F=ディースカウ&ヘル/ハイネの詩によるシューマン歌曲集

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウとハルトムート・ヘルによるシューマン歌曲のコンサート映像がアップされていたので、こちらで共有したいと思います。
おそらく1980年代半ば頃ではないかと推測されるのですが、とにかくヘルはまだ初々しく、F=ディースカウの歌唱も衰え知らずです。
ハイネの詩による単独の歌曲ではじめ、その後に2大歌曲集「リーダークライス」と「詩人の恋」が歌われます。
F=ディースカウの細やかな表現と同時に表情も楽しめますし、歌手だけでなくピアニストにも焦点をあてた映像はなかなか見ごたえがあります。
ぜひ楽しんで下さい。

Dietrich Fischer Dieskau Schumann Lieder Heine online video cutter com

Recording date: unknown

Dietrich Fischer-Dieskau, baritone
Hartmut Höll, piano

Schumann:

Mein Wagen rollet langsam, Op. 142-4
Es leuchtet meine Liebe, 127-3
Abends am Strand, Op. 45-3

Liederkreis, Op. 24

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DFD Dichterliebe, Op. 48

Recording date: unknown

Dietrich Fischer-Dieskau, baritone
Hartmut Höll, piano

Schumann:

Dichterliebe, Op. 48

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歌曲のピアノパート聞き比べ(シューマン「昔の嫌な歌(Die alten, bösen Lieder)」)

これまで多くの歌曲の聞き比べをしてきましたが、どちらかというと歌手の比較が中心になっていた感があります。
歌とピアノの両者を聞いているつもりでいても、言葉で評価するのはやはり歌の方が容易であるように思います。
今回は、シューマンの歌曲集「詩人の恋」の終曲の長大なピアノ後奏を聞き比べたいと思います。
ちなみにハイネのテキストは以下のとおりです。


「詩人の恋(Dichterliebe)」第16曲:昔の嫌な歌

Die alten, bösen Lieder,
Die Träume bös' und arg,
Die laßt uns jetzt begraben;
Holt einen großen Sarg.
 昔の嫌な歌、
 嫌なひどい夢、
 そいつらを今こそ葬ってしまおう、
 でっかい棺をもってきておくれ。


Hinein leg' ich gar manches,
Doch sag' ich noch nicht, was;
Der Sarg muß sein noch größer,
Wie's Heidelberger Faß.
 その中にたくさん詰め込むのだ、
 だが何を入れるのかはまだ言うまい。
 棺はもっとでかくなくては、
 ハイデルベルクの樽よりもでかく。


Und holt eine Totenbahre
Und Bretter fest und dick;
Auch muß sie sein noch länger,
Als wie zu Mainz die Brück'.
 それから棺台と、
 頑丈な厚みのある板を持ってきてくれ。
 棺台ももっと長くなくちゃならない、
 マインツの橋よりも長く。


Und holt mir auch zwölf Riesen,
Die müssen noch stärker sein
Als wie der starke Christoph
Im Dom zu Köln am Rhein.
 それと十二人の巨人も連れてきてくれ、
 そいつらはもっと強くなければ駄目だ、
 ライン川のほとりのケルン大聖堂にいる
 力持ちのクリストフォロスよりもね。


Die sollen den Sarg forttragen
Und senken ins Meer hinab;
Denn solchem großen Sarge
Gebührt ein großes Grab.
 そいつらに棺を運ばせて
 海に沈めさせるのだ。
 なぜならこんなに大きな棺には
 大きい墓を用意するのが当然だから。


Wißt ihr, warum der Sarg wohl
So groß und schwer mag sein?
Ich senkt' auch meine Liebe
Und meinen Schmerz hinein.
 分かるかい、どうしてこの棺が
 こんなに大きくて重たいのかを?
 ぼくの恋も
 苦しみも中に沈めてしまったからさ。


詩:Heinrich Heine (1797-1856)
曲:Robert Schumann (1810-1856)

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ジェフリー・パーソンズ(P) (& オーラフ・ベーア(BR))
Geoffrey Parsons(P) (& Olaf Bär(BR))
2:44~ パーソンズは常に美しい音を響かせるピアニストでした。EMIの録音の良さもあるのかもしれませんが、ここでも非常に美しいタッチを保ちながら、自然な表情をもって、細部まで神経の行き届いた名演奏を聞かせてくれています。


ヴラジーミル・アシュケナージ(P) (& マティアス・ゲルネ(BR))
Vladimir Ashkenazy(P) (& Matthias Goerne(BR))
2:29~ 各フレーズがしっかりと聞き取れるほどしっかりしていながら、絡み合い、シューマンの音楽の綾を見事に紡いでいて、ただただ脱帽の演奏でした。アシュケナージの技術と音楽性の両方が融合した名演だと思います。


フーベルト・ギーセン(P) (& フリッツ・ヴンダーリヒ(T))
Hubert Giesen(P) (& Fritz Wunderlich(T))
2:36~ ギーセンはアルペッジョの付加やテンポの揺らし方など古き良き時代の巨匠の演奏の趣があって、とても魅力的でした。速めのテンポですが、味わいもあり、独自の魅力を持った演奏だと思います。


クリストフ・エッシェンバハ(P) (& ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR))
Christoph Eschenbach(P) (& Dietrich Fischer-Dieskau(BR))
2:43~ エッシェンバハは繊細このうえない好演です。核心に迫るような深みのあるタッチが素晴らしいです。


ジェラルド・ムーア(P) (& ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR))
Gerald Moore(P) (& Dietrich Fischer-Dieskau(BR))
3:09~ F=ディースカウはムーアと多くの録音を残しましたが、インテンポで演奏する印象が強いせいかシューマンではあまり共演しませんでした。しかし、ここでのフレーズの流れを意識したよく歌う演奏を聴けば、ムーアのシューマン演奏の素晴らしさがよく感じられると思います。


カール・エンゲル(P) (& ヘルマン・プライ(BR))
Karl Engel(P) (& Hermann Prey(BR))
2:57~ 1962年録音。エンゲルは決して派手なことはしていませんが、テンポもちょうどいいぐあいに揺らし、起伏もしっかり付けていて、気持ちいい演奏でした。1か所、出が早い箇所があるのは彼にしては珍しいです。

イェルク・デームス(P) (& ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR))
Jörg Demus(P) (& Dietrich Fischer-Dieskau(BR))
2:58~ デームスにしてはあまりテンポを揺らさず、しかし味わい深い語り口で、美しい表現でした。


ドルトン・ボールドウィン(P) (& ジェラール・スゼー(BR))
Dalton Baldwin(P) (& Gérard Souzay(BR))
3:08~ ボールドウィンは爽快なテンポ設定でくっきりとした明瞭な音を聞かせていながら、シューマネスクな響きも聞かせています。


ノーマン・シェトラー(P) (& ペーター・シュライアー(T))
Norman Shetler(P) (& Peter Schreier(T))
3:27~ シェトラーは微細なレベルでの表情の変化を聴かせ、一音一音を静かに美しく響かせています。


カミロ・ラディケ(P) (& ルネ・パーペ(BS))
Camillo Radicke(P) (& René Pape(BS))
2:44~ 映像で演奏する姿を見ることが出来ます。現役の伴奏者の中でも王道を歩んでいるラディケはちょっとした溜めや表情の付け方が巧妙、かつ自然で、シューマンの音楽の魅力を見事に表現していました。


アーウィン・ゲイジ(P) (& トム・クラウセ(BR))
Irwin Gage(P) (& Tom Krause(BR))
2:41~ たっぷりとした溜めとテンポの揺れ、アルペッジョなどで思い入れたっぷりの演奏です。ゲイジらしい雄弁さが感じられます。


アンナ・カルドナ(P)
Anna Cardona(P)
2:35~ ピアノパートのみの演奏。音量の繊細な加減で聞かせてくれます。

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クリスティアン・ゲルハーエル&ゲロルト・フーバー/シューマン歌曲全集スタート

現代屈指の名バリトン、クリスティアン・ゲルハーエル(Christian Gerhaher)と名伴奏ピアニストのゲロルト・フーバー(Gerold Huber)がシューマン歌曲全集に取り組むそうです。

その第1巻が間もなく発売予定です。

 こちら

彼が一人で全部歌うことになるのか、もしそうならば「女の愛と生涯」を含む女声用歌曲も彼が歌うことになるのか、興味は尽きません。

完成時(2020年予定)には10枚組のボックスになる予定とのことですから、それを待つのもいいかもしれませんね。

フィッシャー=ディースカウでさえ全曲は歌わなかったので、ゲルハーエルが師匠を超える日は遠くないのかもしれません。

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マティス、ファスベンダーらによる重唱曲集発売(ORFEOレーベル: 1974年8月25日ザルツブルク音楽祭ライヴ)

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超豪華なリート演奏家たちによるザルツブルク・ライヴ音源がORFEOレーベルから発売されるそうです(amazonでは発売日は2018/10/12となっています)。
録音は1974年で、マティス、ファスベンダー、シュライアー、ベリーがヴェルバ、シルハウスキーのピアノで、シューマンとブラームスの重唱曲を歌っています。
これは楽しみです。
全員集合したジャケット写真を見るだけでもわくわくしますね!
興味のある方はぜひ入手を検討されてみてはいかがでしょうか。

 こちら

シューマン(Schumann)/スペインの歌芝居 (Spanisches Liederspiel, Op. 74)

ブラームス(Brahms)/愛の歌-ワルツ(Liebeslieder-Walzer, Op. 57)

録音:1974年8月25日, Großes Festspielhaus, Salzburg (live)

エディト・マティス(Edith Mathis)(S)
ブリギッテ・ファスベンダー(Brigitte Fassbaender)(A)
ペーター・シュライアー(Peter Schreier)(T)
ヴァルター・ベリー(Walter Berry)(BS)
エリク・ヴェルバ(Erik Werba)(P)
パウル・シルハウスキー(Paul Schilhawsky)(P) (ブラームスのみ)

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シューマン「詩人の恋」を歌おう!(YouTube)

シューマン(Schumann)の歌曲集「詩人の恋(Dichterliebe)」全曲のピアノパートを動画にアップしている方がいらっしゃいました。
歌の練習にもなるし、美しいピアノパートのみに耳を傾けるにもいい映像です。
楽譜も一緒に映るので、ハミングでもいいので、ぜひ歌ってみてください!
ピアニストのアンナ・カルドナさんという方も素直で細やかさのあるいい演奏をしています。

演奏:Anna Cardona (piano)

I. Im wunderschönen Monat Mai(素晴らしく美しい月、五月に)

II. Aus meinen Tränen sprießen(ぼくの涙から)

III. Die Rose, die Lilie(薔薇、百合、鳩、太陽)

IV. Wenn ich in deine Augen seh(ぼくがきみの瞳を見つめると)

V. Ich will meine Seele tauchen(ぼくの魂を潜らせたい)

VI. Im Rhein, im heiligen Strome(ライン川、聖なる川の)

VII. Ich grolle nicht(ぼくは恨まない)

VIII. Und wüßten's die Blumen, die kleinen(そして花々が、小さな花々が)

IX. Das ist ein Flöten und Geigen(これはフルートにヴァイオリン)

X. Hör' ich das Liedchen klingen(ぼくはその歌の響きを)

XI. Ein Jüngling liebt ein Mädchen(ある若者が娘に恋をしたが)

XII. Am leuchtenden Sommermorgen(輝く夏の朝に)

XIII. Ich hab' im Traum geweinet(ぼくは夢の中で泣いた)

XIV. Allnächtlich im Traume(毎晩夢の中できみに会い)

XV. Aus alten Märchen winkt es(昔のおはなしから)

XVI. Die alten, bösen Lieder(昔の嫌な歌)

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フランシスコ・アライサ&ジャン・ルメール/「冬の旅」「詩人の恋」DVD発売

テノールのフランシスコ・アライサ(Francisco Araiza)とピアニストのジャン・ルメール(Jean Lemaire)が共演したシューベルトの「冬の旅」とシューマンの「詩人の恋」の映像がDVDで発売されました。
海外盤なのですが国内再生可能です。
1993年ごろの録画と思われます(正式な収録日は記載されていませんでした)。
私も先日取り寄せたのですが、まだ見ていませんので、後ほど感想を追記したいと思います。
ご興味のある方はAmazonなどで購入可能です。

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クリスティアン・ゲルハーヘル&ゲロルト・フーバー/シューマン歌曲集の夕べ(2014年1月8日 王子ホール)

ニューイヤー・コンサート
クリスティアン・ゲルハーヘル~シューマン歌曲集の夕べ~第1夜
(Schumann Lieder)
2014年1月8日(水)19:00 王子ホール

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クリスティアン・ゲルハーヘル(Christian Gerhaher)(Baritone)
ゲロルト・フーバー(Gerold Huber)(Piano)

オール・シューマン・プログラム
(All Schumann Program)

ミルテの花(Myrthen)Op.25より7曲
 2.自由な想い(Freisinn)
 8.お守り(Talismane)
 15.ヘブライの歌から(Aus den hebräischen Gesängen)
 17.2つのヴェニスの歌I(Zwei Venetianische Lieder I)
 18.2つのヴェニスの歌II(Zwei Venetianische Lieder II)
 25.東方のばらの花から(Aus den östlichen Rosen)
 26.エピローグ(Zum Schluss)

リーダークライス(Liederkreis)Op.39 全12曲
 1.異郷で(In der Fremde)
 2.間奏曲(Intermezzo)
 3.森の語らい(Waldesgespräch)
 4.鎮けさ(Die Stille)
 5.月夜(Mondnacht)
 6.麗しき異国(Schöne Fremde)
 7.古城にて(Auf einer Burg)
 8.異国で(In der Fremde)
 9.哀しみ(Wehmut)
 10.たそがれ(Zweilicht)
 11.森のなかで(Im Wald)
 12.春の夜(Frühlingsnacht)

~休憩~

ライオンの花嫁(Die Löwenbraut)Op.31-1(3つの歌Op.31より)

12の詩(12 Gedichte)Op.35 全12曲
 1.嵐の夜の悦び(Lust der Sturmnacht)
 2.愛と喜びよ、消え去れ(Stirb, Lieb' und Freud')
 3.旅の歌(Wanderlied)
 4.新緑(Erstes Grün)
 5.森へのあこがれ(Sehnsucht nach der Waldgegend)
 6.亡き友の杯に(Auf das Trinkglas eines verstorbenen Freundes)
 7.さすらい(Wanderung)
 8.秘めたる恋(Stille Liebe)
 9.問いかけ(Frage)
 10.秘めたる涙(Stille Tränen)
 11.それほどまでに悩むのは(Wer machte dich so krank?)
 12.古いリュート(Alte Laute)

~アンコール~
シューマン/レクイエム(Requiem)(「6つの詩」追加曲 Op.90 bis)

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クリスティアン・ゲルハーヘル(ゲアハーアー)とゲロルト・フーバーという現役最高のリート演奏家コンビが新年早々来日してくれた。
銀座の王子ホールでシューマンの歌曲のみによる2夜のコンサートを開いたのだが、その第1夜を聴いた。

前半は「ミルテの花」から比較的珍しい曲を7曲、続いてアイヒェンドルフの詩による名作「リーダークライスOp.39」全曲、
後半は7分前後かかるシャミッソーの詩によるバラード「ライオンの花嫁」と、ユスティヌス・ケルナーの詩による「12の詩Op.35」全曲であった。

普通「ミルテの花」からの抜粋といえば、「献呈」「くるみの木」「はすの花」「あなたは花のよう」などが定番で、少なくともこれらから1曲は必ず含まれるといってもいいのだが、今回のコンサートでは(おそらく)意識的にこれらの定番を外している。
そこに演奏家の並々ならぬ意欲と挑戦がうかがえる。

当夜のゲルハーヘルは、歌い終わった時に鼻をすすっていたりしていたので、若干風邪気味だったのかもしれない。
だが、歌っている時は殆どそうした状態を感じさせないプロの歌を聴かせていた。

ゲルハーヘルの声質はハイバリトンとでも言おうか、心地よい響きで、言葉を明瞭に伝えてくる。
そのドイツ語の発音の美しいこと!
詩の朗読を聴いているのではと錯覚するほど、彼のドイツ語の響きにまず聴き惚れてしまう。
それから彼の歌唱を聴いて感じるのが、楷書風のかちっとしたアプローチであること。
これが彼の歌唱の安定感を作り出しており、私が魅力的に感じるところである。
ボストリッジの神経質なほど繊細でひりひりする歌唱も、ゲルネの包み込むような声の響きの中に封じ込められた求心的な歌唱も素晴らしいが、ゲルハーヘルの歌唱はその正攻法のアプローチがなんとも魅力的である。
彼の声は弱声では本当にささやくように柔らかく歌うのだが、フルヴォリュームとなると、聴き手を圧倒する鋭さももっている。
その幅の広さも、語りの巧みさと相まって、聴き手を深いリートの世界に引き込む魅力となる。

そうしたアプローチで歌われた彼のシューマンは、ロマンティックさをことさら強調せず、作品のもつ色合いを自然に醸し出すものだった。
「ミルテの花」ではまず「自由な想い」と「お守り」でフロレスタン風の元気でエネルギッシュな歌を安定感をもった歌唱で聴かせる。
そして「ヘブライの歌から」では一転して憂鬱な雰囲気をごく自然に醸し出す。
「2つのヴェニスの歌」では情景が浮かぶような軽快な歌いぶりを聴かせ、愛らしい「東方のばらの花から」を経て、シューマンの組曲の終曲では定番ともいえるコラール風の「エピローグ」を優しく歌い、小さなツィクルスを締めくくる。
てらいのない自然な表情で、歌曲の様々な心情を的確に描き出す点にかけて、うってつけの歌手がそこにいた。
ちなみに「2つのヴェニスの歌I」の"Gondolier"(ゴンドラ乗り)の発音を従来は「ゴンドリール」と歌う人が多かったが、ゲルハーヘルは「ゴンドリエー」と発音していたのが興味深かった。
その後に演奏された有名な「リーダークライス」は、ゲルハーヘルの安定感のある歌唱が、シューマネスクな響きに溶け合って素晴らしかった。
とりわけ「月夜」は、フーバーの何段階にも階層があるのではと思うほど豊富な色のパレットをもったピアノにのって、真摯な歌唱が胸を打った。

休憩後の最初は珍しい「ライオンの花嫁」という歌曲。
飼っていたライオンに対して、飼い主の女性が自身の結婚を報告し、もうすぐお別れしなければならないと伝える。
そこへ婚約者の男がやってくると、ライオンは飼い主の女性が檻から出られないように出口をふさぐ。
それでも飼い主が出口から出ようとすると、ライオンは彼女を噛み殺し、屍となった飼い主のそばに横たわる。
ライオンは婚約者の銃に撃たれて死ぬという内容。
なんとも血なまぐさい内容ではあるが、シューマンはとりたててドラマティックな音楽を付けようとはしなかった。
ピアノは暗欝な響きが全体を貫き、その上を第三者的に歌が語る。
ゲルハーヘルもここでは語り手に徹し、激しい表情はほとんどとらずに緊張感を持続する。
珍しい作品をコンサートで聴くことが出来たのは意義深かった。

プログラムの最後はディースカウやプライも歌っていたケルナーの詩による「12の詩」である。
このうち、最後の2曲や「新緑」などはホッターが得意としていたのが思い出される。
ツィクルスとして12曲が演奏されることは最近ではめっきり少なくなってしまったが、こうして通して聴いてみると、単にばらばらな歌を寄せ集めたというのではない全体だからこその味わいというものが感じられた。
配布された解説書にも広瀬大介氏が書かれていたが、フィッシャー=ディースカウが「声とユニゾンで演奏される伴奏があまりに頻繁である」と指摘しているのは、この歌曲集全体の雰囲気の一端を作り出す要因となっているのではないか。
余計な装飾なく、歌とピアノが付かず離れずして平行に歩んでいく様がイメージされる。
その無駄のなさが独自の心象風景を描くのに寄与しているのではないか。
第2曲で多くのバリトン歌手が高すぎる音域をファルセットで歌う箇所があるのだが、そこをゲルハーヘルはおそらくファルセットなしで歌っていたように私の耳には聞こえた(違っていたらすみません)。
最後の2曲「それほどまでに悩むのは」と「古いリュート」はほぼ同じ音楽を続けて歌うのだが、ゲルハーヘルは過剰な思い入れもなく、さらりと歌って、ツィクルスとしての見事な締めくくりとしていた。
彼こそが現在最も知的なリート歌手と言えるかもしれない。

ピアニストのゲロルト・フーバーは、今回も非常に優れた演奏を披露した。
以前何度か彼の生演奏に接した限りでは、彼特有のうなり声が特徴的だったが、今回はかなり抑えていたように感じた。
自身でも意識しているのかもしれない。
演奏はふたを全開にしても歌を壊すことが皆無で、非常にバランス感覚に優れていた。
そのうえ、自身がピアノを歌わせるべきところは、外すことなく歌わせて、歌唱とピアノとの優れたデュオとなっていた。
いわゆる対決型のピアノではなく、歌とピアノで一体になる演奏であり、それがこの夜の成功の一因であったことは明らかだった。

この世界的なリート歌手とピアニストをこんな小さな空間でたっぷり味わうという贅沢を心ゆくまで堪能した時間だった。
なお、今回ドイツワインが無料でふるまわれ、心地よい気分のまま音楽を味わえたのもうれしい。

第2夜(1月10日)が聴けなかったのは悔しかったが、せめてプログラムの内容を以下に記して自らへの慰めとしよう。

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<第2夜 1/10>

6つの歌曲Op.107 全曲
 1.心の痛み 2.窓ガラス 3.庭師 4.糸を紡ぐ女 5.森の中で 6.夕暮れの歌

詩人の恋Op.48 全16曲
 1.美しき五月 2.この涙から芽生えた花が 3.バラ ユリ ハト お日様
 4.きみの瞳を見つめると 5.この心を消してしまおう 6.ライン川 美しき流れに
 7.恨んだりしない 8.小さな花よ わかってくれるか
 9.あれはフルートとヴァイオリン 10.あの歌を聴くと
 11.とある男が娘を愛す 12.光あふれる夏の朝 13.夢の中で泣いた
 14.毎夜きみを夢に見る 15.昔の童話が手招きする 
 16.古き悪しき歌

~休憩~

ゲーテの「ヴィルヘルム・マイスター」による歌曲集Op.98aより4曲
 2.竪琴弾きの歌/4.涙とともに パンを食べたことがないものは
 6.孤独に身を委ねると/8.扉のそばへ忍びより 

メランコリーOp.74-6(スペインの歌遊びOp.74より)

哀れなペーターOp.53-3(ロマンスとバラード第3集Op.53より)
 a.ハンスとグレーテが/b.この胸に/c.哀れなペーターは

心の奥深くに痛みを抱えつつOp.138-2(スペインの恋の歌Op.138より)

悲劇Op.64-3(ロマンスとバラード第4集Op.64より)
 1.俺と逃げてくれ 妻になってくれ 2.春の夜に蔭がさす 3.墓の上には菩提樹が

隠者Op.83-3

~アンコール~
シューマン/牛飼のおとめ(「6つの詩」 第4曲 Op.90-4)
シューマン/君は花のごとく(「ミルテの花」 第24曲 Op.25-24)

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シューマン/オペラ《ゲノフェーファ》(2011年2月5日 新国立劇場・中劇場)

東京室内歌劇場42期第129回定期公演
シューマン/オペラ《ゲノフェーファ》日本舞台初演
原語(ドイツ語)上演/字幕付/全4幕

2011年2月5日(土)14:00 新国立劇場・中劇場(1階16列65番)

ペーター・ゲスナー(演出)

前川朋子(ゲノフェーファ)
和田ひでき(ジークフリート)
内山信吾(ゴーロ)
紙谷弘子(マルガレータ)
大澤建(ドラーゴ)
小島聖史(ヒドゥルフス)
大澤恒夫(バルタザール)
岡元敦司(カスパール)
神谷真士(コンラート)

東京室内歌劇場合唱団
東京室内歌劇場管弦楽団
山下一史(指揮)

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珍しいシューマンのオペラ《ゲノフェーファ》を聴いてきた。
原作者としてヘッベルやティークといった名前が見られ、さらに台本もシューマンと共同でライニクが参加している。
なんだか歌曲で御馴染みの名前ばかりなので、いつもより親しみを感じる。

新国立劇場の中劇場ははじめて足を踏み入れたが、客先が放射状に舞台を囲む形をとり、前方のオーケストラピットもあまり深くなく、いつものオペラパレスに比べるとかなりはっきりと舞台が見えた。
16列目というからどれほど後ろかと思っていたら、前方の数列分はオーケストラピットが占めていた為、比較的前方の席だった。

全4幕からなり、2幕ずつをまとめて上演し、その間に1度だけ休憩をはさむ形をとっていた。
私は例によって第1幕の大部分と終幕の後半に睡魔に襲われ、特に終幕はかなり意識が飛んでしまった(最初のうち会場が暑く感じられた)。
せっかく珍しい作品を堪能できる機会だったのにもったいなかったが、半分起きていられただけでも私としては上々だろう(などと満足してしまってはいけないのだが)。

従って、ちゃんとした感想を書ける立場にはないので、起きていた時に聴いた分についてだけだが、シューマンが《ゲノフェーファ》に付けた音楽は私にはとても魅力的に感じた。
もともとシューマンに馴染んでいたということもあるのだろうが、初めて聴くオペラにもかかわらず親しみを感じながら聴いていた。
ロマン派のオペラ失敗者の烙印を押されがちなシューベルトやシューマンはよくドラマティックな展開に乏しいということが言われる。
おそらくその通りなのだろう。
しかし、私にはそれがそれほど欠点には感じられなかったのは、あまり様々なオペラを聴き込んでいない為かもしれない。

演出は合唱団の各人にも細かな演技を加え、そうした群衆が主役を引き立てることにもなったように感じた。
歌手の中ではゴーロ役の内山信吾が良かった。
山下一史指揮東京室内歌劇場管弦楽団も、必ずしも上手ではないらしいシューマンのオーケストラ手法をよく理解して魅力的に演奏していたと思う。
最初のうち不安定感もあったが、すぐに調子を取り戻したように感じた。
この馴染みの薄い作品にこれだけの情熱を注いだ関係各位の尽力には心から拍手を贈りたい。

なお、演奏終了後にロビーで演出のペーター・ゲスナー氏、指揮の山下一史氏、評論家の長木誠司氏がアフタートークを行った。
ゲスナー氏は日本に住んで長いらしく、すべて日本語で話していた。
以下のようなことが話された。

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今回のオペラ、本来最後は大団円で終わることになっているのだが、そうしなかったという話。
現代はヒーローが出にくい時代なので、シューマン当時よりもさらに共感しやすい内容になっているという話。
シューマンはオケの手法をピアノの発想で作曲した為、思い描いていたイメージと実際に演奏した時の効果が必ずしも一致しないが、それを理解して演奏することが大事という話。
などであった。

ちなみにゲスナー氏は今回がオペラ初演出とのことで、今後もオペラ演出をやってみたいという意欲を述べておられた。

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シューマン/アンナにⅡ(An Anna II)

An Anna II, op. posth. 21 no. 7 (WoO 10, No. 2)
 アンナにⅡ

Nicht im Tale der süßen Heimat,
Beim Gemurmel der Silberquelle -
Bleich getragen aus dem Schlachtfeld
Denk' ich dein, du süßes Leben!
 甘美な故郷の谷ではなく、
 銀色の泉のせせらぎのそばで、
 青ざめて戦場から運ばれながら
 僕はきみを思っている、かわいいひとよ!

All die Freunde sind gefallen,
Sollt' ich weilen hier der eine?
Nein! schon naht der bleiche Bote,
Der mich leitet zur süßen Heimat.
 友はみな死んでしまった、
 僕はここで一人でいなければならないのか?
 いや!すでに青白い使者が近づいてくる、
 彼が僕を甘美な故郷へ連れて行ってくれるのだ。

(省略された第3節)
Flecht ins Haar den Kranz der Hochzeit,
Halt bereit die Brautgewande
Und die vollen, duft'gen Schalen:
Denn wir kehren alle wieder
In das Tal der süßen Heimat.
 髪に結婚式の花冠を編み込み、
 準備しておくのだよ、花嫁衣裳と
 たっぷりとした薄いショールを。
 僕らはみんなで再び
 甘美な故郷の谷に帰るのだから。

詩:Justinus (Andreas Christian) Kerner (1786-1862): "Episteln" no. 5
曲:Robert Alexander Schumann (1810-1856)

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Hyperionレーベルでピアニストのグレアム・ジョンソン(Graham Johnson)が企画したシューマン歌曲全集は11巻で完結したが、今年に入り、シューマン生誕200年を記念して、組物の形でまとめて再リリースされた。
シューベルト全集の時同様、今回もセット化するにあたり作曲順に並べ替えられているため、年代を追ってシューマンの作風を追える楽しみがある。
その1枚目にはシューマン初期のめったに聴くことの出来ない歌曲が「ミルテの花」とともに収められている。

シューマンと言えば1840年のいわゆる「歌の年」に怒涛のように歌曲創作に集中したことで有名だが、それ以前数年はピアノ曲作曲に集中していた為、初期の歌曲は1827年から1828年に作曲されたものがあるのみらしい。

Hyperionの全集に収録された初期歌曲は以下の11曲。

1.憧れ(Sehnsucht)(Schumann:詩)(1827年2月28日作曲)

2.泣く娘(Die Weinende)(Byron/Körner:詩)(1827年7月作曲)

3.XXXのための歌(Lied für XXX)(Schumann:詩)(1827年7月作曲)

4.短い目覚め(Kurzes Erwachen)(Kerner:詩)(1828年6~7月作曲)

5.歌の目覚め(Gesanges Erwachen)(Kerner:詩)(1828年6~7月作曲)

6.釣り人(Der Fischer)(Goethe:詩)(1828年6~7月作曲)

7.秋に(Im Herbste)(Kerner:詩)(1828年6~7月作曲)

8.アンナにⅠ(An Anna I)(Kerner:詩)(1828年6~7月作曲)

9.アンナにⅡ(An Anna II)(Kerner:詩)(1828年7月31日作曲)

10.羊飼いの少年(Hirtenknabe)(Schumann:詩)(1828年8月16日以前作曲)

11.思い出(Erinnerung)(Jacobi:詩)(1828年8月16日以前作曲)

最初のシューマン自身の詩による「憧れ」からすでに音楽作品としての魅力を備えているのは驚きだ。
後年のようなシューマン特有の二面性はまだ見られず、美しい旋律と詩の言葉に対するデリカシーのある扱いが特徴的と感じられた。

その中でとりわけ興味を惹いたのは「アンナにⅡ」という作品。
1828年7月31日作曲でシューマン18歳の時の作品ということになる。
ユスティーヌス・ケルナーの「書簡集」という6編からなる短い詩のシリーズの中をテキストにして「アンナに」と題する2曲を作った。
ちなみにこの曲名は詩人の付けたタイトルではないものの、女性が「アンナ」という名前である設定はケルナーによるものである。
「アンナにⅡ」のオリジナル詩は3節からなるが、シューマンは作曲に際して最後の3節目を削除して、最初の2節を使っている。
しかし、最後に第1節が回帰する作曲法をとっているので、原詩の第3節の削除はシューマンの強い考えがあってのことと推測される。
非常に優しい響きの短い作品だが、聴き手を惹きつけるものを持っている。
この初期歌曲の中心テーマをシューマンは彼のピアノ・ソナタ第1番嬰ヘ短調作品11(1832年から1835年作曲)の第2楽章Ariaにほぼそのまま引用しているのが興味深い。

現在のところCDで聴けるのは、トマス・ハンプソン(BR)&ジェフリー・パーソンズ(P)のケルナー&アンデルセン歌曲集と、ハイペリオンのシューマン歌曲全集第8巻でのマーク・パドモア(T)&グレアム・ジョンソン(P)の2種類と思われる(F=ディースカウは彼の全集で「アンナにⅠ」は録音したが、Ⅱは録音しなかった)。
しかし、いずれは現在進行中のナクソスレーベルのシューマン歌曲全集でも録音されて聴けるようになるだろう。

以下のサイトで「アンナにⅡ」の演奏を聴くことが出来る。

トマス・ハンプソン(BR)&ジェフリー・パーソンズ(P)
ハンプソンがとろけるような甘美な歌を聞かせ、パーソンズは優しい音色でサポートする。

歌唱部をヴァイオリンで演奏した映像

「アンナにⅡ」を主題に使ったピアノ・ソナタ第1番嬰ヘ短調作品11の第2楽章(Klára Würtzの演奏)

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林美智子&望月哲也/シューマン生誕200年 歌曲と詩の朗読の夕べ(2010年10月29日 王子ホール)

Hayashi_mochizuki_20101029

林美智子&望月哲也
~シューマン生誕200年 歌曲と詩の朗読の夕べ~

2010年10月29日(金)19:00 王子ホール(J列20番)

林美智子(Michiko Hayashi)(メゾ・ソプラノ)
望月哲也(Tetsuya Mochizuki)(テノール)
河原忠之(Tadayuki Kawahara)(ピアノ)
久世星佳(Seika Kuze)(朗読)

シューマン/歌曲集「詩人の恋(Dichterliebe)」Op.48(望月)

~休憩~

シューマン/歌曲集「女の愛と生涯(Frauenliebe und Leben)」Op.42(林)

シューマン/4つの二重唱曲(Vier Duette)Op.78(林&望月)
 舞踏歌(Tanzlied)
 彼と彼女(Er und Sie)
 あなたを思う(Ich denke dein)
 子守歌~病にふせる子供のため(Wiegenlied am Lager eines kranken Kindes)

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売れっ子の2人、メゾ・ソプラノの林美智子とテノールの望月哲也がシューマンを歌うコンサートを聴いてきた。
今回は宝塚出身の久世星佳を迎え、林と望月が訳した詩を演奏の合間に朗読するという趣向であった。
ピアノは河原忠之。

今回の演奏会を聴き終えて最も印象的だったのが、ピアノの河原忠之。
この人はコレペティートルとしての経験が豊富な為か、以前に聴いた時は勘所は押さえているものの若干大雑把な印象を受けた。
ところが、今日の演奏はその特質が素晴らしい方向に働いた。
あたかも往年のピアノの巨匠のようにシューマンの音楽の揺らぎを濃密に表現したのだ。
深い味わいがどの音からも感じられ、テキストの主人公の心情が雄弁に描き出されていた。

前半は望月の歌唱で「詩人の恋」。
1曲、あるいは数曲分の詩がまず久世によって朗読され、その後で演奏されていく。
望月の歌唱はオペラでの歌を歌曲にも持ち込んだような印象で、外に発散されていく。
爽やかな美声で各曲を真摯に表現していき、彼の声と曲との相性の良さを感じた。
一方で、さらに歌いこむことでより素晴らしくなる可能性も残しているように思われた。
久世の朗読は歌手たちの世界を壊さないようにという配慮からか、意外と薄味。
もちろん詩の言葉に反応した語り分けなどはきちんとなされているのだが、もう一歩思い切った表情の豊かさがあってもいいと感じた。
3曲分の朗読をした後で、2曲演奏された後に次の朗読を始めてしまったりといったハプニングもあった(ご本人はおそらく気付いていない感じである)が、ピアノの河原氏がさりげなく元に戻そうとしていたのはさすがだった。

後半は林の歌唱で「女の愛と生涯」。
彼女は数ヶ月前の公演を体調不良で降板したりしていたので、この夜も大丈夫だろうかと思っていたが、いたって元気な様子で安心した。
第1曲の前、真っ暗な舞台にそっと登場して、久世と背中合わせに立ち、まず正面の久世が第1曲を朗読し、その後、林がぐるりと回って正面に移り、歌唱が始まった。
林のリートをじっくり聴くのは実は初めてなのだが(以前「ロザムンデのロマンス」だけは聴いたが)、まずその声の重心の低い深さに驚いた。
メゾソプラノではあるが、アルトのような深みがある。
また声量も豊かで、懐の深い歌唱だった。
この声質が特に最終曲「今、あなたは私にはじめて苦痛を与えました」に生きたのは当然だろう。
ソプラノ歌手が歌うと軽くなりがちなこの曲の心痛をメゾソプラノの深みで真実味をもって表現していて素晴らしかった。
各曲の歌唱もしっとりとした味わいが素敵だったが、ちょっとした表情や軽い演技が女優顔負けのうまさで貫禄すら感じられた。
久世も曲の展開に従って、林とともにちょっとした動きをつけるのだが、むしろ林が主導して、久世が従っている感じだった。
この歌曲集では「詩人の恋」ほどピアノパートに見せ場は多くないが、最終曲の後に第1曲が回想されるシーンでは河原がとても味わい深い演奏を聴かせてくれた。

最後のブロックは作品番号78の二重唱曲を全4曲。
芸達者な二人の歌手がこれらの曲で、さらに生き生きとしていたのは偶然ではないだろう。
楽譜を見ながらではあったが、第1曲「舞踏歌」など、ちょっとしたオペラの一場面を見ているかのようだった。
久世はこの曲集に関しては最後の曲「子守歌」のみに登場し、河原のピアノに合わせて朗読し、その後すぐに歌が始まった。
病にふしている子供に向けた設定だからだろうか、子守歌にしては暗い響きの作品だが、メロディーの美しさは一度聴けば忘れられない。
最後にふさわしい作品だった。

Hayashi_mochizuki_20101029_chirashi

満席の会場から何度も拍手でステージに呼び戻されたが、アンコールはなかった。
なお、久世が出入りする際にいつも駆け足なのだが、これは宝塚の習慣なのだろうか。
林もそれを真似したりして、茶目っ気のある人である。

良質の演奏でシューマンの代表作を満喫できて満足の一夜だった。

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