「ただ憧れを知る人だけが(Nur wer die Sehnsucht kennt)」のテキストによる様々な作曲家の作品を聴く

Nur wer die Sehnsucht kennt
Weiß, was ich leide!
Allein und abgetrennt
Von aller Freude
Seh ich an's Firmament
Nach jener Seite.
Ach, der mich liebt und kennt,
Ist in der Weite.
Es schwindelt mir, es brennt
Mein Eingeweide.
Nur wer die Sehnsucht kennt
Weiß, was ich leide!
 ただ憧れを知る人だけが
 私が何に苦しんでいるのか分かるのです!
 ひとり
 あらゆる喜びから引き離されて
 私は天空の
 あちら側に目をやります。
 ああ、私を愛し、知る方は
 遠方にいるのです。
 私は眩暈がして、
 はらわたがちくちく痛みます。
 ただ憧れを知る人だけが
 私が何に苦しんでいるのか分かるのです!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Mignon", written 1785, appears in Wilhelm Meisters Lehrjahre, first published 1795
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828)

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前回の記事は、「ただ憧れを知る人だけが」の詩によるシューベルトの歌曲のみを集めましたが、今回は様々な作曲家によるこのテキストによる作品を集めてみました。
シューベルトとチャイコフスキーの曲が最も知られていますが、他の作曲家(ライヒャルト、ツェルター、ベートーヴェン、ファニー・ヘンゼル・メンデルスゾーン、シューマン、ヴォルフ)の歌曲も比較してみると面白いと思います。

Johann Friedrich Reichardt: Sehnsucht

Kimberly Martinez(MS) & unidentified pianist

Carl Friedrich Zelter: Nur wer die Sehnsucht kennt, Z. 120-5

Bettina Pahn(S) & Tini Mathot(fortepiano)

Beethoven: Sehnsucht, WoO 134-1

Adele Stolte(S) & Walter Olbertz(P)

Beethoven: Sehnsucht, WoO 134-2

Adele Stolte(S) & Walter Olbertz(P)

Beethoven: Sehnsucht, WoO 134-3

Adele Stolte(S) & Walter Olbertz(P)

Beethoven: Sehnsucht, WoO 134-4

Adele Stolte(S) & Walter Olbertz(P)

Schubert: Lied der Mignon "Nur wer die Sehnsucht kennt", D 877-4

Matthias Goerne(BR) & Eric Schneider(P)

Fanny Mendelssohn-Hensel: Mignon

Dorothea Craxton(S) & Babette Dorn(P)

Schumann: Nur wer die Sehnsucht kennt, Op. 98a-3 (aus Lieder und Gesänge aus 'Wilhelm Meister')

Edith Mathis(S) & Christoph Eschenbach(P)

Wolf: Mignon II

Elly Ameling(S) & Rudolf Jansen(P)

Tchaikovsky: Nur wer die Sehnsucht kennt, Op. 6-6 (Russian)

Dmitri Hvorostovsky(BR) & Ivari Ilja(P)

Tchaikovsky: Nur wer die Sehnsucht kennt, Op. 6-6 (German)

Elisabeth Schwarzkopf(S) & Gerald Moore(P)

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シューベルトの「ただ憧れを知る人だけが(Nur wer die Sehnsucht kennt)」の6種類の曲を聞く

Nur wer die Sehnsucht kennt
Weiß, was ich leide!
Allein und abgetrennt
Von aller Freude
Seh ich an's Firmament
Nach jener Seite.
Ach, der mich liebt und kennt,
Ist in der Weite.
Es schwindelt mir, es brennt
Mein Eingeweide.
Nur wer die Sehnsucht kennt
Weiß, was ich leide!
 ただ憧れを知る人だけが
 私が何に苦しんでいるのか分かるのです!
 ひとり
 あらゆる喜びから引き離されて
 私は天空の
 あちら側に目をやります。
 ああ、私を愛し、知る方は
 遠方にいるのです。
 私は眩暈がして、
 はらわたがちくちく痛みます。
 ただ憧れを知る人だけが
 私が何に苦しんでいるのか分かるのです!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Mignon", written 1785, appears in Wilhelm Meisters Lehrjahre, first published 1795
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828)

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シューベルトは、ゲーテの詩による有名なミニョン(Mignon)の「ただ憧れを知る人だけが(Nur wer die Sehnsucht kennt)」に6回作曲しました(1回目のD 310は2つの稿があります)。
D 310の第1稿のみネット動画で見つけられませんでしたが、あのアーメリング(Elly Ameling)がグレアム・ジョンソン(Graham Johnson)とHyperionに2つの稿をまとめて録音していますので、ご興味のある方はそちらをお聞きください。
また、Naxosレーベルにはルート・ツィーザク(S)とウルリヒ・アイゼンローア(P)が、ミニョン関係のシューベルトの歌曲を1枚にまとめて録音していますので、そちらもシューベルトファンには興味深いと思います。
第1作~第3作、第6作は独唱とピアノ、第4作は無伴奏男声五部合唱、第5作はミニョン(女声)と竪琴弾き(男声)の二重唱とピアノという編成です。
最も有名なのは第6作ですが、ここに至るまでこれだけシューベルトが試行錯誤を繰り返してきたかが分かるとまた感慨深いものがあります。
もちろんさすがシューベルトだけあって、初期の作品からすでに非凡さが感じられ、聞く人によっては好みが分かれるかもしれませんね。

●第1作(第1稿、第2稿):「憧れ」D 310a, D 310b
Sehnsucht, D 310 (1815), published 1895 [voice, piano], first setting (2 versions)
Erste Fassung(第1稿) : 18 Oct. 1815, Sehr langsam, mit Ausdruck, 2/2, As-dur
Zweite Fassung(第2稿) : 18 Oct. 1815, Sehr langsam, mit höchstem Affekt, 2/2, F-dur, 第2稿の最後の行の追加 "der nur weiß, was ich leide!"

D 310b(第2稿) : Dorothee Jansen(S) & Francis Grier(P)

●第2作:「憧れ」D 359
Sehnsucht, D 359 (1816), published 1872 [voice, piano], second setting
1816, Mässig, 6/8, d-moll

Ruth Ziesak(S) & Ulrich Eisenlohr(P)

●第3作:「憧れ」D 481
Sehnsucht, D 481 (1816), published 1895 [voice, piano], third setting
Sep. 1816, Langsam, 2/4, a-moll

Arleen Auger(S) & Walter Olbertz(P)

●第4作:「憧れ」D 656
Sehnsucht, D 656 (1819), published 1867, first performed 1868 [vocal quintet for male voices], fourth setting
T I, T II, BS I, BS II, BS III, Apr. 1819, Langsam, 2/2, E-dur

Robert Shaw Chamber Singers & Robert Shaw(C)

●第5作:「ミニョンと竪琴弾き」D 877-1 (『ヴィルヘルム・マイスターからの歌曲』より)
Mignon und der Harfner, D 877 no. 1 (aus "Gesänge aus Wilhelm Meister, op. 62") (1826), published 1827 [vocal duet with piano], from Gesänge aus Wilhelm Meister, no. 1, fifth setting
Jan. 1826, Langsam, 4/4, h-moll

Victoria de los Angeles(S) & Dietrich Ficher-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

●第6作:「ミニョンの歌」D 877-4 (『ヴィルヘルム・マイスターからの歌曲』より)
Lied der Mignon, D 877 no. 4 (aus "Gesänge aus Wilhelm Meister, op. 62") (1826), published 1827 [voice, piano], from Gesänge aus Wilhelm Meister, no. 4, sixth setting
Jan. 1826, Langsam, 6/8, a-moll

Barbara Bonney(S) & Geoffrey Parsons(P)

◎おまけ:第6作(「ミニョンの歌」D 877-4)のピアノパート演奏
Lied der Mignon - KARAOKE / PIANO ACCOMPANIMENT - op.62 n.4 - Schubert

Héctor Valls(P)

◎朗読
Johann Wolfgang Goethe „Nur wer die Sehnsucht kennt" (1795)

Fritz Stavenhagen(Rezitation)

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ブラームス/「目隠し鬼ごっこ(Blinde Kuh, Op. 58-1)」を聴く

Blinde Kuh, Op. 58, No. 1
 目隠し鬼ごっこ

Im Finstern geh' ich suchen,
Mein Kind, wo steckst du wohl?
Ach, sie versteckt sich immer,
Daß ich verschmachten soll!
 暗闇の中、ぼくは探しに行こう、
 いとしい子よ、きみはどこに隠れているんだい?
 ああ、彼女はいつも隠れてしまうんだ、
 ぼくを苦しませようとしてね。

Im Finstern geh' ich suchen,
Mein Kind, wo steckst du wohl?
Ich, der den Ort nicht finde,
Ich irr' im Kreis umher!
 暗闇の中、ぼくは探しに行こう、
 いとしい子よ、きみはどこに隠れているんだい?
 ぼくは、居場所を見つけられずに、
 ぐるぐる回ってさまようのさ!

Wer um dich stirbt,
Der hat keine Ruh'!
Kindchen erbarm dich,
Und komm herzu!
Ja, komm herzu,
Herzu, herzu!
 きみを思って焦がれ死ぬ奴に
 安らぎはない!
 娘さん、憐れんでおくれ、
 こっちへ来てくれよ!
 そう、こっちへおいで、
 こっちへ、こっちへ!

詩:August Kopisch (1799-1853)
曲:Johannes Brahms (1833-1897)

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ブラームスは謹厳実直なイメージが付いていますが、歌曲においてとても親しみやすい作品も書いています。その一つがこの「目隠し鬼ごっこ」です。このコーピッシュのテキストでは、主人公の男の子が暗闇に隠れている好きな女の子に向けて、「どこにいるんだい、ここにおいで」と語りかけるという内容になっています。ピアノパートのせわしなく動く様がその様をうまく描写して微笑ましいですね。

目隠し鬼ごっこのかわいらしい映像がありましたので貼っておきます。
Wir spielen blinde Kuh(ぼくらは目隠し鬼ごっこをしているよ)


エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Geoffrey Parsons(P)

シュヴァルツコプフがDECCAの為に録音した最後のスタジオ録音より。この録音で初めてこの曲を聴いたので、思い出深いです。シュヴァルツコプフの「Komm herzu(おいで)」という表情の巧みさ、パーソンズの見事なまでの盛り上げ方等、大好きな録音です。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ダニエル・バレンボイム(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Daniel Barenboim(P)

F=ディースカウはさすがにうまいですね。巧者バレンボイムはノリノリですが、ブラームスなのでもう少しスタイリッシュな方が個人的には好みです。

レベッカ・シュテーア(S) & トビアス・ハルトリープ(P)
Rebekka Stöhr(S) & Tobias Hartlieb(P)

シュテーアの素直な歌いぶりは好感がもてます。ピアノのハルトリープはノンレガートで見事に描写しています。

ヘルムート・クレープス(T) & ジェルジ・シェベーク(P)
Helmut Krebs(T) & György Sebők(P)

クレープスの爽やかなテノールで聞くのもいいですね。シュタルケルやグリュミオーといった著名な弦楽器奏者の共演者として知られているシェベークが歌曲を演奏している貴重な録音で、とてもいい演奏です。

エリーザベト・シューマン(S) & レオ・ローゼネク(P)
Elisabeth Schumann(S) & Leo Rosenek(P)

往年の名ソプラノ、E.シューマンのチャーミングな語り口も魅力的です。

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ヴォルフ/「あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの(Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen)」を聴く

Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen
 あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの

Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen,
In der Maremmenebne einen andern,
Einen im schönen Hafen von Ancona,
Zum Vierten muß ich nach Viterbo wandern;
Ein andrer wohnt in Casentino dort,
Der nächste lebt mit mir am selben Ort,
Und wieder einen hab' ich in Magione,
Vier in La Fratta,zehn in Castiglione.
 あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの、
 マレンマの平野にも一人いるし、
 アンコーナの素敵な港にだって一人いるわ、
 四人目はヴィテルボまで行かなきゃなんないけどね。
 カセンティーノの方にはさらに一人いて、
 もう一人はあたしと同じ町にいるのよ。
 それでもって、マジョーネにもう一人いて、
 ラ・フラッタには四人、カスティリオーネには十人もいるんだから。

詩:Paul Heyse (1830-1914)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

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ヴォルフの46曲からなるパウル・ハイゼのテキストによる「イタリア歌曲集(Italienisches Liederbuch)」の最後の曲を取り上げたいと思います。
この歌曲集は男女の恋の駆け引きが1、2分、長くても4分ぐらいの短い歌の連なりで出来ています。
ヴォルフ自身の曲順で歌ってももちろん効果的ですが、演奏家自身でよりドラマティックな配列に直して歌うこともあります。
演奏家による順序の並べ替えを最初に提唱したのはおそらくオーストリアの歌曲ピアニストで教育者、批評家でもあったエリク・ヴェルバでしょう。
ヴェルバはヴォルフの伝記も著し、日本語訳も出版されているので、ヴォルフでの愛着ぶりがうかがえます。

さて、この「あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの」ですが、実は以前に藤井さん、甲斐さんが管理されていた「詩と音楽」(現在は藤井さんのみの管理)に「イタリア歌曲集」全曲について投稿したことがあり、この曲についても書かせていただいたので、そちらのリンクを貼っておきます。
よろしければご覧ください。

 こちら

私にはあちらこちらの町に恋人がいるからあなたなんか眼中にないのよと、目の前の彼氏を嫉妬させて喜ぶ女性の姿が目に浮かぶようです。
よくドン・ジョヴァンニの「カタログの歌」にたとえられますが、こちらの女性は自慢することよりも、彼氏を嫉妬させて、自分に振り向かせようという策略に感じられます。

歌手は早口で、畳みかけるように歌います。
ピアノのリズムに歌が入ることの難しさをジェラルド・ムーアは「ちょうどなわをとぶ女の子の顔に見受けられたような、迷い、躊躇、決意、当惑のいろいろな表情をよく発見する」(『歌手と伴奏者』(大島正泰訳、音楽之友社、1960年))と言っています。
実際、一流の歌手たちの録音を聴いていても、必ずしもヴォルフのリズム通りに歌っているとは限らず、本来の拍より前後していることが少なからず聞かれます。

ところで、この曲にはピアニストの腕の見せ所である華麗で技巧的なピアノ後奏が付けられています。
ムーアは前述の著書の中で「ソロモンやホロヴィッツでさえ、一生懸命練習しなくてはできないような、まるで巨匠のために書かれたようなパッセージである」と、その難しさを強調しています。
私の見た感じでは左手はほぼ同じ和音をおさえるだけなので、急速なパッセージはほぼ右手に偏っていて、ホロヴィッツなら難なく弾けそうに思いますが、演奏効果があることは確かです。
普段伴奏者は歌手の影に隠れて...という印象を持たれていた時代は、歌手にとってこのパッセージが邪魔だったらしく、ムーアも、この後奏を弾かずに、簡単な和音で終わらせてほしいと女声歌手に言われたことがあったそうです(もちろん実行しなかったそうですが)。

また、この曲は歌が終わった後で、待ちきれない聴衆が長いピアノ後奏を拍手でかき消してしまうことが多かったようで、ムーアが皮肉っぽく「三、四人の赤ん坊がブリキの太鼓を叩いてわめきながら母親を求めているところで練習したらよいと思う。...伴奏者を頑固にするには役立つかもしれない」と前述の著書に書いています。
その例を最初に映像で見てみたいと思います。

●エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Geoffrey Parsons(P)

1977年アムステルダム映像。ムーアが著書で言っていたことはこういうことかと分かる貴重な映像です。パーソンズが後奏を弾き始めると、すぐに大きな拍手が沸き起こり、シュヴァルツコプフがまだパーソンズが弾いている途中にもう終わったと勘違いするほど拍手にかき消されています。それでも高い技術で見事に最後まで演奏するパーソンズはやはり素晴らしいピアニストです。

それでは、1分に満たない短い作品ですが、華やかで演奏効果抜群のこの曲を聴き比べてみたいと思います。

●ドーン・アップショー(S) & ヘルムート・ドイチュ(P)
Dawn Upshaw(S) & Helmut Deutsch(P)

アップショーは美声で完璧に歌い、ドイチュは輝かしい後奏を聞かせ、最後の小節に向けて速度を速めるなど、高い技巧で聞き手を興奮させてくれます。

●エディト・マティス(S) & カール・エンゲル(P)
Edith Mathis(S) & Karl Engel(P)

マティスは硬質な美声を生かして、オペラの一場面のような表情の豊かさを聞かせます。エンゲルの最後の締めの和音をあえて軽めにすることでコミカルな味わいを出すことに成功しています。

●ジェラルディン・マクグリーヴィー(S) & ショルト・カイノク(P)
Geraldine McGreevy(S) & Sholto Kynoch(P)

英国系の演奏。マクグリーヴィーは楽譜通りに見事に歌っており、カイノクも完璧な演奏です。

●イルムガルト・ゼーフリート(S) & エリク・ヴェルバ(P)
Irmgard Seefried(S) & Erik Werba(P)

ゼーフリートはリズムも言葉さばきも見事です。ヴェルバは後奏で若干あやしい所もありますが、うまく辻褄を合わせて貫禄を見せています。

●エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェラルド・ムーア(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Gerald Moore(P)

シュヴァルツコプフはさすがの貫禄で見事な歌唱です。ムーアはこの曲の録音に関してはミスタッチが聞かれることがあるのですが、この時の後奏は調子が良かったようです。ただ、最後の三連符で畳みかける箇所はもっとキレが欲しいところです。

●エリー・アーメリング(S) & アーウィン・ゲイジ(P)
Elly Ameling(S) & Irwin Gage(P)

アーメリングは、wohnen(1行目), andern(2行目)の音価を旧盤(ボールドウィン共演のPHILIPS盤)同様に楽譜よりも長く伸ばしているので、あえてそうしているのかもしれません。ゲイジはペダルをたっぷり使って色合いのある後奏を聞かせています。

●ベニタ・ヴァレンテ(S) & リチャード・グッド(P)
Benita Valente(S) & Richard Goode(P)

ヴァレンテもアーメリングと同じ箇所で音価を伸ばしています。グッドは高い技術を思い切り見せつけて見事な後奏でした。

●ディアナ・ダムラウ(S) & ヘルムート・ドイチュ(P)
Diana Damrau(S) & Helmut Deutsch(P)

ライヴならではの熱気が感じられます。ダムラウは、wohnen(1行目)は楽譜通りですが、andern(2行目)は音価を伸ばしています。ライヴならではのハプニングかもしれません。ドイチュはアップショーとのスタジオ録音に比べると、安定を求めたのか、落ち着いた出来になっています。

●レジーヌ・クレスパン(S) & ジョン・ワストマン(P)
Régine Crespin(S) & John Wustman(P)

クレスパンもダムラウ同様wohnen(1行目)は楽譜通りですが、andern(2行目)は音価を伸ばしています。ワストマンはアメリカ人らしいスマートな表現とスピーディーな後奏が見事でした。

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ヴォルフ/受難週(Karwoche)

Karwoche
 受難週

O Woche, Zeugin heiliger Beschwerde!
Du stimmst so ernst zu dieser Frühlingswonne,
Du breitest im verjüngten Strahl der Sonne
Des Kreuzes Schatten auf die lichte Erde,
 おお、かの週よ、聖なる苦難の証人よ!
 あなたはこの春の喜びにとても真剣に適応している、
 太陽の若々しい光の中で
 十字架の影を明るい大地に広げ、

Und senkest schweigend deine Flöre nieder;
Der Frühling darf indessen immer keimen,
Das Veilchen duftet unter Blütenbäumen
Und alle Vöglein singen Jubellieder.
 そして、黙ってあなたのベールを下ろす。
 春はその間にもずっと新芽を生えさせて、
 すみれは花のついた木々の下で香りを放ち、
 そしてあらゆる小鳥たちが歓呼の歌を歌う。

O schweigt, ihr Vöglein auf den grünen Auen!
Es hallen rings die dumpfen Glockenklänge,
Die Engel singen leise Grabgesänge;
O still, ihr Vöglein hoch im Himmelblauen!
 おお黙るのだ、緑野の小鳥たち!
 あたりは鈍い鐘の響きが鳴りわたり、
 天使たちはそっと弔いの歌を歌う、
 おお静かに、青い空高くにいる小鳥たちよ!

Ihr Veilchen, kränzt heut keine Lockenhaare!
Euch pflückt mein frommes Kind zum dunklen Strausse,
Ihr wandert mit zum Muttergotteshause,
Da sollt ihr welken auf des Herrn Altare.
 すみれたちよ、今日は巻毛を花輪で飾ってはならない!
 わが敬虔な子は暗い色の花束を作ろうとおまえたちを摘むのだ、
 その花束は聖母の住処に持ち運ばれ、
 主の祭壇の上で枯れていくことになる。

Ach dort, von Trauermelodieen trunken,
Und süß betäubt von schweren Weihrauchdüften,
Sucht sie den Bräutigam in Todesgrüften,
Und Lieb' und Frühling, Alles ist versunken!
 あああそこでは、葬送の旋律に酔いしれ、
 よどんだ乳香の香りに甘くしびれ、
 地下の墓所で花婿を探し、
 愛と春、すべては沈潜している!

詩:Eduard Mörike (1804-1875)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

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クリスチャンの方々にはおそらく馴染みの深い受難週(聖週間)ですが、私のような非クリスチャンにとっては縁が薄く、いまいちどんなものかつかめないのですが、ヴォルフがメーリケの「受難週」というテキストに作曲しています。
このテキストは、聖と俗の共存が感じられ、牧師でありながら日向ぼっこをしていたという逸話をもつメーリケらしい情感のこもった詩だと思います。
ヴォルフは小鳥のさえずりをトリルで描写し、鈍い鐘の響きをバスの音で響かせるという描画的な個所と、心理的な表現をうまく結び合わせているように感じます。

歌曲の老舗サイト「詩と音楽」に甲斐貴也氏の素晴らしい解説がありますので、ぜひご覧ください。
 こちら

受難週について(Wikipedia)
 こちら

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

白井光子(MS) & Berlin Radio Symphony Orchestra & デイヴィッド・シャロン(C)
Mitsuko Shirai(MS) & Berlin Radio Symphony Orchestra & David Shallon(C)

受難週について(ドイツ語ですが、雰囲気を味わってみたいと思います)

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シューベルト「さすらい(Das Wandern)」(「美しい水車屋の娘」より)を聴く

Das Wandern, D 795-1 (aus "Die schöne Müllerin")
 さすらい(「美しい水車屋の娘」D795~第1曲)

Das Wandern ist des Müllers Lust,
Das Wandern!
[Das Wandern ist des Müllers Lust,]
[Das Wandern!]
Das muß ein schlechter Müller sein,
Dem niemals fiel das Wandern ein,
Das Wandern.
[Das Wandern.]
[Das Wandern.]
[Das Wandern.]
 さすらいは粉ひき職人の喜びだ、
 さすらいは!
 さすらいを思いつきもしないやつなんて
 駄目な粉ひき職人にちがいない、
 さすらいを。

Vom Wasser haben wir's gelernt,
Vom Wasser!
[Vom Wasser haben wir's gelernt,]
[Vom Wasser!]
Das hat nicht Rast bei Tag und Nacht,
Ist stets auf Wanderschaft bedacht,
Das Wasser.
[Das Wasser.]
[Das Wasser.]
[Das Wasser.]
 水からぼくらはそれを学んだんだ、
 水から!
 水は昼も夜も休むことなく、
 いつも旅することを考えている、
 水は。

Das sehn wir auch den Rädern ab,
Den Rädern!
[Das sehn wir auch den Rädern ab,]
[Den Rädern!]
Die gar nicht gerne stille stehn,
Die sich mein Tag nicht müde drehn,
Die Räder.
[Die Räder.]
[Die Räder.]
[Die Räder.]
 ぼくらは水車からも見習っている、
 水車からも!
 水車は全く止まろうとしないで、
 疲れることなく毎日回っているんだ、
 水車は。

Die Steine selbst, so schwer sie sind,
Die Steine!
[Die Steine selbst, so schwer sie sind,]
[Die Steine!]
Sie tanzen mit den muntern Reihn
Und wollen gar noch schneller sein,
Die Steine.
[Die Steine.]
[Die Steine.]
[Die Steine.]
 石臼からさえも見習うんだ、あんなに重いのに、
 石臼からも!
 石臼は元気に輪舞を踊り、
 徐々に速く進もうとさえする、
 石臼は。

O Wandern, Wandern, meine Lust,
O Wandern!
[O Wandern, Wandern, meine Lust,]
[O Wandern!]
Herr Meister und Frau Meisterin,
Laßt mich in Frieden weiterziehn
Und wandern.
[Und wandern.]
[Und wandern.]
[Und wandern.]
 おお、さすらい、さすらい、ぼくの喜び、
 おお、さすらいよ!
 親方様、奥様、
 安心してぼくを行かせてください、
 さすらいの旅に。

詩:Wilhelm Müller (1794-1827)
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828)

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シューベルトの20曲からなる歌曲集「美しい水車屋の娘」D795の冒頭の曲を聴き比べようと思います。
水車屋の修行の旅に出かけた青年が、ある水車屋で美しい娘に出会い、デートまでこぎつけるのですが、恋敵の狩人に奪われ、失意のうちに入水自殺するという切ない内容になっています。
オリジナルにはプロローグとエピローグがあり、さらにシューベルトが作曲しなかったテキストもいくつかあります。
それらを完全収録したのが、Hyperionのシューベルト歌曲全集のボストリッジ&グレアム・ジョンソンのCDで、作曲されなかった詩の朗読をあのフィッシャー=ディースカウが担当しています。
興味のある方はそちらもチェックしてみてはいかがでしょうか。

この第1曲「さすらい」の詩人ミュラーによる原題は"Wanderschaft(さすらい、旅などの意味)"だそうです。
全5節からなる有節歌曲で、民謡調の響きがテキストの趣を反映していると思います。
ジェラルド・ムーアが各節を描き分けることを提唱して以来、ピアノパートはムーアの演奏が手本になっている感があります。
下記のいくつかの録音でそれを確認できますが、一方で独自の解釈を聞かせるピアニストもいます。しかし、もちろんムーアを意識していることは確かと思われます。
この曲は高声によって魅力を放つと言われ、かのハンス・ホッターも全曲歌おうかと思ったが諦めたと語っています(「どこへ」など単独ではホッターも録音しています)。
女声ではロッテ・レーマンやブリギッテ・ファスベンダーなどの例はありますが、ほとんど歌われません。
「冬の旅」を多くの女声が挑戦するのとはやはり違うのでしょうね。

詩の朗読(Johannes Held)

フリッツ・ヴンダーリヒ(T) & フーベルト・ギーセン(P)
Fritz Wunderlich(T) & Hubert Giesen(P)

ヴンダーリヒのみずみずしい美声は比類ない独自のものでした。この歌曲集の持ち味とこれほどぴったりはまる歌い手もそうは多くないでしょう。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

1961年12月のEMI録音。速めのテンポで快適に進むディースカウとムーアの爽快な演奏が素晴らしいです。私はこのコンビの3種の中ではこの録音が一番好きです。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

1971年のDG録音。2人とも円熟期の余裕があり、かなり節ごとに表情を変えているのが興味深いです。

ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)

1980年代初頭の映像作品。プライはドイツ語のごつごつした響きをリズミカルに表現する一方で、各節の締めは柔らかい表情を聞かせて、まさに1曲で多彩な表現を聞かせています。ホカンソンも温かみのある演奏です。

オーラフ・ベーア(BR) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Olaf Bär(BR) & Geoffrey Parsons(P)

ベーアが彗星のごとく現れて知られるようになった録音です。若々しくみずみずしいハイバリトンがなんとも魅力的です。そしてパーソンズのかっちりした見事なピアノにいつもながら聞きほれてしまいます。

ピーター・ピアーズ(T) & ベンジャミン・ブリテン(P)
Peter Pears(T) & Benjamin Britten(P)

演奏の映像です。公私ともに良きパートナーだったピアーズ&ブリテンの貴重な記録です。ピアーズは生き生きと明瞭に歌い、ブリテンはノンレガートを貫きながらもペダルを時に使って表情を描き分けています。

クリスティアン・ゲルハーエル(BR) & ゲロルト・フーバー(P)
Christian Gerhaher(BR) & Gerold Huber(P)

2003年録音。まだ彼らが無名に近かった頃の録音。ゲルハーエルのハイバリトンの美声は魅力的で将来の大成を予感させます。フーバーも細かく表情を描いています。

フローリアン・ベッシュ(BR) & マルコム・マーティノー(P)
Florian Boesch(BR) & Malcom Martineau(P)

2013年録音。ベッシュの声は柔らかくて、押しつけがましくないです。マーティノーも控えめですが、ノンレガート主体で演奏し表情はこまやかです。

ヨナス・カウフマン(T) & ヘルムート・ドイチュ(P)
Jonas Kaufmann(T) & Helmut Deutsch(P)

2018年1月20日, Carnegie Hall録音。演奏の映像を見ることが出来ます。暗めの声質をもったテノールのカウフマンですが、歌声の表情は明朗そのものです。ドイチュもノンレガート主体で、第4節も特に石臼の重みを強調していないところに彼の主張が感じられます。

イアン・ボストリッジ(T) & 内田光子(P)
Ian Bostridge(T) & Mitsuko Uchida(P)

2004年3月サントリーホールでの映像。全曲の録画なので、第1曲のみを聴く場合は3:00あたりで動画を止めてください。ボストリッジの美声とシューベルティアン、内田の絶妙な演奏。魅力的です。

フランシスコ・アライサ(T) & アーウィン・ゲイジ(P)
Francisco Araiza(T) & Irwin Gage(P)

1980年代はFMラジオでアライサのライヴが沢山放送されました。アライサはドイツ人のようには演奏しないと言い切っていました。確かにラテンの熱い美声なのですが、土台がしっかりしているせいか違和感はありません。ゲイジはとてもゆっくりめのテンポですが、丁寧な演奏です。

クリストフ・プレガルディアン(T) & ミヒャエル・ゲース(P)
Christoph Prégardien(T) & Michael Gees(P)

演奏の映像です。プレガルディアンは歌声部に時折装飾を加えているのが興味深いです。ゲースのペダリングとタッチは個性的ながら魅了されます。

ペーター・シュライアー(T) & コンラート・ラゴスニク(Guitar)
Peter Schreier(T) & Konrad Ragossnig(Guitar)

シュライアーは1980年にハンマークラヴィーア版、ギター版、シューベルトの親友フォーグルによる変更を反映した楽譜によるピアノ版、といった3種類の水車屋を録音しました。このギターとの共演では、起伏を抑えて、しっとりと美しいメロディーを歌っています。

フランツ・リストによるピアノ独奏編曲版の演奏(Franz Liszt - Müllerlieder von Franz Schubert, G 350/1, S. 565 (1846))
セルゲイ・ラフマニノフ(P)
Sergei Rachmaninoff(P)

1925年4月14日録音。リスト編曲の独奏版を、あの大作曲家で大ピアニストのラフマニノフが演奏しています。ラフマニノフは美しい歌曲を多く作曲していることでも知られていますね。

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シューベルト「愛のことづて(Liebesbotschaft, D 957-1)」を聴く

Liebesbotschaft, D 957-1
 愛のことづて

Rauschendes Bächlein,
So silbern und hell,
Eilst zur Geliebten
So munter und schnell?
Ach, trautes Bächlein,
Mein Bote sei Du;
Bringe die Grüße
Des Fernen ihr zu.
 さらさら流れる
 銀色の明るい小川よ、
 恋人のもとに急いでいるのか、
 そんなに元気よく速く流れて?
 ああ、いとしい小川よ、
 ぼくの使者になって、
 はるか離れた者からの挨拶を
 彼女に届けておくれ。

All' ihre Blumen
Im Garten gepflegt,
Die sie so lieblich
Am Busen trägt,
Und ihre Rosen
In purpurner Glut,
Bächlein, erquicke
Mit kühlender Flut.
 庭で手入れをしていた
 彼女の花々をみな
 こんなにも愛らしく彼女は
 胸に飾っている、
 そして彼女の薔薇は
 深紅に燃えている。
 小川よ、
 冷たい水で爽快にさせてあげておくれ。

Wenn sie am Ufer,
In Träume versenkt,
Meiner gedenkend
Das Köpfchen hängt;
Tröste die Süße
Mit freundlichem Blick,
Denn der Geliebte
Kehrt bald zurück.
 彼女が岸辺で
 夢に沈みこみ
 ぼくのことを思って
 ふさぎこんでいたら
 このかわいい子を
 やさしい眼差しで慰めておくれ。
 なぜならあの子の好きな人は
 もうすぐ帰ってくるのだから。

Neigt sich die Sonne
Mit rötlichem Schein,
Wiege das Liebchen
In Schlummer ein.
Rausche sie murmelnd
In süße Ruh,
Flüstre ihr Träume
Der Liebe zu.
 太陽が
 赤く輝きながら傾いていくとき、
 恋人を
 ゆすって眠らせておくれ。
 せせらぎの音で
 甘い憩いにつかせておくれ。
 彼女に
 愛の夢をささやいておくれ。

詩:Ludwig Rellstab (1799-1860)
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828)

--------

歌曲集「白鳥の歌」の第1番目に置かれた歌曲が「愛のことづて(愛の便り)」です。
この歌曲集は最初の7曲がレルシュタープの詩、次の6曲がハイネの詩、そして最後の1曲がザイドルに詩による歌曲集です。
これらを「白鳥の歌」としてまとめたのは、シューベルトの意思ではなく、出版者ハスリンガーによるものです。
シューベルトの亡くなる年である1828年に作られました。

さらさら流れる小川に遠く離れた恋人への言伝を頼むというなんともロマンティックな内容のテキストに、シューベルトらしい爽やかな音楽が付けられています。亡くなる年の作品とは思えないほど明るく若々しい息吹に満ちた美しい作品です。

最初の節と最終節は詩行とピアノのみの箇所が交互に現れ、詩人と小川が対話をしているような効果をあげています。

詩の朗読(Susanna Proskura)

詩の朗読を聞くと、脚韻なども音として感じることが出来るのではないでしょうか。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

F=ディースカウのテノラールな美声とムーアの安心感のあるピアノで、大好きな録音です。

ハンス・ホッター(BSBR) & ジェラルド・ムーア(P)
Hans Hotter(BSBR) & Gerald Moore(P)

1954年5月28-30日, London録音。ホッターの深く温かい声がとても魅力的です。低く移調してもせせらぎを見事に表現したムーアが素晴らしいです。

ヘルマン・プライ(BR) & レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR) & Leonard Hokanson(P)

1980年代の円熟期の含蓄に富んだプライの映像を味わえます。ホカンソンも温かい演奏です。

ナタリー・ストゥッツマン(CA), インゲル・セーデルグレン(P)
Nathalie Stutzmann(CA), Inger Södergren(P)

2006年東京録画。落ち着いたストゥッツマンのコントラルトの声が心地よい響きを聞かせています。

マティアス・ゲルネ(BR) & クリストフ・エッシェンバハ(P)
Matthias Goerne(BR) & Christoph Eschenbach(P)

2012年録音。落ち着いたふかふかのカーペットのようなゲルネの声に包まれるのもいいです。

松原友(T) & 小林道夫(P)
Tomo Matsubara(T) & Michio Kobayashi(P)

日本の歌曲伴奏の巨匠といってもいい小林道夫氏が演奏している姿を見られます。無駄のないスタイリッシュな演奏が相変わらず素晴らしいです。松原さんの歌もさわやかです。

ピアノパートのみ(Anna Cardona(P))

ピアノ伴奏のみです(良い演奏です)。楽譜が一緒に流れるので、動画を見ながら歌えます。

リスト編曲のピアノ独奏版(ヴラジーミル・ホロヴィッツ(Vladimir Horowitz)(P))

1929年録音。あのホロヴィッツが、リストの歌曲編曲版を弾いています。

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ヴォルフ「こうのとりの使い(Storchenbotschaft)」を聴く

Storchenbotschaft
 こうのとりの使い

Des Schäfers sein Haus und das steht auf zwei Rad,
Steht hoch auf der Heiden, so frühe, wie spat;
Und wenn nur ein mancher so'n Nachtquartier hätt'!
Ein Schäfer tauscht nicht mit dem König sein Bett.
 羊飼いの家は2つの車輪の上、
 朝も夜も荒地の高みにある。
 多くの人がそんな宿があったらなぁ!と憧れる。
 羊飼いは王様とさえ自分の寝床を交換しないだろう。

Und käm' ihm zur Nacht auch was Seltsames vor,
Er betet sein Sprüchel und legt sich aufs Ohr;
Ein Geistlein, ein Hexlein, so luftige Wicht',
Sie klopfen ihm wohl, doch er antwortet nicht.
 夜に何か不思議なことが起こっても
 彼はおまじないを唱えて横になってしまう。
 幽霊やら魔女やら風の妖精やらが
 音を立てても、彼は返事などしない。

Einmal doch, da ward es ihm wirklich zu bunt:
Es knopert am Laden, es winselt der Hund;
Nun ziehet mein Schäfer den Riegel - ei schau!
Da stehen zwei Störche, der Mann und die Frau.
 だが以前に、本当にあまりにも騒がしいことがあった、
 よろい戸はがりがり音を立て、犬はクンクン泣く。
 そこで羊飼いがかんぬきをあけると-おや、ごらんよ!
 そこには二羽のこうのとりが番(つがい)で立っている。

Das Pärchen, es machet ein schön Kompliment,
Es möchte gern reden, ach, wenn es nur könnt'!
Was will mir das Ziefer? ist so was erhört?
Doch ist mir wohl fröhliche Botschaft beschert.
 そのカップルは、きちんとおじぎをする、
 何か言いたそうだ、ああ、彼らが話せたらなぁ!
 飼い鳥さんたちがわしに何の用だい?何か聞いて欲しいのか?
 だがどうやらうれしい知らせをもってきたようだぞ。

Ihr seid wohl dahinten zu Hause am Rhein?
Ihr habt wohl mein Mädel gebissen ins Bein?
Nun weinet das Kind und die Mutter noch mehr,
Sie wünschet den Herzallerliebsten sich her?
 君たちはライン下流の家にいたのかい?
 わしの愛する人の足をつついて彼女に子供が産まれたというのか?
 それでその子供が泣いて、母親はもっと泣き、
 愛しいあるじに戻ってきてほしいというんだね?

Und wünschet daneben die Taufe bestellt:
Ein Lämmlein, ein Würstlein, ein Beutelein Geld?
So sagt nur, ich käm' in zwei Tag' oder drei,
Und grüßt mir mein Bübel und rührt ihm den Brei!
 それに加えて洗礼をするのに、
 子羊に、ソーセージに、袋いっぱいのお金が要るんだね?
 それならこう伝えておくれ、わしは二、三日後には戻るから、
 赤ん坊によろしく言って、おかゆをかきまぜてやっておくれ!

Doch halt! warum stellt ihr zu zweien euch ein?
Es werden doch, hoff' ich, nicht Zwillinge sein? -
Da klappern die Störche im lustigsten Ton,
Sie nicken und knicksen und fliegen davon.
 だが待てよ!なぜ君たちは二羽で来たんだ?
 それって、まさか、双子ってことじゃないのか?
 するとこうのとりたちは陽気な音をたてて羽ばたきし、
 うなずき、おじぎをして、飛んで行った。

詩:Eduard Mörike (1804-1875)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

-----------------

ヴォルフの歌曲集「メーリケの詩(Gedichte von Mörike)」の第48番目に置かれた歌曲です。
1888年3月27日作曲。

以前の記事でこのテキストを取り上げたことがあります。

 こちら

「こうのとりが赤ん坊を運んでくる」という伝説は日本でも広く知られていますが、実は世界各地に同様の伝説があるようです。

そのあたりを詳しくまとめておられるのが下記のリンク先です。
とても分かりやすく書かれているので、ぜひご覧ください。

 こちら

私はヴォルフを聞き始めた頃からこの曲が徐々に好きになり、ついにはピアノパートを一生懸命自己流で練習するほど熱中したことを懐かしく思い出します(後奏が華やかで魅力的なんですよね)。
今回はこの曲の聞き比べをしてみたいと思います。

まずは、こうのとりの姿からご覧ください。

エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェラルド・ムーア(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Gerald Moore(P)

1951年録音。シュヴァルツコプフの声がまだ若々しく、少し硬さも感じられるのがういういしいです。

エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Elisabeth Schwarzkopf(S) & Geoffrey Parsons(P)

1970年代後半のDECCAに録音された彼女最後のスタジオ録音。私がこの曲をはじめて聞いたのもこの録音でした。語りの含蓄の深さは他の追随を許さない域に達しています。パーソンズの雄弁なピアノも素晴らしいです。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ダニエル・バレンボイム(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Daniel Barenboim(P)

1974年録音。F=ディースカウの語りは冴え渡り、言葉が明瞭に伝わってきます。バレンボイムは巧みな演出を聞かせています。

オーラフ・ベーア(BR) & ジェフリー・パーソンズ(P)
Olaf Bär(BR) & Geoffrey Parsons(P)

1986年録音。ベーアのディクションの美しさと柔らかい美声が魅力的です。パーソンズの完璧な描写もいつもながら見事です。

ヴェルナー・ギューラ(T) & ヤン・シュルツ(P)
Werner Güra(T) & Jan Schultz(P)

2005年録音。ギューラの澄んだテノールの声で聴くのも清々しくていいです。シュルツのピアノもうまいです。

ディアナ・ダムラウ(S) & シュテファン・マティアス・ラーデマン(P)
Diana Damrau(S) & Stephan Matthias Lademann(P)

2005年ザルツブルク音楽祭ライヴ録音。ダムラウはためをたっぷり使い、オペラの一場面のような雰囲気を作り上げています。

ペーター・シュライアー(T) & カール・エンゲル(P)
Peter Schreier(T) & Karl Engel(P)

シュライアーは演奏生活のかなり遅くなってからメーリケ歌曲集を録音しました。これはその中の1曲ですが、いつもながら言葉さばきが巧緻で見事です。エンゲルのサポートも見事です。

フリッツ・ヴンダーリヒ(T) (ピアニストはギーセン、シュタインハルト、シュタインバッハーのうちの誰かなのですが、分かったら記載します)
Fritz Wunderlich(T)

ヴンダーリヒの自宅でのプライベート録音を集めたCDに収録されたもの。彼のスタジオ録音のレパートリーにはなく珍しい音源です。

トーマス・メリオランツァ(BR) & ウチダ・レイコ(P)
Thomas Meglioranza(BR) & Reiko Uchida(P)

演奏しているところを見ることが出来ます。歌もピアノも活気と安定感があって、とても魅力的な演奏だと思います。

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ベートーヴェン「マーモット(Marmotte, Op. 52, No. 7)」を聴く

Marmotte, Op. 52, No. 7
 マーモット

Ich komme schon durch manche Land',
Avecque la marmotte,
Und immer was zu essen fand
Avecque la marmotte,
Avecque si, avecque la,
Avecque la marmotte.
 僕はすでにいろんな国を巡って来ました、
 マーモットと一緒に。
 そしていつでも食べる物は見つけてきました、
 マーモットと一緒に。
 こちらへ一緒、あちらへ一緒、
 マーモットと一緒に。

Ich hab' gesehn gar manchen Herrn,
Avecque la marmotte,
Der hätt die Jungfern gar zu gern,
Avecque la marmotte,
Avecque si, avecque la,
Avecque la marmotte.
 僕は何人もの紳士を見てきました、
 マーモットと一緒に、
 その殿方たちは若い娘が大好きでした、
 マーモットと一緒に。
 こちらへ一緒、あちらへ一緒、
 マーモットと一緒に。

Hab' auch gesehn die Jungfer schön,
Avecque la marmotte,
Die täte nach mir Kleinem sehn,
Avecque la marmotte,
Avecque si, avecque la,
Avecque la marmotte.
 僕は美しい娘さんも見ました、
 マーモットと一緒に。
 彼女は幼い僕に視線を送ったものでした、
 マーモットと一緒に。
 こちらへ一緒、あちらへ一緒、
 マーモットと一緒に。

Nun laßt mich nicht so gehn, ihr Herrn,
Avecque la marmotte,
Die Burschen essen und trinken gern,
Avecque la marmotte,
Avecque si, avecque la,
Avecque la marmotte.
 さあ僕をこのまま行かせないでください、紳士の皆様、
 マーモットと一緒に。
 若者は食ったり飲んだりが大好きなのです、
 マーモットと一緒に。
 こちらへ一緒、あちらへ一緒、
 マーモットと一緒に。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

--------------

ベートーヴェンの有名なゲーテ歌曲"Marmotte"のことを私はつい最近まで誤解していました。
"Marmotte"という単語を見て、辞書を確認することもせずに「モルモット」のことだと早合点していたのです。
実は、この"Marmotte"というのは、実験の動物としてイメージされる小さなモルモット(テンジクネズミ)とは全く別種の「マーモット」という動物だったのです。

La Marmotte - Documentaire Animalier

Wikipediaによると、「フランスサヴォワ地方ではアルプスマーモットに芸をしこんで旅をする風習がある。ゲーテがそうした旅芸人を題材とした詩をつくり、さらにルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンがゲーテの詩に曲をつけた歌曲「マーモット(旅芸人)」がある」とのことです。詩の各節第1,3行のみドイツ語で、他の行はフランス語なのも、そういう背景を反映しているのでしょう。

 こちら

私が幼かった頃に「山ねずみロッキーチャック」というアニメが放送されていて、そのキャラクターの描かれたコップを使っていたのを覚えているのですが、その主人公がマーモットだったようです。

ベートーヴェンが作曲したのは、ゲーテの「Das Jahrmarktsfest zu Plundersweilern」という芝居の中のテキストですが、ベートーヴェンは最初の6行しか記していないようです。
第1節しか歌わない歌手が多いのはそのためと思われます。
しかし、あまりにも短い為、有節歌曲として4節歌われることもあります。

なんとも言えない哀愁の漂う小品で、動画サイトで検索してみると分かると思いますが、ピアノ独奏や他の楽器にアレンジして演奏されることが非常に多いようです。
もともとピアノパートの右手は歌のパートをなぞったものなので、歌手がいなくても演奏は可能なわけです。

ちなみに、この作品、日本でも訳詞を付けて古くから歌われていたようで、ネット上でも様々な方が記事にしていました。
中でも「Beat!-Beet!-Beethoven!」というブログの記事はとても詳細な考察があり、勉強になりました。
ぜひご覧ください。

 こちら

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ハルトムート・ヘル(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Hartmut Höll(P)

全4節歌っています。80年代の録音で、肩の力の抜けた自然なディースカウの歌声が味わえます。

ヘルマン・プライ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Hermann Prey(BR) & Gerald Moore(P)

1961年録音。第1節のみの歌唱。若き日の美声でしっとりと歌っています。

ペーター・シュライアー(T) & ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T) & Walter Olbertz(P)

第1節のみの歌唱。ゆっくり目のテンポで哀愁たっぷりに歌うシュライアーも魅力的です。

マックス・ファン・エフモント(BR) & ヴィルヘルム・クルムバハ(Hammerfluegel)
Max van Egmond(BR) & Wilhelm Krumbach(Hammerfluegel)

第1節のみの歌唱。ハンマーフリューゲルの鄙びた響きが素敵な味わいを醸し出しています。オランダ人歌手のエフモントもとても良いです。

Das Jahrmarktsfest zu Plundersweilern

「マーモット」の詩が含まれたゲーテの芝居の上演紹介。すべての役を一人で演じるという2008年ケルンでの上演。

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シューベルト「収穫の歌(Erntelied, D434)」を聴く

Erntelied, D434
 収穫の歌

Sicheln schallen,
Ähren fallen
Unter Sichelschall;
Auf den Mädchenhüten
Zittern blaue Blüten,
Freud' ist überall.
[Freud' ist überall.]
 鎌で刈る音が鳴り、
 穂が落ちる、
 鎌の音とともに。
 娘たちの帽子の
 青い花飾りは震え、
 喜びはいたるところにある。

Sicheln klingen,
Mädchen singen
Unter Sichelklang,
Bis, vom Mond beschimmert,
Rings die Stoppel flimmert,
Tönt der Erntesang.
[Tönt der Erntesang.]
 鎌で刈る音が響き、
 娘たちは歌う、
 鎌の響きとともに。
 月に照らされて、
 周囲に切り株がきらめくまで、
 収穫の歌は響き続ける。

Alles springet,
Alles singet,
Was nur lallen kann.
Bei dem Erntemahle
Ißt aus einer Schale
Knecht und Bauersmann.
[Knecht und Bauersmann.]
 皆飛び跳ね、
 皆歌う、
 ろれつの回らぬまま話せることを。
 収穫時の食事では、
 一枚の深皿から食べるのだ、
 使用人も農夫も。

Jeder scherzet,
Jeder herzet
Dann sein Liebelein.
Nach geleerten Kannen
Gehen sie von dannen,
Singen und juchhei'n!
[Singen und juchhei'n!]
 それから誰もがふざけ、
 誰もが抱き合う、
 それぞれの恋人と。
 ジョッキを飲み干すと
 彼らはそこから帰り、
 歌ったり、歓声を挙げたりするのだ!

詩:Ludwig Heinrich Christoph Hölty (1748.12.21, Mariensee - 1776.9.1, Mariensee)
曲:Franz Peter Schubert (1797.1.31, Himmelpfortgrund - 1828.11.19, Wien)

--------------------------------

以前にこの曲について投稿した記事がありますので、よろしければ以下のリンク先からご覧ください。
 こちら

秋といえば収穫の季節です。
そんなわけで、今回聞き比べるのは、シューベルトの「収穫の歌」です。
ヘルティの4つの節からなる有節歌曲です。
スタッカートのピアノパートがうきうきした気分や無骨なダンスを想起させます。
歌は各節の最終行を繰り返します。

この曲は、私がクラシック音楽を聴き始めてまだ間もない頃に、シュヴァルツコプフがEMIに録音したシューベルト歌曲を2枚組にまとめたLPを買って、その中に収録されていたのがはじめての出会いです。
ピアノはG.パーソンズで、他の歌曲と若干毛色の違う親しみやすい曲だったので、すぐに気に入ったのを覚えています。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

1970年録音。1,2,4節歌唱。歯切れのよいF=ディースカウの歌唱と、温かみのあるタッチのムーアの演奏がとてもチャーミングです。

●アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS) & ベングト・フォシュベリ(P)
Anne Sofie von Otter(MS) & Bengt Forsberg(P)

1996年録音。全4節歌唱。オッターの歌は威勢よく、明るく、理想的な歌唱と言えるでしょう。フォシュベリも雄弁です。

●マティアス・ゲルネ(BR) & アレクサンダー・シュマルツ(P)
Matthias Goerne(BR) & Alexander Schmalcz(P)

2009年録音。全4節歌唱。ゲルネは快活な歌を歌っている時でも真面目な感じが残っているのが面白いです。シュマルツは美しいタッチで演奏しています。

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