ホルツマイア&クーパー/ヴォルフ歌曲集
Wolf Songs(ヴォルフ歌曲集)
WIGMORE HALL LIVE: WHLive0029
録音:2008年2月19日, Wigmore Hall, London (live)
Wolfgang Holzmair(ヴォルフガング・ホルツマイア)(バリトン)
Imogen Cooper(イモジェン・クーパー)(ピアノ)
Wolf(ヴォルフ)/Lieder to texts by Eduard Mörike(エードゥアルト・メーリケの詩による歌曲集)
1.Auf einer Wanderung(旅路で)
2.Der Tambour(鼓手)
3.Denk' es o Seele!(考えてもみよ、おお心よ!)
4.Der Gärtner(庭師)
5.Auf eine Christblume II(クリスマスローズに寄せてII)
6.Der Feuerreiter(火の騎士)
7.Peregrina I(ペレグリーナI)
8.Peregrina II(ペレグリーナII)
9.Um Mitternacht(真夜中に)
10.Jägerlied(狩人の歌)
11.Schlafendes Jesuskind(眠る幼な児イエス)
12.Frage und Antwort(問いと答え)
13.Fussreise(散歩)
(拍手の感じからして、おそらくここで休憩が入ったと思われる。)
14.In der Frühe(早朝に)
15.Im Frühling(春に)
16.Lied eines Verliebten(恋する男の歌)
17.Lebe wohl(さようなら)
18.An die Geliebte(愛する人に)
19.Nimmersatte Liebe(飽くことを知らぬ恋)
20.Elfenlied(妖精の歌)
21.Gebet(祈り)
22.An den Schlaf(眠りに寄せて)
23.Er ists(時は春)
24.Zur Warnung(戒めに)
25.Bei einer Trauung(ある婚礼にのぞんで)
26.Begegnung(出会い)
encore(アンコール)
27.Selbstgeständnis(打ち明け話)
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今年はフーゴー・ヴォルフ(1960-1902)が生まれて150年のアニバーサリーにあたる。
“シューベルト→シューマン→ブラームス→ヴォルフ”というドイツ歌曲の大きな流れは今や疑う余地もないが、最初の3人に比べて、ヴォルフの知名度は相変わらず低いままである。
それは、歌曲以外の作品がほとんど知られていないということも影響しているだろうが、肝心の歌曲についても、聴く者を瞬時に魅了するような分かりやすさはあまり無いという点は否定できない。
むしろ初めて聴く人にとっては晦渋な印象を受けるかもしれない。
しかし、ヴォルフの歌曲にひとたびとりつかれた人はどこまでもはまることが多いのではないだろうか。
ロンドンのウィグモア・ホールが自主レーベルから過去のライヴ録音を発売するようになって数年がたった。
幸いなことにこのレーベルでは歌曲のリサイタルの録音がしばしば発表される。
今回はバリトンのヴォルフガング・ホルマイアとピアニストのイモジェン・クーパーによるヴォルフ「メーリケ歌曲集」抜粋集である。
言うまでもなくホルツマイアは洗練の極みのようなスマートな歌唱をする人ではない。
むしろ無骨で不器用な印象すら受ける。
発音はオーストリア訛りをかすかに残しており、必要なテクニックはしっかりあるものの、人工的な要素を一切感じさせない。
しかし、その飾らない自然さがシューベルトの歌曲などではとても魅力的だった。
では、19世紀後半の、語りに近づいた歌声部と充実した近代的なピアノパートをもつフーゴー・ヴォルフの歌曲ではどうだろうか。
ホルツマイアはここでもいつもの朴訥な声を使って、丁寧に穏やかな歌を紡いでいく。
ヴォルフだからといって特別なことは何もしていないようにすら感じられる(実際はそんなことはないのだろうが)。
音符を真摯に再現していく彼の歌い方は、どちらかというと「語り」よりも「歌」を優先しているようである。
F=ディースカウやシュヴァルツコプフの歌う突き詰めたヴォルフとは対極にある歌唱と言えるかもしれない。
「旅路で」「庭師」「狩人の歌」「問いと答え」「散歩」などはその爽やかな自然さが心地よく、ホルツマイアに向いているように感じた。
ただ、バリトン歌手にしては低音があまり充実していないようで、例えば「さようなら」の最後の箇所はきつそうだった。
イモジェン・クーパーの演奏は細部まで徹底して丁寧で明晰。
テクニックが安定しているので、「火の騎士」のような難曲でも安心して身を委ねて聴ける。
彼女の音色はふかふかのベッドのように歌を豊かに優しく包み込む。
歌と対峙する丁々発止とした演奏ではなく、かといって、こじんまりとまとまるという演奏でもない。
一本のしっかりした歌声部という芯があって、それをピアノの響きが外側から包み込むような印象だ。
「考えてもみよ、おお心よ!」のクーパーの演奏は、私の聴いた感じだが、おそらく正しく移調されていない箇所があるように感じられた(違っていたらすみません)。
彼らの演奏、切れ味の良さや深い沈潜を求める向きには物足りなさを感じるかもしれないが、ヴォルフの歌曲のいくつかには、ホルツマイアの歌唱が生きる作品が確かにあることを感じることが出来た。
発売されたばかりですので、興味のある方はまずは以下のサイトで試聴してみてください(曲目の左端のマークをクリックすると数秒試聴できます)。
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