新国立劇場/ワーグナー作曲「パルジファル」(2014年10月11日 新国立劇場 オペラパレス)

新国立劇場
2014/2015シーズン オペラ
パルジファル/ワーグナー作 全3幕〈ドイツ語上演/字幕付〉
2014年10月11日(土)14:00 新国立劇場 オペラパレス
(第1幕:115分-休憩:45分-第2幕:70分-休憩:35分-第3幕:75分)

【アムフォルタス】エギルス・シリンス
【ティトゥレル】長谷川 顯
【グルネマンツ】ジョン・トムリンソン
【パルジファル】クリスティアン・フランツ
【クリングゾル】ロバート・ボーク
【クンドリー】エヴェリン・ヘルリツィウス
【第1・第2の聖杯騎士】村上 公太、北川 辰彦
【4人の小姓】九嶋 香奈枝、國光 ともこ、鈴木 准、小原啓楼
【花の乙女たち(声のみの出演)】三宅 理恵、鵜木 絵里、小野 美咲、針生 美智子、小林 沙羅、増田 弥生
【アルトソロ】池田 香織

【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【指 揮】飯守 泰次郎

【演 出】ハリー・クプファー
【演出補】デレク・ギンペル
【装 置】ハンス・シャヴェルノッホ
【衣 裳】ヤン・タックス
【照 明】ユルゲン・ホフマン
【舞台監督】大仁田 雅彦
【合唱指揮】三澤 洋史

【芸術監督】飯守 泰次郎

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新国立劇場のヴァーグナー作曲「パルジファル」を見た。
飯守 泰次郎の指揮ということも注目だった。

ハリー・クプファーが新国立劇場のためにつくった新演出は、あちこちで情報を目にしていたので、ある程度は予想できるものだったが、それにしても舞台装置が凄かった。
ステージの手前から奥までジグザグの道があり、その道が様々な映像に変化する仕掛けになっている。
さらに道は途中で上げ下げが出来るようになり、断絶させて意味をもたせることも出来るし、上がってきた時に新しい人物が登場したりもする。
さらに槍の先のような細長い棒が動き回り、そこにクンドリが乗っていたり、アンフォルタスが乗っていたりする。
その棒は様々な色に光輝くようになっていて、物語の進行に合わせて、変化する。
さらに聖杯の置き場所にもなっていた。
そんな大がかりなセットの中、登場人物の衣装は基本的に斬新さはなかったように思うが、合唱団演じる聖杯騎士たちは白地の宇宙服っぽい感じに見えた(4階席から見たので違っているかもしれません)。
第2幕の花の乙女たちは歌手は登場せずに奥で歌い、女性ダンサー8人ぐらいがエロティックなダンスでパルジファルを誘惑していた。

そして最初から最後まで頻繁に舞台後方に現れて、パルジファルたちの行く手を見守っていたのが、クプファー・オリジナルの仏教僧3人である。
彼らがこの演出の最後の鍵を握ることになるのだが、クプファーによると、ヴァーグナーは仏教にも関心をもっていて、この「パルジファル」においてキリスト教と仏教を「倫理的なレベルで結び合わせた」のだそう。
両者の信者がこの演出を見たらどう思うのかは分からないが、一つの解釈として成立するものではあるだろう。

歌手陣は総じて声のよく通る見事な出来栄えを示したが、私が断トツに感銘を受けたのがグルネマンツを演じたジョン・トムリンソンである。
すでに70近いそうだが、その渋みあふれる語り口と、登場人物を包み込むような大きな包容力が、どれほどこのオペラの奥行きを深めていたことか。
主役を食ってしまうほどの素晴らしさだった。
カーテンコールの時の拍手の大きさもそれを物語っているだろう。

そしてタイトルロールのクリスティアン・フランツは以前「ジークフリート」でスーパーマンTシャツを着て出演していたのを思い出すが、彼の凛々しいテノールもまた素晴らしいものだった。
惜しむらくは見栄えが中年のおじさん(失礼)なので、タイトルロールとしての華には若干欠けるものの、パルジファルの純真無垢な性格には合っていると言えるかもしれない。
クンドリのエヴェリン・ヘルリツィウスは声質はバーバラ・ヘンドリックスを思い出させたが、ヴァーグナー歌手の声の迫力をしっかり有していた。
それに加え、見た目も美しく、第2幕では官能的な演技でクリングゾルと渡り合っていた。
それにしても聖俗併せ持つクンドリという女性は本当に不思議な存在だなといつも思う。
ヘルリツィウスはその点、真逆のキャラクターをうまく演じ分けていたと思う。
それからアンフォルタスのエギルス・シリンスと、クリングゾルのロバート・ボークも声量の豊かさと語りのうまさ、さらに演技力で惹きつけられた。

二期会の応援も得た新国立劇場合唱団の歌はいつもながら力強く深みもあった。
飯守泰次郎の指揮はどうやら遅めだったようだが、私はあまり聴き込んでいないのでそのへんはよく分からない。
ただ第3幕でグルネマンツやパルジファルがオケに合わせてゆっくり歌っているようには聞こえた。
だが、飯守氏の指揮による東京フィルは健闘したのではないか。
弦のトレモロなど実に美しかった。
最後のシーンに感動したのは舞台上の視覚的な要素だけではないと私には思えた。

長丁場だが、作り込んだプロダクションによって、充実した感銘を受けることが出来た。

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ワーグナー/ローエングリン(2012年6月1日 新国立劇場 オペラパレス)

2011/2012シーズン
[New Production]
リヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner)/ローエングリン(Lohengrin)(全3幕)
【ドイツ語上演/字幕付】
上演時間:第1幕65分 休憩40分 第2幕85分 休憩40分 第3幕65分
合計4時間55分

2012年6月1日(金)17:00 新国立劇場 オペラパレス(4階1列7番)

【ハインリヒ国王(Heinrich der Vogler)】ギュンター・グロイスベック(Günther Groissböck)
【ローエングリン(Lohengrin)】クラウス・フロリアン・フォークト(Klaus Florian Vogt)
【エルザ・フォン・ブラバント(Elsa von Brabant)】リカルダ・メルベート(Ricarda Merbeth)
【フリードリヒ・フォン・テルラムント(Friedrich von Telramund)】ゲルト・グロホフスキー(Gerd Grochowski)
【オルトルート(Ortrud)】スサネ・レースマーク(Susanne Resmark)
【王の伝令(Der Heerrufer des Königs)】萩原 潤(Hagiwara Jun)
【4人のブラバントの貴族(Vier brabantische Edle)】大槻孝志(Otsuki Takashi);羽山晃生(Hayama Kosei);小林由樹(Kobayashi Yoshiki);長谷川 顯(Hasegawa Akira)

【合唱(Chorus)】新国立劇場合唱団(New National Theatre Chorus)
【管弦楽(Orchestra)】東京フィルハーモニー交響楽団(Tokyo Philharmonic Orchestra)
【指揮(Conductor)】ペーター・シュナイダー(Peter Schneider)

【演出(Production)】マティアス・フォン・シュテークマン(Matthias von Stegmann)
【美術・衣裳(Scenery and Costume Design)】ロザリエ(rosalie)
【照明(Lighting Design)】グイド・ペツォルト(Guido Petzold)

新国立劇場の今シーズン最後の演目、ヴァーグナーの「ローエングリン」をはじめて生で聴いた。
シュテークマン演出の新プロダクションの初日である。
この日は5時開演とのことで、あらかじめ休暇をとり、睡眠と体調管理をしっかり整えたうえで会場に向かった。
その成果が出たのか、9割方は起きていられたのは私としては珍しいぐらいだ。
ヴァーグナーのオペラは演奏者も大変だろうが、聴く方もある種の持久力が求められる。
各幕間40分ずつを含めて5時間もの長丁場は私のようなヴァーグナーに普段あまり馴染んでいない者にとっては徐々に辛くなってくる。
何故これほどストーリーの展開を長々と続けるのか、その必然性はあるのか、正直なところ今の私には分からない。
だが、聞き終えた時の解放感と充実感は確かに他の作曲家のオペラでは味わえないものであろう。

マティアス・フォン・シュテークマンの演出は簡素で、象徴的な装置が置かれた中、格子模様の背景にこれまた抽象的な光の効果を用いて、必要以上のものをつめこまないスタイルだった。
衣裳は分かりやすく役柄に応じたものだったが、決して現代風アレンジではなく、オーソドックスといっていいのではないか。

今回は、タイロルロールのテノール、クラウス・フロリアン・フォークトの圧倒的な歌唱と存在感に尽きるといえるだろう。
声質が普通のヴァーグナー歌手とは異なり、優しい肌触りの心地よい声なのだが、声がどの音域でも全くむらがなく、無理せずとも会場の隅々にまで響き渡る声のヴォリュームをもっている。
さらに常に安定した音程、それに華やかな舞台姿は、紛れもなく世界的なスターであり、日本のオペラハウスでこのような素晴らしい歌手と出会えた幸運にただ感謝したい気持ちである。

エルザのリカルダ・メルベートは時々固さも感じられたものの、全般的にはこの役の複雑な心理を素晴らしく表現していた。
ハインリヒ国王(鳥刺しハインリヒ?)のグロイスベックの重厚な声の素晴らしさ、テルラムントのグロホフスキーの美声と細やかな演技、それにオルトルートの威力を見事に表現しきったレースマークにも感銘を受けた。
王の伝令を務めた萩原潤が外国勢に全く見劣りしない朗々たる歌唱を聴かせてくれた。
合唱団も演技を伴いながらも素晴らしいハーモニーを聴かせていた。
ペーター・シュナイダー指揮の東京フィルも後半若干疲れが感じられたものの、最後までヴァーグナーの世界をくっきりと描ききっていてブラヴォーである。

なお、第1幕の途中、ローエングリンが天上から登場して「私の氏素性を決して尋ねてはならない」と歌う箇所で比較的揺れの大きい地震が来た。
一瞬客席がざわめいたが、オケも歌手たちも全く動じず、何事もないかのように演奏が継続されたのは凄いと思った。
後で知ったのだが、地震が起きた時の心構えが事前に打ち合わせされていたようだ。

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METライブビューイング《ワルキューレ》(2011年6月13日 新宿ピカデリー)

METライブビューイング2010-2011
ワーグナー(Richard Wagner)/〈ニーベルングの指環 第1夜〉《ワルキューレ(Die Walküre)》(新演出)
上演日:2011年5月14日
上映時間:5時間14分

2011年6月13日(月)10:00-(休憩2回) 新宿ピカデリー スクリーン1(S列31番)

指揮(Conductor):ジェイムズ・レヴァイン(James Levine)
演出(Production):ロベール・ルパージュ(Robert Lepage)
美術:カール・フィリオン
衣装デザイン:フランソワ・サンオーバン
照明:エティエンヌ・ブシェ
映像デザイン:ボリス・フィルケ
インタラクティブ・プロジェクション:ホルガー・フォータラー

ブリュンヒルデ(Brünnhilde):デボラ・ヴォイト(Deborah Voigt)(ソプラノ)
ヴォータン(Wotan):ブリン・ターフェル(Bryn Terfel)(バスバリトン)
フリッカ(Fricka):ステファニー・ブライズ(Stephanie Blythe)(メゾソプラノ)
ジークリンデ(Sieglinde):エヴァ=マリア・ヴェストブルック(Eva Maria Westbroeck)(ソプラノ)
ジークムント(Siegmund):ヨナス・カウフマン(Jonas Kaufmann)(テノール)
フンディング(Hunding):ハンス=ペーター・ケーニヒ(Hans-Peter König)(バス)

The Metropolitan Opera

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METライブビューイングの2010-2011シーズン最終作で、最大の目玉でもある《ワルキューレ》を休暇のとれた今日見てきた。
最近体調がすぐれず降板も多いレヴァインだが、この日は無事指揮台に登場した。
しかし、歩くのも辛そうで、カーテンコールも指揮台からお辞儀をするのみである。

今回も演出のルパージュは多くの板を並べてコンピュータ制御で動かしながら様々な場面を表現していく。
「ヴァルキューレの騎行」の場面など、メットの客席から思わず拍手が出たほどである。
歌だけでなく、時にアクロバティックなこともしなければならない歌手たちはやはり重労働の仕事だなぁと感じさせられる。

ヴァーグナーの音楽はやはりオーケストラの書法が素晴らしい。
弦も管もメットの素晴らしいオケだからこそかもしれないが、実に雄弁に聴き手をドラマに引き込んで離さない。
事前にライトモティーフを予習しなくても、なんとなくこの人の時はこのモティーフが出てくるななどとある程度想像がつくように聴き手を引っ張っていってくれる。
特に金管セクションが活躍するヴァーグナーの音楽はその出来が成功の鍵を握っているのではないか。
さすがメットの金管は見事だった!

歌手たちは皆声もよく出ていたし、演技も細やかな表情をつけて見る者を惹きつける。
デボラ・ヴォイトは初めての役らしいが、さすがに脂ののった歌唱である。
最後の逆さ吊りも大変だったのではないか。
ヴォータンのターフェルは個性的な歌唱は好みが分かれるかもしれないが、妻フリッカへの頭があがらない様子や、娘ブリュンヒルデを愛しながらも罰しなければならない表情がなんともいえない哀愁を醸し出していて、その表情に感銘を受けた。
フリッカのブライズは堂々たる貫禄で聴かせる。
ヴェストブルック演じるジークリンデも、旬のスター、カウフマン演じるジークムントも、そのういういしさがなんともはまっている。
それにしてもカウフマンはテノールにしては随分暗く重い声をしている。
いずれバリトンの役にも進出するのではないか。
フンディング役のケーニヒは朗々たる歌唱だが、フンディングのキャラクターにしては優しそうな雰囲気で、もっとドラマティックでも良かったかもしれない。
8人のヴァルキューレたちも良く、映像ならではの細かい表情が見れたので違いが分かりやすかった。

なお、今回の案内役はプラシド・ドミンゴとジョイス・ディドナートの2人。
ディドナートが巧みに話を引き出すのはすでに知っていたが、ドミンゴの決して流暢とはいえない英語で出演者たちに語りかける言葉の優しさ、そして眼差しと気配りのなんと温かいことか。
世界の第一線で歌い続けてきたスターは、その歌声だけでなく、人柄でも人を惹きつけるものをもっているのだとすっかり感心してしまった。

今回の特典映像ではレヴァインの短いドキュメンタリーも流されて、これがまたすごかった。
レヴァインはオーケストラのパートをピアノで弾きながら、さらに歌手たちの相手役のパートも言葉をつけて歌いながら稽古をつけていく。
きっとオペラまるまる1曲分が歌詞も含めて完全に頭に入っているのだろう。
若かりしドミンゴとの練習風景など貴重な記録であり、ぜひご覧いただきたい映像である。

今シーズンのライブビューイング、結局12作中4作見逃したが、もしアンコール上映があれば是非見たいと思う。
全体的に充実した演目で充分楽しむことが出来た。
来期も「指環」の残り2作も含めて楽しみである。

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ワーグナー/「トリスタンとイゾルデ」(2011年1月10日 新国立劇場 オペラパレス)

2010/2011シーズン
[New Production]
リヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner)/トリスタンとイゾルデ(Tristan und Isolde)全3幕
【ドイツ語上演/字幕付】

2011年1月10日(月・祝)14:00 新国立劇場 オペラパレス(3階L10列1番)

1幕 85分 休憩 45分 2幕 85分 休憩 45分 3幕 85分
合計5時間45分

【トリスタン(Tristan)】ステファン・グールド(Stephen Gould)
【マルケ王(König Marke)】ギド・イェンティンス(Guido Jentjens)
【イゾルデ(Isolde)】イレーネ・テオリン(Iréne Theorin)
【クルヴェナール(Kurwenal)】ユッカ・ラジライネン(Jukka Rasilainen)
【メロート(Melot)】星野淳(Hoshino Jun)
【ブランゲーネ(Brangäne)】エレナ・ツィトコーワ(Elena Zhidkova)
【牧童(Ein Hirt)】望月哲也(Mochizuki Tetsuya)
【舵取り(Ein Steuermann)】成田博之(Narita Hiroyuki)
【若い船乗りの声(Stimme eines jungen Seemanns)】吉田浩之(Yoshida Hiroyuki)

【合唱】新国立劇場合唱団(New National Theatre Chorus)
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団(Tokyo Philharmonic Orchestra)
【指揮】大野和士(Ono Kazushi)

【演出】デイヴィッド・マクヴィカー(David McVicar)
【美術・衣裳】ロバート・ジョーンズ(Robert Jones)
【照明】ポール・コンスタブル(Paule Constable)
【振付】アンドリュー・ジョージ(Andrew George)

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「トリスタンとイゾルデ」を生で聴いたのははじめて。
ヴァーグナーの他の作品同様、この曲もおそろしく長大であった。
「昼」は消えて「夜」の快楽よ来るのだというようなことを延々何十分も主役2人が歌い続けるのを聴くのは正直疲れたが、細かく音楽を聴いていけばきっとこれほど長大である必然性があるのだろう。
歌曲ファンの私としては「ヴェーゼンドンク歌曲集」の中の「夢」と「温室で」が第2幕と第3幕に取り入れられているのをとりわけ興味深く聴いた。
おそらく理屈ではなく、ストーリーを追うことよりも、ヴァーグナーの音楽の洪水にどっぷり浸ることに喜びを感じればいいのだろう。
まだまだそういう境地に達するには時間がかかりそうだが、とても貴重な体験をしたことは確かである。

歌手の中で私が最も気に入ったのはブランゲーネ役のエレナ・ツィトコーワ。
言葉が明瞭で歌声もオケに拮抗できるボリュームがありながらリリカルな要素すら感じさせるところが一般的なヴァーグナー歌手の対極にあるようで新鮮だった。
トリスタン役のステファン(アメリカ人なのでスティーヴンでは?)・グールドも一貫して見事に歌っていたと思ったし、マルケ王のギド・イェンティンスも重厚な響きが役柄に合っていたように感じた。
イゾルデ役のイレーネ・テオリンは以前ブリュンヒルデを歌った時に聴いて以来だが、典型的なヴァーグナー歌手といった感じで高音を大音量で響かせる迫力はさすがだと思った。
しかし、繊細に語る箇所ではもう少しヴィブラートを抑えて内面的に歌ってほしい気がした。
特に最終幕では勢いにまかせて歌っていたように感じられたが、これは声が疲労していた為かもしれない。
最後の有名な「イゾルデの愛の死」は知っている曲だけにこちらの期待も大きすぎたのだろう。
私の好みのタイプの歌い方ではないもののヴァーグナーのオペラではこれぐらいパワフルで持久力がないとつとまらないのであろう。
とにかく長丁場をこれだけの歌唱で聴ければ満足すべきなのかもしれない。

大野和士の指揮は初めて聴いたが、さすが海外で実績を積んでいるだけのことはある。
実に雄弁にテンポ感もよく、しかも官能的な響きも追求しながら、ヴァーグナーの音楽のうねりを魅力的に聴かせてくれたと思う。
東京フィルも大野の指揮によくついていったと思う。

Tristan_und_isolde_201101_chirashi

ステージは水を張った舞台が用いられ、「ヴォツェック」の時を思い出した。
しかし今回はもともと海辺の設定なので、水を張る必然性は感じられた。
月が赤くなったり白くなったりというのは演出家なりの意図があるのだろうが、あまりそういうことを考える余裕はなかった。
最後にイゾルデが客席に背を向けて水の中へと進んでいき幕切れとなった。

なお、途中で携帯の着信音が鳴ったのは残念だった。

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ワーグナー/「神々の黄昏」(2010年3月27日 新国立劇場 オペラパレス)

楽劇「ニーべルングの指環」第3日
神々の黄昏
【序幕付全3幕】(ドイツ語上演/字幕付)

2010年3月27日(土) 14:00 新国立劇場 オペラパレス (4階4列16番)
ワーグナー(Richard Wagner)/「神々の黄昏(Götterdämmerung)」

ジークフリート:クリスティアン・フランツ(Christian Franz)(T)
ブリュンヒルデ:イレーネ・テオリン(Iréne Theorin)(S)
アルベリヒ:島村武男(Shimamura Takeo)(BR)
グンター:アレクサンダー・マルコ=ブルメスター(Alexander Marco-Buhrmester)(BR)
ハーゲン:ダニエル・スメギ(Daniel Sumegi)(BS)
グートルーネ:横山恵子(Yokoyama Keiko)(S)
ヴァルトラウテ:カティア・リッティング(Katja Lytting)(MS)

ヴォークリンデ:平井香織(Hirai Kaori)(S)
ヴェルグンデ:池田香織(Ikeda Kaori)(MS)
フロスヒルデ:大林智子(Obayashi Tomoko)(MS)

第一のノルン:竹本節子(Takemoto Setsuko)(MS)
第二のノルン:清水華澄(Shimizu Kasumi)(MS)
第三のノルン:緑川まり(Midorikawa Mari)(S)

合唱:新国立劇場合唱団(New National Theatre Chorus)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団(Tokyo Philharmonic Orchestra)
指揮:ダン・エッティンガー(Dan Ettinger)

<初演スタッフ>
演出:キース・ウォーナー(Keith Warner)
装置・衣裳:デヴィッド・フィールディング(David Fielding)
照明:ヴォルフガング・ゲッベル(Wolfgang Göbbel)

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以下ネタバレがありますので、これからご覧になる方はご注意ください。

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ワーグナー/「ジークフリート」(2010年2月11日 新国立劇場 オペラパレス)

ワーグナー(Wagner)/楽劇「ニーべルングの指環」第2日「ジークフリート」
("Der Ring des Nibelungen" Zweiter Tag: Siegfried)
全3幕 (ドイツ語上演/字幕付)

2010年2月11日(木・祝)14:00(終演20時頃) 新国立劇場 オペラパレス (4階3列12番)

ジークフリート(Siegfried):クリスティアン・フランツ(Christian Franz)
ミーメ(Mime):ヴォルフガング・シュミット(Wolfgang Schmidt)
さすらい人(Der Wanderer):ユッカ・ラジライネン(Jukka Rasilainen)
アルベリヒ(Alberich):ユルゲン・リン(Jürgen Linn)
ファフナー(Fafner):妻屋秀和(Tsumaya Hidekazu)
エルダ(Erda):シモーネ・シュレーダー(Simone Schröder)
ブリュンヒルデ(Brünnhilde):イレーネ・テオリン(Iréne Theorin)
森の小鳥(Stimme des Waldvogels):安井陽子(Yasui Yoko)

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団(Tokyo Philharmonic Orchestra)
指揮:ダン・エッティンガー(Dan Ettinger)

演出:キース・ウォーナー(Keith Warner)
装置・衣裳:デヴィッド・フィールディング(David Fielding)
照明:ヴォルフガング・ゲッベル(Wolfgang Göbbel)
振付:クレア・グラスキン(Claire Glaskin)

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ヴァーグナーの大作、楽劇「ニーべルングの指環」の第3部(第2夜)「ジークフリート」を初台で聴いてきた。
「ラインの黄金」と「ヴァルキューレ」は見なかったので、このキース・ウォーナー演出版は今回の「ジークフリート」で初めて接することになった。
これまで敬して遠ざけていた「指環」だが、ちょうどいい機会なので参考書などを頼りに筋や音楽を事前に多少予習していた。
登場人物が多いうえ、その関係も複雑で、最初のうちは途方にくれてしまったが、何度も参考書で筋を追ううちに、ようやく全体像がおぼろげながら見えてきた感じだ。
ただ、音楽としてはDVDブックで4作とも購入したものの、まだ少ししか聴けていなかったので、今回の「ジークフリート」もほとんどの場面は劇場ではじめて聴くこととなった。

「ジークフリート」は「指環」4作品の中でも最も登場人物が少ない作品だろう。
その上、2人の人物(人間ではないさすらい人なども含まれているが便宜上「人物」と言っておく)の対話の場面が多く、延々と会話が行きつ戻りつして、なかなか進展していかないような印象も受ける。
ここまで長大にしなければならない必然性があるのかどうかは初心者の私には判断がつかないが、ライトモティーフの綿密な使用など、細かく見ていくと、ヴァーグナーの様々な仕掛けがあるのだろう(ライトモティーフの予習をしっかりしてから聴けばもっと面白さを感じたにちがいない)。

キース・ウォーナー演出の新国立劇場での上演は、今回が2003年の再演とのこと。
衣裳、美術とも現代に置き換えた解釈で、ジークフリートよりもさすらい人やミーメ、アルベリヒの方が舞台映えして見えたのはちょっと気の毒だったが、斬新な新鮮さを感じる場面がある一方でそれほど映えなかったと感じる場面もあったのは多様な解釈が可能なオペラにおいては致し方ないのかもしれない。

音楽的にはフィナーレのジークフリートとブリュンヒルデの愛の場面が聴かせどころなのだろうが、私が最も印象に残ったのはジークフリートとミーメがノートゥングの破片から新しい刀を鍛える場面の音楽である。
コミカルで耳に残る音楽だった。
さすらい人とミーメの問答のあたりはうとうとしてしまって殆ど記憶に残っていないのが心残りだが、第3幕でようやく睡魔もおさまり、たっぷりヴァーグナーの音楽に浸った(第2幕と第3幕との間にヴァーグナーの創作中断が12年もあったとのことだが、第3幕は長大なわりにはおとなしめに感じた)。
最後のジークフリートとブリュンヒルデの愛の場面は、ジークフリートの思いを拒否したと思ったら、どういうきっかけかその愛を受け入れて終わるのだが、ここはもう少し聴きこまないとその良さが分からないのかもしれない。斜めのベッドの上で行きつ戻りつしている演出も、ブリュンヒルデの愛馬グラーネに見立てた木馬も、他により良い方法がありそうな気もするが・・・。

歌手はみな粒ぞろいで素晴らしかったが、中でも個人的にはアルベリヒ役のユルゲン・リンの朗々とした歌唱に最も感動を覚えた。
また、さすらい人(=ヴォータン)役のユッカ・ラジライネンも実に素晴らしい声と表現力の持ち主だった(頑丈な刀ノートゥングを持ったジークフリートに槍で通せんぼをする際に、やりあう前の槍がすでに折れていたのはハプニングかと思ったが、ほかの方のブログによるとこれも演出家の意図のようだ)。
ブリュンヒルデ役のイレーネ・テオリンはまさにヴァーグナー歌手の典型といっていいタイプで、この声の威力に圧倒された。
ジークフリート役のクリスティアン・フランツも最後まで破綻なく聴かせてくれて素晴らしかったが、つなぎのズボンに、スーパーマンみたいな「S」のマークのついた赤いTシャツは、いくら現代風読み替えの演出とはいえ、似つかわしくないように感じた(パンフレットの表紙裏の某社の広告キャラクターとして、スーパーマンの写真が掲載されていたのは偶然だろうか)。
さすらい人の頼みの綱たるエルダ役を歌ったシモーネ・シュレーダーの声の美しさと言葉さばきのうまさに魅了された。私の好きなタイプの声だった。
森の小鳥役の安井陽子は爽やかな高音が魅力的に響き渡り、男の低い声ばかり聴かされてきた後で清涼感のある癒しを与えてくれた。
また、第3幕のエルダの登場シーンでは、歌う場面はないもののノルン三姉妹も登場して、はしごを上ったり降りたりしながら、運命の綱をたぐる様を表現していた。

ダン・エッティンガー指揮の東京フィルも途切れることのない大作を丁寧に表現していたと思う。

幕間の2回の休憩時間がそれぞれ50分程度あったので、長丁場でも思ったほどには疲れずに聴けたが(それでもしばしば睡魔に襲われたが)、昼間にスタートした作品が終わった時にはすっかり夜になっていたのはさすがに長さを実感させられた。

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