セザール・フランク(César Franck: 1822-1890)生誕200年
リエージュ(当時のネーデルラント連合王国、現在のベルギーにある都市)出身のセザール・フランク(César-Auguste-Jean-Guillaume-Hubert Franck、1822年12月10日 - 1890年11月8日)が今年(2022年)で生誕200年を迎えます。
私個人としてはフランクといえば、まずは有名なヴァオリンとピアノのためのソナタ イ長調、そしてオルガン曲やピアノ曲の作曲家という印象です。フランク自身オルガン奏者としても活動していた為、「3つのコラール小品」などとても魅力的に感じます。最近ピアノの演奏で聞き魅了された「前奏曲、フーガと変奏曲」Op.18はオリジナルがオルガン曲とのことで、あらためてオルガンで聞いたところ同じ曲にもかかわらず全く色合いが違っていてとても興味深かったです。もちろん交響曲やピアノ五重奏曲なども広く親しまれていますが、その一方でフランクの歌曲というとほぼ知られないまま現在に至るという状況でしょう。
正直私もつい最近まで「夜想曲(Nocturne)」ぐらいしか脳裏に浮かんできませんでした。
そんな中、ギリシャのバリトン、タスィス・クリストヤニス(Tassis Christoyannis)がソプラノのヴェロニク・ジャンス(Véronique Gens)とピアノのジェフ・コーエン(Jeff Cohen)と共にフランクの歌曲・二重唱曲全集を録音しました(HMVの紹介ページはこちら)。その録音風景をこちらで見ることが出来ます。
●セザール・フランク:歌曲・二重唱曲全集
César Franck: Complete Songs and Duets
タスィス・クリストヤニス(BR), ヴェロニク・ジャンス(S), ジェフ・コーエン(P)
Tassis Christoyannis(BR), Véronique Gens(S), Jeff Cohen(P)
クリストヤニスはラプラント系統の柔らかい美声で繊細かつ力強く歌っています。
この2枚組のフランク歌曲全集の録音と同時期にリサイタルも開催したようで、フランク歌曲ばかりの演奏を見ることが出来ます。
●追憶:フランク歌曲コンサート(タスィス・クリストヤニス(BR), ジェフ・コーエン(P))
Recollection: César Franck's songs – concert by Tassis Christoyannis and Jeff Cohen
Recorded in Venice, Palazzetto Bru Zane, 9th April 2022
César FRANCK (セザール・フランク作曲)
00:01:18 Les cloches du soir (夕暮れの鐘)
00:03:54 Nocturne (夜想曲)
00:07:44 Aimer (愛すること)
00:12:06 S'il est un charmant gazon (もしそれが美しい芝生なら)
00:14:30 Roses et papillons (薔薇と蝶)
00:16:44 Le mariage des roses (薔薇の結婚)
00:19:15 Ninon (ニノン)
00:21:46 L'Émir de Bengador (バンガドールの酋長)
00:26:42 Robin Gray (ロバン・グレー)
00:31:53 Passez ! passez toujours! (永遠に過ぎ去れ!)
00:38:25 Le vase brisé (壊れた花瓶)
00:41:57 Lied (リート)
00:43:50 Souvenance (追憶)
00:47:08 À cette terre où l’on ploie sa tente (この地では、人は夕暮れに天幕を畳む)
00:52:42 Le Sylphe (空気の精)
Reynaldo HAHN (レナルド・アン作曲)
00:57:43 Si mes vers avaient des ailes (私の詩に翼があったなら)
それではフランクの歌曲の中からいくつかをピックアップしてみたいと思います。
●セザール・フランク:夜想曲
César Franck: Nocturne
エリー・アーメリング(S), ルドルフ・ヤンセン(P)
Elly Ameling(S), Rudolf Jansen(P)
歌詞対訳(ルイ・ドゥ・フルコ詩、藤井宏行氏訳)
人生に疲れたものが夜に救いを求めるという内容です。やはり沁みますね。円熟期のアーメリングの深みのある表現が素晴らしいです。
●セザール・フランク:リート(歌)
César Franck: Lied, FWV. 85
カミーユ・モラーヌ(BR), リリ・ビヤンヴニュ(P)
Camille Maurane(BR), Lily Bienvenu(P)
歌詞対訳(リュシヤン・パテ詩、藤井宏行氏訳)
かつてばらを摘んでくれた彼女のお墓の前に佇むと彼女の声が聞こえるという内容です。なんと美しい曲でしょう!歌の旋律もピアノの響きも一度聞くと引き込まれます。モラーヌのバリトン・マルタンの声は耳に心地よく響きます。
●セザール・フランク:バラの結婚
César Franck: Le mariage des roses, FWV. 80
ヘン・ライス(S), チャールズ・スペンサー(P)
Chen Reiss(S), Charles Spencer(P)
歌詞対訳(ウジェヌ・ダヴィッド詩、藤井宏行氏訳)
バラやツバメのように僕らも愛し合おうと恋人に呼びかける歌です。なんとも愛らしい曲で、ライスの美しいソプラノがよく合っていました。
●セザール・フランク:もし素敵な芝生があれば
César Franck: S'il est un charmant gazon, FWV. 78
ブリュノ・ラプラント(BR), ジャニヌ・ラシャンス(P)
Bruno Laplante(BR), Janine Lachance(P)
歌詞対訳(ヴィクトル・ユゴー詩、藤井宏行氏訳)
同じテキストにフォレが作曲した「愛の夢」という歌曲が私は大好きなのですが、このフランクの歌曲もまた愛らしい魅力があります。フランクはこのテキストに2回作曲していて、第2作はギリシャ人バリトンTassis ChristoyannisとピアニストJeff Cohenの全集で演奏されていますが、ほとんどの録音では第1作が取り上げられています。ここでのラプラントも第1作を柔らかい美声で素晴らしく歌っています。
●セザール・フランク:バラと蝶々
César Franck: Roses et papillons, FWV. 81
マリー・ドゥヴェルロー(S), フィリップ・カッサール(P)
Marie Devellereau(S), Philippe Cassard(P)
歌詞対訳(ヴィクトル・ユゴー詩、藤井宏行氏訳)
いずれお墓に呼ばれるのだから一緒に生きていきなさいとバラと蝶々に呼びかけるという内容です。はかない雰囲気のドゥヴェルローの歌は彼岸からの声のような印象を受けました。
●セザール・フランク:壊れた花瓶
César Franck: Le vase brisé, FWV. 84
ブリュノ・ラプラント(BR), ジャニヌ・ラシャンス(P)
Bruno Laplante(BR), Janine Lachance(P)
歌詞対訳(ルネ=フランソワ・シュリ=プリュドム詩、藤井宏行氏訳)
愛する者の心の傷を、扇で小さなひびの入った花瓶が日に日に傷が広がる様になぞらえて、傷に触るなと歌われます。深刻に始まり、詩の展開に応じてピアノと共に盛り上がります。ラプラントとラシャンスの感情のこもった演奏に引き付けられました。
●【番外編:合唱曲】セザール・フランク:五月の初めてのほほ笑み
César Franck: Premier sourire de mai, FWV. 90
ナミュール室内合唱団, フィリップ・リガ(P), ティボー・レナーツ(C)
Chœur de Chambre de Namur, Philippe Riga(P), Thibaut Lenaerts(C)
歌詞対訳(ヴィクトル・ヴィルデ詩、藤井宏行氏訳)
合唱曲ですが、冷たい空気感が冒頭のピアノと合唱の歌いだしから伝わってきて、思わずひきつけられました。冬から春への変わり目のまだ肌寒い中、動植物たちが活動を始める様が美しく描かれています。
●【番外編:宗教曲】セザール・フランク:天使のパン
César Franck: Panis Angelicus, FWV 61, No.5
ジェスィー・ノーマン(S), ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団, サー・アレグザンダー・ギブソン(C)
Jessye Norman(S), Royal Philharmonic Orchestra, Sir Alexander Gibson(C)
歌詞対訳(トマス・アクイナス詩、藤井宏行氏訳)
テキストの背景については上記リンク先で藤井さんが解説してくださっていますのでぜひご覧ください。ノーマンは心で歌っていますね。感動的です。
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