マティス、シュライアーらの歌うブラームス「愛の歌・ワルツ」の映像

エディト・マティスやファスベンダー、シュライアーらによるブラームスの四重唱曲「愛の歌・ワルツ」Op.52がアップされていたのでご紹介します。
これはピアノ連弾を伴った短い18曲からなる作品で、ブラームスの指示に従い時に歌なしで演奏されることもありますが、やはり歌がある方が面白いと思います。
この動画で、私が注目したいのはカール・エンゲルの姿を見ることが出来る点です。
彼の膨大な録音は常々聴いているものの、実演に接する機会もなく、一度NHKでモーツァルトの室内楽を演奏する姿を見たぐらいだったので、こうして彼の演奏する姿が見られるのはとてもうれしいです。
もちろん名歌手たちのアンサンブルも聴きもので、ブラームスの小曲の連続をわくわくしながら楽しむことが出来ます。
ちなみにピアノのセコンド(低音パート)を担当しているメジモレツはマティスのリサイタルなどでしばしば歌曲を演奏している名手です。

ブラームス/「愛の歌・ワルツ(Liebeslieder Walzer)」Op.52

製作:1983年

エディト・マティス(Edith Mathis)(S)
ブリギッテ・ファスベンダー(Brigitte Fassbaender)(MS)
ペーター・シュライアー(Peter Schreier)(T)
バリー・マクダニエル(Barry McDaniel)(BS)
カール・エンゲル(Karl Engel)(P:primo)
ハインツ・メジモレツ(Heinz Medjimorec)(P:secondo)

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ブラームス/めんどり(Die Henne)

今年の干支は酉(とり)。
ということで、かなり強引にドイツ歌曲に結び付けて、こんな珍しい曲をご紹介したいと思います。

ブラームスには「14の子供のための民謡集(14 Volks-Kinderlieder)」という作品集があり、中でも「眠りの精(砂男)」はよく知られていますし、シューベルトでお馴染みの「野ばら」のテキストによる歌まであります。
その中から「めんどり」という歌です。

Die Henne
 めんどり

Ach, mein Hennlein, bi bi bi!
Meld du di!
Ach, mein Hennlein, bi bi bi!
Saht ihr nit mein Hennlein laufen?
Möcht mir gleich die Haar ausraufen!
 ああ、私のめんどりちゃん、ビー・ビー・ビー!
 教えて!
 ああ、私のめんどりちゃん、ビー・ビー・ビー!
 きみたち、私のめんどりちゃんが駆け回っているのを見なかった?
 私、すぐにでも髪をかきむしりたいほどよ!

Ach, mein Hennlein, bi bi bi!
Meld du di!
Ach, mein Hennlein, bi bi bi!
Als i bei dem Bub gesessen,
hat sie noch ihr Futter gfressen!
 ああ、私のめんどりちゃん、ビー・ビー・ビー!
 教えて!
 ああ、私のめんどりちゃん、ビー・ビー・ビー!
 私があの子のそばに座っていたときには
 まだえさを食べていたのに!

Ach, mein Hennlein, bi bi bi!
Meld du di!
Ach, mein Hennlein, bi bi bi!
Was wird da die Mutter sagen?
Sie wird mich zum Tor 'naus jagen!
 ああ、私のめんどりちゃん、ビー・ビー・ビー!
 教えて!
 ああ、私のめんどりちゃん、ビー・ビー・ビー!
 お母さんはなんて言うかしら?
 私を門の外に追い出そうとするわね。

Ach, mein Hennlein, bi bi bi!
Meld du di!
Ach, mein Hennlein, bi bi bi!
Muß geschwind zur Stadt hinlaufen,
muß ein ander Hennlein kaufen!
 ああ、私のめんどりちゃん、ビー・ビー・ビー!
 教えて!
 ああ、私のめんどりちゃん、ビー・ビー・ビー!
 急いで町へ走って行って
 別のめんどりを買わなきゃならないわ!

Ach, mein Hennlein, bi bi bi!
Meld du di!
Ach, mein Hennlein, bi bi bi!
Geh die Gasse auf und nieder,
finde grad mein Hennlein wieder!
 ああ、私のめんどりちゃん、ビー・ビー・ビー!
 教えて!
 ああ、私のめんどりちゃん、ビー・ビー・ビー!
 通りを行き来して
 私のめんどりちゃんをまた見つけてきなさい。

Ach, mein Hennlein, bi bi bi!
Hab i di!
Ach, mein Hennlein, bi bi bi!
Meine Mutter gib mir Brocken,
soll damit mein Hennlein locken.
 ああ、私のめんどりちゃん、ビー・ビー・ビー!
 つかまえた!
 ああ、私のめんどりちゃん、ビー・ビー・ビー!
 お母さんが私にパンくずを渡すの
 それで私のめんどりちゃんをおびき寄せなさいって。

Ach, mein Hennlein, bi bi bi! bi bi bi,
und das Bröckli, das schluck i!
 ああ、私のめんどりちゃん、ビー・ビー・ビー!
 そしてこのパンくずは、私がいただくわ!

作曲:Johannes Brahms (1833-1897)
from Volks-Kinderlieder(子供のための民謡集、第5曲)

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訳は渡辺護氏の先訳やインターネット上の英訳なども参考にさせていただきました。
方言を使っているので、大体こんな感じだろうという訳です。
正確ではないことを最初にお詫びいたします。

めんどりを呼び出すのに"bi bi bi"という言葉が繰り返し使われ、
それがユーモラスな雰囲気を醸し出しています。
ブラームスの優しさが垣間見えるような曲ではないかと思います。

ぜひお聞きください。

Júlia Pászty (S) & László Baranyai (P)
ユーリア・パースティ(S) & ラースロー・バラニャイ(P)

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ブラームス「知らせ(Botschaft)」を聴く

ご無沙汰しております。
すっかり投稿をさぼってしまい、すみませんでした。
気付いたら11月はまだ一度も記事を掲載しておりませんでした。
久しぶりに聴き比べをしたいと思います。

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Botschaft, Op. 47 no. 1
 知らせ

Wehe, Lüftchen, lind und lieblich
Um die Wange der Geliebten,
Spiele zart in ihrer Locke,
Eile nicht hinwegzufliehn!
Tut sie dann vielleicht die Frage,
Wie es um mich Armen stehe;
Sprich: »Unendlich war sein Wehe,
Höchst bedenklich seine Lage;
Aber jetzo kann er hoffen,
Wieder herrlich aufzuleben,
Denn du, Holde, denkst an ihn.«
 そよ吹け、風よ、優しく、心地よく
 あの女性(ひと)の頬をかすめて。
 彼女の巻き毛にそっと戯れておくれ、
 急いで逃げ去ってしまっては駄目だよ!
 すると彼女はもしかしたら尋ねるかもしれない、
 かわいそうな僕がどうしているかと。
 そうしたら言っておくれ、「彼の悲しみは果てしなく続いていました。
 状況はきわめて重大です。
 でも今彼は
 再びすっかり元気を取り戻すことが期待できます。
 なぜならいとしいあなたが彼のことを気にかけてくれるからです」と。

詩:Georg Friedrich Daumer (1800-1875)
曲:Johannes Brahms (1833-1897)

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私の大好きなブラームスの歌曲のひとつを取り上げることにしました。
一般的には「使い」「ことづて」「便り」などと訳されるこの曲ですが、ダウマーのテキストは、恋する女性へのメッセージをそよ風(Lüftchen)に言付けるという内容です。
この曲のピアノパートは右手で複数の音を同時に弾きながら、素早くレガートにそよ吹く風を表現しなければなりませんが、ジェラルド・ムーアが著書の中で、この曲を低く移調するととても弾きにくくなると書いていました。
そんなムーアが低く移調したホッターとの録音を残しているので、下の音源を聴いてみて下さい。
歌は愛らしく楽しげに進みますが、テキストの展開に応じて途中から深刻な表現も聴かせ、詩を生かしたなかなか良く出来た作品だと思います。
最後にピアノパートのリズムを変えて、盛り上げるところなども素晴らしいです。
あっという間に終わる短い作品ですが、誰もが微笑みたくなるような作品だと思います。
ぜひお聞きください!

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ハンス・ホッター(BSBR)&ジェラルド・ムーア(P) (1957)

ホッターの包み込むような温かい声と、その味わいを自身の音に反映させるムーアによって、胸に響く演奏になりました。

ジェシー・ノーマン(S)&ジェフリー・パーソンズ(P) (1980)

1:36~です。ノーマンの歌唱は恰幅がよく、力強さがある一方、繊細さも兼ね備えています。パーソンズがいつもながら上手いです。

ロッテ・レーマン(S)&エルヌー・バロック(P)

レーマンの歌は喜びにあふれ、つやつやして、表情豊かで今でも色あせない素晴らしさです。バロックの粒立ちのよいピアノも良かったです。

カスリーン・フェリア(A)&フィリス・スパー(P)

持ち前の温かみのある声が素晴らしいだけでなく、テキストの表情に対して丁寧に細やかに歌っているのが感じられて感銘を受けます。

ハインリヒ・シュルスヌス(BR)&ゼパスティアン・ペシュコ(P) (1937)

シュルスヌスの甘美で渋い美声に酔いしれることが出来ます。途中、ちょっとブラームスのメロディーとは違う歌い方をしているのも当時のおおらかさを感じさせます。

トマス・アレン(BR)&マルコム・マーティノー(P) (2001)

5:51~です。ライヴ映像。アレンの渋みのある声と、マーティノーのそよ風を模したさらさらとしたタッチが大人の趣を醸し出していると思います。

ペーター・アンダース(T)&ミヒャエル・ラウハイゼン(P) (1943)

オペラのヒーローが歌っているような趣ですが、輝かしい声は魅力的です。

ピアノ伴奏のみ

演奏が終わらないうちに次の楽譜に移ってしまいますが、ピアノパートだけでこの曲を聴くのも新鮮です。カラオケとしても使えます!

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ブラームス「五月の夜Op.43-2」を聴く

シューベルト・シリーズの番外編として、たまには別の作曲家の名曲を聴いてみるのも息抜きになることでしょう。
私はブラームスの歌曲も大好きなのですが、その中でも最も著名で美しい曲の一つがヘルティの詩による「五月の夜」でしょう。
ヘルティの原詩は全部で4つの節からなりますが、第2節はブラームスによって省かれました。
詩は周りの動物たちがパートナーと共に幸せな鳴き声を聞かせる中、恋人のいない孤独な主人公は涙を流すという内容で、静かな箇所から徐々にドラマチックに盛り上がり、最後にまた落ち着くという構成は、ブラームスがこの詩をどのように解釈したかという答えになっているようです。
ピアノパートの左手はバス音が中心で、右手に動きが集中していますが、そのリズムの変化の仕方などは器楽曲的発想にも感じられます。
ブラームスにとっては、歌も楽器の一パートなのかもしれず、歌とピアノの二重奏のように作曲されている印象を受けます。
また、最後のひとふしが長調で終わるのが、涙を流してすっきりしたかのようにも受け取れると感じました。
同じ詩にシューベルトが付けた曲もあるので、最後に載せておきます。
ブラームスとは随分違った解釈をしているようです。

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Die Mainacht
 五月の夜

Wann der silberne Mond durch die Gesträuche blinkt,
Und sein schlummerndes Licht über den Rasen streut,
Und die Nachtigall flötet,
Wandl' ich traurig von Busch zu Busch.
 銀の月が潅木に光注ぎ、
 そのまどろむ光の残照が芝に散りわたり、
 ナイティンゲールが笛のような歌を響かせる時、
 私は藪から藪へと悲しくふらつき回る。

Überhüllet von Laub girret ein Taubenpaar
Sein Entzücken mir vor; aber ich wende mich,
Suche dunklere Schatten,
Und die einsame Träne rinnt.
 葉に覆われて鳩のつがいが
 私に陶酔の歌を鳴いて聞かせる。だが私は踵を返して
 より暗い影を探し求め、
 そして孤独な涙にくれるのだ。

Wann, o lächelndes Bild, welches wie Morgenrot
Durch die Seele mir strahlt, find ich auf Erden dich?
Und die einsame Träne
Bebt mir heißer die Wang herab!
 いつになったら、おお微笑む姿よ、朝焼けのように
 私の魂に輝きわたる姿よ、この世であなたを見出せるのだろうか。
 すると孤独な涙が
 私の頬を伝ってさらに熱く震え落ちた。

詩:Ludwig Heinrich Christoph Hölty (1748.12.21,Mariensee - 1776.9.1,Hannover)
曲:Johannes Brahms (1833.5.7,Hamburg - 1897.4.3,Wien)

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クリスタ・ルートヴィヒ(MS)&レナード・バーンスタイン(P)

5曲目(13:14~)から聴けます。ふくよかなルートヴィヒの美声が詩と音楽の世界と見事に同化して素晴らしいです。バーンスタインは前へ前へという主張の強さが目立ちますが、ドラマチックな表現に成功していると思います。

小川明子(A)&山田啓明(P)

丁寧で深みのある小川の歌唱は胸に響きます。山田のピアノは推進力があり、歌をうまく導いています。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ヴォルフガング・サヴァリッシュ(P)

F=ディースカウはブラームスのリサイタルではあまりこの曲を歌わなかったようですが、音楽の流れだけでなく言葉の表情により焦点を当てたという点で他の演奏とは違ったユニークな存在意義があると思います。サヴァリッシュは相変わらずうまいです。

フランシスコ・アライサ(T)& Rogelio Riojas-Nolasco(P)

久しぶりにアライサの演奏を聴き、ただただ懐かしいです!(2012年の録音)。かつてのスターも年をとりましたが、歌唱には風格も出てきて良かったです。ピアニストはテンポの流動が大胆です。

アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)&ジェラルド・ムーア(P)

可憐なソプラノのローテンベルガーによるストレートな歌唱も、ブラームスのフレーズの流れによく合っていて魅力的です。ムーアはよく歌い美しい響きです。

ロッテ・レーマン(S)&ピアノ伴奏(演奏者名は不明)

身を焦がすような情熱的な歌唱を聴かせる往年のレーマンの歌唱もリート史に欠かせない存在でしょう。表情の濃密さが特徴的です。

ピアノ伴奏のみ(演奏者名は不明)

ブラームス歌曲のピアノパートがどうなっているのか聴いてみてください。他の作曲家の場合よりも器楽曲的な発想に感じられましたし、それがまた魅力的です。演奏も素晴らしいです。

[参考] シューベルトによる同じ詩による歌曲D194(ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ジェラルド・ムーア(P))

シューベルトは有節形式で作曲しています。ブラームスよりも素朴な感じはしますね。黄金コンビは共感を寄せて演奏しています。

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F=ディースカウのブラームス・ライヴを聴く(デームスとの1983年アムステルダム・ライヴ:Radio4 Concerthuis)

オランダのRadio4の音源配信サイトConcerthuisで今、フィッシャー=ディースカウがアムステルダムで歌ったブラームス歌曲が聴けます。
共演のピアニストはイェルク・デームスで、1983年6月9日のライヴ録音です。
この当時F=ディースカウが好んで歌っていたブラームス・プログラムで、私もこの時と同じようなプログラムを学生の時にFMで聴いて、ブラームス歌曲に開眼したという思い出があります。

なお期間限定なのでお聴きになる方はお気をつけください(残りの日数は写真下の"Dit concert is nog * dagen te beluisteren ..."の * の数字です)。

こちら

録音:1983年6月9日、アムステルダム・コンセルトヘボウ(Concertgebouw Amsterdam)(ライヴ)

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)(bariton)
イェルク・デームス(Jörg Demus)(piano)

ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms)作曲

1.エオリアン・ハープに寄せて(An eine Aeolsharfe)Op.19-5
2.なんと私は夜中に飛び起きて(Wie rafft ich mich auf in der Nacht)Op.32-1
3.もうあなたの許へ行くまいと(Nicht mehr zu dir zu gehen)Op.32-2
4.私のかたわらを流れていった小川(Der Strom, der neben mir verrauschte)Op.32-4
5.辛いこと、こうしてあなたは私を再び(Wehe, so willst du mich wieder)Op.32-5
6.黄昏(Abenddämmerung)Op.49-5
7.恋人への通い路(Der Gang zum Liebchen)Op.48-1
8.湖上にて(Auf dem See)Op.59-2
9.太鼓の歌(Tambourliedchen)Op.69-5
10.セレナーデ(Serenade)Op.70-3
11.夕べの雨(Abendregen)Op.70-4
12.春にはこんなにいとしく愛し合うもの(Es liebt sich so lieblich im Lenze)Op.71-1
13.秘密(Geheimnis)Op.71-3
14.打ち勝ちがたい(Unüberwindlich)Op.72-5
15.テレーゼ(Therese)Op.86-1
16.君のもとにあるのはわが思い(Bei dir sind meine Gedanken)Op.95-2
17.花々は見ている(Es schauen die Blumen)Op.96-3
18.航海(Meerfahrt)Op.96-4
19.墓地にて(Auf dem Kirchhofe)Op.105-4
20.ネコヤナギ(Maienkätzchen)Op.107-4
21.なんとあなたは、我が女王よ(Wie bist du, meine Königin)Op.32-9
22.ぼくらは歩き回った(wir wandelten)Op.96-2
23.セレナーデ(Ständchen)Op.106-1

私の個人的な好みでは昔から2が大好きです(取り返しのつかない過去を悔いて夜中に外に飛び出して嘆くというテキストに雄弁なピアノと真摯な歌が絡んで魅力的です)。
その他、1、3、7~9、13~15、18、19、21~23などもとても惹き付けられる作品です。
よろしければフィッシャー=ディースカウを偲んでお好きな曲だけでも聴いてみてください。

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マルクス・ヴェルバ&ガリー・マシューマン/シューベルト&ブラームスの歌曲(Radio4 Concerthuis)

オランダのインターネット・ラジオ局Radio4が無料で音源を一定期間配信するConcerthuis、以前はオランダ国内での配信に限定されていたが、いつからか日本でも聴けるようになっていた。
そうした中、モーツァルトのオペラ公演などで来日経験のあるオーストリアのバリトン、マルクス・ヴェルバのリサイタルを見つけたのでご紹介したい。

 こちら

録音:2010年10月25日, Wigmore Hall, London (live)

マルクス・ヴェルバ(Markus Werba)(BR)
ガリー・マシューマン(Gary Matthewman)(P)

1.シューベルト(1) 計16分02秒
1)アリンデ(Alinde, D904)
2)ヴィルデマンの丘で(Über Wildemann, D884)
3)夕映えの中で(Im Abendrot, D799)
4)ノルマン人の歌(Normans Gesang, D846)
5)タルタロスの群れ(Gruppe aus dem Tartarus, D583)

2.シューベルト(2) 計14分50秒
6)漁師の調べ(Fischerweise, D881)
7)歌びとの持物(Der Sängers Habe, D832)
8)孤独な男(Der Einsame, D800)
9)プロメテウス(Prometheus, D674)

3.ブラームス 計15分08秒
10)窓の前で(Vor dem Fenster, op.14-1)
11)ソネット(Ein Sonett, op.14-4)
12)恋人への通い道(Der Gang zum Liebchen, op.48-1)
13)マリーの殺害(Murrays Ermordung, op.14-3)
14)昔の恋(Alte Liebe, op.72-1)
15)おお涼しい森よ(O kühler Wald, op.72-3)
16)打ち勝ちがたい(Unüberwindlich, op.72-5)

マルクス・ヴェルバという名前を聞いて、リートファンならばその姓に反応すると思うが、往年の名伴奏者エリック・ヴェルバ(Erik Werba: 1918-1992)はマルクスの大叔父にあたるそうだ。
若く張りのある声と男性的な力強さをもった声質は将来を期待させる逸材だろう。
日本でもリートリサイタルを開いたはずだが、確か新人としてはかなり高価だった為チケットを買うのを見送ってしまった。
今回のウィグモア・ホール・ライヴのプログラムを見ると、決してポピュラーな曲の寄せ集めにはなっていない。
歌曲を深く味わう者だけが組めるような意欲的な選曲である。
そして、実際の歌唱も期待を裏切らぬ声の魅力と言葉さばきの美しさ、そしてテキストを重視しながらもメロディーラインを美しく際立たせる才能を感じた。
シューベルトも素晴らしいが、特にブラームスはヴェルバの良さがひときわ生きる素晴らしい歌唱である。
「マリーの殺害」のドラマをぜひ聴いていただきたい。

ピアノのガリー・マシューマンはイギリス出身の歌曲ピアニスト。
イギリスは昔から歌曲伴奏の名手を数多く輩出してきた。
ハロルド・クラクストン、アイヴァー・ニュートン、ジョージ・リーヴズ、ジェラルド・ムーア、アーネスト・ラッシュ、ジェフリー・パーソンズ、ジョン・コンスタブル、ロジャー・ヴィニョールズ、グレアム・ジョンソン、チャールズ・スペンサー、ジュリアス・ドレイク、マルコム・マーティノー等々。
上記のピアニストの中にはイギリス生まれではない人も含まれているが、みな活動の拠点をイギリスに置いた人たちばかりだ。
こうしたイギリスの伝統の一つを脈々と受け継ぐ人材が現れてくるのは頼もしい限りである。
ここでのマシューマンの演奏は、堅実だが雄弁で、細やかな表情をつけて実に気持ちよいピアノを聴かせている。
「夕映えの中で」の内声の響かせ方や「恋人への通い道」での歌わせ方など思わず惹き付けられる。

いつまで聴けるか分からないので、興味のある方はお早めに!

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東京・春・音楽祭/ブラームス 弦楽六重奏(2011年3月26日 東京文化会館 小ホール)

東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2011-
ブラームス 弦楽六重奏 ~若き名手たちによる室内楽の極(きわみ)

2011年3月26日(土)19:00 東京文化会館 小ホール(C列21番)

長原幸太(Kota Nagahara)(ヴァイオリン)
西江辰郎(Tatsuo Nishie)(ヴァイオリン)
鈴木康浩(Yasuhiro Suzuki)(ヴィオラ)
大島 亮(Ryo Oshima)(ヴィオラ)
上森祥平(Shohei Uwamori)(チェロ)
横坂 源(Gen Yokosaka)(チェロ)

ブラームス(Brahms)作曲

弦楽六重奏曲 第1番 変ロ長調 op.18
 第1楽章 Allegro ma non troppo
 第2楽章 Andante ma moderato
 第3楽章 Scherzo. Allegro molto - Trio. Animato
 第4楽章 Rondo. Poco Allegretto e grazioso

~休憩~

弦楽六重奏曲 第2番 ト長調 op.36
 第1楽章:Allegro non troppo
 第2楽章:Scherzo. Allegro non troppo - Trio, Presto giocoso
 第3楽章:Poco Adagio
 第4楽章:Poco Allegro

~アンコール~
ブラームス(マロツァルト編)/ハンガリー舞曲第5番

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大震災後、多くのイベントやコンサートが中止、もしくは延期となった。
毎年3~4月に恒例となった「東京・春・音楽祭」も地震の影響により、4分の3の公演が中止されたという。
私が前売りチケットを買っていた他の2つの公演も中止となったので、この夜のコンサートも開催されるのかどうか直前までHPをチェックしていたが、結局予定通り催された。
何となく落ち着かない日々が続く中、コンサートを聴く気力も萎えていたが、久しぶりに出かけたコンサートはほっと一息つける憩いの時間となった。
ただ、やはりどこかいつもと違う雰囲気があったのも事実である。

ブラームスの歌曲やピアノ曲などは大好きなのだが、2曲の弦楽六重奏曲はこれまでじっくりと聴いたことがなかったので、よい機会と思いチケットを購入したのだった。
第1番の2楽章がピアノ独奏用に編曲されているバージョンはブレンデルの録音で知っていたのだが、その元の曲を聴いていなかったのだ。

文化会館の小ホールはかなり盛況の様子。
義捐金の箱がロビー数箇所に置かれている他は特にいつもと変わりない風景だが、空気がどこか張り詰めた印象だったのは気のせいだろうか。

演奏前には主催者と思われる方が登場し、犠牲者、被災者へのお悔やみ、お見舞いの言葉の後、音楽祭を可能な範囲で開催する決断に到った経緯などを説明した。

その後に登場した6名の演奏家たちはいずれも若手奏者とのことだが、オケの一員として聴いたことのある方はいたかもしれないが、こうして室内楽を実演で聴くのは全員はじめてだった。
しかし、実に精鋭揃いというべきか、丁々発止とした生きのいい掛け合い、やり取りが音楽に生命を吹き込み、聴いていてその躍動感が気持ちをとても奮い立たせてくれる演奏だった。

ブラームスの六重奏曲2曲は、いずれも4楽章からなる大きめの作品で、演奏者にはかなりの技術を要するのではないかと想像される。
しかし、若年から壮年期にかけてのこれらの作品は、ブラームスといって一般にイメージされる晦渋さはまだ無く、むしろ温かく、親しみやすく、陽気でさえある。
第1番にも第2番にもスケルツォ楽章が置かれているのだが、どちらも村のお祭りの舞曲を思わせる土臭さが愛らしさを増していた。
前述した第1番の第2楽章は物悲しさをたたえた旋律が印象的だが、ピアノ編曲版とはまた一味違った流麗なメロディーの美しさが際立っていた。

六重奏曲第1番では西江、大島、横坂がプリモを弾き、第2番では逆に他のメンバーがプリモを担当していた。

ヴァイオリンの2人(長原氏、西江氏)は実によく歌う。
聴いていて本当にこちらまで楽しくなってしまうような生きのよさが感じられた。
ヴィオラの2人は対照的。
長身の大島氏がクールに弾き、鈴木氏は表情豊か。
チェロの2人のうち横坂氏は最近コンクールに入賞して注目を集めた若手。
体をよく動かし、若々しい演奏。
それに対して長身の上森氏は堂々とした貫禄のある演奏。
どの奏者も目配せをしたり、音の掛け合いをして楽しんでいる様子が伝わってきて、室内楽の楽しさを感じさせてくれた。

Brahms_sextet_20110326_chirashi

アンコールはマロツァルト(正体はN響の「まろ」さんらしい)編曲の「ハンガリー舞曲第5番」。
西江氏を中心に息の合った楽しい演奏だった。
アンコールの前にヴィオラの鈴木氏の挨拶があり、演奏後に我々もロビーで募金箱を持つので、よろしければお願いしますとのこと。
こういう形での支援も今後あちらこちらで行われるのだろう。
よいことだと思う。

他の公演も会場の都合や外国人演奏家の来日不可能などでかなり中止となったが、このような良い演奏会を断行してくれた主催者に感謝したいと思う。

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キルヒシュラーガー&ジョンソン/ハイペリオン・ブラームス歌曲全集Vol.1

The Songs of Johannes Brahms~1(ブラームス歌曲全集Vol.1)

Kirchschlager_johnson_brahms

Hyperion: CDJ33121
録音:2008年8月18-20日, All Saints, Durham Road, East Finchley, London

Angelika Kirchschlager(アンゲリカ・キルヒシュラーガー)(MS)
Graham Johnson(グレアム・ジョンソン)(P)

1.Scheiden und Meiden(別れ), Op.19-2 (ウーラント:詩)[1'09]
2.In der Ferne(異郷), Op.19-3 (ウーラント:詩)[2'16]
3.Von ewiger Liebe(永遠の愛), Op.43-1  (ファラースレーベン:詩)[4'45]
4.Der Gang zum Liebchen(恋人のもとへ), Op.48-1 (ヴェンツィヒ:詩) [1'19]
5.Der Überläufer(裏切り), Op.48-2 (「子供の不思議な角笛」より) [1'39]
6.Liebesklage des Mädchens(乙女の愛の嘆き), Op.48-3 (「子供の不思議な角笛」より) [1'25]
7.Gold überwiegt die Liebe(黄金は愛にまさる), Op.48-4 (ヴェンツィヒ:詩) [1'22]
8.Trost in Tränen(涙の慰め), Op.48-5 (ゲーテ:詩) [3'08]
9.Vergangen ist mir Glück und Heil(幸福と平和は私から去った), Op.48-6 (民謡) [4'03]
10.Herbstgefühl(秋の気配), Op.48-7 (シャック:詩) [3'20]
11.O komme, holde Sommernacht(おお来たれ、やさしい夏の夜よ), Op.58-4 (グローエ:詩) [1'06]
12.Dämmrung senkte sich von oben(たそがれが降りて来る), Op.59-1 (ゲーテ:詩) [3'53]
13.Auf dem See(湖上にて), Op.59-2 (ズィムロック:詩) [3'08]
14.Junge Lieder I "Meine Liebe ist grün"(わが恋は緑), Op.63-5 (フェーリクス・シューマン:詩) [1'35]
15.Junge Lieder II "Wenn um den Holunder"(にわとこの木に夕風が), Op.63-6 (フェーリクス・シューマン:詩) [2'11]
16.Salome(サロメ), Op.69-8 (ケラー:詩) [1'57]
17.Abendregen(夕べの雨), Op.70-4 (ケラー:詩) [5'09]
18.Therese(テレーゼ), Op.86-1 (ケラー:詩) [1'33]
19.Feldeinsamkeit(野の寂しさ), Op.86-2 (アルメルス:詩) [2'55]
20.Nachtwandler(夢にさまよう人), Op.86-3 (カルベック:詩) [3'11]
21.Über die Heide(荒野を越えて), Op.86-4 (シュトルム:詩)  [1'58] 
22.Versunken(思いに沈んで), Op.86-5 (フェーリクス・シューマン:詩) [1'57]
23.Bei dir sind meine Gedanken(私の思いはあなたの許で), Op.95-2 (ハルム:詩) [1'40]
24.Beim Abschied(別れの時に), Op.95-3 (ハルム:詩) [1'00]
25.Der Jäger(狩人), Op.95-4 (ハルム:詩) [1'12]
26.Da unten im Tale(あの下の谷の底では) (ドイツ民謡集より)[1'54]
27.Soll sich der Mond nicht heller scheinen(月はこれより輝かないで) (ドイツ民謡集より)[3'05]
28.Feinsliebchen, du sollst mir nicht barfuss gehn(可愛い人) (ドイツ民謡集より)[3'01]
29.Och Moder, ich well en Ding han!(お母さん、ほしいものがある) (ドイツ民謡集より)[2'16]

(上記の日本語訳は輸入会社の帯の表記による)

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英Hyperionレーベルの歌曲全集にあらたなシリーズが加わった。
ヨハネス・ブラームスの歌曲全曲!
これまでローデシア生まれの英国ピアニストのグレアム・ジョンソン(Graham Johnson: 1950-)が、このレーベルでシューベルト(全37巻)とシューマン(全11巻)の全歌曲録音という偉業を成し遂げ、それだけでも後世にまで残る優れた録音となったが、これからさらにブラームス全曲シリーズをスタートさせたのは楽しみだ。
シューベルト全集をスタートさせた当初は30代後半だったジョンソンも今年で60歳。
いまやベテランの域に達し、ますます磨きのかかった演奏を聴かせてくれるに違いない(余談だが、来年にはロットやボストリッジと共に来日してくれるようだ。生ジョンソンがとうとう聴ける!)。

シューベルトやシューマンとは異なり、ブラームス歌曲はこれまでにも他レーベルで全曲録音がされてきた。
DGでのノーマン&F=ディースカウ&バレンボイム(P)盤、そしてcpoでのバンゼ&フェアミリオン&アンドレアス・シュミット&ドイチュ(P)盤。
今回のHyperion盤はおそらく1枚ごとに歌手が代わるのだろうから、DGやcpoの全集とは違った趣の録音になるのだろう。

そのブラームス歌曲集の第1巻がリリースされたので、早速購入して聴いてみた。
歌手はリート歌手として旬の時期を迎えたオーストリアのメゾ、アンゲーリカ・キルヒシュラーガー。
全29曲が一見無造作に並べられているように感じられるが、作品48と作品86は出版された番号順にまとめて演奏され、そのほかの曲も作品番号の若い方から順に並べてあり、最後のブロックを簡素で美しい「ドイツ民謡集」の編曲からの抜粋で締めくくる。
メゾで歌うにふさわしい深みのある作品を、ブラームスの創作の流れに沿って体感できる、良く練られたプログラミングといえるだろう。

最初に「別れ」作品19-2と「異郷」作品19-3が演奏されるが、この2曲、共通の音楽的テーマが用いられた一対の作品群と位置づけられよう。
ブラームスはほかにも「雨の歌」と「残響」、「夏の夕べ」と「月の光」など、共通のテーマを用いた作品を歌曲集で連続して配置することがあり、まとめて演奏することを意識しているのであろう。

この巻にはブラームスの代表曲と言えるほど著名な作品も含まれている。
「永遠の愛」「恋人のもとへ」「わが恋は緑」「野の寂しさ」「あの下の谷の底では」などはブラームス歌曲初心者の方にはまず最初に聴いてみていただきたい名作である。

一方、あまり馴染みのない作品もここには多いが、そのどれもが心にしみる味わいを感じることが出来る。
ゲーテの詩による「たそがれが降りて来る」などはブラームスでなければ書けないような染み渡ってくる作品である。

もともと私はブラームス歌曲は大好きで、シューベルトに次いで好きなぐらい(ヴォルフと同じぐらい)なのである。
様々な歌手とピアニストがこれまで多くのブラームスの歌曲集を実演や録音で聴かせてくれたが、余程未熟でない限りはそれぞれの演奏を楽しんできたつもりだ。
今回のキルヒシュラーガーとジョンソンによる新たなブラームス歌曲集も、あらゆる方に堂々とお勧めしたくなる素晴らしく魅力的な演奏だった。

まず彼女の声が、これまでソプラノ寄りに感じられたのが、今回、メゾの深みを充分に味わわせてくれたこと。
これは彼女の声の成熟によるのだろう。
さらにこまやかさを増した表現力が、どんな小品にも生き生きとした息吹を与えている。

ピアノのジョンソンは相変わらず作品を知り尽くした演奏を聴かせてくれた。
彼の演奏は詩の言葉に反応した細やかさが特徴的で、それが作品に奥行きを与える場合と、「木を見て森を見ず」的な全体の流れを停滞させてしまう場合もあるが、今回は概して効果的な演奏になっていたように感じた。

このシリーズも、シューベルトやシューマンの時と同様にピアノのジョンソンが解説を執筆しているが、そこで新しい事実を知ることが出来た。
有名な「永遠の愛」の詩は、従来ヨーゼフ・ヴェンツィヒによるものとされてきたが、実際はファラースレーベンによるようだ。

今後のラインナップがどうなっているのか気になるが、それは楽しみに待つことにしよう。

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F=ディースカウのブラームス「マゲローネのロマンス」

最近、バリトン歌手ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau: 1925-)がオールドバラ音楽祭で歌ったブラームス作曲「マゲローネのロマンス」のライヴがBBC LEGENDSから発売された。
以前、小さなレーベルから一時出ていた記憶があるのだが、その時は購入しそびれたので、今回のリリースを待ちわびていた。

F=ディースカウはスタジオ録音、ライヴ録音を合わせてすでに何種類もの同曲録音を残しているので、この機会に整理してみたい。

1)audite: audite 95.581
録音:1952年11月23日, WDR Köln Saal 1 & 3
ヘルマン・ロイター(Hermann Reutter)(P)
13曲目省略

2)ARCHIPEL DESERT ISLAND COLLECTION: ARPCD 0296
録音:1953年(4月10日, Berlin?)
ウルズラ・ハウシュテット(Ursula Haustädt)(Narrator)
ヘルタ・クルスト(Hertha Klust)(P)
11&13曲目省略

3)Deutsche Grammophon: 00289 477 5270
国内盤LP: 2700 102
録音:1957年4月23-27日, Studio Lankwitz, Berlin
Dietrich Fischer-Dieskau(BR, Narrator)
イェルク・デームス(Jörg Demus)(P)
オリジナルLPには収められていた歌手自身による朗読がCD化に際して残念ながら省略されている。

4)EMI: CMS 7 63167 2
ORFEO D'OR: C 339 050 T
録音:1964年8月17日, Mozarteum, Salzburg (live)
ジェラルド・ムーア(Gerald Moore)(P)

5)BBC LEGENDS: BBCL 4255-2
録音:1965年6月20日, Aldeburgh Parish Church (live)
スヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter)(P)

6)EMI CLASSICS: 0777 7 64820 2 6
録音:1970年7月24-25日, Bürgerbräu, München
スヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter)(P)
このリヒテルとのオリジナルLPはレコード・アカデミー賞を受賞している。

7)ORFEO: C 490 981 B
録音:1970年7月30日, Mozarteum, Salzburg (live)
スヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter)(P)

8)Deutsche Grammophon: 449 633-2
録音:1981年5月, Studio Lankwitz, Berlin
ダニエル・バレンボイム(Daniel Barenboim)(P)
DGがブラームスの記念年に合わせて企画したブラームス作品全集の一環として、ジェシー・ノーマンとともにブラームス全歌曲を録音した際のもの。

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今回発売されたのは5番目の録音にあたる。
リヒテルとは数年間にわたる共演関係を続けたが、その出発点となった貴重な記録である。

また、1番目のロイターとの録音と、2番目のクルストとの録音も比較的最近にリリースされた放送録音だが、実はこの歌曲集の11曲目と13曲目はそれぞれマゲローネ、スリマという女性が歌う歌という設定になっている為、潔癖なF=ディースカウはその初期の録音で、それらを省略して歌っていたわけである。
1957年の彼にとって初のスタジオ録音ではその女声用の2曲も含めた全15曲を録音して、歌曲集としてのつながりを優先させる決意をしたことをうかがわせる。

ジェラルド・ムーアは、私の知る限り、この歌曲集の全曲をほかの歌手との共演も含めて録音していないと思うので(プライとの抜粋はあるが)、ザルツブルク音楽祭でのこのライヴ録音は貴重である。
最初にリリースされたEMI盤はすでに入手困難だと思われるが、ORFEO D'ORで再発売されたものは現在も入手できるだろう。

ブラームスの歌曲としてはかなり大規模で感情の振幅が大きな作品群であるため、F=ディースカウのドラマティックな歌唱は、これらの作品を実に魅力的に響かせている。
いつか1957年盤をF=ディースカウの朗読も含めた形で再度リリースしてほしいものである。

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ラプシャンスキー/ピアノリサイタル(2009年5月29日 津田ホール)

マリアン・ラプシャンスキー ピアノリサイタル2009
Lapsansky_200905_22009年5月29日(金) 19:00 津田ホール(自由席)

マリアン・ラプシャンスキー(Marián Lapšanský)(P)

フィビヒ(1850-1900)/「気分、印象と思い出」より15曲
自画像
夜に

アネシカの肖像


神経
ジョフィーン島の夕べ

睫毛

嫉妬
幻想的な夕べ
春の雨
馬車でアネシカのもとへ

ヤナーチェク/ピアノ・ソナタ「1905年10月1日、街頭にて」
第1楽章:予感
第2楽章:死

~休憩~

ブラームス/6つの間奏曲
作品118の1
作品116の2
作品118の4
作品117の2
作品117の3
作品118の6

アルベニス/「スペイン舞曲」第1集より
第1番:グラナダ
第3番:セヴィーリャ
第7番:カスティーリャ

アルベニス/組曲「イベリア」第1集より 「エル・プエルト」

~アンコール~
1.グリーグ/「抒情小品集」~小人の行進
2.?

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昨夜、雨の降る中、スロヴァキア出身のピアニスト、マリアン・ラプシャンスキーのリサイタルを千駄ヶ谷の津田ホールで聴いてきた(ちなみにマリアンという名前だが男性である)。
ペーター・シュライアーとのドヴォルジャーク歌曲集やヤナーチェク「消えた男の日記」の録音(Capriccio)を通じて、このピアニストの演奏を聴いてはいたが実演ははじめてだった。
録音を聴く限りでは、民族色を前面に打ち出すというよりは丁寧に作品と対峙した美しいタッチの演奏をする印象を持っていた。

この夜のリサイタルでは、前半にお国もののフィビヒという作曲家の小品集とヤナーチェクのソナタ、後半にブラームスの間奏曲6曲(大好きな作品!)と、スペインのアルベニスの作品が弾かれた。
今年60代前半のラプシャンスキーは黒で統一されたノーネクタイのシャツとズボンという若々しい衣装でステージに登場した。

最初にとりあげられた作品の作曲家ズデニェク・フィビヒ(1850-1900)は、関根日出男氏のプログラムノートによれば、ボヘミア出身で、ライプツィヒ、パリ、マンハイムで学び、以後はプラハで過ごした。
彼のピアノ小品集「気分、印象と思い出」は全376曲の膨大な作品群で、ラプシャンスキーは全曲を録音しているという。
フィビヒは前妻の姉と再婚した後、弟子のアネシカとジョフィーン島に駆け落ちし、そこでその生涯を閉じた。
そのアネシカとの愛の産物である「気分、印象と思い出」は、掌、指、睫毛などアネシカの身体から、「馬車でアネシカのもとへ」という作品まで、どこまでも私的な体験を基にしている。
なお、「ジョフィーン島の夕べ」はヴァイオリンなどに編曲されて「詩曲」のタイトルで知られているそうだ。
ここでとりあげられた15曲の抜粋はどの曲も比較的コンパクトだが、作曲家の特別な思いが込められているのであろう、そこはかとない官能的な響きも感じられた。
ラプシャンスキーはがっしりした指で慈しむように音を紡ぐ。
以前録音で聴いた印象よりもずっと歌心の豊かな演奏だった。

続くヤナーチェクのソナタは、チェコ人のデモを鎮圧するドイツ人によって1人のチェコ人の命を奪われた実際の事件に怒り書かれたものとのこと。
自己批判の強かったヤナーチェクは第3楽章の楽譜を破棄し、残る2つの楽章も初演後にモルダウ川に捨ててしまったそうだが、初演者によるコピーが残されており、2つの楽章は生き残ることになった。
ドラマティックな展開の作品をラプシャンスキーは奇をてらったところのない真摯さで聴かせてくれた。

休憩後の最初に演奏されたのが、ブラームスの晩年の小品集から間奏曲と名付けられたものばかりを抜き出した6曲。
これはこの夜のハイライトともいえる素晴らしい演奏であった。
聴く前には、お国ものの前半がラプシャンスキーの本領ではないかと思っていたのだが、このブラームスの6曲の演奏はそれを上回る至芸であった。
作曲者晩年の心境が吐露されたかのような諦観と葛藤がこれほどの味わいで聴けるとは思ってもいなかった。
様々な声部を絶妙に拾い上げて豊かに歌い上げるラプシャンスキーによって、ブラームスの内なる声が聞こえてくるかのようだった。
心に染み渡る深い音楽がホールに響き渡る至福のひとときであった。

最後に演奏されたアルベニスは、スペイン情緒豊かな作品で興味深かったが、ブラームスの作品の後ではあまりにも異質で、その違和感に慣れないうちに終わってしまった。
しかし、内省的なブラームスの後に開放的なアルベニスを持ってきて、音楽の多彩な表情を聞かせたかったのかもしれない。
ラプシャンスキーのまだまだ現役のテクニックで、これらの作品が生き生きと演奏されていたのは確かだった。

アンコールは2曲。
ここではラプシャンスキーの技巧の冴えがたっぷりアピールされた。

Lapsansky_200905_chirashi_2空席が非常に多かったのはもったいなかったと思えた素晴らしい演奏を堪能できた。
節度がありながらもよく歌うラプシャンスキーの名人芸をさらに味わってみたい気分である。
普段あまり接することのないスラヴ系の音楽をたっぷり聴けたことと、なによりもブラームスの最上の演奏に出会えたことで、忘れがたい一夜になった。

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