クリスタ・ルートヴィヒ&ジェフリー・パーソンズ(Christa Ludwig and Geoffrey Parsons)/パリ・リサイタル(1977年11月9日, Salle Pleyel, Paris)

フランスのインターネットラジオ局francemusiqueに、クリスタ・ルートヴィヒ&ジェフリー・パーソンズの1977年11月9日、パリのサル・プレイエルでのライヴ音源がアップされていました!

https://www.francemusique.fr/emissions/les-tresors-de-france-musique/recital-de-christa-ludwig-a-la-salle-pleyel-une-archive-de-1977-95251

Christa Ludwig, mezzo-soprano
Geoffrey Parsons, piano
Enregistré le 9 novembre 1977, Salle Pleyel (Paris)

クリスタ・ルートヴィヒ(Christa Ludwig)(MS)
ジェフリー・パーソンズ(Geoffrey Parsons)(P)

シューベルト:
笑ったり泣いたり(Lachen und Weinen, D777)
悲しみ(Wehmut, D772)
ます(Die Forelle, D550)
死と乙女(Der Tod und das Mädchen, D531)
糸を紡ぐグレートヒェン(Gretchen am Spinnrade, D118)

ブラームス:
サッポー風頌歌(Sapphische Ode, Op. 94/4)
墓地で(Auf dem Kirchhofe, Op. 105/4)
セレナード(Ständchen, Op. 106/1)
娘の歌(Mädchenlied, Op. 106/5)
永遠の愛について(Von ewiger Liebe, Op. 43/1)

シューマン:
はすの花(Die Lotosblume, Op. 25/7)
私のばら(Meine Rose, Op. 90/2)
あなたは花のよう(Du bist wie eine Blume, Op. 25/24)
孤独な涙は何を望むのか(Was will die einsame Träne, Op. 25/21)
静かな涙(Stille Tränen, Op. 35/10)

ブラームス:歌曲集『ジプシーの歌(Zigeunerlieder, Op. 103)』

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このライヴ音源は私にとっては初めて聴くもので、とても惹き込まれました。シューベルト、シューマン、ブラームスといった王道リートプログラムですが、彼女が歌うと人生の喜びのようなものが感じられます。

ルートヴィヒの素晴らしいレガート、豊麗な深い響き、直接的な感情表現などをたっぷり味わえるライヴでした。
彼女はどの曲も比較的たっぷりとしたテンポ設定で歌い進めていくのですが、以前ムーアが著書内で言っていたように「少しおそめのテンポは、彼女の豊かな声に、まさにぴったり」でした。

そしてジェフリー・パーソンズのピアノの素晴らしさ!パーソンズはテクニシャンだと思います。テクニック面での不安が全くない為、歌をしっかり支えつつピアノパートの音色や表現の魅力を存分に響かせます。

よろしければぜひ聞いてみてください!

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クリスタ・ルートヴィヒ(Christa Ludwig)逝去

20世紀の代表的なメゾソプラノ歌手の一人、クリスタ・ルートヴィヒ(Christa Ludwig: 1928.3.16 - 2021.4.24)が亡くなりました。
93歳とのことなので、大往生ではありますが、やはり訃報を聞くのは悲しいものです。

New York Times

Gramophone

BR Klassik

私がはじめて聞いたルートヴィヒの音源は今でもはっきりと覚えています。Deutsche Grammophonの音源から有名な声楽曲をまとめたカセットテープを中学生の頃に小遣いで買ったのですが、その中に彼女の歌ったシューベルト「アヴェ・マリア」が入っていたのです(アーウィン・ゲイジのピアノ)。

そのカセットテープを買った本来の目的は「魔王」だったのですが、そのすぐ後にこの「アヴェ・マリア」が置かれていたので、テープを流しっぱなしにするとルートヴィヒの神々しい声が響いてきました。

●シューベルト/アヴェ・マリア D 839
Schubert: Ave Maria, Op. 52/6, D 839
Christa Ludwig(MS), Irwin Gage

歌曲の虜となり少しずつ聴きはじめていた頃の私に歌曲のことをいろいろ教えてくれた方が聴かせてくださったのが、ルートヴィヒの歌曲集『女の愛と生涯』とブラームスの歌曲集『ジプシーの歌』や「甲斐なきセレナード」等の入ったLP録音でした。
これらの歌曲はこのルートヴィヒ&ムーアの録音で初めて知ったので、私の中ではやはり思い出深い演奏です。

ジェラルド・ムーアがルートヴィヒについて名著『お耳ざわりですか』で述べた言葉を引用します。

「クリスタ・ルートヴィヒと《甲斐なきセレナーデ》の録音をした際、彼女のテンポが私の感覚では少し遅すぎるように思った。しかし出来上がったレコードを聴いてみると、その解釈はまったく妥当で、すばらしい出来映えであった。少しおそめのテンポは、彼女の豊かな声に、まさにぴったりなのであった。」(萩原和子・本澤尚道訳:音楽之友社:昭和57年第1刷)

私は「甲斐なきセレナード」を初めて聴いたのが、このルートヴィヒとムーアの録音だった為、これが遅いとは思っておらず、後に他の演奏を聴いて、ようやくムーアの言っていた意味が分かったという記憶があります。

●ブラームス/甲斐なきセレナード
Brahms: Vergebliche Ständchen
Christa Ludwig(MS), Gerald Moore(P)

ちなみにこのコンビがBBCの為に映像収録した演奏を見ることが出来ます。

●ブラームス/甲斐なきセレナード
Brahms: Vergebliche Ständchen
Christa Ludwig(MS), Gerald Moore(P)

フィッシャー=ディースカウとムーアが1960年代後半から1970年代前半にかけて膨大なシューベルト歌曲全集をDeutsche Grammophonに録音した後、女声用の録音をすることになり、白羽の矢がたったのがルートヴィヒでした。彼女はゲイジと1973~1974年にかけて2枚の歌曲集を録音しましたが、何故かそれだけで中断してしまい、ヤノヴィツがゲイジとその後を引き継ぎました。しかし、その2枚の録音は今でもCDとして聴くことが出来ます。

●シューベルト/糸車のグレートヒェン(糸を紡ぐグレートヒェン)
Schubert: Gretchen am Spinnrade, Op.2, D.118

その後、彼女は先日亡くなった指揮者のレヴァインをピアニストに迎えて、女声が歌うのは当時まだ珍しかった「冬の旅」を録音しました(1986年)。
これは主人公になりきるというよりは、母親のように主人公を温かく見守るような歌唱と感じました。当時話題になったものです。

●シューベルト/歌曲集『冬の旅』D 911から「春の夢」
Schubert: Winterreise, Op.89, D.911 - 11. Frühlingstraum
Christa Ludwig(MS), James Levine(P)

ルートヴィヒが録音で共演したピアニストは、エリク・ヴェルバ、ジェラルド・ムーア、ジェフリー・パーソンズ、アーウィン・ゲイジ、レナード・バーンスタイン、ダニエル・バレンボイム、ジェイムズ・レヴァイン、チャールズ・スペンサー等と多岐に渡っています。ところがザルツブルク音楽祭やシューベルティアーデのコンサートアーカイヴを見ると、彼女の共演者はほぼヴェルバばかりで、晩年はスペンサーと組んでいたようです。

ルートヴィヒの歌曲の歌唱は、比較的ゆったり余裕のあるテンポでフレーズを流麗に響かせ、生の直接的な感情表現も辞さない潔さがあったように思います。内に内にこもる歌唱とは対照的で、旋律の美しさをそのまま引き立たせる歌唱だったように思います。包容力のある美声やドイツ語のディクション、表現力は本当に素晴らしかったです。彼女の録音やコンサートで歌曲を好きになった方もきっと多くいらっしゃることでしょう。

彼女のライヴ映像やマスタークラスの映像は幸い動画サイトにアップされていました。それらを少しずつ見ていきたいと思います。

また一人馴染みの歌手が去り、本当に寂しいですが、安らかにお休みください。

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クリスタ・ルートヴィヒ生誕80年

メッゾ・ソプラノのクリスタ・ルートヴィヒ(Christa Ludwig: 1928.3.16, Berlin 生まれ)が今年で80歳となった(1928年生まれ説が正しければ)。
1993年から94年にかけて世界中で行われた引退コンサートからすでに10年以上が過ぎ、時の流れの速さを思わずにはいられない。
彼女は1963年にベーム指揮のベルリン・ドイツ・オペラの一員として初来日して「フィデリオ」のレオノーレを歌ったそうだが、その後、1973年の来日予定が流れ、1990年が2回目の来日となり、この時はじめて日本の聴衆の前でリート・リサイタルを披露した。
その翌年はエッシェンバッハ指揮PMFオーケストラとの共演でマーラーの「復活」を歌い、1994年10月に大阪、愛知、東京の3箇所でフェアウェル・コンサートを開いた。
東京公演(NHKホール)はテレビで放映され、私もこの時最初で最後の彼女の実演に接した。

彼女の歌をはじめて聴いたのは、私がクラシックを聴きはじめたばかりの頃、F=ディースカウ&ムーアが演奏した「魔王」の入ったオムニバスのカセットテープを購入した時に遡る。
そのテープにシューベルトの「アヴェ・マリア」を歌う彼女(&ゲイジ)の録音が収められていたのである。
そのカセットにはヴンダーリヒの「ます」や、マティスの「春への憧れ」、シュライアーの「歌の翼に」、さらにディースカウの歌う「カルメン」の闘牛士の歌なども入っていて、今思えば随分豪華な面子によるオムニバス編集だった。
その後、ムーアとの「女の愛と生涯」&ブラームス歌曲集(ムーアは彼女の「甲斐なきセレナーデ」を誉めていた)や、かつてのパートナーだったヴァルター・ベリーとのユーモラス歌曲集、ゲイジとの2枚のシューベルト歌曲集、F=ディースカウ&バレンボイムとのヴォルフ「イタリア歌曲集」、ジェフリー・パーソンズとの歌曲集(ラヴェル「マダガスカル島民の歌」を含む)などいくつもの歌曲の録音を聴き、彼女の歌唱の安定した見事さは私の中で揺ぎないものとなっていった。

Ludwig_spencer_1994ルートヴィヒの80歳を祝って、いくつかの記念CDが出たが、初出音源の2枚組DVDがARTHAUSからリリースされたので購入した(輸入盤)。
1枚目は「冬の旅」全曲、2枚目はシューベルト、マーラー、バーンスタイン、ヴォルフ、シュトラウスの歌曲集で、どちらも1994年にアテネで収録された(制作スタッフの名前もギリシャ人っぽい名前が並んでいる)。
ピアノは日本公演でも共演したチャールズ・スペンサー(Charles Spencer: 1957, Yorkshire, England 生まれ)。
ヤノヴィツ、バルトリ、リポヴシェク、クヴァストホフなどとも共演している著名な歌曲ピアニストである。

まず「冬の旅」を視聴したが、見た感じ、おそらくテレビ放送用のスタジオ録画ではないだろうか。
照明もシックで映像も凝りすぎず、音楽に集中できる理想的な録画と感じた。
彼女の「冬の旅」といえば、往年のソプラノ、ロッテ・レーマン以来久しぶりの女声による全曲録音(DG:1986年12月録音:レヴァインのピアノ)がかつて注目され、その後、ファスベンダー&ライマンや白井光子&ヘルなどの録音が後に続いたのである。
この映像、ルートヴィヒ引退の年の収録の筈なのに、彼女がとても若々しく、声も全く衰えていないのがまず驚異的だった。
1つ1つの言葉や音符をとても丁寧に心をこめて表現する彼女の姿勢にはベテランの慢心は微塵もなく、いつまでも向上心をもって謙虚に作品に接しているのが感じられて素晴らしかった。
彼女の歌唱の一番の特徴は音域を問わず一貫したまろやかな包容力だろう。
「冬の旅」を歌う彼女は主人公の日記を慈愛をもって朗読する母親のような印象だ。
オーソドックスではないかもしれないが、これもまた「冬の旅」の新鮮な解釈である。
自ずと滲み出てくる優しい視線が、厳しい冬の旅に不思議な温かみを与えている。
こういう感触は男声歌手たちの歌唱からは感じられなかったものだ。
また、同じメッゾでも白井光子の厳しい世界とも全く異なる。
酸いも甘いも噛み分けた者による達観した世界という感じだろうか。

スペンサーのピアノは作品の世界にのめりこもうとする意気込みは伝わってくるのだが、神経質で、どうもタッチが荒く、音色もあまり魅力的ではない。
もっと美しい音が出るはずなのにと思えてしまう。
テンポも極端に揺らすが、あまり必然性が感じられない。
多くの歌手たちから信頼されているのだからきっとそれだけの実力は備えているのだろうが、単に私の好みではないだけかもしれない。
だが、様々な作曲家の作品によるヴィーンでのルートヴィヒ・フェアウェル・コンサートの実況CDを聴いた時にはそれほど悪いと思わなかった(それどころかむしろ満足できる演奏だった)。
「冬の旅」という大曲を前に気負いすぎたのだろうか。

このDVDにはボーナスとしてルートヴィヒのヴィーンでのマスタークラスの模様(1999年)が収められているが、こちらもなかなか面白かった。
メッゾソプラノ、テノール、バリトンの3名がそれぞれモーツァルトのオペラ・アリアを歌うのだが、ルートヴィヒはおしゃべり好きな気さくなおばさんといった感じで、早口であれこれ指示を出す。
明らかに突出した才能をもったテノール(Valerij Serkin)に対しては孫を見るような視線で顔をほころばせ、時々「駄目じゃないの」と言わんばかりに彼をぶつ仕草を繰り返しながらも好感をもっているのが明白で微笑ましかった。
彼に対してはレガートが素晴らしいことを誉め(他の2人には「もっとレガートに」と繰り返していた)、歌唱についてではなく、殆ど演技のことを注意していた。

このマスタークラスを見て、彼女の「冬の旅」の魅力の一端に触れた気がする。
彼女の「冬の旅」も確かにレガートに溢れていたのだ。

2枚目のリートリサイタルの映像も早速楽しみたいと思う。

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