シューベルト/「春の憧れ」(Schubert: Frühlingssehnsucht, D 957, No. 3)を聞く

Frühlingssehnsucht, D 957, No. 3
 春の憧れ

1.
Säuselnde Lüfte
Wehend so mild,
Blumiger Düfte
Athmend erfüllt!
Wie haucht Ihr mich wonnig begrüßend an!
Wie habt Ihr dem pochenden Herzen gethan?
Es möchte Euch folgen auf luftiger Bahn!
Wohin?
 ざわめく風が
 穏やかに吹き
 花の香りが
 放たれ いっぱいになる!
 きみは僕に喜んで挨拶をし、息を吐きかける!
 きみはこのどきどきする心に何をしたんだい?
 風の道を通ってきみに付いて行きたい!
 でもどこへ?

2.
Bächlein, so munter
Rauschend zumal,
[Wollen]1 hinunter
Silbern in's Thal.
Die schwebende Welle, dort eilt sie dahin!
Tief spiegeln sich Fluren und Himmel darin.
Was ziehst Du mich, sehnend verlangender Sinn,
Hinab?
 小川は、こんなに元気に
 いっせいに音を立てながら
 谷へと
 銀色に輝き下ろうとする。
 漂う波、それはあちらへと急いで行きたいのだ!
 野原や空が水底深くに映っている。
 どうやってきみは僕を引っ張っていくのか、切望して、欲しがる気持ちよ、
 向こうへ下りながら?

3.
Grüßender Sonne
Spielendes Gold,
Hoffende Wonne
Bringest Du hold.
Wie labt mich Dein selig begrüßendes Bild!
Es lächelt am tiefblauen Himmel so mild,
Und hat mir das Auge mit Thränen gefüllt! -
Warum?
 挨拶する太陽が
 金色にゆらめく、
 望みをもつことの喜びを
 きみは優しくもたらしてくれる。
 きみが幸せに満ちて迎えてくれる姿がどれほど僕を元気づけることか!
 藍色の空はとても穏やかに微笑み、
 僕の目は涙でいっぱいになった!
 でもどうして?

4.
Grünend umkränzet
Wälder und Höh'!
Schimmernd erglänzet
Blüthenschnee!
So dränget sich Alles zum bräutlichen Licht;
Es schwellen die Keime, die Knospe bricht;
Sie haben gefunden was ihnen gebricht:
Und Du?
 周囲を緑に飾るのは
 森や丘!
 きらきら輝くのは
 雪のように舞う花々!
 あらゆるものが花嫁の放つ光へと突き進む、
 芽はふくらみ、蕾は開き、
 彼らに足りなかったものを見つけたのだ、
 ではきみはどうなんだ?

5.
Rastloses Sehnen!
Wünschendes Herz,
Immer nur Thränen,
Klage und Schmerz?
Auch ich bin mir schwellender Triebe bewußt!
Wer stillet mir endlich die drängende Lust?
Nur Du [befreist]2 den Lenz in der Brust,
Nur Du!
 絶え間ない憧れ!
 欲する心、
 常に涙、
 嘆き、苦しみばかりなのか?
 僕だって衝動が膨らんでくるのを自覚している!
 僕の急き立てられた欲望をようやく鎮めてくれるのは誰なのか?
 きみだけが胸の中に春を解き放ってくれる、
 きみだけなのだ!

1 Rellstab: "Wallen"
2 Rellstab: "befreiest"

詩:Ludwig Rellstab (1799-1860), "Frühlings-Sehnsucht"
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828), "Frühlingssehnsucht", D 957 no. 3 (1828), published 1829 [voice and piano], from Schwanengesang, no. 3, Tobias Haslinger, VN 5370, Wien

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シューベルトの死後『白鳥の歌 D957』として出版された歌曲集の第3曲に置かれた「春の憧れ」は、その名の通り、春がやってくる期待感、いてもたってもいられない焦燥感をこれ以上ないぐらい見事に描いた作品です。
シューベルトは亡くなる直前にルートヴィヒ・レルシュタープの詩にまとめて作曲しています。それらは兵士の孤独感、甘美な恋の歌、疎外感でいっぱいの心情、慣れ親しんだものからの別れ等多岐にわたり、それぞれが晩年(というにはあまりにも若すぎますが)のシューベルトの熟した技法で作曲されています。

この第3曲の詩を見ると春の到来と同時に、第4連にあるように「足りなかったもの(was ihnen gebricht)」つまり伴侶を見つけるということが主人公にとっての春であることが分かります。風や花や小川や太陽が主人公の心の中の衝動を引き起こそうとします。最終連で主人公は僕にも衝動が膨らんできて、それを鎮めてくれるのは「きみだけ(nur du)」なんだと気づきます。春が恋する気持ちを呼び覚ます、なんともロマンティックな詩ですね。

シューベルトはこの春に「突き動かされる」心情に焦点を当てて速いスピードで表現しています。歌声部は、詩のリズムに合わせた「♩♪♪」のリズムが印象的です。ちなみに第1連から第4連は有節形式で、詩句の音節の数に応じた多少の音価の違いがあるのみです(ちなみに旧全集の楽譜ではリピート記号で第1~4連を繰り返していますが、初版ではすべての節を記載していました)。最終連(第5連)でこれまでの変ロ長調(B-dur)から変ロ短調(b-moll)に転調して、主人公が憧れて満たされないあまりに、泣いたり嘆いたり苦しんだりするだけなのかとこぼす箇所の辛さを表現します。その後、もう一度同じ個所を繰り返す時には変ニ長調(Des-dur)に転調して、主人公の一瞬の気持ちの陰りも衝動の力によってポジティブに変わっていくことを示しているように思います。その後、もとの変ロ長調に戻りますが、歌の最後"Nur Du!"の"Du"をソの音で終わらせて、「きみ」に呼びかけているような効果を感じさせます。ピアノ後奏も変ロ長調のまま進みますが、最後の主和音の一つ前のIVの和音の第3音をフラットで半音下げてちょっとした陰りを加えるところなど「きみ」への一抹の不安が表現されていて、心憎い締めくくりとなっています。

●冒頭部分:初版(Vienna: Tobias Haslinger, n.d.[1829])
Fruhlingssehnsucht-first-edition 

2/4拍子
変ロ長調 (B-dur)
Geschwind (速く)

●ヘルマン・プライ(BR), ヴァルター・クリーン(P)
Hermann Prey(BR), Walter Klein(P)

「春の憧れ」は7:26からです。プライは数回『白鳥の歌』を録音していますが、第1回目のこの録音は忘れられない名盤です。若かりしプライは勢いをつけて威勢よく歌っています。他の時期にはない全霊を込めた熱唱でただただその熱気に引き込まれます。クリーンもプライの熱気を生かした雄弁な演奏です。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), アルフレート・ブレンデル(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Alfred Brendel(P)

年を重ねた人にももちろん平等に春はやってきます。円熟期のディースカウが若い頃に劣らず春への期待感をめりはりつけて歌っているところに感銘を受けます。ブレンデルの雄弁なリズム感も素晴らしいです。

●ハンス・ホッター(BSBR), ジェラルド・ムーア(P)
Hans Hotter(BSBR), Gerald Moore(P)

温かみのある歌とピアノのコンビです。最後の「きみだけなのだ!(Nur du!)」に込められた寂寥感が印象的です。

●ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)

シュライアーの爽やかな美声と、涼風が吹き渡るような軽快なオルベルツのピアノが素晴らしいです!

●マティアス・ゲルネ(BR), クリストフ・エッシェンバハ(P)
Matthias Goerne(BR), Christoph Eschenbach(P)

ゲルネはこういう軽快な曲にも違和感なく対応できるのが凄いです。

●ジェラール・スゼー(BR), ドルトン・ボールドウィン(P)
Gérard Souzay(BR), Dalton Baldwin(P)

スゼーの歌は気品のある優しい響きがこの曲のもつ爽やかさとぴったり合致していて魅力的でした。ボールドウィンのピアノが押し寄せる焦燥感を素晴らしく表現していました。3,4節を省略していたのがもったいないぐらい、もっと聞いていたい演奏でした。

●クリストフ・プレガルディアン(T), アンドレアス・シュタイアー(Fortepiano)
Christoh Prégardien(T), Andreas Staier(Fortepiano)

さすがプレガルディアン!第2節以降、かなり装飾・変更をしています。もちろんシュタイアーも第3節以降、同様に変更を加えています。ぼーっと聞いていても、急に聞きなれない音が聞こえるので、一瞬で目が覚めます。最初の4節は完全な有節形式なので、こういう変更は他のアーティストもやりやすいのでは。

●アンドレ・シュエン(BR), ダニエル・ハイデ(P)
Andrè Schuen(BR), Daniel Heide(P)

新世代のリート歌手シュエンが力強さと丁寧さを両立させた歌を聞かせています。ハイデも丁寧な演奏でした。

●エリー・アーメリング(S), ドルトン・ボールドウィン(P)
Elly Ameling(S), Dalton Baldwin(P)

アーメリングは各節最終行の2音節(Wohin?など)の陰りを帯びた表情が絶妙です。

●ヤン・コボウ(T), クリスティアン・ベザイデンホウト(Fortepiano)
Jan Kobow(T), Kristian Bezuidenhout(Fortepiano)

古楽を得意とするコボウらしく新鮮な歌唱でした。ベザイデンホウトのフォルテピアノはいろいろ仕掛けていて新しい側面を引き出していたように感じました。

※有名な「白鳥の歌」の中の1曲なので、他にも沢山の録音があります。皆さんのお気に入りを探してみるのもいいかもしれません。

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(参考)

The LiederNet Archive

IMSLP (楽譜)

Schubertlied.de (Frühlingssehnsucht, D 957, No. 3)

Wikipedia - ルートヴィヒ・レルシュタープ

Wikipedia - Ludwig Rellstab (Dichter) (ドイツ語)

Wikipedia - Ludwig Rellstab (英語)

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(CD)

ヘルマン・プライ(BR), ヴァルター・クリーン(P)

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), アルフレート・ブレンデル(P)

ハンス・ホッター(BSBR), ジェラルド・ムーア(P)

ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)

マティアス・ゲルネ(BR), クリストフ・エッシェンバハ(P)

クリストフ・プレガルディアン(T), アンドレアス・シュタイアー(Fortepiano)

アンドレ・シュエン(BR), ダニエル・ハイデ(P)

エリー・アーメリング(S), ドルトン・ボールドウィン(P)

ヤン・コボウ(T), クリスティアン・ベザイデンホウト(Fortepiano)

ジェラール・スゼー(BR), ドルトン・ボールドウィン(P)

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東京春祭 歌曲シリーズ vol.39:コンスタンティン・クリンメル(バリトン)&ダニエル・ハイデ(ピアノ)(2024年4月12日(金) ライブ配信席)

東京春祭 歌曲シリーズ vol.39
コンスタンティン・クリンメル(バリトン)&ダニエル・ハイデ(ピアノ)

2024年4月12日(金) 19:00開演(18:30開場)
東京文化会館 小ホール(※私はライブ配信で聞きました)

バリトン:コンスタンティン・クリンメル
ピアノ:ダニエル・ハイデ

シューベルト:《美しき水車屋の娘》D795

 第1曲 さすらい
 第2曲 どこへ?
 第3曲 止まれ!
 第4曲 小川への言葉
 第5曲 仕事を終えた宵の集いで
 第6曲 知りたがる男
 第7曲 苛立ち
 第8曲 朝の挨拶
 第9曲 水車職人の花
 第10曲 涙の雨
 第11曲 僕のもの
 第12曲 休み
 第13曲 緑色のリュートのリボンを手に
 第14曲 狩人
 第15曲 嫉妬と誇り
 第16曲 好きな色
 第17曲 邪悪な色
 第18曲 凋んだ花
 第19曲 水車職人と小川
 第20曲 小川の子守歌

※休憩なし

[アンコール]

シューベルト:月に寄せてD193
畑中良輔 (杉浦伊作:作詞):花林(まるめろ)
シューベルト:歓迎と別れD767


Tokyo-HARUSAI Lieder Series vol.39
Konstantin Krimmel(Baritone)& Daniel Heide(Piano)

2024/4/12 [Fri] 19:00 Start [ Streaming start from 18:30 ]
Tokyo Bunka Kaikan, Recital Hall

Baritone:Konstantin Krimmel
Piano:Daniel Heide

Schubert(1797-1828):"Die schöne Müllerin" D795

 I. Das Wandern
 II. Wohin?
 III. Halt!
 IV. Danksagung an den Bach
 V. Am Feierabend

 VI. Der Neugierige
 VII. Ungeduld
 VIII. Morgengruß
 IX. Des Müllers Blumen
 X. Tränenregen
 XI. Mein!
 XII. Pause
 XIII. Mit dem grünen Lautenbande
 XV. Eifersucht und Stolz
 XIV. Der Jäger
 XVI. Die liebe Farbe
 XVII. Die böse Farbe
 XVIII. Trockne Blumen
 XIX. Der Müller und der Bach
 XX. Des Baches Wiegenlied

※There is no intermission.

[Encore]

Schubert: An den Mond, D.296
Ryôsuke Hatanaka (Isaku Sugiura: Lyrics): Marumero
Schubert: Willkommen und Abschied, D.767

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「東京春祭 歌曲シリーズ」のライヴ配信に味を占めた私は、今売り出し中の若いバリトンと歌曲ピアニストのコンビ、コンスタンティン・クリンメル(バリトン)&ダニエル・ハイデ(ピアノ)の《美しき水車屋の娘》を自宅で味わいました。

コンスタンティン・クリンメルはルーマニア系ドイツ人で、まだ31歳とのこと。リートの録音もいくつかリリースしていて、今後の活躍が楽しみなバリトンです。ダニエル・ハイデはすでに多くの歌手たちと共演しているピアニストで、歌曲だけでなく、室内楽やソロも取り組んでいるオールラウンダーです。二人とも今回が初来日というのが意外ですが、これからますます活躍することと思います。

ところで、この二人のコンビ、すでに《美しき水車屋の娘》の録音をリリースしていて、事前に聞いてみたのですが、それを踏まえたうえで、今回のライヴ配信堪能しました。

まずクリンメルの爽やかで美しいハイバリトンの声と巧みなディクションに引きつけられました。特に高声から低声までよどみなくまろやかな美声を保っているので、とても聞いていて心地よいです。特に高音が本当に美しいです。そして、時にテンポを大胆に伸縮させて詩の世界を表現しようとする意欲も感じられました。

クリンメルの描いた人物像は、これから職人になる為の修行に出て、様々な経験を積み、新しい世界に飛び込んでいこうという若者らしい希望と不安のないまぜになった感覚が表現されていたと思います。彼自身の放つキャラクターや声質なども等身大の若者像を表現するのに今がベストなタイミングだと感じました。

《美しき水車屋の娘》の録音を聞いて分かっていたことですが、クリンメルは例えばクリストフ・プレガルディアンが多くの公演や録音で聞かせていたような装飾やメロディーの変奏を加えて歌っていました。それがその場の即興的なものというよりは、すでに彼の中で練られたメロディーとして披露していたように想像します。有節歌曲で最初にオリジナルのメロディーを歌い、繰り返す時に変更を加えるということが多かったように思いますが、そうでないケースもあったように思います。シューベルト存命中の習慣に倣ったこの一種の変奏は、すでに奇抜と思われていた時代は過ぎ、今後はオリジナル通りの歌唱を歌う人と、装飾を加える人が共存していくことになるのでしょう。興味深いのが、クリンメルは《美しき水車屋の娘》では程度の差こそあれ、ほぼすべての曲で装飾を加えていたのに対して、アンコールで歌われたシューベルトの歌曲2曲では私の記憶している限りオリジナルのまま歌っていました。歌いこんでいる曲は装飾を加え、そうでない作品はまずはオリジナルの通りで始め、徐々に装飾を加えていくということなのかなと想像しました。

第1曲「さすらい」の第4節(重い石臼でさえもっと速く踊ろうとすると歌われる)などかなり大胆なメロディーの変更がされて驚かされますが、こういう変更の意外性に出会うこともリートを聞く楽しみの一つになりつつあると思います。第3曲「止まれ!」の最後の"War es also gemeint(そういう意味だったのか)?"は何度も繰り返されるので、装飾が特に新鮮に響きます。

例えばプレガルディアンの共演者ミヒャエル・ゲースなどもそうでしたが、今回のダニエル・ハイデもかなりピアノパートに変更を加えていました。ピアニストのオリジナルの変更は私の記憶ではジェラルド・ムーアがすでに行っていて、F=ディースカウやプライなどとのライヴ録音を聞くと快活な曲の終わりの和音を威勢よく弾く時に音を加えて厚くしたり、オクターブ下げたりしていました。確か来日したムーアの「詩人の恋」を聞いた畑中良輔さんが、ある和音(終曲の冒頭だったか?)がオリジナルと違うと指摘していましたが、当時はオリジナル至上主義だったので今とはとらえ方も違ったのでしょう。私のおぼろげな記憶ではヘルムート・ドイチュだったかと思うのですが、第9曲「水車職人の花」を1オクターブあげて演奏したりしていました(すべての節ではなく、特定の節だけだったと思います)。今回のダニエル・ハイデも1オクターブあげるのは何か所かでやっていましたが、意外性が強かったのは第11曲「僕のもの」でした。中間部の分散和音をハイデは連打していました。これは新しい響きで印象に残っています。シューベルトっぽいかというとちょっと違う気もしますが、その時代に合った手法で変奏しても多分シューベルトは怒らないでしょう。

ハイデは基本的には歌手の方向性に合わせ、ここぞという所ではがっちりした立体的な響きも聞かせ、彩り豊かな音色で魅了してくれました。

クリンメルもハイデも最後の3曲ぐらいはあまりメロディーの変更を加えずに、思いつめた主人公の行きついた心情を一人称の歌唱で素直に聞かせてくれました。

この歌曲集、聞き手はどんどん年を重ね、主人公を回顧する立場で聞くことになりがちですが、歌手やピアニストが主人公になりきって演奏してくれると、聞き手も若かりし日々に戻ったかのように錯覚させてくれて、こういう感覚も音楽を聴く醍醐味だなとあらためて感じました。

アンコールは3曲。最初と最後にシューベルトを歌い(最後に歌われた「歓迎と別れ」は特に好きな曲なので聞けて良かった!)、2曲目で恥ずかしながら初めて聞く日本歌曲を驚くほど美しい日本語で歌ってくれました。これほど癖のない日本語で歌えるのは凄いと思います。クリンメルが2曲目を歌う前に、シュトゥットガルトで吉原輝氏に師事したというような話をして、「リョウスケ・ハタナカ」という名前が出た時、まさかクリンメルの口から畑中氏の名前が出るとは想像すらしておらずびっくりしました。ドイツリートばかり聞いていて、畑中氏の歌曲をほとんど知らない自分が恥ずかしく感じられました。クリンメルの口から「マルメロ」というタイトルを聞いた時、これがなんのことなのか分かりませんでしたが、後で調べると樹木の名前なのですね。果実はかりんに似ているそうです。分散和音のピアノにのったとても美しい歌曲でした。評論、指揮、作曲など多岐に渡る活動をされた畑中氏が亡くなったのは吉田秀和氏が亡くなった2日後、そしてF=ディースカウが亡くなった6日後のことでした。あの悲しかった5月から12年も経つのかと時の流れの速さに驚かされます。

このコンビ、すでに完成された素晴らしい音楽家たちでした。これからのますますの活躍を楽しみにしたいと思います。

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クリンメル&ハイデの『美しい水車屋の娘D795』CD

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シューベルト/「ウルフルが釣りをするさま」(Schubert: Wie Ulfru fischt, D 525)を聞く

Wie Ulfru fischt, D 525
 ウルフルが釣りをするさま

[Der]1 Angel zuckt, die Ruthe bebt,
Doch leicht fährt sie heraus.
Ihr eigensinn'gen Nixen gebt
Dem Fischer keinen Schmaus!
Was frommet ihm sein kluger Sinn,
Die [Fische]2 baumeln spottend hin -
Er steht am Ufer fest gebannt,
Kann nicht in's Wasser, ihn hält das Land.
 [Er steht am Ufer fest gebannt,
 Kann nicht in's Wasser, ihn hält das Land.]
 釣り針がぴくっと動き、釣り竿が震えるが、
 容易に逃げられてしまう。
 おまえたち頑固な水の精は
 釣り人にご馳走をくれてやろうとはしない!
 釣り人の賢さなど何の役に立つものか、
 魚たちはばたばたと音を立てて嘲る。
 彼は岸辺で呪縛されたようにじっと立ちすくみ、
 水に入れず陸にとどまるのみ。

Die glatte Fläche kräuselt sich,
Vom Schuppenvolk bewegt,
Das seine Glieder wonniglich
In sichern Fluthen regt.
Forellen zappeln hin und her,
Doch bleibt des Fischers Angel leer,
Sie fühlen, was die Freiheit ist,
Fruchtlos ist Fischers alte List.
 [Sie fühlen, was die Freiheit ist,
 Fruchtlos ist Fischers alte List.]
 滑らかな水面は波立つ、
 鱗の群れに揺らされて、
 男の身体はうきうきと
 安全な水の中へと移動する。
 ますはあちらこちらと跳ね動くが
 釣り人の竿は何もかからないまま、
 あいつらは自由というものを実感していて
 釣り人の古い悪だくみなど実ることがない。

Die Erde ist gewaltig schön,
Doch sicher ist sie nicht!
 [Die Erde ist gewaltig schön,
 Doch sicher ist sie nicht!]
Es senden Stürme Eiseshöh'n;
Der Hagel und der Frost zerbricht
Mit einem Schlage, einem Druck,
Das gold'ne Korn, der Rosen Schmuck -
Den Fischlein [unterm weichen]3 Dach,
Kein Sturm folgt ihnen vom Lande nach.
 地上は非常に美しいが
 安全ではない!
 凍った丘は嵐を送りつけ、
 ひょうや寒気は
 一撃で、一握りで
 黄金色の穀物や薔薇の飾りを壊してしまう。
 柔らかい屋根の下にいる魚たちの後を
 嵐が陸から追うことはないのだ。

1 Schubert (Peters Edition only): "Die"
2 Mayrhofer: "Fischlein"
3 Mayrhofer: "unter's weiche"

詩:Johann Baptist Mayrhofer (1787-1836), "Wie Ulfru fischt"
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828), "Wie Ulfru fischt", op. 21 (Drei Lieder) no. 3, D 525 (1817), published 1823 [voice, piano], Sauer & Leidesdorf, VN 276, Wien

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シューベルトの友人で同居したこともあるヨーハン・マイアーホーファーの詩による1817年1月作曲の「ウルフルが釣りをするさま(Wie Ulfru fischt, D 525)」を聞きたいと思います。
シューベルトは、3連からなる詩をリピート記号で繰り返す完全な有節歌曲として作曲しました。

内容は釣りをする男ウルフルの様子が描かれ、一見有名な「ます(Die Forelle, D 550)」のテキストが思い浮かびますが、「ます」が男には気をつけなさいという女性への警告詩(警告した連をシューベルトはばっさり省略したわけですが...)であるのに対して、こちらの詩では陸は危険が多く、水中は安全というのがテーマのようです。嵐が起きようが水の中は安全だからますは釣り人の悪だくみにおびやかされることなく自由を謳歌しています。それぞれの住処にいれば安全なのだから、生活圏でないところに進出しても無駄だという意味合いもこめているのかもしれませんね。
シューベルトは歌声部をヘ音譜表で記しました。彼はこのテキストから低声歌手をイメージしたのでしょう。実際録音された音源はいずれも男声歌手のものばかりでしたが、テノール歌手も移調して歌っています。途中で長調になりますが、基本はニ短調です。ピアノパートは左手の各拍後半に八分休符を挿入して跳ねるような雰囲気を演出する一方、右手はせわしなく畳みかけるようにジグザグに動き続け、弱拍につけられたアクセントも相まってどことなくコミカルな味わいがあります。何かに常にせかされているような主人公の焦燥感を描いているかのようです(私はモーツァルトの歌曲「自由の歌(Lied der Freiheit, KV 506)」と共通する雰囲気を感じました)。

この曲には2つの稿がありますが、第1稿は私の調べた範囲では録音されていないようです(基本的にはほぼ同じです)。

【冒頭部分】
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【歌声部】
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2_20240302163301 
3_20240302163301 

アッラ・ブレーヴェ記号(2/2拍子)
ニ短調(d-moll)
Etwas bewegt (1st version)
Mässig (2nd version)

●テキストの朗読(Susanna Proskura)
Schubert, Wie Ulfru fischt, pronunciation

Channel名:Susanna Proskura (オリジナルのサイトはこちら。音が出るので注意!)
ソプラノ歌手プロスクラさんが詩を朗読しています。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Gerald Moore(P)

かつて喜多尾道冬氏がディースカウのシューベルト歌曲全集での歌いぶりを「一筆書きのよう」と評しましたが、この歌唱を聞いてその言葉を思い出しました。ムーアのめりはりのついたピアノも素晴らしかったです。

●マティアス・ゲルネ(BR), エリック・シュナイダー(P)
Matthias Goerne(BR), Eric Schneider(P)

ゲルネは重量感のある声ですが、軽快に歌っています。

●ズィークフリート・ローレンツ(BR), ノーマン・シェトラー(P)
Siegfried Lorenz(BR), Norman Shetler(P)

ローレンツはハイバリトンの爽やかな美声で歌い、ディクションも美しいです。シェトラーが生き生きと演奏していて良かったです。

●クルト・モル(BS), コート・ガルベン(P)
Kurt Moll(BS), Cord Garben(P)

シューベルトが低声を想定した歌にふさわしい深みのある声でモルが歌っています。速めのテンポ設定はモルの解釈なのでしょうか。付点八分音符と十六分音符の組み合わせをどちらも八分音符で歌うなど若干リズムにこだわっていない感じですが(速すぎて小回りがきかないのかも)、魅力的な歌で個人的には好きな演奏です。ガルベンはパリパリ弾いて効果的でした。

●コルネーリウス・ハウプトマン(BS), シュテファン・ラウクス(P)
Cornelius Hauptmann(BS), Stefan Laux(P)

同じバス歌手でもモルと比べるともっとバリトンのような穏やかさが感じられる歌でした。

●ヤスパー・シュヴェッペ(BR), フクダ・リコ(Fortepiano)
Jasper Schweppe(BR), Riko Fukuda(Fortepiano)

シュヴェッペは節が進むたびに旋律に装飾を加えていたのが興味深かったです。フクダさんのフォルテピアノも味わい深いです。

●クリストフ・プレガルディアン(T), アンドレアス・シュタイアー(Fortepiano)
Christoh Prégardien(T), Andreas Staier(Fortepiano)

低声用の曲といってもそれほど極端に低い音が出てくるわけではないので、移調すればテノールでも問題ないですね。プレガルディアンは珍しく装飾を全く入れずに楽譜通りに生き生きと歌っていました。冒頭のAngel(釣り針)をマイアホーファーのオリジナルの男性名詞として歌っていました(冠詞をdieではなくderで歌っています)。他の歌手たちは女性名詞として扱ってdie Angelと歌っていることが多いようです。

●イアン・ボストリッジ(T), ジュリアス・ドレイク(P)
Ian Bostridge(T), Julius Drake(P)

やはりボストリッジのようなテノールによって歌われると清涼感が増しますね。ドレイクが基本的にスタッカート気味に弾むように演奏して、曲の面白みが増した感じがしました。

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(参考)

The LiederNet Archive

IMSLP (楽譜)

Schubertlied.de (Wie Ulfru fischt, D 525)→※サーバーの不具合なのか、たまに接続できないことがあります。

Graham JohnsonによるWie Ulfru fischt, D 525の解説 (Hyperion Records)

Johann Mayrhofer: Gedichte: 1824 (p. 42)

Wikipedia - Johann Mayrhofer (Dichter) (ドイツ語)

Wikipedia - Johann Mayrhofer (英語)

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シューベルト/「湖畔で」(Schubert: Auf dem See, D746)を聞く

Am See, D746
 湖畔で

In des Sees Wogenspiele
Fallen durch den Sonnenschein
Sterne, ach, gar viele, viele,
Flammend leuchtend stets hinein.
 湖の波の戯れの中へ
 陽光を通って
 星々が落ちて行く、ああ、とても多く、多く、
 きらきら輝きながら、絶えることなく。

Wenn der Mensch zum See geworden,
In der Seele Wogenspiele
Fallen aus des Himmels Pforten
Sterne, ach, gar viele, viele.
 人が湖になったら
 魂の波の戯れの中へ
 天国の門から
 星々が落ちて行く、ああ、とても多く、多く。

詩:Franz Seraph Ritter von Bruchmann (1798-1867)
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828), "Am See", D 746 (1817?/1822?), published 1831

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シューベルトを囲む音楽やパーティーの会シューベルティアーデは数年フランツ・フォン・ブルッフマンの家で催されました。ブルッフマンは裕福な家庭に生まれ、シューベルトのパトロンでもありました。そのブルッフマンのテキストにシューベルトは5曲の独唱歌曲を作曲しましたが、そのうちの1つが「湖畔で(Am See, D746)」です(個人的に大好きな作品の一つです)。

テキストは、第1連で太陽の光を通って、空の星々が湖の中へ落ちていくと歌われ、第2連では人が湖になったならば魂の湖の中へ天空の星々が落ちていくと歌われます。水鏡に映る星を描写しただけでなく、人間の魂を湖になぞらえているのでしょう。人が亡くなってお星さまになっても湖の水鏡に映れば身近に感じられるということなのでしょうか。星々が落ちるのが月明かりによるのではなく太陽の光というところも詩の解釈を難しく感じさせます。

シューベルトは「水の上で歌う(Auf dem Wasser zu singen, D774)」や「ゴンドラの船頭(Gondelfahrer, D808)」など水を扱った多くの作品同様、6/8拍子を採用し、細やかな十六分音符の分散和音で水の流れや波の戯れを描いています。ちなみにこの分散和音は、歌声部の旋律とは基本的に独立していますが、第1連の後のピアノ間奏冒頭は、直前の歌の旋律をエコーのように右手の最高音で繰り返します。

【ピアノ前奏】
Ex1 
【第1連~ピアノ間奏】
Ex2 

第2連が始まると、ピアノパートの左手バス音が変ホ音(Es)から順に下行していきます(変ホ長調のドシラソファミレドシと下行します)。歌は1小節遅れて変ホ音(Es)つまりドからファまで下行していきます。ここで第1連の音楽とは異なる何かが生じているということが聞き手に伝わりますね(「人が湖になったら」と歌われる個所です)。

【第2連】
Ex31_20240212160001 
Ex32 

第2連の歌詞が終わっても音楽は続き、第2連第2行から詩を繰り返します。第4行(Sterne, ach, gar viele, viele)の繰り返しは1回目の歌声部を変奏しています。特に"viele, viele"は2回目では間に四分休符+八分休符が入り、1小節から2小節に伸びています。それによってリタルダンドをしているような効果があり、終結に向かっていることを予感させます。

【第2連第4行(1回目)】
Ex41 
【第2連第4行(2回目)】
Ex42 

最後にもう1度第4行を繰り返しますが、"Sterne, ach, gar"のメリスマがすべて十六分音符で、ピアノの分散和音も十六分音符なので、歌手のテクニックの聞かせどころでありながら、歌とピアノで息を合わせる必要もあり、演奏者たちにとって気を使うところなのではないかと想像されます。

【第2連第4行(3回目)】
Ex5 

ちなみにシューベルトは、ゲーテの詩による「湖上にて(Auf dem See)」という歌曲を以前に作曲していますが、拍子、調、作品冒頭に記載した標示のすべてがブルッフマンによる「湖畔にて」と同じだったという事実に驚かされます。それが無意識的なものなのかどうかは分かりませんが、シューベルトの湖を表現する時の手法を知るうえで一つのヒントになるかもしれません。

【ゲーテの詩による「湖上にて(Auf dem See, D543)」冒頭】
Auf-dem-see 

6/8拍子
変ホ長調(Es-dur)
Mäßig

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Gerald Moore(P)

流麗に美しく歌うディースカウとムーアの演奏に聞きほれます。

●マティアス・ゲルネ(BR), アンドレアス・ヘフリガー(P)
Matthias Goerne(BR), Andreas Haefliger(P)

聞き手を優しく慰撫するようなゲルネの歌に引き付けられました。第2連2行目の"Wogenspiele"の"-spiele"に付けられる前打音が聞き慣れた音数より少なかったのは新全集がそうなっているのか、いつか確認してみたいと思います(装飾音の解釈の違いなのかもしれませんが)。名テノール、ヘフリガーの息子アンドレアスのピアノは1連から2連に移る間奏でいったん流れを止めていたのが興味深かったです。

●藤村実穂子(MS), ヴォルフラム・リーガー(P)
Mihoko Fujimura(MS), Wolfram Rieger(P)

藤村実穂子の磨かれた声の質感が速めのテンポ設定にもかかわらずしっとりと伝わってきます。ベテラン、リーガーもぴったり合わせていました。

●アンナ・プロハスカ(S), エリック・シュナイダー(P)
Anna Prohaska(S), Eric Schneider(P)

若手から中堅にさしかかったプロハスカは世界中の歌劇場から引く手あまたのソプラノです。声質に独自の色があって華がありますね。

●アニヤ・ハルテロス(S), ヴォルフラム・リーガー(P)
Anja Harteros(S), Wolfram Rieger(P)

ハルテロスの歌唱は円熟した彫りの深い解釈でとても魅力的でした。

●イアン・ボストリッジ(T), ジュリアス・ドレイク(P)
Ian Bostridge(T), Julius Drake(P)

若かりし頃のボストリッジの甘い美声を味わえる歌唱でした。"viele(多くの)"を繰り返す時の抑えた響きが美しかったです。

●ハインリヒ・シュルスヌス(BR), フランツ・ルップ(P)
Heinrich Schlusnus(BR), Franz Rupp(P)

1931年録音。シュルスヌスは所々音価を伸ばして甘美に歌っていました。

ちなみにエリー・アーメリング&ドルトン・ボールドウィン(Elly Ameling(S), Dalton Baldwin(P))も1983年にEtceteraレーベルにこの曲を録音しています。こちらのリンク先の11番目の矢印マークをクリックすると少しだけですが試聴できます。彼女らしい温かみのある歌唱です。

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(参考)

The LiederNet Archive

IMSLP (楽譜)

Franz von Bruchmann (Wikipedia)

Graham JohnsonによるAm See, D746の解説 (Hyperion Records)

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シューベルト/「あなたと二人きりでいると」(Schubert: Bei dir allein!, D 866/2)を聞く

Bei dir allein!, D 866/2
あなたと二人きりでいると!

Bei dir allein empfind' ich, daß ich lebe,
Daß Jugendmut mich schwellt
Daß eine heit're Welt
Der Liebe mich durchbebe;
Mich freut mein Sein
Bei dir allein!
 あなたと二人きりでいると、私は感じる、生きていることを、
 若い気力が膨らむことを、
 愛の明るい世界が
 私の全身を震わせることを。
 私はここにいることが嬉しい、
 あなたと二人きりでいると!

Bei dir allein weht mir die Luft so labend,
Dünkt mich die Flur so grün,
So mild des Lenzes Blüh'n,
So balsamreich der Abend,
So kühl der Hain,
Bei dir allein!
 あなたと二人きりでいると、風が爽快に吹いてきて
 野原はこんなに緑に見える、
 春にはとても穏やかに花咲き、
 夕暮れはよい香りで満ち溢れ、
 林はこんなにも涼しい、
 あなたと二人きりでいると!

Bei dir allein verliert der Schmerz sein Herbes,
Gewinnt die Freud an Lust!
Du sicherst meine Brust
Des angestammten Erbes;
Ich fühl' mich mein
Bei dir allein!
 あなたと二人きりでいると、苦痛はつらくなくなり、
 喜びや愉悦を得る!
 あなたは私の胸を守ってくれる、
 古来の財産である私の胸を。
 私を自分自身のものだと感じる、
 あなたと二人きりでいると!

詩:Johann Gabriel Seidl (1804-1875)
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828), "Bei dir allein!", op. 95 (Vier Refrainlieder) no. 2, D 866 no. 2 (1828?), published 1828 [ voice and piano ], Thaddäus Weigl, VN 2794, Wien

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シューベルトはザイドルの4つの詩に作曲し、『4つのリフレイン歌(Vier Refrainlieder, Op. 95)』として1828年8月13日に出版されました。作曲年については、ドイチュの目録(Franz Schubert. Thematisches Verzeichnis seiner Werke in chronologischer Folge)では1828年夏(?)と記載されていて、確定していないようです。自筆譜も4曲中第1曲のスケッチが残っているだけで、第2曲を含む他の曲は紛失してしまったそうです。その出版譜の2曲目に置かれたのが、「あなたのそばにいるだけで!(Bei dir allein!, D 866/2)」です。
ちなみに「リフレイン」というのは音楽や詩の繰り返しのことで、この4つの曲集では各連の最終行が同じ詩句になっていることを指していると思われます。この第2曲では各連最初の行も同じ詩句で始まります。

このザイドルのテキストは、手書き原稿の形でシューベルトに渡されたらしく、シューベルトの生前(1826年)に出版されたザイドルの詩集には掲載されていないそうです(ソースはこちら)。

詩の内容は、主人公があなたと一緒にいると生きていると感じ、愛の世界に身を震わせることを感じ、自然の素晴らしさを感じ、苦痛が喜びに変わると高らかに述べます。あなたというのはおそらく恋人のことなのでしょう。もちろん恋人に限らず人生において大切な家族・友人に置き換えて読んでもいいと思います。

シューベルトの曲は、冒頭の「速すぎず、だが燃えるように」という指示が示しているように、熱くたぎる急流のように情熱的に進んでいきます。全体はA-B-A'の形で、B(第2連)でホ長調(E-dur)に転調して自然に心癒される落ち着いた雰囲気に変わり、最後のA'で元の躍動感を取り戻します。聴く人をわくわくさせてくれる作品だと思います。

2/4拍子
変イ長調(As-dur)
Nicht zu geschwind, doch feurig (速すぎず、だが燃えるように)

●ヴェルナー・ギューラ(T), クリストフ・ベルナー(Fortepiano)
Werner Güra(T), Christoph Berner(Fortepiano)

喜びが爆発しているかのようなギューラとベルナーの急速なテンポ設定が聴き手をわくわくさせてくれます。

●クリスティアン・ゲアハーアー(BR), ゲロルト・フーバー(P)
Christian Gerhaher(BR), Gerold Huber(P)

ゲアハーアーのハイバリトンの声が軽快なリズムに乗っていてとても良かったです。フーバーもいいアンサンブルでした。

●クリストフ・ゲンツ(T), ヴォルフラム・リーガー(P)
Christoph Genz(T), Wolfram Rieger(P)

爽やかな声のテノール、Ch.ゲンツと、ベテランピアニストのリーガーの雄弁なピアノの緊密なアンサンブルに惹かれました。

●イアン・パートリッジ(T), ジェニファー・パートリッジ(P)
Ian Partridge(T), Jennifer Partridge(P)

イアン・パートリッジの素直で美しい歌唱に引き付けられました。また、妹のジェニファーの沸き立つようなピアノの素晴らしさは特筆すべきでしょう。

●アン・ソフィー・フォン・オッター(MS), ベンクト・フォーシュバリ(P)
Anne Sofie von Otter(MS), Bengt Forsberg(P)

オッターの安定した美声でこういう躍動的な歌を聴くのもいいなぁと思って聞いていました。フォーシュバリはテンポの揺れがなかなか激しいですが、最終的にはうまくまとめていました。

●グンドゥラ・ヤノヴィツ(S), チャールズ・スペンサー(P)
Gundula Janowitz(S), Charles Spencer(P)

ヤノヴィツのキャリア後期の録音で、肩の力の抜けた自然体の歌唱がなんとも心地よく感じられます。装飾音を除いて歌っているのもなんらかの考えがあってのことなのでしょう。

●カミラ・ティリング(S), パウル・リヴィニウス(P)
Camilla Tilling(S), Paul Rivinius(P)

ティリングのリリックな声による細やかな表情付けが素敵で、歯切れのよいリヴィニウスのピアノも良かったです。

●マティアス・ゲルネ(BR), ヘルムート・ドイチュ(P)
Matthias Goerne(BR), Helmut Deutsch(P)

ゲルネはこういう曲では重くならず、絶妙な語り口で聞かせてくれます。ドイチュも素晴らしかったです。

ちなみにエリー・アーメリング&ドルトン・ボールドウィン(Elly Ameling(S), Dalton Baldwin(P))もEtceteraレーベルにこの曲を録音していて、国内盤として発売されたこともあります。こちらのリンク先の13番目の矢印マークをクリックすると少しですが試聴できます。アーメリングの歌は成熟した女性が若い恋人を相手にしているような余裕が感じられて個人的にとても好きな演奏です。

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(参考)

The LiederNet Archive

IMSLP (楽譜)

Schubertlied.de: Bei dir allein, D 866 Opus 95 -2

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シューベルト/子守歌(Schubert: Wiegenlied, D 498)を聞く

Wiegenlied, D 498
 子守歌

Schlafe, schlafe, holder, süßer Knabe,
Leise wiegt dich deiner Mutter Hand;
Sanfte Ruhe, milde Labe
Bringt dir schwebend dieses Wiegenband.
 お眠り、お眠り、いとしい可愛い坊や、
 お母さんが手でそっと揺らしてあげるよ。
 あなたは安らかに休んで、穏やかに元気を回復するのよ、
 この揺り籠のベルトに揺らされてね。

Schlafe, schlafe in dem süßen Grabe,
Noch beschützt dich deiner Mutter Arm.
Alle Wünsche, alle Habe
Faßt sie liebend, alle liebewarm.
 お眠り、お眠り、甘きお墓の中で、
 お母さんの腕であなたを守ってあげる。
 望むもの全部、持ち物全部を
 お母さんが愛情こめてみんな捕まえておいてあげるわ。

Schlafe, schlafe in der Flaumen Schoße,
Noch umtönt dich lauter Liebeston;
Eine Lilie, eine Rose,
Nach dem Schlafe werd' sie dir zum Lohn.
 お眠り、お眠り、綿毛にくるまれて、
 まだあなたのまわりで大きな愛の音が鳴っているよ、
 一輪の百合と薔薇が
 眠りから覚めたらあなたのご褒美となるのよ。

詩:Anonymous, sometimes misattributed to Matthias Claudius (1740-1815)
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828), "Wiegenlied", op. 98 (Drei Lieder) no. 2, D 498 (1816), published 1829

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世界中にあまたの「子守歌」がありますが、とりわけモーツァルト(実際には別人の作曲)、ブラームスと並んで知られているのがシューベルトの子守歌でしょう。
とはいえシューベルトだけでも「子守歌」を複数作曲していますので、ここではD 498の「子守歌」を扱いたいと思います。

3節からなるテキストの作者として、初版楽譜にはクラウディウスの名前が挙げられていますが、クラウディウスの作品中には見当たらず、現在にいたるまで特定されていないようです。

グレアム・ジョンソン(Graham Johnson)はこのテキストの第2節に「墓(Grabe)」という単語が使われていることに注目し、「当時幼児の死は日常茶飯事でした」と記しています。成人しないまま亡くなる乳幼児の多かった中、生きているその瞬間に母親としての愛情を注ごうという気持ちがあらわれているのかもしれません。

シューベルトはこの曲を1816年11月に作曲しました(19歳)。トニックとドミナントが交互にあらわれる平明な音楽で、子供をゆったりと眠りに誘うのにうってつけと言えるのではないでしょうか。

当時の雑誌に楽譜の出版情報が掲載されています(Österreichische Nationalbibliothek)。

【初版】(Op. 98, No. 2: Ant. Diabelli und Comp., Wien [1829])
Langsam (ゆっくりと)
C (4/4拍子)
変イ長調(As-dur)

●エリー・アーメリング(S), ドルトン・ボールドウィン(P)
Elly Ameling(S), Dalton Baldwin(P)

1982年録音。まさに理想の歌声!

●アンゲリカ・キルヒシュラーガー(MS), ヘルムート・ドイチュ(P)
Angelika Kirchschlager(MS), Helmut Deutsch(P)

キルヒシュラーガーの素直なメゾの響きは子供を慈しむ母親感がよく出ていると思います。

●グンドゥラ・ヤノヴィツ(S), アーウィン・ゲイジ(P)
Gundula Janowitz(S), Irwin Gage(P)

ヤノヴィツの芯のある響きはどこか高貴な家柄の母親のようなイメージが浮かんできます。ゲイジが第2節でバス音を強調しているのはテキストに現れる「墓(Grabe)」という言葉を反映しているのでしょうか。

●アナ・ルツィア・リヒター(MS), アミール・ブシャケヴィツ(P)
Anna Lucia Richter(MS), Ammiel Bushakevitz(P)

現役で活躍中の演奏家による映像です。ソプラノからメゾに転向したというリヒターは確かに声に深みがあり、母性を感じさせます。それと同時に眠りと死の近親性も暗示するような歌いぶりに感じられました。ピアニストのブシャケヴィツが面白い試みをしています。徐々にオクターブ上げていき、トイピアノのような響きで締めくくっています。おそらく作曲当時もこのような類のアレンジはされていたのでしょう。

●リタ・シュトライヒ(S), エリク・ヴェルバ(P)
Rita Streich(S), Erik Werba(P)

オペラでは華やかなコロラトゥーラを聞かせるシュトライヒも、一方でこんな可憐な歌を聞かせてくれます。

●三浦 環(S), アルド・フランケッティ(P)
Tamaki Miura(S), Aldo Franchetti(P)

1922年録音。往年の日本のプリマドンナ三浦 環もこの曲を録音していました。ここで歌っている有名な日本語歌詞は内藤濯(ないとう あろう)という人の訳だそうです(こちらのサイト(「世界の民謡・童謡」様)に詳しい解説があります)。

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(参照)

The LiederNet Archive: Wiegenlied

IMSLP (International Music Score Library Project): Wiegenlied, D.498 (Schubert, Franz)

Schubertlied.de: Wiegenlied

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シューベルト/ムーサの息子(ミューズの子)(Der Musensohn, D 764)

Der Musensohn, D 764
 ムーサの息子(ミューズの子)

Durch Feld und Wald zu schweifen,
Mein Liedchen wegzupfeifen,
So gehts von Ort zu Ort!
Und nach dem Takte reget,
Und nach dem Maß beweget
Sich alles an mir fort.
 野や森を超えてさすらい、
 僕の歌を口笛で吹きながら
 あちこちと歩いていく!
 拍子を取って進み、
 僕の歩幅で動くんだ、
 僕のそばを通り過ぎるものはみんな。

Ich kann sie kaum erwarten,
Die erste Blum' im Garten,
Die erste Blüt' am Baum.
Sie grüßen meine Lieder,
Und kommt der Winter wieder,
Sing' ich noch jenen Traum.
 僕はほとんど待ちきれないぐらいだ、
 庭に最初に咲く花や、
 木に最初に開く花がね。
 それらに僕の歌が挨拶し、
 また冬がやってくると、
 僕はまだあの夢を歌っているというわけ。

Ich sing' ihn in der Weite,
Auf Eises Läng' und Breite,
Da blüht der Winter schön!
Auch diese Blüte schwindet,
Und neue Freude findet
Sich auf bebauten Höhn.
 僕は彼方で歌う、
 長く広がる氷の上で、
 そこは冬が美しく花開いている!
 この花が消えても
 新たな喜びが
 耕された丘の上に見つかるんだ。

Denn wie ich bei der Linde
Das junge Völkchen finde,
Sogleich erreg' ich sie.
Der stumpfe Bursche bläht sich,
Das steife Mädchen dreht sich
Nach meiner Melodie.
 というのも、僕がシナノキのそばで
 若い連中を見つけるやいなや
 彼らを掻き立てるのさ、
 さえない兄(あん)ちゃんはいきり出し、
 ぎこちない娘はぐるぐる回る、
 僕のメロディーに合わせて。

Ihr gebt den Sohlen Flügel
Und treibt, durch Thal und Hügel,
Den Liebling weit von Haus.
Ihr lieben holden Musen,
Wann ruh' ich ihr am Busen
Auch endlich wieder aus?
 あなたがたはこの足裏に翼を授け、
 谷や丘を渡るように
 お気に入りの僕を家からはるばる引きずり出す。
 いとしいムーサたちよ、
 僕があの娘(こ)の胸で
 ようやくまた休めるのはいつになるのだろう。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Der Musensohn", written 1774, first published 1800
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828), "Der Musensohn", op. 92 (Drei Lieder) no. 1, D 764 (1822), published 1828 [ voice, piano ], M. J. Leidesdorf, VN 1014, Wien

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シューベルトの歌曲の中でもとりわけ人気の高い「ミューズの子(ムーサの息子)D764, Op. 92-1」は、ヨーハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテのテキストに1822年12月に作曲されました。A-B-A-B-Aの簡潔な形式ですが、一番最後のAの締めくくり「あの娘(こ)の胸でようやくまた休めるのはいつ?」の「胸(Busen)」でリタルダンドが指示されているのが後ろ髪を引かれるような感じで印象的です。この部分をどのように歌い演奏するかも聴きどころの一つではないでしょうか。Aのト長調とBのロ長調が交互に現れるのですが長3度上下という遠い関係の転調(シューベルトはこの長3度の転調を好んだようです)ですが、歌声部の開始音がどちらもH音で、雰囲気ががらっと変わりながらも自然につながっていくところが素晴らしいと思います。

シューベルトの歌曲について、詩、曲それぞれの成立状況やオリジナルの資料へのリンクの他、サイト用に録音された演奏も聞けるようにしている"Schubertlied.de"というサイトの情報の充実ぶりは驚きです!シューベルト歌曲ファンの方はぜひご覧ください(トップページはこちら、「ムーサの息子」はこちら)。

『ゲーテ全集 1』(新装普及版)(2003年 潮出版社)の訳者山口四郎氏の解説によれば、ゲーテの詩の成立は「1774年頃の作とする説もあるが、大方は1799年11月よりあまり早くない時期としている」とのことで、習熟度からして若い頃の作品ではないと指摘されています。わくわくするようなリズムが感じられますね。

ちなみにムーサというのはWikipediaによれば「技芸・文芸・学術・音楽・舞踏などを司るギリシア神話の女神」とのことで、複数います。その息子(Musensohn)はドイツ語で「詩人(Dichter)」を意味するそうです(DUDEN)。このゲーテの詩は、母親のムーサに翼を与えられた息子(詩人)が、あちこち野山を駆け巡り、歌声で周りのあらゆるものを活気づけるという内容です。

古今東西の歌曲歌手たちが録音していますが、マティス、ボニーのような歌曲の女神たちが録音していないのが残念です。テキストから男声用の作品と判断したからかもしれませんね。オッターは今のところスタジオ録音は残していませんが、動画サイトにライヴ映像がアップされています。興味のある方は検索してみて下さい。

●第1稿
変イ長調(As-dur)
6/8拍子
Ziemlich lebhaft (かなり生き生きと)

●第2稿
ト長調(G-dur)
6/8拍子
Ziemlich lebhaft (かなり生き生きと)

●詩の朗読(speaker: Susanna Proskura)
Schubert, Der Musensohn, pronunciation

●ヘルマン・プライ(BR), カール・エンゲル(P)
Hermann Prey(BR), Karl Engel(P)

この曲はプライの為にあると言ってもいいぐらいです!野山を駆け巡る天真爛漫な少年像にぴったりで絶品です。エンゲルのリズムに乗った演奏もとても良かったです。

●フリッツ・ヴンダーリヒ(T), フーベルト・ギーゼン(P)
Fritz Wunderlich(T), Hubert Giesen(P)

ヴンダーリヒの輝かしい甘い美声はただただ魅力的です!

●ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)

シュライアーの歯切れの良さが爽快です。オルベルツも出たり引っ込んだりのタイミングが絶妙です!

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Gerald Moore(P)

ディースカウは比較的抑えたテンポで美しいディクションを聞かせています。ムーアの変幻自在な表現力の多彩さに舌を巻きます。

●マティアス・ゲルネ(BR), エリク・シュナイダー(P)
Matthias Goerne(BR), Eric Schneider(P)

ゲルネはアンドレアス・ヘフリガーとの録音(DECCA)に続き、2回目の録音です(Harmonia mundi)。速めのテンポで表情を付けながらリズミカルに歌うゲルネの歌は素晴らしかったです。ゲルネの動きを想像しながら聞いていました。シュナイダーも軽快で見事でした。

●クリスティアン・ゲアハーアー(BR), ゲロルト・フーバー(P)
Christian Gerhaher(BR), Gerold Huber(P)

ゲアハーアーは端正かつ軽快な歌唱です。

●ダニエル・ベーレ(T), オリヴァー・シュニーダー(P)
Daniel Behle(T), Oliver Schnyder(P)

現役世代のドイツのリート歌手ベーレの歌は、言葉さばきが巧みで、シュニーダーのピアノと共にうきうきするような演奏でした。

●イアン・ボストリッジ(T), ジュリアス・ドレイク(P)
Ian Bostridge(T), Julius Drake(P)

ボストリッジの軽やかな声は、翼を得て重力から解放されたさまをイメージさせてくれます。ドレイクも歌手を知り尽くした演奏でした。

●ヨナス・カウフマン(T), ヘルムート・ドイチュ(P)
Jonas Kaufmann(T), Helmut Deutsch(P)

Grafenegg-Festival 2020のライヴ映像。この曲を歌うカウフマンはテノールらしい高音を響かせていて、彼のキャラクターに合った曲だと思います。

●エリー・アーメリング(S), ルドルフ・ヤンセン(P)
Elly Ameling(S), Rudolf Jansen(P)

円熟期(1984年)のアーメリングによる細やかな語り口が味わえます。ヤンセンの雄弁なピアノも良かったです。

●キャスリーン・フェリア(CA), フィリス・スパー(P)
Kathleen Ferrier(CA), Phyllis Spurr(P)

イギリスの往年の名コントラルト、フェリアの人肌を感じさせる歌声はなんともチャーミングです。

●ジェスィー・ノーマン(S), フィリップ・モル(P)
Jessye Norman(S), Phillip Moll(P)

ノーマンは強靭な曲だけでなく、このような軽快な作品でも言葉のイメージを細やかに表現していて素晴らしいです。モルのすっきりとした演奏ぶりも良いです。

●ハンス・ホッター(BSBR), マルセル・ドリュアール(P)
Hans Hotter(BSBR), Marcel Druart(P)

1959年6月21日, INR(ベルギー国営放送研究所)録画。ホッター(1909.1.19-2003.12.6)がちょうど50歳の時の映像。温かみのある声と巧みなテキストへの反応が感じられました。

●ハンス・ホッター(BSBR), ヘルムート・ドイチュ(P)
Hans Hotter(BSBR), Helmut Deutsch(P)
Hans Hotter sings Schubert's "Der Musensohn" at age 78!

上記の映像の28年後の貴重な映像!ホッターは若かりし頃から老成した響きを聞かせていた為か、80代近くになっても違和感なくこの曲の軽やかさが感じられ素晴らしいです。ドイチュの著書の序文に寄稿したホッターは、ドイチュと共演する機会が残念ながらなかったと書いていたので、この映像はレアなものなのでしょう。

●ピアノパートのみ(Giorgia Turchi(P))
Piano accompaniment (Karaoke + score)

チャンネル名:Giorgia Turchi(リンク先は音声が流れます)

●ライヒャルト(Johann Friedrich Reichardt: 1752-1814)作曲:ムーサの息子(Der Musensohn)
木村能里子(S), クリストフ・トイスナー(GT)
Norico Kimura(S), Christoph Theusner(GT)

ゲーテお気に入りの作曲家ライヒャルトによる歌曲はギター伴奏の素朴で愛らしい作品です。木村さんは一点の曇りもない晴れやかな歌唱で魅力的ですね。

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(参考)

The LiederNet Archive

Schubertlied.de

IMSLP: Der Musensohn, D.764 (Schubert, Franz) (楽譜)

ムーサ(Wikipedia)

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NPO Radio4で、エリー・アーメリング(Elly Ameling)の特集ページ公開

オランダのラジオ局NPO Radio4のサイトで、エリー・アーメリング(Elly Ameling)の特集ページが公開されました。

Elly Ameling

オランダ語で彼女の経歴が書かれているほか、貴重な写真も掲載されていて、ファンにはたまらない内容になっています!

1963年のフォレ「レクイエム」とヴェルディ「聖歌四篇」は数年前からずっとアップされたままですが、その他のいくつかの音源が久しぶりにアップされているのは嬉しいです。

30 november 1963: Elly Ameling zingt Fauré
フォレ:「レクイエム」とヴェルディ:「聖歌四篇」

1963年11月30日, Concertgebouw, Amsterdam(コンセルトヘバウ、アムステルダム)

Elly Ameling, sopraan
Bernhard Kruysen, bariton (Fauré)
Bernard Bartelink, orgel (Fauré)
Radio Filharmonisch Orkest
Groot Omroepkoor
Carlo Maria Giulini, dirigent

エリー・アーメリング(ソプラノ)
ベルナルト・クラウセン(バリトン)(フォレ)
ベルナルト・バルテリンク(オルガン)(フォレ)
オランダ放送大合唱団
オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団
カルロ・マリア・ジュリーニ(指揮)

Gabriel Fauré - Requiem
フォレ:レクイエム(19:15頃からアーメリングの「ピエ・イエズ」)

Giuseppe Verdi - Quattro pezzi sacri (Ave Maria; Stabat Mater; Laudi alla Vergine Maria; Te Deum)
ヴェルディ:「聖歌四篇」(アーメリングは4曲目「テ・デウム」の最後の方37:35からわずかな出番のみ)

Die Zauberflöte door RFO o.l.v Bernard Haitink met Fritz Wunderlich
モーツァルト:歌劇「魔笛」全曲(アーメリングは第一の童子、ヴンダーリヒがタミーノ)

1958年5月24日

Maria van Dongen(マリア・ファン・ドンゲン) (Pamina; sopraan)(パミーナ)
Fritz Wunderlich(フリッツ・ヴンダーリヒ) (Tamino; tenor)(タミーノ)
Albert van Haasteren(アルベルト・ファン・ハーステレン) (Sarastro/spreker; bas)(ザラストロ、弁者)
Juliane Farkas(ユリアーナ・ファルカス) (Köningin der Nacht; sopraan)(夜の女王)
Jan Derksen(ヤン・デルクセン) (Papageno; bariton)(パパゲーノ)
Nel Duval(ネル・デュヴァル) (Papagena; sopraan)(パパゲーナ)
Annette de la Bije(アネッテ・ド・ラ・ベイエ) (Erste Dame; sopraan)(第一の侍女)
Lucienne Bouwman(ルシエネ・バウマン) (Zweite Dame; mezzosopraan)(第二の侍女)
Annie Deloirie(アニー・デローリ) (Dritte Dame; mezzosopraan)(第三の侍女)
Reinier Schweppe(レニエ・シュヴェッペ) (Monostatos; tenor)(モノスタートス)
Elly Ameling(エリー・アーメリング) (Erste knabe)(第一の童子)
Thea van de Steen(テア・ファン・デア・ステーン) (Zweite knabe)(第二の童子)
Cora Canne Meyer(コーラ・カネ=メイアー) (Dritte knabe)(第三の童子)
Jan Waayer(ヤン・ヴァイアー) (Erster Priester & Erster geharnischter Mann; bas)(第一の僧、第一の武士)
Sybert van Keeken(シーベルト・ファン・ケーケン) (Zweiter Priester & Zweiter geharnischter Mann; bas)(第二の僧、第二の武士)
Nederlands Omroep Koor(オランダ放送合唱団)
Radio Filharmonisch Orkest(オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団)
Bernard Haitink(ベルナルト・ハイティンク) (Dirigent)

Wolfgang Amadeus Mozart - Die Zauberflöte, KV 620
モーツァルト:歌劇「魔笛」全曲

Elly Ameling en Bernard Haitink
モーツァルト:モテット「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」、マーラー:交響曲第2番

1969年11月8日, Concertgebouw, Amsterdam

Elly Ameling (sopraan)
Aafje Heynis (alt)
Groot Omroepkoor
Radio Filharmonisch Orkest
Bernard Haitink (Dirigent)

エリー・アーメリング(ソプラノ)
アーフィエ・ヘイニス(アルト)
オランダ放送大合唱団
オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団
ベルナルト・ハイティンク(指揮)

Wolfgang Amadeus Mozart - Motet voor sopraan en orkest KV.165, "Exsultate, jubilate"
モーツァルト:モテット「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」

Gustav Mahler - Symfonie nr. 2 in c "Auferstehung"
マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」

※上記のサイトから当日のプログラムをPDFでダウンロード出来ます(Mediaという見出しの下の行のリンクを右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」)。

Elly Ameling zingt Schubert
シューベルト・リサイタル(ドルトン・ボールドウィン:ピアノ)

1978年4月14日, Concertgebouw, Amsterdam

Elly Ameling (sopraan)
Dalton Baldwin (piano)

エリー・アーメリング(ソプラノ)
ドルトン・ボールドウィン(ピアノ)

Franz Schubert

1. Ellens Gesang nr.1 (エレンの歌Ⅰ“憩いなさい、兵士よ”D837)
2. Ellens Gesang nr.2 (エレンの歌Ⅱ“狩人よ、休みなさい”D838)
3. Ellens Gesang nr.3 (エレンの歌Ⅲ“アヴェ・マリア”D839)
4. Rosamunde, Fürstin von Zypern D.797: Romanze "Der Vollmond strahlt" (「キプロスの女王ロザムンデ」D797より~ロマンツェ“満月は輝き”)
5. Amalia (アマーリアD195)
6. Das Mädchen (娘D652)
7. Refrainlieder: Die Männer sind méchant (「4つのリフレイン歌曲」より~男はみんなこんなものD866-3)
8. Suleika I (ズライカⅠD720)
9. Der König in Thule (トゥーレの王D367)
10.Gretchens Bitte (グレートヒェンの祈りD564)
11.Gretchen am Spinnrade (糸を紡ぐグレートヒェンD118)
12.Claudine von Villa Bella: "Liebe schwärmt auf allen Wegen" (「ヴィラ・ベラのクラウディーネ」D239より“愛はいたるところに”)
13.Die Liebende schreibt (恋する娘が手紙を書くD673)
14.Nähe des Geliebten (恋人のそばD162)
15.Liebhaber in allen Gestalten (あらゆる姿をとる恋人D558)
16.Heidenröslein (野ばらD257)
17.Der Schmetterling (蝶々D633)

Elly Ameling en Irwin Gage spelen Schubert
シューベルト・リサイタル(アーウィン・ゲイジ:ピアノ)

1975年6月19日, Circustheater, Scheveningen

Elly Ameling (sopraan)
Irwin Gage (piano)

エリー・アーメリング(ソプラノ)
アーウィン・ゲイジ(ピアノ)

Franz Schubert

An Sylvia(シルヴィアにD891)
Ganymed(ガニュメデスD544)
Der Musensohn(ミューズの息子D764)
Ellens Gesang I: Raste, Krieger(エレンの歌ⅠD837:憩いなさい、兵士よ)
Ellens Gesang II: Jäger, ruhe(エレンの歌ⅡD838:狩人よ、狩をお休みなさい)
Ellens Gesang III: Ave Maria(エレンの歌ⅢD839:アヴェ・マリア)
Im Frühling(春にD882)
Suleika I(ズライカⅠD720)
Frühlingsglaube(春の思いD686)
Heimliches Lieben(ひそやかな愛D922)
Der Einsame(孤独な男D800)
Du liebst mich nicht(あなたは私を愛していないD756)
Auf dem Wasser zu singen(水の上で歌うD774)
Gretchen am Spinnrade(糸を紡ぐグレートヒェンD118)
Seligkeit(幸福D433)
Lachen und Weinen(笑ったり泣いたりD777)
Suleika II(ズライカⅡD717)
"Claudine von Villa Bella": Liebe schwärmt auf allen Wegen(「ヴィラ・ベラのクラウディーネ」D239~愛はいたるところに)
An die Musik(音楽に寄せてD547)
Romanze aus "Rosamunde": Der Vollmond strahlt(「ロザムンデ」D797~ロマンス:満月は輝き)
Die Forelle(ますD550)

アーメリングのマスタークラス
Podium Witteman Masterclass: Elly Ameling - 29 augustus

2021年8月29日放送

7分頃~
Lucie Horsch (mezzo soprano), Hans Eijsackers (piano)

Schumann: Widmung, Op. 25-1
シューマン:献呈

25分頃~
Noëlle Drost (soprano), Hans Eijsackers (piano)

Debussy: Mandoline
ドビュッシー:マンドリン

43分頃~
Vincent Kusters (baritone), Hans Eijsackers (piano)

Fauré: Après un rêve, Op. 7-1
フォレ:夢のあとで

Schumann: Widmung, Op. 25-1
シューマン:献呈

Wie is... Elly Ameling?

タイトルを訳すと「アーメリングってどんな人?」という感じでしょうか。
いくつかの動画も引用されていますが、このサイトでは彼女の秘話がオランダ語で紹介されています。Google翻訳の助けを借りて読むと、小さい頃から歌好きだったアーメリングは母親に連れられて行ったジェラール・スゼーのリサイタルに啓示を受け、この時のことを「歌手人生の始まり」とみなしたとのこと。そして引退を決意した時もスゼーの言葉を引用しました「精神的に成熟した瞬間に楽器が劣化してしまうのが歌手の悲劇です」。Google翻訳でぜひ読んでみて下さい。

De Gouden Opnamen van Elly Ameling

タイトルは「エリー・アーメリングのゴールド・ディスク」という感じでしょうか。アーメリングの優れた録音をいろいろな人が日替わりで選ぶ企画のようです。

初日の月曜日はバスバリトンのロベルト・ホル(Robert Holl)がシューベルトの「音楽に寄せて」を、De Podiumというこの番組のスタッフがラヴェルの「シェエラザード」を選びます。
「Speel fragment af」をクリックすると、これらの録音やホルの祝福の言葉を聞くことが出来ます。

火曜日はオーボエ奏者のハン・ドゥ・フリース(Han de Vries)セレクトのバッハ「結婚カンタータ」BWVから"Sich üben im Lieben"と、番組スタッフセレクトのマーラー「交響曲第4番」の第4楽章です。

水曜日はフォレ「夢のあとに」、ドビュッシー「美しい夕暮れ」、ベルリオーズ『夏の夜』~「ばらの精」

木曜日はアーメリングの弟子のバリトン、ラウル・ステファーニ(Raoul Steffani)の選んだシューマン『リーダークライスOp.39』~第1・2曲と、番組のセレクトによるバッハの「マタイ受難曲」より「私の心は涙の中を漂っています-私はあなたに私の心を捧げます(Wiewohl mein Herz in Tränen schwimmt - Ich will dir mein Herze schenken)」

金曜日はアーメリングの弟子のソプラノ、レネケ・ラウテン(Lenneke Ruiten)の選んだシューベルト「岩の上の羊飼い」がオーケストラ伴奏版で放送されます。

土曜日は意外なところで、今大きく売り出し中のアイスランドのピアニスト、ヴィキングル・オラフソン(Víkingur Ólafsson)がアイスランドに来た彼女の声を聞いて「私の人生を変えた」とコメント

Elly Ameling in podcast Hollandse Helden

「オランダの英雄たち」というポッドキャストにエリー・アーメリングも加わりました。説明の他に動画が2つ掲載されていて、一つはNOS Radio 1 Journaalのパーソナリティとの電話の会話。もう一つは最近のアーメリングの姿を映した動画でハンス・ハフマンス(Hans Haffmans)と会話しながら衣装やスーツケースをお披露目し、最後には貴重な運転姿まで披露しています。
肝心のポッドキャストですが、残念ながら日本からは聞けない仕様になっているようです。

SOPRANISTIN ELLY AMELING
Eine Stimme aus Kristall

Jürgen Kestingによるアーメリングの経歴と歌唱に関する独語のエッセーです。彼女が賞を獲得した後、しばらく音楽から離れて本屋に勤めていたこと、その後復帰したこと、それからベルナック門下の彼女の歌うフランス歌曲について等が書かれています。

Elly Ameling (90): Weet u welk liedje mijn moeder voor me zong als ik slapen ging?

オランダの日刊紙Trouwのインタビュー記事ですが、料金を払わないと記事は見れません。ヘッダーに白髪のアーメリングのアップ写真が掲載されています。

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ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ (ピアノ:デームス、ヘル、ブレンデル)/シューベルト&R.シュトラウス・ライヴ(1980年,1982年,1984年アムステルダム)

オランダの放送局NPO Radio4が、本日(5月28日)誕生日のディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)のアムステルダム・コンセルトヘバウでのライヴを3種類、期間限定でアップしています。
おそらく数週間で消されてしまうと思いますので、もし興味のある方は早めに聴いてみて下さい。1曲ずつでも再生できるようになっているので、聞きたい曲だけ聞くことも出来ます。
シューベルトの方は1980年のライヴで、2014年にアップされた時にブログの記事にしていますので、その後アップされていなかったとしたら8年ぶりということになります。ピアノはイェルク・デームスです。

●Schubert-recital door Dietrich Fischer-Dieskau

ライヴ録音:1980年12月9日, Concertgebouw Grote Zaal Amsterdam(アムステルダム・コンセルトヘバウ大ホール)

Dietrich Fischer-Dieskau(ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ) (bariton)
Jörg Demus(イェルク・デームス) (piano)

Schubert(シューベルト)作曲

1.Prometheus(プロメテウス) D.674
2.Meeresstille(海の静けさ) D.216
3.An die Leier(竪琴に寄せて) D.737
4.Memnon(メムノン) D.541
5.Freiwilliges Versinken(自ら沈み行く) D.700
6.Der Tod und das Mädchen(死と乙女) D.531
7.Gruppe aus dem Tartarus(タルタロスの群れ) D.583
8.Nachtstück(夜曲) D.672
9.Totengräbers Heimweh(墓掘人の郷愁) D.842

10.Der Wanderer an den Mond(さすらい人が月に寄せて) D.870
11.Abendstern(夕星) D.806
12.Selige Welt(幸福の世界) D.743
13.Auf der Donau(ドナウ川の上で) D.553
14.Über Wildemann(ヴィルデマンの丘を越えて) D.884
15.Wanderers Nachtlied(さすらい人の夜の歌Ⅱ) D.768
16.Des Fischers Liebesglück(漁師の恋の幸福) D.933
17.An die Laute(リュートに寄せて) D.905
18.Der Musensohn(ムーサの息子) D.764

19.Nachtviolen(はなだいこん) D.752
20.Geheimes(秘めごと) D.719
21.An Sylvia(シルヴィアに) D.891
22.Abschied(別れ) D.957 nr.7

次にR.シュトラウスのリサイタルで、こちらも2014年にアップされた時に記事にしていました。ピアノはハルトムート・ヘルです。

●Richard Strauss recital door Dietrich Fischer-Dieskau

ライヴ録音:1982年2月18日, Concertgebouw, Amsterdam(アムステルダム・コンセルトヘバウ)

Dietrich Fischer-Dieskau(ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ) (bariton)
Hartmut Höll(ハルトムート・ヘル) (piano)

Richard Strauss(リヒャルト・シュトラウス)作曲

1 Schlechtes Wetter(悪天候), op.69 nr.5
2 Im Spätboot(夜更けの小舟で), op.56 nr.3
3 Stiller Gang(静かな散歩), op.31 nr.4
4 O wärst du mein(おお君が僕のものならば), op.26 nr.2
5 Ruhe, meine Seele(憩え、わが魂よ), op.27 nr.1 (04:00)
6 Herr Lenz(春さん), op.37 nr.5
7 Wozu noch, Mädchen(少女よ、それが何の役に立つのか), op.19 nr.1
8 Frühlingsgedränge(春の雑踏), op.26 nr.1
9 Heimkehr(帰郷), op.15 nr.5
10 Ach, weh mir unglückhaftem Mann(ああ辛い、不幸な俺), op.21 nr.4

11 Winternacht(冬の夜), op.15 nr.2
12 Gefunden(見つけた), op.56 nr.1
13 Einerlei(同じもの), op.69 nr.3
14 Waldesfahrt(森の走行), op.69 nr.4
15 Himmelsboten(天の使者), op.32 nr.5
16 Junggesellenschwur(若者の誓い), op.49 nr.6
17 "Krämerspiegel(「商人の鑑」)": O lieber Künstler(おお親愛なる芸術家よ), op.66 nr.6
18 "Krämerspiegel": Die Händler und die Macher(商人どもと職人どもは), op.66 nr.11
19 "Krämerspiegel": Hast du ein Tongedicht vollbracht(あなたが交響詩を書き上げたら), op.66 nr.5
20 "Krämerspiegel": Einst kam der Bock als Bote(かつて牝山羊が使者にやって来た), op.66 nr.2

21 Traum durch die Dämmerung(黄昏を通る夢), op.29 nr.1
22 Ständchen(セレナーデ), op.17 nr.2
23 Morgen(明日), op.27 nr.4
24 Zugemessene Rhythmen(整いすぎたリズム), WoO.122

1984年のアルフレート・ブレンデルとの『冬の旅』のライヴは、スタジオ録音やDVDの映像と比較してみるのも興味深いかと思います。

●Legendarisch archief: Winterreise door Dietrich Fischer-Dieskau

ライヴ録音:1984年6月29日, Concertgebouw, Amsterdam(アムステルダム・コンセルトヘバウ)

Dietrich Fischer-Dieskau(ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ) (bariton)
Alfred Brendel(アルフレート・ブレンデル) (piano)

Schubert(シューベルト)作曲

Winterreise(『冬の旅』) D.911 - compleet

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シューベルト「ルイーザの返答(Luisens Antwort, D 319)」を聴く

Luisens Antwort, D 319
 ルイーザの返答

1.
Wohl weinen Gottes Engel,
Wenn Liebende sich trennen,
Wie werd' ich leben können,
Geliebter ohne dich!
Gestorben allen Freuden,
Leb' ich fortan den Leiden,
Und nimmer, Wilhelm, nimmer
Vergißt Luisa dich.
 神の天使たちは泣くでしょう、
 恋人同士が別れるときには、
 私はどうやって生きていけるというのでしょう、
 愛する方、あなたなしで!
 喜びはすべて死に絶え、
 これからは苦しんで生きていくのです、
 そして決して、ヴィルヘルムよ、決して
 ルイーザはあなたのことを忘れません。

2.
Wie könnt' ich dein vergessen!
Wohin ich, Freund, mich wende,
Wohin den Blick nur sende;
Umstrahlt dein Bildniß mich.
Mit trunkenem Entzücken
Seh' ich es auf mich blicken.
Nein nimmer, Wilhelm, nimmer
Vergißt Luisa dich.
 どうしてあなたのことを忘れられましょうか!
 友よ、どこを向いても
 視線だけをどこに送ろうと
 あなたの姿が私を光で包み込むのです。
 うっとりと陶酔して
 あなたの姿を私自身に見るのです。
 いいえ決して、ヴィルヘルムよ、決して
 ルイーザはあなたのことを忘れません。

3.
Wie könnt' ich dein vergessen!
Geröthet von Verlangen,
Wie flammten deine Wangen,
Von Inbrunst naß um mich!
Im Wiederschein der Deinen
Wie leuchteten die Meinen!
Nein nimmer, Wilhelm, nimmer
Vergißt Luisa dich.
 どうしてあなたのことを忘れられましょうか!
 憧れるあまり赤くなっています、
 あなたの頬はなんと燃え上がり、
 情熱のあまり私は濡れています!
 あなたの頬に照らされて
 なんと私の頬が輝いていることでしょう!
 いいえ決して、ヴィルヘルムよ、決して
 ルイーザはあなたのことを忘れません。

4.
Wie könnt' ich dein vergessen!
Vergessen, wie die Blöde
In Blick' und Nick und Rede
Die Liebe süß beschlich.
Dein zartes Liebeflehen,
Mein stammelndes Gestehen
Sollt' ich vergessen? Nimmer
Vergißt Luisa dich.
 どうしてあなたのことを忘れられましょうか!
 お馬鹿さんみたいに忘れるなんて、
 あなたが視線を向け、うなずき、お話するさまに接しているうちに
 甘い愛にとらわれたのです。
 あなたの優しい求愛や
 私のしどろもどろの告白を
 忘れろとおっしゃるのですか?決して
 ルイーザはあなたのことを忘れません。

5.
Wie könnt' ich dein vergessen!
Die Töne je verlernen,
Worin bis zu den Sternen
Du mich erhubest, mich.
Ach unauslöschlich klingen
Sie mir in Ohren, singen
Sie mir im Herzen - Nimmer
Vergißt Luisa dich.
 どうしてあなたのことを忘れられましょうか!
 かつてのあの響きを忘れるなんて、
 星々まで
 あなたが私を引き上げてくれた響きを。
 ああ、忘れられず響いています、
 あなたが私の耳に、
 私の心に歌っています、決して
 ルイーザはあなたのことを忘れません。

6.
Wie könnt' ich dein vergessen!
Vergessen deiner Briefe
Voll zarter, treuer Liebe,
Voll herben Grams um mich!
Ich will sie sorgsam wahren,
Für meinen Sarg sie sparen.
Geliebter, nimmer, nimmer,
Vergißt Luisa dich.
 どうしてあなたのことを忘れられましょうか!
 あなたの手紙を忘れるなんて、
 優しく誠実な愛にあふれ、
 私についての苦々しい痛みに満ちた手紙を!
 私はその手紙を大事にとっておき、
 私の棺に入れるために残しておこうと思います。
 愛する方、決して、決して
 ルイーザはあなたのことを忘れません。

7.
Wie könnt' ich dein vergessen!
Vergessen jener Stunden,
Wo ich von dir umwunden,
Umflechtend innigst dich,
An deine Brust mich lehnte,
Ganz dein zu seyn mich sehnte! -
Geliebter, nimmer, nimmer
Vergißt Luisa dich.
 どうしてあなたのことを忘れられましょうか!
 あの時間を忘れるなんて、
 あなたに巻き付かれて、
 あなたに愛をこめてからみつかれて、
 あなたの胸にもたれ、
 すべてあなたのものになることを望んだあの時間を!
 愛する方、決して、決して
 ルイーザはあなたのことを忘れません。

8.
Wie könnt' ich dein vergessen!
Vergessen je der Fragen,
Die du in schönern Tagen
Ohn' Ende fragtest: "Sprich,
Luisa, bist du meine?"
Ja, Trauter, ja, die Deine
Bin ich auf ewig. - Nimmer
Vergißt Luisa dich.
 どうしてあなたのことを忘れられましょうか!
 かつてのあの問いかけを忘れるなんて、
 あなたがあの素晴らしかった日々に
 果てしなく「ねえ、
 ルイーザ、きみは僕のもの?」と尋ねた問いかけを。
 ええ、いとしい方、そうです、
 私は永遠にあなたのものです、決して
 ルイーザはあなたのことを忘れません。

9.
Wie könnt' ich dein vergessen!
Vergessen je der Schauer
Von Seligkeit und Trauer,
Die allgewaltig mich
An deiner Brust durchzückten,
Aus deinem Arm entrückten
Zu höhern Sphären! - Nimmer
Vergißt Luisa dich.
 どうしてあなたのことを忘れられましょうか!
 かつてのあの身震いを忘れるなんて、
 幸せと悲しみのあまり
 激しく
 あなたの胸にもたれた私を貫き、
 あなたの腕から
 高き天空へと連れ去ったあの身震いを!決して
 ルイーザはあなたのことを忘れません。

10.
Wie könnt' ich dein vergessen!
Vergessen je der Qualen,
Womit aus goldnen Schalen
Die Liebe tränkte mich!
Was ich um dich gelitten,
Was ich um dich gestritten
Sollt' ich vergessen? Nimmer
Vergißt Luisa dich.
 どうしてあなたのことを忘れられましょうか!
 かつてのあの苦しみを忘れるなんて、
 黄金の鉢から
 愛が私にしみこませた苦しみを!
 あなたのために苦しんだことや
 あなたのために口論したことを
 私に忘れてほしいのですか?決して
 ルイーザはあなたのことを忘れません。

11.
Ich kann dich nicht vergessen,
Auf jedem meiner Tritte,
In meiner Lieben Mitte,
Umschwebt dein Bildniß mich.
Auf meiner Leinwand schimmerts,
An meinem Vorhang flimmerts,
Geliebter, nimmer, nimmer
Vergißt Luisa dich.
 あなたのことが忘れられないのです、
 私が一歩歩くたびに
 私の愛の中心で
 あなたの姿が周りに浮かびます。
 私のスクリーンにほのかに光り
 私のカーテンにちらつくのです。
 愛する方、決して、決して
 ルイーザはあなたのことを忘れません。

12.
Ich kann dich nicht vergessen.
Mit jedem goldnen Morgen
Erwacht mein zärtlich Sorgen,
Mein Seufzen, ach, um dich!
"Wo weilst du itzt, du Einer?
Was denkst du itzt du Meiner?
Denkst du auch an Luisen?
Luisa denkt an dich!"
 あなたのことが忘れられないのです、
 黄金色の朝を迎えるたび
 私の愛のこもった気がかりが、
 溜息が、ああ、あなたを思って目覚めるのです。
 「今どこにいるのですか、あなた?
 今何を思っているのですか、私のものであるあなた?
 ルイーザのことも思っていてくれますか?
 ルイーザはあなたのことを思っています。」

13.
Ich kann dich nicht vergessen.
Des Nachts auf meinem Bette
Gemahnt michs oft, als hätte
Dein Arm umschlungen mich.
Des Penduls Schwingung weckt mich,
Das Horn des Wächters schreckt mich.
Allein bin ich im Dunkel,
Und weine still um dich.
 あなたのことが忘れられないのです、
 毎晩ベッドにいると
 よく思うのです、
 あなたの腕が私にからみついているかのように。
 時計の振り子の揺れで目が覚め、
 番人の角笛に驚きます。
 私は暗闇の中一人きりで
 あなたを思って静かに泣くのです。

14.
Ich kann dich nicht vergessen.
Nicht fremde Huldigungen,
Nicht Sklavenanbetungen,
O Freund, verdrängen dich.
Luisa liebt nur Einen,
Nur Einen kann sie meinen,
Nur Einen nie vergessen,
Vergessen nimmer dich.
 あなたのことが忘れられないのです、
 他の人に熱中しようとしても
 奴隷を好きになろうとしても
 おお友よ、あなたを排除できないのです。
 ルイーザはただ一人の方を愛しています。
 ただ一人の方と言えます、
 ただ一人の方を忘れません、
 あなたのことを決して忘れません。

15.
Luisa liebt nur Einen,
Verschmäht des Stutzers Schmeicheln,
Verhöhnt sein süsslich Heucheln,
Gedenkt, o Wilhelm, dein;
Denkt deines Geistes Adel,
Dein Lieben sonder Tadel
Dein Herz so treu, so bieder -
Und brennt für dich allein.
 ルイーザはただ一人の方を愛しています、
 伊達男のお世辞を退けて
 そいつの猫をかぶった甘ったるい言動をあざ笑って
 ヴィルヘルムよ、あなたのことを思うのです。
 あなたの心の気高さを
 非の打ち所のないあなたの愛情を
 とても誠実で純真なあなたの心を思い、
 そしてあなただけに燃え上がるのです。

16.
Für dich nur mag ich brennen,
Für dich, für dich nur fühlen.
Dieß Feuer in mir kühlen
Mag Zeit, mag Ferne nicht.
Von dir, von dir mich scheiden
Mag Freude nicht, nicht Leiden,
Mag nicht die Hand des Todes,
Selbst dein Vergessen nicht.
 あなたのためだけに燃え上がりたい、
 あなたのためだけに感じたいのです。
 私の中のこの炎を冷ますのは
 遠さではなく、時の経過であってほしいです。
 あなたから、あなたから私を隔てているのは
 喜びでも、苦しみでもありません、
 それは死神の手でもなく、
 あなたに忘れられることですらありません。

17.
Selbst, wenn du falsch und treulos
An fremde Brust dich schmiegtest,
In fremdem Arm dich wiegtest,
Vergessend Schwur und Pflicht
In fremden Flammen brenntest,
Luisen gar verkenntest,
Luisen gar vergässest -
Ich, ach! vergäss' dich nicht!
 あなたが不実で不貞にも
 他の女の胸にもたれかかり
 他の女の腕の中で腰を振ったとしても
 忘れつつある誓いと義務が
 他の女の炎の中で燃え上がろうと
 ルイーザを完全に見誤ろうと
 ルイーザを全く忘れようと
 私は、ああ!あなたを忘れないでしょう!

18.
Verachtet und vergessen,
Verloren und verlassen,
Könnt' ich dich doch nicht hassen;
Still grämen würd ich mich,
Bis Tod sich mein erbarmte,
Das Grab mich kühl umarmte -
Doch auch im Grab', im Himmel,
O Wilhelm, liebt' ich dich!
 軽蔑され、忘れられ、
 見捨てられ、見放されても
 私はあなたを憎むことは出来ないでしょう。
 静かに私は嘆くでしょう、
 死が私に同情してくれるまで、
 墓が私を冷たく抱きしめるまで、
 でも、墓の中でも、天国でも
 おおヴィルヘルム、私はあなたを愛すでしょう!

19.
In mildem Engelglanze
Würd' ich dein Bett umschimmern,
Und zärtlich dich umwimmern:
"Ich bin Luisa, ich!
Luisa kann nicht hassen,
Luisa dich nicht lassen,
Luisa kommt, zu segnen,
Und liebt auch droben dich."
 穏やかな天使の輝きの中
 私はあなたのベッドのまわりでほのかに光り
 あなたを思ってめそめそ泣くでしょう。
 「私はルイーザ、私です!
 ルイーザは憎んだり出来ません、
 ルイーザはあなたと別れられません、
 ルイーザは祝福するために来たのです、
 そして天上でもあなたを愛しています。」

詩:Ludwig Gotthard Theobul Kosegarten (1758-1818), "Luisens Antwort", written 1785, first published 1786
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828), "Luisens Antwort", D 319 (1815), published 1895

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今日はルートヴィヒ・ゴットハルト・テオブル・コーゼガルテンの詩によるシューベルトの歌曲「ルイーザの返答(Luisens Antwort, D 319)」を採り上げます。シューベルト18歳の時(1815年10月19日)に作曲されました。

詩は19連からなり、シューベルトは有節歌曲として作曲していますので、全部演奏したらかなりの時間になると思いますが、今のところ全節演奏した録音は存在しません(2022年3月現在)。

恋人だったヴィルヘルムに捨てられたルイーザという女性による未練たっぷりの心情が切々と綴られています。

詩の内容を大雑把に要約してみます。

1. 恋人の別れには天使も涙するでしょう。あなたなしでどうやって生きていけるのでしょうか?

2. どこを見てもあなたの姿がまわりで輝いています。

3. あなたの頬は燃え上がり、私の頬を照らしています。

4. あなたが求愛してくれたことやしどろもどろになりながら私が打ち明けたことを忘れることなど出来ません。

5. あなたが私に歌ってくれた歌を忘れられません。

6. あなたがくれた手紙を棺に入れるためにとっておきます。

7. あなたに抱かれたあの時間を忘れません。

8. きみはぼくのもの?と聞かれたことを忘れません。私は永遠にあなたのものです。

9. あなたに抱かれたときに私を貫いた身震いを忘れません。

10. あなたへの愛ゆえに苦しんだり言い争ったりしたことを忘れません。

11. 私が歩くたびにあなたの姿が私の中のスクリーンに投影されるのです。

12. 朝になるとあなたのことが気がかりで、どこでどうしているのか考えてしまいます。

13. 毎晩ベッドにいるとあなたに腕を回されているかのように錯覚して、時計の音で目が覚めます。

14. 他の人を好きになろうとしてみても、あなたのことが頭から離れないのです。私が愛しているのはただ一人だけです。

15. 私に言い寄ってくる男を払いのけて、あなたの完璧な愛情を思い出します。

16. あなたのためだけに燃え上がりたい。時間が経ってこの炎が冷めてしまえばいいのに。

17. あなたが他の女を抱いて私のことを忘れても、私はあなたのことを忘れません。

18. あなたに捨てられてもあなたを嫌いになりません。死神が迎えに来てくれるまで静かに嘆き悲しむだけです。

19. 天使になったらあなたのベッドにあらわれて、泣きながら天国でもあなたを愛していることを伝えます。

ちょっとひいてしまうぐらい情熱的な詩ですね。過去の思い出や現在の心境を書き連ね、どんな仕打ちにあっても今後もあなただけを愛し続けますという決意のようなものが感じられます。
詩人は男性ですが、どんな心境でこの女性の立場からの詩を書いたのでしょう。ちょっと気になります。

ここで、この詩の第1連最初の4行をご覧ください。

Wohl weinen Gottes Engel,
Wenn Liebende sich trennen,
Wie werd' ich leben können,
Geliebter ohne dich!
 神の天使たちは泣くでしょう、
 恋人同士が別れるときには、
 私はどうやって生きていけるというのでしょう、
 愛する方、あなたなしで!

次に、クラーマー・エーバーハルト・カール・シュミット(Klamer Eberhard Karl Schmidt: 1746-1824)の詩にモーツァルトが作曲した歌曲「別れの歌(Das Lied der Trennung, KV 519)」の第1連最初の4行をご覧ください。

Die Engel Gottes weinen,
wo Liebende sich trennen!
wie werd' ich leben können,
o Mädchen,ohne dich?
 神の天使たちは泣いています、
 恋人同士が別れるときに、
 僕はどうやって生きていけるというのだろう、
 おお乙女よ、きみなしで?

この4行は明らかに対応しているのが分かります。シュミットより12歳年下のコーゼガルテンが、「別れの歌」のアンサーソングを書いたということのようです。
シュミットの詩は全18連(モーツァルト旧全集では第1,3,8,12,16,17,18連が掲載されていますが、新全集には全連掲載されているようです(新全集未確認ですが、文献にそう記載されていました))で、コーゼガルテンの詩は全19連ですから、ルイーザの返答の方が1連多いことになります。

「ルイーザの返答」は彼氏が不実を働いたという設定で書かれていますが、その基となる彼氏側の「別れの歌」ではルイーザが不実を働いたということになっていて、お互いに浮気をしていたということになるのでしょうか。

それでは音楽を見ていきます。モーツァルトの「別れの歌(Das Lied der Trennung) KV 519」の楽譜を見てみましょう。

Mozart-das-lied-der-trennung-kv-519-exce

次にシューベルトの「ルイーザの返答 D 319」の楽譜です。

Schubert-luisens-antwort-d-319-excerpt-s

まず拍子ですが、モーツァルト「別れの歌」が2/4拍子、シューベルト「ルイーザの返答」が2/2拍子(Alla breve)です。基準となる音価は「ルイーザ~」の方が「別れ~」の2倍ですが、どちらも2拍子です。

調は「別れ~」がフラット4つのヘ短調であるのに対して、「ルイーザ~」がフラット5つの変ロ短調で「別れ~」の下属調にあたり近い関係にあります。

歌の旋律は1小節あたり4音節→3音節を繰り返す点で両曲とも共通しています。

ピアノパートは、「別れ~」は左手で強拍に八分音符を弾き、右手は十六分休符の後に3つの十六分音符が続くパターンが続きます。一方「ルイーザ~」は左手で強拍に二分音符を弾き、右手は八分休符の後に3つの八分音符が続くパターンが続きます。右手の3つの音符については両者とも上行、下行の順で動き、かなり似ていると言えると思います。

形式はモーツァルトが最初の15連を有節形式で進めた後、16,17連で変化を見せ別の音楽が進行していきます。最終連で再び冒頭の音楽が回帰しますが、終わりに向けて変化を見せ、強い訴求力を加えながら静かに終わります。一方の「ルイーザ~」は完全な有節形式です。

以上両曲を比較してみましたが、シューベルトが両方の詩の関連性を理解したうえで、かなりモーツァルトの音楽を意識した作曲をした形跡が伺えます。少なくともシューベルトが「別れの歌」と無関係に「ルイーザの返答」を作曲したとは考えにくいと思います。

無名なのが信じられないほど切なく美しい曲で、8行のテクストがシューベルトによって見事に起承転結の展開を与えられています。たった6小節のピアノ前奏(間奏にも使われ、ほぼ後奏とも同じ)が曲の世界観を素晴らしく描いていて、ぐっと引き込まれます。個人的にはシューベルトの知られざる傑作ではないかと思っています。

2/2拍子
変ロ短調(b-moll)
Klagend (嘆いて)

Hyperion Schubert Edition, Vol. 7 (リンク先の音符マークをクリックすると一部試聴可能です)
エリー・アーメリング(S), グレアム・ジョンソン(P)
Elly Ameling(S), Graham Johnson(P)
1,7,18,19節。1989年8月15-18日録音。グレアム・ジョンソンによるハイペリオンレーベルのシューベルトエディション7巻に含まれるこの音源はおそらく世界初録音と思われます。アーメリングの奥行を感じさせる繊細な語りかけが素晴らしく、このCDをはじめて聴いた時からとりわけ印象に残ったことを覚えています。一体何度聞いたことでしょう(今でも折に触れて聞いています)!彼女は第7節のヴィルヘルムとの情事の思い出を歌うことで、元恋人たちの親密な関係をより明るみに出していると思います。

●カタリナ・コンラーディ(S), ダニエル・ハイデ(P)
Katharina Konradi(S), Daniel Heide(P)

1,2,12節。2020年7月録音。ここでコンラーディが選んで歌っている第12節では朝になってルイーザがヴィルヘルムに「今何をしているのですか。私のことを思ってくれていますか」と気に掛けるという内容で、好きだった人のことをつい気にしてしまう進行中の恋人同士のような情景です。最近の私のお気に入りソプラノ歌手、コンラーディはゆっくりめのテンポで丁寧に歌い、詩の主人公が冷静に言葉を紡いでいるかのようです。歌曲を歌うのにとても適性が感じられてこれからの活躍が楽しみです。ダニエル・ハイデは次世代の歌曲演奏を担っていくであろうピアニストです。

●エルス・クロメン(S), ヤン・フェルムレン(Fortepiano)
Els Crommen(S), Jan Vermeulen(Fortepiano)

1,2,8,14,17,18,19節。クロメンは他のどの録音よりも多くの節を歌っています。「どこを見てもあなたの姿が輝いている(2節)」「私は永遠にあなたのもの(8節)」「他の人を好きになろうとしてもあなたのことが忘れられない(14節)」「他の女を抱いていてもあなたを忘れない(17節)」「捨てられても嫌いにならない(18節)」「天国でもあなたを愛している(19節)」という流れがクロメンの歌によって描かれます。クロメンはリリックな持ち味で、清楚な女性が裏切られた男性に切々と訴えている感じが出ています。

●リュディア・トイシャー(S), ウルリヒ・アイゼンローア(Fortepiano)
Lydia Teuscher(S), Ulrich Eisenlohr(Fortepiano)

1,2,18,19節。2003年11月10-14日, 2004年1月12-16日, 2005年11月2-3日録音。トイシャーは速めのテンポで吸い付くような趣で悲壮感を打ち出しながら歌っています。装飾音の扱いが他の演奏と違い興味深いです。

●ルート・ツィーザク(S), ウルリヒ・アイゼンローア(P)
Ruth Ziesak(S), Ulrich Eisenlohr(P)

1,2,18節。2006年9月25-30日, 2007年2月12-14日録音。Naxosレーベルのモーツァルト歌曲全集にこの曲だけぽつんとシューベルト歌曲が含まれているので、事情を知らない方は疑問に思うことでしょう。「別れの歌」→「ルイーザの返答」という流れのプログラミングがステージでも演奏されるといいなと思います。ツィーザクは今やベテランですが歌曲に打ってつけの歌手ですね。

●クラウディア・タンドル(MS), ナイアル・キンセラ(P)
Klaudia Tandl(MS), Niall Kinsella(P)

1,2節。2020年2月17-19日録音。タンドルは声域に応じて低く移調しているのでより深刻な心境が感じられました。

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(参考)

The LiederNet Archive

IMSLP (楽譜のダウンロード)

Luisens Antwort: Ludw. Theob. Kosegarten's Poesieen, Zweyter Theil. (Wien 1826. B. Ph. Bauer). P.172-

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