イアン・ボストリッジ&グレアム・ジョンソン/リサイタル(2012年1月14日 王子ホール)

イアン・ボストリッジ テノール・リサイタル
2012年1月14日(土)16:00 王子ホール(Oji Hall)(A列10番)

イアン・ボストリッジ(Ian Bostridge)(Tenor)
グレアム・ジョンソン(Graham Johnson)(Piano)

パーセル;ティペット(Purcell; Tippett)/ひとときの音楽(Music for a While)
パーセル;ブリテン(Purcell; Britten)/女王に捧げる哀歌(The Queen's Epicedium)

J.S.バッハ;ブリテン(J.S.Bach; Britten)/5つの宗教的歌曲(Five Spiritual Songs)
 思え、わが心よ(Gedenke doch, mein Geist, zurücke)BWV509
 来たれ、魂たちよ、この日は(Kommt, Seelen, dieser Tag)BWV479
 いと尊きイエスよ(Liebster Herr Jesu)BWV484
 甘き死よ、来たれ(Komm, süsser Tod)BWV478
 御身はわがかたわらに(Bist du bei mir)BWV508

ハイドン(Haydn)/英語によるカンツォネッタ集(English Canzonettas) より
 喜びの伝播(満足)(Content)
 船乗りの歌(Sailor's Song)
 彼女は決して恋について話さない(She Never Told her Love)
 さすらい人(The Wanderer)
 誠実(Fidelity)

~休憩~

シューベルト(Schubert)/ゲーテの詩による歌曲(Goethe Lieder) より
 月に寄す(An den Mond I)(第1作)D259(1-2,3-4,8-9節)
 恋人のそばに(Nähe des Geliebten)Op.5-2, D162(1,2,4節)
 夜の歌(Nachtgesang)D119
 恋する者の様々な姿(Liebhaber in allen Gestalten)D558(1,3,7,9節)
 海の静けさ(Meeres Stille)Op.3-2, D216
 湖上で(Auf dem See)Op.92-2, D543
 ミニョンに(An Mignon)Op.19-2, D161(1,2,3,5節)
 最初の喪失(Erster Verlust)Op.5-4, D226
 ガニュメート(Ganymed)Op.19-3, D544
 ミューズの子(Der Musensohn)Op.92-1, D764
 月に寄す(An den Mond II)(第2作)D296

~アンコール~
シューベルト(Schubert)/音楽に寄せて(An die Musik)D547
パーセル;ティペット(Purcell; Tippett)/ひとときの音楽(Music for a While)

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このコンサートも昨年震災前に予定されていた公演の振り替えである(ただしチケットは新たに購入し直さなければならなかったが)。
オペラシティの巨大な空間とは異なる王子ホールの親密な空間は、リートを聴くにはより適した場であり、実際、ボストリッジとジョンソンによる演奏は、より細やかな表情が伝わってくるものだった。

前半はまずパーセルとバッハの歌曲をイギリスの作曲家ティペットやブリテンが編曲した作品。
パーセルの「ひとときの音楽」などはよく知られた作品だが、ティペット編曲版を聴いたのは初めてかもしれない。
ピアノパートが異なるとまた新鮮な響きがするものだ。
バッハの宗教的歌曲5曲はボストリッジのスタイリッシュな表現が光っていた。
有名な「御身はわがかたわらに」は実は別の作曲家の手によるものであるらしい。

ハイドンの英語によるカンツォネッタ集を実演で聴けることは珍しい。
そういう意味でも貴重な歌唱であり、ボストリッジは堂々たる「船乗りの歌」、秘めた恋心を歌った「彼女は決して恋について話さない」、陰鬱な雰囲気が印象的な傑作「さすらい人」、ドラマティックな「誠実」などハイドン作品の多様性をこれらの選曲で見事に描き出していた。

休憩後はシューベルトのゲーテの詩による作品ばかり11曲。
冒頭と最後を同じテキストによる「月に寄す」の第1作と第2作で囲み、その間に恋の歌や水に因んだ作品、古代ギリシャに因んだ作品などを巧みに織り込む。
魅力的な選曲であり、ボストリッジもジョンソンも、彼らの本領発揮といったところだ。

ボストリッジは相変わらず様式感を保ちつつも美声を響かせ、作品と絶妙な距離感を保つ。
一方のピアニスト、ジョンソンは、知り尽くしたこれらの歌曲のエッセンスを抽出してみせる。
ピアノのテクニックを誇示することはなく、あくまで作品に奉仕する姿勢は、歌曲伴奏のひとつの理想を呈示していて素晴らしかった。

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イアン・ボストリッジ&グレアム・ジョンソン/シューベルト「白鳥の歌」ほか(2012年1月10日 東京オペラシティ コンサートホール)

イアン・ボストリッジ テノール・リサイタル
2012年1月10日(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(1階3列12番)
イアン・ボストリッジ(Ian Bostridge)(テノール)
グレアム・ジョンソン(Graham Johnson)(ピアノ)

シューベルト(Schubert)

水鏡 Widerschein D949
冬の夕べ Der Winterabend D938
星 Die Sterne D939

白鳥の歌 Schwanengesang D957 より
 愛の便り Liebesbotschaft
 兵士の予感 Kriegers Ahnung
 春のあこがれ Frühlingssehnsucht
 セレナーデ Ständchen
 わが宿 Aufenthalt
 遠い国で In der Ferne
 別れ Abschied
 アトラス Der Atlas
 彼女の姿 Ihr Bild
 漁師の娘 Das Fischermädchen
 まち Die Stadt
 海辺にて Am Meer
 影法師 Der Doppelgänger

~アンコール~
シューベルト/鳩の便りD965A
シューベルト/月に寄せてD296

※休憩なし。
※本公演は2011年3月31日(木)に予定されていた公演の延期公演。

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昨年の大震災によって延期となっていたボストリッジとジョンソンによるリサイタルを聴いた。
東京オペラシティの前から3列目の中央から見ると、ボストリッジは相変わらず細い(と同時に体も薄い)。
背はひょろっと高く、本当にあの痩せた体からまろやかな美声が出るというのが不思議な気がする。

ボストリッジは今回もとてもよく動いた。
なんだかオペラの舞台に立った歌手のようである。
歩き方なども行ったり来たりしながらのリハーサル?といった趣すら感じられる。
だが、この夜のプログラムはシューベルト晩年の傑作群。
一筋縄ではいかない濃い作品ばかりである。
彼の痩身から重量級の表現をする為には歩きながら歌うことが必要なのかもしれない(録音の時はどうしているのだろうか)。

斜に構えた雰囲気をもったボストリッジだが、シューベルトの作品へのアプローチは正攻法で、クリーミーな美声も依然健在である。
そして「白鳥の歌」の低音箇所が若干きつそうだったのを除くと、性格の全く異なる晩年の凝縮された作品群それぞれへの対応力は素晴らしかった。
没入しながらもどこか冷めた視点も持った彼の歌唱は、それゆえに異なる嗜好をもった聴き手の多くを魅了するのかもしれない。

いったん袖にひっこんでアンコールとして歌われた「鳩の便り」でようやくほっと一息つけたのだった。

昨年震災間もない日本にフェリシティ・ロットと共にやってきて感銘を与えてくれたピアニストのグレアム・ジョンソンは、今回もまた熟練の技で聴き手を魅了した。
彼はムーア、パーソンズといった往年の伴奏の巨匠たちの教えを受けているのだが、ピアニスティックな面での表現よりも、作品への寄与を優先させるという点で、ムーアにより近いものを受け継いでいるように感じた。
今回の「白鳥の歌」でも、弱音で演奏する箇所ではほとんどささやくかのような響きで歌を優先させ、出るべきところでもピアノで歌うことを決して忘れない。
その姿勢はピアノという楽器を介在させていながら、歌手と共に歌曲の小宇宙を完結させることに彼の演奏の美質があるように感じられた。
一見地味だが、その温かみのある響きは、聴き手への優しさにあふれていた。

休憩がなかったので、中断なくシューベルトの世界にどっぷりとつかった1時間半だった。

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フェリシティ・ロット&グレアム・ジョンソン(2011年4月15日 王子ホール/4月20日 東京文化会館 大ホール)

Lott_johnson_20110415

2011年4月15日(金)19:00 王子ホール(G列5番)

フェリシティ・ロット(Felicity Lott)(ソプラノ)
グレアム・ジョンソン(Graham Johnson)(ピアノ)

シューマン(Schumann)
献呈(Widmung)Op.25-1(「ミルテの花」より)
くるみの木(Der Nussbaum)Op.25-3(「ミルテの花」より)
献身の花(Die Blume der Ergebung)Op.83-2(「3つの歌」より)
東のばらより(Aus den östlichen Rosen)Op.25-25(「ミルテの花」より)
わたしのばら(Meine Rose)Op.90-2(「6つの詩」より)
時は春(Er ist's)Op.79-23(「子供のための歌のアルバム」より)
愛の歌(Liebeslied)Op.51-5(「リートと歌 第2集」より)
哀しそうに歌わないで(Singet nicht in Trauertönen)0p.98a-7(「ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスター』によるリーダー」より)
 
プーランク(Poulenc)/「こんな日こんな夜(Tel Jour Telle Nuit)」(全9曲)
 好い日(Bonne journée)
 からの貝殻の廃墟(Une ruine coquille vide)
 負けた旗のような額(Le front comme un drapeau perdu)
 被災したキャラバン(Une roulotte couverte en tuiles)
 全速力で(A toutes brides)
 哀れな草(Une herbe pauvre)
 君を愛してだけいたい(Je n'ai envie que de t'aimer)
 燃える残忍さをもつ顔(Figure de force brûlante et farouche)
 ぼくらは夜を築いた(Nous avons fait la nuit)

~休憩~

ブリッジ(Bridge)/過ぎ去るな、幸せな日よ(Go not, happy day)
ヴォーン=ウィリアムズ(Vaughan Williams)/静かな昼(Silent Noon)(「命の家」より)
クィルター(Quilter)/紅の花弁が眠る(Now sleeps the crimson petal)Op.3-2
クィルター/愛の哲学(Love's Philosophy)Op.3-1
ブリテン(Britten)/悲しみの水辺(O waly, waly)(第3集「イギリスの歌」より)
ブリテン/恋心(Fancie)

オッフェンバック(Offenbach)/あの方に伝えて(Dites-lui)(オペレッタ「ジェロルスタン大公妃(La Grande Duchesse de Gérolstein)」より)
オッフェンバック/ああ私は兵隊さんが好き(Ah! Que j'aime les militaires)(オペレッタ「ジェロルスタン大公妃」より)
メサジェ(Messager)/恋は野の鳥(L'amour est un oiseau rebelle)(オペレッタ「熱中(Passionnément)」より)
メサジェ/恋人がふたり(Tous les deux me plaisent)(オペレッタ「仮面の恋人(L'amour masqué)」より)
カワード(Coward)/もし愛がすべてなら(If Love were all)(オペレッタ「ほろ苦さ」より)
カワード/ピッコラ・マリーナの居酒屋で(A Bar on the Piccola Marina)

~アンコール~
イギリス古謡;ブリテン(Britten)/おまえはニューカッスル生まれではないのか(Come you not from Newcastle?)
R.シュトラウス(Strauss)/明日(Morgen!)(「4つの歌曲」Op.27より)

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東日本大震災のわずか1ヶ月後に、はるばる英国からフェリシティ・ロットとグレアム・ジョンソンが予定通り来日してくれた。
放射能汚染のニュースが海外でも報道される中、おそらく周囲の猛反対を押し切っての来日だったことだろう。
彼らの英断に心からの敬意と感謝の気持ちを捧げたい。

今宵の王子ホールはもちろん完売。
開演前、埋め尽くされた客席は、世界的な名花の日本初リサイタルを今や遅しと待ちわびて、熱気にあふれていた。
登場したデイム・ロットは濃い緑のシックな衣裳に身を包み、優雅な歩みで現れた(おそらく日本の現状に配慮して華美な衣裳は避けたのだろう)。
まだ演奏前にもかかわらず割れんばかりの大拍手である。
名手グレアム・ジョンソンの姿を生で拝見したのは初めてだが、過去の多くの録音のジャケットで見た写真よりも恰幅がよくなり、すっかり好々爺といった印象だ。

プログラムは前半にドイツリート(シューマン)とフランスメロディ(プーランク)、後半はよく知られたイギリス歌曲の数々と、仏・英のオペレッタという幅広さ。
ロットの膨大なレパートリーのエッセンスを一夜にして味わえる見事なプログラム・ビルディングである。

シューマンの歌曲からは可憐で繊細な味わいの作品が多く選ばれていたが、ロットの歌唱は紛れもなく第一級のドイツ歌曲歌手の一人であることを実感させた。
どのタイプの曲を歌っても魅力的な息を吹き込み、聴き手を惹きつけてしまう。
声は信じられないほどみずみずしさを保っており、高音もよく伸びていた(抑制した声では若干コントロールに苦心していた場面もあったが気になるほどではない)。
ゲーテの詩による「愛の歌」は比較的珍しい作品と思われるが、非常に美しい曲で、ロットはとても魅力的に歌ってくれた。
「哀しそうに歌わないで」のコケットリーはオペラ歌手としてのロットの表現力が歌曲に生かされた好例だろう。
ロットとシューマンの相性の良さを感じた。

プーランクが友人ポール・エリュアールの詩に作曲した9曲からなる歌曲集「こんな日こんな夜」は、それほど頻繁に聴くことの出来る作品ではないだろう。
その稀な機会がロットの優れた歌唱で得られたことは非常にうれしい。
一見地味な歌曲集だが、聴き込むほどプーランクのエッセンスがつまっているのが感じられて、どんどん引き込まれる。
ロットの歌唱はフランス語を語るようにメロディーに乗せ、プーランク特有の趣を素敵に表現していた。
第4曲の締めくくりに出てくる"coeur(心)"という言葉には歌と語りの中間のような色を付けて印象的だった。

休憩後の最初のブロックはブリッジ、ヴォーン=ウィリアムズ、クィルター、ブリテンといったイギリス歌曲の名曲ぞろい。
イギリス歌曲集の録音では頻繁に歌われるこれらの作品だが、生のステージで聴ける機会はなかなか無い。
ロットの美声でこれらの旋律美をたっぷりと味わうことが出来たのは私にとって非常に贅沢な時間だった。
クィルターの「愛の哲学」など盛り上がること必至の名曲で私もとても気に入っている作品なので、ロットとジョンソンの素敵な演奏で聴けて感無量である。
また、ブリテンの「悲しみの水辺」はこの夜のロットの歌唱の一つのクライマックスといってもよかった。
その声と表情に込められたそこはかとない悲しみは、彼女の芸術の最高のものを聞かせてもらったという気持ちで、ただただ感動的だった。

最後のブロックは、くつろいで聴ける軽妙なオペレッタの数々であったが、このブロックは聴衆も一段と盛り上がった。
気品に満ちたロットがくだけた表情で変幻自在に表現するのだ。
全身を使って、時にコミカルに、時に真摯に、時に大胆に、それぞれの場面を演じ歌う。
どの曲も彼女が歌うだけで、そこに情景が浮かんでくるかのよう。
オッフェンバックの「ああ私は兵隊さんが好き」など、一度聴いたら虜となってしまう楽しい曲で、ロットも乗りに乗っていた。
ノエル・カワードの「もし愛がすべてなら」の歌詞には、はからずも「自分のできることをすればいい/必要なら泣けばいい/好きなときに笑えばいい」(広瀬大介:訳)という箇所があり、ロットも歌いながらこみ上げてくるものがあったように見えた。

グレアム・ジョンソンはふたを全開にしながらも決して歌を覆い隠してしまうことのないバランス感覚はさすがだった。
非常にやわらかく手首を動かし、タッチは軽めで、技巧を決して前面でひけらかさない。
しかしどの作品でも血肉としているのが歴然で、歌を生かすことに徹しているのが職人技の極地といった感じで素晴らしかった。

アンコールは2曲。
1曲目の前にロットが「このような中で来てくださってうれしい」というような挨拶をし、2曲目の前にはジョンソンが「明日は良くなるというシュトラウスの歌を演奏します。日本が良くなるように」といったような挨拶をして感動的だった。
シュトラウスの「明日」を弾くジョンソンの前奏はこれまで数え切れないほど聴いてきたこの曲の演奏中で最も心を揺さぶる「歌」があり、聴いている私もこみあげてくるものを抑えるのに必死だった。
ロットも涙をこらえながら歌っていたようだ。

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お2人の演奏から聴衆がどれほど勇気づけられたことか。
最初からアンコールの終わりまで、一貫して英国の紳士淑女の典型を見たような気持ちだった。
演奏を聴き終えて、これほど「ありがたい」という気持ちになったことはなかなかないことだと思う。
フェリシティ・ロットとグレアム・ジョンソンに心からの感謝を!

なお、6月にBSで放映予定とのこと。
これは是非おすすめです!

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(追記)

フェリシティ・ロット&グレアム・ジョンソン(2011年4月20日 東京文化会館 大ホール)

都民劇場音楽サークル第586回定期公演
フェリシティ・ロット ソプラノリサイタル
2011年4月20日(水)19:00 東京文化会館 大ホール(1階L11列1番)

フェリシティ・ロット(Felicity Lott)(ソプラノ)
グレアム・ジョンソン(Graham Johnson)(ピアノ)

シューマン(Schumann)
献呈Op.25-1(「ミルテの花」より)
くるみの木Op.25-3(「ミルテの花」より)
献身の花Op.83-2(「3つの歌」より)
東方のばらOp.25-25(「ミルテの花」より)
私のばらOp.90-2(「6つの詩」より)
時は春Op.79-23(「子供のための歌のアルバム」より)
恋の歌Op.51-5(「リートと歌 第2集」より)
悲しそうに歌わないで0p.98a-7(「ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスター』によるリーダー」より)
 
プーランク(Poulenc)/「ある日ある夜」(全9曲)
 よい一日
 こわれた貝殻
 破れた旗のような額
 瓦を葺いた家形馬車
 まっしぐらに
 みすぼらしい草
 君を愛したいだけ
 熱烈で残忍な姿
 ふたりは闇をつくる

~休憩~

ブリッジ(Bridge)/ゴー・ノット、ハッピー・デイ
ヴォーン=ウィリアムズ(Vaughan Williams)/静かな真昼(「命の家」より)
クィルター(Quilter)/真紅の花びらがまどろめばOp.3-2
クィルター/愛の哲学Op.3-1
ブリテン(Britten)/おお悲しい(第3集「イギリスの歌」より)
ブリテン/気まぐれ

オッフェンバック(Offenbach)/あの方に言って、優れた人と(オペレッタ「ジェロルスタン大公妃」より)
オッフェンバック/ああ私は兵隊さんが好き(オペレッタ「ジェロルスタン大公妃」より)
メサジェ(Messager)/恋は野の鳥(オペレッタ「熱中」より)
メサジェ/恋人がふたり(オペレッタ「仮面の恋人」より)
カワード(Noël Coward)/もし恋がすべてなら(オペレッタ「ほろ苦さ」より)
カワード/ピッコラ・マリーナのバーで

~アンコール~
プーランク(Poulenc)/愛の小径-ワルツの調べ
ビゼー(Bizet)/ギター(「アルバムの綴り」より)
シュトラウス(Strauss)/明日!

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都民劇場音楽サークルの一貫として、東京文化会館大ホールでも王子ホールと同じプログラムで登場した(日本語表記は上記のとおり異なっていた)。

今回はワインレッドの鮮やかなドレスに、シースルーの黒ベールをはおり登場。
後半は黒ベールの代わりに鮮やかな絵柄の短いショールを肩にはおって登場。

王子ホールのような親密な空間ではない分、前回のような感傷的な気分にはならず、普通のリサイタルを普通に楽しめたという感じである。
大きなホールに対応して彼女の声も一層伸びやかであった。
そして相変わらずジョンソンのピアノはぴたっと寄り添っていた。

アンコールが前回と違っていたのも嬉しい。
今回も前回同様のスピーチがあったが、ジョンソンではなくすべてロットがスピーチしていた。

ぜひ今後も繰り返し来日して、歌曲を聴く喜びを味わわせてほしいと願わずにはいられない彼女の名唱であった。

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キルヒシュラーガー&ジョンソン/ハイペリオン・ブラームス歌曲全集Vol.1

The Songs of Johannes Brahms~1(ブラームス歌曲全集Vol.1)

Kirchschlager_johnson_brahms

Hyperion: CDJ33121
録音:2008年8月18-20日, All Saints, Durham Road, East Finchley, London

Angelika Kirchschlager(アンゲリカ・キルヒシュラーガー)(MS)
Graham Johnson(グレアム・ジョンソン)(P)

1.Scheiden und Meiden(別れ), Op.19-2 (ウーラント:詩)[1'09]
2.In der Ferne(異郷), Op.19-3 (ウーラント:詩)[2'16]
3.Von ewiger Liebe(永遠の愛), Op.43-1  (ファラースレーベン:詩)[4'45]
4.Der Gang zum Liebchen(恋人のもとへ), Op.48-1 (ヴェンツィヒ:詩) [1'19]
5.Der Überläufer(裏切り), Op.48-2 (「子供の不思議な角笛」より) [1'39]
6.Liebesklage des Mädchens(乙女の愛の嘆き), Op.48-3 (「子供の不思議な角笛」より) [1'25]
7.Gold überwiegt die Liebe(黄金は愛にまさる), Op.48-4 (ヴェンツィヒ:詩) [1'22]
8.Trost in Tränen(涙の慰め), Op.48-5 (ゲーテ:詩) [3'08]
9.Vergangen ist mir Glück und Heil(幸福と平和は私から去った), Op.48-6 (民謡) [4'03]
10.Herbstgefühl(秋の気配), Op.48-7 (シャック:詩) [3'20]
11.O komme, holde Sommernacht(おお来たれ、やさしい夏の夜よ), Op.58-4 (グローエ:詩) [1'06]
12.Dämmrung senkte sich von oben(たそがれが降りて来る), Op.59-1 (ゲーテ:詩) [3'53]
13.Auf dem See(湖上にて), Op.59-2 (ズィムロック:詩) [3'08]
14.Junge Lieder I "Meine Liebe ist grün"(わが恋は緑), Op.63-5 (フェーリクス・シューマン:詩) [1'35]
15.Junge Lieder II "Wenn um den Holunder"(にわとこの木に夕風が), Op.63-6 (フェーリクス・シューマン:詩) [2'11]
16.Salome(サロメ), Op.69-8 (ケラー:詩) [1'57]
17.Abendregen(夕べの雨), Op.70-4 (ケラー:詩) [5'09]
18.Therese(テレーゼ), Op.86-1 (ケラー:詩) [1'33]
19.Feldeinsamkeit(野の寂しさ), Op.86-2 (アルメルス:詩) [2'55]
20.Nachtwandler(夢にさまよう人), Op.86-3 (カルベック:詩) [3'11]
21.Über die Heide(荒野を越えて), Op.86-4 (シュトルム:詩)  [1'58] 
22.Versunken(思いに沈んで), Op.86-5 (フェーリクス・シューマン:詩) [1'57]
23.Bei dir sind meine Gedanken(私の思いはあなたの許で), Op.95-2 (ハルム:詩) [1'40]
24.Beim Abschied(別れの時に), Op.95-3 (ハルム:詩) [1'00]
25.Der Jäger(狩人), Op.95-4 (ハルム:詩) [1'12]
26.Da unten im Tale(あの下の谷の底では) (ドイツ民謡集より)[1'54]
27.Soll sich der Mond nicht heller scheinen(月はこれより輝かないで) (ドイツ民謡集より)[3'05]
28.Feinsliebchen, du sollst mir nicht barfuss gehn(可愛い人) (ドイツ民謡集より)[3'01]
29.Och Moder, ich well en Ding han!(お母さん、ほしいものがある) (ドイツ民謡集より)[2'16]

(上記の日本語訳は輸入会社の帯の表記による)

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英Hyperionレーベルの歌曲全集にあらたなシリーズが加わった。
ヨハネス・ブラームスの歌曲全曲!
これまでローデシア生まれの英国ピアニストのグレアム・ジョンソン(Graham Johnson: 1950-)が、このレーベルでシューベルト(全37巻)とシューマン(全11巻)の全歌曲録音という偉業を成し遂げ、それだけでも後世にまで残る優れた録音となったが、これからさらにブラームス全曲シリーズをスタートさせたのは楽しみだ。
シューベルト全集をスタートさせた当初は30代後半だったジョンソンも今年で60歳。
いまやベテランの域に達し、ますます磨きのかかった演奏を聴かせてくれるに違いない(余談だが、来年にはロットやボストリッジと共に来日してくれるようだ。生ジョンソンがとうとう聴ける!)。

シューベルトやシューマンとは異なり、ブラームス歌曲はこれまでにも他レーベルで全曲録音がされてきた。
DGでのノーマン&F=ディースカウ&バレンボイム(P)盤、そしてcpoでのバンゼ&フェアミリオン&アンドレアス・シュミット&ドイチュ(P)盤。
今回のHyperion盤はおそらく1枚ごとに歌手が代わるのだろうから、DGやcpoの全集とは違った趣の録音になるのだろう。

そのブラームス歌曲集の第1巻がリリースされたので、早速購入して聴いてみた。
歌手はリート歌手として旬の時期を迎えたオーストリアのメゾ、アンゲーリカ・キルヒシュラーガー。
全29曲が一見無造作に並べられているように感じられるが、作品48と作品86は出版された番号順にまとめて演奏され、そのほかの曲も作品番号の若い方から順に並べてあり、最後のブロックを簡素で美しい「ドイツ民謡集」の編曲からの抜粋で締めくくる。
メゾで歌うにふさわしい深みのある作品を、ブラームスの創作の流れに沿って体感できる、良く練られたプログラミングといえるだろう。

最初に「別れ」作品19-2と「異郷」作品19-3が演奏されるが、この2曲、共通の音楽的テーマが用いられた一対の作品群と位置づけられよう。
ブラームスはほかにも「雨の歌」と「残響」、「夏の夕べ」と「月の光」など、共通のテーマを用いた作品を歌曲集で連続して配置することがあり、まとめて演奏することを意識しているのであろう。

この巻にはブラームスの代表曲と言えるほど著名な作品も含まれている。
「永遠の愛」「恋人のもとへ」「わが恋は緑」「野の寂しさ」「あの下の谷の底では」などはブラームス歌曲初心者の方にはまず最初に聴いてみていただきたい名作である。

一方、あまり馴染みのない作品もここには多いが、そのどれもが心にしみる味わいを感じることが出来る。
ゲーテの詩による「たそがれが降りて来る」などはブラームスでなければ書けないような染み渡ってくる作品である。

もともと私はブラームス歌曲は大好きで、シューベルトに次いで好きなぐらい(ヴォルフと同じぐらい)なのである。
様々な歌手とピアニストがこれまで多くのブラームスの歌曲集を実演や録音で聴かせてくれたが、余程未熟でない限りはそれぞれの演奏を楽しんできたつもりだ。
今回のキルヒシュラーガーとジョンソンによる新たなブラームス歌曲集も、あらゆる方に堂々とお勧めしたくなる素晴らしく魅力的な演奏だった。

まず彼女の声が、これまでソプラノ寄りに感じられたのが、今回、メゾの深みを充分に味わわせてくれたこと。
これは彼女の声の成熟によるのだろう。
さらにこまやかさを増した表現力が、どんな小品にも生き生きとした息吹を与えている。

ピアノのジョンソンは相変わらず作品を知り尽くした演奏を聴かせてくれた。
彼の演奏は詩の言葉に反応した細やかさが特徴的で、それが作品に奥行きを与える場合と、「木を見て森を見ず」的な全体の流れを停滞させてしまう場合もあるが、今回は概して効果的な演奏になっていたように感じた。

このシリーズも、シューベルトやシューマンの時と同様にピアノのジョンソンが解説を執筆しているが、そこで新しい事実を知ることが出来た。
有名な「永遠の愛」の詩は、従来ヨーゼフ・ヴェンツィヒによるものとされてきたが、実際はファラースレーベンによるようだ。

今後のラインナップがどうなっているのか気になるが、それは楽しみに待つことにしよう。

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