フェリシティ・ロットのオランダ・ライヴ(NPO Klassiek)

オランダのラジオ局NPO Klassiekが、先日79歳で亡くなったフェリシティ・ロット(Felicity Lott)を偲んでいくつかの記事を掲載しています。

Sopraan Felicity Lott (79) overleden

こちらはロットの訃報を伝える記事なのですが、それだけでなく、彼女を慕ったある若手歌手との出会いが書かれていて、ロットの人となりが伝わってきます。ロットは上から生徒に押し付けるのではなく、対等な立場で「同僚」のように指導しているようです。チャーミングな人柄は実演を聞いた時にも感じましたが、いろいろなネット記事を見てもとても優しい方だったようです。
Google Chromeで開くと、翻訳機能が利用できるので、日本語訳で読んでみていただけたらと思います。

Felicity Lott zingt Letzte Lieder van Strauss

1999年11月6日にクルト・マズア(Kurt Masur)指揮コンセルトヘバウ管弦楽団と共演したR.シュトラウス「4つの最後の歌」が聞けます(おそらく期間限定と思われます)。

Veelkleurig liedrecital van sopraan Felicity Lott

1991年4月23日にアムステルダム・コンセルトヘバウのホールで催されたロットとグレアム・ジョンソン(Graham Johnson)によるリサイタルを聞くことが出来ます(おそらく期間限定と思われます)。
彼女らしい幅広いレパートリーが披露されています。
私もこれから聞いてみます。

フェリシティ・ロット(ソプラノ)
グレアム・ジョンソン(ピアノ)

フランツ・シューベルト:
音楽に寄せて
春の信仰
ムーサの息子
ただ憧れを知る者だけが
アヴェ・マリア
糸を紡ぐグレートヒェン

リヒャルト・シュトラウス:
献呈

森の幸福
同じもの
子守歌
悪天候

ジョルジュ・ビゼー:
四月の歌
アラブの女主人の別れ
ギター

レナルド・アン(レイナルド・アーン):
私の詩に翼があったなら

秋の歌

エリック・サティ:
エンパイア劇場の歌姫(アメリカ風間奏曲)

オスカー・シュトラウス:
喜歌劇『3つのワルツ』より「私は人が思うような人間ではない」

アンドレ・メサジェ:
喜歌劇『仮面の愛』より第1幕のアリア「恋人は二人」

ジャック・オッフェンバック:
喜歌劇『ラ・ペリコール』より第3幕「あんたはハンサムじゃない」

リヒャルト・シュトラウス:
ツェツィーリエ

リヒャルト・シュトラウス:
ばらのリボン

Felicity Lott (sopraan)
Graham Johnson (piano)

Franz Schubert:
An die Musik
Frühlingsglaube
Der Musensohn
Nur wer die Sehnsucht kennt
Ave Maria
Gretchen am Spinnrade

Richard Strauss:
Zueignung
Der Stern
Waldseligkeit
Einerlei
Wiegenlied
Schlechtes Wetter

Georges Bizet:
Chanson d'avril
Adieux de l'hôstesse arabe
Guitare

Reynaldo Hahn:
Si mes vers avaient des ailes
Rêverie
Chanson d'automne
Le printemps

Erik Satie:
La diva de "l'Empire", intermezzo américain

Oscar Strauss:
Je ne suis pas ce que l'on pense

André Messager:
L'amour masqué - Akte I - aria, "J'ai deux amants"

Jacques Offenbach:
Tu n'est pas beau

Richard Strauss:
Cäcilie, Op. 27/2

Richard Strauss:
Das Rosenband, Op. 36/1

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フェリシティ・ロットさんへの感謝

イギリスのソプラノ歌手フェリシティ・ロット(Dame Felicity Lott)が2026年5月15日に亡くなりました。

癌におかされて闘病していることを数日前に公表したばかりで、心配しておりました(月刊音楽祭:ロンドン発 〓 イギリスのソプラノ歌手フェリシティ・ロットが末期がんを公表(2026/05/12))。

ロットを実演で聞けたのは3回-そのうち1回は2009年10月のプレヴィン指揮NHK交響楽団とのシュトラウス「カプリッチョ」からの最後の場面、そして2回は2011年の震災の翌月に王子ホールと東京文化会館大ホールで行われたリサイタルでした。
その時の感想などはこちらのリンク先からご覧いただけます(2009年2011年)。
久しぶりに当時書いた文章を読んで、震災後のあの先が見えない絶望的な状況の中ではるばる英国から来てくれたフェリシティ・ロットとピアノのグレアム・ジョンソンに当時どれほど勇気づけられたか、昨日のことのように思い出されます。ロットは本当に貴婦人という言葉がぴったりの気品あふれる女性で、ステージでも人の良さがにじみ出ていました。当時計画停電なども行われていて、ロビーの照明もかなり控え目だったように記憶しています。たとえキャンセルだったとしても誰もアーティストを責めることはなかっただろうに、無理をおして来てくださり、本当に救われた時間でした。特に王子ホールの聴衆は不思議な連帯感でアーティストたちに割れんばかりの拍手を送りました。天災の前で音楽は決して無力ではなく、大きな力になるということを身をもって体験できた時間でした。

ロットの録音したCDもいくつか愛聴していましたが、最初に名前を知ったのはEMIのラヴェル歌曲全集だったと思います。その他に英独仏のとてつもなく広いレパートリーを録音で残していて、素敵な味わいで聞かせてくれました。
数日前に彼女が闘病していることを知ったばかりで、回復を祈っていたのですが、あまりにも早い旅立ちに驚いています。

どうか安らかにお休みください。ロットさん、有難うございました。

公式Webサイトの"NEWS"ページ

Askonas Holt: Dame Felicity Lott, 1947–2026

BBC: Soprano Dame Felicity Lott dies aged 79

Wigmore Hall: A Tribute to Dame Felicity Lott

OperaWire: Obituary: Dame Felicity Lott Dies at 79

Gramophon: Dame Felicity Lott has died

オフィス山根: フェリシティ・ロット、死去

●Felicity Lott in Tokyo 2011 (01/10) • Introduction

Channel名:operacarioca - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

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リーズ・ソング(旧:リーズ・リーダー) Leeds Song (formerly:Leeds Lieder) 2025

現役世代で最も多忙を極める歌曲ピアニストのジョーゼフ・ミドルトン(Joseph Middleton)が芸術監督をつとめる「Leeds Song(旧:Leeds Lieder)」が今年も歌曲のコンサート、マスタークラス、プレトークを行い、現地時間4/12(土)に最終日を迎えます。
今回はPresidentのエリー・アーメリング(Elly Ameling)のマスタークラス2回をはじめとして、多くの歌手、ピアニストによるコンサート、マスタークラスなどがYouTubeで配信され、そのままアーカイヴで見ることが出来ます。
92歳のアーメリング女史の以前と変わらないお元気さは全く驚異的です。コンサートではイギリスで最も優れたリート歌手の一人と個人的に思っているロデリック・ウィリアムズのプログラミングが興味深く「エキゾチックな雰囲気(A touch of exotic)」と題された異国情緒あふれる作品を集めた中でシューベルトの「ミニョン」のような女声用歌曲も披露しています。また、私が現役世代で最も注目しているうちの一人であるソプラノのカタリナ・コンラーディ(Katharina Konradi)のリサイタルなど、見きれないほどの動画があります。
グレアム・ジョンソンやジュリアス・ドレイクのような歌曲の名手たちや、ソプラノのフェリシティ・ロット、バリトンのトマス・アレンなどのマスタークラスもあります。
皆さんも興味のある動画をご覧になってみてはいかがでしょうか。公式サイトではプログラムもPDFでダウンロードできます(「プログラム等詳細」のリンク先にあります)。

これまで"Leeds Lieder"と冠してきた名称を今年から"Leeds Song"に変更した理由についてミドルトンが動画で話していますし、プログラム冊子にも記載されています。「リート」という言葉は美しいけれど、一般には馴染みの薄い言葉なので、もっと「輪を広げたい」ということのようです。詳しくは下記動画やPDFのプログラム冊子をご覧ください。

●Why Leeds Lieder became Leeds Song

Channel名:Leeds Song (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です)

●2025.4.5(土)

・1-2pm(現地時間。以下同):ランチタイム・オープニング・リサイタル:Carolyn Sampson and Joseph Middleton
(Patricia Nolz and Joseph Middletonの予定だったが、Patricia Nolz怪我の為、Carolyn Sampsonに変更)
プログラム等詳細
動画

・7.30pm:イヴニング・オープニング・リサイタル:Florian Boesch and Joseph Middleton
Franz Schubert Winterreise
プログラム等詳細
動画

●2025.4.6(日)

・10am-12.30pm:フェスティヴァル・マスタークラスI:Elly Ameling
プログラム等詳細
動画

・1-2pm:ランチタイム・リサイタル:Erika Baikoff and Camille Lemonnier
プログラム等詳細
動画

・3-4.30pm:ヤング・アーティスツ・スタディ・イヴェント・ウィズ・Richard Stokes
Young Artists Study Event with Richard Stokes
プログラム等詳細
動画

・7.30pm:イヴニング・リサイタル:Roderick Williams OBE and Andrew West
プログラム等詳細
動画

●2025.4.7(月)

・10am-1pm:フレンズ・フェスティヴァル・マスタークラスII:Anna Tilbrook
プログラム等詳細
動画

・2-4pm:フレンズ・フェスティヴァル・マスタークラスIII:Elly Ameling
プログラム等詳細
動画

・7pm:イヴニング・リサイタル:The Erda Ensemble
Marta Fontanals-Simmons mezzo-soprano
Chloë Vincent flute
Olivia Jageurs harp
プログラム等詳細
動画

●2025.4.8(火)

・7.30pm:イヴニング・リサイタル:Katharina Konradi and Joseph Middleton
プログラム等詳細
動画

●2025.4.9(水)

・10am-1pm:フェスティヴァル・マスタークラスIV:Amanda Roocroft
プログラム等詳細
動画

・5-6.30pm:コンポーザーズ&ポエッツ・フォーラム・ショーケース:“A Leeds Songbook”
プログラム等詳細
動画

・7pm:イヴニング・リサイタル:Freddie Ballentine and Kunal Lahiry
プログラム等詳細
動画

●2025.4.10(木)

・11.30am-1pm:ヤング・アーティスツ・ショーケース
プログラム等詳細
動画

・2-5pm:フェスティヴァル・マスタークラスV:Julius Drake
プログラム等詳細
動画

・7.30pm:イヴニング・リサイタル:Louise Alder and Joseph Middleton
プログラム等詳細
動画

●2025.4.11(金)

・10am-12.30pm:フェスティヴァル・マスタークラスVI:Sir Thomas Allen
プログラム等詳細
動画

・1-2pm:リラックスト・ランチタイム・リサイタル:Kitty Whately and Natalie Burch
プログラム等詳細
動画

・3-6pm:フェスティヴァル・マスタークラスVII:Dame Felicity Lott
プログラム等詳細
動画

・7.30pm:イヴニング・リサイタル:Beth Taylor and Julius Drake
(Alice Coote and Julius Drakeの予定だったが、Alice Coote体調不良の為、Beth Taylorに変更)
プログラム等詳細
動画

●2025.4.12(土)

・12-1.30pm:レクチャー・リサイタル:Graham Johnson OBE
with Manon Ogwen Parry (soprano), Hugo Brady (tenor) and Leeds Lieder Young Artist singers
プログラム等詳細
動画

・3.30-5pm:ヤング・アーティスツ・フィナーレ・コンサート
プログラム等詳細
動画

・6pm:イヴニング・クロージング・リサイタル:Christoph Prégardien and Joseph Middleton
Franz Schubert
Die schöne Müllerin
プログラム等詳細
動画

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フェリシティ・ロット&グレアム・ジョンソン(2011年4月15日 王子ホール/4月20日 東京文化会館 大ホール)

Lott_johnson_20110415

2011年4月15日(金)19:00 王子ホール(G列5番)

フェリシティ・ロット(Felicity Lott)(ソプラノ)
グレアム・ジョンソン(Graham Johnson)(ピアノ)

シューマン(Schumann)
献呈(Widmung)Op.25-1(「ミルテの花」より)
くるみの木(Der Nussbaum)Op.25-3(「ミルテの花」より)
献身の花(Die Blume der Ergebung)Op.83-2(「3つの歌」より)
東のばらより(Aus den östlichen Rosen)Op.25-25(「ミルテの花」より)
わたしのばら(Meine Rose)Op.90-2(「6つの詩」より)
時は春(Er ist's)Op.79-23(「子供のための歌のアルバム」より)
愛の歌(Liebeslied)Op.51-5(「リートと歌 第2集」より)
哀しそうに歌わないで(Singet nicht in Trauertönen)0p.98a-7(「ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスター』によるリーダー」より)
 
プーランク(Poulenc)/「こんな日こんな夜(Tel Jour Telle Nuit)」(全9曲)
 好い日(Bonne journée)
 からの貝殻の廃墟(Une ruine coquille vide)
 負けた旗のような額(Le front comme un drapeau perdu)
 被災したキャラバン(Une roulotte couverte en tuiles)
 全速力で(A toutes brides)
 哀れな草(Une herbe pauvre)
 君を愛してだけいたい(Je n'ai envie que de t'aimer)
 燃える残忍さをもつ顔(Figure de force brûlante et farouche)
 ぼくらは夜を築いた(Nous avons fait la nuit)

~休憩~

ブリッジ(Bridge)/過ぎ去るな、幸せな日よ(Go not, happy day)
ヴォーン=ウィリアムズ(Vaughan Williams)/静かな昼(Silent Noon)(「命の家」より)
クィルター(Quilter)/紅の花弁が眠る(Now sleeps the crimson petal)Op.3-2
クィルター/愛の哲学(Love's Philosophy)Op.3-1
ブリテン(Britten)/悲しみの水辺(O waly, waly)(第3集「イギリスの歌」より)
ブリテン/恋心(Fancie)

オッフェンバック(Offenbach)/あの方に伝えて(Dites-lui)(オペレッタ「ジェロルスタン大公妃(La Grande Duchesse de Gérolstein)」より)
オッフェンバック/ああ私は兵隊さんが好き(Ah! Que j'aime les militaires)(オペレッタ「ジェロルスタン大公妃」より)
メサジェ(Messager)/恋は野の鳥(L'amour est un oiseau rebelle)(オペレッタ「熱中(Passionnément)」より)
メサジェ/恋人がふたり(Tous les deux me plaisent)(オペレッタ「仮面の恋人(L'amour masqué)」より)
カワード(Coward)/もし愛がすべてなら(If Love were all)(オペレッタ「ほろ苦さ」より)
カワード/ピッコラ・マリーナの居酒屋で(A Bar on the Piccola Marina)

~アンコール~
イギリス古謡;ブリテン(Britten)/おまえはニューカッスル生まれではないのか(Come you not from Newcastle?)
R.シュトラウス(Strauss)/明日(Morgen!)(「4つの歌曲」Op.27より)

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東日本大震災のわずか1ヶ月後に、はるばる英国からフェリシティ・ロットとグレアム・ジョンソンが予定通り来日してくれた。
放射能汚染のニュースが海外でも報道される中、おそらく周囲の猛反対を押し切っての来日だったことだろう。
彼らの英断に心からの敬意と感謝の気持ちを捧げたい。

今宵の王子ホールはもちろん完売。
開演前、埋め尽くされた客席は、世界的な名花の日本初リサイタルを今や遅しと待ちわびて、熱気にあふれていた。
登場したデイム・ロットは濃い緑のシックな衣裳に身を包み、優雅な歩みで現れた(おそらく日本の現状に配慮して華美な衣裳は避けたのだろう)。
まだ演奏前にもかかわらず割れんばかりの大拍手である。
名手グレアム・ジョンソンの姿を生で拝見したのは初めてだが、過去の多くの録音のジャケットで見た写真よりも恰幅がよくなり、すっかり好々爺といった印象だ。

プログラムは前半にドイツリート(シューマン)とフランスメロディ(プーランク)、後半はよく知られたイギリス歌曲の数々と、仏・英のオペレッタという幅広さ。
ロットの膨大なレパートリーのエッセンスを一夜にして味わえる見事なプログラム・ビルディングである。

シューマンの歌曲からは可憐で繊細な味わいの作品が多く選ばれていたが、ロットの歌唱は紛れもなく第一級のドイツ歌曲歌手の一人であることを実感させた。
どのタイプの曲を歌っても魅力的な息を吹き込み、聴き手を惹きつけてしまう。
声は信じられないほどみずみずしさを保っており、高音もよく伸びていた(抑制した声では若干コントロールに苦心していた場面もあったが気になるほどではない)。
ゲーテの詩による「愛の歌」は比較的珍しい作品と思われるが、非常に美しい曲で、ロットはとても魅力的に歌ってくれた。
「哀しそうに歌わないで」のコケットリーはオペラ歌手としてのロットの表現力が歌曲に生かされた好例だろう。
ロットとシューマンの相性の良さを感じた。

プーランクが友人ポール・エリュアールの詩に作曲した9曲からなる歌曲集「こんな日こんな夜」は、それほど頻繁に聴くことの出来る作品ではないだろう。
その稀な機会がロットの優れた歌唱で得られたことは非常にうれしい。
一見地味な歌曲集だが、聴き込むほどプーランクのエッセンスがつまっているのが感じられて、どんどん引き込まれる。
ロットの歌唱はフランス語を語るようにメロディーに乗せ、プーランク特有の趣を素敵に表現していた。
第4曲の締めくくりに出てくる"coeur(心)"という言葉には歌と語りの中間のような色を付けて印象的だった。

休憩後の最初のブロックはブリッジ、ヴォーン=ウィリアムズ、クィルター、ブリテンといったイギリス歌曲の名曲ぞろい。
イギリス歌曲集の録音では頻繁に歌われるこれらの作品だが、生のステージで聴ける機会はなかなか無い。
ロットの美声でこれらの旋律美をたっぷりと味わうことが出来たのは私にとって非常に贅沢な時間だった。
クィルターの「愛の哲学」など盛り上がること必至の名曲で私もとても気に入っている作品なので、ロットとジョンソンの素敵な演奏で聴けて感無量である。
また、ブリテンの「悲しみの水辺」はこの夜のロットの歌唱の一つのクライマックスといってもよかった。
その声と表情に込められたそこはかとない悲しみは、彼女の芸術の最高のものを聞かせてもらったという気持ちで、ただただ感動的だった。

最後のブロックは、くつろいで聴ける軽妙なオペレッタの数々であったが、このブロックは聴衆も一段と盛り上がった。
気品に満ちたロットがくだけた表情で変幻自在に表現するのだ。
全身を使って、時にコミカルに、時に真摯に、時に大胆に、それぞれの場面を演じ歌う。
どの曲も彼女が歌うだけで、そこに情景が浮かんでくるかのよう。
オッフェンバックの「ああ私は兵隊さんが好き」など、一度聴いたら虜となってしまう楽しい曲で、ロットも乗りに乗っていた。
ノエル・カワードの「もし愛がすべてなら」の歌詞には、はからずも「自分のできることをすればいい/必要なら泣けばいい/好きなときに笑えばいい」(広瀬大介:訳)という箇所があり、ロットも歌いながらこみ上げてくるものがあったように見えた。

グレアム・ジョンソンはふたを全開にしながらも決して歌を覆い隠してしまうことのないバランス感覚はさすがだった。
非常にやわらかく手首を動かし、タッチは軽めで、技巧を決して前面でひけらかさない。
しかしどの作品でも血肉としているのが歴然で、歌を生かすことに徹しているのが職人技の極地といった感じで素晴らしかった。

アンコールは2曲。
1曲目の前にロットが「このような中で来てくださってうれしい」というような挨拶をし、2曲目の前にはジョンソンが「明日は良くなるというシュトラウスの歌を演奏します。日本が良くなるように」といったような挨拶をして感動的だった。
シュトラウスの「明日」を弾くジョンソンの前奏はこれまで数え切れないほど聴いてきたこの曲の演奏中で最も心を揺さぶる「歌」があり、聴いている私もこみあげてくるものを抑えるのに必死だった。
ロットも涙をこらえながら歌っていたようだ。

Lott_johnson_20110415_chirashi

お2人の演奏から聴衆がどれほど勇気づけられたことか。
最初からアンコールの終わりまで、一貫して英国の紳士淑女の典型を見たような気持ちだった。
演奏を聴き終えて、これほど「ありがたい」という気持ちになったことはなかなかないことだと思う。
フェリシティ・ロットとグレアム・ジョンソンに心からの感謝を!

なお、6月にBSで放映予定とのこと。
これは是非おすすめです!

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(追記)

フェリシティ・ロット&グレアム・ジョンソン(2011年4月20日 東京文化会館 大ホール)

都民劇場音楽サークル第586回定期公演
フェリシティ・ロット ソプラノリサイタル
2011年4月20日(水)19:00 東京文化会館 大ホール(1階L11列1番)

フェリシティ・ロット(Felicity Lott)(ソプラノ)
グレアム・ジョンソン(Graham Johnson)(ピアノ)

シューマン(Schumann)
献呈Op.25-1(「ミルテの花」より)
くるみの木Op.25-3(「ミルテの花」より)
献身の花Op.83-2(「3つの歌」より)
東方のばらOp.25-25(「ミルテの花」より)
私のばらOp.90-2(「6つの詩」より)
時は春Op.79-23(「子供のための歌のアルバム」より)
恋の歌Op.51-5(「リートと歌 第2集」より)
悲しそうに歌わないで0p.98a-7(「ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスター』によるリーダー」より)
 
プーランク(Poulenc)/「ある日ある夜」(全9曲)
 よい一日
 こわれた貝殻
 破れた旗のような額
 瓦を葺いた家形馬車
 まっしぐらに
 みすぼらしい草
 君を愛したいだけ
 熱烈で残忍な姿
 ふたりは闇をつくる

~休憩~

ブリッジ(Bridge)/ゴー・ノット、ハッピー・デイ
ヴォーン=ウィリアムズ(Vaughan Williams)/静かな真昼(「命の家」より)
クィルター(Quilter)/真紅の花びらがまどろめばOp.3-2
クィルター/愛の哲学Op.3-1
ブリテン(Britten)/おお悲しい(第3集「イギリスの歌」より)
ブリテン/気まぐれ

オッフェンバック(Offenbach)/あの方に言って、優れた人と(オペレッタ「ジェロルスタン大公妃」より)
オッフェンバック/ああ私は兵隊さんが好き(オペレッタ「ジェロルスタン大公妃」より)
メサジェ(Messager)/恋は野の鳥(オペレッタ「熱中」より)
メサジェ/恋人がふたり(オペレッタ「仮面の恋人」より)
カワード(Noël Coward)/もし恋がすべてなら(オペレッタ「ほろ苦さ」より)
カワード/ピッコラ・マリーナのバーで

~アンコール~
プーランク(Poulenc)/愛の小径-ワルツの調べ
ビゼー(Bizet)/ギター(「アルバムの綴り」より)
シュトラウス(Strauss)/明日!

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都民劇場音楽サークルの一貫として、東京文化会館大ホールでも王子ホールと同じプログラムで登場した(日本語表記は上記のとおり異なっていた)。

今回はワインレッドの鮮やかなドレスに、シースルーの黒ベールをはおり登場。
後半は黒ベールの代わりに鮮やかな絵柄の短いショールを肩にはおって登場。

王子ホールのような親密な空間ではない分、前回のような感傷的な気分にはならず、普通のリサイタルを普通に楽しめたという感じである。
大きなホールに対応して彼女の声も一層伸びやかであった。
そして相変わらずジョンソンのピアノはぴたっと寄り添っていた。

アンコールが前回と違っていたのも嬉しい。
今回も前回同様のスピーチがあったが、ジョンソンではなくすべてロットがスピーチしていた。

ぜひ今後も繰り返し来日して、歌曲を聴く喜びを味わわせてほしいと願わずにはいられない彼女の名唱であった。

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ロット&プレヴィン/N響第1655回定期公演(2009年10月17日 NHKホール)

NHK交響楽団第1655回定期公演 Aプログラム1日目 
2009年10月17日(土)18:00 NHKホール (3階自由席)

フェリシティー・ロット(Felicity Lott)(S)*
NHK交響楽団(NHK Symphony Orchestra, Tokyo)
アンドレ・プレヴィン(André Previn)(C)

ウォルフガング・リーム/厳粛な歌(1996)
R. シュトラウス/歌劇「カプリッチョ」作品85から「最後の場」*

~休憩~

R. シュトラウス/家庭交響曲 作品53

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ソプラノのフェリシティー・ロットは歌曲ファンにとっては馴染み深い名前である。
イギリス歌曲はもとよりドイツ、フランス歌曲までこなす万能歌手である。
一般にはオペラの分野で高く評価されており、日本ではおそらくリサイタルは開かれていないと思う。
今回、クライバー指揮の「ばらの騎士」以来15年ぶりの来日と知って驚いた。
これまでCDやDVDでは馴染んでいた歌唱を生で聴いてみたいと思い、本当に久しぶりにNHKホールに出かけてきた。

土曜日夕方の渋谷は相変わらずの混雑ぶり。
タワーレコードまではたまに出かけるが、公園通りを歩くのはいつ以来だろうか。
ちょっと感傷的な感慨に浸りながらNHKホールまでの長い上り坂を歩いていった。

N響は自由席が1500円という安価で用意されているのが有難い。
会場に着いて軽食などをとっているうちに良い席は埋まってしまい、3階の後ろから2番目の列の真ん中あたりに空いていた席に座った。

登場した指揮者プレヴィンはもう80歳とのこと、ステージ中央にたどり着くまでゆったりとした足取りで時間がかかった。
今年前半に新日本フィルを振ったブリュッヘンは指揮台の椅子から立ち上がっていた場面も多かったが、プレヴィンは座りっぱなしだった。

最初の曲目はリーム(1952-)というドイツの作曲家による「厳粛な歌」。
ヴァイオリンなどの高音楽器を除いた編成の渋い曲。
淡く重い静かな響きの中に時折入るアクセント、あたかも水墨画のような趣の曲だった。
武田モトキ氏のプログラムノートによると、この作品、ブラームスの「4つの厳粛な歌」からインスパイアされたもののようだ。

続いていよいよロットの登場。
オレンジのドレスに深紅のガウンのような衣装を纏って現れた彼女は優雅そのもの。
物腰の一つ一つが絵に描いたような英国淑女のイメージそのものだった。
歌劇「カプリッチョ」から「最後の場」が歌われたが、その前に「月光の音楽」という美しい間奏曲が導入として演奏される。
R. シュトラウスに苦手意識の強かった私は、彼の作品、歌曲以外はあまり知らない。
「カプリッチョ」初体験の私にとってこの「月光の音楽」は初めて聴くはずなのだが、聴きながらどこかで聴いた音楽のような気がする。
しばらくして、シュトラウスが出版社や敵対する音楽家を辛らつにあてこすった歌曲集「商人の鑑」の中の曲とほぼ同じだと気付いた。
12曲からなるこの歌曲集、出版社名や人物名をもじって皮肉ったテキストに、様々な自作他作から音楽が引用され、「運命」の動機が聞こえたり、「冬の旅」のテキストをもじったりしたユニークな作品である。
その終曲に長く美しい後奏があるのだが、その音楽がこの「月光の音楽」とほとんど同じなのである。
だが作曲年代を調べると、歌曲集「商人の鑑」が1918年で、「カプリッチョ」が晩年の1940~41年。
つまり、歌曲集の中の音楽をオペラの中で再利用したということなのだろうか。

ロットの生の声はやはり素晴らしかった!
ステージから最も遠い私の席まで、決して圧力があるわけではないのにしっかりよく通るクリーミーな美声は年齢を感じさせない。
ドイツ語の発音もデリカシーに満ち、表情豊かな声の色がステージを一瞬にしてオペラの舞台に変えていた。
詩人と音楽家から求愛されたマドレーヌの心の迷いを繊細な表情で歌っていた。
詩と音楽のどちらを優位に立たせるかというのは音楽家にとって永遠のテーマのようなもの。
そのテーマを織り込んだこのオペラ、一度全曲を通して聴いてみたいものだと思った。
ロットの歌唱はオペラでありながら歌曲の世界をも感じさせるもので、彼女の歌った20分弱は私にとって至福の時であった。
プレヴィン指揮によるN響の演奏も繊細さの極みだった。

後半はR. シュトラウスの私小説的な「家庭交響曲」。
部分的には聴いたこともあったが、全体を通して聴いたのは初めてのこと。
この曲を味わうためにはもう少し聞き込まなければならないようだ。
プレヴィン&N響の熱演にもかかわらず、私のシュトラウスに対する苦手意識は覆らなかった。

ロットの歌唱を生で聴ける機会が今後あるかどうかは分からないが、出来ることならいつか歌曲のリサイタルで彼女の熟した表現を聴いてみたいものである。

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