マルティーナ・キュルシュナー/パイプオルガン無料演奏会(2016年4月9日 川口リリア・音楽ホール)

リリア・プロムナード・コンサート
パイプオルガン無料演奏会

2016年4月9日(土)11:00 川口リリア・音楽ホール

マルティーナ・キュルシュナー(Martina Kürschner)(Organ)

キュルシュナー(Martina Kürschner)/即興演奏Ⅰ ヘンデルとヴィヴァルディのオマージュ(Improvisation I: Hommage a G.F.Händel und A.Vivaldi)

ブクステフーデ(Dietrich Buxtehude: 1637-1707)/いまぞ我ら聖霊に願いたてまつる("Nun bitten wir den Heiligen Geist" BuxWV208)

クレランボー(Louis N.Clérambault: 1676-1749)/『第2旋法の組曲(Suite du II. Ton)』より
 プランジュ/デュオ/トリオ/バスをクロモルネで/フルート/レシをナザートで/グラン・ジュによるディアローグ(Plain Jeu - Duo - Trio - Basse de Cromorne - Flutes - Recit de Nazard - Caprice sur les Grands Jeux)

キュルシュナー/即興演奏Ⅱ リリアホールのオルガンを賛えて 我らに平和を(Improvisation II: Hommage an die Orgel der Lilia-Hall "Verleih uns Frieden gnädiglich...")

バッハ(Johann S. Bach: 1685-1750)/人よ、汝の罪の大いなるを嘆け("O Mensch, bewein dein Sünde groß")

バッハ/ピース・ドゥ・オルグ(Pièce d'Orgue, [BWV572])
 速く/重々しく/遅く(Tres vitement - Gravement - Lentement)

アラン(Jehan Alain: 1911-1940)/架空庭園(Le Jardin Suspendu)

キュルシュナー/即興演奏Ⅲ 詩篇104編による祭壇画 ジャン・アランへのオマージュ(Improvisation III: Tryptichon über Psalm 104: Hommage a Jehan Alain)

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なんと今年初めて(!)のクラシックコンサートに出かけた。
家から近い川口リリアで、しかも無料のオルガンコンサートである。
客層は年配の方が多い印象だが、よく入っていた。

舞台に登場したマルティーナ・キュルシュナー女史はマイクを使い、非常に耳に心地よいソフトな声で英語の解説を5分ぐらいしてから演奏を始めた。
休憩なしの1時間ぐらいのコンサートの予定だったようだが、実際に終演したのは12時30分だった(アンコールはなし)から、ほぼフルコンサートを休みなしで聴いたことになる。
演奏者は大変だったのではないか。
彼女は即興演奏が得意とのことで、プログラムの最初と真ん中、最後にテーマをもった即興演奏を行い、その合間に古今のオルガンの名曲を織り込むという凝った内容だった。
とはいってもオルガンのレパートリーに疎い私はただただオルガンの多彩な響きに身を任せ、古式ゆかしい作品から、現代的な作品まで、たっぷり堪能した。
ジャン・アランの作品が演奏されていたが、彼の妹は、キュルシュナーも師事していた故マリー=クレール・アランである。
私が初めて聴いたオルガンの外来演奏家がM-C.アランだったので世代交代を感じて感慨深い。

これだけ充実した演奏会が無料で聴けるとは申し訳ないぐらいの気持ちだ。
ちなみに1日2回開かれた今回のコンサートの最初の部(11時開演)に出かけたが、土曜日に2回に分けて開催されるというのは、聴き手の都合のよい時間が選べて有難い。
こうした催しを今後も機会を見つけて聴いていきたい。

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椎名雄一郎/J.S.バッハ オルガン全曲演奏会第11回(2014年5月18日 東京芸術劇場コンサートホール)

《椎名雄一郎 J.S.バッハ オルガン全曲演奏会》
第11回「ライプツィヒ・コラール集」
~様々な手法による18のライプツィヒ・コラール集

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2014年5月18日(日)14:30 東京芸術劇場コンサートホール
椎名雄一郎(Yuichiro Shiina)(ORG)
石川洋人(Hiroto Ishikawa)(テノール:コラール唱)
淡野太郎(Taro Tanno)(バリトン:コラール唱)

ファンタジア「来たれ、聖霊、主なる神よ」BWV651
「来たれ、聖霊、主なる神よ」BWV652
「バビロンの流れのほとりにて」BWV653
「身を飾れ、おお愛する魂よ」BWV654
トリオ「主イエス・キリストよ、われらに目を向けたまえ」BWV655
「おお、罪のない神の子羊」BWV656
「いざ、もろびと、神に感謝せよ」BWV657
「わたしは神から離れまい」BWV658

〜休憩〜

「いざ来たれ、異教徒の救い主よ」BWV659
「いざ来たれ、異教徒の救い主よ」BWV660
「いざ来たれ、異教徒の救い主よ」BWV661
「いと高きところの神にのみ栄光あれ」BWV662
「いと高きところの神にのみ栄光あれ」BWV663
「いと高きところの神にのみ栄光あれ」BWV664
「イエス・キリスト、われらの救い主は」BWV665
「イエス・キリスト、われらの救い主は」BWV666
「来たれ、創り主にして聖霊なる神よ」BWV667
「われら苦しみの極みにあるとき」BWV668a

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椎名雄一郎のJ.S.バッハ オルガン全曲演奏会の第11回に出かけた。
来年の第12回が最終回とのことで、長く地道な計画を継続されてきたことに敬意を表したい。

以前彼の演奏を聴いたのは今は一般使用されていない御茶ノ水のカザルスホールだった。
あの後、カザルスホールの一般使用を求める活動が有志でされていたと記憶するが、どうなったのだろうか。

まあそれはともかく、椎名氏のバッハ全曲シリーズは池袋の東京芸術劇場に場所を移して継続されている。
普段オーケストラの定期公演に行く習慣のない私は、この東京芸術劇場に来るのもおそらく20年ぶりぐらいである。
前回何のコンサートで来たのかも全く思い出せないほどの無沙汰である。
今住んでいる場所から決して遠いわけではないのだが、来る機会がなく(池袋へはしばしば来るのだが)、今回が本当に久しぶりの訪問となった。

以前は東京芸術劇場のコンサートホールのフロアまで長~いエスカレーターが続いていたと記憶するのだが、現在は改装されて途中に一度踊り場が出来ていた(いまさらだが)。
そういえばこのホールでオルガンを聴いたのもはじめてかもしれない。
確かバロック用と現代用の2種類のオルガンが設置されていたと思うが、今回はもちろんバロックオルガンによる。

今回演奏された「ライプツィヒ・コラール集」は、この為にバッハが新たに作ったのではなく、以前に作ったものからの選集で、椎名氏曰く「バッハの自信作」となっているようだ。
今回はテノールの石川洋人とバリトンの淡野太郎によるユニゾンで、それぞれのオルガン曲に使用された元のコラールが歌われてからオルガンが演奏された。
2人の歌手はオルガン演奏中はオルガンのホール奥の暗い場所に待機して、歌唱の時のみ登場して歌うという形をとっていた。
東京芸術劇場のオルガンはホール2階に設置されていて、椅子は演奏者の足が見えるようになっている為、椎名氏の忙しそうに動くペダルさばきも見ることが出来た。

歌手たちによってア・カペラで素朴で美しいコラールが歌われる時はあたかも時が止まったかのような荘厳な雰囲気がホールを満たし、教会の中にさまよいこんだような錯覚を覚える。
そしてオルガン演奏になると、コンサートホールの適度な残響を伴いながら、バッハの音がクリアに伝わってくるのである。

私は残念ながら各コラールをよく知らない為、バッハが曲の中にどう織り込んだのか判別するのは難しかった。
そのままコラールがむきだしで出てくる曲はあまりなかったように感じたのだが、どうなのだろう。
同じコラールで複数の曲が全く異なる趣で演奏されたりもするので、コラールをテーマにしたバッハの様々な創意工夫といったところなのだろうか。

椎名氏の演奏は安定したテクニックと適切なテンポ感で心地よく聴くことが出来て、心が癒された時間だった。
オリジナルのコラールが歌えるぐらいになれば、バッハがどういうことをしたのかが分かって楽しいかもしれない。

来年の最終回もぜひともうかがって、椎名氏の偉業のひとつの完結を見届けたいと思う。

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ヴォルフガング・サヴァリッシュ、マリー=クレール・アラン逝去

ヴォルフガング・サヴァリッシュやマリー=クレール・アランの逝去を立て続けに知り、クラシック音楽を聴き始めたばかりの頃の思い出が遠のいていくような寂しい思いにとらわれました。

私がクラシック音楽に開眼したのは中学生の時のことです。
音楽の授業でシューベルトの「魔王」を聴いた時に衝撃を受け、その曲の入ったカセットテープをおこずかいで買ったものでした。
その頃FMでシューベルトの歌曲をエアチェックしたり、LP漁りを始めた私にとってヘルマン・プライという名前は自然に知るところとなりました。
そんな中、ある日テレビでプライの出演するカール・オルフの「カルミナ・ブラーナ」という作品を放映するというので、その放映を見たのですが、その時に指揮していたのがサヴァリッシュでした。
学究肌な真面目そうな外見が印象的でした。
オーケストラ音楽のレパートリーに疎かった(今でも疎いですが)当時の私にとって、サヴァリッシュは「N響アワー」にしばしば登場する指揮者である以上に、歌曲の第一級のピアノ伴奏者でありました。
シュライアーのヴォルフ「ゲーテ歌曲集」で刺激的でわくわくするようなピアノを弾くサヴァリッシュ、
F=ディースカウの珍しいレパートリー、プーランク「仮面舞踏会」で洒脱な演奏を聴かせるサヴァリッシュ(最近輸入盤で再度入手可能になりました)、
ルチア・ポップのR.シュトラウス初期歌曲集で実に雄弁な語りかけをするサヴァリッシュ、
プライが80年代に再度取り組んだベートーヴェン歌曲集でしっかりと安定したところを披露したサヴァリッシュ、
などなど、
彼の歌曲における貢献度の大きさは、兼業ピアニストとしてずば抜けていたように思います。
指揮者として多忙を極めていた彼が、歌曲に割く時間をどのようにねん出していたのか不思議でなりませんが、ただただピアニストとしての才能に恵まれていたがゆえに可能だったということなのかもしれません。

実演では私の記憶に間違いがなければ3度聴きました。
まずは指揮者として、バイエルン歌劇場のガラコンサートでポップ、ヴァラディ、リポヴシェクらとオケ伴奏歌曲の夕べ、
ディースカウの最後の来日時のピアニストとして、池袋でシューベルト歌曲集の夕べ、
そしてサントリーホールでトマス・ハンプソンと確か「はるかな恋人に寄せて」と「詩人の恋」の夕べ
でした。

これぞドイツといった安心感が彼の演奏にはあり、時にクールすぎることもありましたが、全体に目の行き届いた雄弁な演奏はやはり彼の非凡さを感じさせました。

もう一人、私の中学生の頃の思い出と結びついているのがオルガニストのマリー=クレール・アランです。
やはり中学時代に音楽の授業でバッハの「小フーガ ト短調」を聴いた私は、この曲の入った録音を探していました。
最初に間違えてストコフスキーの編曲したオケ版バッハのカセットを買ってしまい、その後に再度レコード屋に行って買い求めたのがアランの1枚のバッハ集でした。
このLPには「小フーガ」のほかに、「トッカータとフーガ ニ短調」やら「大フーガ」、「パッサカリア ハ短調」、「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」などのバッハの有名どころをおさえた選曲がされていたこともあり、すぐにバッハのオルガン曲の虜となったものでした。
中学3年の頃、雑誌「音楽の友」を読み始めていた私は、地元横浜の神奈川県民ホールの小ホールにアランが来ることを知り、同級生の友人に聴いてみたいと漏らしたことがありました。
すると、彼のご家族のつてで運よくチケットが手に入り、はじめての外来音楽家の生演奏としてアランを聴くことになったのです。
彼女はストップ操作の助手を置かず、しかも暗譜で演奏するという記憶力で知られ、実際に彼女を聴いた時もそうだったように思います。
県民ホールのこじんまりとした小ホールのオルガンを目の当たりにすると同時に、生で聴くオルガン演奏は今でもその情景をうっすらと思いだすことが出来るほど強烈な印象を受けたのだと思います。
その後も数回アランの生演奏を聴く機会に恵まれはしたものの、ドイツリートにはまりこんでいった私にとって、それほど熱心なオルガン・ファンとはならないまま時が過ぎて行きました。
オルガン音楽を聴くと今でも中学時代の思い出と結びついたまま懐かしい気持ちをよみがえらせてくれます。
その思い出のきっかけとなったアランが亡くなり、時の流れを感じながら、今彼女の演奏する「パッサカリア」を聴いています。

どうぞお二人とも安らかにお休みください。
これまでありがとうございました。

Wolfgang Sawallisch (1923年8月26日, München - 2013年2月22日, Grassau)

Marie-Claire Alain (1926年8月10日, Saint-Germain-en-Laye - 2013年2月26日, Paris)

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椎名雄一郎/J.S.バッハ オルガン全曲演奏会 第8回(2010年3月22日 日本大学カザルスホール)

椎名雄一郎

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J.S.バッハ オルガン全曲演奏会
第8回 コラールの世界
2010年3月22日(月・祝) 15:00 日本大学カザルスホール(1階A列7番)

椎名雄一郎(Yuichiro Shiina)(オルガン)
石川洋人(Hiroto Ishikawa)(テノール)

ヨハン・セバスティアン・バッハ(J.S.Bach)作曲

幻想曲と模倣曲 ロ短調 BWV563
コラールパルティータ<ああ、罪人なるわれ、何をすべきか>BWV770
<キリストを、われらさやけく頒め讃えうべし>BWV696
<讃美を受けたまえ、汝イエス・キリスト>BWV697
<主キリスト、神の独り子>BWV698
<いざ来ませ、異邦人の救い主よ>BWV699
<高き天よりわれは来たれり>BWV700、701
前奏曲とフーガ ハ長調 BWV545

~休憩~

幻想曲 ハ長調 BWV570
<神の子は来たりたまえり>BWV703
<全能の神に讃美あれ>BWV704
<いと尊きイエスよ、われらはここに集いて>BWV706
<主イエス・キリストよ、われらを顧みて>BWV709
<われは汝に依り頼む、主よ>BWV712
<イエスよ、我が喜び>BWV713
<マニフィカト>(わが魂は主をあがめ)BWV733
前奏曲とフーガ ヘ短調 BWV534

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椎名雄一郎による「バッハ オルガン全曲演奏会」の第8回を日本大学カザルスホールで聴いてきた。
先日の吉田恵が全曲シリーズ最終回をこのカザルスホールで締めくくったのに対して、椎名雄一郎のシリーズは2014年までかけてじっくり進めていくようだ。
しかし、今月いっぱいで閉館するカザルスホールのオルガンを演奏するのは今回が最後になり、それゆえに「さよならカザルスホール オルガン・コンサート第2弾」という副題が付けられている。

今回は1階最前列という席。
席は大方埋まっていたように思う。
まず、2階のオルガン席に椎名雄一郎とストップ操作の助手(奥様?)があらわれ、第1曲を演奏する。
2階で聴く時と比べ、オルガンの音が上方から直に降ってくるような印象があり、オルガンのシャワーを浴びているような迫力を感じた。
椎名が第1曲を弾き終えると、テノールの石川洋人が登場し、1階ステージの向かって右側に位置した。
石川洋人はコラールに基づく各オルガン作品が演奏される前にオリジナルのコラールを無伴奏で歌った。
つまり前半はBWV770からBWV701まで、後半はBWV703からBWV733まで石川の歌が聞けた。
ただし、後半の2曲<いと尊きイエスよ、われらはここに集いて>BWV706と、<イエスよ、我が喜び>BWV713のみは、無伴奏コラールだけではなく、オルガン演奏の途中からも加わり、オルガン伴奏でコラールを歌う形をとっていた。

石川洋人は古楽の歌唱法によるもので、薄いヴィブラートをかけ、清澄に声を伸ばしていく。
最前列で聞いていると、曲が進むにつれて、彼の声のボリュームが明らかに豊かになっていく様をはっきりと実感できた。
こうしてアカペラで響く歌声を聴くと、まさにホール全体が楽器なのだと実感させられる。
コラールをじっくり聴いていると、その独特の節回しによって遠い時代にタイムスリップしたかのようだった。

椎名雄一郎による今回のプログラミングは、コラールに基づく作品を前半と後半の中心に据えてはいるが、それぞれを挟み込む形で最初と最後にオルガンのためのオリジナル作品が演奏された。
コラール作品は小規模なものが多く、愛らしい小品という感じだが、石川氏のオリジナルのコラール唱の後で演奏されると、バッハがコラールをそのまま、あるいは部分的に取り込みながら、いかに巧みな味付けを加味しているかが分かる。
私にとってはプロテスタントの会衆が歌うコラールは馴染みがあるわけではないので、今回、歌とオルガンを一緒に聴くことが出来たのは分かりやすかった。
この夜のコンサートもいずれCD化されるだろうが、ぜひコラール唱も収録してほしいものだ。

椎名の演奏は一貫して弛緩することなく、見事に構築されていて素晴らしかったと思う。
また、コラールによる作品群では、温かい音色が聴いていて気持ち良かった。
効果的なストップ選択も演奏の成功に寄与していることだろう(バッハ自身によって音色が指定されている曲もあるが、殆どは演奏者の決定に任されているのだろう)。

椎名氏の言葉によれば「カザルスホールで一番演奏したかったバッハの作品、それが今回のコラール作品です」とのこと。
このホールのアーレントオルガンにふさわしい作品だということなのだろう。
それが、椎名氏にとって最後のカザルスホールの演奏で実現したのは良かったと思う。

演奏終了後、椎名氏も1階に下りてきて、石川氏と並んで拍手に応じていたが、最後にオルガンの方に手をかざして感謝の念を示していたのが印象的だった。

素晴らしい響きを聞かせてくれたカザルスホールに感謝!

椎名氏のこのシリーズ、次回の演奏は池袋の東京芸術劇場で行われるそうだ。

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吉田 恵/J.S.バッハ オルガン作品全曲演奏会 第12回<最終回>(2010年3月13日 日本大学カザルスホール)

J.S.バッハ オルガン作品全曲演奏会 第12回<最終回>

Yoshida_2010032010年3月13日(土) 19:00 日本大学カザルスホール (全自由席)

吉田 恵(Megumi Yoshida)(オルガン)

J.S.バッハ/《クラヴィーア練習曲集 第3部》

前奏曲 変ホ長調 BWV552/1

キリエ,とこしえの父なる神よ BWV669
キリストよ,世の人すべての慰め BWV670
キリエ,聖霊なる神よ BWV671
キリエ,とこしえの父なる神よ BWV672
キリストよ,世の人すべての慰め BWV673
キリエ,聖霊なる神よ BWV674
いと高きところでは神にのみ栄光あれ BWV675
いと高きところでは神にのみ栄光あれ BWV676
いと高きところでは神にのみ栄光あれ BWV677
これぞ聖なる十戒 BWV678
これぞ聖なる十戒 BWV679
われらみな唯一なる神を信ず BWV680

 ~休憩~

われらみな唯一なる神を信ず BWV681
天にましますわれらの父よ BWV682
天にましますわれらの父よ BWV683
われらの主キリスト,ヨルダンの川に来れり BWV684
われらの主キリスト,ヨルダンの川に来れり BWV685
深き淵より,われ汝に呼ばわる BWV686
深き淵より,われ汝に呼ばわる BWV687
われらの救い主なるイエス・キリストは BWV688
われらの救い主なるイエス・キリストは BWV689

4つのデュエット
 第1曲 ホ短調 BWV802
 第2曲 ヘ長調 BWV803
 第3曲 ト長調 BWV804
 第4曲 イ短調 BWV805

フーガ 変ホ長調 BWV552/2

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2004年12月に開始された吉田恵によるJ.S.バッハ・オルガン作品全曲演奏会も今回でとうとう最終回である。
私は、この大偉業のシリーズ最後の数回分しか聴くことが出来なかったが、こうして最終回に立ち会えたのは聴衆としても感無量である。
今月いっぱいで閉館されるカザルスホールのオルガンがシリーズ最終回に間に合ったことは演奏者にとっても良かったのではないだろうか
(ちなみにこのアーレントオルガンは閉館後も学内利用のために保管されるようでとりあえず一安心である)。

ところで、今回開場時間の18時半ごろに会場に着いたらすでに長蛇の列で、これまでにこのようなことが無かっただけに驚いた。
ホールに別れを惜しむ人たちが大挙して押し寄せたというところだろうか。
ホール内もほぼ満席で、常にこのぐらいの集客が望めれば閉館ということにもならなかったのかもしれないが、そういうことを言ってみたところでもはや事態が変わるわけでもない。

今回は音楽友達のCさんと2階左側の席で聴いたが、アーレントオルガンの多彩な響きを存分に堪能できたのが良かった。
私はこのオルガンの音色から荘厳さ以上に愛らしさ、温かみを感じる。
謹厳なバッハ先生というよりは教会で信者たちに慈しみをもってオルガンを演奏している印象である。

最終回の演目は大規模な《クラヴィーア練習曲集 第3部》全曲である。
最初と最後に規模の大きめな前奏曲とフーガを配し、それらにコラール編曲と4曲のデュエットが挟まれる形をとる。
私の手元にあるヘルムート・ヴァルヒャの往年の録音では大オルガン用と小オルガン用でコラールを分けて配置してあったが、今回の吉田恵の演奏では同じコラールによる複数の編曲は連続して演奏された(BWV番号の順)。
プログラムノートの金澤正剛氏の解説によれば「本来はそのうちの1曲を選んで弾けば良いことになっている」そうだが、今回は全曲演奏という企画でもあり、すべて演奏された。

前半最初の「前奏曲」は、この長大な曲集の冒頭を飾るにふさわしい華やかさがあり、その後に続くコラール群は時にドラマティックに、時に親密にという多面的な表情が楽しめた。
同じコラールによる編曲が並置されると、編曲次第でまるで別の曲のような表情をもつのが興味深く、それらをちょっとした表情を付けながらもあくまで作品の揺ぎ無い構築性を保ちながら快適なテンポで表現し尽くした吉田さんの演奏はとても魅力的だった。
「4つのデュエット」はヴァルヒャの録音ではチェンバロで演奏されていたが、これらがオルガンで弾かれると全然違った印象を受けたのが面白かった。
ヴァルヒャの時はチェンバロの4曲だけが曲集の別格扱いのような印象を受けたが、吉田さんによるオルガン演奏では曲集内でも違和感なくオルガン曲としての魅力を放っていたと思った。
プログラム締め近くに演奏された「われらの救い主なるイエス・キリストは BWV688」は目まぐるしい音の動きが印象的で、吉田さんの演奏も冴えていた。
最後のドラマティックな「フーガ」ではやはり吉田さんのカザルスホール最後の演奏曲ということもあってか、聴いている私にもその表情豊かな意気込みが伝わってきたように感じ、感慨深いものがあった。

また、今回は前半と後半それぞれ途中の数曲で、鍵盤上方のふたを左右に開けて、内部のパイプをより響かせていたが、曲の特質によって開閉を決めていたのだろうか(前回は壮大な「パッサカリアとフーガ」でふたを開けていたのを覚えている)。

演奏が終わり何度かのカーテンコールを経て、吉田さんとストップ操作の女性が1階のホールに下りてきて、オルガンと共に盛大な拍手を受けていた。
この前人未到の企画をやり遂げた吉田恵さんと関係者の方々には心から拍手を贈りたい。
そして、カザルスホールの魅力的なアーレントオルガンにも・・・。

なお、カザルスホールのオルガンに関して読売新聞に記事があったのでリンクしておきます。
 こちら
 
ちなみにこの日はフーゴ・ヴォルフの150回目の誕生日。
それを記念して韓国のバリトン歌手ロッキー・チョンとピアニストの松川儒による「メーリケ歌曲集」のコンサートが津田ホールで企画されたが、17時開演では両方聴くのは無理そうなので今回は涙を飲んだ。

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吉田恵/J.S.バッハ オルガン作品全曲演奏会 第11回(2009年12月5日 日本大学カザルスホール)

J.S.バッハ オルガン作品全曲演奏会 第11回

Yoshida_2009122009年12月5日(土)19:00 日本大学カザルスホール(全自由席)
吉田恵(Megumi Yoshida)(ORG)

J.S.バッハ(1685-1750)

前奏曲とフーガ ニ長調 BWV532

いと尊きイエスよ,われらここに集いて BWV730
イエスよ,わが喜び BWV713
心よりわれこがれ望む BWV727
天にましますわれらの父よ BWV737
神の子は来たりたまえり BWV724
主イエス・キリストよ,われらを顧みて BWV709, 726
甘き喜びに包まれ BWV729
わが確き望みなるイエスは BWV728
いと尊きイエスよ,われらここに集いて BWV731

トリオ ハ短調 BWV585

コーラル・パルティータ《ああ,罪びとなるわれ,何をなすべきか》 BWV770

 ~休憩~

ソナタ 第3番 ニ短調 BWV527

ノイマイスター・コラール集より
 おお,イエスよ,いかに汝の姿は BWV1094
 おお,神の子羊,罪なくして BWV1095
 ただ汝にのみ,主イエス・キリストよ BWV1100
 汝,平和の君,主イエス・キリスト BWV1102
 主よ,われら汝の御言葉のもとに留めたまえ BWV1103
 イエスよ,わが喜び BWV1105
 神はわが救い,助けにして慰め BWV1106
アリア ヘ長調 BWV587
ノイマイスター・コラール集より
 イエスよ,わが命の命 BWV1107
 イエス・キリストが夜に BWV1108
 ああ神よ,憐れみたまえ BWV1109
 おお主なる神よ,汝の聖なる御言葉は BWV1110
 キリストこそわが生命 BWV1112
 わがことを神にゆだね BWV1113
 主イエス・キリスト,汝こよなき宝 BWV1114
 われ,心より汝を愛す,おお主よ BWV1115

パッサカリア ハ短調 BWV582

(アンコール曲1曲)

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冷たい雨が降りしきる土曜日の夜、吉田恵のバッハオルガン作品全曲演奏会の第11回を聴いてきた。
このシリーズも来年の第12回でいよいよ完結である。
カザルスホールのオルガンを聴けるのもあとわずか。
しっかり耳に刻み付けておきたい。

今回も彼女の達者な指使いがよく見えるように2階左側の席をとった。

プログラムは前半後半それぞれのブロックの最初と最後に規模の大きな作品を置き、その中にコラールに基づく小品をさしはさむ形をとっていた。
その結果華やかな雰囲気でスタートし、優しい癒しの響きが中盤を占め、最後にまた重量感のあるドラマティックな作品で締めくくるという変化に富んだ流れが形成されていた。

最初の「前奏曲とフーガ ニ長調」では足鍵盤の高度なテクニックを余裕をもって演奏しており、足の動きを見てみたいところだが、このホールでは足が見えないつくりになっているのが残念。
ノイマイスター・コラール集からの「ただ汝にのみ,主イエス・キリストよ」BWV1100では指の高度なテクニックがたっぷり披露された。

今回は面白い音響効果を聴くことが出来た。
「甘き喜びに包まれ」BWV729では、鈴の音のような響きを曲の間中鳴らしていて、クリスマスをイメージさせた。
「おお主なる神よ,汝の聖なる御言葉は」BWV1110では鳥のさえずりのような音を、助手の女性が特定のストップを押したり引いたりして曲に合わせて響かせていた。
このような響きのストップがあるとは知らなかったので驚いたが、使える曲が限られるだろうから、今回この場に居合わせることが出来て幸運だった。

この日一番のクライマックスはやはり最後の「パッサカリア ハ短調」である。
私もバッハのオルガン曲中、最も好きな作品なので、久しぶりに生で聴けて嬉しかった。
この曲、最初にパッサカリアの主題8小節(アンドレ・レゾンという人の作品からとられている)が提示されて、それが様々に変奏されていく形をとるが、吉田恵はこの曲の演奏前に、鍵盤上方の扉を左右に開けて、中にあったパイプの響きが直接客席に届くようにしていた。
彼女は最初の足鍵盤のみによる主題提示から、すでに大音量で威勢良く始めていたが、私の好みでは、ここは神秘的に抑えて始めて、それから徐々に盛り上げていく方が好きである。
しかし、彼女の並々ならぬ積極性は最後まで貫かれ、かなりドラマティックな演奏となっていた。
後半は同じ主題による「フーガ」となり、多くの演奏では、フーガのはじまる前に和音を弾きのばしていったん区切りをつけてからフーガに進むパターンがよくあるが、彼女は区切らずにすぐにフーガに移行したのが珍しく、新鮮に感じられた。

アンコールはジグザグの下降音形が特徴的な短い曲が1曲演奏された(コラール集の曲だろうか)。

今回彼女の2度目の実演に接して感じたのは、とてもよく回る指で軽快に弾き進めると同時に、感情表現に「ため」を使い、それが効果的に響いていたが、流れが若干停滞して感じられる時もあった。
しかし、抜群のテクニック(手と足の両方)で常に安定した演奏を聴かせてくれたのはやはり素晴らしかった。

前半50分、後半1時間の長大なプログラムだったが、30曲(+アンコール1曲)をいささかの弛緩もなく弾ききった彼女に拍手を贈りたい。
美しい響きの余韻にひたりながら会場を出ると、すでに雨は止んでいた。

Yoshida_200912_chirashi

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椎名雄一郎/J.S.バッハ オルガン全曲演奏会(2009年10月3日 日本大学カザルスホール)

椎名雄一郎 J.S.バッハ オルガン全曲演奏会
Shiina_20091003_pamphlet第7回 名オルガニスト バッハ
2009年10月3日(土) 15:00 日本大学カザルスホール(1階H列1番)

椎名雄一郎(Yuichiro Shiina)(ORG)

J.S.バッハ作曲

前奏曲とフーガ ト長調 BWV541
天にまします我らの父よ BWV737
主なる神よ、我を憐れみたまえ BWV721
いまぞ喜べ、汝らキリスト教の徒よ BWV734
バビロンの流れのほとりに BWV653b
我らが神の堅き砦 BWV720
前奏曲とフーガ ニ長調 BWV532

~休憩~

前奏曲とフーガ ハ長調 BWV531
小フーガ ト短調 BWV578
トリオ ハ短調 BWV585(Adagio / Allegro)
パルティータ<イエス・キリストよ、汝、真昼の光> BWV766
協奏曲 ニ短調 BWV596(原曲 ヴィヴァルディ《調和の霊感》作品3-11)([Allegro]-Grave / Fuga / Largo e spiccato / Allegro)

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椎名雄一郎のオルガンコンサートを御茶の水のカザルスホールで聴いてきた。
2005年3月から2014年までの全12回でバッハのオルガン曲全曲を演奏しようという壮大な企画の7回目で、私は今回はじめて彼の演奏を聴くことが出来た。
会場は満席で、この壮大な企画が多くの聴衆の支持を得ていることを実感させられた。
また、吉田恵さんのコンサートに続いて、再びカザルスホールのアーレント・オルガンに再会出来たのもうれしかった。
来年3月の使用中止の前に、都合のつく限り訪れて、記憶に残しておきたいと思っている。

椎名さんは毎回テーマを設けてプログラミングしているようで、今回はオルガニストとして高い技術をもっていたバッハに焦点をあてた回となった。
特に足鍵盤の技術は高く評価されていたとのこと。
オルガニストは両手を使うだけでなく、両足も使って足鍵盤を正確に踏まなければならない。
その足鍵盤の高度な技術を発揮できる作品(例えば「前奏曲とフーガ ニ長調 BWV532」や「前奏曲とフーガ ハ長調 BWV531」)が選曲されていた。

前半、後半とも最初と最後に規模の大きな作品を置き、その中に小さな作品をはさみこむ構成をとる。
それによって、聴き手は変化に富んだバッハの多彩さを満喫することが出来た。

椎名さんは高度な技術を要求される作品でも、コラールによる穏やかな作品でも、しっかりとした安定感で、堂々たる音楽を奏でていたと思う。
カザルスホールのオルガンは足の部分が隠されていて聴衆には見えないのが残念だが、全く危なげのない演奏で、あたかも手で弾いているかのようだった。
一方、「天にまします我らの父よ BWV737」のような小品は、穏やかで敬虔な響きが聴く者を癒してくれた。

有名な「小フーガ ト短調 BWV578」が聴けたのは個人的にはうれしかったが、同じ曲でも人によって選択する音栓は様々なようで、椎名氏は随分可愛らしい音色を選択していた。

最後の「協奏曲 ニ短調 BWV596」はヴィヴァルディの「調和の霊感」のオルガン編曲作品だが、ヴィヴァルディの作品を編曲することによってその作風を研究するというバッハの意図を超えて、一つの作品として、あたかもオリジナルのような充実した音楽となっていたのはバッハの才能を示していると言えるのではないか。

吉田さんの時もそうだったが、椎名さんも拍手に応える際に、アーレントオルガンにも手をかざして、楽器とともに拍手を受けていたのが印象に残った。

アンコールは無かったが、充実した音楽をたっぷり満喫できたので充分満足して帰路につくことが出来た。

Shiina_20091003_chirashi

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吉田 恵/J.S.バッハ オルガン作品全曲演奏会 第10回(2009年6月13日 日本大学カザルスホール)

J.S.バッハ オルガン作品全曲演奏会 第10回
Yoshida_2009062009年6月13日(土) 19:00 日本大学カザルスホール(全自由席)
吉田 恵(Megumi Yoshida)(ORG)

J.S.バッハ(1685-1750)作曲

ファンタジー ハ短調BWV562

ノイマイスター・コラール集より
 心より慕いまつるイエスよ, 汝いかなる罪をBWV1093
 キリストよ,受難せる汝に栄光あれBWV1097
 深き淵より,われ汝に呼ばわるBWV1099
 アダムの堕落によりてことごとく腐れたりBWV1101
 よし災いの襲いかかろうともBWV1104
 ああ主よ,哀れなる罪人われをBWV742
 いまぞ身を葬らんBWV1111
 人はみな死すべきさだめBWV1117

プレリュードとフーガ ハ短調BWV546

~休憩~

協奏曲ニ短調BWV596

ああ主なる神よBWV714
キリストは死の縄目につながれたりBWV695
キリストは死の縄目につながれたりBWV718
われ汝に別れを告げんBWV735
われ汝に別れを告げんBWV736

プレリュードとフーガ ロ短調BWV544

~アンコール~
装いせよ汝,おお愛する魂よBWV654

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オルガニストの吉田恵が2004年に始めたというバッハオルガン作品全曲演奏会の第10回目を聴いてきた。
5月のラ・フォル・ジュルネではバッハがテーマでありながらオルガン曲を聴けなかったのが物足りなかったので、今回のこの演奏会は早くからチェックしていた。
彼女のほかに椎名雄一郎も12回にわたるバッハ連続シリーズを継続中で、前回聴こうと思ったのだが完売だったので、次回までお預けである。

今回の吉田さんの演奏会、バッハの全曲シリーズというだけでもその志の高さに感銘するのだが、来年残念ながら閉館の予定という日大カザルスホールのアーレント・オルガンを演奏してくれるのがうれしい。
私も日大の所有になる前は何度かこのホールに足を運んだものだが、オルガン演奏はおそらく聴いていなかったと思う。
今回は自由席なので、2階に据え付けられたオルガンが見やすいように2階席左側で聴いた。

カザルスホールのオルガンはバッハの時代当時のオルガンを復元したものとのことで、パイプはすべて木の枠に上向きにきっちり収まっていて、2階の壁から出っ張った木のボックスごと一つの楽器という印象である。
華美な装飾があるわけでなく、一見こじんまりした印象すら受けるこの楽器がどのような音を出すのか興味津津で開演を待った。

吉田さんはストップ操作の女性を伴って登場した。
吉田さんが左側の音栓、助手の女性が主に右側の音栓を準備して演奏がはじまる。
最初の「ファンタジー ハ短調」が静かに鳴った瞬間、その優しい響きに魅せられた。
吉田さんの演奏はとても良く回る指で軽快に進められる。
テクニック的に全く危なげない指使いとペダリング(このオルガンは足が聴衆から全く見えないつくりになっているのがちょっと残念)で、オルガンの多彩で優しい音色を見事に引き出していたと思う。

「ノイマイスター・コラール集」は、プログラムノートの金澤正剛氏によると、アメリカ、イェール大学の図書館で1984年に発見されたばかりの作品集で、手写した人の名前をとって「ノイマイスター・コラール集」と呼ばれるようになったそうだ。
この中から8曲が演奏されたが、どれも短く親しみやすい曲である。
かつて偽作説があったという「ああ主よ,哀れなる罪人われを」はそういわれてみるとバッハっぽくない感じもするが、「ノイマイスター・コラール集」に含まれていたことでバッハの作品と確認されたそうだ。

前半最後の「プレリュードとフーガ ハ短調」はドラマティックで悲痛な雰囲気が胸に迫ってくる。
吉田さんの演奏はプレリュードとフーガの間で若干の間を置きながらも、流れが中断されないように演奏していたように感じた。

後半最初の「協奏曲ニ短調」はヴィヴァルディの「調和の霊感」第11曲を編曲したもの。
バッハはこのようにヴィヴァルディの研究に勤しんでいたが、研究のための編曲ということでオリジナルに忠実なものになっているようだ。
曲調がほかの作品と違うので、バッハだけで組まれたプログラムでちょっとした気分転換になった気がする。

その後には若いころにバッハがつくったコラール作品5曲。
こちらは「ノイマイスター・コラール集」と違って1曲1曲がしっかりした長さをもっている。
オリジナルのコラールを知っているとさらに楽しめるのだろう。

最後の「プレリュードとフーガ ロ短調」は壮大な作品である。
金澤氏も「バッハ後期の代表作」と表現しておられる。
後半のフーガの主題は「コンドルは飛んでいく」みたいで覚えやすい。
この主題が次々とフーガになって展開していき、素敵な作品であった。

アンコールで弾かれた小品も穏やかで優しく心地よい気持ちになった。
カーテンコールで何度も呼び戻された吉田氏は、アーレント・オルガンにも手をかざして、楽器とともに拍手にこたえていたのが印象的だった。
華麗すぎない、いぶし銀のような優美な音色に心癒された時間を過ごすことが出来て、満足して家路につくことが出来た。

カザルスを記念したこのホール、開演を知らせるベルの代わりにカザルスゆかりの「鳥の歌」のメロディが流れ、このホールでカザルスの盟友だったあのホルショフスキーも演奏したのだと思うと、やはり感慨深いものがある。
それにしても、このオルガンは閉館後にはどうなってしまうのだろう。
解体ということにはならないことを祈りたい。

Yoshida_200906_chirashi_2

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