高木東六逝去

作曲家、高木東六(1904.7.7 - 2006.8.25)が昨日午前0時5分に肺炎で亡くなったそうだ。享年102歳の大往生である。インターネットで検索してみると高木の作った軍歌「空の神兵」を聴けるサイトがいくつかあったが、彼の有名な作品として二葉あき子の歌った「水色のワルツ」(藤浦洸作詞)が挙げられるだろう。以下のサイトでこの曲の試聴が出来るが、山本健二さんというバリトン歌手の方の包み込むような歌声がなんとも染み込んでくる。ほかにも有名な日本の歌が沢山聴けるおすすめサイトである。

こちら

立原道造(1914.7.30 - 1939.3.29)の「優しき歌Ⅱ」という詩集(柴田南雄が歌曲集を作曲したことでも有名)の最後に置かれたソネット(4-4-3-3行)に高木が作曲した「夢見たものは」という歌曲があり、鮫島有美子&ヘルムート・ドイチュ夫妻の素敵な録音がかつて出ていた(日本コロムビア:DENON:COCO-75103:1988年3月28~30日フランクフルト、フェストブルク教会録音)。幸福(しあわせ)や愛を夢見ていると、一羽の小鳥が「それらはここにある」と歌うという内容である。きらびやかな分散和音に乗って、素朴に温かく歌われる親しみやすい作品である。

東京音楽学校を中退して、フランスに留学したという経歴の持ち主で、クラシックから軍歌、流行歌まで、この人の作品は多岐にわたっているようだ。ご冥福をお祈りします。

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岩城宏之の「冬の旅」

指揮者、岩城宏之氏(いわきひろゆき:1932年9月6日-2006年6月12日)の著書を学生時代に図書館で拾い読みしたことがある(書名は失念してしまった)。あけっぴろげな文章が印象的だったように記憶する。彼は数々の病魔と闘いながら、今年も車椅子で舞台に立っていたそうだ。そんな彼の「冬の旅」の録音が残っている。音楽監督を務めるオーケストラ・アンサンブル金沢を振って、ヘルマン・プライ(Hermann Prey)が歌ったものである。このコンビでかつてDGにシューベルトのオーケストラ編曲歌曲集を録音した際、「冬の旅」からの数曲を鈴木行一(すずきゆきかず)が編曲したものをプライが気に入り、全曲の編曲を鈴木が担当することになったそうだ。プライ最晩年の歌であり、前のめりになりがちな彼特有のリズムに動じることもなく、岩城率いるオケの演奏は落ち着いたくすんだような響きでオリジナルのイメージを保ったまま安定した演奏を聴かせている(OEK自主制作:OEK-1001:1997年10月7日、MünchenのPrinzregententheaterでのライヴ録音)。鈴木の編曲はピアノパートで歌の対旋律を響かせる箇所など管楽器を使うことが多いようだが、変に浮き立たず、原曲の響きを裏切ることはない。「おやすみ(Gute Nacht)」のスタッカート気味のぽつぽつした連打は主人公の失意の歩みと同時に変わることなく降りつづける雪までイメージされる。「宿(Das Wirtshaus)」など弦の響きに強く引き込まれる。

ルーマニア生まれのハンガリー人作曲家、ジェルジ・リゲティ(György Sándor Ligeti:1923年5月28日-2006年6月12日)にも歌曲があるそうだ。「梅丘歌曲会館 詩と音楽」で藤井さんが投稿されているのでぜひご覧になってください。

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ヴェーバーの歌曲

歌劇「魔弾の射手」やピアノ曲「舞踏への勧誘」などで知られるカール・マリーア・フォン・ヴェーバー(Carl Maria Friedrich Ernst von Weber:1786.11.18?, Eutin−1826.6.5, London)に歌曲があることを知ってはいたが、これまで特に注目することもないままだった。記憶にあるのは以前ラジオで聴いたオーラフ・ベーアの歌う「道ばたのばらを見た」ぐらいであろうか。シュライアーがギター伴奏で歌ったヴェーバー歌曲集のLPが出ていたような気もするが聴いたことはない。先日ヘルマン・プライのEMIへの歌曲録音を集めた3枚組の中古CDを入手したところ20曲ものヴェーバーの歌曲が含まれていたことから、少し腰を落ち着けてヴェーバー歌曲に目を向けることになった。

(1)Hermann Prey(BR)Leonard Hokanson(P):1977年9月5〜6日、Bürgerbräu, München録音(EMI CLASSICS

時Op.13−5/私の歌Op.15−1/嘆きOp.15−2/何がお前の魅惑の環へ引き入れるのかOp.15−4/道ばたのばらを見たOp.15−5/彼が彼女にOp.15−6/私の色Op.23−1/恋の炎Op.25−1/野に嵐は吹きOp.30−2/歌曲集「恋人を失ったときの気分」Op.46(全4曲)(快活/重苦しく/恋に狂って/平静)/捕らわれた歌手たちOp.47−1/自由な歌手たちOp.47−2/私が小鳥ならばOp.54−6/おいらの恋人はかわいらしいOp.64−1/夕べの恵みOp.64−5/あなたを思うOp.66−3/望みとあきらめOp.66−6

(2)Tuula Nienstedt(A)Heinz Kruse(T)Ian Partridge(T)Max van Egmond(BR)Uwe Wegner(Pianoforte)Jan Goudswaard(Guitar)Edward Witsenburg(Harp):1976年2、3、5月、Doopsgezinde Kerk, Haarlem録音(SONY CLASSICAL

嘆きOp.15−2(van Egmond ; Wegner)/何がお前の魅惑の環へ引き入れるのかOp.15−4(van Egmond ; Wegner)/小さなフリッツが若い友人たちに寄せてOp.15−3(van Egmond ; Wegner)/私の色Op.23−1(van Egmond ; Wegner)/ゾネットOp.23−4(van Egmond ; Wegner)/恋の炎Op.25−1(Kruse ; Goudswaard)/嵐と共に丘を越えてOp.25−2(Kruse ; Goudswaard)/私にまどろみをOp.25−3(Kruse ; Goudswaard)/乞食の歌Op.25−4(Kruse ; Goudswaard)/「3つのカンツォネッタ」〜ああどこへ行ったのOp.29−1(Partridge ; Goudswaard)/「3つのカンツォネッタ」〜快活なニンフOp.29−2(Partridge ; Goudswaard)/Du moins alors je la voyais(ロマンツェ)(van Egmond ; Wegner)/輪舞Op.30−5(van Egmond ; Wegner)/苦しみなのか、喜びなのかOp.30−6(van Egmond ; Wegner)/捕らわれた歌手たちOp.47−1(Kruse ; Wegner)/自由な歌手たちOp.47−2(Kruse ; Wegner)/かつて捕らえられた王が座っていた(ロマンツェ)(Kruse ; Goudswaard)/バラーデOp.47−3(van Egmond ; Witsenburg)/私の憧れOp.47−5(van Egmond ; Wegner)/クオドリベットOp.54−2(Nienstedt ; van Egmond ; Wegner)/老婦たちOp.54−5(van Egmond ; Goudswaard)/私が小鳥ならばOp.54−6(van Egmond ; Wegner)/泣くなOp.54−7(van Egmond ; Wegner)/五月の歌Op.64−2(Kruse ; van Egmond ; Wegner)/ひそやかな恋の痛みOp.64−3(Nienstedt ; Goudswaard)/博識Op.64−4(van Egmond ; Goudswaard)/妖精の歌Op.80−3(van Egmond ; Wegner)/ダンツィに(Kruse ; Goudswaard)

(3)Erna Berger(S)Lea Piltti(S)Elisabeth Schwarzkopf(S)Emmi Leisner(A)Rudolf Bockelmann(BR)Hans Hotter(BR)Hanns-Heinz Nissen(BR)Karl Schmitt-Walter(BR)Michael Raucheisen(P):1942〜1943年録音(DOCUMENTS)

時Op.13−5(Berger)/私の歌Op.15−1(Hotter)/嘆きOp.15−2(Hotter)/小さなフリッツが若い友人たちに寄せてOp.15−3(Bockelmann)/道ばたのばらを見たOp.15−5(Schmitt-Walter)/「3つのカンツォネッタ」〜快活なニンフOp.29−2(Berger)/「3つのカンツォネッタ」〜とてもあなたにはかなわないOp.29−3(Berger)/無邪気Op.30−3(Berger)/苦しみなのか、喜びなのかOp.30−6(Berger)/もしも私の恋人がOp.31−1(Piltti ; Schwarzkopf)/歌曲集「恋人を失ったときの気分」Op.46(全4曲)(快活/重苦しく/恋に狂って/平静)(Nissen)/捕らわれた歌手たちOp.47−1(Berger)/ひそやかな恋の痛みOp.64−3(Leisner)/谷間のすみれOp.66−1(Berger)/あなたを思うOp.66−3(Berger)/クロティルデの歌Op.80−1(Berger)

(4)Dietrich Fischer-Dieskau(BR)Hartmut Höll(P):1991年3月27〜28日、9月11日、Berlin録音(claves)

私の歌Op.15−1/嘆きOp.15−2/小さなフリッツが若い友人たちに寄せてOp.15−3/何がお前の魅惑の環へ引き入れるのかOp.15−4/道ばたのばらを見たOp.15−5/彼が彼女にOp.15−6/私の色Op.23−1/恋の炎Op.25−1/嵐と共に丘を越えてOp.25−2/野に嵐は吹きOp.30−2/愛の歌Op.30−4/輪舞Op.30−5/苦しみなのか、喜びなのかOp.30−6/私の憧れOp.47−5/私が小鳥ならばOp.54−6/おいらの恋人はかわいらしいOp.64−1/遠くからの愛の挨拶Op.64−6/いとしい人、僕の宝物Op.64−8/谷間のすみれOp.66−1/あなたを思うOp.66−3/セレナーデ“お聴き、静かにお聴き、恋人よ”/ロマンツェ“彼女はとても優雅だった”

(5)Peter Schreier(T)Konrad Ragossnig(GT):1988年8月3〜5日、Palais Kinsky, Wien録音(Novalis

「3つのカンツォネッタ」〜ああどこへ行ったのOp.29−1/「3つのカンツォネッタ」〜快活なニンフOp.29−2/「3つのカンツォネッタ」〜とてもあなたにはかなわないOp.29−3/かつて捕らえられた王が座っていた(ロマンツェ)/時Op.13−5/子守歌Op.13−2

ヴェーバーは40年の短い生涯に少なくない数の歌曲を書いたが、三省堂の「クラシック音楽作品名辞典」の旧版には80曲ほどの独唱歌曲が掲載されている。上述の2番目のCD解説書では128曲の歌曲が作られたとあり、さらにF=ディースカウのCD解説書には300曲あまりと記されているが、重唱曲や合唱曲もカウントしているのかもしれない。詩人の名前を見てもあまり著名な人は多くない。ブラームスの「マゲローネのロマンス」の3曲目と同じティークの詩に付けられたOp.30−6や、ベートーヴェン、シューベルトが"Andenken"というタイトルで作曲したマティソンの同じ詩に作曲されたOp.66−3ぐらいだろうか。劇作家コッツェブーの詩による作品や、メンデルスゾーンの歌曲でしばしば名前を目にするJ.H.フォスという詩人による作品がいくつかある。「道ばたのばらを見た」の詩人C.ミュヒラーはヴェーバーの友人とのことだ。それから特徴的なのが非常に民謡への付曲が多いこと。数曲が1つの作品番号のもとにまとまっているが(作曲年代は離れていることも多いが)、普通の詩人による作品と民謡詩への作曲がなんのためらいもなく共存しているのが面白い。プライのCDを聴くとヨーデルを模したメロディーが出てきて(「おいらの恋人はかわいらしいOp.64−1」)、「輪舞」では民族色豊かな踊りのリズムが聴かれる。(2)のCDは歌曲のCDと室内楽のCDの2枚組だが、室内楽編には「10曲のスコットランド民謡集」が含まれている。フルート、ヴァイオリン、チェロ、ピアノの組み合わせだが、これはハイドン、ベートーヴェンなどでもお馴染みの民謡編曲で、ヴェーバーの専門家ならばこの中にヴェーバーの痕跡を見出すことが出来るのかもしれないが、私は純粋なスコットランド民謡として聴くことしか出来なかった(もちろん美しく魅力的な作品たちである)。歌は概して素直で素朴で知人たちの前で歌うサロン風な作風に思える。ピアノはいわゆる「伴奏」に徹していると言えるかもしれないが、凡庸に陥らないのはさすがである。時に単純な伴奏音型が強く訴えかけてくるほどである。ヴェーバーの歌曲で最も他の作曲家のものと異なるのがギター伴奏の歌曲がきわめて多いことである。シューベルトの歌曲などもピアノパートをギターに編曲して出版した例があるが、ヴェーバーの場合はオリジナルがギター伴奏のものが多いのが特徴的である。ぽつぽつとつまびかれるギターの響きが内輪向けのこれらの歌にどれほどマッチしているかは一聴すればすぐに感じられるだろう。歌曲集「恋人を失ったときの気分」Op.46という4曲からなる歌曲集が上述の(1)(3)で聴けるが、なかなか面白い。「時」「私の歌」「嘆き」「道ばたのばらを見た」「恋の炎」「あなたを思う」などがよく歌われる曲のようだ。

●主な曲の大意(曲名の後の括弧内は詩人名)

・時Op.13−5(J. L. Stoll):白い服をまとった「時」が墓の上に座り、数千年もの間歌い、泣き、微笑みながら時を編み続けてきたのだ。

・私の歌Op.15−1(W. von Löwenstein-Wertheim):わが歌、わが詩歌は一瞬に捧げられ、響きは時とともに消え去る。感じる心が生み出す歌の音色が人の心に伝わることこそ歌の使命なのだ。死の天使が私を墓に手招きしても、歌は永遠に響き続けよ。

・嘆きOp.15−2(C. Müchler):われらの人生は絶えざる闘いである。人生の価値は感じることにある。幸せの感覚は夢の姿であり、宙に漂うものだ。目標に到達しても、われらに誠意を見せるものは苦しみ以外の何もない。

・道ばたのばらを見たOp.15−5(C. Müchler):私は道ばたに咲いたばらを見た。あたりまでかぐわしい美しいばらを折ろうとして刺されてしまった。娘たちよ、君たちはこのばらみたいだ。美しさで私たちをそそりながら、つれない態度で私たちを苦しめるのだから。だが、その美しかったばらも日が暮れる前に日の光によって色あせてしまった。この教訓は難しくないから、私はこれ以上何も言わない。

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伊福部昭逝去

作曲家、伊福部昭(1914年5月31日生まれ)が2月8日に多臓器不全のため91歳で亡くなったそうだ。「ゴジラ」や「大魔神」の映画音楽などで著名な人だが、歌曲も作っている。「梅丘歌曲会館」ではもちろんFUJIIさんが1曲とりあげておられるが、民族固有の言葉を使い、楽器もピアノに限らずティンパニとの組み合わせなどというものまである。この機会に、日本歌曲のF=ディースカウとでも言いたくなるほど硬軟とりまぜて網羅的な仕事ぶりを見せるソプラノ、藍川由美の「伊福部昭・全歌曲」を取り寄せて聴いてみようと思う。この収録曲ですべてかどうかは分からないが、主要曲は網羅しているのだろう。ご冥福をお祈りいたします。

1)ギリヤーク族の古き吟誦歌(アイ アイ ゴムテイラ/苔桃の果拾ふ女の歌/彼方(あなた)の河び/熊祭に行く人を送る歌)(伊福部昭:詩)(1946)[独唱/ピアノ]

2)サハリン島先住民の三つの揺籃歌(ブールー ブールー/ブップン ルー/ウムプリ ヤーヤー)(伝承詩)(1949)[独唱/ピアノ]

3)アイヌの叙事詩に依る対話体牧歌(或る古老の唄った歌/北の海に死ぬ鳥の歌/阿姑子(あこし)と山姥(やまんば)の踊り歌)(伝承詩、知里真志保:訳)(1956)[独唱/ティンパニ]

4)摩周湖(ハープ版)(更科源蔵:詩)(1992)[独唱/ヴィオラ/ハープ]

5)シレトコ半島の漁夫の歌(更科源蔵:詩)(1960)[独唱(バス)/ピアノ]

6)頌詩「オホーツクの海」(更科源蔵:詩)(1958/1988)[独唱/ファゴット/コントラバス/ピアノ]

7)摩周湖(ピアノ版)(更科源蔵:詩)(1992)[独唱/ヴィオラ/ピアノ]

8)因幡万葉の歌五首(あらたしき/はるののに/はるのその/さよふけて/わがせこが)(大伴家持(1-4)、大伴坂上郎女(5):詩)(1994)[独唱/アルトフルート/二十五絃筝]

9)蒼鷺(更科源蔵:詩)(2000)[独唱/オーボエ/ピアノ/コントラバス]

10)聖なる泉(伊福部昭:詩)(1964/2000)[独唱/ヴィオラ/ファゴット/ハープ]

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