故コンラート・リヒター(Konrad Richter)について
日本を代表する共演ピアニストの平島誠也氏のブログ「落語ときどきピアノ」の記事で、平島氏の師のお一人だったコンラート・リヒター(Konrad Richter: 1935.12.2-2024.4.8)の逝去を知りました。
リヒターの実演に接する機会は残念ながらなく、もっぱら若い頃に聞いていたFMラジオやCDのみで接していたので、人物像などは全く知らず、歌曲演奏の他にウルマンの作品紹介に積極的だったことぐらいしか知りませんでした。平島氏のブログにそのあたりのことも含めて思い出が書かれていて、とても興味深いので、ぜひご覧ください。
リヒターといえばヘルマン・プライとのヴォルフ『アイヒェンドルフ歌曲集』やライヴによるバラード集(ヴォルフ「火の騎士」等)の録音が第一に思い浮かびますが、その他にもロベルト・ホルと複数の録音を残しています。
Musikvereinのアーカイヴで検索すると、1967年1月12日~1969年10月4日までヘルマン・プライと4回、1975年2月19日・23日にヴォルフの同一プログラムでハンス・ホッターと2回だけ(ホッターがスタジオ録音していない"Trunken müssen wir alle sein"も含まれていますが、ピアノパートがとても華やかな作品です)、1976年1月13日~1988年12月5日までロベルト・ホルとなんと17回にもわたって共演しています。ほとんどが小ホールのブラームス・ホール(Brahms-Saal)ですが、1986年5月17日の1回だけホルと大ホール(Großer Saal)で演奏しています。そういえばホルはホッターの弟子で、その関係でリヒターがホルと共演するようになったのでしょうか?ちなみにこのアーカイヴではリヒターのソロはありませんでした。
オーストリア西部で毎年催されるSchubertiadeのアーカイヴで検索すると、1978年6月20日から1989年6月19日まで(最初と最後はホルとの共演)39件もヒットしますが、興味深いことに歌曲の夕べ(Liederabend)だけでなく、13回にもわたるマスタークラス(Meisterkurs)やコンサートで演奏する曲目に関する講演会(Einführungsvortrag)なども含まれています。ここでもリヒターが共演するほとんどはロベルト・ホルですが、平島氏のブログでも触れられていますが、ハンス・ホッターと2夜にわたる『冬の旅』のコンサートに出演しています(1982年6月24日・26日)。そして、このシューベルティアーデではリヒターは2回にわたりソロ演奏を披露しています。1回目はレナード・ホカンソン、アーウィン・ゲイジと3人で分担してシューベルトのピアノ独奏曲を演奏するという、歌曲ピアニスト好きにとっては夢のようなコンサートが1981年6月17日に催されています。曲目はリンク先を見ていただくことにして、リヒターは晩年のハ短調のソナタD958を演奏しています。なんとなくですが、それぞれのピアニストの特質に合わせた選曲になっているような気がして微笑ましいです。そして2回目のソロコンサートは1984年6月1日に催され、モーツァルトの幻想曲ハ短調KV475(よく14番のソナタの前に演奏される曲)で始まり、あとはすべてシューベルトのピアノ曲です。締めは1981年にも披露していたソナタ19番ハ短調D958です。
それにしてもロベルト・ホルとの共演の多さが目につきます。ホルはリヒター以外のピアニストとも多く録音を残していますが、実演ではリヒターが共演しやすかったのかなと想像します。
東京文化会館のアーカイブでは12件ヒットしました。1980年のソロリサイタルから2006年の庄司祐美さんとの歌曲とピアノソロのコンサートまでこちらはかなりバラエティに富んだ内容でした。日本の錚々たる歌手たちだけでなく、浦川宜也さんとのブラームス:ヴァイオリンソナタ全曲というのもありました。
それにしてもクラシックを聴き始めて間もない頃からコンラート・リヒターという名前をなぜか知っていたのですが、きっかけが思い出せないのです。おそらくFMか何かで聞いたのだと思うのですが、誰との演奏だったのか、そのうちカセットテープを整理したら分かるかもしれません。
コンラート・リヒター氏の録音を聞いて偲びたいと思います。
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(参考)
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