シューベルト「収穫の歌(Erntelied, D434)」を聴く

Erntelied, D434
 収穫の歌

Sicheln schallen,
Ähren fallen
Unter Sichelschall;
Auf den Mädchenhüten
Zittern blaue Blüten,
Freud' ist überall.
[Freud' ist überall.]
 鎌で刈る音が鳴り、
 穂が落ちる、
 鎌の音とともに。
 娘たちの帽子の
 青い花飾りは震え、
 喜びはいたるところにある。

Sicheln klingen,
Mädchen singen
Unter Sichelklang,
Bis, vom Mond beschimmert,
Rings die Stoppel flimmert,
Tönt der Erntesang.
[Tönt der Erntesang.]
 鎌で刈る音が響き、
 娘たちは歌う、
 鎌の響きとともに。
 月に照らされて、
 周囲に切り株がきらめくまで、
 収穫の歌は響き続ける。

Alles springet,
Alles singet,
Was nur lallen kann.
Bei dem Erntemahle
Ißt aus einer Schale
Knecht und Bauersmann.
[Knecht und Bauersmann.]
 皆飛び跳ね、
 皆歌う、
 ろれつの回らぬまま話せることを。
 収穫時の食事では、
 一枚の深皿から食べるのだ、
 使用人も農夫も。

Jeder scherzet,
Jeder herzet
Dann sein Liebelein.
Nach geleerten Kannen
Gehen sie von dannen,
Singen und juchhei'n!
[Singen und juchhei'n!]
 それから誰もがふざけ、
 誰もが抱き合う、
 それぞれの恋人と。
 ジョッキを飲み干すと
 彼らはそこから帰り、
 歌ったり、歓声を挙げたりするのだ!

詩:Ludwig Heinrich Christoph Hölty (1748.12.21, Mariensee - 1776.9.1, Mariensee)
曲:Franz Peter Schubert (1797.1.31, Himmelpfortgrund - 1828.11.19, Wien)

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以前にこの曲について投稿した記事がありますので、よろしければ以下のリンク先からご覧ください。
 こちら

秋といえば収穫の季節です。
そんなわけで、今回聞き比べるのは、シューベルトの「収穫の歌」です。
ヘルティの4つの節からなる有節歌曲です。
スタッカートのピアノパートがうきうきした気分や無骨なダンスを想起させます。
歌は各節の最終行を繰り返します。

この曲は、私がクラシック音楽を聴き始めてまだ間もない頃に、シュヴァルツコプフがEMIに録音したシューベルト歌曲を2枚組にまとめたLPを買って、その中に収録されていたのがはじめての出会いです。
ピアノはG.パーソンズで、他の歌曲と若干毛色の違う親しみやすい曲だったので、すぐに気に入ったのを覚えています。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

1970年録音。1,2,4節歌唱。歯切れのよいF=ディースカウの歌唱と、温かみのあるタッチのムーアの演奏がとてもチャーミングです。

●アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS) & ベングト・フォシュベリ(P)
Anne Sofie von Otter(MS) & Bengt Forsberg(P)

1996年録音。全4節歌唱。オッターの歌は威勢よく、明るく、理想的な歌唱と言えるでしょう。フォシュベリも雄弁です。

●マティアス・ゲルネ(BR) & アレクサンダー・シュマルツ(P)
Matthias Goerne(BR) & Alexander Schmalcz(P)

2009年録音。全4節歌唱。ゲルネは快活な歌を歌っている時でも真面目な感じが残っているのが面白いです。シュマルツは美しいタッチで演奏しています。

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シューベルト「秋(Herbst)」D945を聴く

Herbst, D945
 秋

Es rauschen die Winde
So herbstlich und kalt;
Verödet die Fluren,
Entblättert der Wald.
 風がざわめく、
 これほど秋めいて、冷たく。
 野は荒れ果て、
 森は葉を落とす。

Ihr blumigen Auen!
Du sonniges Grün!
So welken die Blüten
Des Lebens dahin.
[So welken die Blüten]
[Des Lebens dahin.]
 おまえたち、花咲いていた野よ!
 おまえ、日の光の照っていた緑よ!
 こうして人生の花々は
 枯れ果てるのだ。

Es ziehen die Wolken
So finster und grau;
Verschwunden die Sterne
Am himmlischen Blau!
 雲が流れる、
 これほど暗く灰色になって。
 星々は
 天上の青で消え去った!

Ach wie die Gestirne
Am Himmel entflieh'n,
So sinket die Hoffnung
Des Lebens dahin!
[So sinket die Hoffnung]
[Des Lebens dahin!]
 ああ、天の星が
 逃げるように、
 人生の希望は
 沈み去るのだ!

Ihr Tage des Lenzes
Mit Rosen geschmückt,
Wo ich die Geliebte
Ans Herze gedrückt!
 おまえたち、春の日々は
 バラに飾られ、
 私は恋人を
 胸に押し付けたものだった!

Kalt über den Hügel
Rauscht, Winde, dahin!
So sterben die Rosen
Der Liebe dahin!
[So sterben die Rosen]
[Der Liebe dahin!]
 丘の上を冷たく
 ざわめき去れ、風よ!
 こうして愛のバラは
 死に去るのだ!

詩:レルシュタープ(Heinrich Friedrich Ludwig Rellstab: 1799.4.13, Berlin - 1860.11.27, Berlin)
曲:シューベルト(Franz Peter Schubert: 1797.1.31, Himmelpfortgrund - 1828.11.19, Wien)

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暦の上では「秋」ですが、もうしばらくは「夏」の名残を感じながら過ごすことになるのでしょう。
せめて気分だけでも「秋」を味わうために、シューベルトのこの曲を聴き比べしたいと思います。

このシューベルトの歌曲「秋」については、以前投稿した記事で触れていますので、よろしければリンク先をご覧ください。
 こちら

私がはじめてシューベルトの「秋」という歌曲を聴いたのは、おそらく1980年代前半にF=ディースカウがブレンデルとPHILIPSレーベルに録音したシューベルト歌曲集のLPだったと思います。
そこで聴いたシューベルトの音楽は、ちょうど歌手人生の秋の時期を歩んでいた(ように感じられた)F=ディースカウの寂れたような声質も相俟って、印象に残りました。

この6節からなるレルシュタープの詩の2節ずつをまとめて1つにして、全部で3節からなる有節歌曲として作曲されました。
最後の2行を繰り返すのですが、繰り返された時の1行目最後の2音節が急激に上昇する箇所はぐっと引き寄せられます(Blüten, Hoffnung, Rosen)。

ピアノパートの絶え間ないトレモロが寂寥感を強調し、聞き手を秋の風吹くうら寂しい情景に連れて行きます。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

これは名演です!F=ディースカウもムーアも気持ちの入った演奏で、惹きつけられます。

●ヘルマン・プライ(BR) & フィリップ・ビアンコニ(P)
Hermann Prey(BR) & Philippe Bianconi(P)
 こちら(これは埋め込み出来ない動画なので、リンクを貼っておきます。)
80年代に「白鳥の歌」の一環として録音された音源。速めのテンポで円熟期のプライが諦観よりもむしろ生の感情を素直に歌っていて、胸に染みます。ビアンコニも見事な描写力です。

●マティアス・ゲルネ(BR) & クリストフ・エッシェンバッハ(P)
Matthias Goerne(BR) & Christoph Eschenbach(P)

楽譜が演奏と共に映されています。ゲルネの深みのある弾力のある声が秋のもの悲しさを見事に表現しています。エッシェンバッハもさすがのうまさです。

●クリスティアン・ゲルハーエル(BR) & ゲロルト・フーバー(P)
Christian Gerhaher(BR) & Gerold Huber(P)

2014年録音。ゲルハーエルの明晰なディクションがここでも生きています。フーバーは抑揚の付け方が細やかでいい演奏です。

●クリスティアーネ・カルク(S) & ブルクハルト・ケーリング(P)
Christiane Karg(S) & Burkhard Kehring(P)

2009年録音。女声が歌うとまた違った雰囲気になります。彼女はかなりドラマティックな起伏を盛り込んで歌っていますね。ケーリングも歌に合わせた協調ぶりです。

●クリストフ・プレガルディアン(T) & アンドレアス・シュタイアー(P)
Christoph Prégardien(T) & Andreas Staier(P)

2008年録音。ここで注目すべきなのは、プレガルディアンが装飾を付けて歌っていることです。当時、シューベルトと共に彼のリートを歌ったフォーグルはかなり装飾を付けて歌ったらしく、それを意識した試みだと思われます。

●ピアノ伴奏のみ(Hye-Kyung Chung)(P)

トレモロを聴いているだけで肌寒い情景が目に浮かびます。速めのテンポで演奏されています。

【参考】管弦楽編曲版(ケヴィン・ハルピン編曲)
Orchestral arrangement by Kevin Halpin - strings, woodwinds and timpani.

様々な音色で、秋をドラマティックに描いています。面白い試みだと思います。

【参考】フランツ・リストによる同じテキストによる歌曲(グンドゥラ・ヤノヴィツ(S) & アーウィン・ゲイジ(P))
Liszt: Es rauschen die Winde (Gundula Janowitz(S) & Irwin Gage(P))

1977年ライヴ録音。同じ詩とは思えないほど、リストの音楽は濃厚で劇的です。

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マーラー「高遠なる知性の賛美(Lob des hohen Verstandes)」を聴く

Lob des hohen Verstandes
 高遠なる知性の賛美

Einstmals in einem tiefen Tal
Kukuk und Nachtigall
Täten ein Wett' anschlagen:
Zu singen um das Meisterstück,
Gewinn' es Kunst, gewinn' es Glück:
Dank soll er davon tragen.
 昔、ある深い谷で
 かっこうとナイチンゲールが
 見事な作品を歌うための
 競技を企てた。 
 芸と幸運を手に入れたら
 感謝してもらおう。

Der Kukuk sprach: "So dir's gefällt,
Hab' ich den Richter wählt",
Und tät gleich den Esel ernennen.
"Denn weil er hat zwei Ohren groß, [Ohren groß, Ohren groß,]
So kann er hören desto bos
Und, was recht ist, kennen!"
 かっこうは言った「きみさえ良ければ
 ぼくが審査員を選んでおいたよ」
 そしてすぐにロバを指名した。
 「だってロバは二つの大きな耳があるから
 悪いところがいっそう聞こえるだろうし、
 正しいことを知っているだろうからね!」

Sie flogen vor den Richter bald.
Wie dem die Sache ward erzählt,
Schuf er, sie sollten singen.
Die Nachtigall sang lieblich aus!
Der Esel sprach: "Du machst mir's kraus! [Du machst mir's kraus! Ija! Ija!]
Ich kann's in Kopf nicht bringen!"
 彼らはすぐに審査員の前まで飛んで行った。
 事の次第を聞かされたロバは
 二羽に歌うように告げた。
 ナイチンゲールは愛らしく歌った。
 ロバは言った「きみの歌はわけが分からんよ![イーヤー!]
 頭の中に入ってこない!」

Der Kukuk drauf fing an geschwind
Sein Sang durch Terz und Quart und Quint.
Dem Esel g'fiels, er sprach nur "Wart! [Wart! Wart!]
Dein Urteil will ich sprechen[, ja sprechen].
 続いてかっこうが急いで歌い始めた、
 三度と四度と五度音程の歌を。
 ロバは気に入り、こう言った「待て!
 判定を言い渡そう。

Wohl sungen hast du, Nachtigall!
Aber Kukuk, singst gut Choral! [gut Choral!]
Und hältst den Takt fein innen! [fein innen!]
Das sprech' ich nach mein' hoh'n Verstand! [hoh'n Verstand! hoh'n Verstand!]
Und kost' es gleich ein ganzes Land,
So laß ich's dich gewinnen! [gewinnen!]"
[Kukuk! Kukuk! Ija!]
 きみもよく歌ったよ、ナイチンゲール!
 だがかっこうよ、きみはコラールを上手に歌ったな!
 拍の中にうまく収まっておったぞ!
 わが高遠なる知性にかけて申す!
 きみの歌はまるごと一国に値する、
 よってきみの勝ちとする!」
 [カッコー!カッコー!イーヤー!]

詩:Achim von Arnim (1781-1831) und Clemens Brentano (1778-1842) aus "Des Knaben Wunderhorn"
曲:Gustav Mahler (1860-1911)

※今回の訳詞を作成するにあたって、かなり迷った箇所もありましたので、あくまで参考程度にご覧ください。
第2節第5行の"bos"は、私の見た範囲ではどの辞書にも載っておらず、"böse(悪い)"のことと想像しました。
おそらくオリジナル詩集の注を見れば何らかのヒントが載っているのかもしれませんが、もし分かりましたら反映したいと思います。

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オリジナルのタイトルは"Wettstreit des Kukuks mit der Nachtigal(かっこうとナイチンゲールの競い合い)"

オリジナルのテキストは下記のリンク先をご覧ください。
 こちら

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先日の記事で、ロバの登場するヴォルフの歌曲をご紹介しましたが、今回はそのマーラー編です。
マーラーがアルニム&ブレンターノの編纂した「子供の魔法の角笛(Des Knaben Wunderhorn)」の中の詩に手を加えて歌曲集を作りました。
その中の1つが、「高遠なる知性の賛美(Lob des hohen Verstandes)」です。

歌自慢のかっこうとナイチンゲールが、歌を競い合おうということになり、審査員に耳の大きなロバを指名します。
ロバは審査員を引き受けましたが、ナイチンゲールの歌は難しすぎて理解できませんでした。
そこでかっこうに歌ってもらうと、例の「カッコー」という音程の単純な下降がロバの耳には分かりやすく、かっこうを勝者にします。
その理由が「拍の中にうまく収まっておった」からで、ロバにも理解できたということなのでしょう。
ロバは「わが高遠なる知性にかけて(nach mein' hoh'n Verstand)」判定の正しさを主張します。
その歌声は一国まるまるの価値があるとまで言い放ちます。
これらの鳥や動物を通じて、耳に馴染みやすいものを評価し、斬新な響きには聞く耳を持たないという批評家、聴衆たちを皮肉っていることは明白でしょう。

マーラーがこの詩を音楽にする際に、一見コミカルな響きの中に、強烈な音楽業界への皮肉を込めているのがはっきりと感じられます。
ナイチンゲールの歌う場面でマーラーが用いた音楽は、シューベルトのピアノソナタ第18番ト長調D894「幻想」の第4楽章を思い起こさせます。
(参考文献:こちら

歌声に時折トリルを加えたり、ロバの鳴き声を極端に広い音程で表現したり、グロテスクな表情はいたるところに散りばめられています。
この曲にはオーケストラ版とピアノ版の両方がありますが、最初にピアノ版で聞いて想像をふくらませた後に、オーケストラ版を聞くと、より鮮明に動物たちの響きが聞こえてくると思います。

ここでもロバは結局、頭の固い無知な者という位置づけがされていますが、あくまで象徴として使われているだけであって、実際のロバがどうなのかということはまた別問題だと思います。
それぞれの名演を楽しんでください。

かっこう(der Kuckuck)の鳴き声

ナイチンゲール(die Nachtigall)の鳴き声

ロバ(der Esel)の鳴き声

詩の朗読(Susanna Proskura)

Christa Ludwig(MS), Gerald Moore(P)
クリスタ・ルートヴィヒ(MS), ジェラルド・ムーア(P)

1957年録音。ルートヴィヒの語り口の鮮やかなことといったら!雄弁なムーアのピアノと共に表情が見事です。

Anne Sofie von Otter(MS), Ralf Gothoni(P)
アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS), ラルフ・ゴトーニ(P)

1989年録音。彼女のディクションの上手さが見事に生かされています。ゴトーニは「ナイチンゲール」の響きが特に美しかったです。

Thomas Hampson(BR), Geoffrey Parsons(P)
トマス・ハンプソン(BR), ジェフリー・パーソンズ(P)

マーラーを得意とするハンプソンの余裕をもった歌唱とロバのいななきが聴きどころです。パーソンズはいつも同様うまいです。

Elisabeth Schwarzkopf(S), The London Symphony Orchestra, George Szell(C)
エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S), ロンドン交響楽団, ジョージ・セル(C)

1968年録音。シュヴァルツコプフのユーモラスな側面を聴くことが出来ます。

Brigitte Fassbaender(MS), Rundfunk-Sinfonieorchester Saarbrücken, Hans Zender(C)
ブリギッテ・ファスベンダー(MS), ザールブリュッケン放送交響楽団, ハンス・ツェンダー(C)

1979年4月録音。ファスベンダーの歌っている姿が見られます。彼女も声色のパレットの豊富な歌手でした。そのパレットを存分に発揮しています。

【参考】シューベルト: ピアノソナタ第18番ト長調D894「幻想」の第4楽章(スヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter)の1977年の演奏)

0:24-0:26等の音型(その後も何度か出てきます)が、マーラーのこの歌曲のナイチンゲールの響きに取り入れられていると考えられます。

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ロバ(der Esel)が登場するヴォルフ(Hugo Wolf)の歌曲2曲

ドイツ歌曲に限りませんが、動物や植物を扱ったテキストは数多くあります。
歌曲集として動物をテーマにしてまとめた例としては、いずれもフランス歌曲ですが、ラヴェル「博物誌」やプーランク「動物詩集」などが思い浮かびます。
特に前者は鳥や虫の鳴き声などが見事に描写されています。

今回扱うのは「ロバ(ドイツ語でEsel)」です。
フーゴー・ヴォルフ(Hugo Wolf)の歌曲に「ロバ」が登場する作品が2曲あります。
「ロバ」を表すドイツ語のEsel(発音は「エーゼル」)は「間抜け」という意味合いも持ち、あまり好意的に扱われていません。

まずはロバの鳴き声を聞いてみましょう。

高い吸い込むような金属的な音と低い音を交互に出すのが特徴でしょうか。
こうして見ると可愛いですね。

それでは、ヴォルフの「変身させられたツェッテルの歌」という歌曲をご紹介します。

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Lied des transferierten Zettel
 変身させられたツェッテル(ボトム)の歌

Die Schwalbe, die den Sommer bringt,
der Spatz, der Zeisig fein,
Die Lerche, die sich lustig schwingt
bis in den Himmel 'nein.
[Ya Ya Ya Ya!]
 夏をもたらすつばめに、
 すずめに、きれいなまひわ、
 ひばりは快活に
 空中まで舞い上がる。
 [イーアー、イーアー、イーアー、イーアー!]

Der Kuckuck, der der Grasemück'
so gern ins Nestchen heckt,
Und lacht darob mit arger Tück',
und manchen Ehmann neckt.
[Ya Ya Ya Ya!]
 かっこうは、のどじろむしくいの巣に
 卵を産みつけるのが大好き。
 そして悪意をもってあざ笑い、
 あまたの旦那どもを冷やかすのだ。
 [イーアー、イーアー、イーアー、イーアー!]

詩:William Shakespeare (1564-1616) “A Midsummer Night's Dream” Act 3, Scene 1
独訳:August Wilhelm Schlegel (1767-1845) “Ein Sommernachtstraum” Dritter Aufzug, Erste Szene
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

※第2節第1行の「のどじろむしくい」という鳥の姿と鳴き声は
 こちら

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これはシェイクスピアの「夏の夜の夢(A Midsummer Night's Dream)の第3幕第1場で、いたずら者の妖精パックが織物職人ボトムの頭をロバに変えてしまい、そうと気付かないボトムが歌う歌です。
ボトムというのがオリジナルの役名ですが、訳者のA.W.シュレーゲルは、Zettel(ツェッテル)という名前に訳しました。
ちなみにZettelというのはドイツ語で「紙切れ」のことです。
独立した詩ではなく、戯曲の中の一部であり、しかも第1節と第2節の間で妖精のティターニアが目覚めて一言セリフを話すので、それを除いた形でヴォルフは作曲しています。
ロバの鳴き声はヴォルフによる付与で、グロテスクさが増しています。
1889年(ヴォルフの「歌の年」の翌年)に作曲され、皮肉屋ヴォルフの面目躍如です。
この「イーアー」(12度下降)をどのように歌うのかが聴きどころと言えるでしょう。

フリッツ・ヴンダーリヒ(T) & ルートヴィヒ・クッシェ(P) (「変身させられたツェッテルの歌」は3曲目(3:11)から始まります)
Fritz Wunderlich(T) & Ludwig Kusche(P)

シューベルト「うずらの鳴き声」、R.シュトラウス「商人と仕掛け人は」に続いて、3:11から始まります。お手数ですが、目盛りを移動してお聞き下さい。

John William Gomez(T) & Tania Shustova(P)

若干発音に不正確な箇所もありますが、曲の感じはつかめると思います。

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もう1曲はヴォルフ晩年の傑作「イタリア歌曲集(Italienisches Liederbuch)」の第2巻第21曲「ちょっと黙ってよ(Schweig einmal still)」です。

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Schweig' einmal still
 ちょっと黙ってよ

Schweig einmal still, du garst'ger Schwätzer dort!
Zum Ekel ist mir dein verwünschtes Singen.
Und triebst du es bis morgen früh so fort,
Doch würde dir kein schmuckes Lied gelingen.
Schweig einmal still und lege dich aufs Ohr!
Das Ständchen eines Esels zög ich vor.
 ちょっと黙ってよ、そこの不愉快なおしゃべり男!
 あんたのいらつく歌聞いてると気持ち悪くなるのよ。
 こんな朝早くまで歌い続けていたところで、
 まともな歌になるわけないでしょ。
 もう黙ってよ、いい加減に寝なさい!
 ロバのセレナード聞く方がまだいいわ!

詩:Paul Heyse (1830-1914)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

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男女の駆け引きなどの歌を46編まとめたヴォルフ「イタリア歌曲集」。
ヴォルフは各曲の配列にも気を配って作曲しています。
この曲「ちょっと黙ってよ」は前曲「ぼくはもう歌えないよ(Nicht länger kann ich singen)」のいわばアンサーソングとなっています。
この詩の最後の行に"Esels(ロバ)"という言葉が出てきますが、ここでヴォルフはピアノパートにロバの鳴き声を模した響きを再現してグロテスクな表情を強調しています。
さらにピアノ後奏にもロバの鳴き声が今度は高低逆の形で現れます。
しかし、この箇所だけではなく、この曲に最初から一貫して流れるピアノパートの跳躍音程や装飾音は、すでにロバの鳴き声を暗示していると言ってもいいのではないでしょうか。

モイチャ・エルトマン(S) & ゲロルト・フーバー(P)
Mojca Erdmann(S) & Gerold Huber(P)

2009年録音。魅力的な演奏です。

ロバは嘲笑や皮肉の対象として使用され、ちょっと可哀そうな気もしますが、さらにロバを皮肉のネタとして使用したマーラーの歌曲があります。そちらは後日またあらためて記事にしたいと思います。

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ブラームス「ひばりの歌(Lerchengesang, Op. 70-2)」を聴く

Lerchengesang, Op. 70-2
 ひばりの歌

Ätherische ferne Stimmen,
Der Lerchen himmlische Grüße,
Wie regt ihr mir so süße
Die Brust, ihr lieblichen Stimmen!
 天空のはるかな声、
 ひばりの空からの挨拶、
 お前たちはなんと甘美に私の胸を動かすのか、
 愛らしい声よ!

Ich schließe leis mein Auge,
Da ziehn Erinnerungen
In sanften Dämmerungen
Durchweht vom Frühlingshauche.
 私は静かに目をつむると
 想い出が通り過ぎる、
 やわらかなたそがれの中で
 春の息吹に吹かれながら。

詩:Karl August Candidus (1817-1872)
曲:Johannes Brahms (1833-1897)

※上記の訳は、いつもお世話になっています「詩と音楽」さんのサイトに以前投稿したものを転載しています。
 こちら

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ブラームスが繰り返した箇所を[ ]で囲って補ったテキストを以下に記しておきます。

Ätherische ferne Stimmen,
Der Lerchen himmlische Grüße,
Wie regt ihr mir so süße
Die Brust, ihr lieblichen Stimmen!
[Die Brust, ihr lieblichen Stimmen!]

Ich schließe leis mein Auge,
Da ziehn Erinnerungen
In sanften Dämmerungen
[Da ziehn Erinnerungen]
[In sanften Dämmerungen]
Durchweht vom Frühlingshauche.

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ブラームスの歌曲の中で最も澄み切った美しさと余韻の味わいを感じさせてくれる名作の一つです。
私がこの曲をはじめて聞いたのがいつだったのか定かではないのですが、エディット・マティスのライヴ録音をFMラジオで聞いた時かもしれません。
少なくともレコードやCDではじめて聞いたというのではなかったような気がします。
しかし、後に白井光子&ヘルのCDを聞き、この曲の最高の名演に出会えた喜びを味わったことはおぼろげなから覚えています。

歌とピアノが交互にメロディーを引き継ぎながら一つにまとまっていく形で作られていて、ブラームスらしいリズムのずれもあり、とても味わい深い作品になっています。
ピアノの下降する2つの高音が頻繁に現れますが、おそらくひばりの鳴き声を暗示しているのでしょう。

Lerche(ひばり)の鳴き声

Mitsuko Shirai(MS) & Hartmut Höll(P)
白井光子(MS) & ハルトムート・ヘル(P)

1987年録音。この曲の余白を感じさせる作風は、日本人の歌手にとって共感しやすかったのでしょうか。白井の浮遊するような歌声は聞き手の胸にしっとりと染み込みます。ヘルが細心のデリカシーをもって表現しているのも聴きどころです。

Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Daniel Barenboim(P)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ダニエル・バレンボイム(P)

F=ディースカウが声の起伏をいつも以上に抑えつつ、静かに美しいフレーズを響かせていて素晴らしいです。バレンボイムもコントロールを利かせつつ、きれいに歌っていました。

Stefanie Irányi(MS) & Helmut Deutsch(P)
シュテファニー・イラーニ(MS) & ヘルムート・ドイチュ(P)

楽譜付き。イラーニの歌唱は、素直で爽やかで、しかも味わいもあって、とても気に入りました。ドイチュも美しいです。

Simon Keenlyside(BR) & Malcom Martineau(P)
サイモン・キーンリサイド(BR) & マルコム・マーティノー(P)

2009年録音。キーンリサイドの抑えた歌唱が優しい癒しを与えてくれます。マーティノーは安定した演奏です。

Domenico Ricciによるピアノ伴奏のみ(変イ長調):第1節のみ

ピアノ伴奏だけでも美しい無言歌として成立していますね。

Mischa Maisky(Violoncello) & Pavel Gililov(P)
ミーシャ・マイスキー(Violoncello) & パーヴェル・ギリロフ(P)

マイスキーは歌曲をチェロで演奏することが好きなようで、CD録音もしています。ここでは止まりそうなほどゆったりとしたギリロフのピアノを受けて、感情豊かにチェロで歌ってみせています。

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ブラームス「なんと私は夜中に飛び起きた(Wie rafft' ich mich auf in der Nacht, Op. 32-1)」を聴く

Wie rafft' ich mich auf in der Nacht, Op. 32-1
 なんと私は夜中に飛び起きた

Wie rafft' ich mich auf in der Nacht, in der Nacht,
Und fühlte mich fürder gezogen,
Die Gassen verließ ich vom Wächter bewacht,
Durchwandelte sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Das Tor mit dem gotischen Bogen.
 なんと私は飛び起きた、夜中に、夜中に、
 そしてどうしようもなく先に引かれるものを感じた。
 夜番の見張る路地を過ぎ、
 そっと通り抜けていった、
 夜中に、夜中に、
 ゴチック風アーチの門を。

Der Mühlbach rauschte durch felsigen Schacht,
Ich lehnte mich über die Brücke,
Tief unter mir nahm ich der Wogen in Acht,
Die wallten so sacht,
In der Nacht, in der Nacht,
Doch wallte nicht eine zurücke.
 水車用の小川が岩穴の中をざわめき流れていた。
 橋から身を乗り出した私は、
 下方に深く沸き起こる波に目をこらすと、
 それは、あまりにもかすかに波立った、
 夜中に、夜中に、
 だが打ち返すことはなかった。

Es drehte sich oben, unzählig entfacht,
Melodischer Wandel der Sterne,
Mit ihnen der Mond in beruhigter Pracht,
Sie funkelten sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Durch täuschend entlegene Ferne.
 上方には無数にきらめきながら
 メロディーを奏でる星の運行が円を描いていた。
 星々とともに、月はなだめるような壮麗な光を放っていた、
 それらは穏やかに輝いていた、
 夜中に、夜中に、
 見まがうほどに遥か遠くから。

Ich blickte hinauf in der Nacht, in der Nacht,
Und blickte hinunter aufs neue:
O wehe, wie hast du die Tage verbracht,
Nun stille du sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Im pochenden Herzen die Reue!
 私は天空を仰ぎ見た、夜中に、夜中に、
 そしてあらためて視線を下ろした。
 ああ、お前はなんという日々を過ごしてきたのだ、
 さあ、そっと静めるがいい、
 夜中に、夜中に、
 脈打つ心の中にひそむ悔悟の念を!

詩:August von Platen-Hallermünde (1796-1835)
曲:Johannes Brahms (1833-1897)

※上記の訳は、いつもお世話になっています「詩と音楽」さんのサイトに以前投稿した訳に手を加えたものです。
 こちら

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ブラームスが繰り返した箇所を[ ]で囲ったテキストを以下に記しておきます。
ブラームスがどの詩句に重きを置いているかを知ることが出来ますね。

Wie rafft' ich mich auf in der Nacht, in der Nacht,
Und fühlte mich fürder [mich fürder] gezogen,
[fühlte mich fürder gezogen,]
Die Gassen verließ ich vom Wächter bewacht,
Durchwandelte sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Das Tor mit dem gotischen Bogen.

Der Mühlbach rauschte durch felsigen Schacht,
Ich lehnte mich über die Brücke,
Tief unter mir nahm ich der Wogen in Acht,
Die wallten so sacht,
In der Nacht, in der Nacht,
Doch wallte nicht eine zurücke.
[Doch wallte nicht eine zurücke.]

Es drehte sich oben, unzählig entfacht,
Melodischer Wandel der Sterne,
Mit ihnen der Mond in beruhigter Pracht,
Sie funkelten sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Durch täuschend entlegene Ferne.
[Durch täuschend entlegene Ferne.]

Ich blickte hinauf in der Nacht, in der Nacht,
Und blickte hinunter [hinunter] aufs neue:
[Und blickte hinunter aufs neue:]
O wehe, wie hast du die Tage verbracht,
[O wehe, wie hast du die Tage verbracht,]
Nun stille du sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Im pochenden Herzen die Reue!

----------

私がはじめてこの曲を聴いたのは、FMラジオから流れてきたF=ディースカウ&ヘルのザルツブルク音楽祭ライヴ放送でした。
ブラームスには他により有名な歌曲がいくつもありますが、それらよりもこの作品をたまたま先に聞くことになった当時の私にとって、ブラームスの歌曲はドラマティックでカッコいいという印象を植え付けられました。
よくブラームスの歌曲は渋くてとっつきにくい、という感想を持たれる方が多いのですが、そういう方にはぜひ、この「なんと私は夜中に飛び起きた」を聞いていただきたいです。
詩の展開によって歌もピアノも魅力的に移り変わっていき、数回にわたってドラマティックに盛り上がりを見せます。
F=ディースカウ&ヘルのコンビでスタジオ録音(Bayerレーベル)もされていますが、ザルツブルクライヴ音源がいつか商品化されないかなぁと期待しています。

プラーテンの詩は、主人公が突如夜中に突き動かされるような衝動を感じて外に出かけるところから始まります。
門番の見張る中通りを渡り、橋の上に出ます。
川はかすかに波打つのですが、返す波はありません。
次に上を見上げると、星や月が気の遠くなるほどはるか彼方から美しく輝いています。
そこであらためて視線を下すと、主人公は我に返り、嘆きます。
「自分はなんと無為な日々を送っているのだろうか」
そして、もうこの心を鎮めようと思い直すのです。
彼の心にあったのは「悔い(die Reue)」の念であり、その為に胸が脈打ってじっとしていられなかったということでしょうか。
その「悔い」がなんだったのかはこの詩からは明かされません。

ブラームスは、この主人公の暗い衝動をかなりドラマティックに解釈したようです。
どの程度振幅を大きくするかによって、演奏の印象も変わってくるでしょう。
以下の演奏の中では唯一の女声オッターが振幅を抑えて、しっとりとした表情を伝えてきます。

Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Hertha Klust(P)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ヘルタ・クルスト(P)

1952年6月13日Berlin放送録音。F=ディースカウの声が若々しく魅力的です。クルスト女史もしっかりとした演奏を聞かせてくれます。

Thomas Quasthoff(BR) & Justus Zeyen(P)
トーマス・クヴァストフ(BR) & ユストゥス・ツァイエン(P)

2000年録音。クヴァストフの響きの深さが感銘を与えてくれます。ツァイエンも細やかに行き届いた演奏です。

Meinard Kraak(BR) & Irwin Gage(P)
メイナルト・クラーク(BR) & アーウィン・ゲイジ(P)

1968年録音。オランダのハイバリトン、クラークが丁寧に明晰な歌を聞かせています。当時29歳(!)の若かりしアーウィン・ゲイジが聞けるのも貴重でしょう。

Anne Sofie von Otter(MS) & Bengt Forsberg(P)
アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS) & ベングト・フォシュベリ(P)

1989年録音。オッターは遅めのテンポで丁寧に抑制した表現をしています。フォシュベリも抑えながら時々前面に出る感じです。

【VOCALOID】Sung by KAITO (Vocaloid), Piano: Prova (free sound source)
ヴォーカロイド(男声)による演奏

ヴォーカロイドを侮るなかれ!この演奏、なかなか癒されます。電子音からも温かみを感じることが出来るのですね。

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シューベルト「あなたは安らぎ(Du bist die Ruh) D 776」を聴く

Du bist die Ruh, D 776
 あなたは安らぎ

Du bist die Ruh,
Der Friede mild,
Die Sehnsucht du,
Und was sie stillt.
 あなたは安らぎ、
 穏やかな平安、
 あなたは憧れ、
 そして憧れを鎮めるもの。

Ich weihe dir
Voll Lust und Schmerz
Zur Wohnung hier
Mein Aug' und Herz.
 私はあなたに、
 喜びと苦しみでいっぱいにして、
 この住まいに
 わが瞳と心を捧げよう。

Kehr' ein bei mir,
Und schließe du
Still hinter dir
Die Pforten zu.
 私のもとを訪ねておくれ、
 そして
 そっとあなたの後ろの
 戸を閉めておくれ。

Treib andern Schmerz
Aus dieser Brust.
Voll sei dies Herz
Von deiner Lust.
 他の苦しみを
 この胸から追い出しておくれ。
 この心を
 あなたの喜びでいっぱいにしておくれ。

Dies Augenzelt
Von deinem Glanz
Allein erhellt,
O füll' es ganz.
 この瞳の天幕は
 あなたの輝きだけに
 照らされている。
 おお、その輝きで瞳を満たしておくれ。

詩:Friedrich Rückert (1788-1866)
曲:Franz Schubert (1797-1828)

-----

※シューベルトによる詩句の繰り返し箇所に[ ]を付与しています。最終節はまるまる繰り返しています。

Du bist die Ruh,
Der Friede mild,
Die Sehnsucht du,
Und was sie stillt.

Ich weihe dir
Voll Lust und Schmerz
Zur Wohnung hier
Mein Aug' und Herz.
[Mein Aug' und Herz.]

Kehr' ein bei mir,
Und schließe du
Still hinter dir
Die Pforten zu.

Treib andern Schmerz
Aus dieser Brust.
Voll sei dies Herz
Von deiner Lust.
[Von deiner Lust.]

Dies Augenzelt
Von deinem Glanz
Allein erhellt,
O füll' es ganz.
[O füll' es ganz.]

[Dies Augenzelt]
[Von deinem Glanz]
[Allein erhellt,]
[O füll' es ganz.]
[O füll' es ganz.]

------------------

シューベルトはリュッケルトの詩による独唱歌曲を5曲つくりました。
その中でもとりわけ美しい「あなたは安らぎ(「君はわが憩い」などの訳でも知られています)」はよく歌われ、録音も多い名曲です。
テキストは「弱強弱強」のリズムで統一され、奇数行同士、偶数行同士で例外なく脚韻を踏んでいます。
簡潔で短い言葉を選んだリュッケルトの詩に、シューベルトは基本的に2行ずつを1つのフレーズにまとめ、時に詩行を繰り返すのですが、最終節はまるまる繰り返し、強調しています。
この最終節の繰り返し(メロディーは基本的に一緒ながら部分的に絶妙に変化させています)をどのように歌い、弾くのか、演奏家によって解釈の違いが出やすいところで、聞きどころの一つとも言えると思います。
テンポ設定も演奏家の個性が出やすいでしょう。

詩の朗読(Susanna Proskura)

リュッケルトの詩はあっという間に終わってしまいますが、シューベルトは彼の楽想を完成させる為に多くの詩行を繰り返しました。オリジナルの詩の朗読をお聞きください。

Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)
ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)

ここでのプライは神がかっていると思います。まさに"Ruh(安らぎ)"を感じさせる美声であり、彼の最高の名唱のひとつではないでしょうか。ホカンソンも温かい演奏です。

Matthias Goerne(BR) & Helmut Deutsch(P)
マティアス・ゲルネ(BR) & ヘルムート・ドイチュ(P)

2008年録音。たっぷりしたテンポで完璧なメロディーの弧を描くゲルネの歌唱に聞きほれてしまいます。ドイチュの磨きぬかれたピアノの美音も最高です。

Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)

1965年録音。F=ディースカウの歌唱は心がこもっていて、どこをとっても完璧な素晴らしさです。ムーアも歌の意図を汲んだ名演奏です。

Elly Ameling(S) & Dalton Baldwin(P)
エリー・アーメリング(S) & ドルトン・ボールドウィン(P)

絶妙なコントロールを貫きながら、自然さを失わないアーメリングの凄さをあらためて感じさせられました。ただ、最終節の2回目の繰り返しでの"deinem"を1回目と同じメロディーで歌っているのは彼女には珍しいミスでしょう。

Barbara Bonney(S) & Geoffrey Parsons(P)
バーバラ・ボニー(S) & ジェフリー・パーソンズ(P)

1994年録音。最後の節の2回目の繰り返しで"erhellt"を絞り込む箇所のボニー、素晴らしいです!

Christian Gerhaher(BR) & Gerold Huber(P)
クリスティアン・ゲアハーエル(BR) & ゲロルト・フーバー(P)

2005年録音。ディクションの明晰さとレガートの美しさを両立しているゲアハーエルに脱帽です。フーバーも静謐さの中に彼らしいドラマを盛り込んでいます。

ピアノ伴奏のみ(John Sheaによる演奏)

音楽的なとても優れた演奏だと思います。演奏が動画で見られるのはいいですね。ぜひ演奏に合わせて歌ってみて下さい。

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シューベルト「秘めごと(Geheimes) D 719」を聴く

Geheimes, D 719
 秘めごと

Über meines Liebchens Äugeln
Stehn verwundert alle Leute;
Ich, der Wissende, dagegen
Weiß recht gut was das bedeute.
 ぼくの恋人の眼差しについて
 人々はみな首をかしげている。
 その一方で、訳知りのぼくは
 どういう意味なのかよく分かっているのだ。

Denn es heißt: ich liebe diesen,
Und nicht etwa den und jenen.
Lasset nur ihr guten Leute
Euer Wundern, euer Sehnen!
 というのも、その眼差しは「私が愛しているのはこの人で、
 こちらさんでもあちらさんでもないのよ」ということなのだ。
 善良なきみたちよ、
 いぶかしがったり、憧れたりするのをやめるがいい!

Ja, mit ungeheuren Mächten
Blicket sie wohl in die Runde;
Doch sie sucht nur zu verkünden
Ihm die nächste süße Stunde.
 そう、とてつもない引力で
 彼女はあたりを見回している。
 だが、彼女が告げようとしているのはただ
 この後のぼくとの甘い時間のことなのだ。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Franz Schubert (1797-1828)

------------------

ゲーテの詩による有名なシューベルトの歌曲です。
詩の主人公の男性は、周囲の男たちを魅了している女性が実は自分の恋人であることに優越感を感じているのでしょうか。
二人の間だけの秘め事として、他の男性たちには分からないサインを恋人の女性が主人公に送っているようです。
シューベルトの音楽は、ピアノパートが一貫して2つの和音によるリズムを繰り返します。
恋人が目配せする様を模しているかのように感じられます。

詩の朗読(Susanna Proskura)

シューベルトのテキストと多少違うところがあるので、ゲーテの原詩によるのかもしれません。0:45頃に朗読が終わりますが、その後1:04まで止まりませんので、お手数ですが終わったら止めて下さい。

Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)

1959年録音。2人の大家の演奏している動画が残っているだけでも有難いことです。演奏は言うまでもなく隅々まで行き届いた素晴らしさです!

Hermann Prey(BR) & Gerald Moore(P)
ヘルマン・プライ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)

1960年録音。プライは声も表現も見事に脂が乗っていて、聞いていて楽しい気分にさせてくれます。ムーアの明晰なタッチも魅力的です。

Hans Hotter(BSBR) & Gerald Moore(P)
ハンス・ホッター(BSBR) & ジェラルド・ムーア(P)

1957年録音。ホッターの温かみのある深い声はただただ聞きほれてしまいます。細やかな表情もさすがです!

Anne Sofie von Otter(MS) & Bengt Forsberg(P)
アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS) & ベングト・フォシュベリ(P)

オッターのディクションの美しさと知的なアプローチが印象的です。フォシュベリもオッターの解釈を把握した演奏です。

Matthias Goerne(BR) & Eric Schneider(P)
マティアス・ゲルネ(BR) & エリク・シュナイダー(P)

2014年録音。ゲルネはディースカウの弟子ですが、師匠よりももっと自然な表現で、柔らかい感触が素晴らしいです。シュナイダーは特定の音を若干強調することで歌とデュエットしているような効果をあげています。

Elisabeth Schumann(S) & Elizabeth Colemann(P)
エリーザベト・シューマン(S) & エリザベス・コールマン(P)

1936年録音。往年の名歌手シューマンの表情の豊かさといったら!

Bruno Laplante(BR) & John Newmark(P)
ブリュノ・ラプラント(BR) & ジョン・ニューマーク(P)

1973年2月録音。ドイツリートの商業用録音を(おそらく)残さなかったラプラントの珍しいドイツリート歌唱です。

Ileana Cotrubas(S) & Erik Werba(P)
イレアナ・コトルバシュ(S) & エリク・ヴェルバ(P)

1978年録音。コトルバシュはあまりリートの印象がないですが、こうして聞いてみると、彼女特有の甘い美声に魅了されますね。

伴奏パートのみ(演奏者不明)

この一見簡素な伴奏を聴くと、いかにシューベルトが選ばれた音で感情の機微をあらわす天才だったかをあらためて感じさせてくれます。

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シューベルト「憩いなき愛(Rastlose Liebe) D 139」を聴く

Rastlose Liebe, D 139
 憩いなき愛

Dem Schnee, dem Regen,
Dem Wind entgegen,
Im Dampf der Klüfte,
Durch Nebeldüfte,
Immer zu! Immer zu!
Ohne Rast und Ruh!
 雪に、雨に、
 風に立ち向かい、
 深淵の蒸気の中、
 霧を通り抜け、
 絶えず行け!絶えず行け!
 休まず、憩わずに!

Lieber durch Leiden
Wollt ich mich schlagen,
Als so viel Freuden
Des Lebens ertragen.
Alle das Neigen
Von Herzen zu Herzen,
Ach wie so eigen
Schaffet das Schmerzen!
 むしろ苦しみの中を
 突き進みたい、
 人生のあまりにも多くの喜びに
 耐える位ならば。
 心から心へと
 傾注するものはみな、
 ああ、いかに自ら
 苦しみを生み出してしまうのだろう!

Wie soll ich flieh'n?
Wälderwärts zieh'n?
Alles vergebens!
Krone des Lebens,
Glück ohne Ruh,
Liebe, bist du!
 どうやって逃げろというのだ?
 森へ行けというのか?
 何もかも無駄なことだ!
 人生の王冠であり、
 憩いなき幸せ、
 愛よ、それはお前なのだ!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Franz Schubert (1797-1828)

-----

※シューベルトによる詩句の繰り返しは第3節のみにある。
以下第3節の繰り返し箇所に[ ]を付与している(最終行の冒頭の"o"はシューベルトによる追加)。

Wie soll ich flieh'n?
Wälderwärts zieh'n?
Alles [alles] vergebens!
Krone des Lebens,
Glück ohne Ruh,
Liebe, bist du!
[o, Liebe, bist du!]
[Glück ohne Ruh,]
[Liebe, bist du!]
[Krone des Lebens,]
[Glück ohne Ruh,]
[Liebe, bist du!]
[o, Liebe, bist du!]
[o, Liebe, Liebe, bist du!]

------------------

シューベルトが最も多く独唱歌曲を作曲した詩人はゲーテでしたが、そのゲーテの詩により1815年に作曲された作品の一つがこの「憩いなき愛」D 139 です。
一分半ぐらいの短い作品ですが、詩に横溢している疾風怒濤の焦燥感を見事に描いた名作として、よく演奏される作品です。
詩が短くて、シューベルトの楽想には足りなくなってしまったのか、かなり詩句を繰り返しています。
ピアノパートは細かい十六分音符の箇所と三連符の箇所を織り交ぜながら、激流のように激しく進んでいきます。

●詩の朗読(名前不明の男性による)

美しい朗読です。ぜひ聞いてみて下さい。

●Hermann Prey(BR) & Karl Engel(P)
ヘルマン・プライ(BR) & カール・エンゲル(P)

1965年録音。初期のプライの溢れんばかりに豊かな美声によるほとばしる情熱がこの曲にぴったりで素晴らしいです。エンゲルも雄弁に盛り上げています。

●Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)

1955年録音。F=ディースカウのディクションの上手さと、ムーアの一体感が相変わらず見事です。

●Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)
ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)

シュライアーの清冽な美声が魅力的です。オルベルツも粒立ちのそろった演奏です。なお、この動画、1:20頃に演奏が終わっても3分過ぎまで止まりませんので、終わったらお手数ですが止めて下さい。

●Jessye Norman(S) & Phillip Moll(P)
ジェシー・ノーマン(S) & フィリップ・モル(P)

1984年録音。豊潤な声をもったノーマンによく合った作品だと思います。

●Barbara Hendricks(S) & Radu Lupu(P)
バーバラ・ヘンドリックス(S) & ラドゥ・ルプー(P)

1985年録音。ノーマンとは対照的な細身の声をもったヘンドリックスですが、芯の強さがあり、彼女ならではの魅力があります。シューベルト弾きのルプーの音色の美しさも素晴らしいです。

●Matthias Goerne(BR) & Eric Schneider(P)
マティアス・ゲルネ(BR) & エリク・シュナイダー(P)

2014年録音。ゲルネの深みのある声による歌唱は、現役第一級のリート歌手であることを示しています。シュナイダーも息の合ったいい演奏です。

●ピアノパートのみ:ジョン・ワストマン(John Wustman)による演奏

1962年録音。低声用(原調のホ長調からハ長調に移調した版による)。アメリカを代表する伴奏者の一人ワストマンによる贅沢なマイナスワン録音。ピアノだけで聞かせてしまうのはさすがです。
なお、この動画も、1:25頃に演奏が終わっても4分過ぎまで止まりませんので、終わったらお手数ですが止めて下さい。

●番外編1:Bruno Laplante(BR) & John Newmark(P)
ブリュノ・ラプラント(BR) & ジョン・ニューマーク(P)

1973年2月録音。フランス歌曲の復興に大きく貢献したカナダ人、ラプラントによるドイツ歌曲の歌唱はかなり珍しいのではないでしょうか。

●番外編2:初音ミク(ボーカロイド)

ドイツ語の発音に目をつむれば、面白い試みだと思います。シューベルトがもしボーカロイドの存在する時代に生きていたら、彼女のために作品を書いたかもしれませんね。

---------

他の作曲家がこのテキストに作曲した作品

●ツェルター(Carl Friedrich Zelter: 1758-1832)作曲
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Jörg Demus(Fortepiano)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & イェルク・デームス(Fortepiano)
ゲーテお気に入りの作曲家ツェルターの作品。かなりドラマティックで印象的です。
※埋め込み不可の動画なので、下記の「こちら」をクリックして下さい。
 こちら

●トマーシェク(Johann Wenzel Tomaschek: 1774-1850)作曲(Op. 58, No. 1)
Ildikó Raimondi(S) & Leopold Hager(P)

こちらも焦燥感に満ちた作品になっていますね。演奏も見事です。

●シェック(Othmar Schoeck: 1886-1957)作曲(Op. 19a, No. 5)
Emma Ritter(MS) & Christina Giuca(P)
録音:2017年8月4日, Hahn Hall, Music Academy of the West, Santa Barbara, CA

起伏の大きなドラマティックな作品で、ピアノパートはかなり雄弁です。演奏もとても素晴らしいです。

●シューマン(Robert Schumann: 1810-1856)作曲による無伴奏男声4部合唱(Op. 33, No. 5)
Renner Ensemble & Bernd Engelbrecht

合唱曲ということもあってか、他の作曲家の独唱曲に比べると随分穏やかな印象を受けます。

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シューベルト「乙女の嘆き(Des Mädchens Klage)」全3作(D 6, D 191, D 389)を聴く

Des Mädchens Klage
 乙女の嘆き

Der Eichwald [brauset](1),
Die Wolken [ziehn](2),
Das Mägdlein [sitzet](3)
An Ufers Grün,
Es bricht sich die Welle mit Macht, mit Macht,
Und sie seufzt hinaus in die finstre Nacht,
Das Auge [von](4) Weinen [getrübet](5).
 樫の森はざわめき、
 雲は流れ行く。
 娘は
 岸辺の緑野に座っている。
 波は勢いよく、勢いよく砕け散る。
 彼女は暗い夜にため息をもらし、
 目は泣きはらして曇っている。

"Das Herz ist gestorben,
Die Welt ist leer,
Und weiter giebt sie
Dem Wunsche nichts mehr.
Du Heilige [rufe](6) dein Kind zurück,
Ich habe genossen das irdische Glück,
Ich habe gelebt und geliebet!"
 「この心は死に、
 世の中はむなしい、
 そしてこれ以上世の中は
 望みをもはや何もかなえてくださらないのです、
 汝、聖母様、汝の子を召還してください、
 私はこの世の幸せを充分味わいました、
 私は生き、愛してきました。」

Es rinnet der Thränen
Vergeblicher Lauf,
Die Klage, sie wecket
Die Todten nicht auf,
Doch nenne, was tröstet und heilet die Brust
Nach der süßen Liebe [verschwundener](7) Lust,
Ich, die himmlische, wills nicht versagen.
 涙が
 むなしく流れつづける。
 嘆き、それが
 死者を目覚めさせることはない。
 だが、甘い愛の喜びが消えたあとに
 その胸を慰め、癒すものを挙げるがよい、
 天上にいる私はそれまで拒むつもりはない。

Laß rinnen der Thränen
Vergeblichen Lauf,
Es wecke die Klage
Den Todten nicht auf,
Das süßeste Glück für die [traurende](8) Brust,
Nach der schönen Liebe [verschwundener](7) Lust,
Sind der Liebe Schmerzen und Klagen.
 むなしく涙が
 流れるままにしてください。
 嘆いても
 死者が目覚めないようにしてください。
 悲しむ胸にとって、
 美しい愛の喜びが消えたあとの、最も甘い幸せは、
 愛の苦しみと嘆きなのです。

---

※註
(1) Schubert (D.191 and D.389): "braust"
(2) Schubert (D.6, first occurrence only): "ziehen"
(3) Schubert (D.191 and D.389): "sitzt"
(4) Schiller (editions from 1810), and Schubert: "vom"
(5) Schubert (D.6): "getrübt"
(6) Schubert (D.6): "ruf'"
(7) Schubert (D.191, second version only): "verschwund'ner"
(8) Schubert (D.191 and D.389): "trauernde"

---

詩:Friedrich Schiller (1759-1805)
音楽:Franz Peter Schubert (1797-1828)

-------------------

シューベルトは、シラーの詩によって多くの歌曲を書きましたが、いくつかの作品は同じテキストに異なる作曲を試みています。
この「乙女の嘆き」は、三十年戦争を題材にした「ヴァレンシュタイン(Wallenstein)」というシラーの作品の第2部第3幕第7場で、ヴァレンシュタインの娘テークラによって歌われる詩の最初の2節分とほぼ同じ内容とのことです。
岩波文庫から濱川祥枝氏の訳したものが出ているのですが(2003年)、その解説によると、詩が1798年に発表され、「ヴァレンシュタイン」は1798-1799年に書かれたようなので、すでに発表していた詩を、戯曲の中に取り入れたということになるのかもしれません。

シューベルトはこの詩に、14、15歳頃に最初に作曲し、さらに18歳の時に第2作を作り、その翌年には第3作を作曲します。
しかし、出版された第2作のみがとてもよく知られるようになり、リストもピアノ・ソロ用に編曲しているほどです。

第2作は2つの稿があり、出版された前奏付のものは2稿目です。
「ヴァレンシュタイン」の中では、テークラがギターを奏でつつ歌うというト書きがある為、シューベルトもそれを意識したのかもしれません(14、15歳頃の作曲では前奏がなく、いきなり歌が始まります)。

シューベルトが同じ詩からどのような解釈の変化を反映させたのか興味深い例だと思います。
お時間があれば、D 6からD 191、D 389の順番にお聞きになると、シューベルトの作曲の変遷が分かると思います。

同じ詩にツェルターとメンデルスゾーンが作曲した作品との比較も興味深いと思います。

●シラーの詩の朗読(Susanna Proskura)

--------

シューベルト作曲の3つの作品(作曲順)
グンドゥラ・ヤノヴィツ(S) & アーウィン・ゲイジ(P)
Gundula Janowitz(S) & Irwin Gage(P)
1977/78年録音

●第1作(D 6)(1811年または1812年作曲):通作形式

●第2作(D 191)(1815年5月15日作曲):有節形式

●第3作(D 389)(1816年3月作曲):有節形式 (ここでは全4節中、第1~2節のみが歌われています)

--------

●シューベルト作曲の第2作(D 191)に基づくフランツ・リスト(Franz Liszt)によるピアノ独奏用編曲版の演奏(Valentina Lisitsa)

--------

●ツェルター(Carl Friedrich Zelter: 1758-1832)作曲による作品(有節形式)
Duo con emozioneによる演奏
こちら
この動画は埋め込めないので、上記のリンク先からお聴き下さい。

--------

●メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn: 1809-1847)作曲による作品(第1~2節のみの通作形式。シラーの戯曲の箇所のみに作曲したということになります)
Andrea Folan(S) & Tom Beghin(fortepiano)

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