ブルックナー「秋の苦しみ(Herbstkummer, WAB. 72)」を聴く
Herbstkummer, WAB. 72
秋の苦しみ
Die Blumen vergehen, der Sommer ist hin,
Die Blätter verwehen. Das trübt mir den Sinn.
Ein Röslein, das bracht' ich im Sommer ins Haus,
Es hält ihn, so dacht' ich, den Winter wohl aus.
Die Vögelein sangen, es lauschte der Hain,
Die Rehlein, sie sprangen im Mondenschein,
Der Blümlein so viel hier erblühten im Tal,
Von allen gefiel mir das Röslein zumal.
花々は枯れ、夏は過ぎた。
葉は吹き飛ばされてしまった。それが私の心を沈ませる。
私が夏に家に持ち帰った一輪のばらは、
持ちこたえているが、私が思うに、冬には枯れてしまうだろう。
小鳥たちは歌い、林が耳を傾けていた。
ノロジカは月明かりの中飛び跳ねていた。
花々はこの谷に非常に多く咲いていた。
なかでもこのばらがとりわけ私の気に入ったのだった。
Der Herbst ist gekommen, der Sturm braust heran,
Die Luft ist verglommen, der Winter begann.
Gern wollt' ich nicht klagen um Stürme und Schnee,
Könnt's Röslein ertragen das eisige Weh!
O schon' mir die Zarte, das liebliche Kind,
Die Eiche, die harte, umbrause du, Wind!
Blüh', Röslein, ohn' Bangen, von Liebe bewacht,
Bis Winter vergangen und Mai wieder lacht!
秋が来て、嵐が徐々に荒れ狂う、
風は次第におさまり、冬が始まった。
私は嵐や雪を嘆きたくなかった。
あのばらが氷の痛みを耐えられるなら!
おお、私の繊細な娘をいたわっておくれ、愛らしい子よ、
硬いナラの木よ、ナラの周りで轟音を立てろ、風よ!
咲け、ばらよ、心配しないで、愛に見守られて、
冬が過ぎ去り、五月が再び笑う時まで!
詩:Matthias Jacob Schleiden (1804-1881), as Ernst
曲:Anton Bruckner (1824-1896), "Herbstkummer", WAB. 72 (1864) [ voice and piano ]
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2024年はブルックナーの生誕200年のアニバーサリーで、いろいろな企画がなされています。本音を言うとちょっとブルックナーの交響曲に苦手意識を持っている私ですが、せっかくの機会なので、解説動画などで少しずつ慣れていこうと思っています(以前に一度N響のコンサートで聞いた記憶がありますが、何番だったか失念しました...)。
金管がごぉーっと咆哮するところや、シューベルトから受け継いだようなゲネラルパウゼ(全休止)などがブルックナーの特徴というのは覚えましたが、もっと勉強してみようと思います。こちらから近づかなくてもすぐに魅了される作曲家とそうでない作曲家がいますが、私の場合ブルックナーは残念ながら後者のようです。でも、気長に接していけたらなと思っています。
閑話休題。ブルックナーにも20曲ほどの歌曲があるということを今回何か記事を書こうと調べていて知りました(ブルックナー歌曲のリスト)。
その中で、マティアス・ヤーコプ・シュライデンという植物学者が、本業とは無関係に出版した詩集のテキストにブルックナーが作曲した「秋の苦しみ」という歌曲を聞いてみました。2節の変形有節形式ですが、秋の描写が沁みる素敵な曲だと思います。
作曲:1864年4月 リンツ(Linz)
C (4/4拍子)
ホ短調(e-moll)
Mäßig bewegt (適度な動きをもって)
●ギュンター・グロイスベック(BS), マルコム・マーティノー(P)
Günther Groissböck(BS), Malcolm Martineau(P)
グロイスベック&マーティノーが「Männerliebe und Leben(男の愛と生涯)」というアルバムを作り、ブルックナーの歌曲を3曲収録しています。この録音はその中の1曲で、秋から冬にかけての厳しい季節の苦悩をバスの深い音で歌っています。寒々としたピアノパートも効果的です。
●エリーザベト・ヴィンマー(S), ダニエル・リントン=フランス(P)
Elisabeth Wimmer(S), Daniel Linton-France(P)
ソプラノで聞くとまた雰囲気が変わりますね。この演奏も素敵です。2019年10月5日リンツ、ブルックナーハウスでのライヴ録音です。
●ロベルト・ホルツァー(BS), トーマス・ケルブル(P)
Robert Holzer(BS), Thomas Kerbl(P)
同じバス歌手でもホルツァーはバリトンに近い印象を受けました。この演奏も素敵です。
●合唱用編曲版(Jonathan Rathbone編曲)
Calmus Ensemble, Robin Gaede(P)
透明な声の男女の歌手が非常に美しく歌っていて、胸に直接語り掛けてくるような感銘を受けました。
また、ブルックナーには秋をテーマにした短いピアノ独奏曲もありますのでご紹介します。
●秋の夕暮れに寄せる静かな省察
Stille Betrachtung an einem Herbstabend, WAB 123
ヴォルフガング・ブルンナー(P)
Wolfgang Brunner(P)
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(参考)
Herbstkummer (Bruckner) (Wikipedia)
Liste der Lieder von Anton Bruckner (Wikipedia)
マティアス・ヤーコプ・シュライデン (Wikipedia: 日本語)
Matthias Jacob Schleiden (Wikipedia: 独語)
Matthias Jakob Schleiden (Wikipedia: 英語):筆名でErnstと名乗っていたことも記載されている
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