シューマン「新緑(Erstes Grün, Op. 35, No. 4)」を聴く

Erstes Grün, Op. 35, No. 4
 新緑

Du junges Grün, du frisches Gras!
Wie manches Herz durch dich genas,
Das von des Winters Schnee erkrankt,
O wie mein Herz nach dir verlangt!
 若い緑よ、新鮮な草よ!
 どれほど多くの心がきみのおかげで健やかさを取り戻したことか、
 冬の雪に病んだ心が。
 おお、私の心はどれほどきみを求めていたことか!

Schon wächst du aus der Erde Nacht,
Wie dir mein Aug' entgegen lacht!
Hier in des Waldes stillem Grund
Drück' ich dich, Grün, an Herz und Mund.
 もうきみは大地の夜から育ってきているんだね、
 きみに向けて私の目はどれほど笑っていることか!
 ここにある森の静かな地面で
 私の心と口に、緑よ、きみを押しつけよう。

Wie treibt's mich von den Menschen fort!
Mein Leid, das hebt kein Menschenwort,
Nur junges Grün ans Herz gelegt,
Macht, daß mein Herze stiller schlägt.
 どれほど私を人から遠ざけてくれることか!
 私の苦悩、それを人の言葉が助長することもなくなる。
 ただ若い緑を心に押し当てて
 私の心臓が前より静かに打つようにしてくれるのだ。

詩:Justinus (Andreas Christian) Kerner (1786-1862), "Frühlingskur(春の療養)"
曲:Robert Schumann (1810-1856)

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緑映える時期が到来しましたね!緑の中を散歩するのが気持ちよい時期になりました。ドイツの新緑はもう少し後かもしれませんが、ここでシューマンの新緑に寄せる歌曲をご紹介したいと思います。

「新緑」は、シューマンが「歌の年」と呼ばれる歌曲量産の年、1840年に作曲した作品で、翌1841年に『ユスティーヌス・ケルナーの12の詩(Zwölf Gedichte von Justinus Kerner)』の第4曲として出版されました。

シューマンの音楽は3節からなる有節歌曲です。歌は短調に終始しますが、ピアノ後奏が長調なのがいいですね。後奏でほのかに明るくなってほっとしていたのもつかの間、次の節の最初の和音が再び短和音で、そのまま短調の歌が続きます。明暗を行ったり来たりしているところがシューマンらしくてぐっときます。
テキストは決して暗いだけの内容ではなく、緑によって病んだ心が癒えたことを歌っているのですが、シューマンはまだ完全には傷が癒えておらず、吹っ切れるまでに至らない状況を描いているかのようです。
繊細な響きに魅了されます。

2/4拍子
Einfach (素朴に)
ト短調(g-moll)→後奏:ト長調(G-dur)

●ハンス・ホッター(BSBR) & ジェラルド・ムーア(P)
Hans Hotter(BSBR) & Gerald Moore(P)

1957年10-11月録音。往年のリートファンはこのホッターの録音でこの曲を知ったという方も多いのではないでしょうか。包み込むような感触の声は色あせることがありません。素晴らしい名唱です。

●ヘルマン・プライ(BR) & カール・エンゲル(P)
Hermann Prey(BR) & Karl Engel(P)

1962年5月録音。プライの言葉に応じた繊細な表情の付け方が胸に沁みます。例えば1節4行目の"mein Herz"の響きなどプライの声の魅力満載ですね。

●デイム・マーガレット・プライス(S) & ジェイムス・ロックハート(P)
Dame Margaret Price(S) & James Lockhart(P)

プライスのちょっと影のある響きがこの上なく美しいです!

●トマス・ハンプソン(BR) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Thomas Hampson(BR) & Geoffrey Parsons(P)

ハンプソンの歌声がまず魅力的ですが、ちょっとした表情の陰りなどに胸をつかまれます。とても魅力的な歌唱でした。パーソンズのピアノは相変わらず美しいですね!

●ペーター・シュライアー(T) & ノーマン・シェトラー(P)
Peter Schreier(T) & Norman Shetler(P)

若き日の繊細なシュライアーの歌がこの歌によくマッチしていると思います。

●バーバラ・ヘンドリックス(S) & ローラント・ペンティネン(P)
Barbara Hendricks(S) & Roland Pöntinen(P)

ヘンドリックスの細身の声が傷つきやすい主人公の心情を真摯に表現していて素晴らしいです。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Wolfgang Sawallisch(P)

1974年の映像。F=ディースカウの哀愁のこもった表情豊かな歌唱をサヴァリシュの演奏姿と共に映像で見られるのは貴重です!

●マティアス・ゲルネ(BR) & エリク・シュナイダー(P)
Matthias Goerne(BR) & Eric Schneider(P)

ゲルネの抑制した歌唱、シュナイダーの切迫した後奏などこちらもまた魅力的でした。

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シューマン「くるみの木(Der Nußbaum, Op. 25 No. 3)」を聴く

Der Nußbaum, Op. 25 No. 3
 くるみの木

Es grünet ein Nußbaum vor dem Haus,
Duftig,
Luftig
Breitet er blättrig die [Äste]1 aus.
 くるみの木が家の前で緑映えている、
 香りたち、
 風たち、
 葉が生い茂った木は枝を広げている。

Viel liebliche Blüten stehen dran;
Linde
Winde
Kommen, sie herzlich zu umfahn.
 沢山の愛らしい花が木から咲き出ている、
 穏やかな
 風が
 吹き寄せる、花々を心をこめて包み込もうとして。

Es flüstern je zwei zu zwei gepaart,
Neigend,
Beugend
Zierlich zum Kusse die Häuptchen zart.
 二輪ずつ二組対になってささやく、
 傾けて
 かがめるのは
 愛くるしくキスしようとするきゃしゃな頭。

Sie flüstern von einem Mägdlein, das
Dächte
Die Nächte,
Und Tage lang, [wusste]2, ach! selber nicht was.
 花々はある娘のことをささやく、その娘は
 考えていたのだと、
 夜も
 昼もずっと、ああ、自分では何についてなのか分からなかったのだ。

Sie flüstern - wer mag verstehn so gar
Leise
Weis'? -
Flüstern [von]3 Bräut'gam und nächstem Jahr.
 花々はささやく、誰が聞き取れようか、そんな
 ひそひそした
 しゃべり方では。
 ささやくのは花婿と来年のこと。

Das Mägdlein horchet, es rauscht im Baum;
Sehnend,
Wähnend
Sinkt es lächelnd in Schlaf und Traum.
 娘は聴き耳を立てる、木がざわざわ葉擦れの音をたてている。
 思い慕い、
 妄想して、
 娘は微笑みつつ眠りと夢の中に沈みこんでいく。

詩:Julius Mosen (1803-1867)
曲:Robert Schumann (1810-1856)

1 Mosen: "Blätter", Schumann: "Äste"
2 Clara Schumann編纂の楽譜では"wüsste"。Mosenの詩では"wusste"
3 Clara Schumann編纂の楽譜では"vom"

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ローベルト・シューマンが結婚相手のクラーラに贈った歌曲集『ミルテ』Op. 25の第3曲に置かれているのが「くるみの木」です。
知名度では第1曲「献呈」に及びませんが、曲の美しさでは決して負けていません。
最もシューマンらしい歌曲として私なら「くるみの木」を挙げます。ロマンティックなピアノと歌との掛け合いの美しさはちょっと比類がないほどだと思います。
1行目を歌った後にピアノの間奏が入り、2行目以降に進み、最終行は歌とピアノが一緒に歌います。まさに対話しているかのようですね。
ピアノの分散和音は短いフレーズですぐに主和音に戻り、安定した響きが全体を支配しているので、時々展開する和声が生きてくると思います。

6/8拍子
ト長調(G-dur)
Allegretto

●詩の朗読:ズザンナ・プロスクラ(speaker)
Susanna Proskura(speaker)

ゆっくりと発音しているので、歌う人の発音の確認にちょうど良さそうです。ちなみに朗読しているプロスクラはソプラノ歌手です。

●エディト・マティス(S) & カール・エンゲル(P)
Edith Mathis(S) & Karl Engel(P)

芯があって知的で表情豊かでチャーミングで、どれだけ形容してもしきれないほど最高の歌唱です!マティスはコンサートなどではこの曲をよく歌っていたようですがなぜかスタジオ録音がされなかったので、つい最近リリースされたこのLuzern音楽祭ライヴ録音は待ちに待った音源でした!

●バーバラ・ボニー(S) & ヴラディーミル・アシュケナージ(P)
Barbara Bonney(S) & Vladimir Ashkenazy(P)

第1節Äste→Blätterに変更して歌っています。ボニーの声はこの曲を歌うのにうってつけですね。なんとも可憐で伸びやかで大好きな歌唱です。アシュケナージも常に磨かれた美音で素晴らしいです。

●白井光子(MS) & ハルトムート・ヘル(P)
Mitsuko Shirai(MS) & Hartmut Höll(P)

白井さんの歌は言葉の意味をイメージさせてくれます。例えば1節目の"Breitet"という言葉を彼女が語ると、枝が大きく広がるイメージが浮かんできます。言葉のもつ意味をこれほど伝えてくれる歌唱はなかなかないのではないでしょうか。

●エリー・アーメリング(S) & イェルク・デームス(Fortepiano)
Elly Ameling(S) & Jörg Demus(Fortepiano)

若かりしアーメリングの柔らかく甘い美声が味わえます。この数年後にEMIに録音したシューマン歌曲集のLPでの歌唱も素晴らしいので、いつか復活してほしいものです。

●エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェラルド・ムーア(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Gerald Moore(P)

第1節Äste→Blätterに変更して歌っています。シュヴァルツコプフは馥郁たる気品漂う歌唱ですね。ムーアがいつもながら美しくピアノを歌わせていて聴き惚れます!

●エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Geoffrey Parsons(P)

ムーアの録音より随分後に録音されたこの音源は、テンポが前回に比べてずっとゆっくりになっていることに驚かされます(演奏時間が5分近い!)。年代ごとに演奏家の解釈は変わりますが、ここまで変わるのはなかなかないと思います。こういう聞き比べも興味深いと思います。

●ベルナルダ・フィンク(MS) & ロジャー・ヴィニョールズ(P)
Bernarda Fink(MS) & Roger Vignoles(P)

フィンクの深みのある低い声で聴くと味わい深さが感じられていいです。

●ロッテ・レーマン(S) & ポール・ウラノウスキー(P)
Lotte Lehmann(S) & Paul Ulanowsky(P)

レーマンの表情の豊かさといったら!歌いまわしは多少時代を感じますが、それでも最高です!

●レオ・スレツァーク(T) & ピアニスト
Leo Slezak(T) & pianist

第1節Äste→Zweige(枝)に変更して歌っています。1928年録音。リートの演奏史にはこういう時代がありました。ポルタメントやフェルマータの多用はありながら、それらを皆魅力に変えてしまう魔法のような声と表現力です。弱声の美しさにぐっと惹き込まれてしまうのは私だけでしょうか。

●ディアナ・ダムラウ(S) & グザヴィエ・ドゥ・メストレ(Harp)
Diana Damrau(S) & Xavier de Maistre(Harp)

ピアノパートをハープに編曲して演奏しています。今最も多忙なソプラノ、ダムラウの伸びやかな歌唱とメストレの美しいハープが溶け合って素晴らしいです。ちなみに彼女はピアノ伴奏でも2種類録音を残しています。

●ピアノパートのみ(ピアニスト名記載なし)
Unidentified pianist

投稿者:Karaoke for singers オペラ・歌曲伴奏音源。手元が近くから見られます。とても美しい演奏です。ピアノパートだけでも独立したピアノ曲として聴けるほどです。

●クラーラ・シューマンによるピアノ独奏用編曲:クラウディオ・コロンボ(P)
Arranged for Piano Solo by Clara Schumann: Claudio Colombo(P)

クラーラ・シューマンは夫ローベルトの歌曲をいくつかピアノ独奏用に編曲していますが、ほぼ原曲通りなので、歌曲を一人で演奏したい時にうってつけだと思います。

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シューマン「はすの花(Die Lotosblume, Op. 25-7)」を聴く

Die Lotosblume, Op. 25-7
 はすの花

Die Lotosblume ängstigt
Sich vor der Sonne Pracht,
Und mit gesenktem Haupte
Erwartet sie träumend die Nacht.
 はすの花は怖れている、
 太陽の輝きを。
 そして、頭を垂れて
 夢見心地で夜を待ちわびる。

Der Mond, der ist ihr Buhle,
Er weckt sie mit seinem Licht,
Und ihm entschleiert sie freundlich
Ihr frommes Blumengesicht,
 月は、はすの花の彼氏、
 彼はその光で彼女を目覚めさせる、
 すると親しげに
 彼女のやさしい花の顔をあらわにする。

Sie blüht und glüht und leuchtet,
Und starret stumm in die Höh';
Sie duftet und weinet und zittert
Vor Liebe und Liebesweh.
 彼女は花咲き、身を焦がし、照り輝き、
 そして無言で天を見つめる。
 彼女は匂い立ち、泣き、震える、
 恋と恋の痛みゆえに。

詩:Heinrich Heine (1797-1856) 
曲:Robert Schumann (1810-1856)

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ハイネの詩集『歌の本(Buch der Lieder)』の中の「抒情的間奏曲(Lyrisches Intermezzo)」に含まれる詩にシューマンが作曲した「はすの花」は、クラーラへの贈り物でもある歌曲集『ミルテ(Myrten)』Op. 25の7曲目に置かれて出版されました。
シューマン歌の年(1840年)に作られた数多くの歌曲の中でもとりわけ親しまれている1曲です。

ハイネの詩は、はすの花が昼間は太陽の光を恐れているのですが、夜になると彼氏である月があらわれ、はすの花はその彼氏に向けて恋と恋の痛みゆえに花開き匂い立つというなんともロマンティックな内容です。

シューマンの音楽は素朴ながらとても繊細な和音をピアノパートにゆったりと刻ませます。歌の旋律は第1節では太陽を恐れてほぼ低い音域に留まりますが、第1節最終行から月が登場する第2節にかけて音がぐっと高まり、視点が月に移ります。その後、はすが花咲き、天上の月を仰ぎ見る箇所で少しづつ旋律が上行していくのが、恥じらいながら少しづつ顔をあげて高揚していくはすの花の気持ちを絶妙に表現しているようで、聞き手もここで悶えます!!詩の最後の"Liebesweh(恋の苦しみ)"という語にハイネらしい辛辣な思いが込められているのかもしれませんが、シューマンはその言葉すらもはすの花が喜んで受け入れているかのような響きに包みました。本当に奇跡的な作品だとあらためて思います。

以前こちらの記事で訳詞だけ作っていましたので、今回の記事であらためて聞き比べをしてみたいと思います。

ちなみにシューマンの歌曲集のタイトルである「ミルテ」の花は日本語では銀梅花(ギンバイカ)というようです。下記のリンク先をご覧ください。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AE%E3%83%B3%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AB

はすの花を画像検索した結果は下記リンク先にあります。
https://www.google.co.jp/search?q=lotusblume&hl=ja&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=2ahUKEwiuuaGlmOnuAhVLPHAKHRPTAM4Q_AUoAXoECAEQAw&biw=1366&bih=628

はすの花や葉は植物に疎い私でも見たことがあるぐらい身近ですね。
子供の頃に読んだ芥川龍之介の「蜘蛛の糸」をつい思い出します。
https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/92_14545.html

●ハイネの詩の朗読(ゲルト・ウード・フェラー)
Gerd Udo Feller(Rezitation)

とてもいい朗読ですね!第3節の"blüht und glüht und leuchtet"や"duftet und weinet und zittert"の"und(英語のand)"で動詞をつなげて畳みかける箇所をどう朗読しているかに注目してみるのも興味深いです。

●白井光子(MS) & ハルトムート・ヘル(P)
Mitsuko Shirai(MS) & Hartmut Höll(P)

白井さんの深みと含蓄のある歌唱はこのハイネの詩の心情をこれ以上ないほど細やかに描いていて素晴らしいです。

●バーバラ・ボニー(S) & ヴラディーミル・アシュケナージ(P)
Barbara Bonney(S) & Vladimir Ashkenazy(P)

ボニーの可憐な美声とアシュケナージの美しい音色で至福の時間が味わえます。とりわけ"zittert"の抑制した歌唱に惹き込まれました。

●マーガレット・プライス(S) & ジェイムズ・ロックハート(P)
Margaret Price(S) & James Lockhart(P)

大きな弧を描くプライスの歌唱はこの曲の旋律美を浮き彫りにします。

●マティアス・ゲルネ(BR) & マルクス・ヒンターホイザー(P)
Matthias Goerne(BR) & Markus Hinterhäuser(P)

2017年録音。ゲルネの前半の抑制した響きから後半の解放した響きまで、自然で温かみがあり素晴らしいです。

●フリッツ・ヴンダーリヒ(T) & フーベルト・ギーゼン(P)
Fritz Wunderlich(T) & Hubert Giesen(P)

ライヴ録音(Edinburgh, Usher Hall, 4. September 1966)。ヴンダーリヒはこの曲をスタジオ録音していないのでは?不慮の事故で亡くなる2週間前の貴重なライヴ音源が残されていたことに感謝です。ほれぼれするほど美しい歌唱ですね。

●ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)

1985年録音。プライはもう血肉となった歌唱ですね。歌い上げずに抑制した魅力が滲み出ています。第2節第2行の"sie"が聞きなれた音よりも高く歌っていますが、こういう版があるのかどうか調べてみたいです。

●ピアノパートのみ
Die Lotosblume/はすの花  Schumann/シューマン【ドイツ語字幕/和訳付き/PianoKaraoke】

投稿者:PIAVO。演奏の映像と歌詞対訳が表示されます。ピアノパートだけで聴いても歌が浮かんできて、単なる和音の連なりにとどまらないハーモニーの繊細な美しさが感じられますね。

●シューマンによる無伴奏男声四部合唱の「はすの花」Op. 33 No. 3
Robert Schumann: Die Lotosblume, Op. 33 No. 3
レナー・アンサンブル & ベルント・エンゲルブレヒト(C)
Renner Ensemble & Bernd Engelbrecht(C)

独唱曲とば別の作品で、無伴奏男声四部合唱のための作品です。この曲もまた神秘的な響きが美しく、時々あらわれる半音進行が印象的ですね。詩の言葉の扱い方がOp.25の独唱曲と似ているので、シューマンはハイネの詩をこのように朗読したのだなと想像出来るのが興味深いです。

●シューマンによる二重唱の「はすの花」Op. 33 No. 3
Robert Schumann: Die Lotosblume, Op. 33 No. 3
ペーター・シュライアー(T) & ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & クリストフ・エッシェンバハ(P)
Peter Schreier(T) & Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Christoph Eschenbach(P)

無伴奏男声四部合唱曲と同じ作品番号で、確かに同じ曲のようなのですが、インターネット上にこの編成の楽譜を見つけることは出来ませんでした。二重唱+ピアノ伴奏という編成はシューマン自身によるものなのか、楽譜出版社が売上をのばす為に男声合唱曲から編曲したのかは今のところ確認できませんでした。

●カール・レーヴェ作曲の「はすの花」Op. 91 No. 1
Carl Loewe: Die Lotosblume, Op. 91 No. 1
白井光子(MS) & ハルトムート・ヘル(P)
Mitsuko Shirai(MS) & Hartmut Höll(P)

バラード(Ballade)作曲家レーヴェがリート(Lied)としてこのハイネの詩に曲を付けました。歌は素朴ですが、ピアノはドラマティックに展開します。

●ローベルト・フランツ作曲の「はすの花」Op. 25 No. 1
Robert Franz: Die Lotosblume, Op. 25 No. 1
白井光子(MS) & ハルトムート・ヘル(P)
Mitsuko Shirai(MS) & Hartmut Höll(P)

フランツの作曲した作品は、素朴ですがメランコリックな響きがなんとも美しいです。

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F=ディースカウ&ヘル/ハイネの詩によるシューマン歌曲集

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウとハルトムート・ヘルによるシューマン歌曲のコンサート映像がアップされていたので、こちらで共有したいと思います。
おそらく1980年代半ば頃ではないかと推測されるのですが、とにかくヘルはまだ初々しく、F=ディースカウの歌唱も衰え知らずです。
ハイネの詩による単独の歌曲ではじめ、その後に2大歌曲集「リーダークライス」と「詩人の恋」が歌われます。
F=ディースカウの細やかな表現と同時に表情も楽しめますし、歌手だけでなくピアニストにも焦点をあてた映像はなかなか見ごたえがあります。
ぜひ楽しんで下さい。

Dietrich Fischer Dieskau Schumann Lieder Heine online video cutter com

Recording date: unknown

Dietrich Fischer-Dieskau, baritone
Hartmut Höll, piano

Schumann:

Mein Wagen rollet langsam, Op. 142-4
Es leuchtet meine Liebe, 127-3
Abends am Strand, Op. 45-3

Liederkreis, Op. 24

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DFD Dichterliebe, Op. 48

Recording date: unknown

Dietrich Fischer-Dieskau, baritone
Hartmut Höll, piano

Schumann:

Dichterliebe, Op. 48

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歌曲のピアノパート聞き比べ(シューマン「昔の嫌な歌(Die alten, bösen Lieder)」)

これまで多くの歌曲の聞き比べをしてきましたが、どちらかというと歌手の比較が中心になっていた感があります。
歌とピアノの両者を聞いているつもりでいても、言葉で評価するのはやはり歌の方が容易であるように思います。
今回は、シューマンの歌曲集「詩人の恋」の終曲の長大なピアノ後奏を聞き比べたいと思います。
ちなみにハイネのテキストは以下のとおりです。


「詩人の恋(Dichterliebe)」第16曲:昔の嫌な歌

Die alten, bösen Lieder,
Die Träume bös' und arg,
Die laßt uns jetzt begraben;
Holt einen großen Sarg.
 昔の嫌な歌、
 嫌なひどい夢、
 そいつらを今こそ葬ってしまおう、
 でっかい棺をもってきておくれ。


Hinein leg' ich gar manches,
Doch sag' ich noch nicht, was;
Der Sarg muß sein noch größer,
Wie's Heidelberger Faß.
 その中にたくさん詰め込むのだ、
 だが何を入れるのかはまだ言うまい。
 棺はもっとでかくなくては、
 ハイデルベルクの樽よりもでかく。


Und holt eine Totenbahre
Und Bretter fest und dick;
Auch muß sie sein noch länger,
Als wie zu Mainz die Brück'.
 それから棺台と、
 頑丈な厚みのある板を持ってきてくれ。
 棺台ももっと長くなくちゃならない、
 マインツの橋よりも長く。


Und holt mir auch zwölf Riesen,
Die müssen noch stärker sein
Als wie der starke Christoph
Im Dom zu Köln am Rhein.
 それと十二人の巨人も連れてきてくれ、
 そいつらはもっと強くなければ駄目だ、
 ライン川のほとりのケルン大聖堂にいる
 力持ちのクリストフォロスよりもね。


Die sollen den Sarg forttragen
Und senken ins Meer hinab;
Denn solchem großen Sarge
Gebührt ein großes Grab.
 そいつらに棺を運ばせて
 海に沈めさせるのだ。
 なぜならこんなに大きな棺には
 大きい墓を用意するのが当然だから。


Wißt ihr, warum der Sarg wohl
So groß und schwer mag sein?
Ich senkt' auch meine Liebe
Und meinen Schmerz hinein.
 分かるかい、どうしてこの棺が
 こんなに大きくて重たいのかを?
 ぼくの恋も
 苦しみも中に沈めてしまったからさ。


詩:Heinrich Heine (1797-1856)
曲:Robert Schumann (1810-1856)

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ジェフリー・パーソンズ(P) (& オーラフ・ベーア(BR))
Geoffrey Parsons(P) (& Olaf Bär(BR))
2:44~ パーソンズは常に美しい音を響かせるピアニストでした。EMIの録音の良さもあるのかもしれませんが、ここでも非常に美しいタッチを保ちながら、自然な表情をもって、細部まで神経の行き届いた名演奏を聞かせてくれています。


ヴラジーミル・アシュケナージ(P) (& マティアス・ゲルネ(BR))
Vladimir Ashkenazy(P) (& Matthias Goerne(BR))
2:29~ 各フレーズがしっかりと聞き取れるほどしっかりしていながら、絡み合い、シューマンの音楽の綾を見事に紡いでいて、ただただ脱帽の演奏でした。アシュケナージの技術と音楽性の両方が融合した名演だと思います。


フーベルト・ギーセン(P) (& フリッツ・ヴンダーリヒ(T))
Hubert Giesen(P) (& Fritz Wunderlich(T))
2:36~ ギーセンはアルペッジョの付加やテンポの揺らし方など古き良き時代の巨匠の演奏の趣があって、とても魅力的でした。速めのテンポですが、味わいもあり、独自の魅力を持った演奏だと思います。


クリストフ・エッシェンバハ(P) (& ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR))
Christoph Eschenbach(P) (& Dietrich Fischer-Dieskau(BR))
2:43~ エッシェンバハは繊細このうえない好演です。核心に迫るような深みのあるタッチが素晴らしいです。


ジェラルド・ムーア(P) (& ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR))
Gerald Moore(P) (& Dietrich Fischer-Dieskau(BR))
3:09~ F=ディースカウはムーアと多くの録音を残しましたが、インテンポで演奏する印象が強いせいかシューマンではあまり共演しませんでした。しかし、ここでのフレーズの流れを意識したよく歌う演奏を聴けば、ムーアのシューマン演奏の素晴らしさがよく感じられると思います。


カール・エンゲル(P) (& ヘルマン・プライ(BR))
Karl Engel(P) (& Hermann Prey(BR))
2:57~ 1962年録音。エンゲルは決して派手なことはしていませんが、テンポもちょうどいいぐあいに揺らし、起伏もしっかり付けていて、気持ちいい演奏でした。1か所、出が早い箇所があるのは彼にしては珍しいです。

イェルク・デームス(P) (& ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR))
Jörg Demus(P) (& Dietrich Fischer-Dieskau(BR))
2:58~ デームスにしてはあまりテンポを揺らさず、しかし味わい深い語り口で、美しい表現でした。


ドルトン・ボールドウィン(P) (& ジェラール・スゼー(BR))
Dalton Baldwin(P) (& Gérard Souzay(BR))
3:08~ ボールドウィンは爽快なテンポ設定でくっきりとした明瞭な音を聞かせていながら、シューマネスクな響きも聞かせています。


ノーマン・シェトラー(P) (& ペーター・シュライアー(T))
Norman Shetler(P) (& Peter Schreier(T))
3:27~ シェトラーは微細なレベルでの表情の変化を聴かせ、一音一音を静かに美しく響かせています。


カミロ・ラディケ(P) (& ルネ・パーペ(BS))
Camillo Radicke(P) (& René Pape(BS))
2:44~ 映像で演奏する姿を見ることが出来ます。現役の伴奏者の中でも王道を歩んでいるラディケはちょっとした溜めや表情の付け方が巧妙、かつ自然で、シューマンの音楽の魅力を見事に表現していました。


アーウィン・ゲイジ(P) (& トム・クラウセ(BR))
Irwin Gage(P) (& Tom Krause(BR))
2:41~ たっぷりとした溜めとテンポの揺れ、アルペッジョなどで思い入れたっぷりの演奏です。ゲイジらしい雄弁さが感じられます。


アンナ・カルドナ(P)
Anna Cardona(P)
2:35~ ピアノパートのみの演奏。音量の繊細な加減で聞かせてくれます。

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クリスティアン・ゲルハーエル&ゲロルト・フーバー/シューマン歌曲全集スタート

現代屈指の名バリトン、クリスティアン・ゲルハーエル(Christian Gerhaher)と名伴奏ピアニストのゲロルト・フーバー(Gerold Huber)がシューマン歌曲全集に取り組むそうです。

その第1巻が間もなく発売予定です。

 こちら

彼が一人で全部歌うことになるのか、もしそうならば「女の愛と生涯」を含む女声用歌曲も彼が歌うことになるのか、興味は尽きません。

完成時(2020年予定)には10枚組のボックスになる予定とのことですから、それを待つのもいいかもしれませんね。

フィッシャー=ディースカウでさえ全曲は歌わなかったので、ゲルハーエルが師匠を超える日は遠くないのかもしれません。

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マティス、ファスベンダーらによる重唱曲集発売(ORFEOレーベル: 1974年8月25日ザルツブルク音楽祭ライヴ)

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超豪華なリート演奏家たちによるザルツブルク・ライヴ音源がORFEOレーベルから発売されるそうです(amazonでは発売日は2018/10/12となっています)。
録音は1974年で、マティス、ファスベンダー、シュライアー、ベリーがヴェルバ、シルハウスキーのピアノで、シューマンとブラームスの重唱曲を歌っています。
これは楽しみです。
全員集合したジャケット写真を見るだけでもわくわくしますね!
興味のある方はぜひ入手を検討されてみてはいかがでしょうか。

 こちら

シューマン(Schumann)/スペインの歌芝居 (Spanisches Liederspiel, Op. 74)

ブラームス(Brahms)/愛の歌-ワルツ(Liebeslieder-Walzer, Op. 57)

録音:1974年8月25日, Großes Festspielhaus, Salzburg (live)

エディト・マティス(Edith Mathis)(S)
ブリギッテ・ファスベンダー(Brigitte Fassbaender)(A)
ペーター・シュライアー(Peter Schreier)(T)
ヴァルター・ベリー(Walter Berry)(BS)
エリク・ヴェルバ(Erik Werba)(P)
パウル・シルハウスキー(Paul Schilhawsky)(P) (ブラームスのみ)

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シューマン「詩人の恋」を歌おう!(YouTube)

シューマン(Schumann)の歌曲集「詩人の恋(Dichterliebe)」全曲のピアノパートを動画にアップしている方がいらっしゃいました。
歌の練習にもなるし、美しいピアノパートのみに耳を傾けるにもいい映像です。
楽譜も一緒に映るので、ハミングでもいいので、ぜひ歌ってみてください!
ピアニストのアンナ・カルドナさんという方も素直で細やかさのあるいい演奏をしています。

演奏:Anna Cardona (piano)

I. Im wunderschönen Monat Mai(素晴らしく美しい月、五月に)

II. Aus meinen Tränen sprießen(ぼくの涙から)

III. Die Rose, die Lilie(薔薇、百合、鳩、太陽)

IV. Wenn ich in deine Augen seh(ぼくがきみの瞳を見つめると)

V. Ich will meine Seele tauchen(ぼくの魂を潜らせたい)

VI. Im Rhein, im heiligen Strome(ライン川、聖なる川の)

VII. Ich grolle nicht(ぼくは恨まない)

VIII. Und wüßten's die Blumen, die kleinen(そして花々が、小さな花々が)

IX. Das ist ein Flöten und Geigen(これはフルートにヴァイオリン)

X. Hör' ich das Liedchen klingen(ぼくはその歌の響きを)

XI. Ein Jüngling liebt ein Mädchen(ある若者が娘に恋をしたが)

XII. Am leuchtenden Sommermorgen(輝く夏の朝に)

XIII. Ich hab' im Traum geweinet(ぼくは夢の中で泣いた)

XIV. Allnächtlich im Traume(毎晩夢の中できみに会い)

XV. Aus alten Märchen winkt es(昔のおはなしから)

XVI. Die alten, bösen Lieder(昔の嫌な歌)

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フランシスコ・アライサ&ジャン・ルメール/「冬の旅」「詩人の恋」DVD発売

テノールのフランシスコ・アライサ(Francisco Araiza)とピアニストのジャン・ルメール(Jean Lemaire)が共演したシューベルトの「冬の旅」とシューマンの「詩人の恋」の映像がDVDで発売されました。
海外盤なのですが国内再生可能です。
1993年ごろの録画と思われます(正式な収録日は記載されていませんでした)。
私も先日取り寄せたのですが、まだ見ていませんので、後ほど感想を追記したいと思います。
ご興味のある方はAmazonなどで購入可能です。

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クリスティアン・ゲルハーヘル&ゲロルト・フーバー/シューマン歌曲集の夕べ(2014年1月8日 王子ホール)

ニューイヤー・コンサート
クリスティアン・ゲルハーヘル~シューマン歌曲集の夕べ~第1夜
(Schumann Lieder)
2014年1月8日(水)19:00 王子ホール

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クリスティアン・ゲルハーヘル(Christian Gerhaher)(Baritone)
ゲロルト・フーバー(Gerold Huber)(Piano)

オール・シューマン・プログラム
(All Schumann Program)

ミルテの花(Myrthen)Op.25より7曲
 2.自由な想い(Freisinn)
 8.お守り(Talismane)
 15.ヘブライの歌から(Aus den hebräischen Gesängen)
 17.2つのヴェニスの歌I(Zwei Venetianische Lieder I)
 18.2つのヴェニスの歌II(Zwei Venetianische Lieder II)
 25.東方のばらの花から(Aus den östlichen Rosen)
 26.エピローグ(Zum Schluss)

リーダークライス(Liederkreis)Op.39 全12曲
 1.異郷で(In der Fremde)
 2.間奏曲(Intermezzo)
 3.森の語らい(Waldesgespräch)
 4.鎮けさ(Die Stille)
 5.月夜(Mondnacht)
 6.麗しき異国(Schöne Fremde)
 7.古城にて(Auf einer Burg)
 8.異国で(In der Fremde)
 9.哀しみ(Wehmut)
 10.たそがれ(Zweilicht)
 11.森のなかで(Im Wald)
 12.春の夜(Frühlingsnacht)

~休憩~

ライオンの花嫁(Die Löwenbraut)Op.31-1(3つの歌Op.31より)

12の詩(12 Gedichte)Op.35 全12曲
 1.嵐の夜の悦び(Lust der Sturmnacht)
 2.愛と喜びよ、消え去れ(Stirb, Lieb' und Freud')
 3.旅の歌(Wanderlied)
 4.新緑(Erstes Grün)
 5.森へのあこがれ(Sehnsucht nach der Waldgegend)
 6.亡き友の杯に(Auf das Trinkglas eines verstorbenen Freundes)
 7.さすらい(Wanderung)
 8.秘めたる恋(Stille Liebe)
 9.問いかけ(Frage)
 10.秘めたる涙(Stille Tränen)
 11.それほどまでに悩むのは(Wer machte dich so krank?)
 12.古いリュート(Alte Laute)

~アンコール~
シューマン/レクイエム(Requiem)(「6つの詩」追加曲 Op.90 bis)

--------------

クリスティアン・ゲルハーヘル(ゲアハーアー)とゲロルト・フーバーという現役最高のリート演奏家コンビが新年早々来日してくれた。
銀座の王子ホールでシューマンの歌曲のみによる2夜のコンサートを開いたのだが、その第1夜を聴いた。

前半は「ミルテの花」から比較的珍しい曲を7曲、続いてアイヒェンドルフの詩による名作「リーダークライスOp.39」全曲、
後半は7分前後かかるシャミッソーの詩によるバラード「ライオンの花嫁」と、ユスティヌス・ケルナーの詩による「12の詩Op.35」全曲であった。

普通「ミルテの花」からの抜粋といえば、「献呈」「くるみの木」「はすの花」「あなたは花のよう」などが定番で、少なくともこれらから1曲は必ず含まれるといってもいいのだが、今回のコンサートでは(おそらく)意識的にこれらの定番を外している。
そこに演奏家の並々ならぬ意欲と挑戦がうかがえる。

当夜のゲルハーヘルは、歌い終わった時に鼻をすすっていたりしていたので、若干風邪気味だったのかもしれない。
だが、歌っている時は殆どそうした状態を感じさせないプロの歌を聴かせていた。

ゲルハーヘルの声質はハイバリトンとでも言おうか、心地よい響きで、言葉を明瞭に伝えてくる。
そのドイツ語の発音の美しいこと!
詩の朗読を聴いているのではと錯覚するほど、彼のドイツ語の響きにまず聴き惚れてしまう。
それから彼の歌唱を聴いて感じるのが、楷書風のかちっとしたアプローチであること。
これが彼の歌唱の安定感を作り出しており、私が魅力的に感じるところである。
ボストリッジの神経質なほど繊細でひりひりする歌唱も、ゲルネの包み込むような声の響きの中に封じ込められた求心的な歌唱も素晴らしいが、ゲルハーヘルの歌唱はその正攻法のアプローチがなんとも魅力的である。
彼の声は弱声では本当にささやくように柔らかく歌うのだが、フルヴォリュームとなると、聴き手を圧倒する鋭さももっている。
その幅の広さも、語りの巧みさと相まって、聴き手を深いリートの世界に引き込む魅力となる。

そうしたアプローチで歌われた彼のシューマンは、ロマンティックさをことさら強調せず、作品のもつ色合いを自然に醸し出すものだった。
「ミルテの花」ではまず「自由な想い」と「お守り」でフロレスタン風の元気でエネルギッシュな歌を安定感をもった歌唱で聴かせる。
そして「ヘブライの歌から」では一転して憂鬱な雰囲気をごく自然に醸し出す。
「2つのヴェニスの歌」では情景が浮かぶような軽快な歌いぶりを聴かせ、愛らしい「東方のばらの花から」を経て、シューマンの組曲の終曲では定番ともいえるコラール風の「エピローグ」を優しく歌い、小さなツィクルスを締めくくる。
てらいのない自然な表情で、歌曲の様々な心情を的確に描き出す点にかけて、うってつけの歌手がそこにいた。
ちなみに「2つのヴェニスの歌I」の"Gondolier"(ゴンドラ乗り)の発音を従来は「ゴンドリール」と歌う人が多かったが、ゲルハーヘルは「ゴンドリエー」と発音していたのが興味深かった。
その後に演奏された有名な「リーダークライス」は、ゲルハーヘルの安定感のある歌唱が、シューマネスクな響きに溶け合って素晴らしかった。
とりわけ「月夜」は、フーバーの何段階にも階層があるのではと思うほど豊富な色のパレットをもったピアノにのって、真摯な歌唱が胸を打った。

休憩後の最初は珍しい「ライオンの花嫁」という歌曲。
飼っていたライオンに対して、飼い主の女性が自身の結婚を報告し、もうすぐお別れしなければならないと伝える。
そこへ婚約者の男がやってくると、ライオンは飼い主の女性が檻から出られないように出口をふさぐ。
それでも飼い主が出口から出ようとすると、ライオンは彼女を噛み殺し、屍となった飼い主のそばに横たわる。
ライオンは婚約者の銃に撃たれて死ぬという内容。
なんとも血なまぐさい内容ではあるが、シューマンはとりたててドラマティックな音楽を付けようとはしなかった。
ピアノは暗欝な響きが全体を貫き、その上を第三者的に歌が語る。
ゲルハーヘルもここでは語り手に徹し、激しい表情はほとんどとらずに緊張感を持続する。
珍しい作品をコンサートで聴くことが出来たのは意義深かった。

プログラムの最後はディースカウやプライも歌っていたケルナーの詩による「12の詩」である。
このうち、最後の2曲や「新緑」などはホッターが得意としていたのが思い出される。
ツィクルスとして12曲が演奏されることは最近ではめっきり少なくなってしまったが、こうして通して聴いてみると、単にばらばらな歌を寄せ集めたというのではない全体だからこその味わいというものが感じられた。
配布された解説書にも広瀬大介氏が書かれていたが、フィッシャー=ディースカウが「声とユニゾンで演奏される伴奏があまりに頻繁である」と指摘しているのは、この歌曲集全体の雰囲気の一端を作り出す要因となっているのではないか。
余計な装飾なく、歌とピアノが付かず離れずして平行に歩んでいく様がイメージされる。
その無駄のなさが独自の心象風景を描くのに寄与しているのではないか。
第2曲で多くのバリトン歌手が高すぎる音域をファルセットで歌う箇所があるのだが、そこをゲルハーヘルはおそらくファルセットなしで歌っていたように私の耳には聞こえた(違っていたらすみません)。
最後の2曲「それほどまでに悩むのは」と「古いリュート」はほぼ同じ音楽を続けて歌うのだが、ゲルハーヘルは過剰な思い入れもなく、さらりと歌って、ツィクルスとしての見事な締めくくりとしていた。
彼こそが現在最も知的なリート歌手と言えるかもしれない。

ピアニストのゲロルト・フーバーは、今回も非常に優れた演奏を披露した。
以前何度か彼の生演奏に接した限りでは、彼特有のうなり声が特徴的だったが、今回はかなり抑えていたように感じた。
自身でも意識しているのかもしれない。
演奏はふたを全開にしても歌を壊すことが皆無で、非常にバランス感覚に優れていた。
そのうえ、自身がピアノを歌わせるべきところは、外すことなく歌わせて、歌唱とピアノとの優れたデュオとなっていた。
いわゆる対決型のピアノではなく、歌とピアノで一体になる演奏であり、それがこの夜の成功の一因であったことは明らかだった。

この世界的なリート歌手とピアニストをこんな小さな空間でたっぷり味わうという贅沢を心ゆくまで堪能した時間だった。
なお、今回ドイツワインが無料でふるまわれ、心地よい気分のまま音楽を味わえたのもうれしい。

第2夜(1月10日)が聴けなかったのは悔しかったが、せめてプログラムの内容を以下に記して自らへの慰めとしよう。

--------------

<第2夜 1/10>

6つの歌曲Op.107 全曲
 1.心の痛み 2.窓ガラス 3.庭師 4.糸を紡ぐ女 5.森の中で 6.夕暮れの歌

詩人の恋Op.48 全16曲
 1.美しき五月 2.この涙から芽生えた花が 3.バラ ユリ ハト お日様
 4.きみの瞳を見つめると 5.この心を消してしまおう 6.ライン川 美しき流れに
 7.恨んだりしない 8.小さな花よ わかってくれるか
 9.あれはフルートとヴァイオリン 10.あの歌を聴くと
 11.とある男が娘を愛す 12.光あふれる夏の朝 13.夢の中で泣いた
 14.毎夜きみを夢に見る 15.昔の童話が手招きする 
 16.古き悪しき歌

~休憩~

ゲーテの「ヴィルヘルム・マイスター」による歌曲集Op.98aより4曲
 2.竪琴弾きの歌/4.涙とともに パンを食べたことがないものは
 6.孤独に身を委ねると/8.扉のそばへ忍びより 

メランコリーOp.74-6(スペインの歌遊びOp.74より)

哀れなペーターOp.53-3(ロマンスとバラード第3集Op.53より)
 a.ハンスとグレーテが/b.この胸に/c.哀れなペーターは

心の奥深くに痛みを抱えつつOp.138-2(スペインの恋の歌Op.138より)

悲劇Op.64-3(ロマンスとバラード第4集Op.64より)
 1.俺と逃げてくれ 妻になってくれ 2.春の夜に蔭がさす 3.墓の上には菩提樹が

隠者Op.83-3

~アンコール~
シューマン/牛飼のおとめ(「6つの詩」 第4曲 Op.90-4)
シューマン/君は花のごとく(「ミルテの花」 第24曲 Op.25-24)

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