ペーター・シュライアー&ノーマン・シェトラー/ベートーヴェン歌曲ライヴ映像(バート・ウーラハ)

ドイツの名テノール、ペーター・シュライアー(1935生まれ)と、アメリカ出身のピアニスト、ノーマン・シェトラー(1931生まれ)によるベートーヴェン歌曲集のコンサート映像がアップされていましたので、ご紹介します。
収録年代は不明ですが、先日のプライ同様、バート・ウーラハの秋の音楽祭で催されたコンサートのようです。
シュライアーはベートーヴェン歌曲に非常に力を入れていて、録音も全集をはじめ、ライヴ録音も出ていましたが、映像はまた新鮮な気持ちで楽しむことが出来ると思います。
この映像でのシュライアーは彼の美質がよく分かる歌唱で、リリカルで清潔で、ディクションは明瞭、ベートーヴェンの器楽的ともいえる歌曲の旋律を魅力的に歌っています。
そして、シュライアーが自著で絶賛していたピアニスト、シェトラーは、ソロや人形劇などの活動もしていますが、シュライアーとの共演歴も長く、歌曲を知り尽くした人ならではの聴きごたえのある演奏を聞かせてくれます。
ぜひお楽しみ下さい。

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バート・ウーラハ秋の音楽祭(Herbstliche Musiktage Bad Urach)
ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン歌曲集(Lieder von Ludwig van Beethoven)

From the festival hall in Bad Urach (Germany)

ペーター・シュライアー(Peter Schreier) (Tenor)
ノーマン・シェトラー(Norman Shetler) (Piano)

ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven)作曲

1.アデライーデ(Adelaide, Op.46) (7:31)

2.五月の歌(Mailied, Op.52 No.4) (2:59)

3.悲しみの喜び(Wonne der Wehmut, Op.83 No.1) (3:02)

4.憧れ(Sehnsucht, Op.83 No.2) (2:10)

5.彩られたリボンで(Mit einem gemalten Band, Op.83 No.3) (2:22)

6.新しい愛 新しい生命(Neue Liebe neues Leben, Op.75 No.2) (3:58)

7.希望に寄せて(An die Hoffnung, Op.94) (7:52)

8.愛されぬ男のため息と愛の答え(Seufzer eines Ungeliebten und Gegenliebe, WoO.118) (7:02)

9.遠方からの歌(Lied aus der Ferne, WoO.137) (4:17)

10.うずらの鳴き声(Der Wachtelschlag, WoO.129) (3:57)

11.諦め(Resignation, WoO.149) (3:34)

12.恋する男(Der Liebende, WoO.139) (2:42)

13.満ち足りた男(Der Zufriedene, Op.75 No.6) (1:42)

14.思い(Andenken, WoO.136) (3:15)

15.あなたを愛す(Ich liebe Dich, WoO.123) (3:16)

16.歌曲集「遥かな恋人に寄せて」("An die ferne Geliebte", Op.98) (17:21)

 0:10 Auf dem Hügel sitz ich spähend
 3:03 Wo die Berge so blau
 4:55 Leichte Segler in den Höhen
 6:41 Diese Wolken in den Höhen
 7:40 Es kehret der Maien, es blühet die Au
 10:35 Nimm sie hin denn, diese Lieder

17.祈り(Bitten, Op.48 No.1) (2:27)

18.キス(Der Kuss, Op.128) (3:56)

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シューベルトの誕生日に寄せて(シュライアー&シェトラーの「美しい水車屋の娘」)

今日1月31日はシューベルトの213回目の誕生日。
私の最も敬愛するこの作曲家の誕生日には毎年その音楽を聴くことにしているが、今年は「美しい水車屋の娘(Die schöne Müllerin) D795」のちょっと珍しいヴァージョンのCDを聴いた。

すでに歌手活動から引退したテノールのペーター・シュライアー(Peter Schreier: 1935年生まれ)はシューベルトの歌曲集「美しい水車屋の娘」を十八番にしていて、私もかつて実演で聴く幸運に恵まれたが、彼は1980年になんと3種類もの「水車屋」を録音している。
ただ、その3種とも録音当時としては一味ひねった趣向が凝らされている。

●ギター版(BERLIN Classics)
 録音:1980年1月5-7日, Lukaskirche, Dresden
 コンラート・ラゴスニク(Konrad Ragossnig: 1932年生まれ)(ギター)

●ハンマークラヴィーア版(Intercord)
 録音:1980年2月28-29日, Schubert-Saal des Wiener Konzerthauses
 シュテフェン・ツェーア(Steven Zehr: 1944年生まれ)(ハンマークラヴィーア)

●フォーグルによる改変版(musicaphon)
 録音:1980年8月22-23日, Grosse Aula der Universität Salzburg
 ノーマン・シェトラー(Norman Shetler: 1931年生まれ)(ピアノ)

最初の2種は、現代ピアノではない楽器の共演によるもの。
ラゴスニクのギターとの共演は日本でも披露され、テレビでも放映されたようだ。
音量の小さめなギターに合わせて、シュライアーは劇性を抑えて、語り聞かせるようにゆったりめのテンポで歌っていた。
ひなびたギターの響きは、サロンで聞くような親密さを増していた。

また、今でこそ当時の楽器を使って歌曲を演奏することが珍しくなくなったものの、この当時にはまだ稀だったと思われる。
ツェーアのよるハンマークラヴィーア共演盤は、その響きの古雅な趣に新鮮さを感じた。

 ツェーアとの録音(第5曲「仕事を終えて」、第8曲「朝の挨拶」、第14曲「狩人」)

Schreier_shetler_muellerinところで、今日聴いたのはノーマン・シェトラーの現代ピアノ共演による3番目の盤。
musicaphonレーベルのCDのケース表裏どちらにも普通の「水車屋」と違う旨明記されておらず、ケースを開き解説書を取り出してはじめて通常と違うことが分かる。
これは明らかに販売上の戦略であろう。
ヨーハン・ミヒャエル・フォーグル(Johann Michael Vogl: 1768-1840)は、シューベルトの友人として彼の数々の歌曲の普及に貢献したテノール歌手である。
フォーグルが実際にシューベルトの歌曲を歌う時にオリジナルにはない装飾を加えたり、旋律線を変更したりすることは珍しいことではなかったようだ。
そのフォーグルが「水車屋」に加えた変更版を、国際シューベルト協会が楽譜の形で出版した(新シューベルト全集の一環として)。
それに基づいて演奏したのが、このシュライアーとシェトラーによる録音である。

第1曲「さすらい」では5節の有節形式だが、例えば第1節の"Das Wandern ist des Müllers Lust, Das Wandern!"が繰り返される時の"Wandern!"に装飾音が加えられている。
だが、各節の同じ箇所に必ずしも同じ装飾が加えられているわけではないのが興味深い。
また、各節最後に繰り返されるリフレイン(第1節ならば"Das Wandern")の締めの直前をピアノのみに演奏させて、最後の一言の効果を挙げようとしているかのようである。

第2曲「どこへ」の歌声部でもメリスマの上下を逆にしたり、歌の出を遅らせたり、リズムを若干変化させたりと、ある種即興的に感じさせるような変更を加えている。

第6曲「知りたがり屋」の最後「言っておくれ、小川よ、彼女は僕を愛しているだろうか(Sag', Bächlein, liebt sie mich?)」の歌の出を遅らせているのは、主人公のためらいを印象づけて効果的だと思った。

第11曲「僕のもの」では途中"mein"を繰り返す箇所で"Ja, ist mein"と歌詞を加えてさえいる。

第13曲「リュートの緑色のリボンで」の最初のピアノの和音が省略されているのは、フォーグルの意図なのか、それとも演奏家の判断なのか(この和音を省略する演奏家もいるので)はっきりしないが、それはいつか全集楽譜を見て確かめてみたい。

第14曲「狩人」のピアノ前奏、間奏、後奏はそれぞれ同じパッセージだが、その中の右手の1音がすべて変更されているので、フォーグルの変更はピアノパートにも及んでいたということなのだろう。

シューベルト公認の変更ということになるのだろうが、私としては繰り返し聴く録音では原則としてシューベルトのオリジナルで聴きたい(このシュライアーのCDは史料としての価値もあり、素晴らしいと思うが)。ただ、1度きりのコンサートではこのような自由な装飾の加えられた演奏も今後の潮流になっていくのかもしれないし、こういう演奏に聴き手も徐々に慣れていくべきなのかもしれない。

なお、シュライアーの歌唱は年輪を感じさせる余裕の語り口で美声を響かせ、聴き手の心をぐっとつかむ。シェトラーのピアノもドラマに沿った安定感のある表現の中に音色の効果的な変化を織り込んで素晴らしかった。

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