シューベルト/子守歌(Schubert: Wiegenlied, D 498)を聞く

Wiegenlied, D 498
 子守歌

Schlafe, schlafe, holder, süßer Knabe,
Leise wiegt dich deiner Mutter Hand;
Sanfte Ruhe, milde Labe
Bringt dir schwebend dieses Wiegenband.
 お眠り、お眠り、いとしい可愛い坊や、
 お母さんが手でそっと揺らしてあげるよ。
 あなたは安らかに休んで、穏やかに元気を回復するのよ、
 この揺り籠のベルトに揺らされてね。

Schlafe, schlafe in dem süßen Grabe,
Noch beschützt dich deiner Mutter Arm.
Alle Wünsche, alle Habe
Faßt sie liebend, alle liebewarm.
 お眠り、お眠り、甘きお墓の中で、
 お母さんの腕であなたを守ってあげる。
 望むもの全部、持ち物全部を
 お母さんが愛情こめてみんな捕まえておいてあげるわ。

Schlafe, schlafe in der Flaumen Schoße,
Noch umtönt dich lauter Liebeston;
Eine Lilie, eine Rose,
Nach dem Schlafe werd' sie dir zum Lohn.
 お眠り、お眠り、綿毛にくるまれて、
 まだあなたのまわりで大きな愛の音が鳴っているよ、
 一輪の百合と薔薇が
 眠りから覚めたらあなたのご褒美となるのよ。

詩:Anonymous, sometimes misattributed to Matthias Claudius (1740-1815)
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828), "Wiegenlied", op. 98 (Drei Lieder) no. 2, D 498 (1816), published 1829

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世界中にあまたの「子守歌」がありますが、とりわけモーツァルト(実際には別人の作曲)、ブラームスと並んで知られているのがシューベルトの子守歌でしょう。
とはいえシューベルトだけでも「子守歌」を複数作曲していますので、ここではD 498の「子守歌」を扱いたいと思います。

3節からなるテキストの作者として、初版楽譜にはクラウディウスの名前が挙げられていますが、クラウディウスの作品中には見当たらず、現在にいたるまで特定されていないようです。

グレアム・ジョンソン(Graham Johnson)はこのテキストの第2節に「墓(Grabe)」という単語が使われていることに注目し、「当時幼児の死は日常茶飯事でした」と記しています。成人しないまま亡くなる乳幼児の多かった中、生きているその瞬間に母親としての愛情を注ごうという気持ちがあらわれているのかもしれません。

シューベルトはこの曲を1816年11月に作曲しました(19歳)。トニックとドミナントが交互にあらわれる平明な音楽で、子供をゆったりと眠りに誘うのにうってつけと言えるのではないでしょうか。

当時の雑誌に楽譜の出版情報が掲載されています(Österreichische Nationalbibliothek)。

【初版】(Op. 98, No. 2: Ant. Diabelli und Comp., Wien [1829])
Langsam (ゆっくりと)
C (4/4拍子)
変イ長調(As-dur)

●エリー・アーメリング(S), ドルトン・ボールドウィン(P)
Elly Ameling(S), Dalton Baldwin(P)

1982年録音。まさに理想の歌声!

●アンゲリカ・キルヒシュラーガー(MS), ヘルムート・ドイチュ(P)
Angelika Kirchschlager(MS), Helmut Deutsch(P)

キルヒシュラーガーの素直なメゾの響きは子供を慈しむ母親感がよく出ていると思います。

●グンドゥラ・ヤノヴィツ(S), アーウィン・ゲイジ(P)
Gundula Janowitz(S), Irwin Gage(P)

ヤノヴィツの芯のある響きはどこか高貴な家柄の母親のようなイメージが浮かんできます。ゲイジが第2節でバス音を強調しているのはテキストに現れる「墓(Grabe)」という言葉を反映しているのでしょうか。

●アナ・ルツィア・リヒター(MS), アミール・ブシャケヴィツ(P)
Anna Lucia Richter(MS), Ammiel Bushakevitz(P)

現役で活躍中の演奏家による映像です。ソプラノからメゾに転向したというリヒターは確かに声に深みがあり、母性を感じさせます。それと同時に眠りと死の近親性も暗示するような歌いぶりに感じられました。ピアニストのブシャケヴィツが面白い試みをしています。徐々にオクターブ上げていき、トイピアノのような響きで締めくくっています。おそらく作曲当時もこのような類のアレンジはされていたのでしょう。

●リタ・シュトライヒ(S), エリク・ヴェルバ(P)
Rita Streich(S), Erik Werba(P)

オペラでは華やかなコロラトゥーラを聞かせるシュトライヒも、一方でこんな可憐な歌を聞かせてくれます。

●三浦 環(S), アルド・フランケッティ(P)
Tamaki Miura(S), Aldo Franchetti(P)

1922年録音。往年の日本のプリマドンナ三浦 環もこの曲を録音していました。ここで歌っている有名な日本語歌詞は内藤濯(ないとう あろう)という人の訳だそうです(こちらのサイト(「世界の民謡・童謡」様)に詳しい解説があります)。

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(参照)

The LiederNet Archive: Wiegenlied

IMSLP (International Music Score Library Project): Wiegenlied, D.498 (Schubert, Franz)

Schubertlied.de: Wiegenlied

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シューベルト/ムーサの息子(ミューズの子)(Der Musensohn, D 764)

Der Musensohn, D 764
 ムーサの息子(ミューズの子)

Durch Feld und Wald zu schweifen,
Mein Liedchen wegzupfeifen,
So gehts von Ort zu Ort!
Und nach dem Takte reget,
Und nach dem Maß beweget
Sich alles an mir fort.
 野や森を超えてさすらい、
 僕の歌を口笛で吹きながら
 あちこちと歩いていく!
 拍子を取って進み、
 僕の歩幅で動くんだ、
 僕のそばを通り過ぎるものはみんな。

Ich kann sie kaum erwarten,
Die erste Blum' im Garten,
Die erste Blüt' am Baum.
Sie grüßen meine Lieder,
Und kommt der Winter wieder,
Sing' ich noch jenen Traum.
 僕はほとんど待ちきれないぐらいだ、
 庭に最初に咲く花や、
 木に最初に開く花がね。
 それらに僕の歌が挨拶し、
 また冬がやってくると、
 僕はまだあの夢を歌っているというわけ。

Ich sing' ihn in der Weite,
Auf Eises Läng' und Breite,
Da blüht der Winter schön!
Auch diese Blüte schwindet,
Und neue Freude findet
Sich auf bebauten Höhn.
 僕は彼方で歌う、
 長く広がる氷の上で、
 そこは冬が美しく花開いている!
 この花が消えても
 新たな喜びが
 耕された丘の上に見つかるんだ。

Denn wie ich bei der Linde
Das junge Völkchen finde,
Sogleich erreg' ich sie.
Der stumpfe Bursche bläht sich,
Das steife Mädchen dreht sich
Nach meiner Melodie.
 というのも、僕がシナノキのそばで
 若い連中を見つけるやいなや
 彼らを掻き立てるのさ、
 さえない兄(あん)ちゃんはいきり出し、
 ぎこちない娘はぐるぐる回る、
 僕のメロディーに合わせて。

Ihr gebt den Sohlen Flügel
Und treibt, durch Thal und Hügel,
Den Liebling weit von Haus.
Ihr lieben holden Musen,
Wann ruh' ich ihr am Busen
Auch endlich wieder aus?
 あなたがたはこの足裏に翼を授け、
 谷や丘を渡るように
 お気に入りの僕を家からはるばる引きずり出す。
 いとしいムーサたちよ、
 僕があの娘(こ)の胸で
 ようやくまた休めるのはいつになるのだろう。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Der Musensohn", written 1774, first published 1800
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828), "Der Musensohn", op. 92 (Drei Lieder) no. 1, D 764 (1822), published 1828 [ voice, piano ], M. J. Leidesdorf, VN 1014, Wien

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シューベルトの歌曲の中でもとりわけ人気の高い「ミューズの子(ムーサの息子)D764, Op. 92-1」は、ヨーハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテのテキストに1822年12月に作曲されました。A-B-A-B-Aの簡潔な形式ですが、一番最後のAの締めくくり「あの娘(こ)の胸でようやくまた休めるのはいつ?」の「胸(Busen)」でリタルダンドが指示されているのが後ろ髪を引かれるような感じで印象的です。この部分をどのように歌い演奏するかも聴きどころの一つではないでしょうか。Aのト長調とBのロ長調が交互に現れるのですが長3度上下という遠い関係の転調(シューベルトはこの長3度の転調を好んだようです)ですが、歌声部の開始音がどちらもH音で、雰囲気ががらっと変わりながらも自然につながっていくところが素晴らしいと思います。

シューベルトの歌曲について、詩、曲それぞれの成立状況やオリジナルの資料へのリンクの他、サイト用に録音された演奏も聞けるようにしている"Schubertlied.de"というサイトの情報の充実ぶりは驚きです!シューベルト歌曲ファンの方はぜひご覧ください(トップページはこちら、「ムーサの息子」はこちら)。

『ゲーテ全集 1』(新装普及版)(2003年 潮出版社)の訳者山口四郎氏の解説によれば、ゲーテの詩の成立は「1774年頃の作とする説もあるが、大方は1799年11月よりあまり早くない時期としている」とのことで、習熟度からして若い頃の作品ではないと指摘されています。わくわくするようなリズムが感じられますね。

ちなみにムーサというのはWikipediaによれば「技芸・文芸・学術・音楽・舞踏などを司るギリシア神話の女神」とのことで、複数います。その息子(Musensohn)はドイツ語で「詩人(Dichter)」を意味するそうです(DUDEN)。このゲーテの詩は、母親のムーサに翼を与えられた息子(詩人)が、あちこち野山を駆け巡り、歌声で周りのあらゆるものを活気づけるという内容です。

古今東西の歌曲歌手たちが録音していますが、マティス、ボニーのような歌曲の女神たちが録音していないのが残念です。テキストから男声用の作品と判断したからかもしれませんね。オッターは今のところスタジオ録音は残していませんが、動画サイトにライヴ映像がアップされています。興味のある方は検索してみて下さい。

●第1稿
変イ長調(As-dur)
6/8拍子
Ziemlich lebhaft (かなり生き生きと)

●第2稿
ト長調(G-dur)
6/8拍子
Ziemlich lebhaft (かなり生き生きと)

●詩の朗読(speaker: Susanna Proskura)
Schubert, Der Musensohn, pronunciation

●ヘルマン・プライ(BR), カール・エンゲル(P)
Hermann Prey(BR), Karl Engel(P)

この曲はプライの為にあると言ってもいいぐらいです!野山を駆け巡る天真爛漫な少年像にぴったりで絶品です。エンゲルのリズムに乗った演奏もとても良かったです。

●フリッツ・ヴンダーリヒ(T), フーベルト・ギーゼン(P)
Fritz Wunderlich(T), Hubert Giesen(P)

ヴンダーリヒの輝かしい甘い美声はただただ魅力的です!

●ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)

シュライアーの歯切れの良さが爽快です。オルベルツも出たり引っ込んだりのタイミングが絶妙です!

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Gerald Moore(P)

ディースカウは比較的抑えたテンポで美しいディクションを聞かせています。ムーアの変幻自在な表現力の多彩さに舌を巻きます。

●マティアス・ゲルネ(BR), エリク・シュナイダー(P)
Matthias Goerne(BR), Eric Schneider(P)

ゲルネはアンドレアス・ヘフリガーとの録音(DECCA)に続き、2回目の録音です(Harmonia mundi)。速めのテンポで表情を付けながらリズミカルに歌うゲルネの歌は素晴らしかったです。ゲルネの動きを想像しながら聞いていました。シュナイダーも軽快で見事でした。

●クリスティアン・ゲアハーアー(BR), ゲロルト・フーバー(P)
Christian Gerhaher(BR), Gerold Huber(P)

ゲアハーアーは端正かつ軽快な歌唱です。

●ダニエル・ベーレ(T), オリヴァー・シュニーダー(P)
Daniel Behle(T), Oliver Schnyder(P)

現役世代のドイツのリート歌手ベーレの歌は、言葉さばきが巧みで、シュニーダーのピアノと共にうきうきするような演奏でした。

●イアン・ボストリッジ(T), ジュリアス・ドレイク(P)
Ian Bostridge(T), Julius Drake(P)

ボストリッジの軽やかな声は、翼を得て重力から解放されたさまをイメージさせてくれます。ドレイクも歌手を知り尽くした演奏でした。

●ヨナス・カウフマン(T), ヘルムート・ドイチュ(P)
Jonas Kaufmann(T), Helmut Deutsch(P)

Grafenegg-Festival 2020のライヴ映像。この曲を歌うカウフマンはテノールらしい高音を響かせていて、彼のキャラクターに合った曲だと思います。

●エリー・アーメリング(S), ルドルフ・ヤンセン(P)
Elly Ameling(S), Rudolf Jansen(P)

円熟期(1984年)のアーメリングによる細やかな語り口が味わえます。ヤンセンの雄弁なピアノも良かったです。

●キャスリーン・フェリア(CA), フィリス・スパー(P)
Kathleen Ferrier(CA), Phyllis Spurr(P)

イギリスの往年の名コントラルト、フェリアの人肌を感じさせる歌声はなんともチャーミングです。

●ジェスィー・ノーマン(S), フィリップ・モル(P)
Jessye Norman(S), Phillip Moll(P)

ノーマンは強靭な曲だけでなく、このような軽快な作品でも言葉のイメージを細やかに表現していて素晴らしいです。モルのすっきりとした演奏ぶりも良いです。

●ハンス・ホッター(BSBR), マルセル・ドリュアール(P)
Hans Hotter(BSBR), Marcel Druart(P)

1959年6月21日, INR(ベルギー国営放送研究所)録画。ホッター(1909.1.19-2003.12.6)がちょうど50歳の時の映像。温かみのある声と巧みなテキストへの反応が感じられました。

●ハンス・ホッター(BSBR), ヘルムート・ドイチュ(P)
Hans Hotter(BSBR), Helmut Deutsch(P)
Hans Hotter sings Schubert's "Der Musensohn" at age 78!

上記の映像の28年後の貴重な映像!ホッターは若かりし頃から老成した響きを聞かせていた為か、80代近くになっても違和感なくこの曲の軽やかさが感じられ素晴らしいです。ドイチュの著書の序文に寄稿したホッターは、ドイチュと共演する機会が残念ながらなかったと書いていたので、この映像はレアなものなのでしょう。

●ピアノパートのみ(Giorgia Turchi(P))
Piano accompaniment (Karaoke + score)

チャンネル名:Giorgia Turchi(リンク先は音声が流れます)

●ライヒャルト(Johann Friedrich Reichardt: 1752-1814)作曲:ムーサの息子(Der Musensohn)
木村能里子(S), クリストフ・トイスナー(GT)
Norico Kimura(S), Christoph Theusner(GT)

ゲーテお気に入りの作曲家ライヒャルトによる歌曲はギター伴奏の素朴で愛らしい作品です。木村さんは一点の曇りもない晴れやかな歌唱で魅力的ですね。

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(参考)

The LiederNet Archive

Schubertlied.de

IMSLP: Der Musensohn, D.764 (Schubert, Franz) (楽譜)

ムーサ(Wikipedia)

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ベートーヴェン「喜びに満ちては、苦しみにあふれ(Freudvoll und leidvoll, Op. 84/4)」(悲劇『エグモント』のための音楽("Egmont" Musik zu J. W. von Goethes Trauerspiel, Op. 84)より)

Freudvoll und leidvoll
 喜びに満ちては、苦しみにあふれ

Freudvoll
Und leidvoll,
Gedankenvoll sein;
Langen
Und bangen
In schwebender Pein;
Himmelhoch jauchzend
Zum Tode betrübt;
Glücklich allein
Ist die Seele, die liebt.
 喜びに満ちては、
 苦しみにあふれ、
 物思いに沈みます。
 手を伸ばしては
 不安になります、
 苦しみが脳裏をかすめるので。
 天にも昇るほど歓呼するかと思えば
 死ぬほど悲しみにくれます。
 もっぱら幸せは
 愛する魂にあるのです。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), no title, appears in Egmont
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827), "Klärchens Lied I", alternate title: "Die Trommel gerühret", op. 84 no. 1, from the stage composition Egmont, no. 2

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ベートーヴェンの「悲劇『エグモント』のための音楽Op. 84」の第4曲に置かれているのがリート「喜びに満ちては、苦しみにあふれ(Freudvoll und leidvoll)」です。

ゲーテの原作では第3幕第2場、クレールヒェンの住居(Klärchens Wohnung)の場面で、エグモントに夢中なクラーラ(愛称クレールヒェン)が、ブラッケンブルクとの結婚を望む母親の前でこの歌を口ずさむという設定になっています(こちら)。

恋する心は喜びと苦しみの相反する感情が同居する。その両面をベートーヴェンは丁寧に描き分けていきますが、最後の2行にいたり幸せな感情が主人公の心を独占したかのように華やかに締めくくります。

2/4拍子
イ長調(A-dur)
Andante con moto

●イルムガルト・ゼーフリート(S), エリク・ヴェルバ(P)
Irmgard Seefried(S), Erik Werba(P)

1957年ライヴ録音。ゼーフリートの歌は相手への強い意思が感じられます。

●マリーア・ミュラー(S), ミヒャエル・ラウハイゼン(P)
Maria Müller(S), Michael Raucheisen(P)

往年のソプラノ、ミュラー(1898–1958)は深みもあるソプラノで、喜びと悲しみがごく自然に表現されていて素晴らしかったです(昔の録音なので若干濃厚な味わいもありますが、それはそれでチャーミングです)。

●エリーザベト・ブロイアー(S), ベルナデッテ・バルトス(P)
Elisabeth Breuer(S), Bernadette Bartos(P)

Hess 94, No. 4。新全集の草稿版(Entwurf)によって演奏されていますが、歌声部は完成されています。清冽で純粋なブロイアーの歌が美しく、ゲーテの原作のクレールヒェンを眼前に想起させてくれます。

●ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)

男女の歌手を起用したベートーヴェン歌曲全集の録音であえてシュライアーにこの曲を歌わせているのが興味深いです。シュライアーの清冽でディクションの美しい歌唱がなんの違和感もなく聞き手に伝わってきます。

●コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BR), クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BR), Kristin Okerlund(P)

こちらの歌曲全集でも男声歌手にこの曲を歌わせています。ゲーテの戯曲の設定を考えず、一つの詩として解釈すれば男性の歌にもなりえますね。

●第1稿
Freudvoll und leidvoll, gedankenvoll sein, Op. 84, No. 4 (1. Fassung)
コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BR), クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BR), Kristin Okerlund(P)

新全集のピアノ版第1稿によって演奏されています。歌声はピアノ右手の最高音を歌うように記譜されていて、ピアニストのオーカーランドは基本的に歌声の旋律はここで演奏していなかったです。前奏がないのが印象的ですね。

●オリジナルのオーケストラ伴奏版
グンドゥラ・ヤノヴィツ(S), ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団, ヘルベルト・フォン・カラヤン(C)
Gundula Janowitz(S), Berliner Philharmoniker, Herbert von Karajan(C)

ヤノヴィツは感情の大きな振幅を実に見事に描き分けていますね。

●フランツ・リストによるピアノ独奏用編曲
Beethoven; arr. Liszt: 6 Lieder von Goethe, S. 468/R. 123: No. 3: Freudvoll und leidvoll
Yung Wook Yoo(P)

他作曲家の作品に対するリストの編曲は、オリジナルへのリスペクトが強かったのではないかと最近感じます。単なる技巧の盛り込みだけではないように、この曲の編曲からも感じられました。

●シューベルト作曲の独唱曲(愛:クレールヒェンの歌 D 210)
Schubert: Die Liebe (Klärchens Lied), D 210
アーリーン・オージェ(S), ヴァルター・オルベルツ(P)
Arleen Augér(S), Walter Olbertz(P)

シューベルトが同じテキストに作曲した作品は恋に陶酔しているような印象を受けます。オジェーの澄んだ美声が魅力的です。

●リスト作曲の独唱曲(第1稿)
Liszt: Freudvoll und leidvoll S280 [Fassung I]
マーガレット・プライス(S), シプリアン・カツァリス(P)
Margaret Price(S), Cyprien Katsaris(P)

リストは2つの稿を残していて、こちらは第1稿です。クールビューティーのプライスの歌唱はこのテキストの影の部分を特に印象付けます。

●リスト作曲の独唱曲(第2稿)
Liszt: Freudvoll und leidvoll S280 [Fassung II]
バーバラ・ボニー(S), アントニオ・パッパーノ(P)
Barbara Bonney(S), Antonio Pappano(P)

リストの2つの稿では、こちらの第2稿がより歌われる機会が多いと思います。ボニーの噛んで含めるような表情の濃厚さが素晴らしかったです。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

『ベートーヴェン全集 第7巻』:1999年7月14日第1刷 講談社(「喜びに満ち、そして苦しみに満ちて」の解説:高橋浩子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(歌曲の解説:藤本一子)

付曲が難しいと言われていたゲーテ作品のための音楽「舞台劇(悲劇)《エグモント》」(平野昭)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

ゲーテの原文(Projekt Gutenberg)

『ゲーテ全集 4 戯曲 』(潮出版社 2003年10月5日新装普及版(1979年7月10日初版))(「エグモント」の訳:内垣啓一)

エグモント (劇音楽)(Wikipedia)

ラモラール・ファン・エフモント(Wikipedia)

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ベートーヴェン「太鼓が鳴る(Die Trommel gerühret, Op. 84/1)」(悲劇『エグモント』のための音楽("Egmont" Musik zu J. W. von Goethes Trauerspiel, Op. 84)より)

Die Trommel gerühret
 太鼓が鳴る

Die Trommel gerühret,
Das Pfeifchen gespielt!
Mein Liebster gewaffnet
Dem Haufen befiehlt,
Die Lanze hoch führet,
Die Leute regieret.
Wie klopft mir das Herz!
Wie wallt mir das Blut!
O hätt' ich ein Wämslein
Und Hosen und Hut!
 太鼓が鳴り
 笛を吹く音がします!
 武装した私の恋人が
 部隊に指令すると、
 槍を高く掲げ
 人々を制御するのです。
 私の心臓はなんとどきどきするのでしょう!
 私の血はなんとたぎっていることでしょう!
 おお、私にも胴着や
 ズボンや帽子があればいいのに!

Ich folgt' ihm zum Tor 'naus
mit mutigem Schritt,
Ging' durch die Provinzen,
ging' überall mit.
Die Feinde schon weichen,
Wir schiessen da drein;
Welch' Glück sondergleichen,
Ein Mannsbild zu sein!
 そうしたら門の外へ彼のあとについて
 勇敢な足取りで進み
 いろんな州を渡り
 あらゆる場所に一緒に行くでしょう。
 敵はすでに退去し、
 私たちは敵めがけて撃つのです。
 このうえない幸せです、
 男になるのは!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), no title, appears in Egmont
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827), "Klärchens Lied I", alternate title: "Die Trommel gerühret", op. 84 no. 1, from the stage composition Egmont, no. 2

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ベートーヴェンは、ゲーテの『エグモント』のための音楽を1809年秋から1810年6月にかけて作曲しました。

ベートーヴェンが「悲劇『エグモント』のための音楽」として作曲した音楽の内容は下記の通りです。

序曲(Ouverture)
1. リート(Lied. Die Trommel gerühret):第1幕第3場
2. 幕間の音楽(Entracte I):第1幕後
3. 幕間の音楽(Entracte II):第2幕後
4. リート(Lied. Freudvoll und leidvoll, gedankenvoll sein):第3幕第2場
5. 幕間の音楽(Entracte III):第3幕後
6. 幕間の音楽(Entracte IV):第4幕終わり
7. クレールヒェンの死を示して(Clärchens Tod bezeichnend):第5幕第3場
8. メロドラマ(Melodrama):第5幕
9. 勝利の交響曲(Siegessymphonie):劇の最後

ゲーテの『エグモント』については「小澤和也 音楽ノート」様や「サーシャのひとり言」様がとても明快で分かりやすく書かれていますので、ぜひご覧ください。

現在入手しやすい日本語訳は、潮出版社から1979年に発行されたものの新装版として2003年10月5日に発行された『ゲーテ全集 4 戯曲 新装普及版』でしょうか。「エグモント」の訳者は内垣啓一氏です。

ゲーテの原作では第1幕(Erster Aufzug)の第3場、町役場(Bürgerhaus)の場面で、クラーラ(愛称クレールヒェン)が糸を巻きながら彼女に片思いするブラッケンブルクと共に歌うという設定になっています(こちら)。

1812年にBreitkopf & Härtel社からオリジナルのオーケストラ版だけでなく、ピアノ編曲版も出版されました。オリジナルに付け加えたり修正したりすることはなく、忠実にピアノで演奏できるようにしています。

テキストの最後まで歌うと、1番括弧で再度歌の始めから繰り返します。最後の後奏は静かに消えていくかと思いきや、勇壮な3つの拍打ちで締めくくります。

1812年Breitkopf & Härtel社出版ピアノ編曲版の冒頭
Die-trommel-geruhret

2/4拍子
ヘ短調(f-moll)
Vivace

●アナ・プロハスカ(S), エリック・シュナイダー(P)
Anna Prohaska(S), Eric Schneider(P)

プロハスカの美声はチャーミングですね。シュナイダーの鋭利な演奏が印象的でした。

●イルムガルト・ゼーフリート(S), エリク・ヴェルバ(P)
Irmgard Seefried(S), Erik Werba(P)

1957年ライヴ録音。ゼーフリートの芯のある声は訴求力が強く感じられます。

●マリーア・ミュラー(S), ミヒャエル・ラウハイゼン(P)
Maria Müller(S), Michael Raucheisen(P)

往年のソプラノ、ミュラー(1898–1958)はドラマティックで勇壮ですね。おそらく歌曲のアンソロジーを続々と録音していたラウハイゼンの企画の一環として録音されたのではないかと思います。

●オリジナルのオーケストラ伴奏版
グンドゥラ・ヤノヴィツ(S), ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団, ヘルベルト・フォン・カラヤン(C)
Gundula Janowitz(S), Berliner Philharmoniker, Herbert von Karajan(C)

ヤノヴィツの気品のある美声がクレールヒェンのキャラクターを想像させてくれます。

●フランツ・リストによるピアノ独奏用編曲
6 Lieder von Goethe, S. 468/R. 123 (Arr. F. Liszt for Solo Piano) : No. 6, Die Trommel geruhret
ジュゼッペ・ブルーノ(P)
Giuseppe Bruno(P)

リストはこの曲もピアノ独奏用に編曲していました。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

『ベートーヴェン全集 第7巻』:1999年7月14日第1刷 講談社(「太鼓が鳴る」の解説:高橋浩子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(歌曲の解説:藤本一子)

付曲が難しいと言われていたゲーテ作品のための音楽「舞台劇(悲劇)《エグモント》」(平野昭)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

ゲーテの原文(Projekt Gutenberg)

『ゲーテ全集 4 戯曲 』(潮出版社 2003年10月5日新装普及版(1979年7月10日初版))(「エグモント」の訳:内垣啓一)

エグモント (劇音楽)(Wikipedia)

ラモラール・ファン・エフモント(Wikipedia)

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ベートーヴェン「ロプコヴィツ・カンタータ(Lobkowitz-Cantate, WoO 106)」

Lobkowitz-Cantate (Es lebe unser teurer Fürst), WoO 106
 ロプコヴィツ・カンタータ(親愛なる侯爵閣下万歳)

SOLO
Es lebe, es lebe unser teurer, teurer Fürst!
Er lebe, er lebe, er lebe!
(独唱)
 親愛なる、親愛なる侯爵閣下万歳!
 万歳、万歳、万歳!

CHORUS
Er lebe, er lebe, er lebe!
(合唱)
 万歳、万歳、万歳!

SOLO
Edel, edel, edel handeln, ja edel handeln,
sei sein schönster Beruf!
Dann, Dann wird ihm nicht entgehen der schönste, schönste Lohn, der schönste, schönste Lohn.
Es lebe, es lebe unser teurer, teurer Fürst!
Er lebe, er lebe, er lebe!
(独唱)
 高潔な、高潔な、高潔な行動をされる、そう 高潔な行動をされる、
 閣下の素晴らしき職務が高潔であらんことを!
 すると、すると素晴らしき、素晴らしき報いから閣下は逃れられないでしょう、素晴らしき、素晴らしき報いから。
 万歳、親愛なる、親愛なる侯爵閣下万歳!
 万歳、万歳、万歳!

CHORUS
Er lebe, er lebe, er lebe ja!
Es lebe, es lebe unser teurer, teurer Fürst!
Unser teurer, teurer Fürst!
Er lebe, er lebe, er lebe, er lebe!
(合唱)
 万歳、万歳、万歳!
 万歳、親愛なる、親愛なる侯爵閣下万歳!
 親愛なる、親愛なる侯爵閣下!
 万歳、万歳、万歳、万歳!

詩:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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独唱、高声2声、バス2声、ピアノの為の「ロプコヴィツ・カンタータ(Lobkowitz-Cantate, WoO 106)」は、ベートーヴェン自身の詩によって1823年(楽譜には1823年と書かれていますが1822年の可能性もあるそうです)4月12日に作曲されました。

独唱、高声2声、バス2声、ピアノの為の「ロプコヴィツ・カンタータ(Lobkowitz-Cantate, WoO 106)」は、ベートーヴェン自身の詩によって1822年(もしくは1823年)4月12日に作曲されました。

藤本一子氏の解説によると「かつての支援者フランツ・ヨーゼフ・フォン・ロプコヴィツ侯爵の長子フェルディナント侯爵の誕生日のために作曲」されたそうです(『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社)。
知り合いの息子の誕生日のために自作の詩による歌を送るなんてベートーヴェンの優しい一面が垣間見えますね。
侯爵邸の官吏カール・ペータースの妻が歌うことを想定していたそうです(前述の藤本一子氏の解説)。"schönste Lohn"の箇所に技巧的な装飾があるのもこの女性のために見せ場を作ったのではないでしょうか。

4/4拍子
変ホ長調(Es-dur)
Allegro non troppo - Adagio assai - Tempo primo

●エルヴィラ・ビル(MS), クリストファー・ブルックマン(P), コーアヴェルク・ルーア, フローリアン・ヘルガート(C)
Elvira Bill(MS), Christopher Bruckman(P), Chorwerk Ruhr, Florian Helgath(C)

ソロを務めるエルヴィラ・ビルの声の美しいこと!クリストフ・プレガルディアン門下なのだそうです。

●クリスタ・イェーザー(S), ヴァルター・オルベルツ(P), ベルリン・ゾリステン, ディートリヒ・クノーテ(C)
Christa Jehser(S), Walter Olbertz(P), Berliner Solisten, Dietrich Knothe(C)

録音: Nov, Dec. 1973, Berlin. 歌と合唱とピアノの親密な雰囲気がいいですね。

●パメラ・コバーン(S), ハインリヒ・シュッツ・クライス・ベルリン, レナード・ホカンソン(P)
Pamela Coburn(S), Heinrich Schütz Kreis, Berlin, Leonard Hokanson(P)

録音: 1987-1989, Studio 10, RIAS, Berlin. コバーンは合唱パートも一緒に歌っています。

●ハイディ・ブルナー(MS), ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団, クリスティン・オーカーランド(P)
Heidi Brunner(MS), Gustav Mahler Chor Wien, Kristin Okerlund(P)

ブルナーの"schönster"における抑制した歌い方に惹きこまれました。

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(参考)

Beethoven-Haus Bonn

The "Complete" Beethoven: Day 333

『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「ロプコヴィツ・カンタータ WoO 106」の解説:藤本一子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「ロプコヴィツ・カンタータ WoO 106」の解説:藤本一子、小林宗生)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

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ベートーヴェン「結婚式の歌(Hochzeitslied, WoO 105 (Hess 125, 124))」

Hochzeitslied, WoO 105 (Hess 125, 124)
 結婚式の歌

Auf, Freunde, singt dem Gott der Ehen!
Preist Hymen hoch am Festaltar,
Daß wir des Glückes Huld erflehen,
Erflehen für ein edles Paar!
Vor allem laßt in frohen Weisen
Den würd'gen Doppelstamm uns preisen,
Dem dieses edle Paar entsproß!
 さあ、友人たちよ、婚礼の神に歌うのだ!
 祝宴の祭壇で高らかにヒュメナイオスを讃えよ、
 幸せの恩寵を
 お似合いの夫婦のために懇願するのだ!
 何よりも、陽気な調べで
 品格のある2人の一族を讃えよう、
 そこからこのお似合いの夫婦が生まれたのだ!

※ヒュメナイオス:ギリシャ神話で婚礼の神

詩:Anton Joseph Stein (1759–1844)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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アントン・ヨーゼフ・シュタインのテキストによる「結婚式の歌(Hochzeitslied, WoO 105」は、マリア・アンナ・ジャンナタズィオ・デル・リオ(Maria Anna Giannatasio del Rio)と官吏レオポルト・シュメルリング(Leopold Schmerling)の結婚式の為に1819年1月14日に作曲され、結婚式当日(1819年2月6日)に初演されました。この夫婦の娘によると「母が教会の結婚式から家に戻ると美しい男声四重唱がきこえ、それがやんだとき、隠れていたベートーヴェンが姿を現し、心からなるお祝いの言葉とともに今歌われた男声四重唱の自筆譜を手渡した」とのことです(藤本一子解説:『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社)。

結婚式にふさわしい華やかな小品です。ベートーヴェンは2つの稿を作り、どちらもジャンナタズィオ家に贈られたそうです(前述の藤本氏の解説)。

楽譜には4回繰り返すように指示がある為、歌詞が4番まであったと思われますが、現在分かっているのは1番のみのようです。

第1稿の楽譜(Der Bär : Jahrbuch der Firma Breitkopf & Härtel – 1927)
1_20230104132001
2_20230104132001
3_20230104132001

【第1稿】(Hess 125)
独唱、斉唱、ピアノ
1819年1月14日作曲
C (4/4拍子)
ハ長調(C-dur)
Mit Feuer, doch verständlich und deutlich

【第2稿】(Hess 124)
独唱、合唱、ピアノ
C (4/4拍子)
イ長調(A-dur)
(Mit Feuer, doch verständlich und deutlich)

●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
ヘルマン・プライ(BR), ハインリヒ・シュッツ・クライス・ベルリン, レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR), Heinrich Schütz Kreis, Berlin, Leonard Hokanson(P)

録音: 1987-1989, Studio 10, RIAS, Berlin. プライが先導して合唱を率いるのは本当に合っていますね。ホカンソンがいかにも楽しそうにパリパリと弾いているのもいいです。

●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
マンフレート・ビットナー(BS), ハイケ・ハイルマン(S), アネ・ビーアヴィルト(CA), ダニエル・ヨハンソン(T), エリーザベト・グリューネルト(P)
Manfred Bittner(BS), Heike Heilmann(S), Anne Bierwirth(CA), Daniel Johannsen(T), Elisabeth Grünert(P)

録音: 15 February 2007, Bauer Studios Ludwigsburg. バスのビットナーが独唱し、合唱パートはハイルマン、ビーアヴィルト、ヨハンソンが加わっています。

●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
タベア・ゲルストグラッサー(S), シュテファン・タウバー(T), カントゥス・ノヴス・ヴィーン, ディアナ・フックス(P), トマス・ホームズ(C)
Tabea Gerstgrasser(S), Stefan Tauber(T), Cantus Novus Wien, Diána Fuchs(P), Thomas Holmes(C)

録音: 20 January 2019, 4tune audio productions, Wien. ここでは独唱パートをソプラノとテノールが一緒に歌っています。結婚する二人が歌う設定でしょうか。素朴で優しい歌い方で微笑ましいです。

●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
ジャン=フランソワ・ルッション(BR), ダニア・エル・ゼイン(S), ナタリー・ペレス(MS), ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T), ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Jean-François Rouchon(BR), Dania El Zein(S), Natalie Pérez(MS), Vincent Lièvre-Picard(T), Jean-Pierre Armengaud(P)

録音: August 2019. バリトンのルッションが独唱し、合唱パートで他の歌手たちが加わっています。

●【第1稿】(Hess 125)
1. Fassung
ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T), ナタリー・ペレス(MS), ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Vincent Lièvre-Picard(T), Natalie Pérez(MS), Jean-Pierre Armengaud(P)

録音: August 2019. テノールのリエーヴル=ピカールが独唱し、斉唱パートでメゾのペレスが加わる形で演奏されています。

●【第1稿】(Hess 125)
1. Fassung
ハイディ・ブルナー(MS), ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団, クリスティン・オーカーランド(P)
Heidi Brunner(MS), Gustav Mahler Chor Wien, Kristin Okerlund(P)

第1稿の演奏。第2稿との違いは最後の詩行が混成四部合唱ではなくユニゾン(斉唱)で歌われ、第2稿より3度高い点、ピアノパートの若干の違いだけのようですので、聞いているとほぼ同じ印象を受けます。

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(参考)

Beethoven-Haus Bonn

『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「婚礼の歌 WoO 105」の解説:藤本一子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「さあ、友よ結婚の神を讃美せよ(結婚歌) WoO 105」の解説:藤本一子)

Ludwig van Beethoven, "Hochzeitslied" für Tenor, Chor und Klavier WoO 105, Partitur, Bär (1924) (第1稿の楽譜)

Anton Joseph Stein (Wikipedia: 独語)

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ベートーヴェン「修道僧の歌(Gesang der Mönche, WoO 104)」

Gesang der Mönche, WoO 104
 修道僧の歌

Rasch tritt der Tod den Menschen an,
Es ist ihm keine Frist gegeben,
Es stürzt ihn mitten in der Bahn,
Es reißt ihn fort vom vollen Leben,
Bereitet oder nicht, zu gehen.
Er muß vor seinem Richter stehen!
 迅速に死がその人間に襲いかかる、
 彼に猶予はなかった、
 彼を道半ばに突き落とし、
 彼を人生からさらっていく、
 行く支度をしていようがしていなかろうが。
 彼は審判者の前に立たねばならない!

詩:Friedrich von Schiller (1759-1805), no title, appears in Wilhelm Tell 
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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フリードリヒ・フォン・シラーの『ヴィルヘルム・テル(Wilhelm Tell)』(日本では「ウィリアム・テル」という英語読みで知られていますね)第四幕、第三場の最後に歌われるテキストによる男声3声(テノール2声、バス、無伴奏)の為の「修道僧の歌(Gesang der Mönche, WoO 104)」は、1817年5月3日に作曲されました。

友人の音楽学者フランツ・サレス・カンドラー(Franz Sales Kandler: 1792-1831)の記念帳に記された自筆譜には「我らがクルンプホルツの1817年5月3日の不慮の死を偲んで(Zur Erinnerung an den schnellen unverhofften Tod unsers Krumpholz am 3 Mai 1817.)」と書かれています。クルンプホルツというのはベートーヴェンの友人だったヴァイオリニストで、その死を偲びつつ、ヴィーンを離れるカンドラーの記念帳に書いたようです。

・自筆譜

Gesang-der-monche

ヴィルヘルム・テルの話は、テルが息子の頭上に置いた林檎を矢で射落とす場面が有名ですが、シラーの『ヴィルヘルム・テル』では第三幕第三場にこのエピソードがあります。
第四幕、第三場で庶民を苦しめてきた悪代官のヘルマン・ゲスラーをテルが射て倒すわけですが、「死者をかこんで半円をつくり、低い調子で歌う」(野島正城訳)というト書きの後にこの「修道僧の歌」が歌われます。
そして「終わりの数行がくりかえされるうちに幕下りる」(野島正城訳)というト書きがあり、この第四幕、第三場は終わります。

※以下が原文

Barmherzige Brüder schließen einen Halbkreis um den Toten und singen in tiefem Ton:
Rasch tritt der Tod den Menschen an,
Es ist ihm keine Frist gegeben,
Es stürzt ihn mitten in der Bahn,
Es reisst ihn fort vom vollen Leben,
Bereitet oder nicht, zu gehen,
Er muss vor seinen Richter stehen!

Indem die letzten Zeilen wiederholt werden, fällt der Vorhang.

ベートーヴェンの音楽は、順次進行や同音反復などの動きの少なさで重苦しい雰囲気を引きずって進みます。最終行の"er(彼は)"の繰り返しは、最初はsf(スフォルツァンド)、2回目はfp(フォルテピアノ)でこの悪代官を糾弾するような鋭い響きを与えています。あっという間に終わるコンパクトな作品ですが、テキストの内容を見事に表現した作品だと思います。

C (4/4拍子)
ハ短調(c-moll)
Ziemlich langsam

●マイケル・コネア(T), ヤン・コボウ(T), ラルフ・グローベ(BSBR), アンドレアス・プルイス(BS)
Michael Connaire(T), Jan Kobow(T), Ralf Grobe(BSBR), Andreas Pruys(BS)

録音: 11 May 2009, Bückeburger Stadtkirche, Germany。重唱で歌われています。各声部が主張していて死への畏怖が感じられました。

●カントゥス・ノヴス・ヴィーン, トマス・ホームズ(C)
Cantus Novus Wien, Thomas Holmes(C)

録音: 20 January 2019, 4tune audio productions, Wien。合唱で聞くと沈潜した雰囲気が強く出ていました。

●ヨアヒム・フォークト(T), ギュンター・バイアー(T), ズィークフリート・ハウスマン(BS), ディートリヒ・クノーテ(C)
Joachim Vogt(T), Günther Beyer(T), Siegfried Hausmann(BS), Dietrich Knothe(C)

録音: May, June 1976, Berlin。重唱で歌われていますが、それぞれの声が溶け合って美しかったです。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

《修道僧の歌》——シラーの戯曲『ヴィルヘルム・テル』から作曲した無伴奏男声三重唱(平野昭)

『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「修道僧の歌 WoO 104」の解説:藤本一子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「修道僧の歌 WoO 104」の解説:小林宗生)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

Wilhelm Tell – Text: 4. Aufzug, 3. Szene

フリードリヒ・シラー『シラー名作集≪新装復刊≫』:内垣啓一他訳(「ヴィルヘルム・テル」(P.331~)は野島正城訳):2022年5月25日発行、白水社(元本は1972年刊行)

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ベートーヴェン「田園カンタータ(Cantata campestre, WoO 103)」

Cantata campestre, WoO 103
 田園カンタータ

1.
Un lieto brindisi,
Tutti a Giovanni
Cantiam così.

2.
Viva lunghi anni
Sempre felici
Utile al mondo,
Caro agli amici,
Nuovo Esculapio
Dei nostri dì!

3.
Viva Giovanni!
Viva, ed al solito
Febbri e malanni
Segua a sanar.

4.
Viva lunghi anni
Sempre felici
Utile al mondo,
Caro agli amici,
Nuovo Esculapio
Dei nostri dì!

5.
Viva Giovanni!
Viva ed il tempo
Sospenda i vanni,
E sì bei giorni
Tardi a troncar.

6.
Viva lunghi anni
Sempre felici
Utile al mondo,
Caro agli amici,
Nuovo Esculapio
Dei nostri dì!

詩:Clemente Bondi (1742-1821)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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ソプラノ、2声のテノール、バスとピアノの為のカンタータ「田園カンタータ(Cantata campestre, WoO 103)」は、宮廷図書館員クレメンテ・ボンディのイタリア語のテキストに1814年に作曲されました。
平野昭氏の解説によれば「1806年からベートーヴェンのかかりつけの医師のひとりで、友人でもあったヨゼフ・フォン・ベルトリーニ(1784~1861)が、1814年に彼の恩師である医師ヨハン(イタリア名ジョヴァンニ)・マルファッティ(1775~1859)の霊名祝日のお祝いとして、ボンディにイタリア語の詩を、ベートーヴェンに作曲を依頼したもの」とのことです。ちなみに霊名祝日というのは、カトリック教会の伝統において洗礼を受けた信者の洗礼名の聖人の祝い日(記念日)のことだそうです(Wikipediaより)。この医師ジョヴァンニのドイツ語名ヨハンに該当する聖人はヨハネで、その霊名祝日の6月24日(Wikipedia)にマルファッティ邸で演奏されたようです。

●以下は英訳なども参照にした試訳です。正確ではありませんので、あくまで大意をつかむ程度にして下さい。

1.
愉快に乾杯、
みんなでジョヴァンニに
このように歌おう。

2.
彼が長生きして
ずっと幸せで
世界の役に立ち、
友人たちにとって大切な存在でありますように、
我らの時代の
新しい※アスクレーピオスよ!

3.
ジョヴァンニ万歳!
彼が長生きして、いつものように
発熱や病気を
治療しに行きますように。

4.
彼が長生きして
ずっと幸せで
世界の役に立ち、
友人たちにとって大切な存在でありますように、
我らの時代の
新しいアスクレーピオスよ!

5.
ジョヴァンニ万歳!
彼が長生きしますように、そして時が
翼の動きを止めて
こんな良き日々を
打ち切るのが遅くなりますように!

6.
彼が長生きして
ずっと幸せで
世界の役に立ち、
友人たちにとって大切な存在でありますように、
我らの時代の
新しいアスクレーピオスよ!

(※アスクレーピオス:ギリシャ神話の名医。薬方の神)

英訳:Beethoven: Secular Vocal Works (NAXOS) - Booklet

1945年にWinterthurのVerlag der Literarischen Vereinigungから初版が出版された時はドイツ語の歌詞のみが付されていて、解説をWilly Hessが書いていました。
1974年にLeipzigのVEB Deutscher Verlag für Musik社からようやくイタリア語歌詞版がはじめて出版されます。Harry Goldschmidtの"Die Erscheinung Beethoven"という論文の中に掲載され、楽譜の後にはドイツ語歌詞もまとめて記載されています。
オリジナルのイタリア語歌詞よりもドイツ語歌詞版が先に出版されたというのは不思議な気がしますが、機会作品ゆえに作曲されてから100年以上経ってようやく日の目を見たということになるのでしょう。

ちなみにドイツ語のテキストも下記に記しておきます。

Johannisfeier
begehn wir heute!
Wie sonst es war,
sei's heute auch!

Freudig erhebt euch,
liebe Leute,
leert das Glas
nach altem Brauch!

Wir wissen schon, wem
man heute trinkt!
Auf! leert das Glas
nach altem Brauch!
Wir wissen schon, wem
man heute trinkt!
Freudig erhebt euch,
liebe Leute,
auf leert das Glas!

Bei uns geborgen,
laß ab von Sorgen,
Freude dir winkt!
Tausend Gebete
schweben dankbar
aus allen Herzen,
die du zum Leben
einst auferweckt.

Trost bringst du den Armen,
Hilfst ihnen gern;
wo die Hoffnung schon fern,
spendest du Erbarmen.
Retter du der Kranken!
Sieh uns verzagt!
Würdig zu danken,
bebend von uns
niemand wagt.
Dir, Johannes,
Dank die Nachwelt sagt!

6/8拍子(1小節) - 2/4拍子(50小節) - 6/8拍子(97小節)
変ロ長調(B-dur) - ト長調(G-dur) - 変ロ長調(B-dur) - 変ホ長調(Es-dur) - 変ロ長調(B-dur)
Allegro(1小節) - Adagio(50小節) - Tempo primo(97小節)
※曲の最後に"Dal Segno al Fine(セーニョ記号に戻ってフィーネ(Fine)まで)"と記載あり(13小節に戻って33小節まで演奏して終える)

●カントゥス・ノヴス・ヴィーン, ディアナ・フックス(P), トマス・ホームズ(Musical Director)
Cantus Novus Wien, Diána Fuchs(P), Thomas Holmes(Musical Director)

イタリア語版です。合唱で歌われています。聞いた感じだとテノールⅠをアルトが歌っているようです(混声四部合唱ですね)。ハーモニーが美しく響いていて良いですね。

●バルバラ・エミラ・シェーデル(S), ダニエル・シュライバー(T), ライナー・テーテンベルク(T), ミヒャエル・ヴァーグナー(P)
Barbara Emilia Schedel(S), Daniel Schreiber(T), Rainer Tetenberg(T),
Michael Wagner(P)

ドイツ語版で歌われています。各声部1人ずつの重唱による演奏です。生き生きとした活気に満ちた演奏で、聞いていて楽しくなります。

●スイス・イタリア語放送合唱団, アンドレア・マルコン(P), ディエゴ・ファソリス(C)
Coro della Radio Svizzera, Andrea Marcon(P), Diego Fasolis(C)

ドイツ語版です。合唱で歌われています。こちらの合唱団も活気にあふれていました。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

「田園カンタータ《楽しい乾杯の歌》」——かかりつけ医師の依頼で書かれたイタリア語作品(平野昭)

『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「田園カンタータ WoO 103」の解説:藤本一子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「田園カンタータ WoO 103 (Hess 127)」の解説:藤本一子、小林宗生)

Clemente Bondi (Wikipedia (伊語))

Clemente Bondi (Wikipedia (英語))

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シューマン「レクイエム(Requiem, Op. 90, No. 7)」(『ニコラウス・レーナウの6つの詩と、レクイエム(Sechs Gedichte von Nikolaus Lenau und Requiem, Op. 90)』より)

Requiem, Op. 90, No. 7
 レクイエム

Ruh' von schmerzensreichen Mühen
Aus und heißem Liebesglühen;
Der nach seligem Verein
Trug Verlangen,
Ist gegangen
Zu des Heilands Wohnung ein.
 苦痛だらけの労苦や
 熱い愛の炎から休みたまえ、
 至福の結合を
 願った人は
 行ってしまった、
 救世主の住処の中へと。

Dem Gerechten leuchten helle
Sterne in des Grabes Zelle,
Ihm, der selbst als Stern der Nacht
Wird erscheinen,
Wenn er seinen
Herrn erschaut im Himmelspracht.
 正しき者には明るい
 星が墓の中に差し込む、
 彼は自身が夜の星として
 姿を現すだろう、
 彼が
 主を天の壮麗さの中に見つけると。

Seid Fürsprecher, heil'ge Seelen,
Heil'ger Geist, laß Trost nicht fehlen;
Hörst du? Jubelsang erklingt,
Feiertöne,
[Darein]1 die schöne
Engelsharfe [singt]2:
 代弁者となっておくれ、聖なる魂たちよ、
 聖霊よ、慰めを欠かさないでくれ、
 聞こえているか?歓喜の歌が響き、
 祭りの音に合わせて、
 美しい
 天使の竪琴が歌っている。

Ruh' von schmerzensreichen Mühen
Aus und heißem Liebesglühen;
Der nach seligem Verein
Trug Verlangen,
Ist gegangen
Zu des Heilands Wohnung ein.
 苦痛だらけの労苦や
 熱い愛の炎から休みたまえ、
 至福の結合を
 願った人は
 行ってしまった、
 救世主の住処の中へと。

1 Dreves: "Drein"
2 Dreves: "also singt"

詩:Leberecht Blücher Dreves (1816-1870), no title, appears in Lieder der Kirche -- deutsche Nachbildungen altlateinischer Originale, first published 1846
曲:Robert Schumann (1810-1856), "Requiem", op. 90 no. 7 (1850), published 1851 [voice and piano], from Sechs Gedichte von Nikolaus Lenau und Requiem, no. 7, Leipzig, Kistner

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「レクイエム」というと、モーツァルトやヴェルディ、フォレの作品のように宗教曲として演奏されるのが普通ですが、歌曲のタイトルとしてシューマンが作曲し、Op.90の最後に置いています。作者不詳のラテン語の詩をもとにドイツ語に訳したレーベレヒト・ブリューヒャー・ドレーフェスのテキストに作曲されました。テキストの冒頭連と最終連は全く同じですが、シューマンが音楽上の事情で繰り返したというわけではなく、ドレーフェスのテキストがもともとそうなっています。

グレアム・ジョンソンによると(Hyperionの解説の42頁。リンク先はPDFです)、このオリジナルの作者不詳のラテン語の詩(Requiescat a labore / doloroso at amore! / unionem coelitum / flagitavit / ...で始まる)は、ピエール・アベラールの死に対するエロイーズの嘆きを扱っているそうです(アベラールについての日本語のWikipediaのリンクはこちら)。そのような事実をもとに書かれたテキストだとしても、この詩をより普遍的な遺された人の悲しみの表現ととらえても問題ないのではないでしょうか。シューマンは長調の響きで亡き人が安息の中にいることを表現しているかのようです。

Requiem

C (4/4)
変ホ長調(Es-dur)
Langsam (♩=63)

ここでは声域の異なる4種類の演奏を選びました。どの演奏も感動的でした。

●クリスティーナ・ランツハマー(S), ゲロルト・フーバー(P)
Christina Landshamer(S), Gerold Huber(P)

●白井光子(MS), ハルトムート・ヘル(P)
Mitsuko Shirai(MS), Hartmut Höll(P)

●ペーター・シュライアー(T), ノーマン・シェトラー(P)
Peter Schreier(T), Norman Shetler(P)

●マティアス・ゲルネ(BR), マルクス・ヒンターホイザー(P)
Matthias Goerne(BR), Markus Hinterhäuser(P)

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(参考)

The LiederNet Archive

IMSLP (楽譜ダウンロード)

Leberecht Dreves (Wikipedia (独語))

Gedichte / von Leberecht Dreves / herausgegeben von Joseph Freiherrn von Eichendorff / Berlin, Verlag von Alexander Duncker, / Königl. Hofbuchhändler / 1849

オリジナルのラテン語のテキストを含む文章(「Requiescat a labore」でページ内検索をしてください)

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コルネーリウス/羊飼いOp. 8-2 (Die Hirten aus "Weihnachtslieder")(歌曲集『クリスマスの歌』Op. 8より)

Die Hirten, Op. 8-2b
 羊飼い

Hirten wachen im Feld,
Nacht ist rings auf der Welt,
Wach sind die Hirten alleine
Im Haine.
 羊飼いたちは野原で目を覚ましている、
 夜に世界中で
 目を覚ましているのは、
 林にいる羊飼いだけだ。

Und ein Engel so licht
Grüßet die Hirten und spricht:
„Christ, das Heil aller Frommen,
Ist kommen!”
 すると一人の天使が光を放って
 羊飼いたちに挨拶し、言った、
 「すべての敬虔なる者たちの救世主、キリストが
 到来した!」

Engel singen umher:
„Gott im Himmel sei Ehr'
Und den Menschen hienieden
Sei Frieden!”
 天使たちはまわりで歌う、
 「天の神に栄光あれ、
 地上の人間に
 平安あれ!」

Eilen die Hirten fort,
Eilen zum heilgen Ort,
Beten an in den Windlein
Das Kindlein.
 羊飼いたちは急いで去り、
 聖なる地へと急ぎ、
 産着にくるまった
 幼子を賛美する。

詩:Peter Cornelius (1824-1874), "Die Hirten", appears in Gedichte, in 2. Zu eignen Weisen, in Weihnachtslieder
曲:Peter Cornelius (1824-1874), "Die Hirten", op. 8 no. 2b (1870), published 1871 [ voice and piano ], from Weihnachtslieder, no. 2b, Leipzig, Fritzsch

●ペーター・コルネーリウス:羊飼いOp. 8-2b
Peter Cornelius (1824-1874), "Die Hirten", Op. 8, No. 2b
ヘルマン・プライ(BR), レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR), Leonard Hokanson(P)

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Die Hirten, Op. 8-2a (First version: 1856)
 羊飼い (第1作)

Die Hirten wachen nachts im Feld;
so still und dunkel liegt die Welt,
die Menschen alle schlafen:
Aber die Hirten, die armen Hirten
halten Wacht bei den Schafen.
 羊飼いは夜中に野原で目を覚ましている、
 世界はこんなに静かで暗い、
 人々はみな眠りについている、
 だが羊飼いたち、哀れな羊飼いたちは
 羊を見張っている。

Und sieh! ein Engel licht und schön
hernieder schwebt von Himmelshöhn,
Ein Bote auserkoren:
"Freuet euch, Hirten, Ihr guten Hirten,
der Heiland der Welt ist geboren."
 するとご覧!一人の天使が美しく輝いて
 天の高みから降りてくる、
 天命を授かった使者として、
 「喜べ、羊飼いたち、善良な羊飼いたちよ、
 この世の救世主が降誕されたのだ。」

Und Engel singen ringsumher:
"Sei Gott im Himmel Ruhm und Ehr,
den Menschen Frieden werde!"
Aber die Hirten, die frommen Hirten
knieten nieder zur Erde.
 すると天使たちはまわりで歌う、
 「天の神に名声と栄光あれ、
 人に平安が訪れるように!」
 だが羊飼いたち、敬虔な羊飼いたちは
 大地に跪いた。

Dann eilten sie zum heil'gen Ort,
Maria und Joseph sahn sie dort,
den Sohn gehüllt in Windlein.
Selige Hirten, die guten Hirten
beteten an das Kindlein.
 その後彼らは聖なる地に急ぎ、
 そこでマリアとヨセフ、
 産着にくるまった御子に会った。
 幸いな羊飼いたち、善良な羊飼いたちは
 幼子を賛美した。

詩:Peter Cornelius (1824-1874)
曲:Peter Cornelius (1824-1874), "Die Hirten", op. 8 no. 2a (1856), published 1871 [voice and piano], from Weihnachtslieder, no. 2a, Leipzig, Fritzsch

●ペーター・コルネーリウス:羊飼いOp. 8-2a (第1作)
Peter Cornelius (1824-1874), "Die Hirten", Op. 8, No. 2a (first version)
クリスティーナ・ランツハーマー(S), マティアス・ファイト(P)
Christina Landshamer(S), Matthias Veit(P)

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(参考)

The LiederNet Archive (Op. 8 No. 2b)

The LiederNet Archive (Op. 8 No. 2a: First version: 1856)

ペーター・コルネリウス(Wikipedia: 日本語)

Peter Cornelius (Komponist) (Wikipedia: ドイツ語)

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