ベートーヴェン歌曲(Beethoven Lieder)の記事リンク集

●作品番号(Op.)順

ベートーヴェン「希望に寄せて(An die Hoffnung, Op. 32 / Op. 94)」(第1作/第2作)

ベートーヴェン「アデライーデ(Adelaide, Op. 46)」

ベートーヴェン「祈願(Bitten, Op. 48, No. 1)」(『ゲレルトの詩による6つの歌曲』より)

ベートーヴェン「隣人への愛(Die Liebe des Nächsten, Op. 48, No. 2)」(『ゲレルトの詩による6つの歌曲』より)

ベートーヴェン「死について(Vom Tode, Op. 48, No. 3)」(『ゲレルトの詩による6つの歌曲』より)

ベートーヴェン「自然における神の栄光(Die Ehre Gottes aus der Natur, Op. 48, No. 4)」(『ゲレルトの詩による6つの歌曲』より)

ベートーヴェン「神の力と摂理(Gottes Macht und Vorsehung, Op. 48, No. 5)」(『ゲレルトの詩による6つの歌曲』より)

ベートーヴェン「懺悔の歌(Bußlied, Op. 48, No. 6)」(『ゲレルトの詩による6つの歌曲』より)

ベートーヴェン「ウーリアンの世界旅行(Urians Reise um die Welt, Op. 52 No. 1)」

ベートーヴェン「炎色(Feuerfarb', Op. 52 No. 2)」

ベートーヴェン「憩いの歌(Das Liedchen von der Ruhe, Op. 52, No. 3)」

ベートーヴェン「五月の歌(Maigesang (Mailied), Op. 52, No. 4)」

ベートーヴェン「モリーの別れ(Mollys Abschied, Op. 52, No. 5)」

ベートーヴェン「愛(Die Liebe, Op. 52, No. 6)」

ベートーヴェン「マーモット(Marmotte, Op. 52, No. 7)」

ベートーヴェン「奇跡的に愛らしい花(Das Blümchen Wunderhold, Op. 52, Op. 8)」

ベートーヴェン「ミニョン(Mignon, Op. 75, No. 1)」

ベートーヴェン「新しい愛、新しい生気(Neue Liebe, neues Leben, Op. 75, No. 2 (1. version: WoO 127))」

ベートーヴェン「ゲーテのファウストから(のみの歌)(Aus Goethe's Faust, Op. 75, No. 3)」

ベートーヴェン「グレーテルの忠告(Gretels Warnung, Op. 75 No. 4)」

ベートーヴェン「遥かな恋人に寄せて(An den fernen Geliebten, Op. 75 No. 5)」

ベートーヴェン「満ち足りた男(Der Zufriedene, Op. 75 No. 6)」

ベートーヴェン「言っておくれ、愛しい人 (希望) (Dimmi, ben mio, che m'ami (Hoffnung), Op. 82/1)」(『4つのアリエッタと1つの二重唱曲(Vier Arietten und ein Duett, Op. 82)』より)

ベートーヴェン「お前のことはよくわかる(愛の嘆き) (T'intendo, sì, mio cor (Liebes-Klage), Op. 82/2)」(『4つのアリエッタと1つの二重唱曲(Vier Arietten und ein Duett, Op. 82)』より)

ベートーヴェン「いらだつ恋人(静かな問いかけ) (L'amante impaziente. Arietta buffa, Op. 82/3)」(『4つのアリエッタと1つの二重唱曲(Vier Arietten und ein Duett, Op. 82)』より)

ベートーヴェン「いらだつ恋人(恋の焦燥) (L'amante impaziente. Arietta assai seriosa, Op. 82/4)」(『4つのアリエッタと1つの二重唱曲(Vier Arietten und ein Duett, Op. 82)』より)

ベートーヴェン「聞け、そよ風のささやきを(生きる喜び) (Odi l'aura che dolce sospira (Lebens-Genuss), Op. 82/5)」(『4つのアリエッタと1つの二重唱曲(Vier Arietten und ein Duett, Op. 82)』より)

ベートーヴェン「悲しみの喜び (Wonne der Wehmut, Op. 83, No. 1)」

ベートーヴェン「憧れ(Sehnsucht, Op. 83, No. 2)」

ベートーヴェン「彩られたリボンで(Mit einem gemalten Band, Op. 83, No. 3)」

ベートーヴェン「太鼓が鳴る(Die Trommel gerühret, Op. 84/1)」(悲劇『エグモント』のための音楽("Egmont" Musik zu J. W. von Goethes Trauerspiel, Op. 84)より)

ベートーヴェン「喜びに満ちては、苦しみにあふれ(Freudvoll und leidvoll, Op. 84/4)」(悲劇『エグモント』のための音楽("Egmont" Musik zu J. W. von Goethes Trauerspiel, Op. 84)より)

ベートーヴェン「友情の幸せ (人生の幸せ) (Das Glück der Freundschaft (Lebensglück), Op. 88)」

ベートーヴェン「希望に寄せて(An die Hoffnung, Op. 32 / Op. 94)」(第1作/第2作)

ベートーヴェン/歌曲集『遥かな恋人に寄せて("An die ferne Geliebte", Op. 98)』総括

ベートーヴェン「僕は丘の上に腰を下ろす(Auf dem Hügel sitz ich spähend, Op. 98, No. 1)」(歌曲集『遥かな恋人に寄せて("An die ferne Geliebte")』より第1曲)

ベートーヴェン「山々がかくも青く(Wo die Berge so blau, Op. 98, No. 2)」(歌曲集『遥かな恋人に寄せて("An die ferne Geliebte")』より第2曲)

ベートーヴェン「空高く軽快に飛ぶアマツバメよ(Leichte Segler in den Höhen, Op. 98, No. 3)」(歌曲集『遥かな恋人に寄せて("An die ferne Geliebte")』より第3曲)

ベートーヴェン「空高くかかるこれらの雲(Diese Wolken in den Höhen, Op. 98, No. 4)」(歌曲集『遥かな恋人に寄せて("An die ferne Geliebte")』より第4曲)

ベートーヴェン「五月が戻り来て、野原は花開く(Es kehret der Maien, es blühet die Au, Op. 98, No. 5)」(歌曲集『遥かな恋人に寄せて("An die ferne Geliebte")』より第5曲)

ベートーヴェン「それではこれらの歌を受け取っておくれ(Nimm sie hin denn, diese Lieder, Op. 98, No. 6)」(歌曲集『遥かな恋人に寄せて("An die ferne Geliebte")』より第6曲)

ベートーヴェン「約束を守る男(Der Mann von Wort, Op. 99)」

ベートーヴェン「メルケンシュタイン(Merkenstein, WoO. 144 / Op. 100)」

ベートーヴェン「キス(Der Kuß, Op. 128)」

●WoO番号(作品番号の付与されていない作品の番号:Werke ohne Opuszahl)順

ベートーヴェン「あなたを思う(Ich denke dein, WoO. 74)」(歌曲とピアノ四手のための6つの変奏曲)

ベートーヴェン「別れの歌(Abschiedsgesang, WoO 102)」

ベートーヴェン「田園カンタータ(Cantata campestre, WoO 103)」

ベートーヴェン「修道僧の歌(Gesang der Mönche, WoO 104)」

ベートーヴェン「結婚式の歌(Hochzeitslied, WoO 105 (Hess 125, 124))」

ベートーヴェン「ロプコヴィツ・カンタータ(Lobkowitz-Cantate, WoO 106)」

ベートーヴェン最初期の歌曲「ある乙女の描写(Schilderung eines Mädchens, WoO 107)」

ベートーヴェン最初期の歌曲「乳児に寄せて(An einen Säugling, WoO 108)」

ベートーヴェン「酒宴の歌(Trinklied, WoO. 109)」

ベートーヴェン「プードルの死に寄せる悲歌(Elegie auf den Tod eines Pudels)」 WoO. 110

ベートーヴェン「パンチ酒の歌(Punschlied, WoO. 111)」

ベートーヴェン「ラウラに(An Laura, WoO. 112)」

ベートーヴェン「嘆き(Klage)」 WoO. 113

ベートーヴェン「独り言(Ein Selbstgespräch, WoO 114)」

ベートーヴェン「ミナに(An Minna, WoO. 115)」

ベートーヴェンのフランス語の歌曲「何と時は長く(Que le temps me dure, WoO. 116)」

ベートーヴェン「自由な男(Der freie Mann, WoO. 117)」

ベートーヴェン「愛されない男の溜息と愛のお返し(Seufzer eines Ungeliebten und Gegenliebe, WoO. 118)」

ベートーヴェン「おお、いとしい森よ(O care selve, WoO. 119)」

ベートーヴェン「人は燃えあがる心を隠そうとするものだ(Man strebt die Flamme zu verhehlen, WoO. 120)」

ベートーヴェン「ヴィーン市民への別れの歌(Abschiedsgesang an Wiens Bürger, WoO. 121)」

ベートーヴェン「オーストリア人の戦の歌(Kriegslied der Österreicher, WoO. 122)」

ベートーヴェン「優しい愛 "君を愛す"(Zärtliche Liebe "Ich liebe dich", WoO 123)」

ベートーヴェン「別れ(La partenza, WoO. 124)」

ベートーヴェン「女暴君(La tiranna, WoO. 125)」

ベートーヴェン「奉献歌(Opferlied, WoO. 126)」

ベートーヴェンのフランス語の歌曲「愛する喜び(Plaisir d'aimer, WoO. 128)」

ベートーヴェン「うずらの鳴き声(Der Wachtelschlag, WoO 129)」

ベートーヴェン「恋する女性が別れを望んだとき、あるいはリューディアの不実における感情(Als die Geliebte sich trennen wollte, oder Empfindungen bei Lydiens Untreue, WoO. 132)」

ベートーヴェン「この暗い墓の中で(In questa tomba oscura, WoO 133)」

ベートーヴェン「憧れ(Sehnsucht, WoO. 134)」

ベートーヴェン「追想(Andenken, WoO. 136)」

ベートーヴェン「遠くからの歌(Gesang (Lied) aus der Ferne, WoO. 137)」

ベートーヴェン「異郷の若者(Der Jüngling in der Fremde, WoO. 138)」

ベートーヴェン「新しい愛、新しい生気(Neue Liebe, neues Leben, Op. 75, No. 2 (1. version: WoO 127))」

ベートーヴェン「私のことを覚えていて!(Gedenke mein!, WoO. 130)」

ベートーヴェンの未完の「魔王(Erlkönig)」WoO. 131を聴く(ラインホルト・ベッカー補完版による)

ベートーヴェン「声高な嘆き(Die laute Klage, WoO. 135)」

ベートーヴェン「恋する男(Der Liebende, WoO. 139)」

ベートーヴェン「恋人に寄せて(An die Geliebte, WoO. 140)」

ベートーヴェン「さよなきどりの歌(Der Gesang der Nachtigall, WoO. 141)」

ベートーヴェン「吟遊詩人の亡霊(Der Bardengeist, WoO. 142)」

ベートーヴェン「兵士の別れ(Des Kriegers Abschied, WoO 143)」

ベートーヴェン「メルケンシュタイン(Merkenstein, WoO. 144 / Op. 100)」

ベートーヴェン「秘密(Das Geheimnis, WoO. 145)」

ベートーヴェン「憧れ(Sehnsucht, WoO. 146 "Die stille Nacht umdunkelt")」

ベートーヴェン「山からの呼び声(Ruf vom Berge, WoO. 147)」

ベートーヴェン「あれかそれか(So oder so, WoO. 148)」

ベートーヴェン「諦め(Resignation, WoO. 149)」

ベートーヴェン「星空の下の夕暮れの歌(Abendlied unterm gestirnten Himmel, WoO 150)」

ベートーヴェン「気高き人は援助を惜しまず善良であれ(Der edle Mensch sei hülfreich und gut, WoO. 151)」

●Hess番号順

ベートーヴェン「愛 "ぼくは腕の中できみを揺り動かす"(Liebe "Ich wiege dich in meinem Arm", Hess 137)」(数年前にスケッチが発見され2013年に初演された歌曲)

ベートーヴェン(Beethoven)未完の歌曲「野ばら(Heidenröslein, Hess 150)」の補筆完成版

ベートーヴェン「親愛なるヘンリエッテ(Traute Henriette, Hess 151, Unv 21)」

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ベートーヴェン「喜びに満ちては、苦しみにあふれ(Freudvoll und leidvoll, Op. 84/4)」(悲劇『エグモント』のための音楽("Egmont" Musik zu J. W. von Goethes Trauerspiel, Op. 84)より)

Freudvoll und leidvoll
 喜びに満ちては、苦しみにあふれ

Freudvoll
Und leidvoll,
Gedankenvoll sein;
Langen
Und bangen
In schwebender Pein;
Himmelhoch jauchzend
Zum Tode betrübt;
Glücklich allein
Ist die Seele, die liebt.
 喜びに満ちては、
 苦しみにあふれ、
 物思いに沈みます。
 手を伸ばしては
 不安になります、
 苦しみが脳裏をかすめるので。
 天にも昇るほど歓呼するかと思えば
 死ぬほど悲しみにくれます。
 もっぱら幸せは
 愛する魂にあるのです。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), no title, appears in Egmont
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827), "Klärchens Lied I", alternate title: "Die Trommel gerühret", op. 84 no. 1, from the stage composition Egmont, no. 2

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ベートーヴェンの「悲劇『エグモント』のための音楽Op. 84」の第4曲に置かれているのがリート「喜びに満ちては、苦しみにあふれ(Freudvoll und leidvoll)」です。

ゲーテの原作では第3幕第2場、クレールヒェンの住居(Klärchens Wohnung)の場面で、エグモントに夢中なクラーラ(愛称クレールヒェン)が、ブラッケンブルクとの結婚を望む母親の前でこの歌を口ずさむという設定になっています(こちら)。

恋する心は喜びと苦しみの相反する感情が同居する。その両面をベートーヴェンは丁寧に描き分けていきますが、最後の2行にいたり幸せな感情が主人公の心を独占したかのように華やかに締めくくります。

2/4拍子
イ長調(A-dur)
Andante con moto

●イルムガルト・ゼーフリート(S), エリク・ヴェルバ(P)
Irmgard Seefried(S), Erik Werba(P)

1957年ライヴ録音。ゼーフリートの歌は相手への強い意思が感じられます。

●マリーア・ミュラー(S), ミヒャエル・ラウハイゼン(P)
Maria Müller(S), Michael Raucheisen(P)

往年のソプラノ、ミュラー(1898–1958)は深みもあるソプラノで、喜びと悲しみがごく自然に表現されていて素晴らしかったです(昔の録音なので若干濃厚な味わいもありますが、それはそれでチャーミングです)。

●エリーザベト・ブロイアー(S), ベルナデッテ・バルトス(P)
Elisabeth Breuer(S), Bernadette Bartos(P)

Hess 94, No. 4。新全集の草稿版(Entwurf)によって演奏されていますが、歌声部は完成されています。清冽で純粋なブロイアーの歌が美しく、ゲーテの原作のクレールヒェンを眼前に想起させてくれます。

●ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)

男女の歌手を起用したベートーヴェン歌曲全集の録音であえてシュライアーにこの曲を歌わせているのが興味深いです。シュライアーの清冽でディクションの美しい歌唱がなんの違和感もなく聞き手に伝わってきます。

●コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BR), クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BR), Kristin Okerlund(P)

こちらの歌曲全集でも男声歌手にこの曲を歌わせています。ゲーテの戯曲の設定を考えず、一つの詩として解釈すれば男性の歌にもなりえますね。

●第1稿
Freudvoll und leidvoll, gedankenvoll sein, Op. 84, No. 4 (1. Fassung)
コンスタンティン・グラーフ・フォン・ヴァルダードルフ(BR), クリスティン・オーカーランド(P)
Constantin Graf von Walderdorff(BR), Kristin Okerlund(P)

新全集のピアノ版第1稿によって演奏されています。歌声はピアノ右手の最高音を歌うように記譜されていて、ピアニストのオーカーランドは基本的に歌声の旋律はここで演奏していなかったです。前奏がないのが印象的ですね。

●オリジナルのオーケストラ伴奏版
グンドゥラ・ヤノヴィツ(S), ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団, ヘルベルト・フォン・カラヤン(C)
Gundula Janowitz(S), Berliner Philharmoniker, Herbert von Karajan(C)

ヤノヴィツは感情の大きな振幅を実に見事に描き分けていますね。

●フランツ・リストによるピアノ独奏用編曲
Beethoven; arr. Liszt: 6 Lieder von Goethe, S. 468/R. 123: No. 3: Freudvoll und leidvoll
Yung Wook Yoo(P)

他作曲家の作品に対するリストの編曲は、オリジナルへのリスペクトが強かったのではないかと最近感じます。単なる技巧の盛り込みだけではないように、この曲の編曲からも感じられました。

●シューベルト作曲の独唱曲(愛:クレールヒェンの歌 D 210)
Schubert: Die Liebe (Klärchens Lied), D 210
アーリーン・オージェ(S), ヴァルター・オルベルツ(P)
Arleen Augér(S), Walter Olbertz(P)

シューベルトが同じテキストに作曲した作品は恋に陶酔しているような印象を受けます。オジェーの澄んだ美声が魅力的です。

●リスト作曲の独唱曲(第1稿)
Liszt: Freudvoll und leidvoll S280 [Fassung I]
マーガレット・プライス(S), シプリアン・カツァリス(P)
Margaret Price(S), Cyprien Katsaris(P)

リストは2つの稿を残していて、こちらは第1稿です。クールビューティーのプライスの歌唱はこのテキストの影の部分を特に印象付けます。

●リスト作曲の独唱曲(第2稿)
Liszt: Freudvoll und leidvoll S280 [Fassung II]
バーバラ・ボニー(S), アントニオ・パッパーノ(P)
Barbara Bonney(S), Antonio Pappano(P)

リストの2つの稿では、こちらの第2稿がより歌われる機会が多いと思います。ボニーの噛んで含めるような表情の濃厚さが素晴らしかったです。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

『ベートーヴェン全集 第7巻』:1999年7月14日第1刷 講談社(「喜びに満ち、そして苦しみに満ちて」の解説:高橋浩子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(歌曲の解説:藤本一子)

付曲が難しいと言われていたゲーテ作品のための音楽「舞台劇(悲劇)《エグモント》」(平野昭)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

ゲーテの原文(Projekt Gutenberg)

『ゲーテ全集 4 戯曲 』(潮出版社 2003年10月5日新装普及版(1979年7月10日初版))(「エグモント」の訳:内垣啓一)

エグモント (劇音楽)(Wikipedia)

ラモラール・ファン・エフモント(Wikipedia)

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ベートーヴェン「太鼓が鳴る(Die Trommel gerühret, Op. 84/1)」(悲劇『エグモント』のための音楽("Egmont" Musik zu J. W. von Goethes Trauerspiel, Op. 84)より)

Die Trommel gerühret
 太鼓が鳴る

Die Trommel gerühret,
Das Pfeifchen gespielt!
Mein Liebster gewaffnet
Dem Haufen befiehlt,
Die Lanze hoch führet,
Die Leute regieret.
Wie klopft mir das Herz!
Wie wallt mir das Blut!
O hätt' ich ein Wämslein
Und Hosen und Hut!
 太鼓が鳴り
 笛を吹く音がします!
 武装した私の恋人が
 部隊に指令すると、
 槍を高く掲げ
 人々を制御するのです。
 私の心臓はなんとどきどきするのでしょう!
 私の血はなんとたぎっていることでしょう!
 おお、私にも胴着や
 ズボンや帽子があればいいのに!

Ich folgt' ihm zum Tor 'naus
mit mutigem Schritt,
Ging' durch die Provinzen,
ging' überall mit.
Die Feinde schon weichen,
Wir schiessen da drein;
Welch' Glück sondergleichen,
Ein Mannsbild zu sein!
 そうしたら門の外へ彼のあとについて
 勇敢な足取りで進み
 いろんな州を渡り
 あらゆる場所に一緒に行くでしょう。
 敵はすでに退去し、
 私たちは敵めがけて撃つのです。
 このうえない幸せです、
 男になるのは!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), no title, appears in Egmont
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827), "Klärchens Lied I", alternate title: "Die Trommel gerühret", op. 84 no. 1, from the stage composition Egmont, no. 2

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ベートーヴェンは、ゲーテの『エグモント』のための音楽を1809年秋から1810年6月にかけて作曲しました。

ベートーヴェンが「悲劇『エグモント』のための音楽」として作曲した音楽の内容は下記の通りです。

序曲(Ouverture)
1. リート(Lied. Die Trommel gerühret):第1幕第3場
2. 幕間の音楽(Entracte I):第1幕後
3. 幕間の音楽(Entracte II):第2幕後
4. リート(Lied. Freudvoll und leidvoll, gedankenvoll sein):第3幕第2場
5. 幕間の音楽(Entracte III):第3幕後
6. 幕間の音楽(Entracte IV):第4幕終わり
7. クレールヒェンの死を示して(Clärchens Tod bezeichnend):第5幕第3場
8. メロドラマ(Melodrama):第5幕
9. 勝利の交響曲(Siegessymphonie):劇の最後

ゲーテの『エグモント』については「小澤和也 音楽ノート」様や「サーシャのひとり言」様がとても明快で分かりやすく書かれていますので、ぜひご覧ください。

現在入手しやすい日本語訳は、潮出版社から1979年に発行されたものの新装版として2003年10月5日に発行された『ゲーテ全集 4 戯曲 新装普及版』でしょうか。「エグモント」の訳者は内垣啓一氏です。

ゲーテの原作では第1幕(Erster Aufzug)の第3場、町役場(Bürgerhaus)の場面で、クラーラ(愛称クレールヒェン)が糸を巻きながら彼女に片思いするブラッケンブルクと共に歌うという設定になっています(こちら)。

1812年にBreitkopf & Härtel社からオリジナルのオーケストラ版だけでなく、ピアノ編曲版も出版されました。オリジナルに付け加えたり修正したりすることはなく、忠実にピアノで演奏できるようにしています。

テキストの最後まで歌うと、1番括弧で再度歌の始めから繰り返します。最後の後奏は静かに消えていくかと思いきや、勇壮な3つの拍打ちで締めくくります。

1812年Breitkopf & Härtel社出版ピアノ編曲版の冒頭
Die-trommel-geruhret

2/4拍子
ヘ短調(f-moll)
Vivace

●アナ・プロハスカ(S), エリック・シュナイダー(P)
Anna Prohaska(S), Eric Schneider(P)

プロハスカの美声はチャーミングですね。シュナイダーの鋭利な演奏が印象的でした。

●イルムガルト・ゼーフリート(S), エリク・ヴェルバ(P)
Irmgard Seefried(S), Erik Werba(P)

1957年ライヴ録音。ゼーフリートの芯のある声は訴求力が強く感じられます。

●マリーア・ミュラー(S), ミヒャエル・ラウハイゼン(P)
Maria Müller(S), Michael Raucheisen(P)

往年のソプラノ、ミュラー(1898–1958)はドラマティックで勇壮ですね。おそらく歌曲のアンソロジーを続々と録音していたラウハイゼンの企画の一環として録音されたのではないかと思います。

●オリジナルのオーケストラ伴奏版
グンドゥラ・ヤノヴィツ(S), ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団, ヘルベルト・フォン・カラヤン(C)
Gundula Janowitz(S), Berliner Philharmoniker, Herbert von Karajan(C)

ヤノヴィツの気品のある美声がクレールヒェンのキャラクターを想像させてくれます。

●フランツ・リストによるピアノ独奏用編曲
6 Lieder von Goethe, S. 468/R. 123 (Arr. F. Liszt for Solo Piano) : No. 6, Die Trommel geruhret
ジュゼッペ・ブルーノ(P)
Giuseppe Bruno(P)

リストはこの曲もピアノ独奏用に編曲していました。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

『ベートーヴェン全集 第7巻』:1999年7月14日第1刷 講談社(「太鼓が鳴る」の解説:高橋浩子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(歌曲の解説:藤本一子)

付曲が難しいと言われていたゲーテ作品のための音楽「舞台劇(悲劇)《エグモント》」(平野昭)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

ゲーテの原文(Projekt Gutenberg)

『ゲーテ全集 4 戯曲 』(潮出版社 2003年10月5日新装普及版(1979年7月10日初版))(「エグモント」の訳:内垣啓一)

エグモント (劇音楽)(Wikipedia)

ラモラール・ファン・エフモント(Wikipedia)

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ベートーヴェン「ロプコヴィツ・カンタータ(Lobkowitz-Cantate, WoO 106)」

Lobkowitz-Cantate (Es lebe unser teurer Fürst), WoO 106
 ロプコヴィツ・カンタータ(親愛なる侯爵閣下万歳)

SOLO
Es lebe, es lebe unser teurer, teurer Fürst!
Er lebe, er lebe, er lebe!
(独唱)
 親愛なる、親愛なる侯爵閣下万歳!
 万歳、万歳、万歳!

CHORUS
Er lebe, er lebe, er lebe!
(合唱)
 万歳、万歳、万歳!

SOLO
Edel, edel, edel handeln, ja edel handeln,
sei sein schönster Beruf!
Dann, Dann wird ihm nicht entgehen der schönste, schönste Lohn, der schönste, schönste Lohn.
Es lebe, es lebe unser teurer, teurer Fürst!
Er lebe, er lebe, er lebe!
(独唱)
 高潔な、高潔な、高潔な行動をされる、そう 高潔な行動をされる、
 閣下の素晴らしき職務が高潔であらんことを!
 すると、すると素晴らしき、素晴らしき報いから閣下は逃れられないでしょう、素晴らしき、素晴らしき報いから。
 万歳、親愛なる、親愛なる侯爵閣下万歳!
 万歳、万歳、万歳!

CHORUS
Er lebe, er lebe, er lebe ja!
Es lebe, es lebe unser teurer, teurer Fürst!
Unser teurer, teurer Fürst!
Er lebe, er lebe, er lebe, er lebe!
(合唱)
 万歳、万歳、万歳!
 万歳、親愛なる、親愛なる侯爵閣下万歳!
 親愛なる、親愛なる侯爵閣下!
 万歳、万歳、万歳、万歳!

詩:Ludwig van Beethoven (1770-1827)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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独唱、高声2声、バス2声、ピアノの為の「ロプコヴィツ・カンタータ(Lobkowitz-Cantate, WoO 106)」は、ベートーヴェン自身の詩によって1823年(楽譜には1823年と書かれていますが1822年の可能性もあるそうです)4月12日に作曲されました。

独唱、高声2声、バス2声、ピアノの為の「ロプコヴィツ・カンタータ(Lobkowitz-Cantate, WoO 106)」は、ベートーヴェン自身の詩によって1822年(もしくは1823年)4月12日に作曲されました。

藤本一子氏の解説によると「かつての支援者フランツ・ヨーゼフ・フォン・ロプコヴィツ侯爵の長子フェルディナント侯爵の誕生日のために作曲」されたそうです(『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社)。
知り合いの息子の誕生日のために自作の詩による歌を送るなんてベートーヴェンの優しい一面が垣間見えますね。
侯爵邸の官吏カール・ペータースの妻が歌うことを想定していたそうです(前述の藤本一子氏の解説)。"schönste Lohn"の箇所に技巧的な装飾があるのもこの女性のために見せ場を作ったのではないでしょうか。

4/4拍子
変ホ長調(Es-dur)
Allegro non troppo - Adagio assai - Tempo primo

●エルヴィラ・ビル(MS), クリストファー・ブルックマン(P), コーアヴェルク・ルーア, フローリアン・ヘルガート(C)
Elvira Bill(MS), Christopher Bruckman(P), Chorwerk Ruhr, Florian Helgath(C)

ソロを務めるエルヴィラ・ビルの声の美しいこと!クリストフ・プレガルディアン門下なのだそうです。

●クリスタ・イェーザー(S), ヴァルター・オルベルツ(P), ベルリン・ゾリステン, ディートリヒ・クノーテ(C)
Christa Jehser(S), Walter Olbertz(P), Berliner Solisten, Dietrich Knothe(C)

録音: Nov, Dec. 1973, Berlin. 歌と合唱とピアノの親密な雰囲気がいいですね。

●パメラ・コバーン(S), ハインリヒ・シュッツ・クライス・ベルリン, レナード・ホカンソン(P)
Pamela Coburn(S), Heinrich Schütz Kreis, Berlin, Leonard Hokanson(P)

録音: 1987-1989, Studio 10, RIAS, Berlin. コバーンは合唱パートも一緒に歌っています。

●ハイディ・ブルナー(MS), ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団, クリスティン・オーカーランド(P)
Heidi Brunner(MS), Gustav Mahler Chor Wien, Kristin Okerlund(P)

ブルナーの"schönster"における抑制した歌い方に惹きこまれました。

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(参考)

Beethoven-Haus Bonn

The "Complete" Beethoven: Day 333

『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「ロプコヴィツ・カンタータ WoO 106」の解説:藤本一子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「ロプコヴィツ・カンタータ WoO 106」の解説:藤本一子、小林宗生)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

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ベートーヴェン「結婚式の歌(Hochzeitslied, WoO 105 (Hess 125, 124))」

Hochzeitslied, WoO 105 (Hess 125, 124)
 結婚式の歌

Auf, Freunde, singt dem Gott der Ehen!
Preist Hymen hoch am Festaltar,
Daß wir des Glückes Huld erflehen,
Erflehen für ein edles Paar!
Vor allem laßt in frohen Weisen
Den würd'gen Doppelstamm uns preisen,
Dem dieses edle Paar entsproß!
 さあ、友人たちよ、婚礼の神に歌うのだ!
 祝宴の祭壇で高らかにヒュメナイオスを讃えよ、
 幸せの恩寵を
 お似合いの夫婦のために懇願するのだ!
 何よりも、陽気な調べで
 品格のある2人の一族を讃えよう、
 そこからこのお似合いの夫婦が生まれたのだ!

※ヒュメナイオス:ギリシャ神話で婚礼の神

詩:Anton Joseph Stein (1759–1844)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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アントン・ヨーゼフ・シュタインのテキストによる「結婚式の歌(Hochzeitslied, WoO 105」は、マリア・アンナ・ジャンナタズィオ・デル・リオ(Maria Anna Giannatasio del Rio)と官吏レオポルト・シュメルリング(Leopold Schmerling)の結婚式の為に1819年1月14日に作曲され、結婚式当日(1819年2月6日)に初演されました。この夫婦の娘によると「母が教会の結婚式から家に戻ると美しい男声四重唱がきこえ、それがやんだとき、隠れていたベートーヴェンが姿を現し、心からなるお祝いの言葉とともに今歌われた男声四重唱の自筆譜を手渡した」とのことです(藤本一子解説:『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社)。

結婚式にふさわしい華やかな小品です。ベートーヴェンは2つの稿を作り、どちらもジャンナタズィオ家に贈られたそうです(前述の藤本氏の解説)。

楽譜には4回繰り返すように指示がある為、歌詞が4番まであったと思われますが、現在分かっているのは1番のみのようです。

第1稿の楽譜(Der Bär : Jahrbuch der Firma Breitkopf & Härtel – 1927)
1_20230104132001
2_20230104132001
3_20230104132001

【第1稿】(Hess 125)
独唱、斉唱、ピアノ
1819年1月14日作曲
C (4/4拍子)
ハ長調(C-dur)
Mit Feuer, doch verständlich und deutlich

【第2稿】(Hess 124)
独唱、合唱、ピアノ
C (4/4拍子)
イ長調(A-dur)
(Mit Feuer, doch verständlich und deutlich)

●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
ヘルマン・プライ(BR), ハインリヒ・シュッツ・クライス・ベルリン, レナード・ホカンソン(P)
Hermann Prey(BR), Heinrich Schütz Kreis, Berlin, Leonard Hokanson(P)

録音: 1987-1989, Studio 10, RIAS, Berlin. プライが先導して合唱を率いるのは本当に合っていますね。ホカンソンがいかにも楽しそうにパリパリと弾いているのもいいです。

●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
マンフレート・ビットナー(BS), ハイケ・ハイルマン(S), アネ・ビーアヴィルト(CA), ダニエル・ヨハンソン(T), エリーザベト・グリューネルト(P)
Manfred Bittner(BS), Heike Heilmann(S), Anne Bierwirth(CA), Daniel Johannsen(T), Elisabeth Grünert(P)

録音: 15 February 2007, Bauer Studios Ludwigsburg. バスのビットナーが独唱し、合唱パートはハイルマン、ビーアヴィルト、ヨハンソンが加わっています。

●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
タベア・ゲルストグラッサー(S), シュテファン・タウバー(T), カントゥス・ノヴス・ヴィーン, ディアナ・フックス(P), トマス・ホームズ(C)
Tabea Gerstgrasser(S), Stefan Tauber(T), Cantus Novus Wien, Diána Fuchs(P), Thomas Holmes(C)

録音: 20 January 2019, 4tune audio productions, Wien. ここでは独唱パートをソプラノとテノールが一緒に歌っています。結婚する二人が歌う設定でしょうか。素朴で優しい歌い方で微笑ましいです。

●【第2稿】(Hess 124)
2. Fassung
ジャン=フランソワ・ルッション(BR), ダニア・エル・ゼイン(S), ナタリー・ペレス(MS), ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T), ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Jean-François Rouchon(BR), Dania El Zein(S), Natalie Pérez(MS), Vincent Lièvre-Picard(T), Jean-Pierre Armengaud(P)

録音: August 2019. バリトンのルッションが独唱し、合唱パートで他の歌手たちが加わっています。

●【第1稿】(Hess 125)
1. Fassung
ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T), ナタリー・ペレス(MS), ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Vincent Lièvre-Picard(T), Natalie Pérez(MS), Jean-Pierre Armengaud(P)

録音: August 2019. テノールのリエーヴル=ピカールが独唱し、斉唱パートでメゾのペレスが加わる形で演奏されています。

●【第1稿】(Hess 125)
1. Fassung
ハイディ・ブルナー(MS), ヴィーン・グスタフ・マーラー合唱団, クリスティン・オーカーランド(P)
Heidi Brunner(MS), Gustav Mahler Chor Wien, Kristin Okerlund(P)

第1稿の演奏。第2稿との違いは最後の詩行が混成四部合唱ではなくユニゾン(斉唱)で歌われ、第2稿より3度高い点、ピアノパートの若干の違いだけのようですので、聞いているとほぼ同じ印象を受けます。

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(参考)

Beethoven-Haus Bonn

『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「婚礼の歌 WoO 105」の解説:藤本一子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「さあ、友よ結婚の神を讃美せよ(結婚歌) WoO 105」の解説:藤本一子)

Ludwig van Beethoven, "Hochzeitslied" für Tenor, Chor und Klavier WoO 105, Partitur, Bär (1924) (第1稿の楽譜)

Anton Joseph Stein (Wikipedia: 独語)

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ベートーヴェン「修道僧の歌(Gesang der Mönche, WoO 104)」

Gesang der Mönche, WoO 104
 修道僧の歌

Rasch tritt der Tod den Menschen an,
Es ist ihm keine Frist gegeben,
Es stürzt ihn mitten in der Bahn,
Es reißt ihn fort vom vollen Leben,
Bereitet oder nicht, zu gehen.
Er muß vor seinem Richter stehen!
 迅速に死がその人間に襲いかかる、
 彼に猶予はなかった、
 彼を道半ばに突き落とし、
 彼を人生からさらっていく、
 行く支度をしていようがしていなかろうが。
 彼は審判者の前に立たねばならない!

詩:Friedrich von Schiller (1759-1805), no title, appears in Wilhelm Tell 
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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フリードリヒ・フォン・シラーの『ヴィルヘルム・テル(Wilhelm Tell)』(日本では「ウィリアム・テル」という英語読みで知られていますね)第四幕、第三場の最後に歌われるテキストによる男声3声(テノール2声、バス、無伴奏)の為の「修道僧の歌(Gesang der Mönche, WoO 104)」は、1817年5月3日に作曲されました。

友人の音楽学者フランツ・サレス・カンドラー(Franz Sales Kandler: 1792-1831)の記念帳に記された自筆譜には「我らがクルンプホルツの1817年5月3日の不慮の死を偲んで(Zur Erinnerung an den schnellen unverhofften Tod unsers Krumpholz am 3 Mai 1817.)」と書かれています。クルンプホルツというのはベートーヴェンの友人だったヴァイオリニストで、その死を偲びつつ、ヴィーンを離れるカンドラーの記念帳に書いたようです。

・自筆譜

Gesang-der-monche

ヴィルヘルム・テルの話は、テルが息子の頭上に置いた林檎を矢で射落とす場面が有名ですが、シラーの『ヴィルヘルム・テル』では第三幕第三場にこのエピソードがあります。
第四幕、第三場で庶民を苦しめてきた悪代官のヘルマン・ゲスラーをテルが射て倒すわけですが、「死者をかこんで半円をつくり、低い調子で歌う」(野島正城訳)というト書きの後にこの「修道僧の歌」が歌われます。
そして「終わりの数行がくりかえされるうちに幕下りる」(野島正城訳)というト書きがあり、この第四幕、第三場は終わります。

※以下が原文

Barmherzige Brüder schließen einen Halbkreis um den Toten und singen in tiefem Ton:
Rasch tritt der Tod den Menschen an,
Es ist ihm keine Frist gegeben,
Es stürzt ihn mitten in der Bahn,
Es reisst ihn fort vom vollen Leben,
Bereitet oder nicht, zu gehen,
Er muss vor seinen Richter stehen!

Indem die letzten Zeilen wiederholt werden, fällt der Vorhang.

ベートーヴェンの音楽は、順次進行や同音反復などの動きの少なさで重苦しい雰囲気を引きずって進みます。最終行の"er(彼は)"の繰り返しは、最初はsf(スフォルツァンド)、2回目はfp(フォルテピアノ)でこの悪代官を糾弾するような鋭い響きを与えています。あっという間に終わるコンパクトな作品ですが、テキストの内容を見事に表現した作品だと思います。

C (4/4拍子)
ハ短調(c-moll)
Ziemlich langsam

●マイケル・コネア(T), ヤン・コボウ(T), ラルフ・グローベ(BSBR), アンドレアス・プルイス(BS)
Michael Connaire(T), Jan Kobow(T), Ralf Grobe(BSBR), Andreas Pruys(BS)

録音: 11 May 2009, Bückeburger Stadtkirche, Germany。重唱で歌われています。各声部が主張していて死への畏怖が感じられました。

●カントゥス・ノヴス・ヴィーン, トマス・ホームズ(C)
Cantus Novus Wien, Thomas Holmes(C)

録音: 20 January 2019, 4tune audio productions, Wien。合唱で聞くと沈潜した雰囲気が強く出ていました。

●ヨアヒム・フォークト(T), ギュンター・バイアー(T), ズィークフリート・ハウスマン(BS), ディートリヒ・クノーテ(C)
Joachim Vogt(T), Günther Beyer(T), Siegfried Hausmann(BS), Dietrich Knothe(C)

録音: May, June 1976, Berlin。重唱で歌われていますが、それぞれの声が溶け合って美しかったです。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

《修道僧の歌》——シラーの戯曲『ヴィルヘルム・テル』から作曲した無伴奏男声三重唱(平野昭)

『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「修道僧の歌 WoO 104」の解説:藤本一子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「修道僧の歌 WoO 104」の解説:小林宗生)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

Wilhelm Tell – Text: 4. Aufzug, 3. Szene

フリードリヒ・シラー『シラー名作集≪新装復刊≫』:内垣啓一他訳(「ヴィルヘルム・テル」(P.331~)は野島正城訳):2022年5月25日発行、白水社(元本は1972年刊行)

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ベートーヴェン「田園カンタータ(Cantata campestre, WoO 103)」

Cantata campestre, WoO 103
 田園カンタータ

1.
Un lieto brindisi,
Tutti a Giovanni
Cantiam così.

2.
Viva lunghi anni
Sempre felici
Utile al mondo,
Caro agli amici,
Nuovo Esculapio
Dei nostri dì!

3.
Viva Giovanni!
Viva, ed al solito
Febbri e malanni
Segua a sanar.

4.
Viva lunghi anni
Sempre felici
Utile al mondo,
Caro agli amici,
Nuovo Esculapio
Dei nostri dì!

5.
Viva Giovanni!
Viva ed il tempo
Sospenda i vanni,
E sì bei giorni
Tardi a troncar.

6.
Viva lunghi anni
Sempre felici
Utile al mondo,
Caro agli amici,
Nuovo Esculapio
Dei nostri dì!

詩:Clemente Bondi (1742-1821)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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ソプラノ、2声のテノール、バスとピアノの為のカンタータ「田園カンタータ(Cantata campestre, WoO 103)」は、宮廷図書館員クレメンテ・ボンディのイタリア語のテキストに1814年に作曲されました。
平野昭氏の解説によれば「1806年からベートーヴェンのかかりつけの医師のひとりで、友人でもあったヨゼフ・フォン・ベルトリーニ(1784~1861)が、1814年に彼の恩師である医師ヨハン(イタリア名ジョヴァンニ)・マルファッティ(1775~1859)の霊名祝日のお祝いとして、ボンディにイタリア語の詩を、ベートーヴェンに作曲を依頼したもの」とのことです。ちなみに霊名祝日というのは、カトリック教会の伝統において洗礼を受けた信者の洗礼名の聖人の祝い日(記念日)のことだそうです(Wikipediaより)。この医師ジョヴァンニのドイツ語名ヨハンに該当する聖人はヨハネで、その霊名祝日の6月24日(Wikipedia)にマルファッティ邸で演奏されたようです。

●以下は英訳なども参照にした試訳です。正確ではありませんので、あくまで大意をつかむ程度にして下さい。

1.
愉快に乾杯、
みんなでジョヴァンニに
このように歌おう。

2.
彼が長生きして
ずっと幸せで
世界の役に立ち、
友人たちにとって大切な存在でありますように、
我らの時代の
新しい※アスクレーピオスよ!

3.
ジョヴァンニ万歳!
彼が長生きして、いつものように
発熱や病気を
治療しに行きますように。

4.
彼が長生きして
ずっと幸せで
世界の役に立ち、
友人たちにとって大切な存在でありますように、
我らの時代の
新しいアスクレーピオスよ!

5.
ジョヴァンニ万歳!
彼が長生きしますように、そして時が
翼の動きを止めて
こんな良き日々を
打ち切るのが遅くなりますように!

6.
彼が長生きして
ずっと幸せで
世界の役に立ち、
友人たちにとって大切な存在でありますように、
我らの時代の
新しいアスクレーピオスよ!

(※アスクレーピオス:ギリシャ神話の名医。薬方の神)

英訳:Beethoven: Secular Vocal Works (NAXOS) - Booklet

1945年にWinterthurのVerlag der Literarischen Vereinigungから初版が出版された時はドイツ語の歌詞のみが付されていて、解説をWilly Hessが書いていました。
1974年にLeipzigのVEB Deutscher Verlag für Musik社からようやくイタリア語歌詞版がはじめて出版されます。Harry Goldschmidtの"Die Erscheinung Beethoven"という論文の中に掲載され、楽譜の後にはドイツ語歌詞もまとめて記載されています。
オリジナルのイタリア語歌詞よりもドイツ語歌詞版が先に出版されたというのは不思議な気がしますが、機会作品ゆえに作曲されてから100年以上経ってようやく日の目を見たということになるのでしょう。

ちなみにドイツ語のテキストも下記に記しておきます。

Johannisfeier
begehn wir heute!
Wie sonst es war,
sei's heute auch!

Freudig erhebt euch,
liebe Leute,
leert das Glas
nach altem Brauch!

Wir wissen schon, wem
man heute trinkt!
Auf! leert das Glas
nach altem Brauch!
Wir wissen schon, wem
man heute trinkt!
Freudig erhebt euch,
liebe Leute,
auf leert das Glas!

Bei uns geborgen,
laß ab von Sorgen,
Freude dir winkt!
Tausend Gebete
schweben dankbar
aus allen Herzen,
die du zum Leben
einst auferweckt.

Trost bringst du den Armen,
Hilfst ihnen gern;
wo die Hoffnung schon fern,
spendest du Erbarmen.
Retter du der Kranken!
Sieh uns verzagt!
Würdig zu danken,
bebend von uns
niemand wagt.
Dir, Johannes,
Dank die Nachwelt sagt!

6/8拍子(1小節) - 2/4拍子(50小節) - 6/8拍子(97小節)
変ロ長調(B-dur) - ト長調(G-dur) - 変ロ長調(B-dur) - 変ホ長調(Es-dur) - 変ロ長調(B-dur)
Allegro(1小節) - Adagio(50小節) - Tempo primo(97小節)
※曲の最後に"Dal Segno al Fine(セーニョ記号に戻ってフィーネ(Fine)まで)"と記載あり(13小節に戻って33小節まで演奏して終える)

●カントゥス・ノヴス・ヴィーン, ディアナ・フックス(P), トマス・ホームズ(Musical Director)
Cantus Novus Wien, Diána Fuchs(P), Thomas Holmes(Musical Director)

イタリア語版です。合唱で歌われています。聞いた感じだとテノールⅠをアルトが歌っているようです(混声四部合唱ですね)。ハーモニーが美しく響いていて良いですね。

●バルバラ・エミラ・シェーデル(S), ダニエル・シュライバー(T), ライナー・テーテンベルク(T), ミヒャエル・ヴァーグナー(P)
Barbara Emilia Schedel(S), Daniel Schreiber(T), Rainer Tetenberg(T),
Michael Wagner(P)

ドイツ語版で歌われています。各声部1人ずつの重唱による演奏です。生き生きとした活気に満ちた演奏で、聞いていて楽しくなります。

●スイス・イタリア語放送合唱団, アンドレア・マルコン(P), ディエゴ・ファソリス(C)
Coro della Radio Svizzera, Andrea Marcon(P), Diego Fasolis(C)

ドイツ語版です。合唱で歌われています。こちらの合唱団も活気にあふれていました。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

「田園カンタータ《楽しい乾杯の歌》」——かかりつけ医師の依頼で書かれたイタリア語作品(平野昭)

『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「田園カンタータ WoO 103」の解説:藤本一子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「田園カンタータ WoO 103 (Hess 127)」の解説:藤本一子、小林宗生)

Clemente Bondi (Wikipedia (伊語))

Clemente Bondi (Wikipedia (英語))

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ベートーヴェン「別れの歌(Abschiedsgesang, WoO 102)」

Abschiedsgesang, WoO 102
 別れの歌

Die Stunde schlägt, wir müssen scheiden,
bald sucht vergebens dich mein Blick;
am Busen ländlich stiller Freuden
erringst du dir ein neues Glück.
Geliebter Freund! du bleibst uns theuer,
ging auch die Reise nach dem Belt;
doch ist zum guten Glück Stadt Steyer,
noch nicht am Ende dieser Welt.
 時が来た、僕らは別れねばならない、
 すぐに僕の目はむなしくきみをさがす。
 田舎の静かな喜びを胸に抱いて
 きみは新たな幸せを手に入れるだろう。
 いとしい友よ!きみは僕らにとってかけがえのない存在で居続ける、
 ベルト海峡へ旅立っても。
 幸運にもシュタイアーの町は
 地の果てというわけでもない。

Und kommen die Freunde um dich zu besuchen,
so sei nur hübsch freundlich und back' ihnen Kuchen,
auch werden, so wie sich's für Deutsche gehört,
auf's Wohlsein der Gäste die Humpen geleert.
Dann bringen wir froh im gezuckerten Weine
ein Gläschen dem ewigen Freundschaftsvereine,
dein Töchterlein mache den Ganymed,
ich weiss, dass sie gerne dazu sich versteht.
 きみの友人たちが訪ねてきたら
 友好的に迎えてケーキでも焼いてくれよ。
 ドイツ人の作法に従い
 客の健康を祈って大ジョッキを空にするだろう。
 そうしたら砂糖入りのワインの入ったグラスを
 永遠の友情の絆のためにもってこよう。
 きみの娘は若いしもべを作んなきゃな、
 あの娘にその心得があることは知っているさ。

Die Stunde schlägt, wir müssen scheiden,
bald sucht vergebens dich mein Blick;
am Busen ländlich stiller Freuden
erringst du dir ein neues Glück.
Geliebter Bruder! Lebe wohl!
 時が来た、僕らは別れねばならない、
 すぐに僕の目はむなしくきみをさがす。
 田舎の静かな喜びを胸に抱いて
 きみは新たな幸せを手に入れるだろう。
 いとしい同胞よ!さらば!

詩:Joseph Ritter von Seyfried (1780-1849)
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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ベートーヴェンは、友人の治安判事マティアス・フォン・トゥッシャー(Mathias von Tuscher)から、シュタイアー(Steyer)に引っ越すレオポルト・ヴァイス博士(Dr. Leopold Weiss)の送別会のための作品を依頼されました。
ヨーゼフ・リッター・フォン・ザイフリートのテキストによる「別れの歌(Abschiedsgesang, WoO 102)」は、2声のテノールと1声のバスのための無伴奏の作品で、1814年5月に作曲されました。旧全集(1888年)ではじめて出版されました。

詩は田舎から都会に出ようとする友をみんなで送り出そうという内容です。

ベートーヴェンは第1連に別れのせつなさを反映したようなメロディーを付け、第2連では対照的に軽快で明るい曲調で友人同士の冗談を表現し、第3連で後ろ髪を引かれるように締めくくります。

旧全集の記載によると、ベートーヴェンは「ベートーヴェンにこれ以上侮辱されないために(Von Beethoven, um nicht weiter tuschirt zu werden)」と追記しているそうです。ベートーヴェンにいじめられないように遠くに引っ越すのだねとこの友人へ冗談を言っているわけですね。さらに講談社の『ベートーヴェン全集第8巻』の藤本一子氏の解説を読んではっとしたのですが、"tuschirt(「侮辱する」という意味の"tuschieren"の過去分詞)"という単語は作曲の依頼主のトゥッシャー(Tuscher)の名前にかけているわけです。こういう悪戯っぽいというか茶目っ気のある感じを知るとベートーヴェンがもっと身近な存在になりますね。ただ曲を聞くと、この言葉は別れの辛さを誤魔化そうとあえて言っているようにも感じられます。

C (4/4拍子) - 6/8拍子 - C (4/4拍子)
変ロ長調(B-dur) - ト長調(G-dur) - 変ロ長調(B-dur)
Andante ma non troppo - Lebhaft (doch nicht zu sehr) - Tempo I

●カントゥス・ノヴス・ヴィーン, トマス・ホームズ(C)
Cantus Novus Wien, Thomas Holmes(C)

2019年録音。無伴奏男声合唱によってこのテキストの状況が目に浮かぶようです。寂しいけれど友人同士ならではの軽口もたたきながら送り出す感じがして、聞きながら感情移入してしまいました。

●ヨアヒム・フォークト(T), ギュンター・バイアー(T), ズィークフリート・ハウスマン(BS), ディートリヒ・クノーテ(C)
Joachim Vogt(T), Günther Beyer(T), Siegfried Hausmann(BS), Dietrich Knothe(C)

こちらは重唱による録音で、各声部1人ずつの3人で1人の友人を送り出すのはよりリアリティがある気がします。中間部が元気(空元気かもしれませんが)な分、両端の穏やかな部分がより切なく感じられます。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

The Complete Beethoven: DAY 268

《別れの歌》——転勤する聖職者を朗らかに送り出す三重唱曲(平野昭)

『ベートーヴェン全集 第8巻』:1999年10月11日第1刷 講談社(「別れの歌 WoO 102」の解説:藤本一子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(「別れの歌 WoO 102」の解説:小林宗生)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

Seyfried, Joseph Ritter (Wikisource)

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ベートーヴェン「聞け、そよ風のささやきを(生きる喜び) (Odi l'aura che dolce sospira (Lebens-Genuss), Op. 82/5)」(『4つのアリエッタと1つの二重唱曲(Vier Arietten und ein Duett, Op. 82)』より)

Odi l'aura che dolce sospira (Lebens-Genuss), Op. 82/5
 聞け、そよ風のささやきを(生きる喜び)

Venere:
Odi l'aura che dolce sospira;
Mentre fugge scutendo le fronde,
Se l'intendi, ti parla d'amor.

Pallade:
Senti l'onda che rauca s'aggira;
Mentre geme radendo le sponde,
Se l'intendi, si lagna d'amor.

(a due):
Quell'affetto chi sente nel petto,
Sa per prova se nuoce, se giova,
Se diletto produce o dolor!

(対訳:「詩と音楽」藤井宏行氏)

詩:Pietro Antonio Domenico Bonaventura Trapassi (1698-1782), as Pietro Metastasio
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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1809年に作曲された『4つのアリエッタと1つの二重唱曲(Vier Arietten und ein Duett, Op. 82)』の最終曲(第5曲目)は、メタスタージオのテキストによる「Odi l'aura che dolce sospira(聞け、そよ風のささやきを)」で、ドイツ語タイトル訳は「Lebens-Genuss(生きる喜び)」となっています。この曲だけソプラノとテノールの二重唱曲になっています。

メタスタージオの『徳と美のあいだの平和(La pace fra la virtù e la bellezza)』から採られていて、最初の3行がヴィーナス、次の3行がパラス、最後の3行は2人で語る設定になっています。ベートーヴェンは第1連をソプラノ独唱、第2連をテノール独唱、そして第3連をソプラノとテノールの二重唱として作曲しています。

『ベートーヴェン事典(1999年初版 東京書籍)』の藤本一子氏による歌詞大意は次の通りです。
歌詞大意:「きいて,梢のざわめきを。それは愛の告白。きいて,波うち寄せる音を。それは愛の嘆き。二重唱:恋する者にはそれが嘆きなのか喜びなのかが分かるのです。」

そよ風が葉擦れの甘い溜息をつくのは愛を語っていて、波が岸辺に打ち寄せるのは愛を嘆いている、体験した人には分かるのだというなんともロマンティックな詩ですが、ベートーヴェンは第1,2連の最初の2行でそよ風や波をピアノパートの簡潔な描写で見事に表しています。第1,2連の3行目では雰囲気が変わり、テキストを繰り返しながら重みのある雰囲気で語るように歌われます。最終連でソプラノとテノールの甘美な二重唱になるのですが、テノールのパートの最後の方("se diletto"の"let-")に高い嬰ト音(gis)が出てきます。テノール歌手が歌う場合はもちろん問題ないのですが、バリトン歌手が歌う場合はこの箇所のみソプラノ声部と入れ替えて歌うことが多いようです。

Lebensgenuss

3/8拍子
ホ長調(E-dur)
Andante vivace

●アデーレ・シュトルテ(S), ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Adele Stolte(S), Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)

シュトルテの清楚な美声とシュライアーの真摯な歌が合わさり、涼しい風に吹かれているような爽快さを感じました。

●アン・マリー(MS), ロデリック・ウィリアムズ(BR), イアン・バーンサイド(P)
Ann Murray(MS), Roderick Williams(BR), Iain Burnside(P)

英国の知的なコンビによる素敵なアンサンブルでした。ベートーヴェンによってテノールと指定されたパートをウィリアムズが歌っている為、最後の方の"se diletto"で高い嬰ト音(gis)が出てくる一箇所のみマリーとウィリアムズの声部を入れ替えて歌っています。

●パメラ・コバーン(S), ヘルマン・プライ(BR), レナード・ホカンソン(P)
Pamela Coburn(S), Hermann Prey(BR), Leonard Hokanson(P)

マリー&ウィリアムズの場合と同様、"se diletto"の箇所のみ両者の声部を入れ替えて歌っています。コバーンとプライのコンビはアットホームな温もりがあっていいですね。

●ズィモーナ・アイズィンガー(S), ライナー・トロースト(T), マンフレート・シーベル(P)
Simona Eisinger(S), Rainer Trost(T), Manfred Schiebel(P)

出版社によってイタリア語の歌詞の下に併記されたドイツ語歌詞による歌唱です。美声歌手二人の生き生きとした表現が味わえます。シーベルのピアノも美しいです。

●ダニア・エル・ゼイン(S), ヴァンサン・リエーヴル=ピカール(T), ジャン=ピエール・アルマンゴー(P)
Dania El Zein(S), Vincent Lièvre-Picard(T), Jean-Pierre Armengaud(P)

こちらもドイツ語歌詞による歌唱です。同じ旋律でもドイツ語で聞くとまた雰囲気がよりかっちりするのが面白いです。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

4つのアリエッタとひとつの二重唱——作曲動機不明のイタリア歌曲(平野昭)

『ベートーヴェン全集 第6巻』:1999年3月20日第1刷 講談社(「Vier Arietten und ein Duett, Op. 82」の解説:高橋浩子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(歌曲の解説:藤本一子)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

RISM(国際音楽資料目録)

Liber Liber: Metastasio: La pace fra la virtù e la bellezza

PIETRO METASTASIO: ARIE

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ベートーヴェン「いらだつ恋人(恋の焦燥) (L'amante impaziente. Arietta assai seriosa, Op. 82/4)」(『4つのアリエッタと1つの二重唱曲(Vier Arietten und ein Duett, Op. 82)』より)

L'amante impaziente (Liebes‑Ungeduld), Op. 82/4
 いらだつ恋人(恋の焦燥)

Che fa il mio bene?
Perchè non viene?
Vedermi vuole
languir così!
Oh come è lento
nel corso il sole!
Ogni momento
mi sembra un dì!

(対訳:「詩と音楽」藤井宏行氏)

詩:Pietro Antonio Domenico Bonaventura Trapassi (1698-1782), as Pietro Metastasio
曲:Ludwig van Beethoven (1770-1827)

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1809年に作曲された『4つのアリエッタと1つの二重唱曲(Vier Arietten und ein Duett, Op. 82)』の第4曲目は、第3曲目のメタスタージオの「L'amante impaziente(いらだつ恋人)」と同じテキストで、こちらは「Arietta assai seriosa(アリエッタ・アッサイ・セリオーサ)」という副題が付けられています。ドイツ語タイトル訳は「Liebes‑Ungeduld(恋の焦燥)」となっています(第3曲目の副題だった「静かな問いかけ」はむしろ第4曲の方がふさわしい気が・・・)。

第3曲と同じくこの第4曲もテキストの繰り返しと"sì"の追加がありましたので、それらを[ ]内で追記してテキストを表記してみます。

Che fa il mio bene?
Perchè[, perchè] non viene?
vedermi vuole
languir così[, così, così]!
Oh come è lento
nel corso il sole!
Ogni momento
mi sembra un dì[, mi sembra un dì, , un dì]!
 [Che fa, che fa il mio bene?]
 [Perchè, perchè non viene?]
 [vedermi vuole]
 [languir così, così!]
 [Oh come è lento]
 [nel corso il sole!]
 [ogni momento]
 [mi sembra un dì,]
 [ogni momento]
 [mi sembra un dì, , un dì, un dì!]
 [Che fa, che fa, che fa il mio bene?]
 [Perchè, perchè non viene?]
 [vedermi vuole]
 [languir,]
 [vedermi vuole]
 [languir!]
 [vedermi vuole]
 [languir così,]
 [languir così, così, , così!]

(試訳)

私のいとしい人は何をしているのだ?
どうして来ないのか?
あの人は見たいのだ、
私がこれほど憔悴するのを!
おおなんと遅いんだ、
太陽が進むのは!
一瞬が
一日に思えるほどだ。

テキスト前半の4行は6/8拍子でAndante、テキスト後半4行は2/4拍子でAllegroで演奏され、テキストが交互に繰り返される為、緩急の変化に富んだ作品になっています。
同じテキストによる前曲(第3曲)は常に速いテンポで一貫して焦燥感を打ち出したコミカルな作品だったのに対して、この第4曲は恋人がなぜ来ないという前半のテキストをあえてゆっくりのテンポにしたことで絶望感を表現し、後半の「瞬間が一日の長さに思える」というテキストの焦燥感と対比させて感情の幅の広さが感じられます。

・6/8. Andante con espressione
New1

・2/4. Allegro
New2

・6/8. Andante
New3

・2/4. Allegro
New4

・6/8. Andante
New5revised

6/8 - 2/4 - 6/8 - 2/4 - 6/8拍子
変ロ長調(B-dur)
Andante con espressione - Allegro - Andante - Allegro - Andante

●チェチーリア・バルトリ(MS), アンドラーシュ・シフ(P)
Cecilia Bartoli(MS), András Schiff(P)

バルトリは内面的な表現がまた素晴らしいです。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), イェルク・デームス(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Jörg Demus(P)

ディースカウは緩急のメリハリが相変わらず見事です。

●アン・マリー(MS), イアン・バーンサイド(P)
Ann Murray(MS), Iain Burnside(P)

テキストの悲痛な感情表現を声にのせて歌っているマリーの歌唱が素晴らしかったです。

●ペーター・シュライアー(T), ヴァルター・オルベルツ(P)
Peter Schreier(T), Walter Olbertz(P)

シュライアーは緩急の差を付け過ぎずに、焦燥感よりは悲痛な表情を前面に出しているように感じました。

●パメラ・コバーン(S), レナード・ホカンソン(P)
Pamela Coburn(S), Leonard Hokanson(P)

コバーンは丁寧でしっとりとした感情表現を聞かせてくれています。

●レナート・ブルゾン(BR), マーカス・クリード(P)
Renato Bruson(BR), Marcus Creed(P)

ブルゾンの堂々たる歌唱は、相手に翻弄されるというよりも、むしろ余裕で受け止めているような印象を受けました。

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(参考)

The LiederNet Archive

Beethoven-Haus Bonn

4つのアリエッタとひとつの二重唱——作曲動機不明のイタリア歌曲(平野昭)

『ベートーヴェン全集 第6巻』:1999年3月20日第1刷 講談社(「Vier Arietten und ein Duett, Op. 82」の解説:高橋浩子)

『ベートーヴェン事典』:1999年初版 東京書籍株式会社(歌曲の解説:藤本一子)

IMSLP (楽譜のダウンロード)

RISM(国際音楽資料目録)

Adriano in Siria, Dramma per musica (Pietro Metastasio)

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