ゲンツ&岡原慎也/バリトンリサイタル(2010年9月6日(月) 宝塚ベガ・ホール)
ベガ・ホール開館30周年記念
シュテファン・ゲンツ バリトンリサイタル ~シューマン イヤーに寄せて~
2010年9月6日(月)19:00 宝塚ベガ・ホール(全自由席)
シュテファン・ゲンツ(Stephan Genz)(baritone)
岡原慎也(Shinya Okahara)(piano)
シューマン(Robert Schumann)
詩人の恋(Dichterliebe) Op.48
~休憩~
4つの歌 Op.124より「私の馬車はゆっくりと(Mein Wagen rollet langsam)」Op.124-4
ベルシャザール(Belsatzar) Op.57
リーダークライス(Liederkreis) Op.24
~アンコール~
シューベルト/ドッペルゲンガー(Der Doppelgänger)
R.シュトラウス/献身(Zueignung)
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遅めの夏休みをとって関西旅行に出かけていたのだが、事前に関西方面のコンサートを調べていてこのコンサートのことを知った。
ゲンツは2008年のラ・フォル・ジュルネで聴いて以来。
今回は東京公演はないようで、ちょうど旅行の日程と重なった為に聴くことが出来てラッキーだった。
もちろん会場の宝塚ベガ・ホールに行くのも初めて。
宝塚歌劇で有名な宝塚駅から阪急線で1駅のところにある清荒神(きよしこうじん)駅が最寄り駅。
駅のすぐ前といってもいい立地で、図書館の隣に会場があった。
ホールの壁はレンガを模した(?)模様で、中央にあるパイプオルガンの両脇には美しいステンドグラスがある。
響きは教会のように若干残響が多い印象を受けたが、座席の関係だろうか。
今回ゲンツは岡原慎也の共演でシューマンのハイネの詩による作品ばかりを選んで演奏した。
事前の宣伝が少なかったのか、空席が目立つ、もったいない状態だった。
短く髪を刈って登場したゲンツは、あまり大きな身振りをせずに歌うので、聴き手は歌に集中できる。
以前より声に厚みを増した印象を受けたが、優しい美声は変わらない。
相変わらずドイツ語の発音が非常に美しく、聴いていて心地よい。
ゲンツの歌唱は作品第一の姿勢を感じさせる。
「我」を捨てて作品そのものを提示する、奇をてらわない歌唱。
ハイネの毒よりもシューマンの感傷に焦点をあてた歌唱と感じた。
「詩人の恋」などでも、作品にこめられた表情をくまなく表現しながら、どこか第三者的な冷静さも感じられ、その距離感がかえって聴衆の多様な受け取り方を許容することになったと思う。
抑えた弱声で歌われた時がとりわけ素晴らしく、例えば「詩人の恋」の第4曲など至芸だった。
なお「リーダークライス」の第2曲では歌声部を複数のメロディーから選べるようになっている箇所があるが、ゲンツは高い方を歌っていた(私にはあまり馴染みのないメロディーだった)。
岡原慎也のピアノも素晴らしい。
歌曲のことを知り尽くしている人にのみ可能な名演だったと感じられた。
例えば「詩人の恋」の第5曲の後奏など、非常にニュアンス豊かに歌うが、決して流れがとまらず、そのさじ加減が絶妙だった。
ピアノの蓋は全開で、雄弁な響きから繊細な表情まで、自在にコントロールしていた。
「弾く」というよりも「歌う」演奏だったことが素晴らしかった。
なお、配布冊子の解説と対訳は岡原氏自身が担当されていたが、読む人がすっと理解できるような分かりやすい日本語訳だったのが有難い。
シューマンイヤーに素晴らしいシューマン歌曲を聴けて満足の一夜だった。
今度は東京でもお願いします!
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