翼に(Auf Flügeln des Gesanges) Op. 34-2

ボールドウィンと共演した全18曲からなるEMIへの初オムニバス盤の7曲目に「歌の翼に」が収録されている(当時39歳)。
英独仏伊の各言語を駆使した彼女らしい名録音で、「歌の翼に」も伸びやかに歌われている。

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2)くるみの木~アーメリング/ドイツ・ロマン派歌曲集
Ameling_baldwin_german_romantic_son(German Romantic Songs)

日本フォノグラム: PHILIPS: X-7806 (LP)
録音:1976年9月10-14日, Kleine zaal, Concertgebouw, Amsterdam
Elly Ameling(S)
Dalton Baldwin(P)

恋する女の手紙(Die Liebende schreibt) Op. 86-3

ボールドウィンと共演した11人のロマン派の作曲家による計18曲のプログラム(当時43歳)。
メンデルスゾーンの歌曲からは「恋する女の手紙」が歌われ、7曲目に置かれている。
彼女の多くの未CD化の録音の中でもとりわけCD化が待ち望まれる名盤の1つである。

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3)“歌の翼に”~アメリング・メンデルスゾーン歌曲集(全17曲)
Ameling_jansen_mendelssohn(Mendelssohn: Lieder)

CBS: 28AC1407 (国内盤LP)
録音:1979年12月4日, 30th Street Studio, New York
Elly Ameling(S)
Rudolf Jansen(P)

第1面
歌の翼に(Auf Flügeln des Gesanges) Op. 34-2 (')
挨拶(Gruss) Op. 19-5
新しい愛(Neue Liebe) Op. 19-4
ロマンス(Romanze) Op. 8-10
ゆりかごのそばで(Bei der Wiege) Op. 47-6
慰さめ(Tröstung) Op. 71-1
秋に(Im Herbst) Op. 9-5
春の歌(Frühlingslied) Op. 47-3
月(Der Mond) Op. 86-5

第2面
恋する女の手紙(Der Liebende schreibt) Op. 86-3
ズライカ(Suleika) Op. 34-4 (「ああ、湿り気をおびてそよいでくるおまえ」"Ach, um deine feuchten Schwingen")
ズライカ(Suleika) Op. 57-3 (「心をかきたてるこのそよぎは何なのでしょう」"Was bedeutet die Bewegung?")
お気に入りの場所(Lieblingsplätzchen) Op. 99-3
最初のすみれ(Das erste Veilchen) Op. 19-2
乙女のなげき(Des Mädchens Klage)
夜の歌(Nachtlied) Op. 71-6
魔女の歌(Hexenlied) Op. 8-8

(上述の歌曲の日本語表記は国内盤LPの表記によった)

アーメリング唯一のメンデルスゾーンのみによる歌曲集であり、同じオランダ出身のルドルフ・ヤンセンとの初共演録音でもあった(当時46歳)。
「歌の翼に」「恋する女の手紙」以外は当然ながら彼女にとって初録音であり、メンデルスゾーンの著名な歌曲と無名な歌曲がバランス良く選曲されている。
アーメリングの円熟に向かいつつある声はまだまだ充分にチャーミングで、語り口の巧みさはますます磨きがかかっている。
このLPレコードも未だCD化されていないが、復活は望み薄だろうか。

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4)「歌の翼に」

Ameling_jansen_1988日本フォノグラム: PHILIPS: 28CD-896 (422 333-2)
録音:1988年2月22~25日, La Chaux-de-Fonds, Switzerland
Elly Ameling(S)
Rudolf Jansen(P)

歌の翼に(Auf Flügeln des Gesanges) Op. 34-2

アーメリングがPHILIPSレーベルに最後に録音したのは、「歌の翼に」と題された19曲からなるアンコール・ピース集だった(当時55歳)。
その冒頭に「歌の翼に」が置かれており、彼女にとって3回目にして最後の同曲の録音となった。
声は濃密さを増したが、弱声の魅力がさらに増していることに驚かされる。

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アーメリングの録音したメンデルスゾーン歌曲のレパートリーは結局17曲にとどまったが、ほぼ有名な作品は網羅しており、その点では満足できるだろう(出来れば「葦の歌」や「ヴェネツィアのゴンドラの歌」も彼女の歌で聴いてみたかったが)。
やはり「歌の翼に」を3度も録音しているのが目を引く。
それはレコード会社の意向もあったのだろうが、アーメリングの日本での引退コンサートのアンコールでもこの曲が歌われており、彼女が「歌の翼に」を好んで歌っていたということは間違いないだろう。

ちなみに歌曲ではないが、若かりし頃(1968年6月)にサヴァリシュ指揮、シュライアー、アーダムら共演でオラトリオ「エリア」Op. 70全曲録音(PHILIPS)に参加していることも忘れてはならないだろう。

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メンデルスゾーン/春の歌Op. 47-3(レーナウ詩)

Frühlingslied, Op. 47-3
 春の歌 作品47-3

Durch den Wald, den dunkeln, geht
Holde Frühlingsmorgenstunde,
Durch den Wald vom Himmel weht
Eine leise Liebeskunde.
 森を、暗い森を通って、
 心地よい春の朝の時間がやってくる。
 森を通って、天から
 かすかな愛の知らせが吹いてくる。

Selig lauscht der grüne Baum,
Und er taucht mit allen Zweigen
In den schönen Frühlingstraum,
In den vollen Lebensreigen.
 喜んで緑の木は耳を傾け、
 あらゆる枝でひたるのだ、
 美しい春の夢に、
 生の輪舞に満ちた中に。

Blüht ein Blümchen irgendwo,
Wird's vom hellen Tau getränket,
Das versteckte zittert froh,
Daß der Himmel sein gedenket.
 一輪のかわいい花がどこかで咲くと、
 明るい色の露にぬれる、
 その人目につかず咲く花はうれしくて震えている、
 天が自分を思ってくれているから。

In geheimer Laubesnacht
Wird des Vogels Herz getroffen
Von der Liebe Zaubermacht,
Und er singt ein süßes Hoffen.
 ひそかな木陰道の夜に
 鳥の心は撃ち抜かれる、
 愛の魔力によって、
 そしてその鳥は甘美な希望を歌うのだ。

All' das frohe Lenzgeschick
Nicht ein Wort des Himmels kündet,
Nur sein stummer, warmer Blick
Hat die Seligkeit entzündet.
 快活な春の運命がすべての
 天の言葉を伝えているわけではなく、
 ただその無言であたたかい眼差しのみが
 至福の火を灯してくれたのだ。

Also in den Winterharm,
Der die Seele hielt bezwungen,
Ist dein Blick mir, still und warm,
Frühlingsmächtig eingedrungen.
 すなわち冬の悲しみは
 魂を抑え続けるが、その中で
 おまえの眼差しは私に、静かにあたたかく
 春の力強さで沁みいったのだ。

詩:Nikolaus Lenau (1802.8.13, Csatád (Schadat) - 1850.8.22, Oberdöbling)
曲:Jakob Ludwig Felix Mendelssohn Bartholdy (1809.2.3, Hamburg - 1847.11.4, Leipzig)

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メンデルスゾーンの「春の歌」と題された作品は歌曲だけでもいくつかあり、以前の記事でも触れた。
今回はそれらの中でもっとも有名なニーコラウス・レーナウの詩による「春の歌」Op. 47-3をとりあげる。

詩を書いたレーナウのオリジナルのタイトルは"Frühlingsblick"(春の眼差し)。
森を通って春という“愛の知らせ”が吹き渡ると、緑映える木は喜んで春の夢を見、一輪の花はうれしくて露の涙を流し、鳥は愛を感じて希望の歌を響かせる。
その陽気な側面だけでなく、何も語らぬまま温かい眼差しを向ける春の力が、冬の悲しみを溶かしてくれるのだと歌われる。

詩の2節分を音楽の1節にした全3節の有節形式(第3節はピアノパートに若干の変化がある)。
ピアノパートは第1~2節を通して、16分音符の急速な分散和音と、リズムを刻む8分音符の連打が1つのパターンになっており、第3節では前半に16分音符の分散和音が増え、テキストの内容に反応してrit.も付加されて若干変化をもたらしているが、歌の旋律は基本的に変わらない。
しかし、第3節第4行の"Seligkeit"(至福)のピアノのハーモニーは前節より明るく響かせており、詩句に沿った工夫を凝らしていることが分かる。

また、曲の各節(詩の2節分)最終行は第2音節から繰り返される。
つまり、第1節の場合は"In den vollen Lebensreigen"の"In"を除いて"den"から、そして第2節は"Und er singt ein süßes Hoffen"の"Und"を除いて"er"から繰り返されるので問題ない。
しかし、第3節は"Frühlingsmächtig eingedrungen"となっており第2音節("Frühlingsmächtig"の"-lings")からはじめることは不可能であり、メンデルスゾーンは苦肉の策として"Ja mächtig eingedrungen"と、民謡などでよく使われる"ja"を加えて"Frühling"を取っ払ってしまった。
この箇所だけ音符を増やして対応することも可能だったかもしれないが、あえてそうしなかったのはメンデルスゾーンなりの有節形式へのこだわりがあったのかもしれない。
また、作曲家が有節形式で作曲する時には、第1節のリズムを基にする1つの証拠とも言えるかもしれない。

Allegro assai vivace
8分の9拍子
変ロ長調
最高音は2点変ロ音、最低音は1点ヘ音

シュライアー(T)&オルベルツ(P):BERLIN Classics:1971年9月録音:全盛期のシュライアーの美声で端正、かつほれぼれするほど魅力的に歌う。オルベルツの積極的で美しいタッチの演奏は歌に劣らず魅力的に感じた。
シュライアー(T)&エンゲル(P):BERLIN Classics:1993年10月録音:20年前の演奏より若干テンポが遅くなった以外はほぼ同じ解釈で歌っているが、それが出来るのはすごいことではないか。エンゲルも濃淡をわきまえたいい演奏だ。
アーメリング(S)&ヤンセン(P):CBS:1979年12月録音:温かいアーメリングの歌唱は慈しむように言葉を紡いでいる。ヤンセンも丁寧に演奏している。
プロチュカ(T)&ドイチュ(P):CAPRICCIO:1989年1月&11月録音:プロチュカは春の喜びを歌うのにぴったりな柔らかい美声で丁寧に表現している。ドイチュもしっかりとしたリズム感でプロチュカを導いていた。
F=ディースカウ(BR)&サヴァリシュ(P):EMI CLASSICS:1970年9月録音:低く移調している為、若干曲の生気は減っているように感じるが、ディースカウのメリハリの利いた歌は魅力的。サヴァリシュはペダルを多用して落ち着いた風情。

(ほかにボニー&パーソンズ、M.プライス&ジョンソンの録音がある筈なのですが、見つからないので、名前を挙げるにとどめておきます。)

以下の曲目リストの1トラック目をクリックすると、シュライアー&オルベルツの演奏(抜粋)が聴けます。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3501597

フランツ・リストによるピアノ・ソロ編曲版(リストの全曲録音を達成したレスリー・ハワードによる独奏)
http://www.youtube.com/watch?v=VwMl07Ize-U

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シュライアーの2種のメンデルスゾーン歌曲集(オルベルツ/エンゲル)

今年が生誕200年のフェーリクス・メンデルスゾーン=バルトルディ(Felix Mendelssohn-Bartholdy: 1809-1847)は、ヴァイオリン協奏曲や「フィンガルの洞窟」序曲、「夏の夜の夢」などでよく知られている作曲家である。
短命だが裕福な家系に生まれ、その明朗、優美な作風は幅広く愛されている。
大規模な作品だけでなく、ピアノ・ソロのための小品集「無言歌」も有名で、特に「春の歌」や「ヴェネツィアの舟歌」などは実際に弾いたことのある方も多いのではないか。
それとは別にチェロとピアノのための「無言歌」という作品もあり、ジャクリーン・デュ・プレがジェラルド・ムーアと録音しており、包み込むような美しい作品で印象に残っている。

メンデルスゾーンは独唱歌曲も多く作曲しているが、その中で飛び抜けて有名な「歌の翼に」を除くと残念ながらそれほど知られているとは言えない。
しかし、歌曲においても優美で耳あたりのよい作風は貫かれ、一度聴くとその魅力にとりつかれてしまう。

ドイツ、マイセン出身のテノール、ペーター・シュライアー(1935年生まれ)はオペラ、宗教曲だけでなく、歌曲の歌い手としてもコンサートや録音で活躍してきたが、1971年と1993年という20年もの間隔をあけてメンデルスゾーン歌曲集の録音を2回行っている。
1971年の録音(BERLIN Classics / DG)はドイツ、アーヘン出身のヴァルター・オルベルツ(1931年生まれ)と共演して22曲、そして1993年の録音(BERLIN Classics)はスイス、バーゼル出身のカール・エンゲル(1923-2006)と共演して24曲歌っている。

●1度目の録音

Schreier_olbertz_mendelssohnユニバーサルミュージック: DG: UCCG-4337
BERLIN Classics: 0092182BC
録音:1971年9月27~30日、Lukaskirche, Dresden

ペーター・シュライアー(Peter Schreier)(T)
ヴァルター・オルベルツ(Walter Olbertz)(P)

メンデルスゾーン作曲
1.春の歌Op. 47-3(2'17)*
2.挨拶Op. 19-5(1'47)*
3.春の歌Op. 34-3(2'50)
4.春の歌Op. 19-1(1'45)*
5.旅の歌Op. 57-6(1'50)
6.問いOp. 9-1(1'12)
7.新しい愛Op. 19-4(1'52)*
8.月Op. 86-5(2'00)*
9.もうひとつの五月の歌(魔女の歌)Op. 8-8(2'05)*
10.恋の歌Op. 34-1(1'42)*
11.狩の歌Op. 84-3(2'27)
12.ゆりかごのそばでOp. 47-6(3'25)
13.歌の翼にOp. 34-2(3'22)*
14.古いドイツの春の歌Op. 86-6(2'10)
15.葦(あし)の歌Op. 71-4(3'25)*
16.ヴェネツィアのゴンドラの唄Op. 57-5(2'05)*
17.旅の歌Op. 34-6(2'30)*
18.はじめての失恋Op. 99-1(3'15)
19.秋にOp. 9-5(2'00)
20.羊飼の歌Op. 57-2(2'55)*
21.冬の歌Op. 19-3(2'30)*
22.小姓の歌(1'45)*

(上記の日本語表記は原則として国内盤CD(UCCG-4337)に従いましたが、Op. 8-8はCDの記載「魔女の春の歌」から、Op. 71-4は「あしの歌」から上記に変えました)
HMVのサイトで上記の録音全曲が試聴できます)

●2度目の録音

Schreier_engel_mendelssohnBERLIN Classics: BC 1107-2
録音:1993年10月、Westdeutscher Rundfunk, Köln. Funkhaus Wallrafplatz, Großer Sendesaal

ペーター・シュライアー(Peter Schreier)(T)
カール・エンゲル(Karl Engel)(P)

メンデルスゾーン作曲
1.歌の翼にOp. 34-2(2'54)*
2.葦(あし)の歌Op. 71-4(3'00)*
3.月Op. 86-5(1'47)*
4.小姓の歌(1'49)*
5.春の歌Op. 9-4(2'53)
6.旅の歌Op. 34-6(2'47)*
7.夜ごとの夢にOp. 86-4(1'42)
8.ヴェネツィアのゴンドラの唄Op. 57-5(1'42)*
9.はるかな女性にOp. 71-3(1'26)
10.春の歌Op. 19-1(1'30)*
11.恋の歌Op. 34-1(1'46)*
12.お気に入りの場所Op. 99-3(2'35)
13.冬の歌Op. 19-3(2'35)*
14.挨拶Op. 19-5(1'40)*
15.初すみれOp. 19-2(2'11)
16.そのとき僕は木陰で横になっているOp. 84-1(3'45)
17.恋の歌Op. 47-1(1'56)
18.朝の挨拶Op. 47-2(1'53)
19.旅路でOp. 71-5(2'01)
20.夜の歌Op. 71-6(2'42)
21.羊飼の歌Op. 57-2(4'05)*
22.春の歌Op. 47-3(2'36)*
23.新しい愛Op. 19-4(1'56)*
24.もうひとつの五月の歌(魔女の歌)Op. 8-8(2'06)*

1度目の録音は最近ユニバーサルミュージックからDGレーベルの音源としてCD復活(UCCG-4337)を遂げたが、「世界初CD化」という触れ込みは誤りで、すでにBERLIN ClassicsがCD化していたので、「国内初CD化」と言うべきだろう。
2度目の録音もBERLIN Classicsから発売された後、国内盤としても発売されていた。

上記の曲目の後に*印を付けたものは1度目と2度目で重複して歌っている曲を示している。
つまり、2度目の再録音では全24曲中、半数以上の14曲も重複して歌っているのである。
1度目でのみ歌っている曲は8曲、2度目でのみ歌っている作品は10曲であり、シュライアーの録音におけるメンデルスゾーン歌曲のレパートリーは計32曲ということになる。
名歌手たちが「冬の旅」を何度も再録音するように、シュライアーが十八番のメンデルスゾーン歌曲を再び録音したくなったとしても不思議はない。
2度目の録音では8曲もの新レパートリーを聴くことが出来ること、さらに14曲の共通するレパートリーの聴き比べ(ピアニストも含めて)が出来ることを喜びたい。

ペーター・シュライアーは70歳を機に歌手活動から引退してしまったが、最後まで清冽で爽快な声を維持していたのは高音歌手としてはすごいことではないか。
この2種の録音でも36歳と58歳という20年以上の歳月の流れがあるにもかかわらず、それを感じさせない声と表現には驚かされる。
彼は旧東ドイツの聖歌隊出身ということで小さい頃から歌唱の基本を叩き込まれてきたのだろう、どのタイプの曲を歌っても安定した音楽と美しい言葉さばきを聞かせてくれる。
ドイツ語のほれぼれするほどの美しい発音は彼の魅力の一つだが、それ以上に過剰さのない表現の節度が素晴らしかった。
1980年代に入り、多少濃淡を大きくとる傾向が見られたが、それでも作品を逸脱しない範囲内であったと思う。
このメンデルスゾーンの録音でも、1971年の録音が清流のような清清しさで貫かれていたのに対し、1993年盤では若干高音が苦しい箇所もあるものの殆ど問題なく、危なげのない安定した歌唱はそのままで、さらに言葉の一言一言への重みが加わって味わい深くなっている。
このような変化を聞くのも特定のリート歌手を追い続けていく楽しみの一つである。

1971年盤の共演者ヴァルター・オルベルツは、ハンス・アイスラーのピアノ曲の初演や、ハイドンのピアノソナタ全集の録音、さらにシュライアー、オージェー、ヴァイオリニストのズスケなどとの共演者としても知られている。
この録音でも一貫して作品に同化した歌心を感じさせて、ただただ素晴らしい。
こういうピアノで歌えるシュライアーは恵まれているといえるだろう。
もともと美しくしっかりとした音色を聞かせるピアニストではあるが、その長所がこの録音では際立っていてすべてがプラスに働いている。
「歌の翼に」の分散和音がこれほど美しく響くのも珍しく、一方「もうひとつの五月の歌(魔女の歌)」でのあらん限りのテクニックでリズミカルに盛り立てるその手腕には驚き、この作品演奏でのベストのピアニストの一人と感じた。

1993年盤の共演者カール・エンゲルはオールマイティのピアニストであるが、もともと歌曲の演奏には定評があり、F=ディースカウやプライなどとの名演はよく知られている。
シュライアーとも何度も共演して気心の知れた間柄であるだけにここでも堅実、かつテクニシャンぶりを存分に発揮している。

メンデルスゾーンの歌曲は上述の曲目を見ても分かるとおり季節をテーマにした曲が多いが、とりわけ「春の歌」が多い。
このテーマで以前に記事を書いているので興味のある方はご覧ください。
http://franzpeter.cocolog-nifty.com/taubenpost/2007/04/post_5dcd.html

個人的に好きなメンデルスゾーンの歌曲は沢山あるが、特に「もうひとつの五月の歌(魔女の歌)」「ヴェネツィアのゴンドラの唄」「葦(あし)の歌」「夜の歌」「新しい愛」などは奇跡のような素晴らしい作品である。
複雑さはなく、素直に聴き手の心に入ってくるのがメンデルスゾーンの音楽の魅力である。

曲のタイプを大雑把に分類すると次のような感じだろうか。

・憂いを帯びた曲:「葦(あし)の歌」「ヴェネツィアのゴンドラの唄」
・ピアノが技巧的な曲:「もうひとつの五月の歌(魔女の歌)」
・静謐さで訴えてくる曲:「夜の歌」
・穏やかな曲:「挨拶」
・リズミカルな曲:「新しい愛」「小姓の歌」
・歌声部に半音進行を取り入れた曲:「月」
・ドラマティックな展開のある曲:「旅の歌」Op. 34-6

最後にシュライアーの歌ったメンデルスゾーンの映像が動画サイトにあったのでご紹介したい。
珍しく管弦楽に編曲されたもので3曲歌っている(「歌の翼に」「新しい愛」「挨拶」)。
多少映像と音がずれているのでその点はご了承ください。
1989年ベルリン録音、クラウス・ペーター・フロール(C)

http://www.youtube.com/watch?v=Z-M16Ao3NmU

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メンデルスゾーン「歌の翼にのって」(詩:ハイネ)

ハイネ歌曲の番外編として、メンデルスゾーンの最も有名な歌曲「歌の翼にのって」を訳してみた。“ガンジス川”や“ハスの花”のようなハイネの詩でお馴染みの言葉も出てくるのが興味深い。なお、岩波文庫の井上正蔵氏の解説によると、ハイネのいくつかの詩に見られる“ガンジス川”は、ボン大学在学中にA.W.シュレーゲルの講義に触発されたインド研究の影響らしい。原詩はハイネの詩集「歌の本(Buch der Lieder)」の「抒情挿曲」(「詩人の恋」の詩もある)に含まれている。メンデルスゾーンによる歌曲は1836年に出版された「6つの歌曲(6 Lieder)」Op. 34の2曲目で、8分の6拍子、変イ長調。A-A-A’の変形有節形式である(Aは原詩の2節分、A’は1節分)。冒頭の表示はAndante tranquilloである。歌声部の最高音は2点ヘ音、最低音は1点変ホ音で約1オクターブなので音域はそれほど広くない。メロディーは言うまでもなくきわめて甘く美しいもので、一度聴けば印象に残るほどである。歌曲としてよりも楽器用の編曲作品として知られているかもしれない。
私がこの曲をはじめて聴いたのはシュライアーとオルベルツによる録音だった。シュライアーの歌は、この曲の甘さを良い意味で程よく中和して、単なるBGMに陥らない格調高い清潔なもので本当に素晴らしかった。ピアノパートは分散和音に徹しているが、歌と絶妙なハーモニーを築き、特に間奏部分はメンデルスゾーンの才気を感じさせる。

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Auf Flügeln des Gesanges, Op. 34-2
 歌の翼にのって

Auf Flügeln des Gesanges,
Herzliebchen, trag ich dich fort,
Fort nach den Fluren des Ganges,
Dort weiß ich den schönsten Ort;
 歌の翼にのって、
 いとしい人、きみを連れて行こう、
 ガンジス川ほとりの野まで、
 そこはとても美しいところなんだ。

Dort liegt ein rotblühender Garten
Im stillen Mondenschein,
Die Lotosblumen erwarten
Ihr trautes Schwesterlein.
 そこには赤く花咲きほこった庭があるんだ、
 静かな月あかりの中で。
 ハスの花は
 親しい妹を待ちわびているよ。

Die Veilchen kichern und kosen,
Und schaun nach den Sternen empor,
Heimlich erzählen die Rosen
Sich duftende Märchen ins Ohr.
 スミレはくすくす笑ってじゃれ合い、
 星を見上げている。
 ひそかにバラは
 匂い立つメルヒェンをささやき合う。

Es hüpfen herbei und lauschen
Die frommen, klugen Gazelln,
Und in der Ferne rauschen
Des heil'gen Stromes Well'n.
 こちらに跳ねてきて、耳を澄ますのは、
 おとなしく賢いカモシカだ、
 遠くでは、
 聖なる川の波がざわめいている。

Dort wollen wir niedersinken
Unter dem Palmenbaum,
Und Lieb' und Ruhe trinken,
Und träumen seligen Traum.
 あそこで横になろうよ、
 シュロの木の下で、
 そして愛ややすらぎを飲み込んで、
 幸せな夢を見よう。

詩:Heinrich Heine (1797.12.13, Düsseldorf - 1856.2.17, Paris)
曲:Jakob Ludwig Felix Mendelssohn Bartholdy (1809.2.3, Hamburg - 1847.11.4, Leipzig)

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メンデルスゾーンの春の歌

4月に入り、生活のリズムががらりと変わったため、平日にブログを更新することが厳しくなってしまった。そんなわけで今後はしばらく週末の更新ということになると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

古今東西の詩人たちが春を歌い、それらの詩に多くの作曲家が曲を付けている。
ドイツ語の作品だけに限ってもシューベルトにはシュルツェの詩による美しい「春に」D882があり、ブラームスにはファラースレーベンの「愛と春」Op. 3-2&3の2曲がある。そしてシューマンには「詩人の恋」Op. 48の第1曲で春の到来と共に恋心が芽生えたと歌った名歌がある。

「春の歌」というとメンデルスゾーン(Mendelssohn)の「無言歌」に含まれるピアノ曲が思い出されるが、彼の歌曲はどうかというと、これがまた数多い。タイトルに「春」という言葉がつく独唱歌曲だけを拾い上げても以下のようになる。

1)春の歌(Frühlingslied)Op. 8-6 "Jetzt kommt der Frühling"(詩:Friedricke Robert (1795-1832))
2)春に(Im Frühling)Op. 9-4 "Ihr frühlingstrunknen Blumen"(詩:不詳)
3)春の思い(Frühlingsglaube)Op. 9-8 "Die linden Lüfte sind erwacht"(詩:Johann Ludwig Uhland (1787-1862))
4)春の歌(Frühlingslied)Op. 19a-1 "In dem Walde süße Töne"(詩:Ulrich von Lichtenstein (1200?-1275?))
5)春の歌(Frühlingslied)Op. 34-3 "Es brechen im schallenden Reigen"(詩:Karl Klingemann (1798-1862))
6)春の歌(Frühlingslied)Op. 47-3 "Durch den Wald, den dunkeln, geht"(詩:Nikolaus Lenau (1802-1850))
7)春の歌(Frühlingslied)Op. 71-2 "Der Frühling naht mit Brausen"(詩:Karl Klingemann (1798-1862))
8)古いドイツの春の歌(Altdeutsches Frühlingslied)Op. 86-6 "Der trübe Winter ist vorbei"(詩:Friedrich Spee von Langenfeld (1591-1635))

これ以外にも春を歌った内容のものを探せばさらに増えるだろう。「春の歌(Frühlingslied)」というタイトルのものが5曲もあるので、CDの表記を見てどの曲なのかを判別するのはなかなか難しい。3はシューベルトによる同じ詩への付曲がより有名だろう(D686)。8はメンデルスゾーンの作曲した最後の歌曲である(F=ディースカウの活動晩年のヘルとの録音で聴ける)。

上述の8つの作品の中で最も歌われる機会が多いのは6のレーナウの詩による曲と思われる。私の把握しているだけでも、アーメリング&ヤンセン(CBSのLP)、ボニー&パーソンズ(TELDEC)、シュライアーのオルベルツ、エンゲルとの新旧録音(BERLIN CLASSICS)、F=ディースカウ&サヴァリシュ(EMI CLASSICS)がある。ピアノのきらびやかな分散和音に乗って、あふれるような春の思いが快活に歌われる(Allegro assai vivace:8分の9拍子:変ロ長調)。

6のOp. 47-3の「春の歌」ほどは知られていないが、それでもいくつかの録音で聴くことの出来る5の「春の歌」Op. 34-3の詩(クリンゲマン)をご紹介しようと思う。こちらも急速なテンポで快活に歌われ、6が流麗でピアノ右手の響きが目立っていたのに比べ、5はよりリズミカルで、ピアノ左手の響きが前面に出ている(Allegro vivace:4分の4拍子:ト長調)。ボニー盤、F=ディースカウ盤、シュライアー&オルベルツ盤のほかにマーガレット・プライス&グレアム・ジョンソンの録音(Hyperion)でも聴くことが出来る。

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Frühlingslied, Op. 34-3
 春の歌

Es brechen im schallenden Reigen
Die Frühlingsstimmen los,
Sie können's nicht länger verschweigen,
Die Wonne ist gar zu groß!
Wohin, sie ahnen es selber kaum,
Es rührt sie ein alter, ein süßer Traum!
 響く輪舞の中で、
 突然春の声があがる。
 それらはもはや黙っていられないのだ、
 喜びがあまりにも大きすぎて!
 どこに向かうのか自分ではほとんど予感することもなく、
 古い、甘美な夢がそれらを突き動かす!

Die Knospen schwellen und glühen
Und drängen sich an das Licht,
Und warten in sehnendem Blühen,
Daß liebende Hand sie bricht.
Wohin, sie ahnen es selber kaum,
Es rührt sie ein alter, ein süßer Traum!
 蕾たちはふくらみ萌え
 光に向かって押し出て、
 開花を憧れながら待つのだ、
 いとしい手が摘んでくれるのを。
 どこに向かうのか自分ではほとんど予感することもなく、
 古い、甘美な夢がそれらを突き動かす!

Und Frühlingsgeister, sie steigen
Hinab in der Menschen Brust,
Und regen da drinnen den Reigen
Der ew'gen Jugendlust.
Wohin, wir ahnen es selber kaum,
Es rührt uns ein alter, ein süßer Traum!
 そして春の精たちは、
 人の胸に下りて行き、
 その中で踊るのだ、
 永遠なる若き喜びの輪舞を。
 どこに向かうのか自分ではほとんど予感することもなく、
 古い、甘美な夢が我らを突き動かす!

詩:Karl Klingemann (1798-1862)
曲:Jakob Ludwig Felix Mendelssohn Bartholdy (1809.2.3, Hamburg - 1847.11.4, Leipzig)

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F=ディースカウ/メンデルスゾーン歌曲集

フェーリクス・メンデルスゾーン(Jakob Ludwig Felix Mendelssohn-Bartholdy:1809年2月3日Hamburg-1847年11月4日Leipzig)の歌曲というと「歌の翼に」のみがよく知られているぐらいで、ほかにしいて挙げれば「新しい恋」「挨拶」「ヴェネツィアの舟歌」などがたまに歌われるぐらいだろうか。しかし、彼の歌曲の世界は宝石箱のようだ。簡素な作品が多いが、歌の旋律は実に魅力に富み、ピアノの響きも単なる伴奏からは得られない染み入るような味わいを持っている。

Mendelssohn_20060619 最近、F=ディースカウの歌った「メンデルスゾーン歌曲集」全2巻が国内盤として廉価で復活した。ピアノはリートの演奏でも超一流の指揮者、ヴォルフガング・サヴァリシュである。以前輸入盤としては2枚組で出ていたが、今回は2枚がばら売りである。F=ディースカウは歌のスタイルを保ちながら、一語一語に息を吹き込み、隅々まで行き届いた表現力でそれぞれの歌がもつ魅力を最大限に引き出している。「歌の翼に」など、彼としては珍しいぐらいたっぷりした情感をこめて美しいメロディーに寄り添った歌を聴かせている。サヴァリシュは引き締まったテンポ感覚といい、テクニックといい、歌とのバランスといい、そして作品の解釈といい、最高のメンデルスゾーン演奏を披露してくれる。このコンビの最高の録音の一つではないか。

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Dietrich Fischer-Dieskau(BR);Wolfgang Sawallisch(P)

録音:1970年9月8、10、13、15日、Studio Zehlendorf, Berlin

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メンデルスゾーン歌曲集第1巻:東芝EMI:TOCE-13315

新しい恋Op. 19a-4;挨拶Op. 19a-5;歌の翼にOp. 34-2;旅の歌Op. 34-6;朝の挨拶Op. 47-2;夜ごとの夢にOp. 86-4;春の歌Op. 47-3;遠く離れた人にOp. 71-3;あしの歌Op. 71-4;旅立ちに際してOp. 71-5;恋歌Op. 47-1;春の歌Op. 19a-1;初すみれOp. 19a-2;旅の歌Op. 19a-6;冬の歌Op. 19a-3;恋歌Op. 34-1;おお青春よOp. 57-4;私は木蔭に横たわっているOp. 84-1;刈り入れの歌Op. 8-4;民謡Op. 47-4

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メンデルスゾーン歌曲集第2巻:東芝EMI:TOCE-13316

さすらいの歌Op. 57-6;夜の歌Op. 71-6;森の城;小姓の歌;春の歌Op. 34-3;ゆりかごのそばでOp. 47-6;木の葉が聞き耳を立てていたOp. 86-1;慰めOp. 71-1;狩の歌Op. 84-3;ふたつの心が離れる時Op. 99-5;月Op. 86-5;ヴェネツィアの舟歌Op. 57-5;花冠;最初の喪失Op. 99-1;魔女の歌Op. 8-8;ラインへの警告;古いドイツの歌Op. 57-1;羊飼いの歌Op. 57-2;眠りやらぬ眼のともしび;別れ行きつつOp. 9-6

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主な曲について

●もう一つの五月の歌(魔女の歌)(Andres Maienlied (Hexenlied))Op. 8-8:ルートヴィヒ・ヘルティ(Ludwig Christoph Heinrich Hölty)の詩:ト短調:8分の6拍子:Allegro vivace:3節の変形有節形式:メンデルスゾーンの歌曲の中で、最もドラマティックな曲。ピアノはトレモロや急速な分散音型、さらに低声部のうなりのような音型が魔女たちの狂宴を見事に描写する。タイトルの「もう一つの五月の歌」とは、Op.8-7が「五月の歌」(詩人は別)で、それに対して「もう一つの」と付けられているようだが、アーウィン・ゲイジによると、「もう一つの五月」とは人間社会ではない「魔女の世界の五月」をあらわしていると言っていた。こういう解釈もありだと思う。:「つばめが飛び、春が勝利の声をあげると、花環にする花をもたらしてくれる。ワタシタチはそっと扉を出て、華やいだダンスをしに飛んでいく。火のドラゴンが屋根の上を飛び回り、ワタシタチにバターや卵をくれるのよ。近所の人たちは火花が飛ぶのが見えて火の前で十字を切っているわ。」

●新しい恋(Neue Liebe)Op. 19a-4:ハイネ(Heinrich Heine)の詩:嬰ヘ短調:4分の4拍子:Presto:有節形式に近い通作形式:妖精が馬を駆る様子を模したかのようなリズミカルな12小節の前奏に続いて、早口で歌われる。:「かつて森の月明かりの中、妖精たちが馬を駆っているのを見た。妖精の女王が私の横を通るとき、微笑みながらうなずいた。これは新しい恋なのか、それとも死を意味するのだろうか。」

●挨拶(Gruss)Op. 19a-5:ハイネの詩:ニ長調:4分の2拍子:Andante:2節の有節形式:ゆったりしたピアノ右手の主音連打に乗って優美な旋律が流れる。15小節の短い曲。:「静かに私の心を愛らしい鐘の音が通っていく。小さな春の歌よ、遠方まで響き渡れ。すみれの花ほころびるあの家まで響かせよ。ばらを見かけたら私からの挨拶を伝えておくれ。」

●歌の翼に(Auf Flügeln des Gesanges)Op. 34-2:ハイネの詩:変イ長調:8分の6拍子:Andante tranquillo:3節の変形有節形式:分散和音のピアノに乗って、美しいメロディーが一貫して流れる。各節途中でよぎる陰がアクセントになっている。器楽曲に編曲されるほどきわめて有名な作品。:「歌の翼にのせて君をガンジス川のほとりに連れて行こう。そこにある素晴らしい場所を知っているんだ。そこの棕櫚の木の下に腰掛け、愛とやすらぎを飲みこみ、幸せな夢を見ようよ。」

●春の歌(Frühlingslied)Op. 47-3:ニーコラウス・レーナウ(Nikolaus Lenau)の詩:変ロ長調:8分の9拍子:Allegro assai vivace:わずかな変化をもった3節の有節形式:数曲ある「春の歌」と題された彼の歌曲の中で最も知られた作品。急速な分散和音と、非分散和音を交代させながら、湧き上がる春の喜びを表現した曲。第3節のみ「Der die Seele hielt bezwungen(心を抑えつけたままの[冬の悲しみの中で])」の箇所でリタルダンド記号があらわれ、旋律ではなく、速度で詩の内容を反映させようとしているのが興味深い。:「暗い森の中を、やさしい春の朝の時が通る。森を通り、天からかすかな愛の知らせが吹き渡る。緑の木は幸せを感じつつ耳を澄ませ、あらゆる枝で浸っている。心を抑えつけたままの冬の悲しみの中で、おまえのまなざしが静かに温かく春の力で私の中に入り込んできた。」

●ヴェネツィアの舟歌(Venetianisches Gondellied)Op. 57-5:トマス・ムーア(Thomas Moore)の原詩による:ロ短調:8分の6拍子:Allegro non troppo:通作形式:舟歌にお馴染みの8分の6拍子のリズムで揺れるようなピアノの上を優美で憂いを帯びたメロディーが耳に残る。シューマンが同じ原詩(訳は若干異なる)による明るい歌曲を作っている。:「広場を夕風が渡るとき、分かっているね、ニネッタ、だれがここで佇み待っているのか。ぼくは船乗りの服に身をつつみ、震えながらきみに言うのだ「ボートは用意してあるよ」と。さあ、おいで、月を雲が隠しているうちに。潟を通って、恋人よ、逃げよう。」

●葦の歌(Schilflied)Op. 71-4:ニーコラウス・レーナウの詩:嬰ヘ短調:8分の6拍子:Andante con moto:通作形式:ほの暗いピアノの分散和音の上を美しい旋律が歌われる。曲の最後に恋人の思い出がよぎる箇所で明るくなり、甘美な表情で終わる。:「動きひとつない池の上に月のやさしい輝きがとどまっている、そのほの白い光を葦の緑の花環に編みこみながら。泣きながら私は視線を落とさずにいられない。もっとも深いところにある心の中を甘い君の思い出がよぎるのだ、静かな夜の祈りのように。」

●夜の歌(Nachtlied)Op. 71-6:アイヒェンドルフ(Josef Freiherr von Eichendorff)の詩:変ホ長調:4分の2拍子:Adagio:A-A-B形式:静かな中に深い思いのこもった感動的な歌。ピアノ・バス声部をシンコペーションにしてわずかに動きを与えている。:「明るい昼は過ぎた。遠方から鐘の音が聞こえる。こうして時は夜の間、旅を続け、思ってもみない多くのものを取り去ってしまう。鮮やかな喜びはどこにいった?友人の慰めや誠実な胸のうち、恋人のかわいい容姿は?私と共に目覚めているものはないのか?さあ、元気を出そうよ、いとしいナイティンゲールよ、明るい響きの滝よ、共に神をたたえよう、明るい朝が輝くまで。」

●月(Der Mond)Op. 86-5:エマーヌエル・ガイベル(Emanuel Geibel)の詩:ホ長調:4分の3拍子:Andante:2節の変形有節形式(第2節は拡大されている):右手と左手のずれたリズムが一貫するピアノに乗って、歌は同音反復の多い旋律ではじまり、下降音型で締めくくる。下降音型最後の4音が半音階で降りてくるのが印象的である。:「私の心は、すべての梢がざわめく暗い夜のようだ。その時、月が輝きに満ちて雲間からそっと昇ると、ほら!森が押し黙り、深く聞き耳を立てているよ。きみは愛に満ち溢れた明るい月なのだ。天のやすらぎに満ち溢れた一瞥を私に投げかけておくれ、ほら!この荒れ狂った心が静まっているよ。」

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