ドーナト夫妻、ローレンツ&ガルベン/ヴォルフ「イタリア歌曲集」映像(1988年シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭)

フーゴ・ヴォルフ(Hugo Wolf)/「イタリア歌曲集(Italienisches Liederbuch)」全46曲(79分25秒)

録画:1988年、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭(Schleswig Holstein Musikfestival)

ヘレン・ドーナト(Helen Donath)(S)
ジークフリート・ローレンツ(Siegfried Lorenz)(Br)
クラウス・ドーナト(Klaus Donath)(P)
コルト・ガルベン(Cord Garben)(P)

珍しい動画を見つけたのでご紹介します。
ヴォルフの全46曲からなる「イタリア歌曲集」のライヴ映像です。
歌手はソプラノのヘレン・ドーナトとバリトンのジークフリート・ローレンツ。
ピアノはそれぞれクラウス・ドーナト(ヘレンの夫)、コルト・ガルベンです。
この4人いずれも歌曲を演奏している動画は珍しいのではないかと思います。
特にジークフリート・ローレンツはF=ディースカウ、プライ後のドイツを担うリート歌手として取り上げられていた時期もあり、歌曲演奏の実績もしっかりある名歌手なので、こうして歌唱姿を見ることが出来るのはとても貴重です。
ドーナト夫妻は数多くの歌曲の録音を残していて、歌曲演奏者としての実力は広く知られていますので、彼らの演奏動画もまた嬉しいです。
そしてDGのプロデューサーとして、ディースカウやミケランジェリと組みながら、歌曲ピアニストとしても第一線で活躍していたガルベンの演奏もまた、注目されます。
ガルベンは若かりしボニーやオッター、シュミットらを世に出すきっかけとなった録音を企画したり、レーヴェの全歌曲を録音したりと、歌曲演奏史において決して忘れることの出来ない存在です。

ここで演奏されているヴォルフの「イタリア歌曲集」はイタリア起源の詩にドイツ人のパウル・ハイゼが独訳した歌詞によるもので、男女の恋愛の駆け引きが絶妙な音楽で描かれています。
ここでの演奏のように男女の歌手がそれぞれ異なるピアニストと演奏することで、よりドラマティックな効果が期待できそうです。

ヘレン・ドーナトのオペラで培った表現力は映像で見るとより楽しみを増します。
持ち前の美声による巧みな語りかけは、これらのささやかな歌曲を歌ううえでとても魅力的です。
ご主人のピアノは、例えば普段大音量で盛り上げるような曲の最後の和音をあえて軽めに弾くことによって、これらが庶民のささやかなドラマであることを思い出させてくれます。

ローレンツは見た目もいかにも真面目なドイツ人という感じですが、その歌声の柔らかさと伸縮自在な表現の幅で、歌曲歌手としての非凡さをあらためて認識させてくれます。
そして、同じくドイツ人的なガルベンの堅実なピアノもテキストの機微を見事に描いています。

ぜひお楽しみ下さい!

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アーメリングにフーゴ・ヴォルフ・メダル授与

ソプラノのエリー・アーメリング(Elly Ameling)に対して、国際フーゴ・ヴォルフ・アカデミーがフーゴ・ヴォルフ・メダルを授与することになったそうです。

 ソース(独語)←Google検索でかなり内容はつかめます。

アーメリングのヴォルフは、録音でも数多く残されています。

・フィリップスへの「イタリア歌曲集」(ボールドウィンのピアノ。男声用のスゼーと合わせて全曲盤としても販売されました)

・フィリップスへの「メーリケ歌曲集」抜粋(ボールドウィンのピアノ)

・CBSへの「イタリア歌曲集」全曲(ゲイジのピアノ。男声用はトム・クラウセが担当)

・Etcetraへの「ゲーテ歌曲集(抜粋)&ケラー歌曲集(全曲)」(ヤンセンのピアノ)

・Hyperionへの「スペイン歌曲集&メーリケ歌曲集」抜粋(ヤンセンのピアノ)

以上の他にもオムニバス盤に「庭師」「夏の子守歌」「主顕節」「隠棲」を録音していますし、オランダで数年前に出た「80歳記念ライヴ録音集」にも「こうのとりの使い」など珍しいレパートリーも含めてまとめて収録されています。

アーメリングが1996年に日本でのさよならコンサートを開いた際の音友インタビューで、自身の録音について聞かれ、上記のEtcetraの録音の「ミニョン」歌曲集は成功したと述べています。
私もこのEtcetra盤(現在はGlobeレーベルで同一音源を聞けます)は何度も繰り返し聴いた思い出のCDとして記憶に強く刻まれています。

彼女の1996年のさよなら公演のアンコールで「イタリア歌曲集」の第1曲「小さなものでも我々を魅了できるわ」を歌ってくれたのが忘れられません。
「小さなもの」=「歌曲というジャンル」、あるいは、オペラティックな大柄な声を持たなかったアーメリング自身に置き換えて受け取ることも可能なメッセージだったと思います。

アーメリングのヴォルフは動画サイトには現在殆どアップされていませんが、興味をもたれた方はamazonなどのサンプルで試聴してみてはいかがでしょうか。

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ヴォルフ「あの季節だ!」を聴く

ヴォルフの53曲からなる「メーリケ歌曲集」の6曲目に置かれている曲です。
一般的には「春だ」「もう春だ」などと訳されるタイトルですが、Erは男性名詞(ドイツ語の名詞には男性、女性、中性の3種類あります)を受ける代名詞ですので、タイトルに「春」という言葉は入っていないのです。
ここではそんな原詩の雰囲気を少し感じていただけるように「あの季節だ!」としてみました。
本当は「彼だ!」でもいいのですが、日本語では春のことを「彼」とは言いませんから難しいところです。
ヴォルフの音楽は分散和音の華やかなピアノにのって、軽やかに上下する歌声が春の喜びをいっぱいに表現します。
ピアノ後奏の華やかさも聴きどころです。

Er ist's!
 あの季節だ!

Frühling läßt sein blaues Band
Wieder flattern durch die Lüfte;
Süße, wohlbekannte Düfte
Streifen ahnungsvoll das Land.
Veilchen träumen schon,
Wollen balde kommen.
Horch, von fern ein leiser Harfenton!
Frühling, ja du bist's!
Dich hab ich vernommen!
 春がその青いリボンを
 再び風になびかせる。
 甘い、馴染みの香りが
 予感に満ちて、地上をかすめる。
 すみれはもう夢見ている、
 じきに花開きたいのだ。
 ほら、遠くからかすかな竪琴の音!
 春よ、おまえなんだね!
 私にはおまえだと分かったよ!

詩:Eduard Friedrich Mörike (1804.9.8, Ludwigsburg – 1875.6.4, Stuttgart)
曲:Hugo Philipp Jakob Wolf (1860.3.13, Windischgraz – 1903.2.22, Wien)

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メーリケの詩の朗読(フリッツ・シュターフェンハーゲン)

ヴォルフの曲がいかに朗読と一致しているか分かります。

バーバラ・ボニー(S)&ジェフリー・パーソンズ(P)

ひんやりした質感のボニーの声が春の爽快感を素敵に歌っています。パーソンズはテクニックのうまさを存分に生かして雄弁な演奏で盛り上げています。

ディアナ・ダムラウ(S)&シュテファン・マティアス・ラーデマン(P)

ダムラウの細やかな語り口と余韻を感じさせる歌は魅力的です。ラーデマンも見事な演奏です。

アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)&ギュンター・ヴァイセンボルン(P)

ローテンベルガーは生き生きした表情で春の喜びを歌いあげています。ヴァイセンボルンは丁寧な演奏です。

ヴェルナー・ギューラ(T)&ヤン・シュルツ(P)

ギューラの全身全霊をこめた歌は感銘を受けます。シュルツも見事に盛り上げています。

小川明子(A)&山田啓明(P)

ゆったりとしたテンポでしっとりと歌い上げるのもいいものです。二人の演奏は息がぴったりです。

ソフィア・ラーション(S)&マノン・アブレット(P)

ラーションは懸命な歌いぶりが好感もてます。ピアノのアブレットはあのF=ディースカウの孫にあたるそうです。現在はF-Dの姓を使っているようです。

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木内朋子×太田直樹×竹尾真紀子/ヴォルフ《イタリア歌曲集》全曲演奏会(2014年1月18日 音楽の友ホール)

ヴォルフ《イタリア歌曲集》全曲演奏会
2014年1月18日(土)18:00 音楽の友ホール(全自由席)

木内朋子(ソプラノ)
太田直樹(バリトン)
竹尾真紀子(ピアノ)

ヴォルフ(Hugo Wolf)/《イタリア歌曲集(Italienisches Liederbuch)》全曲
1.小さなものでも私たちを魅了するものがあるわ(Auch kleine Dinge können uns entzücken)(ソプラノ)
2.遠いところに旅立つそうね(Mir ward gesagt, du reisest in die Ferne)(ソプラノ)
3.あなたは誰よりも美しい(Ihr seid die Allerschönste)(バリトン)
4.幸いあれ、この世を創られた方(Gesegnet sei, durch den die Welt entstund)(バリトン)
5.目の見えない人たちはいいなあ(Selig ihr Blinden)(バリトン)
6.誰があなたを呼んだの?(Wer rief dich denn?)(ソプラノ)
7.月は神様に嘆いた(Der Mond hat eine schwere Klag' erhoben)(バリトン)
8.さあ、もう仲直りしよう(Nun lass uns Frieden schließen)(バリトン)
9.君の魅力のすべてが絵に描かれ(Dass doch gemalt all' deine Reize wären)(バリトン)
10.あなたは私を細い一本の糸で釣り上げたつもりでいるけれど(Du denkst mit einem Fädchen mich zu fangen)(ソプラノ)
11.どんなに長い間待ち望んでいたことでしょう(Wie lange schon war immer mein Verlangen)(ソプラノ)
12.いけませんわ、お若い方、そんな風になさっては(Nein, junger Herr)(ソプラノ)
13.いい気なもんだね、きれいなお嬢さん(Hoffärtig seid Ihr, schönes Kind)(バリトン)
14.なあ兄弟、ひとつ坊主に化けて托鉢して回ろうじゃないか?(Geselle, woll'n wir uns in Kutten hüllen)(バリトン)
15.わたしの恋人はとても小さくて(Mein Liebster ist so klein)(ソプラノ)
16.戦場にお出かけの若い兵士さんたち(Ihr jungen Leute, die ihr zieht ins Feld)(ソプラノ)
17.君の恋人を焦がれ死にさせたいなら(Und willst du deinen Liebsten sterben sehen)(バリトン)
18.眠ってはだめだよ、大切なことを言うから(Heb' auf dein blondes Haupt)(バリトン)
19.私たちふたりは長い間口もきかずにいました(Wir haben beide lange Zeit geschwiegen)(ソプラノ)
20.あの人が月の光を浴びて家の前で歌っている(Mein Liebster singt am Haus im Mondenscheine)(ソプラノ)
21.あなたのお母さんが反対なんですってね(Man sagt mir, deine Mutter woll' es nicht)(ソプラノ)
22.セレナーデを奏でるためにやって来ました(Ein Ständchen Euch zu bringen)(バリトン)

~休憩~

23.どんな歌を君のために歌ったらいいのだろう?(Was für ein Lied soll dir gesungen werden)(バリトン)
24.わたしを愛してくれる人がどこかにいないかしら(Ich esse nun mein Brot nicht trocken mehr)(ソプラノ)
25.わたしの恋人が食事に招(よ)んでくれたわ(Mein Liebster hat zu Tische mich geladen)(ソプラノ)
26.イケメンのトニーは死ぬほどお腹が減るんだって(Ich ließ mir sagen und mir ward erzählt)(ソプラノ)
27.ベッドの中で疲れた身体を伸ばすと(Schon streckt' ich aus im Bett die müden Glieder)(バリトン)
28.侯爵夫人でもないくせになんて、私のことを言うのね(Du sagst mir, dass ich keine Fürstin sei)(ソプラノ)
29.あなたの高貴なご身分はよくわかっています(Wohl kenn' ich Euern Stand)(ソプラノ)
30.勝手にさせておくさ、あんなお高くとまった女は(Lass sie nur gehn, die so die Stolze spielt)(バリトン)
31.あなたが私を訪ねてくれるのは百年に一度(Wie soll ich fröhlich sein)(ソプラノ)
32.なにをそんなに怒っているの?(Was soll der Zorn, mein Schatz)(ソプラノ)
33.僕が死んだら、身体を花で包んでほしい(Sterb' ich, so hüllt in Blumen meine Glieder)(バリトン)
34.あなたは朝早くベッドから起き出ると(Und steht Ihr früh am Morgen auf)(バリトン)
35.祝福あれ!君のことをこんなにも愛らしく生んでくれたお母さんに(Benedeit die sel'ge Mutter)(バリトン)
36.もし、あなたが天国に召されるようなことがあれば(Wenn du, mein Liebster, steigst zum Himmel auf)(ソプラノ)
37.君を愛したばかりに、ずいぶんと時間を無駄にしてしまった(Wie viele Zeit verlor ich, dich zu lieben!)(バリトン)
38.僕をちらっと見て微笑んだりする時は(Wenn du mich mit den Augen streifst)(バリトン)
39.幸いあれ、みどり色と、みどり色を身にまとった人に!(Gesegnet sei das Grün und wer es trägt!)(ソプラノ)
40.あなたの家がガラスのように透きとおっていたなら(O wär' dein Haus durchsichtig wie ein Glas)(ソプラノ)
41.真夜中に目が覚めると、僕の心臓がこっそり抜け出していた(Heut' Nacht erhob ich mich um Mitternacht)(バリトン)
42.僕はもうこれ以上歌えない(Nicht länger kann ich singen)(バリトン)
43.ちょっと黙ったらどう、うるさいおしゃべり男!(Schweig einmal still)(ソプラノ)
44.おまえのためにどれだけひどい目に遭ったか、わかるか?(O wüsstest du, wieviel ich deinetwegen)(バリトン)
45.奈落よ、私の恋人のあばら家を飲み込んでしまえ(Verschling' der Abgrund meines Liebsten Hütte)(ソプラノ)
46.ペンナにわたしのいい人がいるの(Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen)(ソプラノ)

~アンコール~
13.いい気なもんだね、きれいなお嬢さん(Hoffärtig seid Ihr, schönes Kind)(バリトン)
24.わたしを愛してくれる人がどこかにいないかしら(Ich esse nun mein Brot nicht trocken mehr)(ソプラノ)

(※邦訳タイトルは、配布プログラムに掲載されている木内朋子氏による歌詞大意の冒頭から取りました。従って、必ずしも欧文タイトルの訳になっているとは限りません。)

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ヴォルフの「イタリア歌曲集」全曲を聴くのは私にとっていつも心浮き立つ時間だ。
男女の恋の駆け引きがヴォルフの絶妙の音楽に彩られて、生き生きと表現される。
今回のコンサートも音楽会のちらしの束からたまたま見つけたのだが、これは聞き逃せないと思っていた。
実は神楽坂の音楽の友ホールに来るのはおそらく20年ぶりぐらいである(別に理由があるわけでもないのだが)。
だが、ホールの中は過去の記憶と変わらず、こじんまりとした親密な空間がヴォルフのミニアチュールにはぴったりだった。
「イタリア歌曲集」を演奏する際、演奏者が順序を入れ替えて新たなストーリーの流れを作る場合もあるが、今回はヴォルフの出版した順序の通りに演奏され、1部と2部の間に15分の休憩が入った。

3人の演奏者の中ではバリトンの太田直樹氏のみ過去に何度かリートを聴いているが、女性2人は今回が初めてだった。
今回は歌手の2人のために楽譜立てがあり、下にペットボトルが置かれていたが、椅子はなく、歌っていない時でも立っていた。

ソプラノの木内朋子氏は装飾のあるブルーの衣装で登場した。
小柄な方である。
その声は軽く、ビブラートもあまり派手ではない。
少女の声のような可憐さをもち、どことなくエルナ・ベルガーの声質を思い起こさせた。
テクニックをあまり前面に押し出さず、自然な表情が魅力と感じた。
43曲目「ちょっと黙ったらどう、うるさいおしゃべり男!」からオペラを見ているかのようなドラマティックな表情で演じ、聴き手を興奮させた。

一方のバリトン、太田直樹氏はいつもながらの安定感で、心地よい美声と美しいドイツ語の発音が素晴らしく、安心して身を任せて聴いていた。
レガートが非常に素晴らしく、この歌曲集では比較的地味な役回りに甘んじることの多い男声パートを実に魅力的に演じ、堪能させてもらった。
22曲目「セレナーデを奏でるためにやって来ました」は一般的に演奏されるよりもゆったりとしたテンポで語りかけるように歌っていたのが印象的だった。

ピアノの竹尾真紀子氏も木内氏同様小柄な方で、手も決して大きくないようだった。
かなりの手の幅広さを要求される曲の多い「イタリア歌曲集」だが、そこはベテランらしい機転で、見事に問題を解決していた。
例えば、38曲目「僕をちらっと見て微笑んだりする時は」の後奏などはアルペッジョを使ってうまく音をつかんでいた。
演奏が進むにつれて安定感が増し、高い演奏技術をもっていることが感じられた。
蓋が全開なのは最近の流れから当然ではあるが、決して歌を覆いかぶさないコントロールの見事さも特筆したい。
11曲目「どんなに長い間待ち望んでいたことでしょう」の後奏では登場した色白のヴァイオリニストの下手な演奏を描写するのだが、品の良さはありつつも、上手に「下手さ」を表現していて楽しかった。
40曲目「あなたの家がガラスのように透きとおっていたなら」では、出来れば高音の同音反復をつぶさずに明瞭に聴けたら良かったと思う。
43曲目「ちょっと黙ったらどう、うるさいおしゃべり男!」の後奏では、ロバの鳴き声を誇張して効果的だった。
45曲目「奈落よ、私の恋人のあばら家を飲み込んでしまえ」の激流が恋人を飲み込む様を畳みかけるように演奏し、最後の46曲目「ペンナにわたしのいい人がいるの」では後奏で華麗なパッセージを見事に演奏して、有終の美を飾った。

アンコールではバリトン、ソプラノがそれぞれ1曲ずつ、「イタリア歌曲集」の中からもう一度歌ったが、本番の緊張から解けたからか、より自在で余裕のある表情が感じられた。

見事な3人の演奏に拍手を贈ると共に、いつかこのトリオで「スペイン歌曲集」を演奏してくれたらと願いたい気持ちである。

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←夜の神楽坂

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ヴォルフ「新年に」(詩:メーリケ)

フーゴ・ヴォルフは53曲からなる巨大な歌曲集「メーリケの詩」を編みましたが、その27曲目に「新年に」が置かれています。
なお、歌曲集の順番と作曲の順番は全く無関係であり、全53曲を一晩で演奏することはまずありません。
心が洗われるような聖なる喜びの歌です。

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Zum neuen Jahr
 新年に

Wie heimlicher Weise
Ein Engelein leise
Mit rosigen Füßen
Die Erde betritt,
So nahte der Morgen.
Jauchzt ihm, ihr Frommen,
Ein heilig Willkommen,
Ein heilig Willkommen!
Herz, jauchze du mit!
 なんともひっそりと
 天使がそっと
 ばら色の足を
 大地に踏み入れる、
 すると朝が近寄ってくるのだ。
 新年に歓呼せよ、敬虔な者たちよ、
 敬い、歓迎いたします、
 敬い、歓迎いたしますと!
 心よ、ともに歓呼するのだ!

In Ihm sei's begonnen,
Der Monde und Sonnen
An blauen Gezelten
Des Himmels bewegt.
Du, Vater, du rate!
Lenke du und wende!
Herr, dir in die Hände
Sei Anfang und Ende,
Sei alles gelegt!
 新年が始まりますように、
 天の蒼穹で
 月や太陽を
 動かし給う神のもとで!
 汝、父上よ、お教えください!
 導き、向きを変えてください!
 主よ、汝の両の手に
 はじめから終わりまでが、
 あらゆるものがあらんことを!

詩:Eduard Mörike (1804-1875)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

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ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ダニエル・バレンボイム(P)

世評高いフィッシャー=ディースカウのヴォルフです。自在に広がっていく声が素晴らしいです。バレンボイムも立体的な演奏です。

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友野玲子&白岩貢&小木曽美津子/ヴォルフ「イタリア歌曲集」(2013年7月5日 杉並公会堂 小ホール)

友野玲子&白岩貢&小木曽美津子 リートリサイタル
歌で紡ぐ男と女の恋物語
2013年7月5日(金)19:00 杉並公会堂 小ホール(全自由席)

友野玲子(ともの れいこ)(S)
白岩貢(しらいわ みつぐ)(Br)
小木曽美津子(おぎそ みつこ)(P)

フーゴー・ヴォルフ(Hugo Wolf)/イタリア歌曲集(ITALIENISCHES LIEDERBUCH)(全曲)

1. 小さなものでも(S)
2. 遠くへ旅立つそうね(S)
3. 君は何よりも美しい(Br)
4. 祝福あれ、この世を作られた方に(Br)
39. 緑色に祝福を(S)
6. 誰があなたを呼んだの?(S)
44. ああ、お前は知っているか(Br)
7. 月は重い悲しみを引き摺って(Br)
24. もう乾いたパンを食べることはない(S)
11. どんなに長い間(S)
14. 仲間よ、僧衣をつけよう(Br)
12. いいえ、お若いかた(S)
9. お前の魅力が(Br)

10. あなたは細い一本の糸で(S)
13. いい気なもんだね、美しい娘さん(Br)
28. 私が高貴な出でないからといって(S)
30. 勝手にさせておけ(Br)
32. なぜ怒っているの(S)
20. 恋人が月明かりで歌っている(S)
22. セレナードを奏でるために(Br)
19. わたしたちは長いこと黙っていた(S)
8. さあ仲直りしよう(Br)
33. 花に覆われてわたしは死にたい(Br)
36. もしあなたが天に召されるなら(S)

~休憩~

23. どんな歌を君に歌ったらいいのか(Br)
15. 私のかわいい恋人(S)
5. 闇の世界に生きる人たちは幸せだ(Br)
25. 恋人がわたしを食事に招いた(S)
26. 色んな人が私に話してくれた(S)
27. 疲れた体をベッドに投げだして(Br)
21. 噂ではあなたのお母さんが(S)
17. 恋人の死を見たいなら(Br)
18. お前のブロンドの頭をあげて(Br)
29. 高貴なあなたのご身分はわかる(S)
34. あなたが朝早くに起きると(Br)
35. 亡き母に祝福あれ(Br)

16. 戦場へ行くお若い方々(S)
31. どうして私が陽気に笑えましょう(S)
37. ずいぶん時間を無駄にした!(Br)
40. ああ、あなたのお家がガラスのように(S)
38. 君が僕をちらりと見て(Br)
41. 昨夜僕が真夜中に目覚めたとき(Br)
45. 深い淵が恋人の小屋を(S)
42. もうこれ以上は歌えない(Br)
43. もう黙ったらどう!(S)
46. ペンナに私の恋人がいる(S)

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大好きなヴォルフの作品「イタリア歌曲集」が演奏されるというので、杉並公会堂の小ホールまで出かけた。
このホールは初めて来たが、荻窪駅から大きな通り沿いに7、8分歩いたところにあった。
建物の地下2階までエレベータで降りたところに小ホールはあり、当日券を買って左側の前の方の席に座った。

演奏されるお三方とも寡聞にしてはじめて聴く方ばかりだったが、結論から言うと、非常に充実した大人の演奏を堪能できた。
演奏に先立ってピアニストの小木曽美津子さんが登場して、曲目についてのプレトークがあったが、今回ヴォルフの出版順序のままではなく、独自の順番を決めたのが苦労されたとのこと。
その意気込みにまず拍手を贈りたい。
実際にテキストのつながりに配慮されながら、曲調が同じにならないような工夫も見られ、変化に富んだプログラミングとなったように感じられた。

歌手の2人は、その曲を歌う人がピアノの前に立ち、もう一人は右側の脇に立ったまま待機する形をとり、場所を入れ替えながら進行していく。

ソプラノの友野玲子さんは例えばエルナ・ベルガーやアーメリングにも共通する透明で清潔感のあるリリックな美声をもち、細やかな表現からドラマティックな迫力まで幅の広さのある歌い手だった。
ヴォルフが各曲にこめた微細な表情を見落とさず、しっかりと掬いあげる歌唱はリートを聴く醍醐味を満喫させてくれ、本当に素敵なソプラノであった。
一方のバリトン、白岩貢さんはダンディな伊達男を演じて見事に聴き手をその世界に引きずり込む魅力をもっており、特にコミカルな表情や直球のラブソングなどが際立っていた。
若干歌詞のミスなども聞かれたが、歌詞を別の言葉に置き換えて悟られないようにするところなど、見事なものだった(もちろん間違えないに越したことはないが、ライヴでは大抵歌詞のミスは避けられないものだ)。

お二人とも声を張った時にホールを満たす響きが魅力的で、堂々たる男女の駆け引きを聴かせてくれた。
ほとんど演技は付かなかったが、オペラではないので、歌の表情でこれほどの情景を描き出せれば何の不足もない。

さて、忘れてならないのが、ピアノの小木曽美津子さんの素晴らしさ!
細身の体から実に雄弁な音楽が生み出される。
テクニックも非常に安定していて、作品ごとの曲調の違いなどものの見事に描き分ける。
ヴォルフの複雑な書法を演奏するのに全く見事なめりはりのある演奏を披露していて、拍手を贈りたい。
彼女の柔軟かつ雄弁な音楽があってこその名演だったといえるのではないか。

途中休憩15分ほどをはさみ、9時前には終了したが、本当にこのヴォルフの歌曲集は楽しい。
時の流れを忘れてしまうほどだ。

なお、今回ステージ後ろにスクリーンがあり、演奏と同時進行で歌詞対訳が映されていたのは、作品を理解する大きな助けになっただろう(途中機械の故障か映らなくなってしまった時があったが)。
対訳はどこかで見た覚えがあるなぁと思っていたが、どうやら「詩と音楽」サイトに掲載されている私が訳した対訳が使われていたようだった。
この歌曲集を訳していた時はあれこれ思い切った言葉をひねくり回して本当に楽しかったことを思い出す。
そういう意味でも印象深いコンサートとなった。
またこのメンバーによる演奏をいつか聴いてみたいものである。

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髙橋節子&田代和久&平島誠也/ヴォルフ「イタリア歌曲集」(2013年3月6日 日暮里サニーホール コンサートサロン)

ヴォルフ(Hugo Wolf)/イタリア歌曲集(Italienisches Liederbuch)

2013年3月6日(水)19:00 日暮里サニーホール コンサートサロン(全席自由)
髙橋 節子(Setsuko TAKAHASHI)(ソプラノ)
田代 和久(Kazuhisa TASHIRO)(バリトン)
平島 誠也(Seiya HIRASHIMA)(ピアノ)

第一巻
 1. 小さくてもうっとりさせるものがあるわ(S)
 2. 遠くへ旅立つと聞かされたの(S)
 3. 君は世にも稀なる美しさだ(Br)
 4. 祝福あらんことを、この世を創造された方に(Br)
 5. 目の見えないものは幸せである(Br)
 6. 一体誰があなたを呼んだの?(S)
 7. 月はやるせなき悲嘆にくれ(Br)
 8. もう、講和条約を結ぼう、最愛の人よ(Br)
 9. 君の魅力すべてが絵に描かれて(Br)
 10. あなたはたった一本の細い糸で私を捕まえて(S)
 11. どれほど長い間待ち望んでいたことでしょう(S)
 12. 駄目よ、お若い方、そんなことをしては本当に(S)
 13. 高慢ちきだな、別嬪さんよ(Br)
 14. 相棒よ、修道服にでもくるまってみるか(Br)
 15. 私の恋人はこんなに小さくてかわいいの(S)
 16. 戦場に向かわれるお若い方々(S)
 17. 君の恋人が身罷るのを見たいのならば(Br)
 18. ブロンドの頭を上げなさい、眠ってはいけないよ(Br)
 19. 私たちは二人とも長いこと押し黙っていた(S)
 20. 私の恋人が月明かりの注ぐ家の前で歌っているわ(S)
 21. あなたのお母さんが望んでいないらしいわね(S)
 22. 皆様方へセレナーデを持参いたしました(Br)

~休憩~

第二巻
 23. 君にどんな歌を歌ってあげたらいいのか(Br)
 24. もう固くなったパンを食べることはありません(S)
 25. 恋人が私を食事に招いてくれたの(S)
 26. 私が聞かされた噂によると(S)
 27. 疲れ切ってベッドに横たわったのに(Br)
 28. 公爵夫人じゃないだろうって、私に言うけど(S)
 29. 賤しからぬあなたの御身分はよく存じ上げております(S)
 30. 好きにさせておけ、お高くとまった女なんて(Br)
 31. 陽気になんてしていられるものですか(S)
 32. 一体何をそんなに怒っているの?大切な人(S)
 33. 僕が死んだら花で体を覆ってほしい(Br)
 34. 君が朝早くベッドから起きて(Br)
 35. 幸せなる母君に祝福を(Br)
 36. 愛する人、あなたが天に召されるとき(S)
 37. 君を愛しすぎて多くの時間を失ってしまった(Br)
 38. 君は僕をちらりと見てほほえむ(Br)
 39. 緑と緑色をまとう人に幸がありますように!(S)
 40. ああ、あなたの家がガラスのように透きとおっていたらいいのに(S)
 41. 昨夜僕は真夜中に起き上った(Br)
 42. 僕はもうこれ以上歌えない、だって風が(Br)
 43. ちょっと黙りなさい、そこの不愉快なお喋り男!(S)
 44. ああ、君はわかっているのか、君のためにどれほど(Br)
 45. 深淵が恋人の小屋を飲み込んでしまうがいい(S)
 46. 私、ペンナに住んでる恋人がいるの(S)

~アンコール~
ヴォルフ/「イタリア歌曲集」より~幸せなる母君に祝福を(S & Br)

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ヴォルフの「イタリア歌曲集」はイタリアの男女の恋唄をパウル・ハイゼが独訳したものをテキストにしている。
従って、「イタリア」と銘打っていても「ドイツ」の香りの漂う作品群である。
各曲は1~2分のものがほとんどで、全46曲演奏しても80分弱ほど。
男女の恋をテーマにしているだけあって、惚れたはれただけで済むはずはなく、恋の駆け引きや、激しい痴話げんか、修羅場も登場する。
それらが短い各曲にぎゅっと濃縮されているだけあって、各曲のインパクトは強い。
それらをドイツものに定評のある演奏者たちが演奏するのだから、これは楽しい一夜となった。
とはいえバリトンの田代和久氏を聴くのは私の記憶ではこれが初めて。
ソプラノの髙橋さんと同じ古楽集団に属しているそうだが、実際に聴いてみて、むらのないスタイリッシュな歌唱は確かに古楽で力を発揮していると思わせるものがあった。
だが、それ以上に田代さんの強みは声そのものの美しさだろう。
なんともノーブルで甘美な美声が聴く者を酔わす。
「イタリア歌曲集」にはまさにうってつけの声と歌であった。
ステージ上では歌手たちのための椅子が右端に置かれ、歌う方は中央に立ち、もう一人は椅子に座る。
従って、オペラのような二人の駆け引きがステージ上で見られるわけではないのだが、音楽だけですでに立派な駆け引きになっているのだから、無理して演技することもないだろう。
田代さんの歌唱では「ブロンドの頭を上げなさい、眠ってはいけないよ」や33~35曲目のゆるやかなタイプの曲が出色の出来だった。
一方の髙橋さんはドイツリートの優れた歌手として、すでに何度もその名演に接してきたが、今回はかなり曲に合わせて感情の起伏を大きくとった歌唱が見事だった。
「私の恋人が月明かりの注ぐ家の前で歌っているわ」での会いたいけれど会えない複雑な心境の表現など素晴らしいものだった。
そして、女版ドン・ジョヴァンニともいえる終曲「私、ペンナに住んでる恋人がいるの」では高々と歌いあげ、締めには高笑いまで響かせて、人物になりきった素晴らしい歌唱だった。
そして、この46もの難曲を一人で演奏したピアノの平島誠也氏はいつにも増して張り切っていた(ように感じた)。
大変な思いをしつつもご本人も楽しんで弾いているようにすら感じられたのである。
下手っぴなヴァイオリニストを描写する「どれほど長い間待ち望んでいたことでしょう」では、カチカチに固まったトリルを聴かせる前に、充分な「間」をとって、聴き手をさらにじらす。
そこに平島さんのほくそ笑みが感じられたのである。
どの曲でも安定した技術の裏付けがあるからこそ、ヴォルフの万華鏡のような各曲の感情をこまやかに描き出すことが可能なのだろう。

今回はヴォルフの出版したとおりの順序で演奏され、それももちろん自然な流れになるようになっているので、何の問題もないが、次には、さらに順序を入れ替えた版でもこの3人の演奏を聴いてみたい気がする。
その際にはどのような流れにするかで、演奏者の恋愛観までうかがえるかもしれないのである。

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佐々木典子&河野克典&三ツ石潤司/ヴォルフ「イタリア歌曲集」(2011年10月21日 東京文化会館 小ホール)

佐々木典子+河野克典デュオ・リサイタル
フーゴー・ヴォルフ イタリア歌曲集〈全曲演奏会〉

2011年10月21日(金)19:00 東京文化会館 小ホール(E列25番)

佐々木典子(Noriko Sasaki)(Soprano)
河野克典(Katsunori Kono)(Bariton)
三ツ石潤司(Junji Mitsuishi)(Piano)

フーゴー・ヴォルフ(Hugo Wolf: 1860-1903)/イタリア歌曲集(Italienisches Liederbuch)

 第1巻 全22曲(1890/91)

~休憩~

 第2巻 全24曲(1896)

~アンコール~
ヴォルフ/隠棲(Verborgenheit)(佐々木 & 三ツ石)
ヴォルフ/アナクレオンの墓(Anakreons Grab)(河野 & 三ツ石)
メンデルスゾーン(Mendelssohn)/スズランと花々Op.63-6(Maiglöckchen und die Blümelein)(佐々木 & 河野 & 三ツ石)

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なんと楽しくわくわくする瞬間の連続だったことだろう!!
ヴォルフの「イタリア歌曲集」全曲を聴いて、休憩15分を挟んだ1時間40分があっという間に過ぎていってしまった。

この歌曲集、男女の恋の駆け引きを扱ったイタリア起源の短い詩の独訳に作曲したものとして、ヴォルフの作品中で特殊な位置を占めていると思う。
そして、全曲で46もの歌があるものの、各曲1~2分前後、長くても4分ほどというコンパクトさで、一気に聴き続けることが出来る。
しばしば演奏者によって、曲の順序を入れ替えて独自の効果を試みることも少なくないが、今回はヴォルフの配列どおりに進み、前半に第1巻の22曲、後半に第2巻の24曲が演奏された。
ヴォルフ自身はこの第1巻と第2巻の間に5年間ものブランクをあけているが、両者の間に大きなギャップはなく、ミックスしようが、そのまま演奏しようが、曲の楽しみは損なわれない。
そして、今回のヴォルフ自身の配列をあらためて聴いて、このオリジナルの順序も非常に周到に考慮されていて見事な配列だなぁと実感させられることとなった。

東京文化会館小ホールの舞台には、ピアノの前にいすが2つ離れて置かれ、左側のいすの前には水差しと花瓶を置いたテーブルが置かれている。
また、中央には譜面台が置かれていた。
そして演奏者が登場すると、花瓶には花が挿され、そのテーブル近くの席にソプラノの佐々木典子、そして右側の席にバリトンの河野克典が座った。
2人の歌手の手にはヴィーンのMusikwissenschaftlicher Verlagから出版されている緑色のヴォルフ全集の楽譜があった。
蓋を全開にしたピアノの前に座った三ツ石潤司は眼鏡をかけて、第1曲の「小さなものでも」を演奏し始めた。

佐々木さんは全身黒ずくめの、体にフィットしたドレスで登場したが、いくらでも衣裳に凝りようがある作品で、あえて黒を選んだのは、様々なタイプの女性が登場するうえで、かえって1つのイメージにとらわれず、聴き手のイメージをふくらます意味で効果的だったように感じた。
風邪気味だったのか(合間に水をよく飲んでいた)、最初のうち、若干音程があがりきらない箇所もあったものの、徐々に調子をあげ、語るような箇所も歌い上げる箇所もよく通る芯のある声を響かせて、抗えない魅力を振りまいた。
ちょっとした表情や仕草で、曲ごとに異なる女性像を一瞬のうちに浮かび上がらせてくるのはさすがオペラで主役を張る名歌手だけのことはある。
またアンコールで歌われた「隠棲」での実に真摯な表現も心に迫ってきて感動的だった。

河野さんの歌唱はあたかもネイティヴの歌手が歌っているかのように発音も発声も全く無理がなく、まろやかに美しく響いてくる。
世界中の優れた現役リート歌手を数えても10人の中に入るのではないかと思うほど、その歌唱は脂が乗り切っていて本当に素晴らしい。
わが国からこのような第一級のリート歌手が輩出されたということに誇りをもちたいほどだ。
以前彼の歌唱を聴いた際にテキストの間違いが少なくなかったのが唯一惜しかった点だったのだが、今回は楽譜を前に置いた為、殆ど問題なく歌われたのが良かった。
彼は真摯な表現が得意だと思いこんでいたのだが、このヴォルフの歌曲集でさりげなく何の無理もなく自然に声色や口調を変えて表現されたユーモア感覚は新たな発見であった。
これほどコミカルな歌唱にも長けていたとは・・・。

歌手たちは2人とも楽譜を置き、軽く目で追いながら歌っていたが、それでも出る箇所を間違える場面は多少出てくる。
そうしたアクシデントの際に聴衆に気付かれずにうまく対応する三ツ石氏の手腕も実に見事だった。
三ツ石さんのピアノはさくさくと滞りなく進む為、最初のうちは曲によってはちょっと薄味だなぁと感じたりもしていたが、曲が進むにつれ、徐々に立体的な遠近感が生まれ、緊張感が途切れないように曲を進めながら、次々とこれらの難曲たちを雄弁にピアノに語らせていたのは大したものだと感心することしきりだった。
「ああなんて長いこと待ってたのかしら」におけるたどたどしいヴァイオリン演奏を模した後奏など、必ずしもヴォルフの指示通りではないながらも実に洒落っ気たっぷりのぎこちなさを演じていたし、「恋人に焦がれ死ぬような想いをさせたいなら」での風になびく髪を模したようなアルペッジョでの美しさなど、ピアノパートに聞き惚れる瞬間もしばしば。
テクニックも万全で、「深い底にあの人の家が呑み込まれたらいいのよ」や「私ペンナに恋人がいるの」などの技巧的な作品では華麗な技を惜しげもなく披露していて素晴らしかった。

基本的には歌っている人が楽譜立ての前で立ち、歌い終えた歌手は椅子に座っている為、演技は歌っている人が中心だったのだが、たまに相手を向いて感情をむき出しにする場面があると、相手も椅子のうえで軽く反応したりするのもいい雰囲気だった。

配布された歌詞集は歌手2人が自分の歌うテキストを担当して訳していた。
ヴォルフの「イタリア歌曲集」はもっと演奏会で取り上げられてもいいのにと思わずにはいられないほど、非常に楽しいコンサートであった。
ヴォルフと3人の演奏家たちにブラヴォー!

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ヴォルフ「イタリア歌曲集」全曲の映像

パメラ・コバーン(ソプラノ)とヘルマン・プライ(バリトン)がそれぞれヘルムート・ドイチュとトーマス・レアンダーのピアノで、ヴォルフの「イタリア歌曲集」を男女の対話が続くような配列に並べ替えて全曲演奏したライヴ映像を見つけました。

いつもはプライと共演しているドイチュが、ここではコバーンの共演者となり、プライの共演者はレアンダーという人。
ピアニストが異なると、曲と曲の合間をほとんどおかずに畳み掛けるように曲をつなげることが出来るのが効果的です。

アップしてくれた方に感謝!
素晴らしい演奏なので、ぜひご覧ください。

Recorded at Festhalle Bad Urach, 1989

(1/6)
Auch kleine Dinge können uns entzücken(小さくてもうっとりとさせられるものはある) (S)
Nicht länger kann ich singen, denn der Wind(ぼくはもう歌えないよ、だって風が) (BR)
Schweig einmal still, du garst'ger Schwätzer dort(ちょっと黙ってよ、そこの不愉快なおしゃべり男) (S)
O wüßtest du, wie viel ich deinetwegen(おお、お前は分かっているのだろうか、どれほど俺がお前を思って) (BR)
Wer rief dich denn?(一体誰があんたを呼んだのよ) (S)
Hoffärtig seid Ihr, schönes Kind(ふんぞり返っておいでだな、麗しき娘よ) (BR)
Was soll der Zorn, mein Schatz, der dich erhitzt(なにを怒っているの、大切な方、そんなに熱くなって) (S)
Geselle, woll'n wir uns in Kutten hüllen(相棒よ、おれたちゃ修道服でもまとって) (BR)
Verschling der Abgrund meines Liebsten Hütte(深淵が恋人の小屋を飲み込んでしまえ) (S)
Nun laß uns Frieden schließen(さあ、仲直りしよう) (BR)

(2/6)
Wohl kenn' ich Euren Stand, der nicht gering(賤しからぬあなた様の御身分は重々承知しておりますわ) (S)
Wenn du mich mit den Augen streifst und lachst(君が僕をちら見して笑い出し) (BR)
Wenn du, mein Liebster, steigst zum Himmel auf(あなたが、愛する方、天国に昇る時がきたら) (S)
Gesegnet sei, durch den die Welt entstund(この世界の生みの親に祝福あれ) (BR)
Mir ward gesagt, du reisest in die Ferne(遠いところに旅立つそうね) (S)
Selig ihr Blinden(見えない人たちは幸いだ) (BR)
Man sagt mir, deine Mutter woll es nicht(あなたのお母さんがお望みでないらしいわね) (S)
Heut Nacht erhob ich mich um Mitternacht(昨夜、真夜中に私が起き上がると) (BR)
O wär dein Haus durchsichtig wie ein Glas(ああ、あなたのお家がガラスみたいに透き通っていたらいいのに) (S)

(3/6)
Schon streckt' ich aus im Bett die müden Glieder(ベッドの中でへとへとの体を大きく伸ばしているというのに) (BR)
Heb' auf dein blondes Haupt und schlafe nicht(ブロンドの頭をあげておくれ、眠るんじゃないぞ) (BR)
Mein Liebster singt am Haus im Mondenscheine(あたしの恋人が月明りの注ぐ家の前で歌っているわ) (S)
Ein Ständchen Euch zu bringen kam ich her(セレナードを捧げにわたくし参りました) (BR)
Wir haben beide lange Zeit geschwiegen(私たちは二人とも、長いこと押し黙っていました) (S)
Was für ein Lied soll dir gesungen werden(君にはどんな歌を歌ってあげたらいいのかな) (BR)
Ich esse nun mein Brot nicht trocken mehr(私はもう乾いたパンを食べることはありません) (S)

(4/6)
Benedeit die sel'ge Mutter(今は亡き君の母上に祝福あれ) (BR)
Ihr jungen Leute, die ihr zieht ins Feld(戦場に向かわれるお若い方々) (S)
Sterb' ich, so hüllt in Blumen meine Glieder(僕が死んだら、この体を花で包みこんでおくれ) (BR)
Wie soll ich fröhlich sein und lachen gar(どうして陽気でいられるもんか、まして笑うことなんて) (S)
Der Mond hat eine schwere Klag' erhoben(月がひどい不満をぶちまけ) (BR)
Gesegnet sei das Grün und wer es trägt(緑色と、緑を身にまとう人に幸ありますように) (S)
Und willst du deinen Liebsten sterben sehen(君の彼氏が死ぬところを見たいのなら) (BR)

(5/6)
Mein Liebster hat zu Tische mich geladen(彼氏があたしを食事に招いてくれたの) (S)
Ich ließ mir sagen und mir ward erzählt(私がしょっちゅう聞かされた噂では) (BR)
Wie lange schon war immer mein Verlangen(もうどれほどずっと待ち焦がれてきたことでしょう) (S)
Und steht Ihr früh am Morgen auf vom Bette(それから、あなたが朝早くベッドから起き上がり) (BR)
Mein Liebster ist so klein(私の恋人はとってもちっちゃいの) (S)
Daß doch gemalt all deine Reize wären(君の魅力がすべて描かれて) (BR)
Du denkst mit einem Fädchen mich zu fangen(あなたは細い糸たった一本で私を捕まえて) (S)
Ihr seid die Allerschönste weit und breit(あなたはこの世で最高に美しい方) (BR)
Nein, junger Herr, so treibt man's nicht, fürwahr(駄目よ、お若い方、そんな事しちゃ嫌) (S)

(6/6)
Wie viele Zeit verlor ich, dich zu lieben(君を愛することで、どれほどの時間を無駄使いしてきたことか) (BR)
Du sagst mir, daß ich keine Fürstin sei(侯爵夫人様じゃないんだからって、あたしに言うけど) (S)
Laß sie nur gehn, die so die Stolze spielt(放っておけばいいさ、あんな高慢ちきを演じる女なんか) (BR)
Ich hab in Penna einen Liebsten wohnen(あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの) (S)

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ヴォルフ/夏の子守歌(Wiegenlied im Sommer)

Wiegenlied im Sommer
 夏の子守歌

Vom Berg hinab gestiegen
Ist nun des Tages Rest;
Mein Kind liegt in der Wiegen,
Die Vögel all' im Nest;
Nur ein ganz klein Singvögelein
Ruft weit daher im Dämmerschein:
"Gut' Nacht! gut' Nacht!
Lieb' Kindlein, gute Nacht!"
 山から下りて行くのは
 今や昼間の名残。
 わが子はゆりかごの中。
 鳥たちはみな巣の中。
 ただ一羽のちっちゃなスズメが
 黄昏の光の中で遠くから呼んでいる。
 「おやすみ、おやすみ!
 かわいい子よ、おやすみね!」

Die Wiege geht im Gleise,
Die Uhr tickt hin und her,
Die Fliegen nur ganz leise
Sie summen noch daher.
Ihr Fliegen, laßt mein Kind in Ruh'!
Was summt ihr ihm so heimlich zu?
"Gut' Nacht! gut' Nacht!
Lieb' Kindlein, gute Nacht!"
 ゆりかごは揺れ、
 時計はチクタク音をたてて、
 ハエたちはとても静かに
 まだ羽音をたてている。
 ハエよ、わが子を休ませておくれ!
 何をそんなにこっそりと羽音をたてているのか?
 「おやすみ、おやすみ!
 かわいい子よ、おやすみね!」

Der Vogel und die Sterne,
Und alle rings umher,
Sie haben mein Kind so gerne,
Die Engel noch viel mehr.
Sie decken's mit den Flügeln zu
Und singen leise: "Schlaf in Ruh!
Gut' Nacht! gut' Nacht!
Lieb' Kindlein, gute Nacht!"
 鳥や星や
 あたり一面のあらゆるものは
 わが子のことが大好き。
 天使たちはもっと大好きで
 翼を子どもにかぶせて
 そっと歌う「安らかに眠るんだよ!
 おやすみ、おやすみ!
 かわいい子よ、おやすみね!」

詩:Robert Reinick (1805-1852)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

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残暑お見舞い申し上げます。
うだるような暑さの中、私もへばっておりますが、清涼感あふれる歌曲でしばし癒されてみてはいかがでしょう。

ヴォルフ作曲「女声のための六つの歌(Sechs Lieder für eine Frauenstimme)」の第4曲「夏の子守歌」は、ヴォルフ初期の優しい視線が感じられる音楽です。
詩はローベルト・ライニクによります。

Elisabeth Schwarzkopf & Gerald Moore
シュヴァルツコプフの気品あふれる歌とムーアの温かいタッチが美しいです。

Esther Ofarim
ポピュラー系の歌手でしょうか。抑えたハスキーヴォイスが新鮮な魅力を感じさせてくれます。

この曲をはじめて聴いたのは、アーメリングがボールドウィンと録音した「ドイツロマン派歌曲集」のLP(PHILIPS)でした。
そろそろCD化されないものでしょうか。

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