2025年に旅立った歌曲演奏家たち(歌曲が活動の中心ではない演奏家も含む)
エディト・マティス (Edith Mathis: 1938.2.11 - 2025.2.9)
スイスのソプラノ歌手。行年86歳。オペラ、宗教曲、歌曲とオールマイティに活動しました。1963年のベルリンドイツオペラ来日時のケルビーノ役は多くのファンを作ったようです。最初の夫だった指揮者ベルンハルト・クレーとの離婚後、美術品収集家のHeinz Sluneckoと結婚生活を営んでいたそうです。歌曲では、ヘルマン・プライと分担したモーツァルト歌曲全集(クレーのピアノ)、シューマンの女声用歌曲集(クリストフ・エッシェンバッハのピアノ)、カール・エンゲルとのモーツァルト&シューベルト、ジェラール・ヴィスとのシューマン、ブラームス、ヴォルフ、シュトラウス、それにDGレーベル・ブラームス重唱曲全集への参加(カール・エンゲルのピアノ他)、ハイペリオン・シューベルト・エディションへの参加(グレアム・ジョンソンのピアノ)、レーヴェ歌曲全集への参加(コルト・ガルベンのピアノ)などがあります。ヴォルフ「イタリア歌曲集」はレコードアカデミー賞の声楽曲部門を受賞したにもかかわらず、未だに抜粋でしか復活していないのは残念です。いつか全曲復活されることを願っています。清楚で芯の強さもあり、ディクションは完璧なうえ、会場で聞くと声量もあって、まさに理想的な歌曲歌手だっただけに逝去の報はショックでした。
amazon (Deutsche Grammophonに録音したエディト・マティスの歌唱が聞けます。シューマン歌曲はおそらくオリジナルのLP3枚分の全曲が収録されています。モーツァルト歌曲、ヴォルフ「イタリア歌曲集」は抜粋なのが残念)
ペーター・ザイフェルト (Peter Seiffert: 1954.1.4 - 2025.4.14)
ドイツのテノール歌手。行年71歳。ルチア・ポップの元夫。オペラが活動の中心で、歌曲を歌うイメージはほとんどありませんが、二度目の奥さんのペトラ=マリア・シュニッツァー(Petra-Maria Schnitzer)とOrfeoにシューマン夫妻の歌曲&二重唱曲集の録音を残しています。ピアノはチャールズ・スペンサー(Charles Spencer)。2001年11月20-21,27-28日&2002年4月30日ミュンヒェン録音。素敵な録音です。
amazon (ペトラ=マリア・シュニッツァー(S)、チャールズ・スペンサー(P)とのシューマン夫妻の歌曲&二重唱曲集)
アルフレート・ブレンデル (Alfred Brendel: 1931.1.5 - 2025.6.17)
チェコ出身のオーストリアのピアニスト。行年94歳。モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、リストなど幅広いレパートリーを誇るピアニスト。研究・執筆活動にも長けていました。歌曲の演奏はブレンデルの広範な活動のごく一部に過ぎませんが、プライ、ヴェヒター、F=ディースカウ、ゲルネらと共演しています。個人的には、1980年代前半のF=ディースカウとの「白鳥の歌」「シューベルト歌曲集」の録音が懐かしく思い出されます。その少し後ぐらいからPhilipsにシューベルトのピアノソナタを続々と録音していて、発売されたものを聞くのが楽しみだった記憶があります。シューベルトのソナタ21番1楽章のリピートを繰り返さないことで議論を呼んでいましたが、リピートすればさらに長大になるし、リピートを省くと1番括弧のパッセージが演奏されないままになってしまうので、難しい問題ですね。でも学究肌のブレンデルがパッセージを省略する形での演奏を常に行っていたというのがなかなか興味深いと思いました。
amazon (ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウとのシューベルト「白鳥の歌」全曲)
ジークムント・ニムスゲルン (Siegmund Nimsgern: 1940.1.14 - 2025.9.14)
ドイツのバスバリトン歌手。行年85歳。私はアーメリング&コレギウム・アウレウムとのバッハ「コーヒー・カンタータ」「農民カンタータ」の録音でニムスゲルンの名前を知りました。朴訥とした味わいのある歌手という印象でした。ヴァーグナーなどオペラを中心に活躍。現代作曲家の作品紹介にも積極的で、ハンス・ゲオルク・プフリューガー(Hans Georg Pflüger)の作品の録音も残しています。
amazon (シューベルト「冬の旅」。ピアノはハンス・ゲオルク・プフリューガー)
ベルンハルト・クレー (Bernhard Klee: 1936.4.19 - 2025.10.10)
ドイツの指揮者、ピアニスト。行年89歳。ソプラノ歌手エディト・マティスの最初の夫。ピアニストとしては、マティス、ヘルマン・プライと共にDeutsche Grammophonに最初のモーツァルト歌曲全集を録音しました。1974年11月のマティスの来日公演ではピアニストとしてモーツァルト、メンデルスゾーン、ヴェーベルン、ブラームスの歌曲を演奏しました。
amazon (120-124トラックの5曲のみマティスとのモーツァルト歌曲での共演が聴けます)
ロバータ・アレクザンダー (Roberta Alexander: 1949.3.3 – 2025.10.14)
アメリカ出身のソプラノ歌手。行年76歳。Etceteraレーベルなどに歌曲の録音を多く残しています。ドイツリートなどだけでなく、故郷アメリカの作品もとりあげています(アイヴズやコープランドの「エミリー・ディキンソン歌曲集」など)。指揮者として著名なバーンスタインが歌曲を作曲していることを知ったのはアレクザンダーのCDを通じてでした。
amazon (レナード・バーンスタイン作曲の歌曲集。ピアノはタン・クローネ(Tan Crone))
ベニタ・ヴァレンテ (Benita Valente: 1934.10.19 – 2025.10.24)
アメリカ出身のソプラノ歌手。行年91歳。確かクラシック演奏家の絵を描く仕事をされていた砂川しげひさ氏の文章でルドルフ・ゼルキンとの「岩の上の羊飼い」の録音に触れられていたのが彼女の名前を知った最初のきっかけだったと思います。他のアメリカ人ソプラノ歌手同様、彼女もまた澄み切った美声で伸びやかに歌うという印象を受けました。
amazon (ブラームス「愛の歌、ワルツ」;シューベルト「岩の上の羊飼い」。ピアノはルドルフ・ゼルキン、レオン・フライシャー(ブラームス))
バリトン歌手のトーマス・ヨハネス・マイヤー(Thomas Johannes Mayer)が新国立劇場の「ヴォツェック」の11月公演のうち最初の2公演ほど出演した後健康上の理由で降板し、カバー歌手の駒田敏章氏が残りの公演を引き継いだことがニュースになっていましたが、そのマイヤー氏が12月15日に56歳でお亡くなりになったそうです。2009年11月のアンドレアス・クリーゲンブルク演出での「ヴォツェック」は私も会場でマイヤーのタイトルロールを聞いていたので、驚きました。きっとご本人はさぞかし無念だったことと思います。
かなり前にリサイタルを聞いた藤井一興氏の逝去も驚きました。懐かしい名前ではコントラバスのゲーリー・カーも亡くなられたそうです。
歌曲演奏家以外にも多くの演奏家、作曲家がお亡くなりになりました。旅立たれた皆様、安らかにお休みくださいますよう祈っております。


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