東京春祭 歌曲シリーズ vol.43:クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン)&ゲロルト・フーバー(ピアノ) II(2025年3月22日 東京文化会館 小ホール(ネット席))
東京春祭 歌曲シリーズ vol.43
クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン)&ゲロルト・フーバー(ピアノ) II
2025年3月22日 [土] 18:00開演(17:30開場)
東京文化会館 小ホール(ネット席)
バリトン:クリスティアン・ゲルハーヘル
ピアノ:ゲロルト・フーバー
シューマン:
《6つの歌》op.107
第1曲 心の痛み
第2曲 窓ガラス
第3曲 庭師
第4曲 紡ぎ女
第5曲 森で
第6曲 夕べの歌
《ケルナーによる12の詩》 op.35
第1曲 あらしの夜の楽しみ
第2曲 愛の喜びよ、消し去れ
第3曲 旅の歌
第4曲 新緑
第5曲 森へのあこがれ
第6曲 亡き友の杯に
第7曲 さすらい
第8曲 ひそやかな愛
第9曲 問い
第10曲 ひそやかな涙
第11曲 だれがお前をそんなに悩ますのだ
第12曲 古いリュート
-休憩-
《3つの詩》 op.119
第1曲 小屋
第2曲 戒め
第3曲 花婿と白樺
《ガイベルによる3つの詩》 op.30
第1曲 魔法の角笛を持つ少年
第2曲 小姓
第3曲 ヒダルゴ(スペインの郷士)
《6つの歌》 op.89
第1曲 夕べの空は荒れて
第2曲 秘密の失踪
第3曲 秋の歌
第4曲 森との別れ
第5曲 戸外へ
第6曲 ばらよ、ばらよ
《リートと歌 第4集》 op.96
第1曲 夜の歌
第2曲 松雪草
第3曲 あなたの声
第4曲 うたわれて
第5曲 天と地
[アンコール曲]
シューマン:
歌曲集《ミルテの花》op.25より
第17曲 ヴェネツィアの歌1
歌曲集《ミルテの花》op.25より
第25曲 東方のバラより
ロマンスとバラード集第2集 op.49より 第1曲 二人の擲弾兵
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Tokyo-HARUSAI Lieder Series vol.43
Christian Gerhaher(Baritone) & Gerold Huber(Piano)II
March 22 [Sat.], 2025 at 18:00(Door Open at 17:30)
Tokyo Bunka Kaikan, Recital Hall (Live Streaming)
Baritone:Christian Gerhaher
Piano:Gerold Huber
Schumann:
“Sechs Gesänge” op.107
I. Herzeleid
II. Die Fensterscheibe
III. Der Gärtner
IV. Die Spinnerin
V. Im Wald
VI. Abendlied
“Zwölf Gedichte von Justinus Kerner” op.35
I. Lust der Strumnacht
II. Strib, Lieb’ und Freude’!
III. Wanderlied
IV. Erstes Grün
V. Sehnsucht nach der Waldgegend
VI. Auf das Trinkglas eines verstorbenen Freundes
VII. Wanderung
VIII. Stille Liebe
IX. Frage
X. Stille Tränen
XI. Wer machte dich so krank?
XII. Alte Laute
- Intermission -
“Drei Gedichte aus den Waldliedern von Gustav Pfarrius” op.119
I. Die Hütte
II. Warnung
III. Der Bräutigam und die Birke
“Drei Gedichte von Emanuel Geibel” op.30
I. Der Knabe mit dem Wunderhorn
II. Der Page
III. Der Hidalgo
“Sechs Gesänge von Wilfried von der Neun” op.89
I. Es stürmet am Abendhimmel
II. Heimliches Verschwinden
III. Herbstlied
IV. Abschied vom Walde
V. Ins Freie
VI. Röselein, Röselein!
“Lieder und Gesänge IV” op.96
I. Nachlied
II. Schneeglöckchen
III. Ihre Stimme
IV. Gesungen!
V. Himmel und Erde
[Encore]
Schumann:
“Myrthen” op.25
- XVII. 2 Venetianische Lieder No.1, "Leis' rudern hier"
- XXV. Aus den östlichen Rosen
Romanzen und Balladen, Book 2, op.49 - I. Die beiden Grenadiere
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今年も東京春祭 歌曲シリーズが配信されたのでゲルハーヘル(ゲアハーアー)&フーバーのシューマンの夕べの第2夜を聞くことが出来ました。
本当はマウロ・ペーター&村上明美の『美しき水車屋の娘』の配信も聞こうと思っていたのですが、チケットを買おうとサイトを調べたら、ずっと前に終わっていました(泣)。
ゲアハーアー&フーバーのシューマンの第一夜も数日前に終わっていて聞けなかったのが残念でしたが、第二夜に間に合ってほっと胸をなでおろしました。そして、このコンサートは期待にたがわぬ非常に充実した演奏で大満足でした。
今回のプログラムは、後期作品(1850~1851年作曲)のOp. 107、119、89、96の合間に、「歌の年」(1840年)に作曲されたOp. 35、30を混ぜ合わせていて、普段あまり聞くことがない曲と、馴染みの曲を聴く喜びの両方を満たしてくれる好選曲だと思いました。
ところで、ゲアハーアー&フーバーが多くの女声歌手と共にSONYレーベルに録音したシューマン歌曲全集でも今回のコンサートで取り上げられた歌曲はすべてゲアハーアーが歌っているのですが、実はOp.107の第2曲「窓ガラス」と第4曲「紡ぎ女」はテキストの主人公が女性の設定であり、本来女声歌手が歌うことを想定しているものと思うのですが、録音でもあえて女声歌手に担当させず自分で歌っているのが興味深いです。
おそらくゲアハーアーはこの歌曲集Op.107全体をまとめて一人で歌うことに何らかの意味を見出しているのではないかと推測されますが、それが何なのかは分かりませんでした。3曲目にヴォルフも作曲しているメーリケの「庭師」にシューマンが作曲した軽快な曲が置かれていますが、概してこのOp.107の作品は悲痛な心情を歌うものが多い印象があります。第5曲「森で」は生き生きと活動している生物とみじめな自分の対比を歌っていますが、ゲアハーアーはほとんどつぶやくような無の状態で主人公の心痛を表現していて、印象に残っています。
ケルナーの詩による12の歌Op.35はF=ディースカウやプライがまとめて歌うことによって、その価値が見出された作品群だと思うのですが、今回のゲアハーアーの歌唱も作品の質の高さをあらためて思い起こさせてくれた素晴らしい歌唱でした。「新緑」の最終節の劇的な感情の発露、「ひそやかな涙」の胸に直接訴えかけてくるような絶唱、そして最後の2曲「だれがお前をそんなに悩ますのだ」「古いリュート」のささやくような表現の訴求力、それにフーバーの繊細なピアノなど、この歌曲集の素晴らしさを再認識させられた演奏でした。
「古いリュート」の静謐な響きのまま前半が終了してなんだか胸が熱くなってしまいました。
休憩後も後期作品がいろいろ聞けて非常に感銘を受けました。
ゲアハーアーはF=ディースカウの弟子ですが、師匠のデフォルメされたような振幅の大きさはなく、ゲアハーアーの弱声主体のダイナミクスの方により心地よさを感じている自分がいました。リート演奏の流儀も時代と共に変わっていることをあらためて実感しました。
それにしてもシューマンの後期の歌曲をこれまであまり聞いていなかったなぁと思い、ゲアハーアーとフーバーの録音を少しずつ聞いていこうと思いました。「歌の年」の作品に比べて影の要素が強い印象を受けました。シューマンの精神状態を反映しているのかなと思いました。
ゲロルト・フーバーのピアノは、以前何度か実演で聞いた時は意外と癖がある時も感じられたのですが、今回、一貫して歌と一体となる素晴らしさを感じました。
アンコールは3曲。ミルテの花からの美しい2つの作品と、有名な「二人の擲弾兵」で締めくくられました。
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