東京春祭 歌曲シリーズ vol.37:レネケ・ルイテン(ソプラノ)&トム・ヤンセン(ピアノ)(2024年4月4日(木) ライブ配信席)
東京春祭 歌曲シリーズ vol.37
レネケ・ルイテン(ソプラノ)&トム・ヤンセン(ピアノ)
2024年4月4日(木) 19:00開演(18:30開場)
東京文化会館 小ホール(※私はライブ配信で聞きました)
ソプラノ:レネケ・ルイテン
ピアノ:トム・ヤンセン
シューベルト:春に D882
シューベルト:すみれ D786
シューマン:歌曲集《詩人の恋》op.48
第1曲 いと美しき五月に
第2曲 僕の涙から
第3曲 ばらよ、ゆりよ、鳩よ、太陽よ
第4曲 君の瞳を見つめると
第5曲 僕の魂をひたそう
第6曲 ラインの聖なる流れに
第7曲 僕は恨まない
第8曲 小さな花がわかってくれるなら
第9曲 それはフルートとヴァイオリン
第10曲 あの歌の響きを聞くと
第11曲 若者が娘に恋をした
第12曲 まばゆい夏の朝に
第13曲 僕は夢の中で泣きぬれた
第14曲 夜ごと君の夢を
第15曲 昔話の中から
第16曲 古い忌わしい歌
~休憩~
R.シュトラウス:歌曲集《おとめの花》op.22
第1曲 矢車菊
第2曲 ポピー
第3曲 木づた
第4曲 睡蓮
R.シュトラウス:歌曲集《4つの最後の歌》
第1曲 春
第2曲 九月
第3曲 眠りにつくとき
第4曲 夕映えの中で
[アンコール]
R.シュトラウス:明日! op.27/4
R.シュトラウス:献呈 op.10/1
R.シュトラウス:夜 op.10/3
Tokyo-HARUSAI Lieder Series vol.37
Lenneke Ruiten(Soprano)& Thom Janssen(Piano)
2024/4/4 [Thu] 19:00 Start [ Streaming start from 18:30 ]
Tokyo Bunka Kaikan, Recital Hall
Soprano:Lenneke Ruiten
Piano:Thom Janssen
Schubert: Im Frühling, D882
Schubert: Viola, D786
Schumann: Dichterliebe, Op.48
-Pause-
R.Strauss: Mädchenblumen, Op.22
R.Strauss: Vier letzte Lieder
[Zugaben]
R.Strauss: Morgen!, Op. 27/4
R.Strauss: Zueignung, Op. 10/1
R.Strauss: Die Nacht, Op. 10/3
-----
「東京春祭 歌曲シリーズ」は随分長いこと継続的に続いていて、歌曲ファンにとっては注目の公演なのですが、個人的に最近コンサートに出かけるのをずっと怠っていて、ここ数年もネットでチェックはするものの実際には足を運ばず仕舞でした。今回私は東京文化会館での実際の公演を同時刻にライブ配信するネット席(アーカイブ配信はなし)で聞きました。つまり家にいながらにして鑑賞できるわけです。ステージ中央の固定映像ですが、好きな場所をアップにすることが出来、さらに日本語字幕もついて料金も1200円というリーズナブルさ、しかも音質もなかなかいいと至れり尽くせりです(回し者ではございません)。
オランダのソプラノ、レネケ・ルイテン(Lenneke Ruiten)はアーメリングの弟子としてずっと昔から知ってはいたものの、コンサートで聞く機会はありませんでした。ちなみにオランダ語の"ui"という2重母音の発音は日本語にも他の欧米の言葉にもない音らしく、彼女の姓Ruitenをアーメリングは「ラウテン」に近い音で発音していました。"ui"はアウ、アイのどちらかに聞こえることが多いようですが、最初のアはドイツ語の"ö"を発音する時の要領で「ア」に近く発音するといいのかなぁと勝手に理解しています。
今回のレネケ・ラウテン(公式サイトの表記はルイテンですが、ここからはラウテンと書かせていただきますね)のコンサートは、シューベルトの春にちなんだ2曲、特に2曲目の「すみれ」は10分以上かかる作品ですが、詩の内容がかわいそうで読むたびにしんみりしてしまいます。シューベルトもすみれに共感を寄せたとても美しい音楽を付けています。その後にシューマンの歌曲集《詩人の恋》全曲というなかなかヘビーな内容で、前半だけで1時間近くかかっていました。後半はR,シュトラウスの2つの歌曲集《おとめの花》op.22、《4つの最後の歌》ですっきりまとめています。それにしても女声歌手のリーダーアーベントでのR.シュトラウス率の高さは昔から変わりません。やはり歌手にとってR.シュトラウスの伸びやかなフレーズは歌っていて気持ちいいのかもしれません。
ピアニストのトム・ヤンセンと先日亡くなったルドルフ・ヤンセンはどちらも日本語だと「ヤンセン」ですが、ルドルフ・ヤンセンはJansen、トム・ヤンセンはJanssenなので血縁関係はなさそうですね。アーメリングの公式チャンネルの編集者でもあり、あの貴重な動画はトム・ヤンセンのおかげで見ることが出来るのだと思うと、彼への感謝の念が沸き起こります。
ラウテンとヤンセンのコンビはおそらく数十年前、アーメリングがフランスの村でマスタークラスを開いた際のDVD映像に映っていて、まだ若々しい感じでした。ジャケット写真で近影を見ると結構大人になった印象ですが、今回のコンサートでは髪をまとめ、より若々しく感じられました。
シューベルトの「春に」からラウテンのリリックで芯のある声が美しく響き、会場で聞いたらさらに良かっただろうなと思わされます。ディクションも良く、強弱のめりはりもあり、シューベルトのメロディーに生き生きと寄り添った歌唱でした。
「すみれ」も10分以上があっという間に感じられる歌唱で、彼女がオペラにも積極的に出演していることが関係しているのか、物語の展開をドラマティックに迫真の表現で聞かせてくれました。"Schneeglöcklein(まつゆきそう)"と呼びかけるメロディーが優しく慈愛に満ちていて、曲中何度もあらわれるのですが、出てくるたびにシューベルトの天才を感じていました。まつゆきそうが春の到来を告げ、目を覚ましたすみれがいそいそと花嫁の準備をしたところ、まだ他に誰も目覚めておらず、早すぎたことを知ったすみれは羞恥のあまり、物陰で泣きじゃくります。その後、とうとう春がやってきて他の花々も目覚めて宴会をしようとしたところ、最愛のすみれがいないことに気づきみんなで探しに出かけたところ、憔悴してしおれているすみれを発見したという何とも切ない内容です。その後に例の「まつゆきそう」の音楽が再びあらわれ、すみれに安らかに眠るように語りかけます。誰のせいでもなくタイミングが悪かっただけなのかもしれませんが、すみれの繊細で傷つきやすい心にシューベルトが付けた音楽が共感に満ちていて、それをラウテンとヤンセンが美しく演奏してくれました。
その後で、シューマンの《詩人の恋》全曲ですが、第1曲が「いと美しき五月に」で、ラウテンはシューベルトから季節をつなげてプログラミングしたことが分かります。
はるか昔にロッテ・レーマンがこの歌曲集を歌と朗読の2バージョンで録音して以来、久しく女声歌手はこの作品に手を出しませんでした。カナダのロイズ・マーシャルがその後歌い、さらにブリギッテ・ファスベンダーやバーバラ・ボニーが歌いだしてから、女声による《詩人の恋》もこの作品の可能性の一つとして認知されるようになってきたと思います。今回ラウテンが歌った《詩人の恋》も、聞きなれた男声の響きが女声に変わっただけで、演奏の価値はいささかも変わらないと思います。実際、配信で聞いた限りでは特に違和感なく、恋の芽吹きから失恋、思い出を沈める最後まで、恋愛の過程を素晴らしく描き出していました。
前半だけで7:55ぐらいになってしまい、その後20分間の休憩をはさみ、後半のR.シュトラウスのプログラムとなりました。ラウテンとヤンセンは最近シュトラウスのCDをリリースし、今回選曲された作品はみな含まれている為、事前に聞いていました。
最初は《おとめの花》op.22全4曲です。CDで聞いた時はちょっと声が重かったように感じたのですが、コンサートで若返った?と思うほど、きれいに響きが伝わってきます。最初の「矢車菊」「ポピー」と異なる趣の曲を鮮やかに歌ったルイテンですが、ここで家でリラックスして聞いていた私はあろうことか寝落ちしてしまいました。普段もこの時間は寝落ちしてしまうことが多く、この日は気を付けていたのですが、次に気づいた時はアンコールの「明日!」が流れていました。つまり、今回のおそらくメインだった《4つの最後の歌》の時は夢の中でした。演奏者お二人に申し訳ない気持ちでいっぱいですが、寝てしまったものは取り返せないので、気持ちを切り替えて残りのアンコールを楽しみました。
レネケ・ラウテンはおそらく今が声・表現ともに全盛期といっていいのではないかと感じました。どこをとっても素晴らしく彫琢された歌唱で、歌曲歌手の多い現代にあってもっと評価されてしかるべき歌手だったと思います。会場で聞いていないので、確かなことは言えないのですが、おそらく声量も豊かだったのではないかと想像します。
トム・ヤンセンのピアノはラウテンの歌をのせる流れを作る演奏だったと思います。細かい目配りや主張よりは曲全体の流れをとめずに先に進めていくといった方向を目指していたように感じました。
最近のコメント