ゲルハルト・オピッツ/シューベルト連続演奏会(全8回)【第7回&第8回】(2013年12月5日&20日 東京オペラシティ コンサートホール)

ゲルハルト・オピッツ シューベルト連続演奏会(全8回)【第7回&第8回】
GERHARD OPPITZ SCHUBERT ZYKLUS

【第7回】
2013年12月5日(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz)(piano)

シューベルト(Schubert)

ピアノ・ソナタ 第15番 ハ長調 D840
(Sonate C-Dur, D840)
 I. Moderato
 II.Andante

3つのピアノ曲 D946
(Drei Klavierstücke, D946)
 I. Allegro assao
 II. Allegretto
 III.Allegro

~休憩~

ピアノ・ソナタ 第17番 ニ長調 D850
(Sonate D-Dur, D850)
 I. Allegro vivace
 II. Con moto
 III.Scherzo, Allegro vivace
 IV. Rondo, Allegro moderato

~アンコール~
シューベルト/ピアノソナタ第20番イ長調D959より第3楽章

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【第8回】
2013年12月20日(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz)(piano)

シューベルト(Schubert)

ピアノ・ソナタ 第6番 ホ短調 D566
(Sonate e-moll, D566)
 I. Moderato
 II. Allegretto
 III.Scherzo, Allegro vivace

ハンガリーのメロディ ロ短調 D817
(Ungarische Melodie h-moll, D817)

アレグレット ハ短調 D915
(Allegretto c-moll, D915)

2つのスケルツォ D593
(Zwei Scherzi, D593)
 I. Allegretto B-Dur
 II.Allegro moderato Des-Dur

~休憩~

ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D960
(Sonate B-Dur, D960)
 I. Molto moderato
 II. Andante sostenuto
 III.Scherzo, Allegro vivace con delicatezza
 IV. Allegro ma non troppo

~アンコール~
シューベルト/即興曲 変イ長調 D935-2

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201312_oppitz_2

2010年より4年がかりで8回のシューベルト・シリーズを続けてきたゲルハルト・オピッツだが、とうとう今年が最終回である。

【第7回】
オピッツのシューベルトは温かく、いい意味での即興性を感じさせ(もちろん細心の準備のもとなされているのだろうが)、感情の揺れをやり過ぎない範囲で素直に表現する。
それは今回の演奏でも一貫していた。
例えば、現役若手の最高のシューベルト弾きの一人としてポール・ルイスが挙げられるが、彼のベートーヴェンのような構築感に貫かれた、一分の隙もなく計算されたシューベルトの演奏は素晴らしい。
だが、オピッツの演奏はルイスとは異なる意味で、シューベルトの理想的な演奏だと思う。
オピッツはシューベルトの身の丈に合った素朴で味わい深い演奏を響かせるのである。
もちろんどちらの演奏も素晴らしいし、両方のタイプのシューベルトが聴けるというのもまた贅沢な喜びである。
(余談だが、先日王子ホールでシューベルトの最後のソナタ3曲をミッシェル・ダルベルトが弾き、好演だったようで、チケットがとれず残念だった。)

この夜はまず「レリーク」として最初の2楽章のみが完成しているハ長調のソナタが演奏された。
「レリーク」といえばリヒテルが第3、4楽章も未完成のまま演奏したライヴ録音が出ていて、それでこの曲の魅力を知ったのだが、オピッツは完成された最初の2つの楽章のみを演奏し、それもまた一つの見識であるだろう。
オピッツは比較的ゆったりとしたテンポで演奏をしたが、部分的にテンポを速めたりして、表情の変化は充分ついていた。

「3つのピアノ曲 D946」は最近様々なピアニストによって取り上げられるようになった作品である。
切迫感あふれる第1番がおそらく最も有名だが、第2番の無言歌、第3番のコミカルな表情など、どれも晩年の充実した作品である。
それらをオピッツは、魅力的な味わい深い響きで演奏した。
私はその響きに浸る幸せをつくづく実感した。

後半は「ピアノ・ソナタ 第17番 ニ長調」。
この個性的な作品をなんの衒いもなく、自然体で演奏したオピッツの演奏は時間の経つのを忘れるほど魅力的であった。
第1楽章はともすれば力ずくになりがちだが、オピッツの演奏は必要な劇性は備えているが、決して乱暴になることがない。
最終楽章はカチカチとした時計のようなリズムが印象的だが、オピッツはペダルを適度に用いることによって、そのリズムをあえて強調しなかった。
それによってまた新しい魅力が生み出されたように感じられた。
その熟練したタッチから紡ぎだされるシューベルトの心の旅を心ゆくまで堪能した。

アンコールではソナタ第20番の軽妙な第3楽章。
このまま第4楽章も続けて弾いてほしかったと思うほど心に響いた演奏だった。

【第8回】
はじまりがあれば必ず終わりがある。
分かってはいるが、やはり最後となると寂しいものである。
決して会場が満席になるシリーズではなかったが、それでも最終回には多くの聴衆がホールに集まった。

最終回の最初に弾かれたのは1817年に作曲されたピアノ・ソナタ第6番。
コンサート会場で聴ける機会の少ないシューベルト若かりし日の作品をこうして演奏してくれることにまず感謝。
そしてオピッツの演奏は比較的速めのテンポで自然体で演奏する。
そして、時々微妙にためたり、歩みを速めたりする。
その表情もとってつけた感は一切なく、シューベルトがこうしてほしがっているのではないかと思えるほどの説得力があった。

ソナタの後の4曲をオピッツは続けて演奏した(「ハンガリーのメロディ」の後に軽く起こった拍手に対して座ったまま軽く礼をしてすぐに次に進めた)。
「ハンガリーのメロディ」「アレグレット ハ短調」「2つのスケルツォ」をオピッツはあたかも1つのソナタのようにみなして演奏していたかのように私には感じられた。
もちろん学術的な意味ではなく、プログラムビルディングにおける流れとして、オピッツはこれらの作品をつなげて演奏することに意義を見出していたのではないだろうか。
「ハンガリーのメロディ」は比較的ペダルを多めに使い、曖昧模糊とした雰囲気を醸し出す。
それによって単なるキャラクターピースとみられがちなこの作品にある種の重みが加わっていたように感じた。
続く「アレグレット ハ短調」はあたかもソナタの緩徐楽章であるかのようにゆったりとデリカシーに富んだ演奏をする。
そして2つのスケルツォの第1曲もペダルを効果的に使用し、趣深さを付け加えていた。
第2番では一転して急速なテンポで細かい音をころころと演奏し、ソナタのフィナーレのような華やかさを醸し出した。
こうして、オピッツによって、ばらばらな小品が一つの流れを獲得した。
これもまた一つの演奏の在り方であり、大いに楽しませてもらった。

そして、休憩後、シリーズ最後の演目にはやはり最後の変ロ長調ソナタが演奏された。
このソナタの延々と続く生死の間を行き来するかのような浮遊感をオピッツは自在に自然に演奏して聴かせてくれた。
もちろん第1楽章のリピートは省略することなく、長大なシューベルトのソナタの終着点をたっぷりと味わわせてくれた。
第2楽章の悲哀の歌も共感に満ちた演奏であった。
普通そのあとに弾かれる第3楽章が突然雰囲気が変わり、前半と後半が断絶してしまいかねないところだが、オピッツは第3楽章や第4楽章も紛れもなくシューベルトの晩年の所産であることを納得させてくれた。
おおげさな言い方かもしれないが、オピッツにシューベルトが乗り移ったのではないかと思えるほど、演奏者と作曲家が一体となっていた。
こういう印象をもつことはなかなか無いことである。
オピッツはかつてケンプに師事していた。
ケンプはベートーヴェンもブラームスも得意にしていたが、シューベルトの作品をはじめてまとめて録音したシューベルトの名手であった。
オピッツが意識しているか否かはともかく、彼が師匠の精神を引き継いだ演奏をしていたということなのかもしれない。

聴衆の熱く長い拍手がこの演奏の充実を物語っていた。
そして、シリーズの締めにオピッツが選んだアンコールは即興曲 変イ長調 D935-2であった。
この美しい無言歌をオピッツはやはりさりげない味わいをこめて弾いた。
まさに最後にふさわしい演奏であった。

全8回すべて聴いて、ゲルハルト・オピッツという素晴らしい道案内の導きによって、シューベルトの歩いたさまざまな世界を旅することが出来た。
シューベルトの短い人生において、ピアノ作品はひとつのジャンルに過ぎないけれど、彼の試行錯誤と成長の足跡を垣間見ることが出来たのは素晴らしい体験だった。
ベートーヴェンやブラームスの名手と見られることの多いオピッツだが、私はもう一つの肩書を決して忘れないだろう。
オピッツが現代最高のシューベルト演奏家の一人であるということを。

↓12月5日のオペラシティのイルミネーション
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ゲルハルト・オピッツ/シューベルト連続演奏会【第5回&第6回】(2012年12月12日&27日 東京オペラシティ コンサートホール)

ゲルハルト・オピッツ シューベルト連続演奏会(全8回)

【第5回】2012年12月12日(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(1階4列10番)
【第6回】2012年12月27日(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(1階4列10番)

ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz)(piano)

【第5回】シューベルト(Schubert)作曲

ピアノ・ソナタ ハ長調 D279 (Sonate C-Dur, D279)
 I. Allegro moderato
 II. Andante
 III. Menuetto: Allegro vivace

ピアノ・ソナタ イ長調 D664 (Sonate A-Dur, D664)
 I. Allegro moderato
 II. Andante
 III. Allegro

~休憩~

高雅なワルツ集 D969 (Valses nobles, D969)
 No. 1 in C major
 No. 2 in A major
 No. 3 in C major
 No. 4 in G major
 No. 5 in A minor
 No. 6 in C major
 No. 7 in E major
 No. 8 in A major
 No. 9 in A minor
 No. 10 in F major
 No. 11 in C major
 No. 12 in C major

ピアノ・ソナタ イ短調 D845 (Sonate a-moll, D845)
 I. Moderato
 II. Andante poco mosso
 III. Scherzo. Allegro vivace
 IV. Rondo: Allegro vivace

~アンコール~
ピアノ・ソナタ イ長調 D664から 第2楽章

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【第6回】シューベルト(Schubert)作曲

ピアノ・ソナタ ホ長調 D459 (Sonate E-Dur, D459)
 I. Allegro moderato
 II. Allegro

ピアノ・ソナタ ト長調 D894 (Sonate G-Dur, D894)
 I. Molto moderato e cantabile
 II. Andante
 III. Menuetto: Allegro moderato
 IV. Allegretto

~休憩~

即興曲集 D935 (Impromptus, D935)

 No. 1 in F minor
 No. 2 in A flat major
 No. 3 in B flat major
 No. 4 in F minor

~アンコール~
3つのピアノ曲D946 第1曲 変ホ短調

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(感想を書かないまま長いこと放置していましたので、ここまででアップすることにします。オピッツの演奏はいつもながらシューベルトの流れに寄り添いながら、時にルバートを駆使して、味わい深い演奏をしてくれたことを覚えています。)

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ゲルハルト・オピッツ/シューベルト連続演奏会(全8回)【第3回&第4回】(2011年12月13日&21日 東京オペラシティ コンサートホール)

ゲルハルト・オピッツ
シューベルト連続演奏会(全8回)【第3回】
2011年12月13日(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(1階3列10番)

ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz)(Piano)

シューベルト(Schubert)
ピアノ・ソナタ ホ長調 D157
Sonate E-Dur, D157
 I. Allegro ma non troppo
 II. Andante
 III. Menuett. Allegro vivace

12のドイツ舞曲 D790
Deutsche Tänze, D790
 No.1 D major
 No.2 A major
 No.3 D major
 No.4 D major
 No.5 B minor
 No.6 G flat minor
 No.7 A flat major
 No.8 A flat major
 No.9 B flat major
 No.10 B flat major
 No.11 A flat major
 No.12 E major

3つのピアノ曲 D459a
Klavierstücke, D459a
 I. Adagio
 II. Scherzo con Trio: Allegro
 III. Allegro patetico

~休憩~

ピアノ・ソナタ 変イ長調 D557
Sonate As-Dur, D557
 I. Allegro moderato
 II. Andante
 III. Allegro

即興曲集 D899
Impromptus, D899
 No.1 C minor
 No.2 E flat major
 No.3 G flat major
 No.4 A flat major

~アンコール~
シューベルト/3つのピアノ曲D946~第2曲変ホ長調

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ゲルハルト・オピッツ
シューベルト連続演奏会(全8回)【第4回】
2011年12月21日(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(1階3列10番)

ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz)(Piano)

シューベルト
ピアノ・ソナタ 変ホ長調 D568
Sonate Es-Dur, D568
 I. Allegro moderato
 II. Andante molto
 III. Menuetto: Allegretto
 IV. Allegro moderato

ヒュッテンブレンナーの主題による13の変奏曲 D576
Variationen über ein Thema von Hüttenbrenner, D576

~休憩~

ピアノ・ソナタ ハ短調 D958
Sonate c-moll, D958
 I. Allegro
 II. Adagio
 III. Menuetto: Allegro
 IV. Allegro

~アンコール~
シューベルト/3つのピアノ曲D946~第3曲ハ長調

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昨年からスタートしたゲルハルト・オピッツによるシューベルト連続演奏会も今年は第3回と第4回を迎えた。
オピッツは初期の作品にも晩年の作品にも同様の愛着を示して演奏する。
従って若書きが立派な作品にもなり、晩年の熟した作品からは若々しさも導き出す。

概して安定したテンポで美しい音を響かせたが、時々盛り上がる箇所で速度をあげて前のめりになる。
ただ、それもシューベルトの許容範囲を超えずに魅力的な演奏となっていた。

川口でベートーヴェンを聴いた時とは明らかに異なる伸び縮みのある柔軟な表情がシューベルトらしさを感じさせて素晴らしかった。
シリーズも半分が終わり、来年は後半に入る。
「ヒュッテンブレンナー変奏曲」のような珍しい作品にも接することが出来るのがこのシリーズの魅力のひとつであり、来年以降もそのような出会いを楽しみにしたい。

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ゲルハルト・オピッツ/ピアノ・リサイタル(2011年12月4日 川口リリア 音楽ホール)

ゲルハルト・オピッツ ピアノ・リサイタル

2011年12月4日(日)15:00 川口リリア 音楽ホール(V列6番)
ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz)(Piano)

ベートーヴェン(Beethoven)/ピアノ・ソナタ第18番 変ホ長調 作品31-3

ベートーヴェン(Beethoven)/ピアノ・ソナタ第21番 ハ長調「ワルトシュタイン」作品53

~休憩~

ブラームス(Brahms)/2つのラプソディ 作品79
 1. h-moll
 2. g-moll

ブラームス(Brahms)/ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ 作品24

~アンコール~
ブラームス(Brahms)/「幻想曲集」~インテルメッツォ 作品116-4

毎年暮れになるとオピッツのコンサートを聴くのが私にとってここ数年の恒例となりつつある。
そして、毎回当たり前のように聴きに行くのだが、今回ほど、このピアニストの凄さを身に沁みて感じたことはなかった。
私の家からそう遠くないところにある川口リリアにオピッツのような巨匠が来てくれるというのは本当はとても有難いことなのだが、毎年聴いていると麻痺してしまうのか、その貴重さもあまり意識しなくなってしまう。

しかし、今回のベートーヴェンとブラームスの硬派なプログラムを聴いて、「ドイツ魂ここにあり」とただただ感服するばかりだった。
今回私は後方左側の席だったのだが、このリリアの音楽ホールは響きがとても良く、後ろまで細かい表情が伝わってくる。
そして、オピッツの1曲1曲にかける思いの強さがひしひしと伝わってきて、その積極的なアプローチに圧倒されっぱなしだった。
概して早めのテンポ設定で、細やかなテンポの揺れや強弱の変化を付けて、一時も崩れることがない。
そしてあまりにも素晴らしいテクニックは決して音楽を覆いかぶすことはなく、常に作品の姿を表現する一手段となっていた。
前半のベートーヴェンのソナタ2曲(「狩」「ヴァルトシュタイン」)ですでにノックアウト。
こんなに力強く、質実剛健でありながら、あざとくなく、朴訥ですらあるのは、凄いの一言。
いろいろなベートーヴェン解釈があっていいのだが、オピッツのこの演奏はまさにドイツ人にしかなし得ない境地と感じた。

興奮おさまらぬまま休憩に入り、後半最初に演奏されたブラームス「2つのラプソディ」がまた凄かった。
奔放さとデリカシーの交錯する作風が立体的なオピッツの造形によって息つく間もないほどのドラマティックな表情となり、まさに「狂詩曲」というにふさわしい名演だった。
これほど強烈な光を放ったラプソディーが実演で聴けるとは!

そして、ヘンデルのテーマによる変奏曲がまた素晴らしい。
オピッツの演奏は集中力に満ち、次々と繰り広げられる変奏が実に表情豊かに引き締まったテンポ感で表現される。
この作品が、ベートーヴェンの「ディアベッリ変奏曲」の後に続く傑作であることを、オピッツの隙のない完璧な演奏が教えてくれた。
30分近くの大作がこれほど短く感じられたのは、彼の演奏のもつ力ゆえだろう。

アンコールのブラームス「インテルメッツォ 作品116-4」がまた味わいに満ちて、美しい歌にあふれていた。
最初から最後まで徹底してドイツ芸術の豊かさを作品、演奏の両面からたっぷりと味わえたマチネだった。

さらに2回オピッツのシューベルトシリーズを聴けるのが今から楽しみだ。
(ちなみに「ヴァルトシュタイン」3楽章のオクターブグリッサンド箇所は、グリッサンドにせず両手に分けて弾いていたように見えた。)

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オピッツ/シューベルト連続演奏会 第1回&第2回(2010年12月14日&21日 東京オペラシティ コンサートホール)

Oppitz_201012

ゲルハルト・オピッツ シューベルト連続演奏会(SCHUBERT ZYKLUS)(全8回)

2010年12月14日(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(1階4列7番)
2010年12月21日(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(1階4列7番)

ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz)(piano)

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【第1回】(12月14日)

シューベルト(Schubert)作曲

楽興の時(Moments musicaux)D780
 1. Moderato
 2. Andantino
 3. Allegretto moderato
 4. Moderato
 5. Allegro vivace
 6. Allegretto mit Trio

ピアノ・ソナタ ロ長調(Sonate H-Dur)D575
 I. Allegro ma non troppo
 II. Andante
 III. Scherzo: Allegretto
 IV. Allegro giusto

~休憩~

10の変奏曲(Variationen über ein eigenes Thema)D156

ピアノ・ソナタ イ短調(Sonate a-moll)D784
 I. Allegro giusto
 II. Andante
 III. Allegro vivace

~アンコール~
シューベルト/3つのピアノ曲~第1番変ホ短調 D946-1

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【第2回】(12月21日)

シューベルト(Schubert)作曲

ピアノ・ソナタ イ短調(Sonate a-moll)D537
 I. Allegro ma non troppo
 II. Allegretto quasi Andantino
 III. Allegro vivace

「さすらい人幻想曲(Wanderer-Fantasie)」D760
 I. Allegro con fuoco ma non troppo
 II. Adagio
 III. Presto
 IV. Allegro

~休憩~

ピアノ・ソナタ イ長調(Sonate A-Dur)D959
 I. Allegro
 II. Andantino
 III. Scherzo: Allegro vivace
 IV. Rondo: Allegretto

~アンコール~
シューベルト/即興曲D935-2

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ゲアハルト・オピッツによるシューベルト・ツィクルスが東京でスタートした。
録音ではすでにシューベルトシリーズを完結している彼の実演シリーズは4年かけて全8回で完結する予定とのこと。
今年はその第1回と第2回だった。

第1回はまずその空席の多さに驚いた。
私は1階左側ブロックの4列目だったのだが、私の前方に誰もいない(おかげでオピッツの手の動きが完全に見えたのは良かったが)。
前方は真ん中のブロックにしか客がおらず、オピッツほどの著名人でも東京オペラシティは広すぎたか。

オピッツは比較的テンポを自由に動かしながらコントロールした音色でよく歌う。
テンポ設定は時に前のめり気味になる箇所もあるが、即興的な判断ではなく、あくまでオピッツの意図によるものであるのは、繰り返し箇所でも同様のテンポ設定が聞かれたことがその証となっている。
あまり刺激的な強音を使わず、弱音主体で演奏していたのは、シューベルトの演奏に対するオピッツの思いの反映なのではないか。
彼がケンプの弟子であることを思い起こさせる瞬間もしばしばあった。
決して構築感をおろそかにしているわけではないのだが、現代の洗練された演奏とは対極にあるようなある種の土臭さがシューベルトの音楽にえもいわれぬ趣を与えていた。

「楽興の時」全6曲をまとめて聴ける機会はありそうでなかなか無い。
こうしてあらためて聴いてみると有名な第3曲に限らず佳曲ぞろいである。
シューベルトの良い面だけが抽出されたかのような魅力全開の音楽。
これらはどう考えてもシューベルトにしか書けない音楽にちがいない。

イ短調ソナタD784は地味であまり知られていないが、不思議な暗さを帯びて非常に魅力的である。
特に第3楽章は右手と左手が追いかけっこをしているようにくっついたり離れたりする。
その様をオピッツの優れた演奏で実際に見るのは興味深かった。

今回若干ミスもあったが、全体的にはシューベルトらしいシューベルトを聴けたという満足感でいっぱいであった。

1週間後の第2回目は有名なソナタD959が含まれているせいか、前回よりもかなり多くの聴衆が入っていた。

前半最初のソナタD537はベネデッティ=ミケランジェリも録音していて、通し番号では第4番とされている。
特に第2楽章のテーマは後半の最晩年のソナタD959の終楽章にも使われており、同じ主題を使ってシューベルトがどのように進化した作品をつくったか比較する楽しみも与えてくれるプログラミングだった。
オピッツはドイツ人としては小柄な方で、手もそれほど大きくないように思われる。
しかし、そのことは演奏するうえで全く障害になっていない。
「さすらい人」幻想曲はシューベルトの作品の中では例外的といってもいいほど超絶技巧が求められるが、右に左にせわしなく鍵盤上を移動しながらもしっかりと安定した音楽を築いていたのはオピッツの高い技術を証明していた。

だがこの日の白眉はなんといっても後半のソナタD959だった。
よくシューベルト晩年のソナタ3曲D958~D960はソナタ形式という構造を意識した作品とみなされ、特にD958のハ短調ソナタはベートーヴェン的と形容されたりするが、今回のオピッツの弾くD959はまさにシューベルトのソナタの形式的な面を意識させるものだった。
オピッツは天高く屹立する建造物のように堂々とこのソナタを演奏した。
そこに甘い感傷を込めずにあくまで冷静な目の行き届いた演奏だった。
そして、こうして演奏されたD959のソナタは、部分部分であらわれる美しい音楽の羅列が有機的なつながりをもっているように感じられた。
これはオピッツの演奏によってはじめて感じた感覚かもしれない。

Oppitz_201012_chirashi

アンコールで弾かれた即興曲D935-2の何と美しかったことか。
一つ一つの音を慈しむように演奏するオピッツの響きは限りない包容力にあふれていた。
せわしない現代に、時間がゆったりと流れていくようなシューベルトの音楽にひたることがどれほど素敵なことか、あらためて感じさせられた2夜であった。

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オピッツ/ピアノ・リサイタル(2009年11月22日 川口リリア 音楽ホール)

ゲルハルト・オピッツ ピアノ・リサイタル
Oppitz_200911ベートーヴェン4大ソナタを弾く!!

2009年11月22日(日) 15:00 川口リリア 音楽ホール(C列13番)

ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz)(P)

[Bプログラム]

ベートーヴェン(Beethoven)作曲

ピアノ・ソナタ第8番ハ短調「悲愴」作品13
 第1楽章:Grave - Allegro di molto e con brio
 第2楽章:Adagio cantabile
 第3楽章:Rondo: Allegro

ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調「月光」作品27-2
 第1楽章:Adagio sostenuto
 第2楽章:Allegretto
 第3楽章:Presto agitato

~休憩~

ピアノ・ソナタ第17番ニ短調「テンペスト」作品31-2
 第1楽章:Largo - Allegro
 第2楽章:Adagio
 第3楽章:Allegretto

ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調「熱情」作品57
 第1楽章:Allegro assai
 第2楽章:Andante con moto
 第3楽章:Allegro ma non troppo - Presto

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昨年に引き続き、オピッツのリサイタルを聴いてきた。
今回はベートーヴェンの有名なソナタ4曲。
人気の高い曲ばかりでプログラムを組めるのは、オピッツの自信のあらわれだろう。

それにしても今回は前半を聴いただけで圧倒されてしまった。
「悲愴」の両端楽章では決して音を汚すことなく、絶妙なコントロールでドラマを築き上げていたし、第2楽章でのオピッツは楽器を使って、見事なまでに“歌って”いた。
そして「月光」では第1楽章の3連符が決して単調にならず、たゆたう水面のように静かに奏され、その上の高音のメロディーが美しく歌われる。
続く第2楽章ではごつごつしたドイツ風ダンスのように演奏され、最終楽章ではテクニックはあくまで手段に過ぎず、劇的な“音楽”によって圧倒してくれた。

後半ではライヴならではの熱気にようなものがさらに加わり、「熱情」の最後では自らを煽って、限界に挑戦するかのようにスピードアップしてクライマックスを築いた。
「テンペスト」の第1楽章でのレチタティーヴォ風の箇所では、あえて濁りを気にせずにペダルを踏みっぱなしにして効果的に響かせていた。

外国の人としては決して大きくはない中肉中背のオピッツだが、その演奏は潤いに満ちた音と安定したテクニック、それに自然な流れを維持するテンポ感によって、ドイツ音楽の伝統とはこういうものなのだろうと実感させてくれた。
彼の演奏はたとえてみれば、土の匂いのするごつごつした雰囲気。
しかし、それが高度なテクニックと、歌に溢れたタッチに支えられて何とも言えない温かい趣を醸し出す。
同じドイツ人のペーター・レーゼルの演奏が洗練されたスマートなものだとすれば、オピッツの演奏は実直なまでに無骨に伝統を守ろうとするものと言えるかもしれない。

聴衆の熱烈な拍手に何度も呼び出されながら昨年同様アンコールは無かった。
本プログラムだけで全力を尽くしたのだろうから、これ以上望むのも酷だろう。

来年の12月には東京オペラシティでシューベルトのシリーズがスタートするようで今から楽しみである。

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オピッツ/ベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全32曲演奏会(第8回)(2008年12月26日 東京オペラシティ コンサートホール)

ゲルハルト・オピッツ ベートーヴェン・ピアノソナタ全32曲演奏会(全8回)第8回

Oppitz_20082008年12月26日(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(1階3列6番)

ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz)(P)

ベートーヴェン(Beethoven)作曲

ソナタ第30番ホ長調作品109
 1. Vivace, ma non troppo - Adagio espressivo
 2. Prestissimo
 3. Andante molto cantabile ed espressivo

ソナタ第31番変イ長調作品110
 1. Moderato cantabile molto espressivo
 2. Allegro molto
 3. Adagio ma non troppo - Fuga: Allegro ma non troppo

~休憩~

ソナタ第32番ハ短調作品111
 1. Maestoso - Allegro con brio ed appasionato
 2. Adagio molto semplice e cantabile

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今年ももう残りわずかである。
仕事納めの今日、今年最後となるであろうコンサートに出かけた。
ドイツのベテラン、ゲルハルト・オピッツによるベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲シリーズの最終回である。
とはいえ、オピッツのコンサートを生で聴くのは私にとって今回がはじめて。
かつてNHKのレッスンで名教師ぶりを披露していたゲルハルト・オピッツの実演をいつか聴いてみたいと思っていた。
当日券売り場に行くと、S席とA席が残っており(不況のせいか、オピッツほどの人でも完売にならないのは、聴き手にとっては券が入手しやすいので正直有難い)、せっかくなので前から3列目の席を購入。
オペラシティでこんなに前の席ははじめてである。
残り物には福があるとはこういうことか。
左の方の席なので、オピッツの姿を右後ろから見る形になるが、手の動きははっきりと見ることが出来たのが良かった。
バイブルにもたとえられるベートーヴェンのピアノソナタの中でもこの日に演奏されるのは最後のソナタ3曲。
演奏者はもちろん聴き手にも充分なエネルギーと集中力が要求される難曲である。

オピッツは1953年バイエルン州生まれというから今55歳。
まさに脂の乗った時期である。
ケンプにも師事している。
ブラームス、ベートーヴェンなどに続き、現在シューベルトのシリーズを録音中とのこと。
彼はヴァルトラウト・マイアーの共演者として「女の愛と生涯」やシューベルト、ブラームスの歌曲集も録音している。

登場したオピッツは思ったほど大きい人ではなく、手のサイズも普通ぐらいだった。
しかし、指回りは全く問題なく、大作3曲をいささかの弛緩もなく、見事に弾ききったのは素晴らしかった。
オピッツは例えば同じドイツ出身のペーター・レーゼルなどと比べると、技術の安定しているところは共通しているが、より感情表現が素直に外面にあらわれるタイプのようだ。
作りこんだ感じよりも即興的で自然な印象を与える演奏である。
テンポをゆらし、強弱の幅を大きくとりながらも、やりすぎることのないコントロールの妙があった。

ソナタ第31番は先日NHKでの放送が終了したマリア・ジョアン・ピレシュのワークショップ・シリーズで頻繁にピレシュの演奏が放送され、馴染んでいたので、ピレシュとの違いを感じながら、オピッツの演奏を楽しめた。
ピレシュの巨匠然としたどっしり感に対して、オピッツの演奏はより柔軟で自由さのある演奏だった。
もっとドイツ的ながっちりした構築感をイメージしていたのだが、先入観というのは音楽を聴くうえでは邪魔なだけであることがよく分かった。

ベートーヴェン最後のソナタである第32番は2つの楽章からなる30分ほどかかる大作である。
第1楽章は屹立した巨人とか、ごつごつした岩などがイメージされ、あたかも何か大きな力と戦っているような音楽である。
オピッツはただ力強いだけではない隅々まで目の行き届いた充実した演奏を聴かせた。
一方第2楽章は"Arietta"と題され、ひたすら内面に沈潜していき、表面的な耳あたりのよさを排除した渋みあふれる世界が繰り広げられる。
オピッツの弾くこの第2楽章を聴いて、ベートーヴェンの心の中に行き来する様々な思いの移り行きを次々披露されているような感じを受けた。
とりわけ高音域で繊細に奏でられる箇所では星のきらめきのような崇高さを感じた。
長いトリルのうえで静かに語られる締めのモノローグはオピッツのデリカシーにあふれた良さが最高の形で発揮されていたように思う。
こういう音楽を心を無にして聴き入ることの幸せを感じながら、ひたすら身をまかせていた。

聴衆の熱烈な拍手でオピッツは何度もステージに呼び戻されたが、穏やかな笑顔をたたえながら拍手に応え、アンコールは弾かなかった。
ベートーヴェンの全ソナタ・シリーズをやり遂げ、満足だったことだろう。
来年はブラームスのコンチェルトを弾きに再来日するようだ。
都合があえばまた聴いてみたいピアニストである。

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