フリッツ・ヴンダーリヒ(Fritz Wunderlich)、ドイツ・リートを歌う 1955~1965年 (CD)

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早世した往年の名テノール、フリッツ・ヴンダーリヒ(Fritz Wunderlich)がSWR放送曲に録音した歌曲を集めた3枚組のCDが発売されるようです。
HMVの情報で2018年10月16日発売とのことで、まだamazonにも掲載されていないので、少し先なのですが、3枚たっぷりヴンダーリヒのドイツ・リートを聞けるというのは嬉しいです。

 こちら

詳細は上記のサイトにありますが、簡単に記しておきます。

●CD1

1955年11月録音:ブラームス民謡集&ヴォルフ「イタリア歌曲集」より:ヨーゼフ・ミュラー=マイエン(P)

1962年11月録音:ヴォルフ、ベートーヴェン、シューベルト、R.シュトラウス歌曲集:ロルフ・ラインハルト(P)

●CD2

1965年5月録音:シューマン「詩人の恋」、ベートーヴェン歌曲集、シューベルト歌曲集:フーベルト・ギーゼン(P)

●CD3

1964年2月録音:シューベルト「美しい水車屋の娘」:フーベルト・ギーゼン(P)

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CD2とCD3は名盤と名高いスタジオ録音が別にありますが、異なる日付、場所での演奏ということで、記録的価値は高いでしょう。

特に注目すべきはCD1です。
ブラームスのドイツ民謡集や、ヴォルフの「イタリア歌曲集」は、彼の正規のスタジオ録音にはこれまでなかったレパートリーと思われます。
1955年録音ということはヴンダーリヒ25歳の時の録音ということになります。
大歌手は早熟なことが多いですが、ヴンダーリヒもおそらくそうなのでしょう。

興味のある方は入手してみてはいかがでしょうか。

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シューベルト「収穫の歌(Erntelied, D434)」を聴く

Erntelied, D434
 収穫の歌

Sicheln schallen,
Ähren fallen
Unter Sichelschall;
Auf den Mädchenhüten
Zittern blaue Blüten,
Freud' ist überall.
[Freud' ist überall.]
 鎌で刈る音が鳴り、
 穂が落ちる、
 鎌の音とともに。
 娘たちの帽子の
 青い花飾りは震え、
 喜びはいたるところにある。

Sicheln klingen,
Mädchen singen
Unter Sichelklang,
Bis, vom Mond beschimmert,
Rings die Stoppel flimmert,
Tönt der Erntesang.
[Tönt der Erntesang.]
 鎌で刈る音が響き、
 娘たちは歌う、
 鎌の響きとともに。
 月に照らされて、
 周囲に切り株がきらめくまで、
 収穫の歌は響き続ける。

Alles springet,
Alles singet,
Was nur lallen kann.
Bei dem Erntemahle
Ißt aus einer Schale
Knecht und Bauersmann.
[Knecht und Bauersmann.]
 皆飛び跳ね、
 皆歌う、
 ろれつの回らぬまま話せることを。
 収穫時の食事では、
 一枚の深皿から食べるのだ、
 使用人も農夫も。

Jeder scherzet,
Jeder herzet
Dann sein Liebelein.
Nach geleerten Kannen
Gehen sie von dannen,
Singen und juchhei'n!
[Singen und juchhei'n!]
 それから誰もがふざけ、
 誰もが抱き合う、
 それぞれの恋人と。
 ジョッキを飲み干すと
 彼らはそこから帰り、
 歌ったり、歓声を挙げたりするのだ!

詩:Ludwig Heinrich Christoph Hölty (1748.12.21, Mariensee - 1776.9.1, Mariensee)
曲:Franz Peter Schubert (1797.1.31, Himmelpfortgrund - 1828.11.19, Wien)

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以前にこの曲について投稿した記事がありますので、よろしければ以下のリンク先からご覧ください。
 こちら

秋といえば収穫の季節です。
そんなわけで、今回聞き比べるのは、シューベルトの「収穫の歌」です。
ヘルティの4つの節からなる有節歌曲です。
スタッカートのピアノパートがうきうきした気分や無骨なダンスを想起させます。
歌は各節の最終行を繰り返します。

この曲は、私がクラシック音楽を聴き始めてまだ間もない頃に、シュヴァルツコプフがEMIに録音したシューベルト歌曲を2枚組にまとめたLPを買って、その中に収録されていたのがはじめての出会いです。
ピアノはG.パーソンズで、他の歌曲と若干毛色の違う親しみやすい曲だったので、すぐに気に入ったのを覚えています。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

1970年録音。1,2,4節歌唱。歯切れのよいF=ディースカウの歌唱と、温かみのあるタッチのムーアの演奏がとてもチャーミングです。

●アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS) & ベングト・フォシュベリ(P)
Anne Sofie von Otter(MS) & Bengt Forsberg(P)

1996年録音。全4節歌唱。オッターの歌は威勢よく、明るく、理想的な歌唱と言えるでしょう。フォシュベリも雄弁です。

●マティアス・ゲルネ(BR) & アレクサンダー・シュマルツ(P)
Matthias Goerne(BR) & Alexander Schmalcz(P)

2009年録音。全4節歌唱。ゲルネは快活な歌を歌っている時でも真面目な感じが残っているのが面白いです。シュマルツは美しいタッチで演奏しています。

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シューベルト「秋(Herbst)」D945を聴く

Herbst, D945
 秋

Es rauschen die Winde
So herbstlich und kalt;
Verödet die Fluren,
Entblättert der Wald.
 風がざわめく、
 これほど秋めいて、冷たく。
 野は荒れ果て、
 森は葉を落とす。

Ihr blumigen Auen!
Du sonniges Grün!
So welken die Blüten
Des Lebens dahin.
[So welken die Blüten]
[Des Lebens dahin.]
 おまえたち、花咲いていた野よ!
 おまえ、日の光の照っていた緑よ!
 こうして人生の花々は
 枯れ果てるのだ。

Es ziehen die Wolken
So finster und grau;
Verschwunden die Sterne
Am himmlischen Blau!
 雲が流れる、
 これほど暗く灰色になって。
 星々は
 天上の青で消え去った!

Ach wie die Gestirne
Am Himmel entflieh'n,
So sinket die Hoffnung
Des Lebens dahin!
[So sinket die Hoffnung]
[Des Lebens dahin!]
 ああ、天の星が
 逃げるように、
 人生の希望は
 沈み去るのだ!

Ihr Tage des Lenzes
Mit Rosen geschmückt,
Wo ich die Geliebte
Ans Herze gedrückt!
 おまえたち、春の日々は
 バラに飾られ、
 私は恋人を
 胸に押し付けたものだった!

Kalt über den Hügel
Rauscht, Winde, dahin!
So sterben die Rosen
Der Liebe dahin!
[So sterben die Rosen]
[Der Liebe dahin!]
 丘の上を冷たく
 ざわめき去れ、風よ!
 こうして愛のバラは
 死に去るのだ!

詩:レルシュタープ(Heinrich Friedrich Ludwig Rellstab: 1799.4.13, Berlin - 1860.11.27, Berlin)
曲:シューベルト(Franz Peter Schubert: 1797.1.31, Himmelpfortgrund - 1828.11.19, Wien)

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暦の上では「秋」ですが、もうしばらくは「夏」の名残を感じながら過ごすことになるのでしょう。
せめて気分だけでも「秋」を味わうために、シューベルトのこの曲を聴き比べしたいと思います。

このシューベルトの歌曲「秋」については、以前投稿した記事で触れていますので、よろしければリンク先をご覧ください。
 こちら

私がはじめてシューベルトの「秋」という歌曲を聴いたのは、おそらく1980年代前半にF=ディースカウがブレンデルとPHILIPSレーベルに録音したシューベルト歌曲集のLPだったと思います。
そこで聴いたシューベルトの音楽は、ちょうど歌手人生の秋の時期を歩んでいた(ように感じられた)F=ディースカウの寂れたような声質も相俟って、印象に残りました。

この6節からなるレルシュタープの詩の2節ずつをまとめて1つにして、全部で3節からなる有節歌曲として作曲されました。
最後の2行を繰り返すのですが、繰り返された時の1行目最後の2音節が急激に上昇する箇所はぐっと引き寄せられます(Blüten, Hoffnung, Rosen)。

ピアノパートの絶え間ないトレモロが寂寥感を強調し、聞き手を秋の風吹くうら寂しい情景に連れて行きます。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ジェラルド・ムーア(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Gerald Moore(P)

これは名演です!F=ディースカウもムーアも気持ちの入った演奏で、惹きつけられます。

●ヘルマン・プライ(BR) & フィリップ・ビアンコニ(P)
Hermann Prey(BR) & Philippe Bianconi(P)
 こちら(これは埋め込み出来ない動画なので、リンクを貼っておきます。)
80年代に「白鳥の歌」の一環として録音された音源。速めのテンポで円熟期のプライが諦観よりもむしろ生の感情を素直に歌っていて、胸に染みます。ビアンコニも見事な描写力です。

●マティアス・ゲルネ(BR) & クリストフ・エッシェンバッハ(P)
Matthias Goerne(BR) & Christoph Eschenbach(P)

楽譜が演奏と共に映されています。ゲルネの深みのある弾力のある声が秋のもの悲しさを見事に表現しています。エッシェンバッハもさすがのうまさです。

●クリスティアン・ゲルハーエル(BR) & ゲロルト・フーバー(P)
Christian Gerhaher(BR) & Gerold Huber(P)

2014年録音。ゲルハーエルの明晰なディクションがここでも生きています。フーバーは抑揚の付け方が細やかでいい演奏です。

●クリスティアーネ・カルク(S) & ブルクハルト・ケーリング(P)
Christiane Karg(S) & Burkhard Kehring(P)

2009年録音。女声が歌うとまた違った雰囲気になります。彼女はかなりドラマティックな起伏を盛り込んで歌っていますね。ケーリングも歌に合わせた協調ぶりです。

●クリストフ・プレガルディアン(T) & アンドレアス・シュタイアー(P)
Christoph Prégardien(T) & Andreas Staier(P)

2008年録音。ここで注目すべきなのは、プレガルディアンが装飾を付けて歌っていることです。当時、シューベルトと共に彼のリートを歌ったフォーグルはかなり装飾を付けて歌ったらしく、それを意識した試みだと思われます。

●ピアノ伴奏のみ(Hye-Kyung Chung)(P)

トレモロを聴いているだけで肌寒い情景が目に浮かびます。速めのテンポで演奏されています。

【参考】管弦楽編曲版(ケヴィン・ハルピン編曲)
Orchestral arrangement by Kevin Halpin - strings, woodwinds and timpani.

様々な音色で、秋をドラマティックに描いています。面白い試みだと思います。

【参考】フランツ・リストによる同じテキストによる歌曲(グンドゥラ・ヤノヴィツ(S) & アーウィン・ゲイジ(P))
Liszt: Es rauschen die Winde (Gundula Janowitz(S) & Irwin Gage(P))

1977年ライヴ録音。同じ詩とは思えないほど、リストの音楽は濃厚で劇的です。

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マーラー「高遠なる知性の賛美(Lob des hohen Verstandes)」を聴く

Lob des hohen Verstandes
 高遠なる知性の賛美

Einstmals in einem tiefen Tal
Kukuk und Nachtigall
Täten ein Wett' anschlagen:
Zu singen um das Meisterstück,
Gewinn' es Kunst, gewinn' es Glück:
Dank soll er davon tragen.
 昔、ある深い谷で
 かっこうとナイチンゲールが
 見事な作品を歌うための
 競技を企てた。 
 芸と幸運を手に入れたら
 感謝してもらおう。

Der Kukuk sprach: "So dir's gefällt,
Hab' ich den Richter wählt",
Und tät gleich den Esel ernennen.
"Denn weil er hat zwei Ohren groß, [Ohren groß, Ohren groß,]
So kann er hören desto bos
Und, was recht ist, kennen!"
 かっこうは言った「きみさえ良ければ
 ぼくが審査員を選んでおいたよ」
 そしてすぐにロバを指名した。
 「だってロバは二つの大きな耳があるから
 悪いところがいっそう聞こえるだろうし、
 正しいことを知っているだろうからね!」

Sie flogen vor den Richter bald.
Wie dem die Sache ward erzählt,
Schuf er, sie sollten singen.
Die Nachtigall sang lieblich aus!
Der Esel sprach: "Du machst mir's kraus! [Du machst mir's kraus! Ija! Ija!]
Ich kann's in Kopf nicht bringen!"
 彼らはすぐに審査員の前まで飛んで行った。
 事の次第を聞かされたロバは
 二羽に歌うように告げた。
 ナイチンゲールは愛らしく歌った。
 ロバは言った「きみの歌はわけが分からんよ![イーヤー!]
 頭の中に入ってこない!」

Der Kukuk drauf fing an geschwind
Sein Sang durch Terz und Quart und Quint.
Dem Esel g'fiels, er sprach nur "Wart! [Wart! Wart!]
Dein Urteil will ich sprechen[, ja sprechen].
 続いてかっこうが急いで歌い始めた、
 三度と四度と五度音程の歌を。
 ロバは気に入り、こう言った「待て!
 判定を言い渡そう。

Wohl sungen hast du, Nachtigall!
Aber Kukuk, singst gut Choral! [gut Choral!]
Und hältst den Takt fein innen! [fein innen!]
Das sprech' ich nach mein' hoh'n Verstand! [hoh'n Verstand! hoh'n Verstand!]
Und kost' es gleich ein ganzes Land,
So laß ich's dich gewinnen! [gewinnen!]"
[Kukuk! Kukuk! Ija!]
 きみもよく歌ったよ、ナイチンゲール!
 だがかっこうよ、きみはコラールを上手に歌ったな!
 拍の中にうまく収まっておったぞ!
 わが高遠なる知性にかけて申す!
 きみの歌はまるごと一国に値する、
 よってきみの勝ちとする!」
 [カッコー!カッコー!イーヤー!]

詩:Achim von Arnim (1781-1831) und Clemens Brentano (1778-1842) aus "Des Knaben Wunderhorn"
曲:Gustav Mahler (1860-1911)

※今回の訳詞を作成するにあたって、かなり迷った箇所もありましたので、あくまで参考程度にご覧ください。
第2節第5行の"bos"は、私の見た範囲ではどの辞書にも載っておらず、"böse(悪い)"のことと想像しました。
おそらくオリジナル詩集の注を見れば何らかのヒントが載っているのかもしれませんが、もし分かりましたら反映したいと思います。

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オリジナルのタイトルは"Wettstreit des Kukuks mit der Nachtigal(かっこうとナイチンゲールの競い合い)"

オリジナルのテキストは下記のリンク先をご覧ください。
 こちら

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先日の記事で、ロバの登場するヴォルフの歌曲をご紹介しましたが、今回はそのマーラー編です。
マーラーがアルニム&ブレンターノの編纂した「子供の魔法の角笛(Des Knaben Wunderhorn)」の中の詩に手を加えて歌曲集を作りました。
その中の1つが、「高遠なる知性の賛美(Lob des hohen Verstandes)」です。

歌自慢のかっこうとナイチンゲールが、歌を競い合おうということになり、審査員に耳の大きなロバを指名します。
ロバは審査員を引き受けましたが、ナイチンゲールの歌は難しすぎて理解できませんでした。
そこでかっこうに歌ってもらうと、例の「カッコー」という音程の単純な下降がロバの耳には分かりやすく、かっこうを勝者にします。
その理由が「拍の中にうまく収まっておった」からで、ロバにも理解できたということなのでしょう。
ロバは「わが高遠なる知性にかけて(nach mein' hoh'n Verstand)」判定の正しさを主張します。
その歌声は一国まるまるの価値があるとまで言い放ちます。
これらの鳥や動物を通じて、耳に馴染みやすいものを評価し、斬新な響きには聞く耳を持たないという批評家、聴衆たちを皮肉っていることは明白でしょう。

マーラーがこの詩を音楽にする際に、一見コミカルな響きの中に、強烈な音楽業界への皮肉を込めているのがはっきりと感じられます。
ナイチンゲールの歌う場面でマーラーが用いた音楽は、シューベルトのピアノソナタ第18番ト長調D894「幻想」の第4楽章を思い起こさせます。
(参考文献:こちら

歌声に時折トリルを加えたり、ロバの鳴き声を極端に広い音程で表現したり、グロテスクな表情はいたるところに散りばめられています。
この曲にはオーケストラ版とピアノ版の両方がありますが、最初にピアノ版で聞いて想像をふくらませた後に、オーケストラ版を聞くと、より鮮明に動物たちの響きが聞こえてくると思います。

ここでもロバは結局、頭の固い無知な者という位置づけがされていますが、あくまで象徴として使われているだけであって、実際のロバがどうなのかということはまた別問題だと思います。
それぞれの名演を楽しんでください。

かっこう(der Kuckuck)の鳴き声

ナイチンゲール(die Nachtigall)の鳴き声

ロバ(der Esel)の鳴き声

詩の朗読(Susanna Proskura)

Christa Ludwig(MS), Gerald Moore(P)
クリスタ・ルートヴィヒ(MS), ジェラルド・ムーア(P)

1957年録音。ルートヴィヒの語り口の鮮やかなことといったら!雄弁なムーアのピアノと共に表情が見事です。

Anne Sofie von Otter(MS), Ralf Gothoni(P)
アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS), ラルフ・ゴトーニ(P)

1989年録音。彼女のディクションの上手さが見事に生かされています。ゴトーニは「ナイチンゲール」の響きが特に美しかったです。

Thomas Hampson(BR), Geoffrey Parsons(P)
トマス・ハンプソン(BR), ジェフリー・パーソンズ(P)

マーラーを得意とするハンプソンの余裕をもった歌唱とロバのいななきが聴きどころです。パーソンズはいつも同様うまいです。

Elisabeth Schwarzkopf(S), The London Symphony Orchestra, George Szell(C)
エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S), ロンドン交響楽団, ジョージ・セル(C)

1968年録音。シュヴァルツコプフのユーモラスな側面を聴くことが出来ます。

Brigitte Fassbaender(MS), Rundfunk-Sinfonieorchester Saarbrücken, Hans Zender(C)
ブリギッテ・ファスベンダー(MS), ザールブリュッケン放送交響楽団, ハンス・ツェンダー(C)

1979年4月録音。ファスベンダーの歌っている姿が見られます。彼女も声色のパレットの豊富な歌手でした。そのパレットを存分に発揮しています。

【参考】シューベルト: ピアノソナタ第18番ト長調D894「幻想」の第4楽章(スヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter)の1977年の演奏)

0:24-0:26等の音型(その後も何度か出てきます)が、マーラーのこの歌曲のナイチンゲールの響きに取り入れられていると考えられます。

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エルナ・ベルガー&ヘルマン・プライ&ヴァイセンボルン(Berger, Prey & Weissenborn): ヴォルフ「イタリア歌曲集」(Wolf: Italienisches Liederbuch)全曲CD復活!

ヘルマン・プライの没後20年の今年(2018年)に記念盤が出ないのではと半ば諦めていたところに朗報です!
ソプラノのエルナ・ベルガーとピアニストのギュンター・ヴァイセンボルンと組んで1959年に録音されたヴォルフ「イタリア歌曲集」がCDでとうとう復活します。
ドイツのamazonではすでに購入できるようですが、日本のamazonのサイトには2018年8月24日現在まだ掲載されておらず、もうしばらく待たされそうです。
すぐに欲しい方は下記のドイツのamazonから購入可能ですし(ドイツからの送料はかかりますが)、待てるという方は日本のamazonのサイトに掲載されるのを待ってみてはいかがでしょうか。
 こちら

CDは2枚組で、CD1はヴォルフ「イタリア歌曲集」全46曲、CD2はシューマン「女の愛と生涯」、メンデルスゾーン2曲、レーヴェ2曲、ヴォルフ2曲、シューベルト3曲、グリーグ2曲、ブラームス「4つの厳粛な歌」が収録されているそうです。
CD2はシューマンとメンデルスゾーンがベルガーの歌唱で、他はプライの歌唱です(共演ピアニストはラウハイゼン、メルツァー等、曲により様々です)。
もちろん目玉はCD1のヴォルフ「イタリア歌曲集」全46曲です。
とびきりの名演にもかかわらず、今まで復活しなかったのは不思議です。
ソプラノのエルナ・ベルガーはもちろんチャーミングな歌唱を聞かせてくれますが、プライと組むと若干年齢差を感じさせる感はあります(プライより29歳年上です)。
ここでは若かりしヘルマン・プライの歌唱が本当に素晴らしいです。
かつて「詩と音楽 梅丘歌曲会館」さんのサイトにヴォルフ「イタリア歌曲集」全曲の記事を投稿した際に、様々な演奏家の録音を聞き比べたのですが、プライは他のどの男声歌手にも増して、この歌曲集のキャラクターにぴったりマッチしていました。
しかし、CD化されていなかった為、中古屋さんで購入したLPを毎回再生する手間がかかったのですが、その手間が報われるようなプライの溌剌とした名唱でした。
今回ようやくCD化されてこの名演がより広く知られることになればとても嬉しいことです。

上記のドイツのサイトで少しずつ試聴できるようになっているので、よろしければぜひサンプルを聴いてみてください。

Berger_prey_weissenborn_wolf


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ロバ(der Esel)が登場するヴォルフ(Hugo Wolf)の歌曲2曲

ドイツ歌曲に限りませんが、動物や植物を扱ったテキストは数多くあります。
歌曲集として動物をテーマにしてまとめた例としては、いずれもフランス歌曲ですが、ラヴェル「博物誌」やプーランク「動物詩集」などが思い浮かびます。
特に前者は鳥や虫の鳴き声などが見事に描写されています。

今回扱うのは「ロバ(ドイツ語でEsel)」です。
フーゴー・ヴォルフ(Hugo Wolf)の歌曲に「ロバ」が登場する作品が2曲あります。
「ロバ」を表すドイツ語のEsel(発音は「エーゼル」)は「間抜け」という意味合いも持ち、あまり好意的に扱われていません。

まずはロバの鳴き声を聞いてみましょう。

高い吸い込むような金属的な音と低い音を交互に出すのが特徴でしょうか。
こうして見ると可愛いですね。

それでは、ヴォルフの「変身させられたツェッテルの歌」という歌曲をご紹介します。

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Lied des transferierten Zettel
 変身させられたツェッテル(ボトム)の歌

Die Schwalbe, die den Sommer bringt,
der Spatz, der Zeisig fein,
Die Lerche, die sich lustig schwingt
bis in den Himmel 'nein.
[Ya Ya Ya Ya!]
 夏をもたらすつばめに、
 すずめに、きれいなまひわ、
 ひばりは快活に
 空中まで舞い上がる。
 [イーアー、イーアー、イーアー、イーアー!]

Der Kuckuck, der der Grasemück'
so gern ins Nestchen heckt,
Und lacht darob mit arger Tück',
und manchen Ehmann neckt.
[Ya Ya Ya Ya!]
 かっこうは、のどじろむしくいの巣に
 卵を産みつけるのが大好き。
 そして悪意をもってあざ笑い、
 あまたの旦那どもを冷やかすのだ。
 [イーアー、イーアー、イーアー、イーアー!]

詩:William Shakespeare (1564-1616) “A Midsummer Night's Dream” Act 3, Scene 1
独訳:August Wilhelm Schlegel (1767-1845) “Ein Sommernachtstraum” Dritter Aufzug, Erste Szene
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

※第2節第1行の「のどじろむしくい」という鳥の姿と鳴き声は
 こちら

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これはシェイクスピアの「夏の夜の夢(A Midsummer Night's Dream)の第3幕第1場で、いたずら者の妖精パックが織物職人ボトムの頭をロバに変えてしまい、そうと気付かないボトムが歌う歌です。
ボトムというのがオリジナルの役名ですが、訳者のA.W.シュレーゲルは、Zettel(ツェッテル)という名前に訳しました。
ちなみにZettelというのはドイツ語で「紙切れ」のことです。
独立した詩ではなく、戯曲の中の一部であり、しかも第1節と第2節の間で妖精のティターニアが目覚めて一言セリフを話すので、それを除いた形でヴォルフは作曲しています。
ロバの鳴き声はヴォルフによる付与で、グロテスクさが増しています。
1889年(ヴォルフの「歌の年」の翌年)に作曲され、皮肉屋ヴォルフの面目躍如です。
この「イーアー」(12度下降)をどのように歌うのかが聴きどころと言えるでしょう。

フリッツ・ヴンダーリヒ(T) & ルートヴィヒ・クッシェ(P) (「変身させられたツェッテルの歌」は3曲目(3:11)から始まります)
Fritz Wunderlich(T) & Ludwig Kusche(P)

シューベルト「うずらの鳴き声」、R.シュトラウス「商人と仕掛け人は」に続いて、3:11から始まります。お手数ですが、目盛りを移動してお聞き下さい。

John William Gomez(T) & Tania Shustova(P)

若干発音に不正確な箇所もありますが、曲の感じはつかめると思います。

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もう1曲はヴォルフ晩年の傑作「イタリア歌曲集(Italienisches Liederbuch)」の第2巻第21曲「ちょっと黙ってよ(Schweig einmal still)」です。

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Schweig' einmal still
 ちょっと黙ってよ

Schweig einmal still, du garst'ger Schwätzer dort!
Zum Ekel ist mir dein verwünschtes Singen.
Und triebst du es bis morgen früh so fort,
Doch würde dir kein schmuckes Lied gelingen.
Schweig einmal still und lege dich aufs Ohr!
Das Ständchen eines Esels zög ich vor.
 ちょっと黙ってよ、そこの不愉快なおしゃべり男!
 あんたのいらつく歌聞いてると気持ち悪くなるのよ。
 こんな朝早くまで歌い続けていたところで、
 まともな歌になるわけないでしょ。
 もう黙ってよ、いい加減に寝なさい!
 ロバのセレナード聞く方がまだいいわ!

詩:Paul Heyse (1830-1914)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

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男女の駆け引きなどの歌を46編まとめたヴォルフ「イタリア歌曲集」。
ヴォルフは各曲の配列にも気を配って作曲しています。
この曲「ちょっと黙ってよ」は前曲「ぼくはもう歌えないよ(Nicht länger kann ich singen)」のいわばアンサーソングとなっています。
この詩の最後の行に"Esels(ロバ)"という言葉が出てきますが、ここでヴォルフはピアノパートにロバの鳴き声を模した響きを再現してグロテスクな表情を強調しています。
さらにピアノ後奏にもロバの鳴き声が今度は高低逆の形で現れます。
しかし、この箇所だけではなく、この曲に最初から一貫して流れるピアノパートの跳躍音程や装飾音は、すでにロバの鳴き声を暗示していると言ってもいいのではないでしょうか。

モイチャ・エルトマン(S) & ゲロルト・フーバー(P)
Mojca Erdmann(S) & Gerold Huber(P)

2009年録音。魅力的な演奏です。

ロバは嘲笑や皮肉の対象として使用され、ちょっと可哀そうな気もしますが、さらにロバを皮肉のネタとして使用したマーラーの歌曲があります。そちらは後日またあらためて記事にしたいと思います。

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ブラームス「ひばりの歌(Lerchengesang, Op. 70-2)」を聴く

Lerchengesang, Op. 70-2
 ひばりの歌

Ätherische ferne Stimmen,
Der Lerchen himmlische Grüße,
Wie regt ihr mir so süße
Die Brust, ihr lieblichen Stimmen!
 天空のはるかな声、
 ひばりの空からの挨拶、
 お前たちはなんと甘美に私の胸を動かすのか、
 愛らしい声よ!

Ich schließe leis mein Auge,
Da ziehn Erinnerungen
In sanften Dämmerungen
Durchweht vom Frühlingshauche.
 私は静かに目をつむると
 想い出が通り過ぎる、
 やわらかなたそがれの中で
 春の息吹に吹かれながら。

詩:Karl August Candidus (1817-1872)
曲:Johannes Brahms (1833-1897)

※上記の訳は、いつもお世話になっています「詩と音楽」さんのサイトに以前投稿したものを転載しています。
 こちら

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ブラームスが繰り返した箇所を[ ]で囲って補ったテキストを以下に記しておきます。

Ätherische ferne Stimmen,
Der Lerchen himmlische Grüße,
Wie regt ihr mir so süße
Die Brust, ihr lieblichen Stimmen!
[Die Brust, ihr lieblichen Stimmen!]

Ich schließe leis mein Auge,
Da ziehn Erinnerungen
In sanften Dämmerungen
[Da ziehn Erinnerungen]
[In sanften Dämmerungen]
Durchweht vom Frühlingshauche.

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ブラームスの歌曲の中で最も澄み切った美しさと余韻の味わいを感じさせてくれる名作の一つです。
私がこの曲をはじめて聞いたのがいつだったのか定かではないのですが、エディット・マティスのライヴ録音をFMラジオで聞いた時かもしれません。
少なくともレコードやCDではじめて聞いたというのではなかったような気がします。
しかし、後に白井光子&ヘルのCDを聞き、この曲の最高の名演に出会えた喜びを味わったことはおぼろげなから覚えています。

歌とピアノが交互にメロディーを引き継ぎながら一つにまとまっていく形で作られていて、ブラームスらしいリズムのずれもあり、とても味わい深い作品になっています。
ピアノの下降する2つの高音が頻繁に現れますが、おそらくひばりの鳴き声を暗示しているのでしょう。

Lerche(ひばり)の鳴き声

Mitsuko Shirai(MS) & Hartmut Höll(P)
白井光子(MS) & ハルトムート・ヘル(P)

1987年録音。この曲の余白を感じさせる作風は、日本人の歌手にとって共感しやすかったのでしょうか。白井の浮遊するような歌声は聞き手の胸にしっとりと染み込みます。ヘルが細心のデリカシーをもって表現しているのも聴きどころです。

Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Daniel Barenboim(P)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ダニエル・バレンボイム(P)

F=ディースカウが声の起伏をいつも以上に抑えつつ、静かに美しいフレーズを響かせていて素晴らしいです。バレンボイムもコントロールを利かせつつ、きれいに歌っていました。

Stefanie Irányi(MS) & Helmut Deutsch(P)
シュテファニー・イラーニ(MS) & ヘルムート・ドイチュ(P)

楽譜付き。イラーニの歌唱は、素直で爽やかで、しかも味わいもあって、とても気に入りました。ドイチュも美しいです。

Simon Keenlyside(BR) & Malcom Martineau(P)
サイモン・キーンリサイド(BR) & マルコム・マーティノー(P)

2009年録音。キーンリサイドの抑えた歌唱が優しい癒しを与えてくれます。マーティノーは安定した演奏です。

Domenico Ricciによるピアノ伴奏のみ(変イ長調):第1節のみ

ピアノ伴奏だけでも美しい無言歌として成立していますね。

Mischa Maisky(Violoncello) & Pavel Gililov(P)
ミーシャ・マイスキー(Violoncello) & パーヴェル・ギリロフ(P)

マイスキーは歌曲をチェロで演奏することが好きなようで、CD録音もしています。ここでは止まりそうなほどゆったりとしたギリロフのピアノを受けて、感情豊かにチェロで歌ってみせています。

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「東京・春・音楽祭2018」の動画(2018年7月20日(金)~10月19日(金)期間限定)

毎年春に催されている「東京・春・音楽祭」の今年のコンサート動画が7月20日よりアップされたようです。
3カ月のみの期間限定ですので、ぜひ下記のリンク先を開いて、お好きなコンサート動画をご覧ください。

 こちら

配信期間:2018年7月20日(金)~10月19日(金)期間限定

歌曲ファンの私が最初に見たのはヴァーグナー等を得意とするソプラノ、ペトラ・ラング(Petra Lang)の歌曲リサイタルでした(ピアノはアドリアン・バイアヌ(Adrian Baianu))。
正直、私は彼女の歌曲演奏をこれまでおそらく聞いていなかったと思うのですが、最初のブラームスを聞いて驚きました。
ベテランリート歌手の味わい、表情、趣が、オペラ歌手の彼女にすべてしっかり備わっていて、とても素晴らしかったからです。
ブラームスの「愛のまこと(Liebestreu)」の母親と娘の対話が、声の使い分けだけでなく、顔の表情からも伝わってきて、オペラ歌手としての彼女の強みが生かされているのが感じられました。
しかし、オペラ歌手の余技では決してなく、リートをしっかり歌いこんできた熟練の味わいのようなものも感じられて、素晴らしかったです。
声の若々しさは望めないにしてもまだ十分美声を保っていて、味わいはしっかり感じられました。
共演のピアニスト、アドリアン・バイアヌもいぶし銀の趣をもって、深みのある音をデリケートに響かせていて、こちらも素晴らしいです。
珍しいヨーゼフ・マルクスの歌曲なども数曲歌われ、歌曲ファンの方にはおすすめです。

 映像(1)はこちら:ブラームス&マーラー

 映像(2)はこちら:マルクス&R.シュトラウス&アンコール

 曲目解説などはこちら

もう一つ、世界中の歌劇場から引っ張りだこのテノールのクラウス・フロリアン・フォークト(Klaus Florian Vogt)のリサイタルも意欲的なプログラミングです。
ピアノはルパート・バーレイ(Rupert Burleig)です。

 映像(1)はこちら:ハイドン&ブラームス

 映像(2)はこちら:マーラー&R.シュトラウス&アンコール

 曲目解説などはこちら

テノールの歌う「さすらう若人の歌(遍歴職人の歌)」は珍しいので興味がわきます。
どこまでも柔らかい響きをもつフォークトがどのような表現を聞かせるか、これから楽しみたいと思います。
また、初めて聞くピアニストのルパート・バーレイの演奏も期待したいです。

他にも、中村恵理(S)と藤木大地(カウンターテナー)のデュエット(ピアノ:園田隆一郎)や、金子美香(MS)の日本歌曲&ドイツ歌曲のリサイタル(ピアノ:イェンドリック・シュプリンガー)、浜田理恵(S)のフランス歌曲リサイタル(ピアノ:三ツ石潤司)、ヴィタリ・ユシュマノフ(BR)のロシア歌曲リサイタル(ピアノ:山田剛史)など、歌曲ファンにはいくつも興味深い動画がアップされています。

歌曲以外にも多くのコンサートがアップされていますので、ぜひ気になったコンサートを聴いてみてくださいね。

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ブラームス「なんと私は夜中に飛び起きた(Wie rafft' ich mich auf in der Nacht, Op. 32-1)」を聴く

Wie rafft' ich mich auf in der Nacht, Op. 32-1
 なんと私は夜中に飛び起きた

Wie rafft' ich mich auf in der Nacht, in der Nacht,
Und fühlte mich fürder gezogen,
Die Gassen verließ ich vom Wächter bewacht,
Durchwandelte sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Das Tor mit dem gotischen Bogen.
 なんと私は飛び起きた、夜中に、夜中に、
 そしてどうしようもなく先に引かれるものを感じた。
 夜番の見張る路地を過ぎ、
 そっと通り抜けていった、
 夜中に、夜中に、
 ゴチック風アーチの門を。

Der Mühlbach rauschte durch felsigen Schacht,
Ich lehnte mich über die Brücke,
Tief unter mir nahm ich der Wogen in Acht,
Die wallten so sacht,
In der Nacht, in der Nacht,
Doch wallte nicht eine zurücke.
 水車用の小川が岩穴の中をざわめき流れていた。
 橋から身を乗り出した私は、
 下方に深く沸き起こる波に目をこらすと、
 それは、あまりにもかすかに波立った、
 夜中に、夜中に、
 だが打ち返すことはなかった。

Es drehte sich oben, unzählig entfacht,
Melodischer Wandel der Sterne,
Mit ihnen der Mond in beruhigter Pracht,
Sie funkelten sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Durch täuschend entlegene Ferne.
 上方には無数にきらめきながら
 メロディーを奏でる星の運行が円を描いていた。
 星々とともに、月はなだめるような壮麗な光を放っていた、
 それらは穏やかに輝いていた、
 夜中に、夜中に、
 見まがうほどに遥か遠くから。

Ich blickte hinauf in der Nacht, in der Nacht,
Und blickte hinunter aufs neue:
O wehe, wie hast du die Tage verbracht,
Nun stille du sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Im pochenden Herzen die Reue!
 私は天空を仰ぎ見た、夜中に、夜中に、
 そしてあらためて視線を下ろした。
 ああ、お前はなんという日々を過ごしてきたのだ、
 さあ、そっと静めるがいい、
 夜中に、夜中に、
 脈打つ心の中にひそむ悔悟の念を!

詩:August von Platen-Hallermünde (1796-1835)
曲:Johannes Brahms (1833-1897)

※上記の訳は、いつもお世話になっています「詩と音楽」さんのサイトに以前投稿した訳に手を加えたものです。
 こちら

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ブラームスが繰り返した箇所を[ ]で囲ったテキストを以下に記しておきます。
ブラームスがどの詩句に重きを置いているかを知ることが出来ますね。

Wie rafft' ich mich auf in der Nacht, in der Nacht,
Und fühlte mich fürder [mich fürder] gezogen,
[fühlte mich fürder gezogen,]
Die Gassen verließ ich vom Wächter bewacht,
Durchwandelte sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Das Tor mit dem gotischen Bogen.

Der Mühlbach rauschte durch felsigen Schacht,
Ich lehnte mich über die Brücke,
Tief unter mir nahm ich der Wogen in Acht,
Die wallten so sacht,
In der Nacht, in der Nacht,
Doch wallte nicht eine zurücke.
[Doch wallte nicht eine zurücke.]

Es drehte sich oben, unzählig entfacht,
Melodischer Wandel der Sterne,
Mit ihnen der Mond in beruhigter Pracht,
Sie funkelten sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Durch täuschend entlegene Ferne.
[Durch täuschend entlegene Ferne.]

Ich blickte hinauf in der Nacht, in der Nacht,
Und blickte hinunter [hinunter] aufs neue:
[Und blickte hinunter aufs neue:]
O wehe, wie hast du die Tage verbracht,
[O wehe, wie hast du die Tage verbracht,]
Nun stille du sacht
In der Nacht, in der Nacht,
Im pochenden Herzen die Reue!

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私がはじめてこの曲を聴いたのは、FMラジオから流れてきたF=ディースカウ&ヘルのザルツブルク音楽祭ライヴ放送でした。
ブラームスには他により有名な歌曲がいくつもありますが、それらよりもこの作品をたまたま先に聞くことになった当時の私にとって、ブラームスの歌曲はドラマティックでカッコいいという印象を植え付けられました。
よくブラームスの歌曲は渋くてとっつきにくい、という感想を持たれる方が多いのですが、そういう方にはぜひ、この「なんと私は夜中に飛び起きた」を聞いていただきたいです。
詩の展開によって歌もピアノも魅力的に移り変わっていき、数回にわたってドラマティックに盛り上がりを見せます。
F=ディースカウ&ヘルのコンビでスタジオ録音(Bayerレーベル)もされていますが、ザルツブルクライヴ音源がいつか商品化されないかなぁと期待しています。

プラーテンの詩は、主人公が突如夜中に突き動かされるような衝動を感じて外に出かけるところから始まります。
門番の見張る中通りを渡り、橋の上に出ます。
川はかすかに波打つのですが、返す波はありません。
次に上を見上げると、星や月が気の遠くなるほどはるか彼方から美しく輝いています。
そこであらためて視線を下すと、主人公は我に返り、嘆きます。
「自分はなんと無為な日々を送っているのだろうか」
そして、もうこの心を鎮めようと思い直すのです。
彼の心にあったのは「悔い(die Reue)」の念であり、その為に胸が脈打ってじっとしていられなかったということでしょうか。
その「悔い」がなんだったのかはこの詩からは明かされません。

ブラームスは、この主人公の暗い衝動をかなりドラマティックに解釈したようです。
どの程度振幅を大きくするかによって、演奏の印象も変わってくるでしょう。
以下の演奏の中では唯一の女声オッターが振幅を抑えて、しっとりとした表情を伝えてきます。

Dietrich Fischer-Dieskau(BR) & Hertha Klust(P)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR) & ヘルタ・クルスト(P)

1952年6月13日Berlin放送録音。F=ディースカウの声が若々しく魅力的です。クルスト女史もしっかりとした演奏を聞かせてくれます。

Thomas Quasthoff(BR) & Justus Zeyen(P)
トーマス・クヴァストフ(BR) & ユストゥス・ツァイエン(P)

2000年録音。クヴァストフの響きの深さが感銘を与えてくれます。ツァイエンも細やかに行き届いた演奏です。

Meinard Kraak(BR) & Irwin Gage(P)
メイナルト・クラーク(BR) & アーウィン・ゲイジ(P)

1968年録音。オランダのハイバリトン、クラークが丁寧に明晰な歌を聞かせています。当時29歳(!)の若かりしアーウィン・ゲイジが聞けるのも貴重でしょう。

Anne Sofie von Otter(MS) & Bengt Forsberg(P)
アンネ・ソフィー・フォン・オッター(MS) & ベングト・フォシュベリ(P)

1989年録音。オッターは遅めのテンポで丁寧に抑制した表現をしています。フォシュベリも抑えながら時々前面に出る感じです。

【VOCALOID】Sung by KAITO (Vocaloid), Piano: Prova (free sound source)
ヴォーカロイド(男声)による演奏

ヴォーカロイドを侮るなかれ!この演奏、なかなか癒されます。電子音からも温かみを感じることが出来るのですね。

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ヘルマン・プライ(Hermann Prey)没後20年(2018年)に寄せて(名唱10選)

一時代を築いた名バリトン歌手、ヘルマン・プライ(Hermann Prey: 1929.7.11-1998.7.22)が亡くなって今日(2018年7月22日)でちょうど20年が経ちました。
1980~90年代に実演で繰り返し聴くことが出来たのが今となってはとてもよい思い出として残っています。
あの頃は夢中になって来日するリート歌手を聞きまくっていたなぁと懐かしく感じます。
はじめてプライを生で聴いたのは五反田のゆうぽうと簡易保険ホールで、ピアニスト、ヘルムート・ドイチュとのシューベルト、ゲーテ歌曲集でした。
あの時のプライは全体的にゆっくり目のテンポで噛み締めるような含蓄のある歌い方をしていました。
「御者クロノスに」はプライ&ドイチュの演奏をはじめて聴いて知った為、後に別のアーティスト、あるいはプライのずっと若い頃の録音を聴いて、あまりのテンポの違いに驚いたことを覚えています。
60年代のドラマティックな艶々した声のプライ、70年代の客観性が加わり、声と表現のバランスが素晴らしかったプライ、そして80年代以降の言葉への含蓄のある深みを追求した表現をするプライと大雑把に形容するとこんな感じでしょうか。
どの時期にもプライの魅力はあって、それぞれの時期を聞き比べるのも一興かと思います。
特にシューベルトの3大歌曲集は複数回ずつ録音しているので、時期の違いを味わうのに適していると思います。
ちなみにその詳細は過去の記事(以下のリンク先)をご覧ください。

 こちら

さて、プライ没後20年とはいっても、レコード会社は今のところ特別なリリースを考えていないようなので、私が動画サイトに掲載されていた中から「プライの歌うドイツリート10選」をしてみました。

●シューベルト: 魔王 D 328 (おそらくカール・エンゲル(P)?)
Schubert: Erlkönig, D 328 (probably Karl Engel(P)?)

おそらくPHILIPS録音の1970年代の録音と思われますが、DECCA時代の旧録音よりもさらにディクションが明晰でめりはりがきき、ドラマティックになっています。エンゲルも素晴らしい!

●R.シュトラウス: 献身 Op. 10/1 (ジェラルド・ムーア(P))
Richard Strauss: Zueignung, Op. 10/1 (Gerald Moore(P))

1965年録音。私が思うにプライはR.シュトラウスとの相性が抜群だと思うのですが、特にこの曲のようなパッションを感じさせる歌は絶品です!

●シューマン: こよなく麗しい月、五月に Op. 48/1 (「詩人の恋」より第1曲) (カール・エンゲル(P))
Schumann: Im wunderschönen Monat Mai, Op. 48/1 (Karl Engel(P))

EMIレーベルへの録音。「詩人の恋」の理想的な歌い手の一人がプライだと思います。彼の甘美な声はハイネの詩の繊細な若者像にぴったりです。

●レーヴェ: 甘美な埋葬 Op. 62/4 (カール・エンゲル(P))
Loewe: Süsses Begräbnis, Op. 62/4 (Karl Engel(P))

レーヴェのバラードの魅力を一般に伝えたのもプライの大きな功績の一つです。この曲はバラードではなくリートですが、プライの甘く美しい声の魅力が最大限に生かされていますね。この動画、一箇所音飛びしていますが、ご了承ください。

●ブラームス: 日曜日 Op. 47/3 (カール・エンゲル(P))
Brahms: Sonntag, Op. 47/3 (Karl Engel(P))

1962年録音。プライはドイツ民謡も沢山歌ってきましたが、ブラームスの民謡調の作品もとても良いですね。この作品などプライの為の曲と思えてしまいます。

●ヴォルフ: 春だ(彼だ) (メーリケ歌曲集より) (ジェラルド・ムーア(P))
Wolf: Er ist's (Gerald Moore(P))

1965年録音。ヴォルフの歌曲は一般にとっつきにくく捉えられがちですが、プライが歌うとなんと親密で聞きやすくなることでしょう!

●ベートーヴェン: きみを愛している WoO. 123 (レナード・ホカンソン(P))
Beethoven: Ich liebe dich, WoO. 123 (Leonard Hokanson(P))

1974年録音。愛の言葉をこれほど優しくささやかれたら、女性は受け入れるしかないでしょう。

●プフィッツナー: 5つの歌曲 Op. 9 (1. 庭師, 2. 孤独な女, 3. 秋に, 4. 勇敢な男, 5. 別れ) (ジェラルド・ムーア(P))
Pfitzner: Fünf Lieder, Op. 9 (1. Der Gärtner, 2. Die Einsame, 3. Im Herbst, 4. Der Kühne, 5. Abschied) (Gerald Moore(P))

1965年録音。重々しさと寂寥感のあるプフィッツナーのアイヒェンドルフの詩による歌曲集をプライは5曲まとめて歌っています。明るいだけではないプライの暗めな響きの魅力にどっぷり浸かれる録音です。

●メンデルスゾーン: 歌の翼に Op. 34/2 (レナード・ホカンソン(P))
Mendelssohn: Auf Flügeln des Gesanges, Op. 34/2 (Leonard Hokanson(P))

1974年録音。メロディーラインを美しいレガートで歌うプライをたっぷり堪能できます。

●マーラー: 「さすらう若者の歌(遍歴職人の歌)」(全4曲) (ベルナルト・ハイティンク(C))
Mahler: Lieder eines fahrenden Gesellen (Bernard Haitink(C))

おそらくPHILIPS録音と思われます。感情に溺れずコントロールをきかせながらも青年らしさもしっかり感じさせるプライの名唱です。「冬の旅」を得意とした彼にとってマーラーのこの歌曲集も共感していたのではないでしょうか。

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