ベートーヴェンの未完の「魔王(Erlkönig)」WoO131を聴く(ラインホルト・ベッカー補完版による)

ベートーヴェンがゲーテの詩による「魔王」を歌曲として作曲しようとしていたことは以前から知っていました。
しかし、歌声部のみの未完成のスケッチにとどまったこともあり、その音楽を実際に聴くことはないと思っていました。
ある時、たまたま動画サイトでこのベートーヴェンの「魔王」をReinhold Becker (1842-1924)という人が1897年に補完した版で演奏しているものを見つけました。

Unheard Beethoven : Erlkönig (Robert-John Edwards and Jon French)

これを聴くと、ベートーヴェンが詩の韻律に忠実に従っていることが分かり、おそらく完成していたらゲーテも満足していたのではないかと想像出来ます。
ピアノパートについては後世の人の創作なので何とも言えませんが、おそらくベートーヴェンもこのぐらいのドラマティックな要素は盛り込んだのではないかと想像します。
シューベルトの大胆さはないものの、ベートーヴェンが詩を生かしつつ、一人語りのドラマを目指そうとしていたのではないかと感じました。

ちなみに楽譜は次のページ(IMSLP)で閲覧可能です。

 こちら

「Complete Score (higher resolution)」をクリックすると、会員番号などを入力する欄が出てくるので、何も入力せずに数秒そのまま放置して下さい。
しばらくするとサイト上側に青色で「Click here to continue your download.」と出てくるので、そちらをクリックします。
するとpdfファイルがダウンロードされて閲覧できます。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

ペーター・シュライアー&ノーマン・シェトラー/ベートーヴェン歌曲ライヴ映像(バート・ウーラハ)

ドイツの名テノール、ペーター・シュライアー(1935生まれ)と、アメリカ出身のピアニスト、ノーマン・シェトラー(1931生まれ)によるベートーヴェン歌曲集のコンサート映像がアップされていましたので、ご紹介します。
収録年代は不明ですが、先日のプライ同様、バート・ウーラハの秋の音楽祭で催されたコンサートのようです。
シュライアーはベートーヴェン歌曲に非常に力を入れていて、録音も全集をはじめ、ライヴ録音も出ていましたが、映像はまた新鮮な気持ちで楽しむことが出来ると思います。
この映像でのシュライアーは彼の美質がよく分かる歌唱で、リリカルで清潔で、ディクションは明瞭、ベートーヴェンの器楽的ともいえる歌曲の旋律を魅力的に歌っています。
そして、シュライアーが自著で絶賛していたピアニスト、シェトラーは、ソロや人形劇などの活動もしていますが、シュライアーとの共演歴も長く、歌曲を知り尽くした人ならではの聴きごたえのある演奏を聞かせてくれます。
ぜひお楽しみ下さい。

-----------

バート・ウーラハ秋の音楽祭(Herbstliche Musiktage Bad Urach)
ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン歌曲集(Lieder von Ludwig van Beethoven)

From the festival hall in Bad Urach (Germany)

ペーター・シュライアー(Peter Schreier) (Tenor)
ノーマン・シェトラー(Norman Shetler) (Piano)

ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven)作曲

1.アデライーデ(Adelaide, Op.46) (7:31)

2.五月の歌(Mailied, Op.52 No.4) (2:59)

3.悲しみの喜び(Wonne der Wehmut, Op.83 No.1) (3:02)

4.憧れ(Sehnsucht, Op.83 No.2) (2:10)

5.彩られたリボンで(Mit einem gemalten Band, Op.83 No.3) (2:22)

6.新しい愛 新しい生命(Neue Liebe neues Leben, Op.75 No.2) (3:58)

7.希望に寄せて(An die Hoffnung, Op.94) (7:52)

8.愛されぬ男のため息と愛の答え(Seufzer eines Ungeliebten und Gegenliebe, WoO.118) (7:02)

9.遠方からの歌(Lied aus der Ferne, WoO.137) (4:17)

10.うずらの鳴き声(Der Wachtelschlag, WoO.129) (3:57)

11.諦め(Resignation, WoO.149) (3:34)

12.恋する男(Der Liebende, WoO.139) (2:42)

13.満ち足りた男(Der Zufriedene, Op.75 No.6) (1:42)

14.思い(Andenken, WoO.136) (3:15)

15.あなたを愛す(Ich liebe Dich, WoO.123) (3:16)

16.歌曲集「遥かな恋人に寄せて」("An die ferne Geliebte", Op.98) (17:21)

 0:10 Auf dem Hügel sitz ich spähend
 3:03 Wo die Berge so blau
 4:55 Leichte Segler in den Höhen
 6:41 Diese Wolken in den Höhen
 7:40 Es kehret der Maien, es blühet die Au
 10:35 Nimm sie hin denn, diese Lieder

17.祈り(Bitten, Op.48 No.1) (2:27)

18.キス(Der Kuss, Op.128) (3:56)

| | コメント (2) | トラックバック (0)

NISSAY OPERA/ベートーヴェン作曲オペラ「フィデリオ」(2013年11月23日 日生劇場)

日生劇場開場50周年記念公演
オペラ「フィデリオ(FIDELIO)」
(全二幕 原語ドイツ語上演 -日本語字幕付-)

原作:ジャン=ニコラ・ブイイの戯曲『レオノール、あるいは夫婦愛』
台本:ヨーゼフ・フォン・ゾンライトナー、シュテファン・フォン・ブロイニング、ゲオルク・フリードリヒ・トライチュケ
作曲:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven)

2013年11月23日(土)14:00 日生劇場
(75分-休憩25分-65分)

ドン・フェルナンド:木村 俊光
ドン・ピツァロ:ジョン・ハオ
フロレスタン:成田 勝美
レオノーレ:小川 里美
ロッコ:山下 浩司
マルツェリーネ:安井 陽子
ヤキーノ:小貫 岩夫
囚人1:伊藤 潤
囚人2:狩野 賢一

合唱:C.ヴィレッジシンガーズ
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
指揮:飯守 泰次郎

演出:三浦 安浩

美術:鈴木 俊朗
照明:稲葉 直人
衣裳:坂井田 操

---------------

日生劇場でベートーヴェン唯一のオペラ「フィデリオ」を見た。
「フィデリオ」を生で見るのははじめてだが、日生劇場の50年前のこけらおとしで演じられたのがベルリン・ドイツ・オペラによる「フィデリオ」だったとのことで、この劇場にとって特別な作品なのである。
その時はフィッシャー=ディースカウやルートヴィヒ、ベリーなど錚々たるメンバーがカール・ベームの指揮により演奏した。
そして、今回はドン・ピツァロを中国人のジョン・ハオが歌う以外は日本人メンバーにより全曲上演にこぎつけた。
まずはその偉業をたたえたいと思う。

ベートーヴェンの音楽はここでも彼らしさが全開で、荘厳で力強く、苦悩の中を光に向かって突き進んでいく響きは、全くぶれない。
ただ、そんな彼の音楽においても台本に従っただけなのかもしれないが、冒頭の場面は男女の駆け引きが軽快に歌われ、コミカルな要素も取り入れていて、深刻な内容に気晴らしの要素を与えてくれた。
今回はレオノーレがフロレスタンと再会した後に、マーラー以降の慣例に従って「レオノーレ序曲第3番」が演奏されたが、場面変換にはちょうどいいのかもしれない。

夫フロレスタンが失踪した後、妻レオノーレがフィデリオと名を変えて男装して監獄に潜り込み、夫を捜して救出するというのがおおまかな筋である。
フロレスタンは政敵ドン・ピツァロにさらわれて地下牢に閉じ込められていたが、最後は大臣ドン・フェルナンドの前で悪事が暴かれ、夫婦が再会し、妻の勇気が称えられて幕が下りる。

今回の演出(三浦 安浩)は現代人の設定のようだが、衣装も舞台装置も国や時代をそれほど強く意識させるものではないため、読み替えというほどではないのだろう。
助演の女性カメラマンが登場して、ドン・ピツァロの撮影をしたすえにピツァロの部下にいたぶられるというシーンもあった。
序曲の前に雷雨の音響が鳴り渡り、雨の照明の中、傘をさしたレオノーレの一人芝居があった。
そこではレオノーレの夫救出の決心に至る心の動きが描かれていたようだ。

歌手で第一に挙げるべきはレオノーレの小川 里美だろうか。
舞台姿の良さとちょっとクールな響きが特徴と感じられ、尻あがりに良くなっていった印象である。
ロッコ(山下 浩司)、マルツェリーネ(安井 陽子)、ヤキーノ(小貫 岩夫)は安定した上手さがあり、良かった。
特にコミカルな役どころのヤキーノは途中で第九やら「君を愛す(Ich liebe dich)」などを鼻歌で口ずさみ、会場をなごませていた。
私にとってはドン・フェルナンド役で木村 俊光の健在ぶりを聴けたのがうれしかった。
昔から名前は存じていたものの、一度もその生声に接する機会がなく、年齢的に正直若干不安もあったのだが、ボリュームこそ他の歌手ほどではないものの、朗々とした美声と醸し出される雰囲気は短い出番でも素晴らしく、聴けて良かったと思わせられた。
合唱も多少不揃いの場面もあったものの、総合的には素晴らしかった。
囚人の合唱はやはりこのオペラの重要な聴きどころなのだろう。
そして飯守 泰次郎の指揮は実に素晴らしかった。
今回一番の功労者ではなかろうか。
隅々まで目の行き届いた響きを作り上げ、とりわけ挿入された「レオノーレ序曲第3番」はなかなか聴けないほどの熱演だったのではないだろうか。
新日本フィルは最初のうち歌手と合わない箇所もあったものの、徐々に馴染み、ベートーヴェンの音を素晴らしく響かせていた。

正直なところ、頻繁に聴きたい作品ではないかもしれないが、この重厚で充実した音楽に折を見て今後も触れていけたらと思った。

20131123_fidelio

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ペーター・レーゼル/ベートーヴェンの真影【第7回&第8回】(2011年10月1日&12日 紀尾井ホール)

ドイツ・ピアニズムの威光
ペーター・レーゼル
ベートーヴェンの真影
ピアノ・ソナタ全曲演奏会【第4期2011年/2公演】全4期
(The Beethoven Piano Sonata Cycle)

【第7回】2010年10月1日(土)15:00 紀尾井ホール(1階4列13番)
【第8回】2010年10月12日(水)19:00 紀尾井ホール(1階3列15番)

ペーター・レーゼル(Peter Rösel)(Piano)

【第7回】2010年10月1日(土)

ベートーヴェン(Beethoven: 1770-1827)作曲

ピアノ・ソナタ第24番嬰へ長調 Op.78
 Adagio cantabile - Allegro ma non troppo
 Allegro vivace

ピアノ・ソナタ第25番ト長調 Op.79「かっこう」
 Presto alla tedesca
 Andante
 Vivace

ピアノ・ソナタ第11番変ロ長調 Op.22
 Allegro con brio
 Adagio con molt' espressione
 Menuetto
 Rondo: Allegretto

~休憩~

ピアノ・ソナタ第7番ニ長調 Op.10-3
 Presto
 Largo e mesto
 Menuetto: Allegro
 Rondo: Allegro

ピアノ・ソナタ第13番変ホ長調 Op.27-1
 Andante - Allegro - Andante
 Allegro molto e vivace
 Adagio con espressione
 Allegro vivace

~アンコール~
バガテルOp.126-3

---------

【第8回】2010年10月12日(水)

ベートーヴェン(Beethoven: 1770-1827)作曲

ピアノ・ソナタ第2番イ長調 Op. 2-2
 Allegro vivace
 Largo appassionato
 Scherzo: Allegretto
 Rondo: Grazioso

ピアノ・ソナタ第31番変イ長調 Op.110
 Moderato cantabile molto espressivo
 Allegro molto
 Adagio, ma non troppo - Fuga: Allegro, ma non troppo

~休憩~

ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調 Op.2-1
 Allegro
 Adagio
 Menuetto: Allegretto
 Prestissimo

ピアノ・ソナタ第32番ハ短調 Op.111
 Maestoso - Allegro con brio ed appassionato
 Arietta: Adagio molto semplice e cantabile

--------------------

2008年から毎年秋に2回ずつ行われてきたペーター・レーゼルのベートーヴェンソナタ全曲シリーズも今年で最後。
レーゼルというピアニストの真価をじっくり堪能できた好企画だった。

第7回は中期のソナタを中心に、そして最終回の第8回は最初と最後のソナタを2曲づつ組み合わせた興味深いプログラミングである。

第7回の前半は2つの楽章しかない第24番、「かっこう」というモティーフが頻繁に登場する第25番、そして4楽章からなる第11番を前半に置いた。
前半だけで1時間近くのボリュームだったが、その時間の長さを感じさせない魅力的な瞬間の連続であった。
後半は第7番と第13番だが、後者は楽章の間をあけずに続けて演奏し、しかも全体において特定のモティーフを出現させて統一をはかるという当時の新境地を感じさせる意欲作である。

そして最終回の第8回はベートーヴェンの最初と最後のソナタ2つずつを組み合わせた斬新で非常に興味深い配列にレーゼルの意欲がうかがえる。
ベートーヴェンは最初からベートーヴェンであったということをこのプログラミングから印象づけられた。
もちろん最初は先人たちからの影響もあったであろうし、学びの成果を作曲するうえでどれほど発揮するかという側面もあったに違いない。
しかし、第1番の最終楽章で聞かれる怒涛のように押し寄せるドラマは後のベートーヴェンの片鱗がはっきりと刻まれているように感じられるし、第2番最終楽章の細やかな分散和音を幅広い音域で響かせる華麗さは、ベートーヴェンの楽器への可能性の追求にも感じられた。

ベートーヴェン最後のピアノソナタ第32番は、第1楽章でごつごつしたドラマをレーゼルにしてはかなり大胆な表現で聞かせた後に演奏された第2楽章アリエッタは、これまでに聴いたレーゼルの演奏の集大成と行って良かったのではないか。
ここに到るまでの31ものソナタの響きは、すべてこの第32番第2楽章に向かうための序曲だったのだと言ったら言い過ぎだろうか(←それはやはり言い過ぎですね)。
しかし、この長大な変奏曲がこれほど美しく地上から足が浮いているかのような天上的な響きで私を魅了したことはかつてなかった。
このままもっとずっと聴いていたい、終わって欲しくないという神々しいまでの響きが私の心をとらえて離さなかった。
はじめて第32番の素晴らしさが分かったような気がした。
そんな感動的な演奏に酔い痴れながら、ベートーヴェンの闘争を経て勝ち取った至福をたっぷり味わったひとときであった。

第7回の前半で、ピアノの最後の音がまだ消えないうちに拍手する人がいて、それが休憩時間に問題になっていたようだ(ロビーでやりあっている怒号が聞こえたが、あまり気持ちのいいものではない。もっと冷静な対応が望まれる)。
結局休憩時間の終わり頃に「拍手は最後の音が消えてから」というアナウンスが入り、後半はフライングもほぼなくなった。
その余波は最終回にも持ち越され、配布されたプログラム冊子に、同様の注意事項が印刷された紙が挟まれ、「ご一緒に優しい静寂をつくりあげましょう」と聴衆の気遣いを促していた。

レーゼルのピアノは確かなテクニックに裏付けられた自在さをさらに増したのではと思わせる安定感に貫かれ、作品と聴衆との誠実な媒介者たらんとしているかのようだった。
その音はいつもながらきわめてまろやかで、決してとげとげしくはならない。
しかし、激しい箇所ではわめかなくとも充分に劇的な表現が出来るのだよと言っているかのような徹底したコントロールが見事だった。
彼の演奏から感じられる温かさは他のピアニストとは異なるレーゼルだからこそ醸し出されるものと思われた。
それでいながらただ温和なだけではない、ドイツ人らしいごつごつした感触も感じられる。
非常にいい音楽を聴いたと感じさせてくれる稀有のピアニストであることをあらためて感じた。

毎回アンコールで弾かれるバガテルは、ソナタで集中した気持ちをほぐしてくれるような癒しのひとときを与えてくれた。
CD化する際にこれらのバガテルもまとめて余白におさめてはどうだろうか。
最終回のみはアンコールを弾かずに自らピアノの蓋を閉じたが、最後のソナタの後にもはや音楽は不要であるというように受け取られた。
お疲れ様でした & Vielen Dank, Herr Rösel!

来年からは3年にわたる新プロジェクト「ドイツ・ロマン派 ピアノ音楽の諸相(仮題)」が始まる。
リサイタル、協奏曲、室内楽の各ジャンルにおいて、ドイツ・ロマン派の音楽の様々な作品を聴かせてくれるらしい。
来年は10月下旬から11月にかけてメンデルスゾーンの無言歌、ブラームス&シューベルトのソナタ、ブラームスの協奏曲第2番、シューマンのピアノ五重奏曲が予定されており、今から楽しみである。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

ペーター・レーゼル&S.ザンデルリング/ベートーヴェン ピアノ協奏曲 全曲ツィクルス II(2011年10月8日 紀尾井ホール)

ペーター・レーゼル
シュテファン・ザンデルリング&紀尾井シンフォニエッタ東京
ベートーヴェン ピアノ協奏曲 全曲ツィクルス II

2011年10月8日(土)14:00 紀尾井ホール(1階12列4番)

ペーター・レーゼル(Peter Rösel)(ピアノ)
紀尾井シンフォニエッタ東京(Kioi Sinfonietta Tokyo)
(Guest Concertmaster: José Maria Blumenschein)
シュテファン・ザンデルリング(Stefan Sanderling)(指揮)

ベートーヴェン(Beethoven: 1770-1827)

ピアノ協奏曲第1番ハ長調Op. 15
 Allegro con brio
 Largo
 Rondo: Allegro scherzando

~休憩~

ピアノ協奏曲第5番変ホ長調Op. 73「皇帝」
 Allegro
 Adagio un poco mosso
 Rondo: Allegro, ma non troppo

------------------------

昨年から始まったペーター・レーゼルのベートーヴェン・ピアノ協奏曲全曲シリーズの2日目を聴いた。
昨年の第2~4番に続き、今年は第1番と第5番「皇帝」。
つまり今年でレーゼルのベートーヴェンのソナタシリーズと協奏曲シリーズが同時完結となるわけであり、感慨深いものがある。

指揮のシュテファン・ザンデルリングは先日惜しくも亡くなったクルト・ザンデルリングの息子である。
レーゼルはザンデルリング親子二代にわたって共演したことになり、思いもひとしおではないだろうか。

さて、今回はベートーヴェンの両端の番号が演奏されたわけだが、第1番は、第2番より後に作曲されたそうなので(改訂などの都合で出版の順序が逆になったようだ)、内容はかなり充実している。
3つの楽章とも中身の濃い作品だったが、レーゼルはいつもの熟練したテクニックのもと、決して荒れないまろやかな美音で作品そのものを描き出していた。
特に第3楽章の途中に出てくる場末の酒場で演奏されるようなフレーズは印象的だが、その箇所も含めて、余裕をもって味のある演奏をしていて素晴らしかった。
その意味では後半の「皇帝」は人によってはよりドラマティックな演奏の方がいいと思われたかもしれない。
しかし、あたかもオーケストラの一部となったかのように「対決」よりは「協調」したピアノの音は、上質な室内楽のような趣で、もちろん作品のもつがっしりした壮大さも彼なりに表現されていた。
私にとっては紀尾井ホールで聴くピアノ協奏曲としてまさに理想的な響きと感じた。
また「皇帝」の第2楽章は、両端楽章とは対照的な天上の音楽のような美しさ。
そちらでのレーゼルの一見淡々としているようでありながらしっとりと沁みてくる演奏は絶妙だった。

紀尾井シンフォニエッタ東京はさすがに紀尾井ホールの響きを知り尽くしているかのように積極的で色どり豊かな演奏をしていて素晴らしかったし、指揮のシュテファン・ザンデルリングは拍手にこたえる時に常に笑顔でレーゼルとオケに敬意を表していたのが印象的だった。

レーゼルの2年にわたるピアノ協奏曲プロジェクトの完結に客席からは割れんばかりの拍手が長く続いた。
数日後のピアノ・ソナタ・シリーズ最終日がますます楽しみになってきた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

岡田博美(ピアノ)×ディアベリ変奏曲(2011年4月21日 トッパンホール)

岡田博美(ピアノ)×ディアベリ変奏曲
2011年4月21日(木)19:00 トッパンホール(C列4番)

岡田博美(Hiromi Okada)(piano)

ベートーヴェン(Beethoven)/ピアノ・ソナタ第12番 変イ長調 Op.26
 Ⅰ Andante con Variazioni
 Ⅱ Scherzo and Trio. Allegro molto
 Ⅲ Marcia funebre sulla morte d'un eroe
 Ⅳ Allegro

ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 Op.109
 Ⅰ Vivace, ma non troppo - Adagio espressivo
 Ⅱ Prestissimo
 Ⅲ Andante molto cantabile ed espressivo

~休憩~

ベートーヴェン/ディアベリの主題による33の変奏曲 ハ長調 Op.120

~アンコール~
シューベルト(Schubert)/楽興の時 第3番 ヘ短調 D780-3

-----------------

岡田博美のベートーヴェンのリサイタルを聴いた。
昨年はじめて彼の実演に接してすっかり魅了され、今回再び聴くことが出来るのを楽しみにしていた。

今回は「ディアベリ変奏曲」をメインに置き、その前に変奏曲を含むソナタ2曲を演奏するというプログラム。
よく考えられたプログラミングは、彼ならではだろう。

登場した岡田はいつもながら飄々としたもの。
演奏ぶりもベートーヴェンだからという気負いは全くない様子。
前半のソナタ2曲をなんでもないように演奏しながら、そこに込められた味わいは深い。
今回演奏する手がよく見える席だったのだが、指がとても細長く、それ自体が生き物のように鍵盤を這う。
手指に恵まれているということもピアニストとしては有利に働くだろうが、あくまで作品第一の姿勢を崩さない真摯な姿勢こそが岡田博美の演奏の魅力かもしれない。

今回後半のメインプロの「ディアベリ」は睡魔に襲われてしまいもったいないことをしたが、これは演奏の問題ではもちろんなく、私の体調管理が到らなかった為である。
演奏者に申し訳ないことをしてしまった。
いつか再度「ディアベリ」を演奏する時には私も万全の状況で聴かせていただくつもりである。

Okada_20110421_chirashi

アンコールで弾かれた「楽興の時 第3番」のなんと愛らしかったことか。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

レーゼル&アルミンク指揮新日本フィル/ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番」ほか(2010年10月23日 すみだトリフォニーホール)

新日本フィルハーモニー交響楽団
第468回定期演奏会『恍惚のベートーヴェン・ナイト』
2010年10月23日(土)18:00 すみだトリフォニーホール(3階LB列7番)

ペーター・レーゼル(Peter Rõsel)(ピアノ:op.58)
新日本フィルハーモニー交響楽団(New Japan Philharmonic)
クリスティアン・アルミンク(Christian Arming)(指揮)

リーム(Wolfgang Rihm:1952-)/変化2(Verwandlung 2)(2005)(日本初演)

ベートーヴェン(Beethoven)/ピアノ協奏曲第4番ト長調op.58
 Allegro moderato
 Andante con moto
 Rondo: Vivace

~レーゼルのアンコール~
ベートーヴェン/ピアノソナタ第18番op.31-3~第2楽章

~休憩~

ベートーヴェン/交響曲第8番ヘ長調op.93
 Allegro vivace e con brio
 Allegretto scherzando
 Tempo di menuetto
 Allegro vivace

----------------------

今回ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番をラドゥ・ルプーが弾くはずだったのだが、ルプーは急病で帰国してしまった為、代役として先日紀尾井シンフォニエッタと素晴らしい演奏を披露したペーター・レーゼルが登場することになった。
ルプーだとしても当日券で聴こうと思っていたのだが、レーゼルに変更と聞き、喜んで出かけてきた。
結果は先日を上回る最高の名演で、この場に立ち会えた幸運に感謝したい気持ちである。
レーゼルの演奏はマイルドなタッチが温かく、しかも余裕で鍵盤を縦横無尽に駆け抜けるが、それが単なるスケールにならず、しっかりとした音楽が存在するのが素晴らしい。
第2楽章のなんと美しかったこと!
ベートーヴェンの音楽を魂のこもった演奏で聴くとこれほど聴き手を感銘させることが出来るのだとあらためて感じられた。
聴き終えてしばらくは久しぶりの心の底から揺さぶられる感動で興奮冷めやらぬ状態となった。
実は前日の演奏の感想をインターネットで事前にチェックしたところ、指揮者との息が合っていないという意見がいくつか見られたのが心配だったのだが、2日目のこの日は慣れてきたためだろうか、アルミンクとの呼吸に一切のズレがなく、ぴったり調和していたのが素晴らしかった。
そしてアンコールとしてソナタ第18番「狩」の第2楽章を演奏したが、先日のソナタシリーズで聴いた時よりも軽快で音楽に乗った積極的な演奏だったように感じられた。
休憩時間は私にとってちょうどよいクールダウンとなった。

後半の交響曲第8番はほとんど陰りない明朗快活な作品で、オケも気持ちよく演奏していた。
私の席からだと第1楽章の管楽器が次々とパッセージを引き継ぐ箇所などもよく見られて楽しかった。
クラシックを聴き始めた頃に駅のワゴンセールで購入したCDでこの曲をよく聴いていたことを懐かしく思い出した。

なお、最初に演奏されたリームの「変化2」は20分ほどの作品だが、私にとってもそれほど聴きにくいという感じはしなかった。

New_japan_philharmonic_20101023_chi

アルミンクは今回正面からよく見ることが出来たが、指揮する姿はエネルギッシュながら、決して洗練されているという感じではなく、彼独自の振り方をしているという印象をもった。

ちなみにアルミンクによるプレトークではリームの作品解説が中心だった。
この日のコンサートマスターは豊嶋泰嗣。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

レーゼル/ベートーヴェンの真影【第5回&第6回】(2010年10月2日&14日 紀尾井ホール)

Roesel_pamphlet_201010

紀尾井の室内楽vol.26
ドイツ・ピアニズムの威光
ペーター・レーゼル
ベートーヴェンの真影
ピアノ・ソナタ全曲演奏会【第3期2010年/2公演】全4期

【第5回】2010年10月2日(土)15:00 紀尾井ホール(1階4列3番)
【第6回】2010年10月14日(木)19:00 紀尾井ホール(1階4列3番)

ペーター・レーゼル(Peter Rösel)(ピアノ)

【第5回】2010年10月2日(土)

ベートーヴェン(Beethoven: 1770-1827)作曲

ピアノ・ソナタ第22番ヘ長調 Op.54
 In Tempo d'un Menuetto
 Allegretto

ピアノ・ソナタ第3番ハ長調 Op.2-3
 Allegro con brio
 Adagio
 Scherzo: Allegro
 Allegro assai

~休憩~

ピアノ・ソナタ第15番ニ長調 Op.28「田園」
 Allegro
 Andante
 Scherzo: Allegro vivace
 Rondo: Allegro ma non troppo

ピアノ・ソナタ第26番変ホ長調 Op.81a「告別」
 Das Lebewohl
 Abwesenheit
 Das Wiedersehn

~アンコール~
バガテルOp.126-5
バガテルOp.33-4

【第6回】2010年10月14日(木)

ベートーヴェン(Beethoven: 1770-1827)作曲

ピアノ・ソナタ第8番ハ短調 Op.13「悲愴」
 Grave - Allegro di molto e con brio
 Adagio cantabile
 Rondo: Allegro

ピアノ・ソナタ第18番変ホ長調 Op.31-3「狩」
 Allegro
 Scherzo: Allegretto vivace
 Menuetto: Moderato e grazioso
 Presto con fuoco

~休憩~

ピアノ・ソナタ第27番ホ短調 Op.90
 Mit Lebhaftigkeit und durchaus mit Empfindung und Ausdruck
 Nicht zu geschwind und sehr singbar vorgetragen

ピアノ・ソナタ第28番イ長調 Op.101
 Etwas lebhaft und mit der innigsten Empfindung
 Lebhaft. Marschmäßig
 Langsam und sehnsuchtsvoll
 Geschwinde, doch nicht zu sehr, und mit Entschlossenheit

~アンコール~
バガテルOp.33-4
バガテルOp.126-5

--------------------

ペーター・レーゼルが4年がかりで続けているベートーヴェン・ソナタ全曲シリーズの3年目を聴いてきた。

Roesel_autograph_20101002

10月2日(土)は燕尾服ではなく、黒のシャツを来てレーゼルは登場したが、まさにドイツの構築感にレーゼルならではのマイルドさも加わって各ソナタの核心があらわになったような素晴らしい演奏を聴かせてくれた。
ますます高みにのぼっていくレーゼルの至芸にはどんな形容をしてもむなしく響くほど。
アンコール(バガテル2曲)も含めて、これほどしっとりと心にしみるベートーヴェンを聴けた喜びにただただ感謝あるのみである。

最初のソナタ第22番は2つの楽章のみからなる小さな作品だが愛らしい魅力が感じられ、レーゼルの包み込むような音色が素晴らしかった。
せわしない動きが途絶えることのない第2楽章でも余裕のある演奏だったのはさすがだと思わされた。

ごく初期のソナタ第3番の第1楽章は規模の大きな壮大なスケールの楽章で、様々な楽想が次々あらわれつつも有機的な構成は保たれ、若かりし作曲家の意欲の強さがうかがえる。
他楽章でも硬軟入り乱れての多彩な表現が若々しく感じられ、それをレーゼルが温かい視点で再現していくのは素敵だった。

後半最初は第15番で一般に「田園」と呼ばれている作品である。
その名のとおり牧歌的なのどかな楽想が展開されていく。
第2楽章などシューベルトのソナタのモノローグをさえ先取りしているかのような響きすら感じられた。
息の長い美しいメロディーへの傾斜が感じられ、ベートーヴェンにしては意外な曲調である。
どうでもいい話だが、このソナタの第3楽章スケルツォの急速に下降する3つの音の連続が私には「誰だ?」と連呼しているように聞こえてしまう。
第4楽章で再びのどかな世界が広がるが、ベートーヴェンらしくドラマティックに盛り上がっていき終わる。

最後に演奏された有名な「告別」ソナタも、レーゼルらしい正攻法の姿勢で人生が反映されているかのような深い音の響きに酔いしれた。

レーゼルのピアノの音はどうしてこうも優しく心にしみてくるのだろう。
ベートーヴェンを聴く時の身構えた緊張感が、終演後にはすっかり溶けてしまっている。
ダイナミックスに不足するわけではなく、緊張と弛緩をバランスよく表現しているはずなのに、聴き終わった後に気持ちいい音楽を聴いたという満足感で満たされるのである。
やはり凄いピアニストである。

---------

10月14日(木)の公演の前に協奏曲の演奏を聴いたが、そちらはタキシードだった。
そして14日のソナタ公演では、2日同様の黒のシャツを着ていた。
こちらも基本的には2日同様に穏やかな人間味あふれるベートーヴェンだった。

最初に弾かれたのは有名な「悲愴」ソナタ。
ベートーヴェン自身が命名したことで知られる「悲愴(Pathetique)」ソナタだが、レーゼルの演奏は決して怒号も号泣もせず、ひっそりと頬を涙が伝っていくような感じだった。

続く第18番「狩」は、おそらく第4楽章からそのタイトルが付けられたのだろうが、これはベートーヴェンの命名ではない。
緩徐楽章が含まれないが、各楽章が異なるキャラクターを持ち、基本的に明朗な作品でリラックスして聴くことが出来る。

後半は第27番と第28番が演奏されたが、真嶋雄大氏のプログラムノートにもあるようにどちらもロマン派を先取りしたかのような当時のベートーヴェンの新境地とも言える内容を備えている。
私には前者はシューベルト、後者はシューマンの作品を予感させるように感じられた。
カンタービレが要求されるこれらの作品において、レーゼルの歌うようなタッチと音色がどれほど素晴らしかったかを言葉で表現し尽くすのは難しい。
例えば「悲愴」ソナタでの演奏によりドラマティックな緊迫感を求める人であっても、後半2作品の演奏における美しさに異論を唱える人はそれほどいないのではないか。
第28番ではカンタービレと同様に最終楽章での対位法も特徴的だが、これらも作曲上のテクニックうんぬんを忘れさせるような自然な美しさを感じさせられた。

昨年のソナタ公演では2回の演奏会で異なるアンコールをそれぞれ1曲ずつ披露したが、今回はさらに熱狂した反応ゆえだろうか、アンコールを各公演で2曲披露してくれた。
曲目はどちらも同じ内容だったが、演奏されるバガテルの順序が逆だったのは、本来1曲だけ演奏するつもりで、聴衆の反応に応じて2曲演奏したということではないかと想像される。
今回こうしてバガテルの中の同じ曲を日にちをあけて2回も聴くことが出来て感じたのは、これらの作品は決して「つまらないもの(Bagatelle)」ではなく、「小さな宝石(Schätzchen)」であったということである。
技術的には子供でも弾けるだろうが、レーゼルの円熟味が遺憾なく発揮されたこれほどの境地で弾くのは決して容易ではないにちがいない。

来年で完結するこのシリーズを今から楽しみにしている。

Roesel_chirashi_201010

| | コメント (2) | トラックバック (0)

レーゼル&S.ザンデルリング/ベートーヴェン ピアノ協奏曲 全曲ツィクルス I(2010年10月9日 紀尾井ホール)

ペーター・レーゼル

Roesel_concerto_pamphlet_201010

シュテファン・ザンデルリング&紀尾井シンフォニエッタ東京
ベートーヴェン ピアノ協奏曲 全曲ツィクルス I

2010年10月9日(土)14:00 紀尾井ホール(1階4列2番)

ペーター・レーゼル(Peter Rösel)(ピアノ)
紀尾井シンフォニエッタ東京(Kioi Sinfonietta Tokyo)
シュテファン・ザンデルリング(Stefan Sanderling)(指揮)

ベートーヴェン(Beethoven: 1770-1827)

ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 Op. 19
 Allegro con brio
 Adagio
 Rondo: Allegro molto

ピアノ協奏曲第3番ハ短調 Op. 37
 Allegro con brio
 Largo
 Rondo: Allegro

~休憩~

ピアノ協奏曲第4番ト長調 Op. 58
 Allegro moderato
 Andante con moto
 Rondo: Vivace

------------------------

現在ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲シリーズを4年がかりで継続中のペーター・レーゼルが今年から同時進行でピアノ協奏曲の全曲シリーズも始めた。
今年は第2~4番まで。
そして来年は第1番と第5番「皇帝」が予定されている。
つまり来年でベートーヴェンのソナタシリーズと協奏曲シリーズが同時完結することになるのである。

雨の中、四谷の紀尾井ホールに出かけてきたが、セディナ誕生一周年記念という冠が付けられ、関係者らしき人たちの姿がロビーに見られ、開演前のロビーやホール内を撮影している人もいた(スポンサー関係者だったのだろう)。

最初に演奏されたのは第2番。
第1番より出版されたのが後になったため2番と付けられているが、作曲はこちらが先とのこと(プログラム解説:原口啓太氏)。
どの楽章も軽快な明るさが聴く者を楽しい気分にさせる。
ベートーヴェンの優しい一面があらわれた作品と感じられた。

続いて演奏された第3番は第2番とは対照的に重厚でドラマティックな短調の作品(緩徐楽章は穏やかな長調だが)。
こうした悲壮な曲調であってもレーゼルの演奏はやり過ぎることがなく、節度が感じられるのが私には好ましい(より激しいほうが好みの方もおられるかもしれない)。

休憩後の第4番は冒頭からいきなりピアノソロで始まるのが特徴的な作品。
こちらはまた優美な曲調になり、気品すら感じられる。
しかし、ただ穏やかなだけではなく、ドラマティックな感情の起伏も表現されていて、精神的な味わい深さも感じさせてくれる名作といえるだろう。
第2楽章では激しく力強いオケと静かで穏やかなピアノソロが交代して、対比の妙が興味深い。

こうして立て続けに聴いてみると、やはりベートーヴェンというのはケタ違いに偉大な作曲家なのだなと感じずにはいられなかった。
貪欲に新しい技法を取り入れながら、決してルーティンに流されずに細やかにモティーフを展開させていく様は、単なる一愛好家の私ですら眩しいほどの格の違いを見せ付けられたような気がした。
何度も校正の手を入れて妥協せずに作品をつくりあげていくこの作曲家にあらためて畏敬の念を感じた時間だった。

レーゼルの演奏はソロの時と本質的には同様である。
がっちりとした構築感を土台にして、そこで作品とまっすぐに向き合うのだが、高度なテクニックを誇示することは決してなく、どれほど激しい箇所でもがんがん叩きつけることなく、コントロールの行き届いたタッチがマイルドな温かさを醸し出す。
ソリストと伴奏者という関係ではなく、アンサンブルの一員として互いの音を聴き合った良質な室内楽のようなやりとりが素晴らしかった。
右手だけで弾く時には左手を指揮をするかのようにひらりとさせるなど、ソロの時には見られなかった演奏する楽しみを自然に表にあらわすような場面も見られた。
またオケだけで演奏される箇所ではオケの演奏する方を向いてじっと音楽に耳を傾ける場面も多く、お互いの信頼関係がうかがえた。
また、作品それぞれの性格の違いを鮮やかに描き分けていたのは熟練のなせる技なのだろう。
とにかくレーゼルの奏でる極上の音の連なりに気持ちよく身を預けて聴いていた。

指揮はシュテファン・ザンデルリング。
往年の名指揮者クルト・ザンデルリングの息子である(レーゼルは親子2代と共演したことになる)。
女性の多い弦楽器群と男性の多い管楽器群からみずみずしく積極的な音楽を引き出していたように感じた。
紀尾井シンフォニエッタ東京のゲスト・コンサートマスターはスラヴァ・シェスティグラーゾフ(Slava Chestiglazov)。

Roesel_concerto_chirashi_201010

レーゼルは何度も飛んだブラヴォーの掛け声と拍手喝采に幾度となくステージに呼び戻されていた。

なお、今日のコンサートはマイクが立てられ、ピアノソナタシリーズ同様CD化されるそうなので楽しみである。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

沼尻竜典&東京フィル/リリア第九演奏会(2009年12月20日 川口リリア・メインホール)

リリア第九演奏会~川口第九を歌う会創立20周年記念~
Symphony_9_200912202009年12月20日(日) 15:00 川口リリア・メインホール(1階12列6番)

中嶋彰子(S)
小林久美子(MS)
吉田浩之(T)
甲斐栄次郎(BR)
川口第九を歌う会(合唱)

東京フィルハーモニー交響楽団
沼尻竜典(指揮)

モーツァルト/交響曲第32番ト長調 K318

~休憩~

ベートーヴェン/交響曲第9番ニ短調「合唱付」Op.125

-------------------

師走に第九を聴くという習慣が少なくとも私の中ではこれまでなかったのだが、家からそう遠くないホールで、第一線で活躍中の独唱者たちと指揮者、オケによる第九が手頃な料金で聴けるとあって、この間の日曜日、当日券を求めて聴いてきた。

私の席は12列6番だったが、前の10列分の席はとっぱらわれ、ステージになっていたので、実際には前から2列目となり、演奏者を間近に見ることが出来た。
左から2番目という端の席だが、ヴァイオリン群の最後尾やパーカッション、トロンボーン奏者を近くで見ることが出来、特に第九の最終楽章でシンバルが裏打ちから表打ちに移る様子や、トライアングルのリズムまではっきり聴くことが出来たのは貴重な体験だった。
指揮の沼尻さんは「カプリッチョ」で聴いたばかりで、今年2回目。
思ったよりも小柄だが、ステージの出入りは颯爽としていて、指揮姿もエネルギッシュでよく動く。
しかし、動きながらもオケをしっかり統率して決してばらけることがないのが素晴らしかった。

独唱者たちは第九の第4楽章が始まっても登場しないので、いつ出てくるのだろうと思ったら、バリトン独唱の直前に弦が有名なメロディを弾くあたりで4人そろって登場し、合唱団の前方に立った。
私の席からだと残念ながらソプラノの中嶋さんの歌っている姿は見えなかったのだが、ほかの3人の独唱者は落ち着いた堂々とした歌いぶりを見ることが出来た。
特に現在ヴィーンの歌劇場に在籍している甲斐さんの生歌を始めて聴けるのが楽しみだったのだが、さすがによく通る美しい低音が素晴らしかった。
テノールの吉田さんは安心して聴けるし、メッゾの小林さんも若干控えめに聞こえたが(席の関係か?)、しっかりと支えていたと思う。
現代曲などもこなすソプラノの中嶋彰子さんを聴くのも初めてだったが、声量の豊かさと声の張り、つやはさすがだった。

合唱団は女声が男声の倍ぐらいで、年配の方が多かったようだが、歌はとてもしっかりしていて、よく訓練されている印象を受けた。

第九の最後は指揮の沼尻さんが極端になり過ぎない自然さでうまくオケを煽り、スピードアップしたまま締めくくられた。
こうやってじっくり第九を聴いてみると、シラーの詩はやや難解な説教くささはあるものの、楽曲としては充分盛り上がり、演奏効果抜群で、1年の締めくくりにはいいのかもしれないと思った。

第九の前にはモーツァルトの交響曲第32番が演奏された。
この曲、全3楽章が完全に終止しないまま連続して演奏されるので、楽章というよりも3つの部分からなる単一楽章という印象を受ける。
全体でも10分ほどの短い作品だが、明朗で快活な雰囲気に満ち溢れ、この作曲当時にモーツァルトが不幸にみまわれていた(母親の死、恋人との別れ、就職活動のたびかさなる失敗)とはとても思えないほどであった。

Symphony_9_20091220_chirashi

| | コメント (0) | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

CD | DVD | J-Pop | LP | おすすめサイト | アイヒェンドルフ | アンゲーリカ・キルヒシュラーガー | アンティ・シーララ | アーウィン・ゲイジ | アーリーン・オジェー | イアン・ボストリッジ | イェルク・デームス | イタリア歌曲 | イモジェン・クーパー | ウェブログ・ココログ関連 | エディト・マティス | エリック・ヴェルバ | エリーザベト・シュヴァルツコプフ | エリー・アーメリング | エルンスト・ヘフリガー | オペラ | オルガン | オーラフ・ベーア | カウンターテナー | カール・エンゲル | ギュンター・ヴァイセンボルン | クリスタ・ルートヴィヒ | クリスティアン・ゲアハーアー | クリスティーネ・シェーファー | クリスマス | グリンカ | グリーグ | グレアム・ジョンソン | ゲアハルト・オピッツ | ゲアハルト・ヒュッシュ | ゲロルト・フーバー | ゲーテ | コンサート | コントラルト歌手 | シェック | シベリウス | シュテファン・ゲンツ | シューベルト | シューマン | ショスタコーヴィチ | ショパン | ジェフリー・パーソンズ | ジェラルド・ムーア | ジェラール・スゼー | ジュリアス・ドレイク | ジョン・ワストマン | ソプラノ歌手 | テノール歌手 | ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ | ディートリヒ・ヘンシェル | トーマス・E.バウアー | ドルトン・ボールドウィン | ナタリー・シュトゥッツマン | ノーマン・シェトラー | ハイドン | ハイネ | ハルトムート・ヘル | ハンス・ホッター | バス歌手 | バッハ | バリトン歌手 | バレエ・ダンス | バーバラ・ヘンドリックス | バーバラ・ボニー | パーセル | ピアニスト | ピーター・ピアーズ | フェリシティ・ロット | フランス歌曲 | フリッツ・ヴンダーリヒ | ブラームス | ブリテン | プフィッツナー | ヘルマン・プライ | ヘルムート・ドイチュ | ベルク | ベートーヴェン | ペーター・シュライアー | ペーター・レーゼル | ボドレール | マティアス・ゲルネ | マルコム・マーティノー | マーク・パドモア | マーティン・カッツ | マーラー | メシアン | メゾソプラノ歌手 | メンデルスゾーン | メーリケ | モーツァルト | ヤナーチェク | ヨーハン・ゼン | ルチア・ポップ | ルドルフ・ヤンセン | ルードルフ・ドゥンケル | レナード・ホカンソン | レルシュタープ | レーナウ | レーヴェ | ロシア歌曲 | ロジャー・ヴィニョールズ | ロッテ・レーマン | ロバート・ホル | ローベルト・フランツ | ヴァルター・オルベルツ | ヴァーグナー | ヴェルディ | ヴォルフ | ヴォルフガング・ホルツマイア | 作曲家 | 作詞家 | 内藤明美 | 北欧歌曲 | 合唱曲 | 小林道夫 | 岡原慎也 | 岡田博美 | 平島誠也 | 指揮者 | 日記・コラム・つぶやき | 映画・テレビ | 書籍・雑誌 | 歌曲投稿サイト「詩と音楽」 | 演奏家 | 白井光子 | 研究者・評論家 | 藤村実穂子 | | 音楽 | R.シュトラウス