小林道夫/チェンバロ演奏会(2011年12月25日 東京文化会館 小ホール)

小林道夫チェンバロ演奏会
~クリスマスをバッハの名曲で静かに過ごす~
2011年12月25日(日)14:00 東京文化会館 小ホール(O列56番)

小林道夫(Michio KOBAYASHI)(harpsichord)

J.S.バッハ/ゴルトベルク変奏曲(Goldberg-Variationen)BWV988
 主題~第15変奏

~休憩~

 第15変奏~主題復帰

~アンコール~
J.S.バッハ/クラヴィーア練習曲第3巻~4つのデュエットより第3曲BWV804

※使用チェンバロ:French double-manual harpsichord after P.Taskin 1769 MOMOSE HARPSICHORD 2009

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1972年から毎年12月に続けているという小林道夫の「ゴルトベルク変奏曲」演奏会。
遅ればせながら今回はじめて聴くことが出来た。
計算すると今回がちょうど40回目という記念すべき回になるはずだが、配布プログラムにそのことが全く触れられていないのがいかにも氏らしい。
文化会館小ホールはほぼ満席で、期待の大きさがうかがえた。
途中で休憩をはさむというのも私にとっては有難く感じた(全部まとめて聴きたいという方もいるだろうが)。

小林さんの演奏は含蓄に富んだ温かみのあるタッチが魅力的である。
長年追究されてきた演奏上の様々な成果が反映されていることはおそらく間違いないが、学究的な堅苦しさが全くなく、聴く者を癒す響きが実に心地よい。
不眠症解消の音楽という伝説は伝説に過ぎないとしても、小林氏の素朴な演奏を聴くとアルファ波が脳内にあふれ出ているだろうなと感じてしまう。
奇をてらわずにまっすぐに作品に向き合った演奏、人によってはもっと刺激を求めるのかもしれないが、私にとってはまさに理想の「ゴルトベルク」演奏であった。

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髙橋節子&小林道夫/ソプラノリサイタル2011(2011年7月10日 白寿ホール)

Takahashi_kobayashi_20110710

髙橋節子ソプラノリサイタル2011
2011年7月10日(日)18:30 Hakuju Hall(白寿ホール)(全自由席)

髙橋節子(Setsuko Takahashi)(Soprano)
小林道夫(Michio Kobayashi)(Piano)

J.S.バッハ(Bach: 1685-1750)

『シェメッリ歌曲集』より(aus Schemellis Gesangbuch)
来たれ、魂よ、この日は(Kommt, Seelen, dieser Tag BWV479)
われは汝にありて喜び(Ich freue mich in dir BWV465)
神よ、汝の恵みはいかに大きく(Gott, wie groß ist deine Güte BWV462)
甘き死よ来たれ(Komm, süßer Tod BWV478)

カンタータよりアリア(Arien aus Kantaten)
来たりませ、私の心の家に(Komm in mein Herzenshaus BWV80)
私は涙の種をまく(Ich säe meine Zähren BWV146)
信仰深きわが心よ(Mein gläubiges Herze BWV68)

シューベルト(Schubert: 1797-1828)

秘めた恋(Heimliches Lieben D922)
恋人のそばに(Nähe des Geliebten D162)
若い修道女(Die junge Nonne D828)

~休憩~

ブラームス(Brahms: 1833-1897)

ジプシーの歌(Zigeunerlieder Op.103)
 さあ、ジプシーよ
 高く波立つリマの流れよ
 おまえたちは知っているかい、ぼくのいとしい人が
 神さまもご存知よね
 日焼けした若者が
 三つのバラが並んで
 いとしい人よ、想い出すでしょう
 真っ赤な夕焼け雲が

プフィッツナー(Pfitzner: 1869-1949)

鳥の呼び声が聞こえる(Ich hör'ein Vöglein locken Op.2 no.5)
菩提樹の下で(Unter der Linden Op.24 no.1)
母なるヴィーナス(Venus mater Op.11 no.4)
その昔(Sonst Op.15 no.4)

~アンコール~
プフィッツナー(Pfitzner)/それで空は春にそんなに青いのか(Ist der Himmel darum im Lenz so blau? Op.2 no.2)
シューベルト(Schubert)/至福(Seligkeit D433)
シューベルト/連祷(Litanei D343)

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新宿から小田急線で3駅目の代々木八幡駅で下車して5分ほどのところにある白寿ホールにはじめて出かけてきた。
最近建てられたホールの多くが都会のど真ん中という印象が強いのに対し、このホールは商店街を歩いた先にある。
開場まで1階ロビーで待つことになり、開演30分前にエレベーターで7階に上がるように言われた。
このホール、木が基調であることは他と同じだが、デザインはかなり現代的で凝っている。
しかし、その響きは実に美しく、音楽ホールとしてよく考えられて設計されたことがうかがえる。

ソプラノの髙橋節子さんはもう何度も生で聴いているが、常に充実した歌を聞かせてくれる歌手の一人であり、プログラミングも毎回楽しみな人である。
そして今回は名手小林道夫氏がピアノを担当するということで、久しぶりに小林氏の歌曲演奏を聴けるチャンスを逃すまいと会場までやってきた。

髙橋さんは前半を黒のドレス、後半をワインレッドの鮮やかなドレスに着替えていたが、シックな趣は一貫している。

はじめはバッハを7曲。
歌曲のリサイタルでバッハをこれだけまとめて聴く機会はなかなかない。
おそらくバッハの名手、小林氏と編み上げた選曲なのではないか。
背筋がぴんと伸びるような厳かさがある中で、人の苦悩を神に訴えるという人間的なテキストをもった作品群である。
髙橋さんの声は最初から清冽な美声をたっぷり響かせて、バッハの俗世を超えた音楽を美しく表現していた。
まさに浄化作用のある声と作品。
小林氏の余分なものを排したような響きは、もはやピアノという楽器を超えて、音楽そのものであった。

続くシューベルトでは一転してロマンの香りが溢れる。
官能的な愛の喜びを歌った「秘めた恋」から、より素朴な恋人への思いを歌った「恋人のそばに」、そして天上の花婿に語りかける「若い修道女」と、女性の三つの場面を選びとった選曲も見事だったが、それを、各曲の女性のキャラクターに合わせて美しく表現した髙橋さんの歌唱は素晴らしかった。
そしてバッハとは異なるロマン派歌曲演奏家としての小林氏の演奏は、ここでもペダルを決して乱用せず、ありのままの音を響かせる。
ごまかしの効かない演奏をする小林氏の演奏は、作品の良さをそのまま伝えてくれたように感じた。

後半のブラームスの「ジプシーの歌」は個人的に大好きな作品ながら、なかなか実演で聴けないので楽しみだった。
髙橋さんはここで声色の変化も加えながら、奔放な表現を目指していたように感じられ、清冽な声の特質も相まって、独自の魅力を放っていた。
比較的軽目の音が特徴的な小林氏にとって、この「ジプシーの歌」は新たな一面を聞かせてもらったような気持ちである。
ほとんど年齢を感じさせない指使いで、この激しい作品を必要な重みをもって、しっかりと演奏していた。

最後のプフィッツナーの作品は私にとって馴染みの薄い作品ばかりだったが、3曲目の「母なるヴィーナス」はR.シュトラウスの分散和音が美しい「子守歌」と同じテキストが用いられており、両者の違いが非常に興味深かった。
こういう珍しい作品をステージにのせてくれるのが、髙橋さんのリサイタルの楽しみの一つである。
最後の「その昔」はアイヒェンドルフの詩によるが、アイヒェンドルフよりもさらに昔の時代における宮廷の雅な物語が、それに合わせたプフィッツナーの音楽によって、楽しく語られる。
かつてエディット・マティスのマスタークラスでこの曲が取り上げられた時に、マティスは「テキストの内容を聴衆が知っている必要がある」というようなことを言っていたが、確かに配布プログラムの対訳(髙橋さん自身による)を見ながら聴くと、より楽しめる作品だろう。

Takahashi_kobayashi_20110710_chiras

アンコールは3曲。
最後のシューベルト「連祷」は震災への思いから選曲されたものと思われる。
心洗われる作品である。
今後、歌曲のコンサートでこの曲を聴く機会が増えそうな予感である。

髙橋さんの来年のコンサートはどのような選曲なのか、今から楽しみにしたい。
そしてすでに70代後半の小林道夫氏のほとんどミスのない充実した演奏も驚異的だった。
今後もまだまだ演奏を聞かせていただきたいピアニストである。

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フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1992年(第11回来日)

第11回来日:1992年11月

Fdieskau_1992ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)(バリトン、朗読)
ルチア・ポップ(Lucia Popp)(ソプラノ)
ウォルフガング・サヴァリッシュ(Wolfgang Sawallisch)(ピアノ、指揮)
小林道夫(フォルテピアノ)
バイエルン国立歌劇場合唱団(Der Chor der Bayerischen Staatsoper)
バイエルン国立管弦楽団(Das Bayerische Staatsorchester)

11月12日(木)19:00 王子ホール:《シューベルトを詠む》
11月16日(月)19:00 東京芸術劇場:シューベルト歌曲の夕べ
11月24日(火)19:00 東京芸術劇場:シューベルト歌曲集「美しき水車屋の娘」
11月27日(金)19:00 サントリーホール:バイエルン国立歌劇場特別コンサート
11月29日(日)14:00 サントリーホール:バイエルン国立歌劇場特別コンサート

●ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ《シューベルトを詠む》 共演:小林道夫(フォルテピアノ)

シューベルトの自作の詩、友人たちとの書簡を集めたフィッシャー=ディースカウの著作『シューベルトをたどって』を中心にした朗読

●シューベルト歌曲の夕べ(SCHUBERT PROGRAMM) 共演:ウォルフガング・サヴァリッシュ(P)

シューベルト(Schubert)

1. 月に寄す(An den Mond) D296
2. 希望(Hoffnung) D295
3. 流れ(Der Strom) D565
4. さすらい人(Der Wanderer) D649
5. 自ら沈みゆく(Freiwilliges Versinken) D700
6. 小人(Der Zwerg) D771
7. 憂い(Wehmut) D772
8. 墓掘人の郷愁(Totengräbers Heimweh) D842
9. ブルックの丘で(橋の上で)(Auf der Bruck) D853
10. 歌手の財産(Des Sängers Habe) D832
11. 窓辺に(Am Fenster) D878
12. 漁夫の歌(Fischerweise) D881
13. 弔いの鐘(Das Zügenglöcklein) D871
14. 十字軍(Der Kreuzzug) D932
15. 漁夫の恋の幸せ(Des Fischers Liebesglück) D933
16. 星(Die Sterne) D939

~アンコール~
1. シューベルト/ハナダイコン(Nachtviolen) D752
2. シューベルト/ギリシャの神々(Die Götter Griechenlands) D677
3. シューベルト/独り暮らしの男(Der Einsame) D800

●シューベルト歌曲集「美しき水車屋の娘」(Die schöne Müllerin) 共演:ウォルフガング・サヴァリッシュ(P)

シューベルト(Schubert)/歌曲集「美しき水車屋の娘(Die schöne Müllerin)」D.795
1. さすらい
2. どこへ?
3. 止まれ!
4. 小川に寄せる感謝の言葉
5. 仕事を終えた宵の集いで
6. 知りたがる男
7. いらだち
8. 朝の挨拶
9. 水車職人の花
10. 涙の雨
11. 僕のものだ!
12. 休息
13. 緑色のリュートのリボンを持って
14. 狩人
15. 嫉妬と誇り
16. 好きな色
17. 邪悪な色
18. 枯れた花
19. 水車職人と小川
20. 小川の子守歌

●バイエルン国立歌劇場特別コンサート(KONZERT DER BAYERISCHEN STAATSOPER) 共演:ルチア・ポップ(S) バイエルン国立歌劇場合唱団;バイエルン国立管弦楽団;ウォルフガング・サヴァリッシュ(指揮)

ブラームス(Brahms)/ドイツ・レクイエム(EIN DEUTSCHES REQUIEM) op.45

(上記の歌曲の夕べの日本語表記は、アンコール曲目以外はプログラム冊子の表記に従った)

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前回から3年後の第11回来日公演は、バイエルン国立歌劇場公演の一環として企画された。
サヴァリッシュのピアノでシューベルトの夕べを2夜、それにルチア・ポップとの共演でサヴァリッシュ指揮バイエルン国立管弦楽団と「ドイツ・レクイエム」を披露した。
「ドイツ・レクイエム」は一緒に来日していた夫人のユリア・ヴァラディとの共演でないのが珍しいが、ヴァラディは他の特別演奏会に出演している。

私は16日のシューベルト歌曲の夕べを聴いたが、これが彼の実演を聴く最後となった。
サヴァリッシュの歌曲演奏を生で聴くのはトマス・ハンプソンのリサイタル以来2回目だった。
ディースカウらしい選曲で、渋みあふれる歌唱が披露された。
ただ、どの曲の後で休憩となったのかプログラム冊子には明記されておらず、私の記憶も定かではない(「墓掘人の郷愁」の後だっただろうか)。

彼は1970年代のある時期からしばらく「美しき水車屋の娘」を歌わなかったのだが、引退前の数年は心境の変化があったのか、再び取り上げるようになり、日本でも1970年に歌われて以来久しぶりの披露となった。

また、開館したばかりの王子ホールでは珍しく朗読を披露している。
シューベルトの書簡をディースカウが朗読し、その合間に小林道夫がフォルテピアノでシューベルトの「即興曲」を演奏するという内容だったようだ。

F=ディースカウは1992年12月31日のコンサートを最後に歌手活動から引退した。
従って、歌手としての来日はこの時が最後となり、その後に来日したのは指揮者としてだった。

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フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1974年(第4回来日)

第4回来日:1974年9~10月

ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)(BR)
ウォルフガング・サヴァリッシュ(Wolfgang Sawallisch)(P, C)
小林道夫(Michio Kobayashi)(P)
バイエルン国立歌劇場
フェルディナント・ライトナー(Ferdinand Leitner)(C)

9月25日(水)18:00 東京文化会館大ホール:<フィガロの結婚>(W.ブレンデルとダブルキャスト)
9月29日(日)18:30 東京厚生年金会館大ホール:「ミュンヘン・オペラ特別演奏会」
10月1日(火)18:30 大阪フェスティバルホール:<フィガロの結婚>(W.ブレンデルとダブルキャスト)
10月2日(水)大阪フェスティバルホール:「ミュンヘン・オペラ特別演奏会」
10月4日(金)19:00 東京文化会館:<シューベルトの夕>
10月6日(日)18:00 大阪フェスティバルホール:<フィガロの結婚>(W.ブレンデルとダブルキャスト)
10月8日(火)18:00 東京文化会館大ホール:<フィガロの結婚>(W.ブレンデルとダブルキャスト)
10月10日(木)19:00 大阪フェスティバルホール:<シューベルトの夕>
10月13日(日)19:00 東京文化会館:<シューマンの夕>
10月15日(火)19:00 愛知県文化会館:<シューマンの夕>
10月17日(木)19:00 東京文化会館:<シューマンの夕>

●バイエルン国立歌劇場<フィガロの結婚>

モーツァルト(Mozart)/<フィガロの結婚(Le nozze di Figaro)>

ギュンター・レンネルト(Günther Rennert) (演出)
ルドルフ・ハインリヒ(Rudolf Heinrich) (装置・衣装)

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)(アルマヴィーヴァ伯爵)
ウォルフガング・ブレンデル(Wolfgang Brendel) (アルマヴィーヴァ伯爵)
クレーア・ワトソン(Claire Watson) (伯爵夫人)
レオノーレ・キルシュタイン(Leonore Kirschstein) (伯爵夫人)
マーガレット・プライス(Margaret Price) (伯爵夫人)
トルードリーゼ・シュミット(Trudeliese Schmidt) (ケルビーノ)
スタッフォード・ディーン(Stafford Dean) (フィガロ)
ライムント・グルムバッハ(Raimund Grumbach) (フィガロ)
レリ・グリスト(Reri Grist) (スザンナ)
マルガレーテ・ベンツェ(Margarethe Bence) (マルチェリーナ)
ベンノ・クッシェ(Benno Kusche) (バルトロ)
デイヴィッド・ソー(David Thaw) (ドン・バジーリオ)
ゲルハルト・アウワー(Gerhard Auer) (アントニオ)
ゲルトルート・フレードマン(Gertrud Freedmann) (バルバリーナ)
ロレンツ・フェーエンベルガー(Lorenz Fehenberger) (ドン・クルーツィオ)
ドリス・リンザー&ユディット・アウワー(Doris Linser & Judith Auer) (2人の娘)

バイエルン国立歌劇場合唱団(Chorus of the Bavarian State Opera)
バイエルン国立歌劇場管弦楽団(Orchestra of the Bavarian State Opera)
ウォルフガング・バウムガルト(Wolfgang Baumgart) (合唱指揮)
フェルディナント・ライトナー(Ferdinand Leitner) (C)
ウォルフガング・サヴァリッシュ(Wolfgang Sawallisch) (C)

●ミュンヘン・オペラ特別演奏会 共演:バイエルン国立歌劇場管弦楽団;ウォルフガング・サヴァリッシュ(C)

R.シュトラウス(Strauss)/交響詩《ドン・ファン》

モーツァルト(Mozart)/娘よお前と離れている間にK.513
モーツァルト/手に口づけをK.541
モーツァルト/歌劇《にせの花作り女》K.196より“イタリア風にやりますと・・・”
モーツァルト/人は元来うまいものが好きK.433
モーツァルト/おれは皇帝になりたいK.539

ブラームス(Brahms)/交響曲第1番

●<シューベルトの夕> 共演:ウォルフガング・サヴァリッシュ(P)

シューベルト(Schubert)作曲

Ⅰ 歌曲集「白鳥の歌(Schwanengesang)」D.957より、ハイネの詩による六つの歌曲
アトラス(Der Atlas)
彼女のおもかげ(Ihr Bild)
漁師の娘(Das Fischermädchen)
まち(Die Stadt)
海べで(Am Meer)
影法師(Der Doppelgänger)


さすらい人(Der Wanderer)D.493
ヴィルデマンの丘にて(Über Wildemann)D.884
臨終を告げる鐘(Das Zügenglöcklein)D.871
流れ(Der Strom)D.565
メムノン(Memnon)D.541
独りずまい(Der Einsame)D.800b

~休憩~

Ⅲ ゲーテの詩による七つの歌曲
月に(An den Mond)D.259
ひめごと(Geheimes)D.719
最初の喪失(Erster Verlust)D.226
馭者クローノスに(An Schwager Kronos)D.369
海の静けさ(Meeres Stille)D.216
プロメトイス(Prometheus)D.674
ミューズの子(Der Musensohn)D.764b

●<シューマンの夕> 共演:小林道夫(P)

シューマン(Schumann)作曲

Ⅰ ハイネの詩による三つの歌曲
海辺の夕べ(Abends am Strand) 作品45-3
春の夜に霜がおりた(Es fiel ein Reif in der Frühlingsnacht) 作品64-3b
ぼくの馬車はゆるやかに(Mein Wagen rollet langsam) 作品142-4

Ⅱ 歌曲集「リーダークライス(Liederkreis)」作品24
わたしが朝起きると
気もそぞろ
木陰をさまよい
いとしい恋人
悲しみのゆりかごよ
待て、あらくれた船乗りよ
山と城が水に映って
初めは望みもなく
ミルテとばらの花で

~休憩~

Ⅲ 歌曲集「詩人の恋(Dichterliebe)」作品48
美しい五月に
わたしの涙から
ばらを、ゆりを、はとを、太陽を
おまえの瞳を見つめるとき
私の心をひたそう、百合のうてなに
神聖なラインの流れの
私は恨むまい
花が知っていたら
鳴るのはフルートとヴァイオリン
あの歌がひびくのを聞くと
ひとりの若者がある娘を愛した
光りかがやく夏の朝に
夢の中で私は泣いた
夜ごとの夢に
昔話の中から
あのいまわしい昔の歌も

(上記の日本語表記は、「ミュンヘン・オペラ特別演奏会」以外はすべてプログラム冊子に従った)

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前回の来日から4年後の4回目の来日はバイエルン国立歌劇場(ミュンヘン・オペラ)の一員としてだった(当時49歳)。
今回は初来日時以来の「フィガロの結婚」アルマヴィーヴァ伯爵役が歌われたが、ヴォルフガング・ブレンデルとのダブルキャストで、F=ディースカウが実際に舞台に立ったのは全7回中たった1回だけだったそうだ(日付は今のところ特定できていない。上記のスケジュールではF=ディースカウが出演不可能な日程は省いている)。
そのほかに特別演奏会でサヴァリッシュとのモーツァルトのアリアが歌われたが、これらのレパートリーはいずれもDECCAレーベルに録音されており、現在もCD化されて聴くことが出来る(1969年10月ヴィーン録音:ラインハルト・ペータース指揮ヴィーン・ハイドン管弦楽団)。

今回の来日はどちらかというと歌曲の演奏に力を入れていたのだろう。
シューベルト・プログラムとシューマン・プログラムの2種類が歌われ、前者はサヴァリッシュ、後者は小林道夫が共演した。
2人とも日本でF=ディースカウのリートのパートナーとなるのは初めてだったが、小林については前回の来日時にバッハのカンタータなどで共演しており、その翌年の1971年10月にはパリ、ロンドンでのリーダーアーベントの共演者として小林を呼んだほど信頼していたようだ。
もちろんサヴァリッシュについても海外では来日公演以前にも様々な場面で共演していたのは言うまでもない。

なお、小林道夫との10月17日のシューマンの夕べはFM東京によって放送用に録音されていたが、13日公演のアンコール5曲も加えた形でCD化されたのは望外の喜びだった(TDKコア)。
このCD、あたかもスタジオ録音かと思うほど完璧な歌声が刻まれている。
清潔感に満ちた小林道夫のピアノもここぞという箇所でよく歌い見事である。

ちなみに、この時のバイエルン国立歌劇場の他の演目は「ドン・ジョヴァンニ」(モーツァルト)、「ワルキューレ」(ヴァーグナー)、「ばらの騎士」(R.シュトラウス)だった。

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プライ日本公演曲目1961年(初来日)

第1回来日:1961年4~5月

4月27日(木)京都(会場名不明):プログラムB
4月29日(土)18:30 東京文化会館大ホール:プログラムA(東京世界音楽祭)
5月2日(火)厚生年金会館:プログラムB(同館開館記念)

●プログラムA 共演:小林道夫(Michio Kobayashi)(P)

J.S.バッハ(Bach)/「シェメリ歌曲集」からの抜萃曲(Songs from Schemelli Liederbuch)
 かいば桶のそばに立ちて(Ich steh an deiner Krippen hier)
 主とともにゆかん(Lasset uns mit Jesu ziehen)
 おゝ汝を信ずるもののいかに幸いなるかな(O, wie selig seid ihr doch ihr Frommen)
 わが主よ、今汝れゆかんとする(So gehst du nur, mein Jesu, hin)

マーラー(Mahler)/歌曲集「さすらう若者のうた(Lieder eines fahrenden Gesellen)」
 恋人の結婚式の日がきたら(Wenn mein Schatz Hochzeit macht)
 朝に野をゆけば(Ging heut' morgens übers Feld)
 わが胸にするどいヤイバ(Ich hab' ein glühend Messer)
 あのかわいい青い眼が(Die zwei blauen Augen)

~休憩~

フォルトナー(Fortner)(1907-1987)/「4つのヘルダーリン歌曲集(Vier Gesänge nach Worten von Hölderlin)」
 運命の女神のもとで(An die Parzen)
 ヒューペリオンの運命の歌(Hyperions Schicksalslied)
 謝罪(Abbitte)
 沈め、美しき太陽よ!(Geh unter, schöne Sonne)

ヘンツェ(Henze)(1926-2012)/「5つのナポリ歌曲集(Fünf neapolitanische Lieder)」
 死がすべての美女を襲うのだ(Aggio saputo ca la morte vene)
 美女達が洗濯に来る泉のほとりで(A l'acqua de li ffuntanelle)
 私は十三カ月もある娘を恋していた(Arnaie 'na nenne pe' tridece mise)
 娘は他の男共の望みをよそに(Arnaie 'nu ninno cu' sudore e stiente)
 小さな木よ(Arbero piccerillo, te chiantaie)

●プログラムB 共演:小林道夫(P)

シューベルト(Schubert)/歌曲集「冬の旅(Winterreise)」(全24曲)

(バッハ、マーラー、フォルトナーの曲目の日本語表記については、プログラム冊子及び挿入された曲目の紙にほぼ従いました)

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ヘルマン・プライ(Hermann Prey: 1929.7.11, Berlin – 1998.7.22, Krailling)の没後10年を記念して、彼の過去の来日公演をこれから調べていきたいと思う。
プライの初来日は1961年で、先輩のF=ディースカウより2年も前のことである。
当時、上野に本格的なクラシックホールとして東京文化会館が開館し、そのお披露目に「東京世界音楽祭」(4月17日~5月6日)という催しが開かれたそうだが、その一環としてプライの公演が実現したようだ。
当時はプライよりもバーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルやアイザック・スターンの公演が注目されたようだ。
彼は当時あまり日本でレコードが出ておらず、客席も空席が目立ったそうだが、プログラムAを見ると、いかにプライが日本の初お披露目で自分の歌いたい曲目を意欲的に選曲したかが感じられる。
私は1980年代以降のプライしか生では聴いていないのだが、毎回のように「冬の旅」ばかり歌わされていたイメージが強かったので、この初来日時のプログラミングにはただ驚かされる。
「さすらう若者のうた」は若かりしプライにはぴったりの選曲だと思うが、バッハをリートリサイタルの冒頭に置くというのはなかなか無いのではないだろうか。
「シェメリ歌曲集」と題された通奏低音付きの69曲のうち、バッハの真作と認められているのはたった3曲だけだとか。
プライが歌ったのがどの曲なのか、残念ながら今のところ調べが付いていない(プログラム冊子にも4曲の内訳は掲載されていなかった)(2013年8月4日追記:上記の通り、曲目が判明しました。東京文化会館音楽資料室の野呂信次郎氏寄贈プログラムに曲目を印刷した1枚の紙がはさまっていました)。
フォルトナーは1987年に亡くなった作曲家だが、ヘルダーリーンの詩による4曲、いずれも聴きやすく劇性と叙情がうまくミックスされた魅力的な作品群である。
プライはPHILIPSに録音を残しており、それを聴くと彼の声と曲との相性は良いと思う。
現在も健在(追記:2012年10月27日没)のドイツの作曲家ヘンツェによる「ナポリ歌曲集」はイタリア語の作品で、F=ディースカウのために作曲されたそうだ。
フォルトナーとヘンツェの演奏について当時の新聞批評によれば、「頭から理解できないほどの新規をねらわず、共に音楽的な演奏で快く受けとることができた」(朝日新聞1961年5月1日付:「呂」と署名あり)とのことである。
さらに彼の声について「共鳴箱の中で響くようなやわらかいりっぱな美声をもち、真情を吐露した歌唱で、その優秀さを示した」(同上)と評価されている。
初来日時のもう1つのプログラムはやはり「冬の旅」。彼はキャリアの最初から最後まで「冬の旅」を歌い続けてきたわけである。

共演のピアニストは小林道夫。
彼は、楽器奏者はもちろんのこと、ヒュッシュ、ヘフリガー、F=ディースカウ、ホッター、アーメリング、マティス、ヤノヴィツなど、名だたる声楽家たちの来日公演時にもしばしば共演しており、いかに歌曲ピアニストとして高く評価されていたかがうかがえる。
ヤノヴィツの公演で彼のピアノに接したことがあるが、控えめなペダルの使用によるスリムな音で歌の世界を構築していき、過剰さを廃した必要最低限の響きで作品の本来の姿を表現していて、その妙技にとても感激した記憶がある。
そのスマートさは彼がバッハを得意としていることと無縁ではないだろうと推測している。

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