パーペ&ラディケ/リサイタル(2011年2月19日 トッパンホール)

ルネ・パーペ(バス)
2011年2月19日(土)17:00 トッパンホール(B列5番)

ルネ・パーペ(René Pape)(bass)
カミロ・ラディケ(Camillo Radicke)(piano)

シューベルト(Schubert)
音楽に寄す(An die Musik) Op.88-4 D547
笑いと涙(Lachen und Weinen) Op.59-4 D777
夕映えの中で(Im Abendrot) D799
野ばら(Heidenröslein) D257
ミューズの子(Der Musensohn) Op.92-1 D764

シューマン(Schumann)
詩人の恋(Dichterliebe) Op.48

~休憩~

ヴォルフ(Wolf)
ミケランジェロの3つの詩(3 Gedichte von Michelangelo)
 わたしはしばしば思う
 この世に生を享けたものはすべて滅びる
 わたしの魂は感じえようか?

ムソルグスキー(Мусоргский)
死の歌と踊り(Песни и пляски смерти)
 子守歌
 セレナード
 トレパック
 司令官

~アンコール~
R.シュトラウス(Strauss)/献呈(Zueignung) Op.10-1
シューマン(Schumann)/子供のおもり(Kinderwacht) Op.79-21

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バス歌手のルネ・パーペとピアニスト、カミロ・ラディケによる歌曲の夕べを聴いた。
パーペは言うまでもなく世界中のオペラハウスで引く手あまたの人気者だが、今回のようなオーソドックスともいえる歌曲のリサイタルを開くというイメージがなかったので、どんな歌を聞かせてくれるのか期待して出かけた。
そして、聴き終えてみて、彼がオペラだけでなく、歌曲の分野でも疑いなく秀でた歌手であることを確信できたのだった。

前半がシューベルトの歌曲5曲と「詩人の恋」で1時間弱。
休憩をはさんで、まさにバス歌手にうってつけのヴォルフ「ミケランジェロ歌曲集」とムソルクスキーの「死の歌と踊り」。
シューベルトでは事前に予定されていた「プロメテウス」がプログラムから省かれていたのは残念だったが、演奏時間が長くなりすぎることを考慮した判断なのだろう。

パーペの声はどことなくハンス・ホッターを思わせる。
深々としてはいるのだが重くなく、声に聴き手を包み込むような包容力がある。
そしてオペラ歌手らしくちょっとした身振りや表情でも聴衆へのコミュニケーションの手段として有効に使っていた(ただし笑う表情に関してはほとんど見られなかったが)。
器用な巧みさはなく直球勝負ではあるが、それが単調に陥らない。
音程はしっかりしているし、歌声は高声歌手に劣らず引き締まっている。
バス歌手の歌から我々が期待する深みのある声の魅力と、歌曲の聴き手が期待する各作品の魅力を引き出す音楽性をパーペは両立していたように感じた。
彼が声を張ると朗々と響き渡り、多くの聴衆を痺れさせていたにちがいない。
しかしその大きな響きが決してやかましい感じにならないのは素晴らしい。
その一方、弱声で聴き手を酔わすにはもう少し熟成が必要かもしれないという印象は受けた。
一見アジア系の顔立ちだがドイツ人とのこと、そのドイツ語のディクションは実に美しい。
ロシア語に関してはディクションがどうこうということは私には分からないのだが、ムソルクスキーの「死の歌と踊り」のおどろおどろしさを時に猫なで声で、時にドラマティックに表現していて魅力的だった。
シューベルトの真摯な歌唱も、シューマンの直球の歌唱も魅力的だったが、ヴォルフの「ミケランジェロ歌曲集」とムソルクスキーの「死の歌と踊り」がとりわけ彼の声に合っていたこともあり心に響いてきた。

ピアノのカミロ・ラディケはシュライアーの「冬の旅」で聴いて以来久しぶりの実演だが、やはり今回も飛び抜けた感性の豊かさを感じた。
ちょっとした音色の変化やテンポの緩急、あるいは強弱の加減が非常に細やかで、しかも極端に走らない自然さを保っていた。
彼の弾くどの部分にも「歌」があふれていて、ただただ素晴らしいの一言。
パーペと同郷(ドレスデン)とのことだが、パーペの包み込むようなモノクロームの声質にちょうど良い色合いを添えていて、まさに一心同体となっていた。

Pape_20110219_chirashi

会場は満席で、熱心なファンたちでヒートアップしていた。
今後は歌曲においてもますますの活躍を期待したい。

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クリストフのロシア歌曲集

相互リンクをさせていただいている「梅丘歌曲会館」で目下FUJIIさんがロシア歌曲の特集をされていますが、まとめてロシア歌曲を聴きたい時のアンソロジーとしてボリス・クリストフ(Boris Christoff:Борис Христов:1914.5.18−1993.6.23)のCDがちょうどいいのではないでしょうか(EMI CLASSICS:CZS 7 67496 2)。クロストフは最近話題の力士と同様ブルガリア出身のバス歌手で、グリンカ、ボロディン、キュイ、バラキレフ、リムスキー=コルサコフ、チャイコフスキー、ラフマニノフ、それにロシア民謡を歌っています(ロシア歌曲の大御所ムソルクスキーが収録されていませんが、クリストフはムソルクスキー歌曲全集を別に録音していて、「子供部屋」などファルセットを駆使して見事に聴かせてくれます)。ヒュッシュやF=ディースカウがドイツ歌曲で、あるいはベルナックやスゼーがフランス歌曲で成し遂げたことをロシア歌曲で行ったのがクリストフと言えるかもしれません。どの曲も充分な味わいとばらつきのない完成度を誇り、バス歌手なのに重すぎず、安心して作品を楽しむことが出来ます。このロシア歌曲集に収録されている曲は各作曲家の代表作がほぼ網羅されているのではないかと思いますが(ボロディンはほとんど全曲収録されています)、例えばグリンカの「子守歌」ではピアノのほかにチェロの助奏が加わることにより、死に誘うかのような響きが強まり、聴き物です。同じく有名な「疑い」でもチェロの甘美な響きがクリストフの悲痛な表情を強調しています。

数曲のオケ共演のほかは数人のピアニストが共演していますが、クリストフの良き共演者で素晴らしい演奏を聴かせているアレクサンドル・ラビンスキー(Aleksandr Labinsky:Александр Лабинский:1894−1963)のほかに、ボロディンやバラキレフの歌曲を作曲家でピアニストでもあったチェレプニン(Aleksandr Tcherepnin:Александр Черепнин:1899.1.20−1977.9.29)が弾いているのも興味深いところです。

曲目リストはこちらを御覧ください。

このCDは残念ながらすでに製造中止になっているようで、amazonでもイギリスのamazonに中古が売られているぐらいなので、図書館か中古店を探すしかないと思いますが、文京区の図書館に国内LP(バラ)が所蔵されているようなので興味のある方は館外貸出しを利用されるのもいいかもしれません。

amazon.co.uk(イギリスのサイト)でいくつか試聴も出来ます。

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