オランダの放送局録音の「冬の旅(Winterreise) D 911」5種

オランダの放送局"Radio 4"は過去から最近にいたるまでの膨大な録音コレクションの一部を聞けるようにしていて、大変有難いのですが、シューベルトの「冬の旅」全24曲を様々な演奏家の録音で聞けるようにしてありましたので、それぞれのサイトのリンクを貼っておきます(リンク先の上方左側の紫の三角をクリックすると再生されます)。
皆さんはどの「冬の旅」を聞きますか?

●ヴォルフガング・ホルツマイア(BR) & イモジェン・クーパー(P)
Wolfgang Holzmair(BR) & Imogen Cooper(P)
録音:13 November 2001, Concertgebouw (コンセルトヘバウ)
時間:1:08:36
 こちら

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & アルフレット・ブレンデル(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Alfred Brendel(P)
録音:29 June 1984, Concertgebouw (コンセルトヘバウ)
時間:1:19:08
 こちら

●ロベルト・ホル(BSBR) & コンラート・リヒター(P)
Robert Holl(BSBR) & Konrad Richter(P)
録音:19 January 1981, Concertgebouw, kleine zaal (コンセルトヘバウ, 小ホール)
時間:43:23 + 36:35
 こちら

●ベルナルト・クライセン(BR) & ノエル・リー(P)
Bernard Kruysen(BR) & Noël Lee(P)
録音:22 February 1978, Concertgebouw (コンセルトヘバウ)
時間:39:05 + 30:49
 こちら

●ヘルマン・シャイ(BSBR) & フェーリクス・ドゥ・ノーブル(P)
Hermann Schey(BSBR) & Felix de Nobel(P)
録音:16 February 1966, Studio
時間:1:13:08
 こちら

| | コメント (0) | トラックバック (0)

シューベルト「秘めごと(Geheimes) D 719」を聴く

Geheimes, D 719
 秘めごと

Über meines Liebchens Äugeln
Stehn verwundert alle Leute;
Ich, der Wissende, dagegen
Weiß recht gut was das bedeute.
 ぼくの恋人の眼差しについて
 人々はみな首をかしげている。
 その一方で、訳知りのぼくは
 どういう意味なのかよく分かっているのだ。

Denn es heißt: ich liebe diesen,
Und nicht etwa den und jenen.
Lasset nur ihr guten Leute
Euer Wundern, euer Sehnen!
 というのも、その眼差しは「私が愛しているのはこの人で、
 こちらさんでもあちらさんでもないのよ」ということなのだ。
 善良なきみたちよ、
 いぶかしがったり、憧れたりするのをやめるがいい!

Ja, mit ungeheuren Mächten
Blicket sie wohl in die Runde;
Doch sie sucht nur zu verkünden
Ihm die nächste süße Stunde.
 そう、とてつもない引力で
 彼女はあたりを見回している。
 だが、彼女が告げようとしているのはただ
 この後のぼくとの甘い時間のことなのだ。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Franz Schubert (1797-1828)

------------------

ゲーテの詩による有名なシューベルトの歌曲です。
詩の主人公の男性は、周囲の男たちを魅了している女性が実は自分の恋人であることに優越感を感じているのでしょうか。
二人の間だけの秘め事として、他の男性たちには分からないサインを恋人の女性が主人公に送っているようです。
シューベルトの音楽は、ピアノパートが一貫して2つの和音によるリズムを繰り返します。
恋人が目配せする様を模しているかのように感じられます。

詩の朗読(Susanna Proskura)

シューベルトのテキストと多少違うところがあるので、ゲーテの原詩によるのかもしれません。0:45頃に朗読が終わりますが、その後1:04まで止まりませんので、お手数ですが終わったら止めて下さい。

Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)

1959年録音。2人の大家の演奏している動画が残っているだけでも有難いことです。演奏は言うまでもなく隅々まで行き届いた素晴らしさです!

Hermann Prey(BR) & Gerald Moore(P)
ヘルマン・プライ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)

1960年録音。プライは声も表現も見事に脂が乗っていて、聞いていて楽しい気分にさせてくれます。ムーアの明晰なタッチも魅力的です。

Hans Hotter(BSBR) & Gerald Moore(P)
ハンス・ホッター(BSBR) & ジェラルド・ムーア(P)

1957年録音。ホッターの温かみのある深い声はただただ聞きほれてしまいます。細やかな表情もさすがです!

Anne Sofie von Otter(MS) & Bengt Forsberg(P)
アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS) & ベングト・フォシュベリ(P)

オッターのディクションの美しさと知的なアプローチが印象的です。フォシュベリもオッターの解釈を把握した演奏です。

Matthias Goerne(BR) & Eric Schneider(P)
マティアス・ゲルネ(BR) & エリク・シュナイダー(P)

2014年録音。ゲルネはディースカウの弟子ですが、師匠よりももっと自然な表現で、柔らかい感触が素晴らしいです。シュナイダーは特定の音を若干強調することで歌とデュエットしているような効果をあげています。

Elisabeth Schumann(S) & Elizabeth Colemann(P)
エリーザベト・シューマン(S) & エリザベス・コールマン(P)

1936年録音。往年の名歌手シューマンの表情の豊かさといったら!

Bruno Laplante(BR) & John Newmark(P)
ブリュノ・ラプラント(BR) & ジョン・ニューマーク(P)

1973年2月録音。ドイツリートの商業用録音を(おそらく)残さなかったラプラントの珍しいドイツリート歌唱です。

Ileana Cotrubas(S) & Erik Werba(P)
イレアナ・コトルバシュ(S) & エリク・ヴェルバ(P)

1978年録音。コトルバシュはあまりリートの印象がないですが、こうして聞いてみると、彼女特有の甘い美声に魅了されますね。

伴奏パートのみ(演奏者不明)

この一見簡素な伴奏を聴くと、いかにシューベルトが選ばれた音で感情の機微をあらわす天才だったかをあらためて感じさせてくれます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

シューベルト「憩いなき愛(Rastlose Liebe) D 139」を聴く

Rastlose Liebe, D 139
 憩いなき愛

Dem Schnee, dem Regen,
Dem Wind entgegen,
Im Dampf der Klüfte,
Durch Nebeldüfte,
Immer zu! Immer zu!
Ohne Rast und Ruh!
 雪に、雨に、
 風に立ち向かい、
 深淵の蒸気の中、
 霧を通り抜け、
 絶えず行け!絶えず行け!
 休まず、憩わずに!

Lieber durch Leiden
Wollt ich mich schlagen,
Als so viel Freuden
Des Lebens ertragen.
Alle das Neigen
Von Herzen zu Herzen,
Ach wie so eigen
Schaffet das Schmerzen!
 むしろ苦しみの中を
 突き進みたい、
 人生のあまりにも多くの喜びに
 耐える位ならば。
 心から心へと
 傾注するものはみな、
 ああ、いかに自ら
 苦しみを生み出してしまうのだろう!

Wie soll ich flieh'n?
Wälderwärts zieh'n?
Alles vergebens!
Krone des Lebens,
Glück ohne Ruh,
Liebe, bist du!
 どうやって逃げろというのだ?
 森へ行けというのか?
 何もかも無駄なことだ!
 人生の王冠であり、
 憩いなき幸せ、
 愛よ、それはお前なのだ!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Franz Schubert (1797-1828)

-----

※シューベルトによる詩句の繰り返しは第3節のみにある。
以下第3節の繰り返し箇所に[ ]を付与している(最終行の冒頭の"o"はシューベルトによる追加)。

Wie soll ich flieh'n?
Wälderwärts zieh'n?
Alles [alles] vergebens!
Krone des Lebens,
Glück ohne Ruh,
Liebe, bist du!
[o, Liebe, bist du!]
[Glück ohne Ruh,]
[Liebe, bist du!]
[Krone des Lebens,]
[Glück ohne Ruh,]
[Liebe, bist du!]
[o, Liebe, bist du!]
[o, Liebe, Liebe, bist du!]

------------------

シューベルトが最も多く独唱歌曲を作曲した詩人はゲーテでしたが、そのゲーテの詩により1815年に作曲された作品の一つがこの「憩いなき愛」D 139 です。
一分半ぐらいの短い作品ですが、詩に横溢している疾風怒濤の焦燥感を見事に描いた名作として、よく演奏される作品です。
詩が短くて、シューベルトの楽想には足りなくなってしまったのか、かなり詩句を繰り返しています。
ピアノパートは細かい十六分音符の箇所と三連符の箇所を織り交ぜながら、激流のように激しく進んでいきます。

●詩の朗読(名前不明の男性による)

美しい朗読です。ぜひ聞いてみて下さい。

●Hermann Prey(BR) & Karl Engel(P)
ヘルマン・プライ(BR) & カール・エンゲル(P)

1965年録音。初期のプライの溢れんばかりに豊かな美声によるほとばしる情熱がこの曲にぴったりで素晴らしいです。エンゲルも雄弁に盛り上げています。

●Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)

1955年録音。F=ディースカウのディクションの上手さと、ムーアの一体感が相変わらず見事です。

●Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)
ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)

シュライアーの清冽な美声が魅力的です。オルベルツも粒立ちのそろった演奏です。なお、この動画、1:20頃に演奏が終わっても3分過ぎまで止まりませんので、終わったらお手数ですが止めて下さい。

●Jessye Norman(S) & Phillip Moll(P)
ジェシー・ノーマン(S) & フィリップ・モル(P)

1984年録音。豊潤な声をもったノーマンによく合った作品だと思います。

●Barbara Hendricks(S) & Radu Lupu(P)
バーバラ・ヘンドリックス(S) & ラドゥ・ルプー(P)

1985年録音。ノーマンとは対照的な細身の声をもったヘンドリックスですが、芯の強さがあり、彼女ならではの魅力があります。シューベルト弾きのルプーの音色の美しさも素晴らしいです。

●Matthias Goerne(BR) & Eric Schneider(P)
マティアス・ゲルネ(BR) & エリク・シュナイダー(P)

2014年録音。ゲルネの深みのある声による歌唱は、現役第一級のリート歌手であることを示しています。シュナイダーも息の合ったいい演奏です。

●ピアノパートのみ:ジョン・ワストマン(John Wustman)による演奏

1962年録音。低声用(原調のホ長調からハ長調に移調した版による)。アメリカを代表する伴奏者の一人ワストマンによる贅沢なマイナスワン録音。ピアノだけで聞かせてしまうのはさすがです。
なお、この動画も、1:25頃に演奏が終わっても4分過ぎまで止まりませんので、終わったらお手数ですが止めて下さい。

●番外編1:Bruno Laplante(BR) & John Newmark(P)
ブリュノ・ラプラント(BR) & ジョン・ニューマーク(P)

1973年2月録音。フランス歌曲の復興に大きく貢献したカナダ人、ラプラントによるドイツ歌曲の歌唱はかなり珍しいのではないでしょうか。

●番外編2:初音ミク(ボーカロイド)

ドイツ語の発音に目をつむれば、面白い試みだと思います。シューベルトがもしボーカロイドの存在する時代に生きていたら、彼女のために作品を書いたかもしれませんね。

---------

他の作曲家がこのテキストに作曲した作品

●ツェルター(Carl Friedrich Zelter: 1758-1832)作曲
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Jörg Demus(Fortepiano)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & イェルク・デームス(Fortepiano)
ゲーテお気に入りの作曲家ツェルターの作品。かなりドラマティックで印象的です。
※埋め込み不可の動画なので、下記の「こちら」をクリックして下さい。
 こちら

●トマーシェク(Johann Wenzel Tomaschek: 1774-1850)作曲(Op. 58, No. 1)
Ildikó Raimondi(S) & Leopold Hager(P)

こちらも焦燥感に満ちた作品になっていますね。演奏も見事です。

●シェック(Othmar Schoeck: 1886-1957)作曲(Op. 19a, No. 5)
Emma Ritter(MS) & Christina Giuca(P)
録音:2017年8月4日, Hahn Hall, Music Academy of the West, Santa Barbara, CA

起伏の大きなドラマティックな作品で、ピアノパートはかなり雄弁です。演奏もとても素晴らしいです。

●シューマン(Robert Schumann: 1810-1856)作曲による無伴奏男声4部合唱(Op. 33, No. 5)
Renner Ensemble & Bernd Engelbrecht

合唱曲ということもあってか、他の作曲家の独唱曲に比べると随分穏やかな印象を受けます。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

ロベルト・ホル(Robert Holl)&デイヴィッド・ルッツ(David Lutz)のシューベルト映像

ピアニストのデイヴィッド・ルッツ(David Lutz)のWebサイトに、バスバリトン歌手のロベルト・ホル(Robert Holl)とのシューベルトの夕べの映像が多数ありますので、ご紹介します。

 こちら

すべて、オーストリアのシュヴァルツェンベルクでのシューベルティアーデのライヴ映像です。
それぞれのプログラムにテーマが設定されているのも、ホルらしいですね。
なお、赤字で"Vervielfältigung, Verwertung und gewerbliche Nützung ist nicht gestattet!"(複製、再利用、商業利用は許可しません)との文言がありますので、Webサイト上で動画を再生するだけにしておいて下さい。

●Schubertiade Schwarzenberg 11. Juni 2005 - Teil 1(2005年6月11日、第1部)

Lieder nach Gedichten von Friedrich von Schiller(フリードリヒ・フォン・シラーの詩による歌曲)

Sehnsucht, D 636(憧れ)
Der Pilgrim, D 794(巡礼者)
Der Alpenjäger, D 588(アルプスの狩人)
Ritter Toggenburg, D 397(騎士トッゲンブルク)
Die Bürgschaft, D 246(人質)

●Schubertiade Schwarzenberg 11. Juni 2005 - Teil 2(2005年6月11日、第2部)

Lieder nach Gedichten von Friedrich von Schiller(フリードリヒ・フォン・シラーの詩による歌曲)

Der Flüchtling, D 402(逃亡者)
Die Erwartung, D 159(期待)
Strophe aus "Die Götter Griechenlands", D 677(「ギリシャの神々」からの断片)
Dithyrambe, D 801(酒神讃歌)
Hoffnung, D 637(希望)

Zugaben(アンコール:詩はすべてマイアホーファー):
Am Strome (Mayrhofer), D 539(流れのそばで)
Die Sternennächte (Mayrhofer), D 670(星の夜)
Nachtviolen (Mayrhofer) D 637(はなだいこん)

●Schubertiade Schwarzenberg 1. September 2005 - Teil 1(2005年9月1日、第1部)

Schubert im Freundeskreis(友人との集いにおけるシューベルト)

Pilgerweise (Schober), D 789(巡礼の歌)
Am Bach im Frühlinge (Schober), D 361(春の小川のほとりで)
Todesmusik (Schober), D 758(死の音楽)
Selige Welt (Senn), D 743(幸福の世界)
Am See (Bruchmann), D 746(湖畔で)
Schwanengesang (Senn), D 744(白鳥の歌)
Auf der Donau (Mayrhofer), D 553(ドーナウ川の上で)
Gondelfahrer (Mayrhofer), D 808(ゴンドラの船頭)

●Schubertiade Schwarzenberg 1. September 2005 - Teil 2(2005年9月1日、第2部)

Schubert im Freundeskreis(友人との集いにおけるシューベルト)

Sehnsucht (Mayrhofer), D 516(憧れ)
Erlaufsee (Mayrhofer), D 586(エルラフ湖)
Einführung zu "Einsamkeit"(歌曲「孤独」の解説)
Einsamkeit (Mayrhofer), D 620(孤独)

Zugaben(アンコール):
Der Schiffer (Mayrhofer), D 536(舟人)
Am Strome (Mayrhofer), D 539(流れのほとりで)

●Schubertiade Schwarzenberg 2. Juli 2011 - Teil 1(2011年7月2日、第1部)

Musik, Poesie der Luft (Jean Paul)(「音楽、大気の詩」(ジャン・パウル))

Der Wanderer an den Mond (Seidl), D 870(さすらい人が月に寄せて)
Das Heimweh (Pyrker), D 851(郷愁)
Der Kreuzzug (Leitner), D 932(十字軍)
Am Strome (Mayrhofer), D 536(湖畔で)
Auf der Donau (Mayrhofer), D 553(ドーナウ川の上で)
Gondelfahrer (Mayrhofer), D 808(ゴンドラの船頭)
Nachthymne (Novalis), D 687(夜の讃歌)
Abendbilder (Silbert), D 650(夕べの情景)

●Schubertiade Schwarzenberg 2. Juli 2011 - Teil 2(2011年7月2日、第2部)

Musik, Poesie der Luft (Jean Paul)(「音楽、大気の詩」(ジャン・パウル))

Der Jüngling auf dem Hügel (Hüttenbrenner), D 702(丘の上の若者)
Augenlied (Mayrhofer), D 297(瞳の歌)
Der Unglückliche (Pichler), D 713(不幸な男)
Sehnsucht (Mayrhofer), D 516(憧れ)
Memnon (Mayrhofer), D 541(メムノン)
An die Freunde (Mayrhofer), D 654(友人たちに寄せて)
Der Winterabend (Leitner), D 938(冬の夕べ)

Zugaben(アンコール):
Nachtviolen (Mayrhofer), D 752(はなだいこん)
An die Musik (Schober), D 547(音楽に寄せて)

| | コメント (2) | トラックバック (0)

シューベルト「乙女の嘆き(Des Mädchens Klage)」全3作(D 6, D 191, D 389)を聴く

Des Mädchens Klage
 乙女の嘆き

Der Eichwald [brauset](1),
Die Wolken [ziehn](2),
Das Mägdlein [sitzet](3)
An Ufers Grün,
Es bricht sich die Welle mit Macht, mit Macht,
Und sie seufzt hinaus in die finstre Nacht,
Das Auge [von](4) Weinen [getrübet](5).
 樫の森はざわめき、
 雲は流れ行く。
 娘は
 岸辺の緑野に座っている。
 波は勢いよく、勢いよく砕け散る。
 彼女は暗い夜にため息をもらし、
 目は泣きはらして曇っている。

"Das Herz ist gestorben,
Die Welt ist leer,
Und weiter giebt sie
Dem Wunsche nichts mehr.
Du Heilige [rufe](6) dein Kind zurück,
Ich habe genossen das irdische Glück,
Ich habe gelebt und geliebet!"
 「この心は死に、
 世の中はむなしい、
 そしてこれ以上世の中は
 望みをもはや何もかなえてくださらないのです、
 汝、聖母様、汝の子を召還してください、
 私はこの世の幸せを充分味わいました、
 私は生き、愛してきました。」

Es rinnet der Thränen
Vergeblicher Lauf,
Die Klage, sie wecket
Die Todten nicht auf,
Doch nenne, was tröstet und heilet die Brust
Nach der süßen Liebe [verschwundener](7) Lust,
Ich, die himmlische, wills nicht versagen.
 涙が
 むなしく流れつづける。
 嘆き、それが
 死者を目覚めさせることはない。
 だが、甘い愛の喜びが消えたあとに
 その胸を慰め、癒すものを挙げるがよい、
 天上にいる私はそれまで拒むつもりはない。

Laß rinnen der Thränen
Vergeblichen Lauf,
Es wecke die Klage
Den Todten nicht auf,
Das süßeste Glück für die [traurende](8) Brust,
Nach der schönen Liebe [verschwundener](7) Lust,
Sind der Liebe Schmerzen und Klagen.
 むなしく涙が
 流れるままにしてください。
 嘆いても
 死者が目覚めないようにしてください。
 悲しむ胸にとって、
 美しい愛の喜びが消えたあとの、最も甘い幸せは、
 愛の苦しみと嘆きなのです。

---

※註
(1) Schubert (D.191 and D.389): "braust"
(2) Schubert (D.6, first occurrence only): "ziehen"
(3) Schubert (D.191 and D.389): "sitzt"
(4) Schiller (editions from 1810), and Schubert: "vom"
(5) Schubert (D.6): "getrübt"
(6) Schubert (D.6): "ruf'"
(7) Schubert (D.191, second version only): "verschwund'ner"
(8) Schubert (D.191 and D.389): "trauernde"

---

詩:Friedrich Schiller (1759-1805)
音楽:Franz Peter Schubert (1797-1828)

-------------------

シューベルトは、シラーの詩によって多くの歌曲を書きましたが、いくつかの作品は同じテキストに異なる作曲を試みています。
この「乙女の嘆き」は、三十年戦争を題材にした「ヴァレンシュタイン(Wallenstein)」というシラーの作品の第2部第3幕第7場で、ヴァレンシュタインの娘テークラによって歌われる詩の最初の2節分とほぼ同じ内容とのことです。
岩波文庫から濱川祥枝氏の訳したものが出ているのですが(2003年)、その解説によると、詩が1798年に発表され、「ヴァレンシュタイン」は1798-1799年に書かれたようなので、すでに発表していた詩を、戯曲の中に取り入れたということになるのかもしれません。

シューベルトはこの詩に、14、15歳頃に最初に作曲し、さらに18歳の時に第2作を作り、その翌年には第3作を作曲します。
しかし、出版された第2作のみがとてもよく知られるようになり、リストもピアノ・ソロ用に編曲しているほどです。

第2作は2つの稿があり、出版された前奏付のものは2稿目です。
「ヴァレンシュタイン」の中では、テークラがギターを奏でつつ歌うというト書きがある為、シューベルトもそれを意識したのかもしれません(14、15歳頃の作曲では前奏がなく、いきなり歌が始まります)。

シューベルトが同じ詩からどのような解釈の変化を反映させたのか興味深い例だと思います。
お時間があれば、D 6からD 191、D 389の順番にお聞きになると、シューベルトの作曲の変遷が分かると思います。

同じ詩にツェルターとメンデルスゾーンが作曲した作品との比較も興味深いと思います。

●シラーの詩の朗読(Susanna Proskura)

--------

シューベルト作曲の3つの作品(作曲順)
グンドゥラ・ヤノヴィツ(S) & アーウィン・ゲイジ(P)
Gundula Janowitz(S) & Irwin Gage(P)
1977/78年録音

●第1作(D 6)(1811年または1812年作曲):通作形式

●第2作(D 191)(1815年5月15日作曲):有節形式

●第3作(D 389)(1816年3月作曲):有節形式 (ここでは全4節中、第1~2節のみが歌われています)

--------

●シューベルト作曲の第2作(D 191)に基づくフランツ・リスト(Franz Liszt)によるピアノ独奏用編曲版の演奏(Valentina Lisitsa)

--------

●ツェルター(Carl Friedrich Zelter: 1758-1832)作曲による作品(有節形式)
Duo con emozioneによる演奏
こちら
この動画は埋め込めないので、上記のリンク先からお聴き下さい。

--------

●メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn: 1809-1847)作曲による作品(第1~2節のみの通作形式。シラーの戯曲の箇所のみに作曲したということになります)
Andrea Folan(S) & Tom Beghin(fortepiano)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

シューベルト「男なんてみんな悪者よ!(Die Männer sind méchant!) D 866-3」を聴く

Die Männer sind méchant! D 866-3
 男なんてみんな悪者よ!

Du sagtest mir es, Mutter:
Er ist ein Springinsfeld!
Ich würd' es dir nicht glauben,
Bis ich mich krank gequält!
Ja, ja, nun ist er's wirklich;
Ich hatt' ihn nur verkannt!
Du sagtest mir's, o Mutter:
»Die Männer sind méchant!«
 私にこう言っていたわよね、お母さん、
 あいつは軽い男だよって!
 私はお母さんが信じられなかったの、
 病むほどに苦しむまでは!
 そう、そうなのよ、あいつはまさにその通りだったの、
 私はあいつのことを分かっていなかったの!
 私にこう言っていたわよね、ねぇお母さん、
 「男なんてみんな悪者なのよ!」と。

Vor'm Dorf im Busch, als gestern
Die stille Dämm'rung sank,
Da rauscht' es: »Guten Abend!«
Da rauscht' es: »Schönen Dank!«
Ich schlich hinzu, ich horchte;
Ich stand wie festgebannt:
Er war's mit einer Andern -
»Die Männer sind méchant!«
 村の前にある茂みの中でね、昨日
 静かな夕日が沈んだころに、
 こう聞こえたの、「こんばんは!」って。
 すると別の声がしたわ、「ありがとう!」って。
 私そっと近づいて行って、聞き耳を立てていたの、
 私、金縛りにあったかのように立ちつくしてしまったわ、
 だってあいつったら他の女と一緒だったのよ、
 「男ってひどい!」

O Mutter, welche Qualen!
Es muß heraus, es muß! -
Es blieb nicht bloß beim Rauschen,
Es blieb nicht bloß beim Gruß!
Vom Gruße kam's zum Kusse,
Vom Kuß zum Druck der Hand,
Vom Druck, ach liebe Mutter! -
»Die Männer sind méchant!«
 ああ、お母さん、なんて苦しいの!
 さらに言わなくちゃ!
 ただ声をかけただけじゃなかったのよ、
 ただ挨拶をしただけじゃなかったの、
 挨拶してからキスをしたの、
 キスをしてから手を握ったわ、
 手を握ったあとで...ああ、お母さん!
 「男って最低!」

詩:Johann Gabriel Seidl (1804-1875)
音楽:Franz Schubert (1797-1828)

-----------

シューベルトはザイドル(最後の歌曲「鳩の便り」の詩人)の詩によって「4つのリフレイン歌曲集(Vier Refrainlieder)」を作曲しました。その3曲目が「男なんてみんな悪者よ!」です。
私がはじめてこの曲を聴いたのは、アーメリング&ボールドウィンのシューベルト歌曲集のLP(PHILIPSレーベル)だったのですが、他の歌曲と明らかに毛色の異なる曲調に驚いたものでした。
シューベルトは詩によっては大衆的な音楽をつけることがたまにあったのですが、これなどもなかなかパンチのきいた内容になっています。

彼氏に二股かけられていたことを知った若い女性が母親にその苦しみを訴えるという内容で、いつの世も男女の間に同じような問題が起きていたのだなと思うと、人間は本質的には何も変わっていないのではないかと思ってしまいます。
シューベルトは各節最後に繰り返される「Die Männer sind méchant!」に同じ音楽が付くようにしつつも、物語の展開を迫真のドラマにしていて、映像が目に浮かぶようです。

ズザンナ・プロスクラ(speaker)
Susanna Proskura(speaker)

テキストの朗読です。語りの口調を聞いてからシューベルトの音楽を聴くと、シューベルトが実に話法を巧みに取り入れているのが感じられます。

エリー・アーメリング(S) & ドルトン・ボールドウィン(P)
Elly Ameling(S) & Dalton Baldwin(P)

アーメリングの芝居の上手さは際立っています。ボールドウィンも一体になって見事にドラマを作り上げています。

グンドゥラ・ヤノヴィツ(S) & アーウィン・ゲイジ(P)
Gundula Janowitz(S) & Irwin Gage(P)

1977/78年録音。さすがヤノヴィツは役者です。怒りと悲しみの入り混じった少女の感情を巧みに表現して、聞き手を惹きつけます。ゲイジも情景を雄弁に演奏しています。

ルネ・フレミング(S) & クリストフ・エッシェンバハ(P)
Renée Fleming(S) & Christoph Eschenbach(P)

1996年録音。フレミングは声色の変化を巧みに使い、オペラで鍛えた表現力で聞かせます。エッシェンバハも雄弁な演奏です。

キャスリーン・バトル(S) & ジェイムズ・レヴァイン(P)
Kathleen Battle(S) & James Levine(P)

1987年録音。バトルはあまり感情を込めず淡々と歌っているので、実はこの歌の女性も後ろめたいことがあって、彼氏に本気で怒ってはいないという設定なのかなという気もします。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

シューベルト「笑ったり泣いたり(Lachen und Weinen) D 777」を聴く

Lachen und Weinen, D 777
 笑ったり泣いたり(笑いと涙)

Lachen und Weinen zu jeglicher Stunde
Ruht bei der Lieb auf so mancherlei Grunde.
Morgens lacht ich vor Lust,
Und warum ich nun weine
Bei des Abendes Scheine,
Ist mir selb’ nicht bewußt.
 恋をしている時にいつでも笑ったり泣いたりするのは
 さまざまな理由があるものだ。
 朝には喜んで笑っていたのに、
 夕日の射す今になって
 どうしてぼくは泣いているのか、
 自分でも分からないのだ。

Weinen und Lachen zu jeglicher Stunde
Ruht bei der Lieb auf so mancherlei Grunde.
Abends weint ich vor Schmerz,
Und warum du erwachen
Kannst am Morgen mit Lachen,
Muß ich dich fragen, o Herz?
 恋をしている時にいつでも泣いたり笑ったりするのは
 さまざまな理由があるものだ。
 夕方にぼくは苦しくて泣いていたのに
 朝になってきみは
 どうして笑って目覚めることが出来るんだい、
 きみに聞かずにはいられないよ、おおぼくの心よ。

詩:Friedrich Rückert (1788-1866)
音楽:Franz Schubert (1797-1828)

-----------

リュッケルトの詩に1823年に作曲されたこの「笑ったり泣いたり(通称:笑いと涙)」は、恋をしている時の感情の移り変わりを自問するという内容です。
第2節で「きみ(du)」といっているのは、恋する相手のことではなく、自分の心に呼び掛けていることが詩の最後で分かります。
シューベルトは和音の長短を巧みに使い分けて、感情の制御し難い様を絶妙に表現しています。
簡素な小品の中に盛り込まれた感情の機微はさすがシューベルトと脱帽するのみですね。

-----------

ズザンナ・プロスクラ(speaker)
Susanna Proskura(speaker)

リュッケルトのテキストの朗読が聞けます。まずは詩の響きを味わってみて下さい。

エリー・アーメリング(S) & イェルク・デームス(P)
Elly Ameling(S) & Jörg Demus(P)

1970年録音。細やかなアーメリングの美声と、よく歌うデームスのピアノ。なんともチャーミングです。

エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェラルド・ムーア(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Gerald Moore(P)

1961年録音。シュヴァルツコプフの言葉に込められた想いが伝わってくる名演です。ムーアは温かい演奏です。

アーリーン・オジェー(S) & ランバート・オーキス(Fortepiano)
Arleen Augér(S) & Lambert Orkis(Fortepiano)

1991録音。オジェーの澄み切った美声に酔いしれます。オーキスのフォルテピアノの音色も味わい深いです。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

フィッシャー=ディースカウとムーアの演奏はこの小品にドラマを盛り込んでいます。

キャスリーン・バトル(S) & ジェイムズ・レヴァイン(P)
Kathleen Battle(S) & James Levine(P)

1987年録音。バトルが明暗の色合いを見事に使い分けています。

エディト・ヴィーンス(S) & ルドルフ・ヤンセン(P)
Edith Wiens(S) & Rudolf Jansen(P)

ヴィーンスの素直な発声と陰影のこもった歌声が素晴らしいです。ヤンセンはいつもながら上手いです。

マティアス・ゲルネ(BR) & エリク・シュナイダー(P)
Matthias Goerne(BR) & Eric Schneider(P)

2014年録音。ゲルネは深みのある声で心地よい響きを聞かせています。シュナイダーも歌と息がぴったりです。

ピアノ伴奏のみ
Accompaniment only

演奏に合わせて楽譜が映されているので、歌ってみてくださいね。演奏は素直で好感が持てます。

【おまけ】30秒のみ:ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
下記のリンク先のサイトのジャケット写真下にあるプレイヤー左端の▶マークをクリックすると、30秒だけ試聴出来ます。動画サイトにはアップされていなかったので、こちらでご勘弁を!プライのみずみずしく溌剌とした歌唱が聞けます。
 こちら

| | コメント (7) | トラックバック (0)

シューベルト「愛はいたるところに群がっている(Liebe schwärmt auf allen Wegen)」D 239-6(ジングシュピール「ベラ荘のクラウディーネ」より)を聴く

Liebe schwärmt auf allen Wegen
 愛はいたるところに群がっている

Liebe schwärmt auf allen Wegen;
Treue wohnt für sich allein.
Liebe kommt euch rasch entgegen;
Aufgesucht will Treue sein.
 愛はいたるところに群がっているが、
 誠実は独りきりでいる。
 愛はあなた方のもとにさっと近づいていくが、
 誠実は相手が訪ねてくれることを望んでいる。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828)

-----

なお、上記のテキストがシューベルトの作品では下記のように繰り返されます([ ]内が繰り返しの箇所)。

Liebe schwärmt auf allen Wegen;
Treue wohnt für sich allein.
Liebe kommt euch rasch entgegen;
Aufgesucht will Treue sein.

[Liebe schwärmt auf allen Wegen;
Treue wohnt für sich allein.]

[Liebe schwärmt auf allen Wegen;]
[Aufgesucht will Treue sein.]

[Aufgesucht will Treue sein.]

-------------

文豪ゲーテの書いたジングシュピール「ベラ荘のクラウディーネ(Claudine von Villa Bella)」にシューベルトが曲を付けています。シューベルトは全曲を完成したらしいのですが、後に楽譜を所持していた人の女中さんが暖炉の焚き付けに使ってしまったようで、完全に残っているのが第1幕だけというのが残念です。
ORFEOレーベルに第1幕の録音がありますので、興味のある方はそちらもチェックしてみて下さい。
井形 ちづる著『シューベルトのオペラ―オペラ作曲家としての生涯と作品』(水曜社)という本にこのジングシュピールのあらすじが書かれています。
このアリアはクラウディーネという人物によって歌われるのですが、どうやら主役級の登場人物ではなさそうです。
1分ぐらいのチャーミングなアリアです。
ちなみに、動画サイトにはなかったのですが、アーメリングがオリジナルのオーケストラ伴奏でもこの曲を録音しており、SACDで聴くことが出来ます(オリジナルはPHILIPSレーベル、SACD化はPentatoneレーベル。Hybrid SACDなので、通常のCDプレイヤーで再生出来ます)。


エリー・アーメリング(S) & イェルク・デームス(P)
Elly Ameling(S) & Jörg Demus(P)

1970年録音。アーメリングの清冽な美声と細やかな音楽の流れ、明晰なディクション等いつもながら聴き惚れてしまいます。デームスも味わい深い演奏です。


エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェラルド・ムーア(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Gerald Moore(P)

1961年録音。放たれる気品はシュヴァルツコプフならではでしょう。ムーアもよく歌っています。


グンドゥラ・ヤノヴィッツ(S) & アーウィン・ゲイジ(P)
Gundula Janowitz(S) & Irwin Gage(P)

1977/78年録音。素直な美声のヤノヴィッツがいつも以上に可愛らしい少女に変身したような歌唱でした。また、ピアノ後奏での色合いの付け方などゲイジらしい演奏でした。


キャスリーン・バトル(S) & ジェイムズ・レヴァイン(P)
Kathleen Battle(S) & James Levine(P)

バトルのクリーミーな美声がチャーミングです。レヴァインの抑えた表現も見事でした。


アーリーン・オジェー(S) & ドルトン・ボールドウィン(P)
Arleen Auger(S) & Dalton Baldwin(P)

オジェーの透明な美声が慎ましやかに表現されていました。ボールドウィンの熟練したピアノは素晴らしいです。


ベルナルダ・フィンク(MS) & ゲロルト・フーバー(P)
Bernarda Fink(MS) & Gerold Huber(P)

2008年録音。メッゾの温かい声と美しいディクションに魅了されました。フーバーも歌を生かしたいい演奏でした。


エディト・ヴィーンス(S) & ルドルフ・ヤンセン(P)
Edith Wiens(S) & Rudolf Jansen(P)

ヴィーンスは陰影に富んだ歌唱で魅力的です。ヤンセンもいいサポートぶりです。


Hye-Kyung Chung(P)

ピアノ伴奏のみです。ぜひ歌ってみて下さいね。


←井形 ちづる著『シューベルトのオペラ―オペラ作曲家としての生涯と作品』

←ORFEOレーベルの第1幕録音

←アーメリングのオーケストラ伴奏録音(Hybrid SACD。通常のCDプレーヤーで再生可能)

| | コメント (4) | トラックバック (0)

シューベルト「光と愛(Licht und Liebe)」D 352を聴く

シューベルトには美しい重唱曲も多くありますが、中でも比較的知られている「光と愛」という作品をご紹介したいと思います。
詩人は「夜と夢」のテキストでも知られるコリンです。
この曲、二重唱コンサートのアンコールでもたびたび取り上げられ、私が実演ではじめて聴いたのも、中村智子&ウーヴェ・ハイルマン夫妻がノーマン・シェトラーのピアノで歌ったコンサートのアンコールでした。
最初に男声がソロで歌い、中盤で歌に変化が出てきたところで女声のソロに代わり、最後に冒頭の音楽が回帰して二人で美しいハーモニーを奏でます。
ピアノは大きな見せ場はないのですが、歌唱を美しい響きで支えています。


Licht und Liebe (Nachtgesang), D 352
 光と愛(夜の歌)

(Männliche Stimme)
Liebe ist ein süßes Licht.
Wie die Erde strebt zur Sonne,
Und zu jenen hellen Sternen
In den weiten blauen Fernen,
Strebt das Herz nach Liebeswonne:
Denn sie ist ein süßes Licht.
(男声)
 愛は甘美な光。
 大地が太陽や
 青いはるか遠方にある
 あの明るい星々を求めるように、
 心は愛の喜びを求める、
 何故ならそれは甘美な光だから。

(Weibliche Stimme)
Sieh! wie hoch in stiller Feier
Droben helle Sterne funkeln:
Von der Erde fliehn die dunkeln
Schwermutsvollen trüben Schleier.
Wehe mir! wie so trübe
Fühl ich tief mich im Gemüte,
Das in Freuden sonst erblühte,
Nun vereinsamt, ohne Liebe.
(女声)
 見よ!なんと高くに静かな祝典の中で
 頭上の明るい星々がきらめいていることか。
 すると、大地から暗く
 憂いに満ちた、陰鬱なベールが消え失せる。
 なんと悲しいこと!
 かつて喜びに花開いていた気持ちの中で、
 私は深く陰鬱さを感じているのだ、
 いまや孤独の身で、愛を失くして。

(Beide Stimmen)
Liebe ist ein süßes Licht.
Wie die Erde strebt zur Sonne,
Und zu jenen hellen Sternen
In den weiten blauen Fernen,
Strebt das Herz nach Liebeswonne:
Liebe ist ein süßes Licht.
(女声&男声)
 愛は甘美な光。
 大地が太陽や
 青いはるか遠方にある
 あの明るい星々を求めるように、
 心は愛の喜びを求める。
 愛は甘美な光。

詩:Matthäus Kasimir von Collin (1779-1824)
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828)

-------------

エッダ・モーザー(S), ペーター・シュライアー(T), レナード・ホカンソン(P)
Edda Moser(S), Peter Schreier(T), Leonard Hokanson(P)

1983年録音。シュライアーの清冽な美声が何とも素晴らしいです!


アンケ・フォンドゥング(MS), コンラッド・ジャーノット(BR), クリストフ・ベルナー(fortepiano)
Anke Vondung(MS), Konrad Jarnot(BR), Christoph Berner(fortepiano)

ジャーノットのテノラールなバリトンの美声と、フォンドゥングの落ち着いたメゾの声が見事に溶け合っています。


エレン・ファン・リアー(S), ロベルト・ホル(BSBR), デイヴィッド・ルッツ(P)
Ellen van Lier(S), Robert Holl(BSBR), David Lutz(P)

実際の夫婦による二重唱。息が合わないはずがないですね。丁寧な歌いぶりがとても心に沁みました。


ジャネット・ベイカー(MS), ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ジェラルド・ムーア(P)
Janet Baker(MS), Dietrich Fischer Dieskau(BR), Gerald Moore(P)

1972年録音。ゆったりとしたテンポ設定で抑えた表現をした名手たちの競演です。


ピアノ伴奏のみ

分散和音の簡素なピアノパートながらシューベルトがいかに必要な音を選び抜いたかが分かります。こちらの素敵な伴奏に乗せて歌ってみて下さい。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

イングリート・ヘブラー若かりし頃のシューベルト演奏映像

1980年代に私が入れ込んだピアニストの一人がオーストリア、ヴィーン出身のイングリート・ヘブラー(Ingrid Haebler)でした。
彼女は1960年頃からモーツァルトのスペシャリストとして知られ、前後2回のモーツァルト・ソナタ全集の録音も残しています。
モーツァルト以外にはハイドン、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、ショパン、ドビュッシーなどをレパートリーに持っていましたが、決して何でも弾くタイプのピアニストではありませんでした。
レコ芸の来日インタビューで「ブラームスは弾かれますか」と質問されて、「ブラームスは大好きですが、例えば彼のコンチェルトを弾くには私の手は小さすぎるのです。まぁ他の人に任せておきましょう」というような返答をしていた記憶があります。

私が彼女に惹かれたきっかけは1回目のモーツァルトのソナタ全集の録音(PHILIPSレーベル)でしたが、その後80年代に2回目の全集をDENONレーベルに録音していき、そちらの円熟した響きにますます惹かれていったのを覚えています。
彼女は80年代に2~3年おきに来日してくれたので、来日するたびに彼女のコンサートを聴きに行ったのも懐かしい思い出です。
最後に来日する予定だった時、病気の為、長時間の飛行機搭乗が不可能とのことで来日中止になり、それっきりになってしまいました。
また、その中止を知らせる招聘元からの封書には彼女の診断書のコピーも同封されていて、彼女が1929年生まれであることも記載されていました(1926年説もあり、そちらが正しいのではと思っていました)。

長々と思い出話をしてしまいましたが、動画サイトに彼女の1968年のコンサート動画がアップされていたのを見つけ、歓喜して急いでこの記事を書きました。

彼女はピアノの一音一音が磨かれていて、本当に美しい。
それは録音だけでなく、実際にコンサートで聞いても同様でした。
とにかく一つとして気の抜けた音がなく、常にコントロールの効いた美しい音が保たれていました。

今回はじめて彼女の若かりし頃の映像を見ても、その印象は変わりませんでした。
確かに他のピアニストに比べると、モーツァルトを得意とするためかペダルが少なめで乾いたように感じられる箇所もありますが、それもまた彼女の極めた解釈なのだと思います。

ぜひお聞き下さい。

シューベルト/「楽興の時」より第1,2,3曲
イングリート・ヘブラー(P)
録音:1968年

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧

その他のカテゴリー

CD | DVD | J-Pop | LP | おすすめサイト | アイヒェンドルフ | アンゲーリカ・キルヒシュラーガー | アンティ・シーララ | アーウィン・ゲイジ | アーリーン・オジェー | イアン・ボストリッジ | イェルク・デームス | イタリア歌曲 | イモジェン・クーパー | イングリート・ヘブラー | ウェブログ・ココログ関連 | エディト・マティス | エリック・ヴェルバ | エリーザベト・シュヴァルツコプフ | エリー・アーメリング | エルンスト・ヘフリガー | オペラ | オルガン | オーラフ・ベーア | カウンターテナー | カール・エンゲル | ギュンター・ヴァイセンボルン | クリスタ・ルートヴィヒ | クリスティアン・ゲアハーアー | クリスティーネ・シェーファー | クリスマス | グリンカ | グリーグ | グレアム・ジョンソン | ゲアハルト・オピッツ | ゲアハルト・ヒュッシュ | ゲロルト・フーバー | ゲーテ | コンサート | コントラルト歌手 | シェック | シベリウス | シュテファン・ゲンツ | シューベルト | シューマン | ショスタコーヴィチ | ショパン | ジェフリー・パーソンズ | ジェラルド・ムーア | ジェラール・スゼー | ジュリアス・ドレイク | ジョン・ワストマン | ソプラノ歌手 | テノール歌手 | ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ | ディートリヒ・ヘンシェル | トマス・ハンプソン | トーマス・E.バウアー | ドルトン・ボールドウィン | ナタリー・シュトゥッツマン | ノーマン・シェトラー | ハイドン | ハイネ | ハルトムート・ヘル | ハンス・ホッター | バス歌手 | バッハ | バリトン歌手 | バレエ・ダンス | バーバラ・ヘンドリックス | バーバラ・ボニー | パーセル | ピアニスト | ピーター・ピアーズ | フェリシティ・ロット | フランス歌曲 | フリッツ・ヴンダーリヒ | ブラームス | ブリテン | プフィッツナー | ヘルマン・プライ | ヘルムート・ドイチュ | ベルク | ベートーヴェン | ペーター・シュライアー | ペーター・レーゼル | ボドレール | マティアス・ゲルネ | マルコム・マーティノー | マーク・パドモア | マーティン・カッツ | マーラー | メシアン | メゾソプラノ歌手 | メンデルスゾーン | メーリケ | モーツァルト | ヤナーチェク | ヨーハン・ゼン | ルチア・ポップ | ルドルフ・ヤンセン | ルードルフ・ドゥンケル | レナード・ホカンソン | レルシュタープ | レーナウ | レーヴェ | ロシア歌曲 | ロジャー・ヴィニョールズ | ロッテ・レーマン | ロバート・ホル | ローベルト・フランツ | ヴァルター・オルベルツ | ヴァーグナー | ヴェルディ | ヴォルフ | ヴォルフガング・ホルツマイア | 作曲家 | 作詞家 | 内藤明美 | 北欧歌曲 | 合唱曲 | 小林道夫 | 岡原慎也 | 岡田博美 | 平島誠也 | 指揮者 | 日記・コラム・つぶやき | 映画・テレビ | 書籍・雑誌 | 歌曲投稿サイト「詩と音楽」 | 演奏家 | 白井光子 | 研究者・評論家 | 藤村実穂子 | | 音楽 | R.シュトラウス