ジェラルド・ムーア(Gerald Moore)生誕120年

ジェラルド・ムーア (Gerald Moore, 1899.7.30, Watford, Hertfordshire - 1987.3.13, Penn, Buckinghamshire)

歌曲の伴奏者として一時代を築いたジェラルド・ムーアが生まれて2019年7月30日で120年が経ちました。
早いものです。
私がムーアの演奏に惹かれて、自伝を読んだり、録音を聞いたりしていた頃、彼はもちろんとっくに引退していましたが、まだご健在でした。
1987年に彼の訃報記事が新聞に掲載された時のショックは今でも思い出すことが出来ます。
当時はインターネットなどありませんでしたから、図書館に行って、新聞各紙の訃報欄をチェックしたりしたものでした。

ムーアの演奏や自伝を通じて、彼のことを知るにつれて、ムーアの器楽曲演奏の録音をもっと聞いてみたいと思うようになってきました。
彼は一般には歌曲の分野で大きな名声を獲得しましたが、実際には楽器奏者たちとも数多く共演しており、彼の著書にも器楽曲について触れられていました。
当時店頭で入手出来たのは、シューベルトの「アルペジョーネ・ソナタ」をフォイアマンのチェロと共演したLPでした。
その後、FMでムーアの特集が組まれた時に放送されたデュ・プレとのフォレ「エレジー」のあまりの素晴らしさに、エアチェックしたテープを何度も巻き戻して聞いたものでした(これもLPで再発売されたものに収録されていました)。
ムーアが器楽曲でも歌心を発揮した独自の魅力を醸し出していることを知り、その後、少しずつ彼の器楽録音を入手したり、入手できないものは上野の音楽資料館で探して、例えばゴイザーとのブラームス:クラリネット・ソナタのLPなどを楽しみました。
今やインターネットで様々な貴重な音源を聞くことが出来、つくづくいい時代になったなぁと感じます。
そんなムーアの器楽曲演奏をいくつか貼り付けてみました。
興味のある方は、彼の歌曲以外の演奏がどんな感じなのかぜひ聴いてみてください。

●ピアノ独奏
ヘラー: 練習曲 ホ長調 Op.45 No.9
ジェラルド・ムーア(P)
Gerald Moore plays Heller Étude in E Major Op.45 No.9
Gerald Moore
Rec. 9 November 1949

●ピアノ連弾
ドヴォジャーク: スラヴ舞曲 ト短調 Op. 46 No. 8
ジェラルド・ムーア(P: Primo)
ダニエル・バレンボイム(P: Secondo)
16 Slavonic Dances B78 & B145 (Opp. 46 & 72) (2003 Remastered Version) , B78: No. 8 in G minor
Gerald Moore
Daniel Barenboim
Rec. 1969

●チェロとピアノ
フォレ: エレジー ハ短調 Op. 24
ジャクリーン・デュ・プレ(VLC)
ジェラルド・ムーア(P)
Fauré / Jacqueline du Pré, 1962: Elegie in C minor, Op. 24 - Gerald Moore, piano
Jacqueline du Pré (1945-1987)
Rec. 1 April 1969

●チェロとピアノ
シューベルト: アルペジョーネ・ソナタ イ短調 D821
エマヌエル・フォイアマン(VLC)
ジェラルド・ムーア(P)
Schubert - Arpeggione sonata - Feuermann / Moore
Emanuel Feuermann
Gerald Moore
Rec. 29-30.VI.1937, Abbey Road Studio 3, London

●クラリネットとピアノ
ブラームス: クラリネット・ソナタ ヘ短調 Op.120-1
ハインリヒ・ゴイザー(CL)
ジェラルド・ムーア(P)
Johannes Brahms: Sonate für Klarinette und Klavier Nr. 1
Heinrich Geuser / Gerald Moore
Rec. 14 November 1958, Berlin, Zehlendorf

第1楽章 Allegro appassionato

第2楽章 Andante un poco adagio

第3楽章 Allegretto grazioso

第4楽章 Vivace

●ヴィオラとピアノ
ブラームス: ヴィオラ・ソナタ 変ホ長調 Op.120-2
ウィリアム・プリムローズ(VLA)
ジェラルド・ムーア(P)
Brahms: Sonata in E-Flat, Op. 120, No. 2
William Primrose, viola
Gerald Moore, piano
Rec. 16 September 1937, EMI's Studio No. 3, Abbey Road, London
1. Allegro amabile
2. Allegro appassionato (at 7:30)
3. Andante con moto (at 12:45)

●ヴァイオリンとピアノ
シマノフスキー: 神話 Op.30 ~ 1. アレトゥーザの泉
ティボール・ヴァルガ(VLN)
ジェラルド・ムーア(P)
Karol Szymanowsky: Mythes, Op.30, No. 1: La fontaine d'Arethuse
Tibor Varga · Gerald Moore
Rec. 1947

●チェロとピアノ
リムスキー=コルサコフ: マルハナバチの飛行(「熊蜂の飛行」という題で有名ですが、正しくは「熊蜂」ではないそうです)
ピエール・フルニエ(VLC)
ジェラルド・ムーア(P)
Rimsky-Korsakov: Flight of the Bumblebee, Fournier & Moore (1957)
Pierre Fournier (1906-1986), Cello
Gerald Moore (1899-1987), Piano
Rec. 1957

●ピアノ独奏
シューベルト(ジェラルド・ムーア編曲): 音楽に寄せて D547
ジェラルド・ムーア(P)
Schubert (arr. Moore): An die Musik D547 (2003 Remastered Version)
Gerald Moore
Rec. 20 Feb. 1967, Royal Festival Hall (live)

| | | コメント (0)

ヘルマン・プライ&ジェラルド・ムーア/シューベルト「冬の旅」(1959年ケルン録音)配信限定リリース

いつもコメントを下さるプライファンの真子さんからの情報で、ヘルマン・プライ(Hermann Prey)&ジェラルド・ムーア(Gerald Moore)の「冬の旅」初出音源が発売されたことが分かりましたので、ご紹介します。

プライとムーアのコンビはシューベルトのゲーテ&シラー歌曲集、「白鳥の歌」、ブラームス、ヴォルフ、プフィッツナー、R.シュトラウス歌曲集など数多くの名盤を残してきましたが、「冬の旅」の録音はありませんでした。

今回、1959年ケルン録音ということまではジャケット写真の記載で分かっているのですが、パッケージではなく、配信のみの販売とのことで、詳細ないきさつなどは不明です。

音源を聞いた限りでは、ライヴ録音ではなさそうです。
放送録音か、あるいは商業用に録音してお蔵入りになった録音なのでしょうか。
音は悪くないです。

 amazonはこちら

Singers of the Century - Hermann Prey: Winterreise

Prey_moore_winterreise_1959


プライは伸びやかな美声で丁寧に歌を紡いでいきます。
ムーアは安定したテンポで、歌に満ちた演奏を聞かせています。

興味のある方はまずは上記のサイトから試聴してみることをお勧めします。

------------

もう一つ、動画サイトにプライとホカンソンによるシューベルトの1984年ヴィーン・ライヴ録音がアップされていました。

録音: Nov. 1984, Brahms-Saal, Musikverein, Wien (live)

Hermann Prey(BR)
Leonard Hokanson(P)

Franz Schubert:
I. Sehnsucht(憧れ), D 123 0:00-
II. Am See(湖上で), D 124 4:05-
III. Der Taucher(水中を潜る男), D 111 10:14-
IV. Geistes-Gruß(幽霊の挨拶), D 142 34:39-
V. Genügsamkeit(満足), D 143 36:41-
VI. Der Sänger(歌びと), D 149 38:34-
VII. Alles um Liebe(愛のすべて), D 241 46:25-

長大な「水中を潜る男(潜水者), D 111」が聞きものですが、他に「満足」や「愛のすべて」のような珍しい作品も歌われていて貴重な音源だと思います。

プライ生誕90年にあたり、あらためて彼の録音を一つ一つ聞いてみるのもいいかもしれませんね。

| | | コメント (5) | トラックバック (0)

アーメリング、F=ディースカウ、ムーアらの写真!

たまたま画像検索していて見つけたのですが、エリー・アーメリング、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ、ジェラルド・ムーアの3人が1枚に収まっているという超レアな写真がありました!
この3人だけでなく、ピアニストのスティーヴン・コヴァセヴィッチと、指揮者のベルナルト・ハイティンクも一緒です。
1970年の1枚ということですが、何か像を持っているので、授賞式か何かなのかもしれませんね。

 こちらの上方の写真です。クリックすると拡大します。

ちなみにこの写真の5人、すべて視線が別の方向を向いています。
意図的なのか偶然なのかは分かりませんが、ちょっと面白いです。
F=ディースカウがアーメリングを見つめる眼差しが優しげに感じられるのは気のせいでしょうか。
ちなみにアーメリング、F=ディースカウ、ムーアの3人は、この2年後にシューベルトの重唱曲の録音で共演を果たすことになります(Deutsche Grammophon)。

| | | コメント (6) | トラックバック (0)

ジェラルド・ムーア独奏による「音楽に寄せて」&「ヘラー作曲練習曲」

今年(2017年)が没後30年にあたる名伴奏者ジェラルド・ムーア(Gerald Moore: 1899-1987)のソロ演奏が某サイトにアップされていました。
このSP録音、存在は知っていたのですが、入手できず、「音楽に寄せて」のみは以前に故羽田健太郎さんのラジオで流されたのを聞いたことがあったのですが、ヘラーの練習曲は聞けないままでした。
アップして下さった方にただただ感謝あるのみです。
「音楽に寄せて」はムーアの1967年フェアウェル・コンサート(シュヴァルツコプフ、ロサンヘレス、ディースカウとの共演)のアンコールで弾かれたものが商品化されていますが、そちらは1節のみの短縮バージョンでした。
この1949年版は2節の形で変奏されていますが、あくまでも原曲を生かした編曲なのがムーアらしいです。

ちなみにこの録音、1949年11月ということですので、1899年7月生まれのムーアの満50才の録音ということになります。
他にはバルトークの小品しかソロ録音のないムーアが50才でこの録音をしたのはどういう心境だったのか、ちょっと気になります。

とにかくお聞きになってみてください!
ピアノで歌うということの最高の境地がここにあります。
あまりにも美しいです!

ピアノ独奏(Piano solo):ジェラルド・ムーア(Gerald Moore)
録音(Recording):1949年11月9日(9 November 1949)

シューベルト作曲(Schubert);ムーア編曲(arr. G.Moore):音楽に寄せて(An die Musik, D547)
Gerald Moore plays Schubert-Moore 'An die Musik'

ヘラー作曲(Heller):練習曲ホ長調(Étude in E Major, Op.45 No.9)
Gerald Moore plays Heller Étude in E Major Op.45 No.9

| | | コメント (10) | トラックバック (0)

ジェラルド・ムーア没後30年

往年の歌曲伴奏の第一人者として途方もない業績を残したジェラルド・ムーア(Gerald Moore: 1899.7.30-1987.3.13)が、今日(2017年3月13日)で没後30年を迎えました。
新聞で彼の訃報を読んだ時の衝撃は今でもはっきり思い出すことが出来るのですが、あれからもう30年も経ってしまったとは月日の経つのは早いものです。

ムーアについては膨大な音源があり、彼の業績を称えるには聴く人それぞれに思い入れのある録音があることと思います。

私も彼の録音を聴いて、歌曲好きを続けてきたようなものです。

30年前の今日を偲んで、彼のフェアウェル・コンサートでアンコールに弾いたムーア自身の編曲によるシューベルトの「音楽に寄せて」を聴いてみたいと思います(1967年2月録音)。

ここでの歌そのものと言いたいほど豊かなピアノの響きを耳にすると、彼が何故これほどまでに多くの共演者から愛されたのかがよく分かります。
ピアノで歌うということの最もよい実例がここにあると思います。
何度聞いても胸を打つ演奏です!
ぜひ聴いてみて下さい。

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

ヘルマン・プライ&ジェラルド・ムーア/「白鳥の歌」他(ザルツブルク・ライヴ1964)リリース

プライとムーアによる1964年ザルツブルク音楽祭の歌曲の夕べがCD化されたようです。
シューベルトの「白鳥の歌」全曲とその他の歌曲です。
この両者はフィリップスレーベルにも「白鳥の歌」のスタジオ録音を残していますが、1964年のライヴはその曲順の解体で語り草になっていた演奏でした。
私は現在まだ入手できていないのですが、こうして正規盤として聴ける日が来るとは思っていなかっただけに、とても嬉しく歓迎すべきリリースだと思います。

詳細はHMVのサイトをどうぞ。
 こちら

当時は「白鳥の歌」を出版された通りの順序で演奏するのが通例だったと思われるので、どういう経緯でプライが曲順を変えたのか興味深いところです。
往年の記録の復活を喜びたいのと同時に、まだまだプライのザルツブルク・ライヴは沢山お宝が眠っているはずなので、そろそろまとめて歌曲だけでもリリースしてほしいところです。

ちなみに「歌びと」「夕映えの中で」「シルヴィアに」はプライは別のピアニストとスタジオ録音しているので、ムーアとの組み合わせで聴けるのも有難いことです。

---------

(2015.11.6追記)

CD、入手しました!
プライはもちろんライヴならではの熱唱を聴かせているのですが、ヴァルター・クリーンとの熱いスタジオ録音とは違って、全体にコントロールが感じられるのが興味深かったです。
クリーンとのスタジオ録音が勢いに任せた若い時期ならではの情熱だったのに比べて、こちらは熱さと冷静さのバランスがよく、激しい「アトラス」でさえ、どこか冷静な目が感じられるほどでした。
だからといって決して冷たい演奏ということではなく、プライの歌唱にさらに彫りの深さが加わったということなのでしょう。声を前面に出したものではなく、声を歌唱の手段として使っているのが感じられて素晴らしい演奏でした。
ムーアはピアノでとても美しく歌い、プライの音楽性を完全に把握しているのはいつもながらさすがです!

「白鳥の歌」が目玉であることは間違いないのですが、ぜひとも「竪琴弾きの歌」や「ミューズの子」なども聴いてみて下さい。会場で聴いているような臨場感がなんとも言えず素晴らしいです。

| | | コメント (6) | トラックバック (0)

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ&ジェラルド・ムーアの1974年UNESCOコンサート映像(シューベルト4曲)

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)とジェラルド・ムーア(Gerald Moore)の映像といえば、BBCでテレビ用に収録したものが有名ですが、なぜかこれまでコンサートでの共演映像を見る機会に恵まれませんでした。

動画サイトに1974年のUNESCOコンサートでシューベルトの歌曲4曲を演奏した2人の動画がアップされていました。
画質はあまり良くないですが、それでも貴重な記録で、私は狂喜しました!
1974年といえば、ムーアがステージから引退してすでに7年経っています。
どうやってディースカウがムーアを口説き落としたのかは分かりませんが、特別な機会ということでムーアも承諾したのでしょうか。
ディースカウの声はまだまだ美声を保っており、歌う表情がアップでとらえられています。
ムーアの演奏姿はそれほど多くは映っていませんが、「ひめごと」のダイナミクスの繊細な変化など依然として素晴らしいです。
なによりもこの二人がそろってステージに出演しているのが見られただけでもファンとしては嬉しいです。

ライヴ録画:1974年1月9日, Paris, France

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)(baritone)
ジェラルド・ムーア(Gerald Moore)(piano)

シューベルト作曲
1.漁師の娘(Das Fischermädchen)
2.夕映えの中で(Im Abendrot)
3.孤独な男(Der Einsame)
4.ひめごと(Geheimes)

| | | コメント (6) | トラックバック (0)

ヘルマン・プライ&ジェラルド・ムーア/ヴォルフ&プフィッツナー、シュトラウス歌曲集 初CD化(DECCA)

DECCAレーベルの"MOST WANTED RECITALS"でプライ&クリーンの「白鳥の歌」ほか数々の名盤がCD化されたことは既述のとおりですが、このシリーズ中、日本でなぜか今のところ流通していない複数のCDの中にヘルマン・プライ&ジェラルド・ムーアの「ヴォルフ&プフィッツナー歌曲集」があります。
しかもボーナストラックとして同じコンビによるR.シュトラウス歌曲集も含まれているというお得な盤です。
amazonなどでいずれ扱うのかどうか不明ですが、メキシコのDECCAの企画とのことで、どうしてもすぐに欲しい方はPresto Classicalというイギリスのサイトからお求めになるのがいいかと思います。

私はこのプライ&ムーアの「ヴォルフ&プフィッツナー歌曲集」と「ホッター&パーソンズ/リサイタルVol.2」を注文しましたが、1週間も経たないうちに届きました。
さらに「スゼー&ボールドウィン/フランス歌曲集(これも初CD化)」も追加で注文しているので届くのが楽しみです。

このCDの購入については下の記事の追記をご覧ください。
 こちら

ではこのCDの中身をご紹介します。

----------

DECCA: 480 8172
MOST WANTED RECITALS 35

ヘルマン・プライ(Hermann Prey)(Baritone)
ジェラルド・ムーア(Gerald Moore)(Piano)

録音:1965年4月2-5日, Decca Studios, West Hampstead, London (1-19)
1963年6月4-7日, Decca Studios, West Hampstead, London (20-33)

ヴォルフ(Wolf)作曲/「メーリケ歌曲集」より
1.庭師
2.依頼
3.飽くことのない愛
4.出会い
5.狩人の歌
6.春だ!
7.散歩
8.旅路で
9.郷愁
10.祈り
11.隠棲
12.ヴァイラの歌
13.告白
14.鼓手

プフィッツナー(Pfitzner)作曲/「5つの歌曲」Op.9
15.庭師
16.孤独な娘
17.秋に
18.勇敢な男
19.別れ

R.シュトラウス(R.Strauss)作曲
20.献呈Op.10-1
21.何もOp.10-2
22.夜Op.10-3
23.ぼくの頭上に広げておくれOp.19-2
24.ぼくたち、隠しておいていいものだろうかOp.19-4
25.わが思いのすべてOp.21-1
26.あなた、わが心の冠よOp.21-2
27.ああ、恋人よ、もう別れなければならないOp.21-3
28.ああ辛い、俺はなんて不幸な男なんだOp.21-4
29.憩え、わが魂Op.27-1
30.明日Op.27-4
31.夜の散歩Op.29-3
32.親しげな幻影Op.48-1
33.あなたの青い瞳でOp.56-4

----------

すべて初CD化です。
録音年月日も今回明記されているのが有難いです。
1965年録音の「ヴォルフ&プフィッツナー歌曲集」全曲と、1963年録音の「R.シュトラウス歌曲集」(「白鳥の歌」のCDに含まれる3曲以外全曲)で構成されていますが、どちらも30代のプライの声の美しさ、張り、表現力、語り口は絶好調です!

ヴォルフの「メーリケ歌曲集」は全53曲からなるのですが、その中からプライの声やキャラクターに合った作品が慎重に選ばれているのが感じられます。
「庭師」では通りかかった王女様へのひそやかな愛の告白を実直なまでにストレートに歌い上げ、聴き手の気持ちを心地よく明るくしてくれます。
「依頼」では友人に好きな人の返事を代わりに聞いてもらう切迫した感じが"Warum schreibt Er aber nicht?(なぜ手紙をくれないのですか)"の歌いぶりによく表れていて、オペラの一場面のように楽しいです。
「飽くことのない愛」では"Je weher, desto besser!(痛ければ痛いほど気持ちがいいの)"の"besser"におけるプライのなんともいえないニュアンスが聴きどころです。
「春だ(あの季節だ)!」では春の到来の喜びを前半は抑制を利かせ、後半に爆発するその配分が素敵です。
「祈り」の厳かな歌唱や有名な「隠棲」での真摯で力強い歌いぶりも素晴らしいのですが、最後の「告白」「鼓手」のユーモアはまさにプライの独壇場でしょう。
「告白」では兄弟がいない為に母親から一心に期待を寄せられて重いよぉと嘆くさまが実にユーモラスに語られ、声のちょっとしたニュアンス付けなど芸達者なプライを満喫できます。
一方「鼓手」では、お母さんが魔法が使えたら酒保で働いてご馳走が食べられるのにと、「告白」とは逆の母親好きな少年を描いていて、そのプログラミングも絶妙と言えましょう。

プフィッツナーは作品番号9のアイヒェンドルフの詩による全5曲が演奏されていますが、第1曲のタイトルが「庭師」で、メーリケ歌曲集のプログラミングに合わせたとも考えられますね。
最後は「別れ」というタイトルですし、プライならではの凝った選曲&曲順ということがいえそうです。
哀愁漂う歌曲集で、プライの甘美な声が一層切なさを際立たせているように感じられます。

シュトラウスの歌曲集は作品番号順に並べられているのはプライの考えなのでしょうか。
有名で親しみやすい作品が選ばれていて魅力的な選曲です。
「献呈」での全霊を傾けた歌唱はプライの良さ全開です。
「憩え、わが魂」のような重めの作品でもプライが歌うとほのかな光が射すのがまた魅力です。
「あなたの青い瞳で」での素朴でストレートで甘美な歌はまさにプライの良さが集約されていますね。
こぼれおちそうなほど熟れたプライの美声が存分に味わえる素敵な歌曲集でした。

ムーアは60代半ばの脂の乗り切った円熟味がそのまろやかなタッチから感じられ、これまた耳を惹きつけて離しません。
「明日」など絶品です。
そしてディースカウと共演した時とは違ったプライ仕様の演奏になっているのが興味深いです。
例えばヴォルフの「出会い」をディースカウとは猛スピードで駆け抜ける風のように演奏していましたが、プライとは最初のうちややテンポをゆるやかにとり、恋人との逢瀬を歌う直前の間奏で恋の嵐を吹き荒れさせます。
そして、そのどちらにもムーアの個性が刻印されているのが素晴らしいところです。
ヴォルフの「春だ!」はF=ディースカウとのメーリケ歌曲(男声用)全集録音時に省かれてしまった為、ムーアファンにとっては、プライが録音してくれて感謝です!
ムーアの軽やかで味のあるタッチが魅力的です。

Prey_moore_wolf_lieder

------------

(2014年8月9日追記)

HMVでとうとう扱うようです。9月10日発売とのことです。
 こちら

| | | コメント (20) | トラックバック (0)

F=ディースカウとムーアのちょっとした符合

昨年ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウが亡くなったことは、私も含め多くのリートファンを驚かせ、悲しませたことだろうと思う。
だが、彼の演奏の一期間において欠かせない共演者であったジェラルド・ムーアの生涯を照らし合わせた時、ちょっとした符合があることに気付いた。

ムーア(1899.7.30-1987.3.13)が公式引退したのは1967年2月でムーア67歳、
そして亡くなったのは1987年3月で87歳。
ちょうど引退から20年後に亡くなったことになる。

一方のF=ディースカウ(1925.5.28-2012.5.18)は公式引退が1992年12月31日で67歳、
そして亡くなったのは2012年5月で86歳。
あと10日後にディースカウ87歳の誕生日を控えていた時の彼の死であった。

引退と死の年齢がほぼ共通しているといっても、「だから?」という程度の話題ではある。
だが、ムーアもディースカウもその演奏によってどれほど私の心を潤してくれたことかと考えると、こんなちょっとした偶然にも意味を感じてしまうのである。
それがファン心理というものなのだろうか。

| | | コメント (4) | トラックバック (0)

ジェラルド・ムーア没後25周年

今日3月13日は、歌曲愛好家にとって馴染みの深いピアニスト、ジェラルド・ムーアが1987年に亡くなってちょうど25年となる。
歌曲の伴奏ピアニストとしての彼についてはあまりにもよく知られているので、今回は珍しい楽器奏者の共演者としての録音をご紹介したいと思う。

その昔"Solo Instruments of the Orchestra(オーケストラのソロ楽器)"というEPレコードのシリーズが、各巻ごとに楽器を変えてHMVからリリースされていたらしい。
例えば第1巻はヴァイオリンのイェフディ・メニューヒン(Yehudi Menuhin)、第2巻はヴィオラのハーバート・ダウンズ(Herbert Downes)、第3巻はチェロのジャクリーン・デュ・プレ(Jacqueline du Pre)が担当しているらしい(これらは私は所有していない)。

そして、その第4巻ではコントラバスのステュアート・ナッセンとトランペットのフィリップ・ジョーンズが登場する。
このEPをあるサイトで入手することが出来た。

---------------

Knussen_jones_moore_ep_3Solo Instruments of the Orchestra No. 4
-The Double Bass & The Trumpet

STUART KNUSSEN, PHILIP JONES with GERALD MOORE
Music by Bozza and Koussevitzky

Koussevitzky / Concerto for double-bass, Op. 3~Mvt. 1
Stuart Knussen(double bass)
Gerald Moore(piano)

Bozza / Caprice
Philip Jones(trumpet)
Gerald Moore(piano)

---------------

クーセヴィツキーのコントラバス協奏曲は、この楽器のレパートリーとして貴重なもののようだが、ここでは第1楽章のみがピアノ伴奏版で演奏されている。
独奏者のステュアート・ナッセンはロンドン交響楽団の首席コントラバス奏者で、指揮者、作曲家として知られるオリヴァー・ナッセンの父親でもある。
ここでのムーアの演奏は、オケの代わりというよりもデュオの相手という感じで、オケの色彩感よりはオリジナルのピアノパートを弾いているような印象を受ける。
地味かもしれないが、やることはしっかりやっているという印象で、テキストの付いていない作品を演奏する時もどことなくリートを弾く時のような柔らかさ、繊細さが感じられるのが面白い。
そこが物足りないという人もいるだろうが。

ボザ作曲のカプリースは、華やかなトランペットに負けず、ピアノパートもなかなかの活躍ぶりである。
楽器同士の火花が散るような燃焼型の演奏ではもちろんなく、トランペットとピアノで1つの音楽に溶け合わせようとしているのがいかにもムーアらしい。
レガートの美しさはさすがである。

歌曲での定評に比べて、器楽曲でのムーアはあまり評価されないきらいがある。
確かにムーア自身の資質の問題もあるのかもしれないが、私は歌曲演奏者としての美質を器楽曲にも適用している(無意識かもしれないが)点に彼の存在意義を感じる。
バリバリ弾くピアニストは沢山いても、真にカンタービレを感じさせるピアニストは圧倒的に少ない。
耳をそばだてて聴く時にはじめて、声高に主張する演奏者からは得ることの出来ない良さを感じることが出来る-それが器楽曲を演奏するジェラルド・ムーアの味わいである。

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

CD DVD J-Pop LP 【ライラックさんの部屋】 おすすめサイト アイヒェンドルフ アンゲーリカ・キルヒシュラーガー アンティ・シーララ アーウィン・ゲイジ アーリーン・オジェー イアン・ボストリッジ イェルク・デームス イタリア歌曲 イモジェン・クーパー イングリート・ヘブラー ウェブログ・ココログ関連 エディタ・グルベロヴァ エディト・マティス エリック・ヴェルバ エリーザベト・シュヴァルツコプフ エリー・アーメリング エルンスト・ヘフリガー オペラ オルガン オーラフ・ベーア カウンターテナー カール・エンゲル ギュンター・ヴァイセンボルン クラーラ・シューマン クリスタ・ルートヴィヒ クリスティアン・ゲアハーアー クリスティーネ・シェーファー クリストフ・プレガルディアン クリスマス グリンカ グリーグ グレアム・ジョンソン ゲアハルト・オピッツ ゲアハルト・ヒュッシュ ゲロルト・フーバー ゲーテ コルネーリウス コンサート コントラルト歌手 シェック シベリウス シュテファン・ゲンツ シューベルト シューマン ショスタコーヴィチ ショパン ジェシー・ノーマン ジェフリー・パーソンズ ジェラルド・ムーア ジェラール・スゼー ジュリアス・ドレイク ジョン・ワストマン ソプラノ歌手 テノール歌手 テレサ・ベルガンサ ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ ディートリヒ・ヘンシェル トマス・ハンプソン トーマス・E.バウアー ドビュッシー ドルトン・ボールドウィン ナタリー・シュトゥッツマン ノーマン・シェトラー ハイドン ハイネ ハルトムート・ヘル ハンス・ホッター バス歌手 バッハ バリトン歌手 バレエ・ダンス バーバラ・ヘンドリックス バーバラ・ボニー パーセル ピアニスト ピーター・ピアーズ ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル フェリシティ・ロット フランク フランク・マルタン フランス歌曲 フリッツ・ヴンダーリヒ ブラームス ブリテン ブログ プフィッツナー ヘルマン・プライ ヘルムート・ドイチュ ベルク ベートーヴェン ペーター・シュライアー ペーター・レーゼル ボドレール マティアス・ゲルネ マルコム・マーティノー マーク・パドモア マーティン・カッツ マーラー メシアン メゾソプラノ歌手 メンデルスゾーン メーリケ モーツァルト ヤナーチェク ヨーハン・ゼン ルチア・ポップ ルドルフ・ヤンセン ルードルフ・ドゥンケル レナード・ホカンソン レルシュタープ レーナウ レーヴェ ロシア歌曲 ロジャー・ヴィニョールズ ロッテ・レーマン ロバート・ホル ローベルト・フランツ ヴァルター・オルベルツ ヴァーグナー ヴェルディ ヴォルフ ヴォルフガング・ホルツマイア ヴォーン・ウィリアムズ 作曲家 作詞家 内藤明美 北欧歌曲 合唱曲 小林道夫 岡原慎也 岡田博美 平島誠也 指揮者 日記・コラム・つぶやき 映画・テレビ 書籍・雑誌 歌曲投稿サイト「詩と音楽」 演奏家 白井光子 目次 研究者・評論家 藤村実穂子 音楽 R.シュトラウス