0:33- Brahms: Da unten die Tale Elly Ameling, soprano Dalton Baldwin, piano Recording: 6-11 September 1972, Gemeindehaus, Zehlendorf, Berlin EMI
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Da unten die Tale, WoO. 33/6 あの下の谷底で
Da unten im Tale Läuft's Wasser so trüb, Und i kann dir's net sagen, I hab' di so lieb. あの下の谷底で 水があんなに濁って流れている、 そしてぼくはきみに言うことが出来ない、 きみをとても愛していると。
Sprichst allweil von Lieb', Sprichst allweil von Treu', Und a bissele Falschheit Is auch wohl dabei. あなたはいつも愛について語ったり 誠実さについて語ったりするけれど 少しばかりの偽りも そこには混ざっているのでしょうね。
Und wenn i dir's zehnmal sag, Daß i di lieb, Und du willst nit verstehen, Muß i halt weitergehn. ぼくがきみに十回も きみを愛していると言ったところで きみは分かろうともしない、 だからぼくはもう行くしかないんだ。
Für die Zeit, wo du gliebt mi hast, Dank i dir schön, Und i wünsch, daß dir's anderswo Besser mag gehn. あなたが私を愛してくれた時のことは とても有難く思っているわ、 私は、あなたがどこかで 元気に過ごしてくれることを望んでいます。
詩:text in Bavarian (Boarisch) from Volkslieder (Folksongs) , "Trennung", Swabian 曲:Johannes Brahms (1833-1897), "Da unten im Tale", WoO. 33 no. 6, published [1894], from Deutsche Volkslieder, no. 6, Berlin, N. Simrock
1940年代、私が小学生だった頃、教師は文学、数学、音楽、知識、芸術全般の価値を教え込みました。中高生時代にはさらに進んだ豊かな教育を私たちに与えてくれました。 今日では教材のレベルは若い生徒が理解できるレベルまで引き下げられてしまったように思えます。生徒がより簡単に早く卒業証書を取得できなければならなくなっています。学校はもはや知識を習得する場所ではなく、仕事につくための準備の場所となってしまいました。学校にとって大事なのは銀行口座が豊かになることです。 ヨハネス・ブラームス「おお子供の国に帰るいとしい道が分かればいいのに!(O wüßt ich doch den Weg zurück, den lieben Weg zum Kinderland!)」
(2:13- Johannes Brahms: Heimweh II "O wüßt ich doch den Weg zurück", Op. 63/8) エリー・アーメリング(S) ルドルフ・ヤンセン(P) アムステルダム・コンセルトヘバウ 1983年1月14日
Elly Ameling, soprano Rudolf Jansen, piano Concertgebouw Amsterdam 14 January 1983
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Heimweh II "O wüßt ich doch den Weg zurück", Op. 63/8 郷愁II "おお 帰り道が分かればいいのに!"
O wüßt ich doch den Weg zurück, Den lieben Weg zum Kinderland! O warum sucht' ich nach dem Glück Und ließ der Mutter Hand? おお 帰り道が分かればいいのに、 子供の国に帰るいとしい道が! おお なぜ私は幸せを探して 母の手を離れてしまったのだろう?
O wie mich sehnet auszuruhn, Von keinem Streben aufgeweckt, Die müden Augen zuzutun, Von Liebe sanft bedeckt! おお 私はどれほど休息を望んでいることか、 追い求めるために目が覚めることもなく、 疲れた瞳を閉じて 愛に安らかに覆われて!
Und nichts zu forschen, nichts zu spähn, Und nur zu träumen leicht und lind; Der Zeiten Wandel nicht zu sehn, Zum zweiten Mal ein Kind! 捜しものもなく、見守るものもなく ただ軽やかに穏やかに夢見るだけでいい、 時の移り変わりを見ることもなく 二度目の子供時代を過ごしたい!
O zeig mir doch den Weg zurück, Den lieben Weg zum Kinderland! Vergebens such ich nach dem Glück, Ringsum ist öder Strand! O zeig mir doch den Weg zurück, Den lieben Weg zum Kinderland! Vergebens such ich nach dem Glück, Ringsum ist öder Strand! おお 私に帰り道を示しておくれ、 子供の国に帰るいとしい道を! 私は無為に幸せを探したが あたりは荒涼とした海岸ばかり!
詩:Klaus Groth (1819-1899), "Heimweh II", appears in Hundert Blätter, Paralipomena zum Quickborn, Hamburg, first published 1854 曲:Johannes Brahms (1833-1897), "Heimweh II", op. 63 (Neun Lieder und Gesänge) no. 8 (1874), published 1875 [ voice and piano ], Leipzig, Peters
Feins Liebchen, trau du nicht, Daß er dein Herz nicht bricht! Schön Worte will er geben, Es kostet dein jung Leben, Glaub's sicherlich! 素敵な恋するお嬢さん、信じては駄目よ、 あの男があなたの心をズタズタにするわけがないなんて! 彼は美辞麗句を並べ立てるでしょうが、 それは若いあなたの命取りになるわ このことを絶対に信じていてね!
Ich werde nimmer froh, Denn mir ging es also: Die Blätter vom Baum gefallen Mit den schönen Worten allen, Ist Winterzeit! 私は二度と楽しくなることはないでしょう、 なぜなら私の身に起こったのは、 木から葉っぱが あの美辞麗句すべてと共に落ちてしまったの、 それは冬のこと!
Es ist jetzt Winterzeit, Die Vögelein sind weit, Die mir im Lenz gesungen, Mein Herz ist mir gesprungen Vor Liebesleid. 今は冬、 小鳥たちは遠くに行ってしまった、 春には私に歌ってくれたの。 私の心は張り裂けてしまった 愛に苦しむあまり。
詩:Volkslieder (Folksongs) , collected by Kretzschmer and Zuccalmaglio, Berlin, first published 1838-40 曲:Johannes Brahms (1833-1897), "Klage", op. 105 (Fünf Lieder) no. 3 (1887/8), published 1888 [ voice and piano ], Berlin, Simrock
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アンドレアス・クレッチュマー(Andreas Kretzschmer: 1775-1839)とアントン・ヴィルヘルム・フォン・ツッカルマーリョ(Anton Wilhelm von Zuccalmaglio: 1803-1869)収集の『オリジナルの歌付きドイツ民謡集(Deutsche Volkslieder mit ihren Original-Weisen)』という全2巻の民謡集が1838年、1840年にベルリンから出版されているのですが、その第2巻(ツッカルッマーリョ収集)に収められているのが、この「嘆き」という民謡です。「ニーダーライン地方の民謡から(Vom Niederrhein)」と記載されています。 ツッカルッマーリョ収集の「嘆き」の楽譜が下記のものです。
ブラームスはこの民謡のテキストのみを用いて、おそらく1888年にオリジナルの民謡とは全く異なる曲を付けました(ただ、有節形式で作曲されているのは、オリジナルの民謡を意識しているのでしょう)。同年10月に『ピアノ伴奏付きの低声独唱のための5つの歌(5 Lieder für eine tiefere Stimme mit Begleitung des Pianoforte)』作品105の3曲目として出版されました。
Deutsche Volkslieder mit ihren Original-Weisen / Zweiter Theil. (A. Wilh. v. Zuccalmaglio / Berlin, 1840 / Vereins-Buchhandlung) (リンク先はGoogleブックスに掲載されているこの書籍の表紙に飛ぶので、画面下の「この書籍内を検索」欄に例えば「Feins Liebchen, trau du nicht」と入力してリターンを押して下さい。すると2つ検索結果の画面が出るので、460ページと書いてある方をクリックすると表示されます)
Dämmrung senkte sich von oben, Op. 59, No. 1 夕闇が上方から垂れ込め
Dämmrung senkte sich von oben, Schon ist alle Nähe fern; Doch zuerst emporgehoben Holden Lichts der Abendstern! Alles schwankt in's Ungewisse, Nebel schleichen in die Höh'; Schwarzvertiefte Finsternisse Widerspiegelnd ruht der See. 夕闇が上方から垂れ込め 近くにあったあらゆるものがすでに遠い。 だが最初に空に上がるのは 夕星の優しい光! すべてが定かならぬ中にゆらめき 霧は丘へとそっとのぼる、 濃い暗闇を映して 湖は静止している。
[Nun]1 [am]2 östlichen Bereiche Ahn' ich Mondenglanz und Gluth, Schlanker Weiden Haargezweige Scherzen auf der nächsten Fluth. Durch bewegter Schatten Spiele Zittert Luna's Zauberschein, Und durch's Auge [schleicht]3 die Kühle Sänftigend in's Herz hinein. 今や東方に 月の赤い輝きをほのかに感じる。 ほっそりとした柳の、毛のごとき細枝は 近くの大河の上でじゃれている。 動く影の戯れによって 月の魅惑的な明かりが震え、 目を通って冷気が 慰撫しながら心に忍び込む。
1 Diepenbrock: "Dort," 2 some recent editions of Goethe's work have "im" 3 Grimm: "zieht"
詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), no title, appears in Chinesisch-deutsche Jahres- und Tageszeiten, no. 8
曲:Johannes Brahms (1833-1897), "Dämmrung senkte sich von oben", op. 59 (Acht Lieder und Gesänge) no. 1 (1871), published 1880 [ low voice and piano ], Leipzig, Rieter-Biedermann
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ゲーテは1827年にヴァイマル近郊の別荘で1ヵ月近く過ごし、その際に「中国風ドイツ歴(Chinesisch-deutsche Jahres- und Tageszeiten)」という14編からなる連詩の多くを書きます。その8番目に置かれたのが、この「夕闇が上方から垂れ込め(Dämmrung senkte sich von oben)」です。
●ファニー・ヘンゼル・メンデルスゾーン作曲による「夕闇が上方から垂れ込め」 [Fanny Mendelssohn-Hensel]: Dammrung senkte sich von oben (Dusk Sinks from Above) Christina Hogman(S), Roland Pöntinen(P)
メンデルスゾーンの姉ファニーは優れた歌曲を書いています。この作品も静謐な響きが美しいです。
●オットマー・シェック作曲による「夕闇が上方から垂れ込め」 Schoeck: 8 Lieder nach Gedichten von Goethe, Op. 19a - No. 2, Dämmrung senkte sich von oben Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Margrit Weber(P)
「11,12小節のピアノ右手:5度上行する箇所でクレッシェンド→デクレッシェンドが付いていて、これは「もうすぐ(wie bald = how soon)」を表現しています」
「1回目の"Da ruhe ich auch(その時に私も休むことにしよう)"では"auch(〜も)"に最高音が当てられているが突出しないように歌われるべきです(ソプラノは最高音でボリュームを上げがちなので、ここはpppで歌うぐらいでいい)。 歌う前に考えてみましょう(Think, before you sing!)」
第2連2~3行目"und über mir rauscht die schöne Waldeinsamkeit,(そして頭上では美しい森の孤独がざわめいている)"を1ブレスで歌うことについて
1:02-3:31 1回目の録音。イェルク・デームスとのスタジオ録音(1979年4月15-21日, La Chaux-de-Fonds録音)→アーメリングは動画後半で1973年録音と言っているがおそらく誤り。「女の愛と生涯」のスタジオ録音(ボールドウィンのピアノ)が1973年なのでそれと混同した可能性あり
11:38-(抜粋) Wie bald ... 13:06-(抜粋) und über mir rauscht die schöne Waldeinsamkeit, 2回目の録音。ルドルフ・ヤンセンとのライヴ録音(1980年5月2日録音と思われます。全曲はこちらで聞けます)→アーメリングは1979年と言っているがおそらく誤り
Aus der Heimat hinter den Blitzen rot Da kommen die Wolken her, Aber Vater und Mutter sind lange tot, Es kennt mich dort keiner mehr. 赤い稲光の向こうにある故郷から 雲がこちらに流れてくる、 だが父母はずっと前に亡く あそこで私を知る者はもういない。
Wie bald, wie bald kommt die stille Zeit, Da ruhe ich auch, und über mir [Rauscht]1 die schöne Waldeinsamkeit, Und keiner [kennt mich mehr]2 hier. もうすぐ、もうすぐ静かな時がやってくる、 その時に私も休むことにしよう、そして頭上では 美しい森の孤独がざわめいている、 そしてここでも私を知る者はもういない。
詩:Joseph Karl Benedikt, Freiherr von Eichendorff (1788-1857), "In der Fremde", appears in Gedichte, in 5. Totenopfer, first appeared in the novella "Viel Lärmen um nichts" (1833) 曲:Robert Schumann (1810-1856), "In der Fremde", op. 39 no. 1 (1840), published 1842 [voice and piano], from Liederkreis von Joseph Freiherr von Eichendorff, no. 1, Wien, Haslinger
このシリーズの次回は同じく『リーダークライス』Op. 39から第8曲(曲目も第1曲と全く同じ"In der Fremde")とのことです。楽しみですね。
Die Meere (Nach dem Italienischen), Op. 20/3 海(イタリアの詩による)
Alle Winde schlafen Auf dem Spiegel der Flut; Kühle Schatten des Abends Decken die Müden zu. すべての風は眠りにつく、 水鏡の上で。 夕暮れの涼しい影が 疲れた者たちを包み込む。
Luna hängt sich Schleier Über ihr Gesicht, Schwebt in dämmernden Träumen Über die Wasser hin. 月はベールを 彼らの顔の上にかぶせ 黄昏の夢の中で 水の上に浮かぶ。
Alles, alles stille Auf dem weiten Meer! Nur mein Herz will nimmer Mit zur Ruhe gehn; みな、なにもかも静かだ、 広大な海の上は! ただ私の心だけは決して 眠ろうとしない。
In der Liebe Fluten Treibt es her und hin, Wo die Stürme nicht ruhen, Bis der Nachen sinkt. 愛の洪水に わが心はあちらこちらへと流される、 そこでは嵐はやむことがない、 小舟が沈むまで。
詩:Wilhelm Müller (1794-1827), "Die Meere", appears in Lyrische Reisen und epigrammatische Spaziergänge, in Lieder aus dem Meerbusen von Salerno 曲:Johannes Brahms (1833-1897), "Die Meere", op. 20 (Drei Duette) no. 3 (1860), published 1862 [vocal duet for soprano and alto with piano], Bonn, N. Simrock
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今回はブラームスの非常に美しい二重唱曲を聞きたいと思います。
1858–60年に作曲され、1861年に「ソプラノ、アルトとピアノ伴奏のための3つの二重唱曲(Drei Duette für Soran und Alt mit Begleitung des Pianoforte, Op. 20)」として出版された中の3曲目が「海(Die Meere)」です。ちなみに"Die Meere"というのは"Das Meer"の複数形になります。
テキストはシューベルトの『美しい水車屋の娘』『冬の旅』でもお馴染みのヴィルヘルム・ミュラーで、『サレルノ湾の歌(Lieder aus dem Meerbusen von Salerno)』という11篇からなる詩集の2番目に置かれています。
ピアノパートは舟が揺れながらゆっくり進むような左手の音形と、装飾音(プラルトリラー)のついた物憂い右手が極上の美しさで魅了されます。右手は常に2声で進み、時に歌声2声と重なり、時に歌声と離れ、ハーモニーの綾を聞かせてくれます。 詩の2連ずつを1まとまりにした有節形式ととらえることが出来ますが、詩の最後の2行(Wo die Stürme nicht ruhen,/Bis der Nachen sinkt.)だけが繰り返され、同主調のホ長調に転調し、明るい響きで歌は終わります。その後、ピアノ後奏で再びホ短調に戻り、メランコリックな雰囲気のまま曲が締めくくられます。この明暗の入れ替わりは海の上でたゆたう主人公の心の内を反映しているかのようで素晴らしいです。
"Musings on Music by Elly Ameling (日本語にすると「エリー・アーメリングによる音楽の考察」という感じでしょうか)"と題し、ブラームスの愛らしい歌曲「知らせ(Botschaft, op. 47 no. 1)」について複数の録音を聞きながらアーメリングが少しずつ解説を加えていくというものです。 彼女がどのように歌曲にアプローチし、歌う準備をしていくのかを追体験出来ると思います。 ここで使われる2種類の女声歌手の録音と、最後に流される男声歌手の録音については、アーメリングが後半で種明かしをしますので、ここでは触れないでおきます。
アーメリングの解説 1:07- 1番目の演奏(全曲) アーメリングの解説(詩の解説) 3:59- 2番目の演奏(ピアノ前奏) アーメリングの解説(ピアノ前奏について) 5:43- 2番目の演奏(冒頭から4行目まで) アーメリングの解説 6:44- 2番目の演奏(第1連4行目"Eile nicht hinwegzufliehn!") アーメリングの解説 7:36- 2番目の演奏(5行目"Tut sie dann vielleicht die Frage,") アーメリングの解説 7:58- 2番目の演奏(5行目"Tut sie dann vielleicht die Frage,") アーメリングの解説 8:30- 2番目の演奏(6行目"Wie es um mich Armen stehe;") アーメリングの解説 9:10- 2番目の演奏(7行目"Sprich: »Unendlich war sein Wehe,") アーメリングの解説(8行目"Höchst bedenklich seine Lage;"は暗い音色、次の9行目"Aber jetzo kann er hoffen,"で明るい音色) 10:06- 2番目の演奏(7行目"Sprich: »Unendlich war sein Wehe,") アーメリングの解説 11:24- 2番目の演奏(11行目"Denn du, Holde, denkst an ihn.«") 12:38- 2番目の演奏(全曲) アーメリングの解説(1番目と2番目の演奏者答え合わせ。次に聞く録音の演奏者について「これは男性用のテキストであることを忘れないでください」) 15:15- 男声による録音(全曲) アーメリングの解説
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Botschaft, Op. 47 no. 1 知らせ
Wehe, Lüftchen, lind und lieblich Um die Wange der Geliebten, Spiele zart in ihrer Locke, Eile nicht hinwegzufliehn! Tut sie dann vielleicht die Frage, Wie es um mich Armen stehe; Sprich: »Unendlich war sein Wehe, Höchst bedenklich seine Lage; Aber jetzo kann er hoffen, Wieder herrlich aufzuleben, Denn du, Holde, denkst an ihn.« そよ吹け、風よ、優しく、心地よく あの女性(ひと)の頬をかすめて。 彼女の巻き毛にそっと戯れておくれ、 急いで逃げ去ってしまっては駄目だよ! すると彼女はもしかしたら尋ねるかもしれない、 かわいそうな僕がどうしているかと。 そうしたら言っておくれ、「彼の悲しみは果てしなく続いていました。 状況はきわめて重大です。 でも今彼は望めます、 再びすっかり元気を取り戻すことを。 なぜならいとしいあなたが彼のことを気にかけてくれるからです」と。
詩:Georg Friedrich Daumer (1800-1875) 曲:Johannes Brahms (1833-1897)
Hab' ich tausendmal geschworen Dieser Flasche nicht zu trauen, Bin ich doch wie neugeboren, Läßt mein Schenke fern sie schauen. 私は千回も誓った、 この酒瓶を信用しないと、 だが私は生まれたばかりのようになってしまう、 私の酌人が遠くから瓶を見せてくると。
Alles ist an ihr zu loben, Glaskristall und Purpurwein; Wird der Propf herausgehoben, Sie ist leer und ich nicht mein. すべては酒瓶をほめたたえるためのもの、 クリスタルガラスに深紅のワイン、 栓が抜かれると、 瓶は空になり、私は自分を見失ってしまう。
Hab' ich tausendmal geschworen, Dieser Falschen nicht zu trauen, Und doch bin ich neugeboren, Läßt sie sich ins Auge schauen. 私は千回も誓った、 この不実な女を信用しないと、 だが私は生まれたての赤子になってしまう、 この不実な女が目に入ると。
Mag sie doch mit mir verfahren, Wie's dem stärksten Mann geschah. Deine Scher' in meinen Haaren, Allerliebste Delila! 私に振る舞うというのならそうすればいい、 最強の男の身にふりかかったように。 おまえのはさみを私の髪に入れればいいさ、 最愛のデリラよ!
詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Unüberwindlich", first published 1860 曲:Johannes Brahms (1833-1897), "Unüberwindlich", op. 72 (Fünf Gesänge) no. 5 (1875), published 1877 [voice and piano], Berlin, Simrock
ゲーテは、旧約聖書の士師記13章〜16章に登場するサムソンの話に関心を持っていて、ヘンデルのオラトリオ『サムソン』も知っていたということです(HyperionレーベルのGraham Johnsonによる解説による:リンクをクリックすると解説書のPDFがダウンロードされます。この曲の解説は22~23ページです)。この詩の最後にデリラ(Delila)という女性の名前が出てきますが、彼女はサムソンの妻で、第4連2行目の最強の男(dem stärksten Mann)であるサムソンの弱点が髪にあることを本人から聞き、寝ている間に髪を剃り、ペリシテ人に売り渡すという聖書の記述に基づいています(サン=サーンスのオペラ『サムソンとデリラ(Samson et Dalila)』ではその話が描かれています)。この詩の第4連3行目「私の髪におまえのはさみを入れればいいさ(Deine Scher' in meinen Haaren)」というのは、弱点をさらして彼女の誘惑に逆らう心を自ら差し出してしまうわけですね。酒と女に打ち勝つと千回(tausendmal)も誓ったのに結局その沼から抜け出す気持ちは毛頭ないということが分かります。
Den Wirbel schlag' ich gar so stark, Daß euch erzittert Bein und Mark, Drum denk' ich ans schön Schätzelein, Blaugrau, Blau, Blaugrau, Blau Ist seiner Augen Schein. 俺はこんなにも強くドラムロールする、 あなたたちの身も心も震わせるほどに、 だから美しい恋人のことを思い出してしまうんだ、 ブルーグレー ブルー ブルーグレー ブルー はあの子の瞳の輝き。
Und denk' ich an den Schein so hell, Von selber dämpft das Trommelfell, Den wilden Ton, klingt hell und rein: Blaugrau, Blau, Blaugrau, Blau Sind Liebchens Äugelein. そして明るいあの輝きのことを思うと 太鼓の皮がおのずと 荒々しい音を和らげ、明るく澄んだ響きになる。 ブルーグレー ブルー ブルーグレー ブルー は恋人のかわいい瞳の色。
私がクラシック音楽を聞き始めた頃はまだ学生で小遣いも少なかった為、FMラジオから流れてくるコンサートのライヴ放送がとても有難かったものです。ザルツブルク音楽祭のシーズンが終わると歌曲のコンサートがいくつか放送され、それをカセットテープに録音して繰り返し聞いたりしていました。F=ディースカウがヘルとブラームスのコンサートを催した時の放送もラジカセの前に鎮座してタイミングよく録音ボタンを押すべく奮闘したものでした。ディースカウは一般的によく歌われるブラームス歌曲だけでなく当時はかなり珍しかった曲を散りばめたプログラミングだったのが印象的でしたが、そんな中「夜に飛び起きて(Wie rafft ich mich auf in der Nacht)」や「エオリアンハープに寄せて(An eine Äolsharfe)」のようなとびきり素晴らしい作品に出合えて夢中になって聴いていました。「鼓手の歌」もこのディースカウ&ヘルのザルツブルク・ライヴ放送で初めて聞き、軽快で楽しい曲だなぁと印象に残っていました。
これまでブラームスの『リートとゲザングOp.32(Lieder und Gesänge, Op. 32)』を1曲ずつ聞いてきました。ちなみにリートとゲサングという言葉はどちらも「歌」を意味し、それほど厳密な区別がされているわけではないのですが、おおまかに言って前者が有節歌曲、後者が通作歌曲を指すことが多いようです。日本語でも同じような意味の言葉をつなげたりすることがありますが、それに近いのかなぁと思っています(あくまで個人的な所感です。違っていたらすみません)。
●オラフ・ベーア(BR), ジェフリー・パーソンズ(P) Olaf Bär(BR), Geoffrey Parsons(P) レーベル:EMI; ETERNA 録音:April 1987, Studio Lukaskirche, Dresden Discogs
●ジョゼ・ヴァン・ダム(BR), マチェイ・ピクルスキー(P) José van Dam(BR), Maciej Pikulski(P) レーベル:Forlane 録音:décembre 1994, Théâtre Jean Lurçat d'Aubusson Discogs Amazon
●アンドレアス・シュミット(BR), ヘルムート・ドイチュ(P) Andreas Schmidt(BR), Helmut Deutsch(P) レーベル:cpo (Brahms - Complete Edition, Vol. 2) 録音:August, December 1996 Discogs
●トーマス・クヴァストホフ(BR), ユストゥス・ツァイエン(P) Thomas Quasthoff(BR), Justus Zeyen(P) レーベル:Deutsche Grammophon 録音:Oct. 1999, Teldec Studio, Berlin Deutsche Grammophon
●イアン・ボストリッジ(T), グレアム・ジョンソン(P) Ian Bostridge(T), Graham Johnson(P) レーベル:Hyperion Records (Brahms - The Complete Songs, Vol. 6) 録音:3-5 June 2013, All Saints' Church, East Finchley, London Hyperion Records
●マティアス・ゲルネ(BR), クリストフ・エッシェンバハ(P) Matthias Goerne(BR), Christoph Eschenbach(P) レーベル:harmonia mundi 録音:April 2013 & December 2015, Teldex Studio Berlin Discogs
●サイモン・ウォルフィッシュ(BR), エドワード・ラッシュトン(P) Simon Wallfisch(BR), Edward Rushton(P) レーベル:Resonus Classics (Songs of Loss and Betrayal) 録音:25-27 November 2019, St John the Evangelist, Oxford Resonus Classics
●ヤニナ・ベヒレ(MS), マルクス・ハドゥラ(P) Janina Baechle(MS), Markus Hadulla(P) レーベル:Capriccio Capriccio Discogs
●クリストフ・プレガルディアン(T), ウルリヒ・アイゼンローア(P) Christoph Prégardien(T), Ulrich Eisenlohr(P) レーベル:NAXOS (Brahms: Complete Songs, 1) 録音:21-24 September 2020, Hans-Rosbaud-Studio, SWR, Baden-Baden NAXOS
●コンスタンティン・クリンメル(BR), エレーヌ・グリモー(P) Konstantin Krimmel(BR), Hélène Grimaud(P) レーベル:Deutsche Grammophon (For Clara) 録音:28-30 August 2022, Turbine Hall at Lake Stienitz Universal Music Japan
★抜粋だが曲数が多い録音
●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ヘルタ・クルスト(P) Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Hertha Klust(P) レーベル:His Master's Voice; Angel Records 録音:25 May 1955, Berlin-Zehlendorf Op.32/1,2,3,4,6,5,9 Discogs
●リュート・ファン・デル・メール(BR), ルドルフ・ヤンセン(P) Ruud van der Meer(BR), Rudolf Jansen(P) レーベル:ottavo 録音:21,22 & 27 Dec. 1986, 'de Doelen', Rotterdam Op.32/1,2,3,4,5,6,9 Muziekweb
★YouTubeで聴けるOp.32全曲
●ヴォルフガング・シュヴァイガー(BR), バルバラ・モーザー(P) Wolfgang Schwaiger, Bariton - Brahms op 32 Wolfgang Schwaiger, baritone Barbara Moser, piano
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