ネット席で聞いた2026年の東京・春・音楽祭 歌曲シリーズ
東京春祭 歌曲シリーズ vol.48
クリストフ・プレガルディエン(テノール)&渡邊順生(フォルテピアノ)
2026年4月7日 [火] 19:00開演
東京文化会館 小ホール
テノール:クリストフ・プレガルディエン(Christoph Prégardien)
フォルテピアノ:渡邊順生(Yoshio Watanabe)
シューベルト:
憂い D772
《白鳥の歌》D957 より
別れ
セレナード
愛の便り
秋 D945
《白鳥の歌》D957 より
遠い国で
わが宿
戦士の予感
それらがここにいたことは D775
《白鳥の歌》D957 より 春のあこがれ
-休憩-
春に D882
わが心に D860
深い悩み D876
ヴィルデマンの丘をこえて D884
《白鳥の歌》D957 より
漁夫の娘
海辺で
都会
影法師
彼女の絵姿
アトラス
[ アンコール曲 ]
シューベルト:
《白鳥の歌》 より 鳩の便り D965a
夜と夢 D827
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東京春祭 歌曲シリーズ vol.49
デイヴィッド・バット・フィリップ(テノール)&ジェイムズ・ベイリュー(ピアノ)
2026年4月10日 [金] 19:00開演
東京文化会館 小ホール
テノール:デイヴィッド・バット・フィリップ(David Butt Philip)
ピアノ:ジェイムズ・ベイリュー(James Baillieu)
ヴォーン・ウィリアムズ:《命の家》
A.マーラー:《5つの歌》より
賛歌
恍惚
識る人
-休憩-
ワーグナー:《ヴェーゼンドンク歌曲集》
ブリテン:《ジョン・ダンの神聖なソネット》 op.35
[ アンコール曲 ]
伝統曲(ブリテン編):広い河の岸辺(O waly, waly)
クルティス : 忘れな草
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東京春祭 歌曲シリーズ vol.50
アンドレ・シュエン(バリトン)&ダニエル・ハイデ(ピアノ)
2026年4月14日 [火] 19:00開演
東京文化会館 小ホール
バリトン:アンドレ・シュエン(Andrè Schuen)
ピアノ:ダニエル・ハイデ(Daniel Heide)
シューベルト:
マイアホーファーの詩による5つの歌
冥府への旅 D526
夕べの星 D806
ドナウの川の上で D553
双子座に寄せる船乗りの歌 D360
舟人 D536
ハイネの詩による6つの歌(《白鳥の歌》D957より)
漁師の娘
海辺で
都会
影法師
彼女の絵姿
アトラス
-休憩-
様々な詩人による歌
鳩の便り D965a(ザイドル)
窓辺で D878(ザイドル)
君こそわが憩い D776(リュッケルト)
それらがここにいたことは D775(リュッケルト)
ミューズの息子 D764(ゲーテ)
春に D882(シュルツェ)
ブルックの丘にて D853(シュルツェ)
星 D939(ライトナー)
さすらい人 D649(シュレーゲル)
夕映えの中で D799(ラッペ)
[ アンコール曲 ]
シューベルト:
《白鳥の歌》D957 より セレナーデ
月に寄す D259
《冬の旅》D911 より 菩提樹
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今年は上記の3公演をネット席で聞きました(つまり自宅でスマホの配信を視聴しました)。
聞いたとはいっても、最近年齢のせいか途中で寝落ちすることが多く、プレガルディエン(テノール)&渡邊順生(フォルテピアノ)とアンドレ・シュエン(バリトン)&ダニエル・ハイデ(ピアノ)は後半途中から夢の中で、とてももったいないことをしました(前者は前半の「遠い国で」から「戦士の予感」あたりも悲しいかな寝落ちしたようです...)。
デイヴィッド・バット・フィリップ(テノール)&ジェイムズ・ベイリュー(ピアノ)は休憩時間中に電話があり、後回しにする話の内容ではなかった為そのまま電話を続け、配信に戻った時は「ヴェーゼンドンク歌曲集」の「夢」の途中でした。ただ、この日は寝落ちせず、アンコールまでしっかり堪能できました。
プレガルディエン(ドイツ人がこの姓を言うのを聞くと、最後の音節を鼻母音で発音していて、プレガルディアンのように聞こえます)は御年70歳とのこと、私がはじめて聞いたのが1993年のフェルトキルヒのシューベルティアーデだったので彼は当時37歳で、若かりし頃から全盛期を経て、円熟期にいたるまで聞くことの出来たのは本当に感慨深いです。
今回、声の安定感という点においては多少年齢を感じるところはあったものの、それは生身の楽器をもつ声楽家ならば当たり前のことで気にするほどではなかったと思います。それよりも美しいディクションと作品へのスタイリッシュな姿勢、詩の語り部たる表情の豊かさはシューベルトの極上の作品群(「白鳥の歌」に他の歌曲を織り交ぜて構成されていた)を味わうのに最高の歌唱を聞かせてくれたと思います。
フォルテピアノの渡邊順生さんとはプレガルディエンの初期の来日時にも共演していたらしく(私は聞いていないのですが)、味のある響きがプレガルディエンの真摯な歌声にやさしく寄り添って、至福の時間でした。かえすがえすも寝落ちしてしまったのが悔しい!
以前に比べるとプレガルディエンはシューベルトの旋律への装飾が控えめだった印象を受けましたが、それでも時折はっとする装飾を加えてシューベルト歌曲の可能性を再発見させてくれました。ちなみに渡邊氏は私の記憶する限りではオリジナルのまま弾いていたと思います。
デイヴィッド・バット・フィリップ(テノール)&ジェイムズ・ベイリュー(ピアノ)については、今や引く手あまたの歌曲ピアニストのベイリューを聞きたくてチケットを購入したのですが、寡聞にして存じ上げなかったテノールのフィリップは今回の来日でシェーンベルク「グレの歌」に出演し、さらに演奏会形式のヴァーグナー「さまよえるオランダ人」に2回出演した後、この歌曲の夕べに出演したらしく、その声帯の強靭さに驚かされました。
イギリスのテノール歌手に抱いていた印象とは若干異なり、強靭でパワーのある声がヴァーグナー向きなのだろうと感じました。
最初のヴォーン・ウィリアムズの歌曲集《命の家》では有名な「静かな真昼(Silent Noon)」の締めのフレーズの弱声が若干不安定に感じられたのですが、徐々に声があたたまってきたのか、そのよく通る声(実際に会場で聞いたらどんな感じだったのか気になります)を巧みにコントロールして魅力的に聞かせてくれました。
アルマ・マーラー歌曲の濃密な響きも素敵で、休憩後のヴァーグナー「ヴェーゼンドンク歌曲集」はきっと本領発揮だったのではないかと想像します(先に書いたとおり、この歌曲集の間電話に出ていたのでほとんど聞けませんでした)。
ブリテンの《ジョン・ダンの神聖なソネット》はその難解なテキストとは相反する魅力的なブリテンの音楽に引き込まれました。フィリップもそれぞれの曲のキャラクターを見事に描き分けていたのではないかと思います。
アンコールのブリテン「広い河の岸辺(おお、哀れよO waly, walyというタイトルでお馴染みの曲)」でその美しい音楽を堪能させてくれた後は、デ・クルティスの「忘れな草」で全く異なるラテンの開放的な響きも素敵に聞かせてくれて、コンサートは終了しました。
もともとのお目当てだったジェイムズ・ベイリューは、期待にたがわぬ素晴らしさで、その紡ぎだす音の磨き抜かれた美しさに感銘を受けました。どの曲も過度な自己主張はせず、作品をありのままに描きながらそれでいて存在感を感じさせる至芸でした。歌曲ピアニストの名手が昔から現在にいたるまでイギリスから脈々と輩出されるのはきっと何らかの要因があるのでしょう。
そして、アンドレ・シュエン(バリトン)&ダニエル・ハイデ(ピアノ)はDGレーベルでシューベルトの三大歌曲集をリリース済みという期待のバリトン歌手&ピアニストのコンビです。
世界中の歌劇場からも引っ張りだこのシュエンが、こうして歌曲にも精力的に取り組んでいるのは嬉しい限りです。
その響きはバリトンの深みと軽やかな響きとが共存して、さまざまなタイプの歌曲に対応が可能な声と感じました。
なによりもドイツ語の響きが美しく、重厚な曲から軽快な曲までなんの違和感もなく描き出していて、すでに完成されたアーティストの貫禄が感じられました(1984年生まれということは41歳で、声も表現も旬の時期だと思います)。今回、オールシューベルトで、前半にマイアホーファー歌曲集と「白鳥の歌」からハイネ歌曲集、後半にザイドル、リュッケルトなど様々な詩人から選ばれた珠玉の歌曲集を披露してくれました。
やはりシューベルトの歌曲を聞くと本当にいいなぁと思います。歌曲に惹かれた中学生の頃から現在にいたるまでいろいろな作曲家の素晴らしい歌曲に出会ってきましたが、やはりシューベルトを聞くと安心して身を委ねて聞けます(安心しすぎて寝落ちしてしまうのは困ったものですが...)。今回、後半に「ミューズの息子」「ブルックにて」などの軽快な楽しい曲はあるものの、比較的穏やかで心に染みる曲が多く選ばれているのはシュエンの好みを反映しているのかなぁと興味深く感じるところです。
以前クリンメルの歌曲の夕べでも演奏を披露してくれたダニエル・ハイデは、シュエンのほとんど唯一の共演ピアニストのように思えます(録音ではカルラ・ハルテンヴァンガーというピアニストとも組んでいるようですが)。さまざまなピアニストと共演するゲルネやプレガルディエンとは異なり、ゲアハーアー(ゲルハーヘル)&フーバー、白井光子&ヘルのような歌手とピアニストの固定的な関係をめざしているのかもしれません。歌手とピアニストが長く組むことによって、今後さらに解釈が変化・深化していくのかもしれません。ハイデは安定したテクニックと優れた音楽性をもつピアニストだと思うので、今後シュエンとさらにリートの世界を探求していくことを楽しみにしたいと思います。

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