岡村喬生さん逝去

名バス歌手岡村喬生(Takao Okamura: 1931.10.25-2021.1.6)さんが、慢性腎不全のため東京都内の病院で亡くなったそうです。
89歳でした。

毎年のように「冬の旅」をピアニストを変えてコンサートで演奏し続けた歌手として記憶に残っています。
私は一度だけ彼の実演を聴くことが出来ましたが、その演目も「冬の旅」でした。
手帳やパンフレットを探せばどこかにその時の情報があると思うのですが、誰がピアニストだったか記憶が定かではありません(デームスだったかなぁ)。
うっすら覚えているのは、岡村さんは歌うというよりも語るような表現をしていたことです。
歌い続けることで「冬の旅」の核心に迫ろうという姿勢は素晴らしかったと思います。

彼はテレビ出演をしたり、ミュージカル(「ピーター・パン」等)に出演する一方、「ヒゲのおたまじゃくし」として執筆活動もしており、様々な著書を図書館でよく見かけてはちらっと斜め読みしたりしたものでした。
確か水難事故で亡くなった指揮者のケルテスの最後の瞬間にも岡村さんは立ち会っていて、同じくこの時に海水浴を楽しんでいた仲間にルチア・ポップがいたと書かれていた記憶があります。

岡村さんの東京文化会館の出演記録はこちらで見ることが出来ます。
https://i.t-bunka.jp/search/result?q=%E5%B2%A1%E6%9D%91%E5%96%AC%E7%94%9F

最初の出演は1963年1月25日(金)のリサイタルだったそうです。
東京文化会館小ホールの最後の出演は2017年5月6日(土)の渡辺康雄との「冬の旅」でした。生涯現役だったと言えるのではないでしょうか。

合掌

●東京文化会館で共演したピアニストたち
三石精一
森安耀子
三宅榛名
小林道夫
霧生トシ子
江戸京子
高橋悠治
林光
藤井一興
渡辺康雄
岩崎淑
デイヴィッド・スタイン(David Stein)
野平一郎
岡原慎也
伊藤康英
ポール・七子
イェルク・デームス(Jörg Demus)
みどり・オルトナー

●クラシック・ニュース 岡村喬生 永遠の「冬の旅」を歌って!

2013/3/18公開

| | | コメント (2)

パーペ&ラディケ/リサイタル(2011年2月19日 トッパンホール)

ルネ・パーペ(バス)
2011年2月19日(土)17:00 トッパンホール(B列5番)

ルネ・パーペ(René Pape)(bass)
カミロ・ラディケ(Camillo Radicke)(piano)

シューベルト(Schubert)
音楽に寄す(An die Musik) Op.88-4 D547
笑いと涙(Lachen und Weinen) Op.59-4 D777
夕映えの中で(Im Abendrot) D799
野ばら(Heidenröslein) D257
ミューズの子(Der Musensohn) Op.92-1 D764

シューマン(Schumann)
詩人の恋(Dichterliebe) Op.48

~休憩~

ヴォルフ(Wolf)
ミケランジェロの3つの詩(3 Gedichte von Michelangelo)
 わたしはしばしば思う
 この世に生を享けたものはすべて滅びる
 わたしの魂は感じえようか?

ムソルグスキー(Мусоргский)
死の歌と踊り(Песни и пляски смерти)
 子守歌
 セレナード
 トレパック
 司令官

~アンコール~
R.シュトラウス(Strauss)/献呈(Zueignung) Op.10-1
シューマン(Schumann)/子供のおもり(Kinderwacht) Op.79-21

-------------------

バス歌手のルネ・パーペとピアニスト、カミロ・ラディケによる歌曲の夕べを聴いた。
パーペは言うまでもなく世界中のオペラハウスで引く手あまたの人気者だが、今回のようなオーソドックスともいえる歌曲のリサイタルを開くというイメージがなかったので、どんな歌を聞かせてくれるのか期待して出かけた。
そして、聴き終えてみて、彼がオペラだけでなく、歌曲の分野でも疑いなく秀でた歌手であることを確信できたのだった。

前半がシューベルトの歌曲5曲と「詩人の恋」で1時間弱。
休憩をはさんで、まさにバス歌手にうってつけのヴォルフ「ミケランジェロ歌曲集」とムソルクスキーの「死の歌と踊り」。
シューベルトでは事前に予定されていた「プロメテウス」がプログラムから省かれていたのは残念だったが、演奏時間が長くなりすぎることを考慮した判断なのだろう。

パーペの声はどことなくハンス・ホッターを思わせる。
深々としてはいるのだが重くなく、声に聴き手を包み込むような包容力がある。
そしてオペラ歌手らしくちょっとした身振りや表情でも聴衆へのコミュニケーションの手段として有効に使っていた(ただし笑う表情に関してはほとんど見られなかったが)。
器用な巧みさはなく直球勝負ではあるが、それが単調に陥らない。
音程はしっかりしているし、歌声は高声歌手に劣らず引き締まっている。
バス歌手の歌から我々が期待する深みのある声の魅力と、歌曲の聴き手が期待する各作品の魅力を引き出す音楽性をパーペは両立していたように感じた。
彼が声を張ると朗々と響き渡り、多くの聴衆を痺れさせていたにちがいない。
しかしその大きな響きが決してやかましい感じにならないのは素晴らしい。
その一方、弱声で聴き手を酔わすにはもう少し熟成が必要かもしれないという印象は受けた。
一見アジア系の顔立ちだがドイツ人とのこと、そのドイツ語のディクションは実に美しい。
ロシア語に関してはディクションがどうこうということは私には分からないのだが、ムソルクスキーの「死の歌と踊り」のおどろおどろしさを時に猫なで声で、時にドラマティックに表現していて魅力的だった。
シューベルトの真摯な歌唱も、シューマンの直球の歌唱も魅力的だったが、ヴォルフの「ミケランジェロ歌曲集」とムソルクスキーの「死の歌と踊り」がとりわけ彼の声に合っていたこともあり心に響いてきた。

ピアノのカミロ・ラディケはシュライアーの「冬の旅」で聴いて以来久しぶりの実演だが、やはり今回も飛び抜けた感性の豊かさを感じた。
ちょっとした音色の変化やテンポの緩急、あるいは強弱の加減が非常に細やかで、しかも極端に走らない自然さを保っていた。
彼の弾くどの部分にも「歌」があふれていて、ただただ素晴らしいの一言。
パーペと同郷(ドレスデン)とのことだが、パーペの包み込むようなモノクロームの声質にちょうど良い色合いを添えていて、まさに一心同体となっていた。

Pape_20110219_chirashi

会場は満席で、熱心なファンたちでヒートアップしていた。
今後は歌曲においてもますますの活躍を期待したい。

| | | コメント (2) | トラックバック (0)

クリストフのロシア歌曲集

相互リンクをさせていただいている「梅丘歌曲会館」で目下FUJIIさんがロシア歌曲の特集をされていますが、まとめてロシア歌曲を聴きたい時のアンソロジーとしてボリス・クリストフ(Boris Christoff:Борис Христов:1914.5.18−1993.6.23)のCDがちょうどいいのではないでしょうか(EMI CLASSICS:CZS 7 67496 2)。クロストフは最近話題の力士と同様ブルガリア出身のバス歌手で、グリンカ、ボロディン、キュイ、バラキレフ、リムスキー=コルサコフ、チャイコフスキー、ラフマニノフ、それにロシア民謡を歌っています(ロシア歌曲の大御所ムソルクスキーが収録されていませんが、クリストフはムソルクスキー歌曲全集を別に録音していて、「子供部屋」などファルセットを駆使して見事に聴かせてくれます)。ヒュッシュやF=ディースカウがドイツ歌曲で、あるいはベルナックやスゼーがフランス歌曲で成し遂げたことをロシア歌曲で行ったのがクリストフと言えるかもしれません。どの曲も充分な味わいとばらつきのない完成度を誇り、バス歌手なのに重すぎず、安心して作品を楽しむことが出来ます。このロシア歌曲集に収録されている曲は各作曲家の代表作がほぼ網羅されているのではないかと思いますが(ボロディンはほとんど全曲収録されています)、例えばグリンカの「子守歌」ではピアノのほかにチェロの助奏が加わることにより、死に誘うかのような響きが強まり、聴き物です。同じく有名な「疑い」でもチェロの甘美な響きがクリストフの悲痛な表情を強調しています。

数曲のオケ共演のほかは数人のピアニストが共演していますが、クリストフの良き共演者で素晴らしい演奏を聴かせているアレクサンドル・ラビンスキー(Aleksandr Labinsky:Александр Лабинский:1894−1963)のほかに、ボロディンやバラキレフの歌曲を作曲家でピアニストでもあったチェレプニン(Aleksandr Tcherepnin:Александр Черепнин:1899.1.20−1977.9.29)が弾いているのも興味深いところです。

曲目リストはこちらを御覧ください。

このCDは残念ながらすでに製造中止になっているようで、amazonでもイギリスのamazonに中古が売られているぐらいなので、図書館か中古店を探すしかないと思いますが、文京区の図書館に国内LP(バラ)が所蔵されているようなので興味のある方は館外貸出しを利用されるのもいいかもしれません。

amazon.co.uk(イギリスのサイト)でいくつか試聴も出来ます。

| | | コメント (2) | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

CD DVD J-Pop LP 【ライラックさんの部屋】 おすすめサイト アイヒェンドルフ Joseph von Eichendorff アリベルト・ライマン Aribert Reimann アルフレート・ブレンデル Alfred Brendel アンゲーリカ・キルヒシュラーガー Angelika Kirchschlager アンティ・シーララ Antti Siirala アーウィン・ゲイジ Irwin Gage アーリーン・オジェー Arleen Augér イアン・ボストリッジ Ian Bostridge イェルク・デームス Jörg Demus イタリア歌曲 italian songs イモジェン・クーパー Imogen Cooper イングリート・ヘブラー Ingrid Haebler ウェブログ・ココログ関連 エディタ・グルベロヴァEdita Gruberová エディト・マティス Edith Mathis エリック・ヴェルバ Erik Werba エリーザベト・シュヴァルツコプフ Elisabeth Schwarzkopf エリー・アーメリング Elly Ameling エルンスト・ヘフリガー Ernst Haefliger オペラ opera オルガン organ オーラフ・ベーア Olaf Bär カウンターテナー counter tenor カール・エンゲル Karl Engel ギター guitar ギュンター・ヴァイセンボルン Günther Weissenborn クラーラ・シューマン Clara Schumann クリスタ・ルートヴィヒ Christa Ludwig クリスティアン・ゲアハーアー Christian Gerhaher クリスティーネ・シェーファー Christine Schäfer クリストフ・エッシェンバッハ Christoph Eschenbach クリストフ・プレガルディアン Christoph Prégardien クリスマス Christmas; Weihnachten グリンカ Mikhail Glinka グリーグ Edvard Grieg グレアム・ジョンソン Graham Johnson ゲアハルト・オピッツ Gerhard Oppitz ゲアハルト・ヒュッシュGerhard Hüsch ゲロルト・フーバー Gerold Huber ゲーテ Johann Wolfgang von Goethe コルネーリウス Peter Cornelius コンサート concert コンスタンティン・クリンメル Konstantin Krimmel コントラルト歌手 contralto コンラート・リヒター Konrad Richter シェック Othmar Schoeck シベリウス Jean Sibelius シュテファン・ゲンツ Stephan Genz シューベルト Franz Schubert シューマン Robert Schumann ショスタコーヴィチ Dmitri Shostakovich ショパン Frédéric Chopin シラー Friedrich von Schiller ジェシー・ノーマン Jessye Norman ジェフリー・パーソンズ Geoffrey Parsons ジェラルド・ムーア Gerald Moore ジェラール・スゼー Gérard Souzay ジュリアス・ドレイク Julius Drake ジョン・ワストマン John Wustman ジークフロート・ローレンツ Siegfried Lorenz スヴャトスラフ・リヒテル Sviatoslav Richter ソプラノ歌手 soprano ダニエル・ハイデ Daniel Heide テノール歌手 tenor テレサ・ベルガンサ Teresa Berganza ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ Dietrich Fischer-Dieskau ディートリヒ・ヘンシェル Dietrich Henschel トマス・ハンプソン Thomas Hampson トム・ヤンセン Thom Janssen トーマス・E. バウアー Thomas E. Bauer ドビュッシー Claude Debussy ドルトン・ボールドウィン Dalton Baldwin ナタリー・シュトゥッツマン Nathalie Stutzmann ニコライ・ゲッダ Nicolai Gedda ノーマン・シェトラー Norman Shetler ハイドン Joseph Haydn ハイネ Heinrich Heine ハルトムート・ヘル Hartmut Höll ハンス・ホッター Hans Hotter バス歌手 bass バッハ Johann Sebastian Bach バリトン歌手 baritone バレエ・ダンス バーバラ・ヘンドリックス Barbara Hendricks バーバラ・ボニー Barbara Bonney パーセル Henry Purcell ピアニスト pianist ピーター・ピアーズ Peter Pears ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル Fanny Mendelssohn-Hensel フェリシティ・ロット Felicity Lott フォレ Gabriel Fauré フランク César Franck フランク・マルタン Frank Martin フランスィスコ・アライサ Francisco Araiza フランス歌曲 mélodies フリッツ・ヴンダーリヒ Fritz Wunderlich ブラームス Johannes Brahms ブリテン Benjamin Britten ブルックナー Anton Bruckner ブログ blog プフィッツナー Hans Pfitzner ヘルマン・プライ Hermann Prey ヘルムート・ドイチュ Helmut Deutsch ベルク Alban Berg ベートーヴェン Ludwig van Beethoven ペーター・シュライアー Peter Schreier ペーター・レーゼル Peter Rösel ボドレール Charles Baudelaire マイアホーファー Johann Mayrhofer マティアス・ゲルネ Matthias Goerne マルコム・マーティノー Malcolm Martineau マーク・パドモア Mark Padmore マーティン・カッツ Martin Katz マーラー Gustav Mahler メシアン Olivier Messiaen メゾソプラノ歌手 mezzo soprano メンデルスゾーン Felix Mendelssohn Bartholdy メーリケ Eduard Mörike モーツァルト Wolfgang Amadeus Mozart ヤナーチェク Leoš Janáček ヨーハン・ゼン Johann Senn ラヴェル Maurice Ravel リヒャルト・シュトラウス Richard Strauss リュッケルト Friedrich Rückert リリ・ブランジェ Lili Boulanger ルチア・ポップ Lucia Popp ルドルフ・ヤンセン Rudolf Jansen ルードルフ・ドゥンケル Rudolf Dunckel レナード・ホカンソン Leonard Hokanson レネケ・ラウテン Lenneke Ruiten レルシュタープ Ludwig Rellstab レーナウ Nikolaus Lenau レーヴェ Carl Loewe ロシア歌曲 Russian songs ロジャー・ヴィニョールズ Roger Vignoles ロッテ・レーマン Lotte Lehmann ロバート・ホル Robert Holl ローベルト・フランツ Robert Franz ヴァルター・オルベルツ Walter Olbertz ヴァーグナー Richar Wagner ヴィルヘルム・ミュラー Wilhelm Müller ヴェルディGiuseppe Verdi ヴォルフ Hugo Wolf ヴォルフガング・サヴァリッシュ Wolfgang Sawallisch ヴォルフガング・ホルツマイア Wolfgang Holzmair ヴォーン・ウィリアムズ Ralph Vaughan Williams 作曲家 作詞家 内藤明美 北欧歌曲 合唱曲 小林道夫 岡原慎也 岡田博美 平島誠也 指揮者 日記・コラム・つぶやき 映画・テレビ 書籍・雑誌 歌曲投稿サイト「詩と音楽」 演奏家 白井光子 目次 研究者・評論家 藤村実穂子 音楽