レーヴェ「牧師の娘(Carl Loewe: Das Pfarrjüngferchen, Op. 62, Heft 2, No. 4)」を聴く

Das Pfarrjüngferchen, Op. 62, Heft 2, No. 4
 牧師の娘

1.
Herr Pfarrer hat zwei Fräulchen,
Die gar zu niedlich sind,
Sie haben kleine Mäulchen
Und Schühlein wie ein Kind
Und kleine flinke Händchen,
Zu knöppeln (klöppeln?) Spitz' und Käntchen,
Zu wickeln runde Knäulchen,
Zu drehen Rädchen wie der Wind.
 牧師様には2人の娘がいて、
 2人はとてもかわいらしく
 お口は小さく
 靴は子供のようで
 お手々は小さく器用で
 縁(ふち)をレース編みしたり
 糸をまるめて玉にしたり
 風のように糸車を回したりする。

2.
Im selbstgemachten Schöpfchen,
Im Lätzchen selbstgestickt,
Im selbstgeflochtnen Zöpfchen,
Im Strümpfchen selbstgestrickt,
Im selbstgebleichten Schürzchen,
Sie heben rußge Stürzchen,
Und rühren um im Töpfchen
Den Kohl, vom Gärtchen selbstbeschickt.
 自分で髪を整え
 自分で前掛けに刺繍をし
 自分でお下げ髪に編み
 自分で靴下に刺繍をし
 自分で前掛けを漂白して、
 二人は煤けた蓋を取り
 鍋の中の、
 自分でお庭から取ってきたキャベツをかき混ぜる。

3.
Am Sonntag, wenn zu lange
Der Vater läßt den Sand
Der Predigt rinnen, bange
Wird ihrer fleißgen Hand,
Verborgen unterm Stühlchen,
Sie halten da ein Spülchen,
Ein Künkelchen im Gange,
Man sieht es nicht im Gitterstand.
 日曜日に、あまりにも長いこと
 父が砂のように説教を
 垂れると
 不安になった二人の勤勉な手は
 椅子の下でこっそり
 糸巻をつかみ
 糸巻ざおを動かす。
 格子の囲いで見られることはない。

4.(1行目はレーヴェの付加。他の行は第1連の繰り返し)
Das sind des Pfarrers Fräulchen,
Die gar zu niedlich sind,
Sie haben kleine Mäulchen
Und Schühlein wie ein Kind
Und kleine flinke Händchen,
Zu knöppeln Spitz' und Käntchen,
Zu wickeln runde Knäulchen,
Zu drehen Rädchen wie der Wind.
 それが牧師の娘さんたち、
 2人はとてもかわいらしく
 お口は小さく
 靴は子供のようで
 お手々は小さく器用で
 縁(ふち)をレース編みしたり
 糸をまるめて玉にしたり
 風のように糸車を回したりする。

詩:Friedrich Rückert (1788-1866), "Die Pfarrjüngferchen", appears in Haus- und Jahrslieder, in 3. Des Dorfamtmannsohnes Kinderjahre [formerly, "Erinnerungen aus den Kinderjahren eines Dorfamtmannsohns"] 
曲:Carl Loewe (1796-1869), "Die Pfarrjüngferchen", op. 62, Heft 2 no. 4 (1837), stanzas 1-3 [ voice and piano ]

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フリードリヒ・リュッケルトの詩による「牧師の娘(Das Pfarrjüngferchen, Op. 62, Heft 2, No. 4)」はカール・レーヴェによって愛らしいリートとして1837年10月に作曲されました。私がこの曲をはじめて知ったのはファスベンダーとガルベンによるDeutsche Grammophonのレーヴェ歌曲集のCDでした。一回聞いただけで気に入り、一体何度聞いただろうというぐらい繰り返し聞いたものでした。

リュッケルトの原詩にはもともとレーヴェが作曲しなかった第4連があり、娘たちが何年も料理をしているうちにしわくちゃになってしまったので男たちの意欲が失せて独身のままだったという、今ならアウトな内容になっています。レーヴェがこの第4連を省略して、第1連を繰り返す形(1行目だけレーヴェによる改変がありますが)にしたのは妥当な判断だったように思います。

レーヴェは、第3連のみ若干の変化を加えた有節形式で作曲しました(A-A-A'-A)。第3連は説教する父親の目を盗んで編み物をするところで、途中からこれまでのニ長調の同主調にあたるニ短調に変わります。

レーヴェの歌曲の特徴の一つは歌声部にメリスマが多用されることだと思います。この曲でもそれほど多くはありませんが、メリスマがあります。弾き語りをするレーヴェにとって、装飾的な歌の技術に自信があったのでしょうか。

また、ピアノの間奏や後奏が糸車をくるくる回している様を思わせ、とても魅力的です。楽譜には特に指示はありませんが、コルト・ガルベンのようにアッチェレランドして速めていくとお茶目な感じが出て魅力的でした。

1_20240727183101 

2_20240727183101

C (4/4拍子)
ニ長調(D-dur)
Allegro grazioso

●ブリギッテ・ファスベンダー(MS), コルト・ガルベン(P)
Brigitte Fassbaender(MS), Cord Garben(P)

ファスベンダーとガルベンがDGに録音したレーヴェ歌曲集のCD(1987年10月ベルリン録音)によって、バラーデだけではないレーヴェのリートの魅力に開眼しました。このCDで解説を担当されている喜多尾道冬氏は日頃から歌曲を歌うファスベンダーを非常に高く評価していて、「F=ディースカウとならぶ大リート歌手」と言い切っておられるのが清々しいです。ピアノのガルベンは間奏や後奏をアッチェレランド気味に速めていく箇所など表現力が素晴らしいです。

●ガブリエレ・ロスマニト(S), コルト・ガルベン(P)
Gabriele Rossmanith(S), Cord Garben(P)

コルト・ガルベンによるcpoレーベルへのレーヴェ歌曲全集第4巻に収録されています。ロスマニトの清楚な美声で聞くと、テキストで歌われている娘さんたちのイメージが浮かびます。

●ルドルフ・ボッケルマン(BR), ミヒャエル・ラウハイゼン(P)
Rudolf Bockelmann(BR), Michael Raucheisen(P)

1943年2月5日録音。ピアニストのラウハイゼンがドイツリートの集大成を録音するというプロジェクトを進める中、戦争で中断を余儀なくされますが、レーヴェの作品についてはかなり多くの録音が残されました。この録音はその中の一つと思われますが、ボッケルマンのとぼけたユーモラスな歌唱が楽しいです。後奏の最後にボッケルマンがテクスト最後の"wie der Wind(風のように)"を追加して歌っています。

●エンゲルベルト・クッチェラ(BS), グレアム・ジョンソン(P)
Engelbert Kutschera(BS), Graham Johnson(P)

この曲は女声歌手しか歌わないというイメージをこれまで勝手に持っていたのですが、男声の低声歌手が歌うことでユーモラスな雰囲気が強まってなかなかいいですね。

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(参考)

The LiederNet Archive

IMSLP ("Das Pfarrjüngferchen"はp.84)

フリードリヒ・リュッケルト(Wikipedia:日本語)

Friedrich Rückert (Wikipedia:独語)

F. Rückert's gesammelte poetische Werke. [Edited by H. Rückert.], 第 1 巻(P.219)

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