F=ディースカウ&ヴェルバ(Fischer-Dieskau & Werba)のヴォルフ映像!(1958年6月16日ブリュッセル)

DFD Wolf Bruxelles 1959(←1958年が正しいと思われます)

名バリトンのディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)の若かりし頃の映像を見つけました!
ソプラノのイルムガルト・ゼーフリート(Irmgard Seefried)とピアニストのエリク・ヴェルバ(Erik Werba)との共演でヴォルフ(Hugo Wolf)の「イタリア歌曲集(Italienisches Liederbuch)」演奏会からの映像のようです。
F=ディースカウとヴェルバが演奏しているのは「この世界の生みの親に祝福あれ(Gesegnet sei, durch den die Welt entstund)」です。

こちらの動画をアップして下さった方のコメントでは16.06.1959と書かれてあるのですが、
F=ディースカウの演奏記録をまとめたMonika Wolf氏のサイトを見ると、1958年が正しいようです。

いずれにしても、この演奏が客席の雰囲気も含めて映像で見られるのは貴重で、リートファンにとっては宝物を見つけた気分です!

33歳の最も声が美しく、脂ののっていた頃のF=ディースカウの歌唱が楽しめます!

短いですが、ぜひご覧ください。

| | コメント (0)

ヴォルフ/「あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの(Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen)」を聴く

Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen
 あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの

Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen,
In der Maremmenebne einen andern,
Einen im schönen Hafen von Ancona,
Zum Vierten muß ich nach Viterbo wandern;
Ein andrer wohnt in Casentino dort,
Der nächste lebt mit mir am selben Ort,
Und wieder einen hab' ich in Magione,
Vier in La Fratta,zehn in Castiglione.
 あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの、
 マレンマの平野にも一人いるし、
 アンコーナの素敵な港にだって一人いるわ、
 四人目はヴィテルボまで行かなきゃなんないけどね。
 カセンティーノの方にはさらに一人いて、
 もう一人はあたしと同じ町にいるのよ。
 それでもって、マジョーネにもう一人いて、
 ラ・フラッタには四人、カスティリオーネには十人もいるんだから。

詩:Paul Heyse (1830-1914)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

-----------------

ヴォルフの46曲からなるパウル・ハイゼのテキストによる「イタリア歌曲集(Italienisches Liederbuch)」の最後の曲を取り上げたいと思います。
この歌曲集は男女の恋の駆け引きが1、2分、長くても4分ぐらいの短い歌の連なりで出来ています。
ヴォルフ自身の曲順で歌ってももちろん効果的ですが、演奏家自身でよりドラマティックな配列に直して歌うこともあります。
演奏家による順序の並べ替えを最初に提唱したのはおそらくオーストリアの歌曲ピアニストで教育者、批評家でもあったエリク・ヴェルバでしょう。
ヴェルバはヴォルフの伝記も著し、日本語訳も出版されているので、ヴォルフでの愛着ぶりがうかがえます。

さて、この「あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの」ですが、実は以前に藤井さん、甲斐さんが管理されていた「詩と音楽」(現在は藤井さんのみの管理)に「イタリア歌曲集」全曲について投稿したことがあり、この曲についても書かせていただいたので、そちらのリンクを貼っておきます。
よろしければご覧ください。

 こちら

私にはあちらこちらの町に恋人がいるからあなたなんか眼中にないのよと、目の前の彼氏を嫉妬させて喜ぶ女性の姿が目に浮かぶようです。
よくドン・ジョヴァンニの「カタログの歌」にたとえられますが、こちらの女性は自慢することよりも、彼氏を嫉妬させて、自分に振り向かせようという策略に感じられます。

歌手は早口で、畳みかけるように歌います。
ピアノのリズムに歌が入ることの難しさをジェラルド・ムーアは「ちょうどなわをとぶ女の子の顔に見受けられたような、迷い、躊躇、決意、当惑のいろいろな表情をよく発見する」(『歌手と伴奏者』(大島正泰訳、音楽之友社、1960年))と言っています。
実際、一流の歌手たちの録音を聴いていても、必ずしもヴォルフのリズム通りに歌っているとは限らず、本来の拍より前後していることが少なからず聞かれます。

ところで、この曲にはピアニストの腕の見せ所である華麗で技巧的なピアノ後奏が付けられています。
ムーアは前述の著書の中で「ソロモンやホロヴィッツでさえ、一生懸命練習しなくてはできないような、まるで巨匠のために書かれたようなパッセージである」と、その難しさを強調しています。
私の見た感じでは左手はほぼ同じ和音をおさえるだけなので、急速なパッセージはほぼ右手に偏っていて、ホロヴィッツなら難なく弾けそうに思いますが、演奏効果があることは確かです。
普段伴奏者は歌手の影に隠れて...という印象を持たれていた時代は、歌手にとってこのパッセージが邪魔だったらしく、ムーアも、この後奏を弾かずに、簡単な和音で終わらせてほしいと女声歌手に言われたことがあったそうです(もちろん実行しなかったそうですが)。

また、この曲は歌が終わった後で、待ちきれない聴衆が長いピアノ後奏を拍手でかき消してしまうことが多かったようで、ムーアが皮肉っぽく「三、四人の赤ん坊がブリキの太鼓を叩いてわめきながら母親を求めているところで練習したらよいと思う。...伴奏者を頑固にするには役立つかもしれない」と前述の著書に書いています。
その例を最初に映像で見てみたいと思います。

●エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Geoffrey Parsons(P)

1977年アムステルダム映像。ムーアが著書で言っていたことはこういうことかと分かる貴重な映像です。パーソンズが後奏を弾き始めると、すぐに大きな拍手が沸き起こり、シュヴァルツコプフがまだパーソンズが弾いている途中にもう終わったと勘違いするほど拍手にかき消されています。それでも高い技術で見事に最後まで演奏するパーソンズはやはり素晴らしいピアニストです。

それでは、1分に満たない短い作品ですが、華やかで演奏効果抜群のこの曲を聴き比べてみたいと思います。

●ドーン・アップショー(S) & ヘルムート・ドイチュ(P)
Dawn Upshaw(S) & Helmut Deutsch(P)

アップショーは美声で完璧に歌い、ドイチュは輝かしい後奏を聞かせ、最後の小節に向けて速度を速めるなど、高い技巧で聞き手を興奮させてくれます。

●エディト・マティス(S) & カール・エンゲル(P)
Edith Mathis(S) & Karl Engel(P)

マティスは硬質な美声を生かして、オペラの一場面のような表情の豊かさを聞かせます。エンゲルの最後の締めの和音をあえて軽めにすることでコミカルな味わいを出すことに成功しています。

●ジェラルディン・マクグリーヴィー(S) & ショルト・カイノク(P)
Geraldine McGreevy(S) & Sholto Kynoch(P)

英国系の演奏。マクグリーヴィーは楽譜通りに見事に歌っており、カイノクも完璧な演奏です。

●イルムガルト・ゼーフリート(S) & エリク・ヴェルバ(P)
Irmgard Seefried(S) & Erik Werba(P)

ゼーフリートはリズムも言葉さばきも見事です。ヴェルバは後奏で若干あやしい所もありますが、うまく辻褄を合わせて貫禄を見せています。

●エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェラルド・ムーア(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Gerald Moore(P)

シュヴァルツコプフはさすがの貫禄で見事な歌唱です。ムーアはこの曲の録音に関してはミスタッチが聞かれることがあるのですが、この時の後奏は調子が良かったようです。ただ、最後の三連符で畳みかける箇所はもっとキレが欲しいところです。

●エリー・アーメリング(S) & アーウィン・ゲイジ(P)
Elly Ameling(S) & Irwin Gage(P)

アーメリングは、wohnen(1行目), andern(2行目)の音価を旧盤(ボールドウィン共演のPHILIPS盤)同様に楽譜よりも長く伸ばしているので、あえてそうしているのかもしれません。ゲイジはペダルをたっぷり使って色合いのある後奏を聞かせています。

●ベニタ・ヴァレンテ(S) & リチャード・グッド(P)
Benita Valente(S) & Richard Goode(P)

ヴァレンテもアーメリングと同じ箇所で音価を伸ばしています。グッドは高い技術を思い切り見せつけて見事な後奏でした。

●ディアナ・ダムラウ(S) & ヘルムート・ドイチュ(P)
Diana Damrau(S) & Helmut Deutsch(P)

ライヴならではの熱気が感じられます。ダムラウは、wohnen(1行目)は楽譜通りですが、andern(2行目)は音価を伸ばしています。ライヴならではのハプニングかもしれません。ドイチュはアップショーとのスタジオ録音に比べると、安定を求めたのか、落ち着いた出来になっています。

●レジーヌ・クレスパン(S) & ジョン・ワストマン(P)
Régine Crespin(S) & John Wustman(P)

クレスパンもダムラウ同様wohnen(1行目)は楽譜通りですが、andern(2行目)は音価を伸ばしています。ワストマンはアメリカ人らしいスマートな表現とスピーディーな後奏が見事でした。

| | コメント (2)

ヴォルフ/受難週(Karwoche)

Karwoche
 受難週

O Woche, Zeugin heiliger Beschwerde!
Du stimmst so ernst zu dieser Frühlingswonne,
Du breitest im verjüngten Strahl der Sonne
Des Kreuzes Schatten auf die lichte Erde,
 おお、かの週よ、聖なる苦難の証人よ!
 あなたはこの春の喜びにとても真剣に適応している、
 太陽の若々しい光の中で
 十字架の影を明るい大地に広げ、

Und senkest schweigend deine Flöre nieder;
Der Frühling darf indessen immer keimen,
Das Veilchen duftet unter Blütenbäumen
Und alle Vöglein singen Jubellieder.
 そして、黙ってあなたのベールを下ろす。
 春はその間にもずっと新芽を生えさせて、
 すみれは花のついた木々の下で香りを放ち、
 そしてあらゆる小鳥たちが歓呼の歌を歌う。

O schweigt, ihr Vöglein auf den grünen Auen!
Es hallen rings die dumpfen Glockenklänge,
Die Engel singen leise Grabgesänge;
O still, ihr Vöglein hoch im Himmelblauen!
 おお黙るのだ、緑野の小鳥たち!
 あたりは鈍い鐘の響きが鳴りわたり、
 天使たちはそっと弔いの歌を歌う、
 おお静かに、青い空高くにいる小鳥たちよ!

Ihr Veilchen, kränzt heut keine Lockenhaare!
Euch pflückt mein frommes Kind zum dunklen Strausse,
Ihr wandert mit zum Muttergotteshause,
Da sollt ihr welken auf des Herrn Altare.
 すみれたちよ、今日は巻毛を花輪で飾ってはならない!
 わが敬虔な子は暗い色の花束を作ろうとおまえたちを摘むのだ、
 その花束は聖母の住処に持ち運ばれ、
 主の祭壇の上で枯れていくことになる。

Ach dort, von Trauermelodieen trunken,
Und süß betäubt von schweren Weihrauchdüften,
Sucht sie den Bräutigam in Todesgrüften,
Und Lieb' und Frühling, Alles ist versunken!
 あああそこでは、葬送の旋律に酔いしれ、
 よどんだ乳香の香りに甘くしびれ、
 地下の墓所で花婿を探し、
 愛と春、すべては沈潜している!

詩:Eduard Mörike (1804-1875)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

--------------

クリスチャンの方々にはおそらく馴染みの深い受難週(聖週間)ですが、私のような非クリスチャンにとっては縁が薄く、いまいちどんなものかつかめないのですが、ヴォルフがメーリケの「受難週」というテキストに作曲しています。
このテキストは、聖と俗の共存が感じられ、牧師でありながら日向ぼっこをしていたという逸話をもつメーリケらしい情感のこもった詩だと思います。
ヴォルフは小鳥のさえずりをトリルで描写し、鈍い鐘の響きをバスの音で響かせるという描画的な個所と、心理的な表現をうまく結び合わせているように感じます。

歌曲の老舗サイト「詩と音楽」に甲斐貴也氏の素晴らしい解説がありますので、ぜひご覧ください。
 こちら

受難週について(Wikipedia)
 こちら

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

白井光子(MS) & Berlin Radio Symphony Orchestra & デイヴィッド・シャロン(C)
Mitsuko Shirai(MS) & Berlin Radio Symphony Orchestra & David Shallon(C)

受難週について(ドイツ語ですが、雰囲気を味わってみたいと思います)

| | コメント (3)

ヴォルフ/スペイン歌曲集全曲コンサート映像(2019年3月8日, Jensen Grand Concert Hall)

ヴォルフの「スペイン歌曲集」は、スペインの詩をもとにハイゼ、ガイベルがドイツ語に訳したテキストにヴォルフが作曲した歌曲集で、最初の10曲が「宗教的歌曲」、その後の34曲が「世俗的歌曲」からなっています。
「イタリア歌曲集」よりも規模が大きく、それゆえに全曲が一晩で演奏されることはなかなかないと思いますが、下記の動画では、全曲が演奏されています。
「イタリア歌曲集」同様、「スペイン歌曲集」でも演奏効果を考慮して、演奏者独自の曲順に並べ替えて演奏されることがありますが、このコンサートでは、ヴォルフのオリジナルの順序で演奏されています。
1時間53分46秒という長丁場の為、途中に2回インターバルを入れて3部構成で演奏されています。
ヴォルフがお好きな方は必聴です。

録音:2019年3月8日, Jensen Grand Concert Hall, Stephens Performing Arts Center

ISU (Idaho State University) Faculty Recital - Hugo Wolf's Spanish Songbook 3-8-2019
Diana Livingston Friedley(ダイアナ・リヴィングストン・フリードリー), soprano
Geoffrey Friedley(ジェフリー・フリードリー), tenor
Mark Neiwirth(マーク・ナイワース), Piano

埋め込み機能が使用不可の為、リンクを貼っておきます。
下記から動画をご覧ください。

 コンサート動画はこちら

 このコンサートについての紹介はこちら

●0:00-
Geistliche Lieder(宗教的歌曲)
1."Nun bin ich dein" (Juan Ruiz / Heyse) (S)
2."Die du Gott gebarst, du Reine" (Nicolas Nuñez / Heyse) (T)
3. Der helige Josphe singt "Nun wandre, Maria" (Ocaña / Heyse) (T)
4."Die ihr schwebet um diese Palmen" (Lope de Vega / Geibel) (S)
5."Führ mich, Kind, nach Bethlehem!" (Anon. / Heyse) (T)
6."Ach, des Knaben Augen sind mir so schön und klar" (Francisco López de Úbeda / Heyse) (S)
7."Mühvoll komm' ich und beladen" (Don Manuel del Rio / Geibel(?)) (S)
8."Ach, wie lang' die Seele schlummert!" (Anon. / Geibel) (T)
9."Herr, was trägt der Boden hier" (Anon. / Heyse) (T)
10."Wunden trägst du, mein Geliebter" (José de Valdivielso / Geibel) (S)

●36:16-
Weltliche Lieder(世俗的歌曲)
1."Klinge, klinge, mein Pandero" (Alvaro Fernandez de Almeida / Geibel) (S)
2."In dem Schatten meiner Locken" (Anon. / Heyse) (S)
3."Seltsam ist Juanas Weise" (Anon. / Geibel) (T)
4."Treibe nur mit Lieben Spott" (Anon. / Heyse) (T)
5."Auf dem grünen Balkon mein Mädchen schaut" (Anon. / Heyse) (T)
6."Wenn du zu den Blumen gehst" (Anon. / Heyse) (T)
7."Wer sein holdes Lieb verloren" (Anon. / Geibel) (T)
8."Ich fuhr über Meer, ich zog über Land" (Anon. / Heyse) (T)
9."Blindes Schauen, dunkle Leuchte" (Rodrigo Cota de Maguaque / Heyse) (T)
10."Eide, so die Liebe schwur" (Anon. / Heyse) (S)
11."Herz, verzage nicht geschwind" (Anon. / Heyse) (T)
12."Sagt, seid Ihr es, feiner Herr" (Anon. / Heyse) (S)
13."Mögen alle bösen Zungen immer sprechen, was beliebt" (Anon. / Geibel) (S)
14. Preciosas Sprüchlein gegen Kopfweh "Köpfchen, Köpfchen, nicht gewimmert" (Cervantes / Heyse) (S)
15."Sagt ihm, dass er zu mir komme" (Anon. / Heyse) (S)
16."Bitt' ihn, o Mutter, bitte den Knaben" (Anon. / Heyse) (S)

●1:10:30-
17."Liebe mir im Busen zündet einen Brand" (Anon. / Heyse) (S)
18."Schmerzliche Wonnen und wonnige Schmerzen" (Anon. / Geibel) (S)
19."Trau' nicht der Liebe, mein Liebster, gib acht!" (Anon. / Heyse) (S)
20."Ach, im Maien war's, im Maien" (Anon. / Heyse) (T)
21."Alle gingen, Herz, zur Ruh" (Anon. / Geibel) (T)
22."Dereinst, dereinst, Gedanke mein" (Cristobal de Castillejo / Geibel) (T)
23."Tief im Herzen trag' ich Pein" (Luís de Camões / Geibel) (T)
24."Komm', o Tod, von Nacht umgeben" (Comendador Escriva / Geibel) (T)
25."Ob auch finstre Blicke glitten" (Anon. / Heyse) (S)
26."Bedeckt mich mit Blumen" (Maria Doceo(?) / Geibel) (S)
27."Und schläfst du, mein Madchen" (Gil Vicente / Geibel) (T)
28."Sie blasen zum Abmarsch" (Anon. / Heyse) (S)
29."Weint nicht, ihr Äuglein!" (Lope de Vega / Heyse) (S)
30. Limusinisch "Wer tat deinem Füßlein weh?" (Anon. / Geibel) (S)
31."Deine Mutter, süsses Kind" (Don Luis el Chico / Heyse(?)) (T)
32."Da nur Leid und Leidenschaft" (Anon. / Heyse) (T)
33."Wehe der, die mir verstrickte meinen Geliebten!" (Gil Vicente / Heyse) (S)
34."Geh', Geliebter, geh' jetzt!" (Anon. / Geibel) (S)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ヴォルフ「癒えた者が希望に寄せて(Der Genesene an die Hoffnung)」を聴く

著名人が続々と病を公表しています。
先日は今まさに上り調子のピアニストの女性が病気を公表し、さらにオリンピックを期待されていたアスリートや元アイドルも病気を公表しました。
人が生きていくうえで、病気と無縁でいることはおそらくないでしょう。
私の身近な人たちの中にも病と闘い、病と付き合いながら、毎日を過ごしている方はたくさんいます。
私も健康診断で何もひっかからなかった時代はとうの昔に過ぎ去りました。

医学が進歩したと言われる現代でも多くの人が病気と闘わなければならないのですから、今から1世紀前のヴォルフの時代、さらに前のメーリケ(詩人)の時代は、病気に対する不安、怖れは計り知れなかったに違いありません。
そうした病気と闘う時の心境、そしてずっと忘れていた「希望」の存在に気付きとうとう克服した時の心境が綴られたメーリケの詩にヴォルフが曲をつけています。

ヴォルフの代表作とも言える53曲からなる「メーリケの詩(Gedichte von Mörike)」(通称「メーリケ歌曲集」)の冒頭に置かれているのが、この「癒えた者が希望に寄せて」という作品です。

----------

Der Genesene an die Hoffnung
 癒えた者が希望に寄せて

Tödlich graute mir der Morgen:
Doch schon lag mein Haupt, wie süß!
Hoffnung, dir im Schoß verborgen,
Bis der Sieg gewonnen hieß, [Bis der Sieg gewonnen hieß,]
Opfer bracht' ich allen Göttern,
Doch vergessen warest du;
Seitwärts von den ew'gen Rettern
Sahest du dem Feste zu.
 死んだように夜が白みはじめていた。
 だがすでに私の頭は、何と甘美なこと!
 希望よ、お前の膝にひっそり埋まっていたのだ、
 打ち勝ったときまで。
 捧げものをあらゆる神々に供えてきたが、
 お前のことは忘れていたのだ。
 永遠の救い主たちの脇で
 お前はこの祭祀を傍観していた。

O, vergib, du Vielgetreue!
Tritt aus deinem Dämmerlicht,
Daß ich dir in's ewig neue,
Mondenhelle Angesicht
Einmal schaue, recht von Herzen,
Wie ein Kind und sonder Harm;
Ach, nur einmal ohne Schmerzen
Schließe mich in deinen Arm!
 おお、許しておくれ、最も従順なお前よ!
 お前のいる薄明かりから出てきておくれ、
 いつまでも新しく
 月のように明るい顔を
 ひとたび見せてほしい、心の底から、
 子供のように、悲しみを知らないまま。
 ああ、ただ一度でも痛みなく
 お前の腕の中に私を包んでおくれ。

詩:Eduard Mörike (1804-1875)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

----------

ピアノの前奏は不気味な半音階で始まります。
不安を抱えたまま一夜を明かしたことを暗示しているのでしょう。
しかし、すぐに2行目から穏やかな曲調に変わり、病をとうとう克服した4行目では詩行を繰り返し、ピアノは華やかなファンファーレを鳴り響かせます。
その後、希望を忘れていたという箇所ではしんみりとした曲調になり、"Sahest du dem Feste zu."の後の間奏は忘れられた「希望」の寂しさをあらわすかのような響きが聞かれます。
2節以降は、希望への感謝が切々と歌われ、最後の2行で大きく盛り上がり、最後の「in deinen Arm」で低い音程に沈みながら安堵の響きのまま終わります。
この詩と音楽がなんらかの形で病気と闘っておられる方の支えになったらと祈っております。

詩の朗読:Oskar Werner (1922-1984)

少し早口ですが、朗読のリズムを味わってみてください。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

1957年9月録音。F=ディースカウの1度目のヴォルフ全集録音より。若々しいディースカウの美声と知的な解釈、ムーアのよく歌うピアノが魅力的です。

マリリン・ホーン(MS) & マーティン・カッツ(P)
Marilyn Horne(MS) & Martin Katz(P)

1973年録音。前奏の最初が切れています。あまり歌曲のイメージのないホーンですが、その深々とした声はこの曲にぴったりです。

白井光子(MS) & ハルトムート・ヘル(P)
Mitsuko Shirai(MS) & Hartmut Höll(P)

1997年録音。白井さんが大病にかかる9年前の録音。全盛期の白井さんの深みのある表現にただただ聞きほれるのみです。

ブリギッテ・ファスベンダー(MS) & エリク・ヴェルバ(P)
Brigitte Fassbaender(MS) & Erik Werba(P)

ファスベンダーの個性的な声は、冒頭の"Tödlich"の凄みから後半の癒しの声まで幅広い表現力で聞かせてくれます。ヴェルバはヴォルフを得意としているだけあってテンポや音量の変化が説得力あります。

トーマス・クヴァストフ(BR) & ユストゥス・ツァイエン(P)
Thomas Quasthoff(BR) & Justus Zeyen(P)

2004年録音。バスバリトンに近い深みと特有の粘りのあるクヴァストフの歌唱も魅力的です。すでにクラシック歌手としては引退しているようですが、生まれつきの障害を隠すこともなく堂々とステージにあがった姿を生で見た時も素晴らしい歌唱でした。

ヴァルター・ヒルガース(Tuba) & ゼバスティアン・クナウアー(P)
Walter Hilgers(Tuba) & Sebastian Knauer(P)

歌声部をチューバで演奏した珍しい録音。旋律とピアノの関係を純粋に音楽として聴くことが出来るのは興味深い試みですね。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

エリー・アーメリング86歳の誕生日

エリー・アーメリング(Elly Ameling)が2019年2月8日に86回目の誕生日を迎えました。

アーメリングは日本でのさよならコンサートで来日した1996年春に「音楽の友」誌のインタビューに応じています。
その中で彼女のお気に入りの録音は?という質問に対して、「自分の録音を聞くのは好きではない。どれも私の理想との違いを感じてしまうから」というようなことを答えていました。
そういえば、かのシュヴァルツコプフ女史も、来日公演をラジオ用に録音したところ、ご自身のチェックが厳しすぎて、放送できる曲が足りなくなってしまったので、急遽別日の公演も録音したということがあったようです。
それほど自身の芸に対しても厳格な聞き方をしているのはどこまでも高みを追求する芸術家のさがなのかもしれませんが。
アーメリングは前述のインタビューで、ヴォルフのミニョン歌曲群の録音は悪くないですと言っていました。
私もこの録音は以前から大のお気に入りだったので、彼女自身もいいと思っていたと知り、嬉しくなったものでした。

その中からの1曲です。

ヴォルフ(Hugo Wolf)/ミニョンⅢ「このままの姿でいさせてください(Mignon III "So laßt mich scheinen, bis ich werde")」

エリー・アーメリング(Elly Ameling)(S), ルドルフ・ヤンセン(Rudolf Jansen)(P)
1981年6月&8月, Haarlem録音

-------

Mignon III
 ミニョンⅢ

So laßt mich scheinen, bis ich werde,
Zieht mir das weiße Kleid nicht aus!
Ich eile von der schönen Erde
Hinab in jenes feste Haus.
 天使になるときが来るまで、このままの姿でいさせてください、
 私の白い衣裳を脱がさないでください!
 私はこの美しい地上から
 あちらの堅牢な家へと急ぎ降りて行くのです。

Dort ruh' ich eine kleine Stille,
Dann öffnet sich der frische Blick;
Ich lasse dann die reine Hülle,
Den Gürtel und den Kranz zurück.
 あちらで私は少しの間静かに休むと、
 新鮮な視界が開けます。
 そしてきれいな服も
 ベルトも冠も置いてきてしまうのです。

Und jene himmlischen Gestalten
Sie fragen nicht nach Mann und Weib,
Und keine Kleider, keine Falten
Umgeben den verklärten Leib.
 そしてあの天上の方々、
 彼らは男も女も問いません。
 衣服やひだのついた翼を
 浄化された身体に纏うことはないのです。

Zwar lebt' ich ohne Sorg und Mühe,
Doch fühlt' ich tiefen Schmerz genung.
Vor Kummer altert' ich zu frühe;
Macht mich auf ewig wieder jung.
 私は憂慮も苦労もなく生きてきたことは確かですが、
 深い苦痛は充分に味わいました。
 悲しんだあまり、私はあまりにも早く老けこんでしまいました。
 私をまた永遠に若がえらせてください。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

-------

ジェラルド・ムーアの名著『お耳ざわりですか(Am I too loud?)』の中で、彼がシュヴァルツコプフとこの曲を録音した時に、彼女のように楽譜通りに最後の一行で高く音程をあげなからデクレッシェンドで消えるように見事に歌えた人はいないというように称えていました。

当時はそうだったのかもしれません。
しかし、このアーメリングの録音で、最後の一行"Macht mich auf ewig wieder jung."を聞いてみてください。
"ewig(永遠に)"を文字通り長く伸ばしながら高音から一気に下降し、"wieder(再び)"でさらに下降して、最後の"jung(若い)"で急激な上昇をします。
この"jung"をシュヴァルツコプフは最初から弱く歌い、さらにデクレッシェンドしていますが、アーメリングは"jung"のはじめの方は普通の音量で、その後に声を絞り込んでいきます。
レガートを維持しつつ、言葉も明晰に発音しながら、声の盛り上げと絞り込みによって、私たちを曲の世界に惹きこんでくれます。
彼女は特に円熟期以降、声を絞り込んでいく技法に磨きをかけていきます。
1981年という円熟期に差し掛かってきた頃にこの「ミニョン」で彼女は素晴らしい歌唱を聞かせてくれました。
これは私にとってアーメリングの録音史に輝く素晴らしい記録の一つだと思います。
もちろんルドルフ・ヤンセンの緊張感の持続した素晴らしく繊細なピアノも特筆すべきだと思います。

皆さんもよろしければ聞いてみてください。

この絞り込みの技法がその後も美しく開花していきますが、とりわけ1989年録音のHyperionのシューベルト歌曲全集の第7巻の中でアーメリングが歌った「イーダより(Von Ida), D 228」(グレアム・ジョンソンのピアノ)は素晴らしいです。
有節形式で3節分を歌っていますが、各節の最後の絞り込みには呪縛されました。

 サンプルはこちら(曲目の左にある八分音符2つのマークをクリックすると1分ほど抜粋が聞けます)

美声、可愛らしい、清楚といった彼女の美点の、さらに別の側面を知っていただければ嬉しく思います。

| | コメント (6) | トラックバック (0)

ヴォルフ「こうのとりの使い(Storchenbotschaft)」を聴く

Storchenbotschaft
 こうのとりの使い

Des Schäfers sein Haus und das steht auf zwei Rad,
Steht hoch auf der Heiden, so frühe, wie spat;
Und wenn nur ein mancher so'n Nachtquartier hätt'!
Ein Schäfer tauscht nicht mit dem König sein Bett.
 羊飼いの家は2つの車輪の上、
 朝も夜も荒地の高みにある。
 多くの人がそんな宿があったらなぁ!と憧れる。
 羊飼いは王様とさえ自分の寝床を交換しないだろう。

Und käm' ihm zur Nacht auch was Seltsames vor,
Er betet sein Sprüchel und legt sich aufs Ohr;
Ein Geistlein, ein Hexlein, so luftige Wicht',
Sie klopfen ihm wohl, doch er antwortet nicht.
 夜に何か不思議なことが起こっても
 彼はおまじないを唱えて横になってしまう。
 幽霊やら魔女やら風の妖精やらが
 音を立てても、彼は返事などしない。

Einmal doch, da ward es ihm wirklich zu bunt:
Es knopert am Laden, es winselt der Hund;
Nun ziehet mein Schäfer den Riegel - ei schau!
Da stehen zwei Störche, der Mann und die Frau.
 だが以前に、本当にあまりにも騒がしいことがあった、
 よろい戸はがりがり音を立て、犬はクンクン泣く。
 そこで羊飼いがかんぬきをあけると-おや、ごらんよ!
 そこには二羽のこうのとりが番(つがい)で立っている。

Das Pärchen, es machet ein schön Kompliment,
Es möchte gern reden, ach, wenn es nur könnt'!
Was will mir das Ziefer? ist so was erhört?
Doch ist mir wohl fröhliche Botschaft beschert.
 そのカップルは、きちんとおじぎをする、
 何か言いたそうだ、ああ、彼らが話せたらなぁ!
 飼い鳥さんたちがわしに何の用だい?何か聞いて欲しいのか?
 だがどうやらうれしい知らせをもってきたようだぞ。

Ihr seid wohl dahinten zu Hause am Rhein?
Ihr habt wohl mein Mädel gebissen ins Bein?
Nun weinet das Kind und die Mutter noch mehr,
Sie wünschet den Herzallerliebsten sich her?
 君たちはライン下流の家にいたのかい?
 わしの愛する人の足をつついて彼女に子供が産まれたというのか?
 それでその子供が泣いて、母親はもっと泣き、
 愛しいあるじに戻ってきてほしいというんだね?

Und wünschet daneben die Taufe bestellt:
Ein Lämmlein, ein Würstlein, ein Beutelein Geld?
So sagt nur, ich käm' in zwei Tag' oder drei,
Und grüßt mir mein Bübel und rührt ihm den Brei!
 それに加えて洗礼をするのに、
 子羊に、ソーセージに、袋いっぱいのお金が要るんだね?
 それならこう伝えておくれ、わしは二、三日後には戻るから、
 赤ん坊によろしく言って、おかゆをかきまぜてやっておくれ!

Doch halt! warum stellt ihr zu zweien euch ein?
Es werden doch, hoff' ich, nicht Zwillinge sein? -
Da klappern die Störche im lustigsten Ton,
Sie nicken und knicksen und fliegen davon.
 だが待てよ!なぜ君たちは二羽で来たんだ?
 それって、まさか、双子ってことじゃないのか?
 するとこうのとりたちは陽気な音をたてて羽ばたきし、
 うなずき、おじぎをして、飛んで行った。

詩:Eduard Mörike (1804-1875)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

-----------------

ヴォルフの歌曲集「メーリケの詩(Gedichte von Mörike)」の第48番目に置かれた歌曲です。
1888年3月27日作曲。

以前の記事でこのテキストを取り上げたことがあります。

 こちら

「こうのとりが赤ん坊を運んでくる」という伝説は日本でも広く知られていますが、実は世界各地に同様の伝説があるようです。

そのあたりを詳しくまとめておられるのが下記のリンク先です。
とても分かりやすく書かれているので、ぜひご覧ください。

 こちら

私はヴォルフを聞き始めた頃からこの曲が徐々に好きになり、ついにはピアノパートを一生懸命自己流で練習するほど熱中したことを懐かしく思い出します(後奏が華やかで魅力的なんですよね)。
今回はこの曲の聞き比べをしてみたいと思います。

まずは、こうのとりの姿からご覧ください。

エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェラルド・ムーア(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Gerald Moore(P)

1951年録音。シュヴァルツコプフの声がまだ若々しく、少し硬さも感じられるのがういういしいです。

エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Geoffrey Parsons(P)

1970年代後半のDECCAに録音された彼女最後のスタジオ録音。私がこの曲をはじめて聞いたのもこの録音でした。語りの含蓄の深さは他の追随を許さない域に達しています。パーソンズの雄弁なピアノも素晴らしいです。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ダニエル・バレンボイム(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Daniel Barenboim(P)

1974年録音。F=ディースカウの語りは冴え渡り、言葉が明瞭に伝わってきます。バレンボイムは巧みな演出を聞かせています。

オーラフ・ベーア(BR) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Olaf Bär(BR) & Geoffrey Parsons(P)

1986年録音。ベーアのディクションの美しさと柔らかい美声が魅力的です。パーソンズの完璧な描写もいつもながら見事です。

ヴェルナー・ギューラ(T) & ヤン・シュルツ(P)
Werner Güra(T) & Jan Schultz(P)

2005年録音。ギューラの澄んだテノールの声で聴くのも清々しくていいです。シュルツのピアノもうまいです。

ディアナ・ダムラウ(S) & シュテファン・マティアス・ラーデマン(P)
Diana Damrau(S) & Stephan Matthias Lademann(P)

2005年ザルツブルク音楽祭ライヴ録音。ダムラウはためをたっぷり使い、オペラの一場面のような雰囲気を作り上げています。

ペーター・シュライアー(T) & カール・エンゲル(P)
Peter Schreier(T) & Karl Engel(P)

シュライアーは演奏生活のかなり遅くなってからメーリケ歌曲集を録音しました。これはその中の1曲ですが、いつもながら言葉さばきが巧緻で見事です。エンゲルのサポートも見事です。

フリッツ・ヴンダーリヒ(T) (ピアニストはギーセン、シュタインハルト、シュタインバッハーのうちの誰かなのですが、分かったら記載します)
Fritz Wunderlich(T)

ヴンダーリヒの自宅でのプライベート録音を集めたCDに収録されたもの。彼のスタジオ録音のレパートリーにはなく珍しい音源です。

トーマス・メリオランツァ(BR) & ウチダ・レイコ(P)
Thomas Meglioranza(BR) & Reiko Uchida(P)

演奏しているところを見ることが出来ます。歌もピアノも活気と安定感があって、とても魅力的な演奏だと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ダムラウ&カウフマン&ドイチュ/ヴォルフ「イタリア歌曲集」CDリリース予定

Damrau_kaufmann_deutsch_wolf


世界中のオペラハウスで大活躍している二人の歌手ディアナ・ダムラウ(Diana Damrau)(S)とヨナス・カウフマン(Jonas Kaufmann)(T)が、ヘルムート・ドイチュ(Helmut Deutsch)のピアノでヴォルフ「イタリア歌曲集(Italienisches Liederbuch)」のCDを録音したそうです。
ヨーロッパ各地でのコンサートツアー中のライヴ収録らしいです(2018年2月18日録音)。
HMVの情報ですと、来年(2019年)1月半ば頃には入手できるようです。

 こちら

彼らは日本でも人気者ですから、いずれ国内盤も出るかもしれませんが、ヴォルフの歌曲というのはあまりCD会社としては売れるものではないので輸入盤で入手しておいた方が確実かもしれません。

この豪華な二人のスターたちは共に歌曲にも力を入れており、特にオペラのような男女の駆け引きが重要な要素となるヴォルフの「イタリア歌曲集」では、彼らの声の演技力もまた大いに期待されます。
そして、今やムーアやパーソンズの後継者として脂の乗り切ったヘルムート・ドイチュのピアノもまたとても楽しみです(ドイチュはかつてEMIにアップショー&ベーアと全曲盤を録音しています)。

ヴォルフの歌曲集の中でもメーリケ歌曲集と並んで録音に恵まれている「イタリア歌曲集」ですが、これはヴォルフファンにとっては垂涎ものですね。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

ロバ(der Esel)が登場するヴォルフ(Hugo Wolf)の歌曲2曲

ドイツ歌曲に限りませんが、動物や植物を扱ったテキストは数多くあります。
歌曲集として動物をテーマにしてまとめた例としては、いずれもフランス歌曲ですが、ラヴェル「博物誌」やプーランク「動物詩集」などが思い浮かびます。
特に前者は鳥や虫の鳴き声などが見事に描写されています。

今回扱うのは「ロバ(ドイツ語でEsel)」です。
フーゴー・ヴォルフ(Hugo Wolf)の歌曲に「ロバ」が登場する作品が2曲あります。
「ロバ」を表すドイツ語のEsel(発音は「エーゼル」)は「間抜け」という意味合いも持ち、あまり好意的に扱われていません。

まずはロバの鳴き声を聞いてみましょう。

高い吸い込むような金属的な音と低い音を交互に出すのが特徴でしょうか。
こうして見ると可愛いですね。

それでは、ヴォルフの「変身させられたツェッテルの歌」という歌曲をご紹介します。

----------

Lied des transferierten Zettel
 変身させられたツェッテル(ボトム)の歌

Die Schwalbe, die den Sommer bringt,
der Spatz, der Zeisig fein,
Die Lerche, die sich lustig schwingt
bis in den Himmel 'nein.
[Ya Ya Ya Ya!]
 夏をもたらすつばめに、
 すずめに、きれいなまひわ、
 ひばりは快活に
 空中まで舞い上がる。
 [イーアー、イーアー、イーアー、イーアー!]

Der Kuckuck, der der Grasemück'
so gern ins Nestchen heckt,
Und lacht darob mit arger Tück',
und manchen Ehmann neckt.
[Ya Ya Ya Ya!]
 かっこうは、のどじろむしくいの巣に
 卵を産みつけるのが大好き。
 そして悪意をもってあざ笑い、
 あまたの旦那どもを冷やかすのだ。
 [イーアー、イーアー、イーアー、イーアー!]

詩:William Shakespeare (1564-1616) “A Midsummer Night's Dream” Act 3, Scene 1
独訳:August Wilhelm Schlegel (1767-1845) “Ein Sommernachtstraum” Dritter Aufzug, Erste Szene
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

※第2節第1行の「のどじろむしくい」という鳥の姿と鳴き声は
 こちら

----------

これはシェイクスピアの「夏の夜の夢(A Midsummer Night's Dream)の第3幕第1場で、いたずら者の妖精パックが織物職人ボトムの頭をロバに変えてしまい、そうと気付かないボトムが歌う歌です。
ボトムというのがオリジナルの役名ですが、訳者のA.W.シュレーゲルは、Zettel(ツェッテル)という名前に訳しました。
ちなみにZettelというのはドイツ語で「紙切れ」のことです。
独立した詩ではなく、戯曲の中の一部であり、しかも第1節と第2節の間で妖精のティターニアが目覚めて一言セリフを話すので、それを除いた形でヴォルフは作曲しています。
ロバの鳴き声はヴォルフによる付与で、グロテスクさが増しています。
1889年(ヴォルフの「歌の年」の翌年)に作曲され、皮肉屋ヴォルフの面目躍如です。
この「イーアー」(12度下降)をどのように歌うのかが聴きどころと言えるでしょう。

フリッツ・ヴンダーリヒ(T) & ルートヴィヒ・クッシェ(P) (「変身させられたツェッテルの歌」は3曲目(3:11)から始まります)
Fritz Wunderlich(T) & Ludwig Kusche(P)

シューベルト「うずらの鳴き声」、R.シュトラウス「商人と仕掛け人は」に続いて、3:11から始まります。お手数ですが、目盛りを移動してお聞き下さい。

John William Gomez(T) & Tania Shustova(P)

若干発音に不正確な箇所もありますが、曲の感じはつかめると思います。

--------------------

もう1曲はヴォルフ晩年の傑作「イタリア歌曲集(Italienisches Liederbuch)」の第2巻第21曲「ちょっと黙ってよ(Schweig einmal still)」です。

----------

Schweig' einmal still
 ちょっと黙ってよ

Schweig einmal still, du garst'ger Schwätzer dort!
Zum Ekel ist mir dein verwünschtes Singen.
Und triebst du es bis morgen früh so fort,
Doch würde dir kein schmuckes Lied gelingen.
Schweig einmal still und lege dich aufs Ohr!
Das Ständchen eines Esels zög ich vor.
 ちょっと黙ってよ、そこの不愉快なおしゃべり男!
 あんたのいらつく歌聞いてると気持ち悪くなるのよ。
 こんな朝早くまで歌い続けていたところで、
 まともな歌になるわけないでしょ。
 もう黙ってよ、いい加減に寝なさい!
 ロバのセレナード聞く方がまだいいわ!

詩:Paul Heyse (1830-1914)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

----------

男女の駆け引きなどの歌を46編まとめたヴォルフ「イタリア歌曲集」。
ヴォルフは各曲の配列にも気を配って作曲しています。
この曲「ちょっと黙ってよ」は前曲「ぼくはもう歌えないよ(Nicht länger kann ich singen)」のいわばアンサーソングとなっています。
この詩の最後の行に"Esels(ロバ)"という言葉が出てきますが、ここでヴォルフはピアノパートにロバの鳴き声を模した響きを再現してグロテスクな表情を強調しています。
さらにピアノ後奏にもロバの鳴き声が今度は高低逆の形で現れます。
しかし、この箇所だけではなく、この曲に最初から一貫して流れるピアノパートの跳躍音程や装飾音は、すでにロバの鳴き声を暗示していると言ってもいいのではないでしょうか。

モイチャ・エルトマン(S) & ゲロルト・フーバー(P)
Mojca Erdmann(S) & Gerold Huber(P)

2009年録音。魅力的な演奏です。

ロバは嘲笑や皮肉の対象として使用され、ちょっと可哀そうな気もしますが、さらにロバを皮肉のネタとして使用したマーラーの歌曲があります。そちらは後日またあらためて記事にしたいと思います。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

イム・スンヘ&シモ・マキネン&ラルフ・ゴトーニ指揮アンサンブル・オーパス/ヴォルフ「イタリア歌曲集」全曲の映像(2016年10月5日, Soul Arts Center Concert Hall)

フィンランドのピアニスト、ラルフ・ゴトーニが歌とアンサンブル用に編曲したヴォルフの「イタリア歌曲集」全曲の映像がアップされていましたので、ご紹介します。
ヴォルフの「イタリア歌曲集」は男女の恋愛の機微を1~2分の短い音楽に凝縮して表現した歌曲を46曲集めたもので、第1部と第2部とに分かれています。
ヴォルフが並べた順序で演奏することも多いのですが、演奏家によっては、男女の駆け引きをさらに明確に際立たせる為に独自の曲順に並べ替えて演奏することも少なくありません。
今回のゴトーニ編曲版の韓国初演も、全46曲を独自の順序に並べ替えた形で演奏されています。

ゴトーニは歌曲のピアニストとしても知られているだけあって、ピアノパートに必要以上に手を加えることはなく、ほぼそのまま別の楽器に置き換えています。
オリジナルの音は出来る限り尊重しながら、どの楽器がふさわしいのか、ゴトーニなりの解釈が披露されています。

韓国のソプラノ歌手、イム・スンヘ(1976年生まれ)と、フィンランドのテノール歌手、シモ・マキネン(1982年生まれ)が、韓国のアンサンブル集団、アンサンブル・オーパスと共に演奏しています。
指揮はゴトーニです。

なお、普通は各曲が男女どちらか一人によって歌われるのですが、休憩前の最初と最後に置かれた曲、休憩後の最後の曲は男女二人で歌われています。
休憩後の演奏は目盛りの46分ぐらいから始まります。
興味のある方はぜひお聴きになってみて下さい。

コンサート情報はこちら

歌詞対訳はこちら

ヴォルフ作曲、ゴトーニ編曲「イタリア歌曲集」全曲

収録日時: 2016.10.5.Soul Arts Center Concert Hall

イム・スンヘ(Sunhae Im)(S)
シモ・マキネン(Simo Mäkinen)(T)
アンサンブル・オーパスEnsemble OPUS)
ラルフ・ゴトーニ(Ralf Gothóni)(C)

H. Wolf: Italienisches Liederbuch
arranged by Ralf Gothóni, Chamber version, Korea premiere

Auch kleine Dinge (S,T)
Was für ein Lied soll dir gesungen werden (T)
Ihr seid die Allerschönste (T)
Du denkst mit einem Fädchen mich zu fangen (S)
Mein Liebster ist so klein (S)
Selig ihr Blinden (T)
Ich liess mir sagen (S)
Schon streckt ich aus (T)
Nicht länger kann ich singen (T)
Schweig' einmal still (S)
Wohl kenn ich Euren Stand (T)
Ein Ständchen Euch zu bringen (T)
Und steht Ihr früh am Morgen auf von Bette (T)
Benedeit die sel'ge Mutter (T)
Ich esse nun mein Brot nicht trocken mehr (S)
Heut Nacht erhob ich mich um Mitternacht (S)
O wär' dein Haus durchsichtig (S)
Gesegnet sei, durch den die Welt entstund (T)
Gesegnet sei das Grün (S)
Mir ward gesagt, du reisest in die Ferne (S)
Daß doch gemalt all deine Reize wären (T)
Ihr jungen Leute (S)
Sterb ich, so hüllt in Blumen meine Glieder (T)
Wenn du, mein Liebster, steigst zum Himmel auf (S,T)

休憩

Wie lange schon war immer mein Verlangen (S)
Man sagt mir, deine Mutter woll es nicht (S)
Wie soll ich fröhlich sein (T)
Mein Liebster singt am Haus im Mondenscheine (S)
Was soll der Zorn (S)
Wie viele Zeit verlor ich, dich zu lieben (T)
Wir haben beide lange Zeit geschwiegen (S)
Mein Liebster hat zu Tische mich geladen (S)
Der Mond hat eine schwere Klag erhoben (T)
Wenn du mich mit den Augen streifst und lachst (T)
Und willst du deinen Liebsten sterben sehen (T)
Heb' auf dein blondes Haupt (T)
Geselle, wolln wir uns in Kutten hüllen (T)
Nein, junger Herr (S)
Hoffärtig seid Ihr, schönes Kind (T)
Verschling der Abgrund meines Liebstens Hütte (S)
O wüßtest du, wieviel ich deinetwegen (T)
Du sagst mir, daß ich keine Fürstin sei (S)
Wer rief dich denn? (S)
Lass sie nur gehn (T)
Ich hab in Penna einen Liebsten wohnen (S)
Nun laß uns Frieden schließen (T,S)

アンコール
Auch kleine Dinge (S,T)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧

その他のカテゴリー

CD DVD J-Pop LP おすすめサイト アイヒェンドルフ アンゲーリカ・キルヒシュラーガー アンティ・シーララ アーウィン・ゲイジ アーリーン・オジェー イアン・ボストリッジ イェルク・デームス イタリア歌曲 イモジェン・クーパー イングリート・ヘブラー ウェブログ・ココログ関連 エディト・マティス エリック・ヴェルバ エリーザベト・シュヴァルツコプフ エリー・アーメリング エルンスト・ヘフリガー オペラ オルガン オーラフ・ベーア カウンターテナー カール・エンゲル ギュンター・ヴァイセンボルン クリスタ・ルートヴィヒ クリスティアン・ゲアハーアー クリスティーネ・シェーファー クリスマス グリンカ グリーグ グレアム・ジョンソン ゲアハルト・オピッツ ゲアハルト・ヒュッシュ ゲロルト・フーバー ゲーテ コンサート コントラルト歌手 シェック シベリウス シュテファン・ゲンツ シューベルト シューマン ショスタコーヴィチ ショパン ジェフリー・パーソンズ ジェラルド・ムーア ジェラール・スゼー ジュリアス・ドレイク ジョン・ワストマン ソプラノ歌手 テノール歌手 ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ ディートリヒ・ヘンシェル トマス・ハンプソン トーマス・E.バウアー ドビュッシー ドルトン・ボールドウィン ナタリー・シュトゥッツマン ノーマン・シェトラー ハイドン ハイネ ハルトムート・ヘル ハンス・ホッター バス歌手 バッハ バリトン歌手 バレエ・ダンス バーバラ・ヘンドリックス バーバラ・ボニー パーセル ピアニスト ピーター・ピアーズ フェリシティ・ロット フランス歌曲 フリッツ・ヴンダーリヒ ブラームス ブリテン プフィッツナー ヘルマン・プライ ヘルムート・ドイチュ ベルク ベートーヴェン ペーター・シュライアー ペーター・レーゼル ボドレール マティアス・ゲルネ マルコム・マーティノー マーク・パドモア マーティン・カッツ マーラー メシアン メゾソプラノ歌手 メンデルスゾーン メーリケ モーツァルト ヤナーチェク ヨーハン・ゼン ルチア・ポップ ルドルフ・ヤンセン ルードルフ・ドゥンケル レナード・ホカンソン レルシュタープ レーナウ レーヴェ ロシア歌曲 ロジャー・ヴィニョールズ ロッテ・レーマン ロバート・ホル ローベルト・フランツ ヴァルター・オルベルツ ヴァーグナー ヴェルディ ヴォルフ ヴォルフガング・ホルツマイア 作曲家 作詞家 内藤明美 北欧歌曲 合唱曲 小林道夫 岡原慎也 岡田博美 平島誠也 指揮者 日記・コラム・つぶやき 映画・テレビ 書籍・雑誌 歌曲投稿サイト「詩と音楽」 演奏家 白井光子 研究者・評論家 藤村実穂子 音楽 R.シュトラウス