« 「アッティス D 585」- ロベルト・ホルのシューベルト歌曲解説動画シリーズ(Schubert: Atys | Robert Holl in Schubert's poetischer Welt - "Mein Vermächtnis") | トップページ | エリー・アーメリングYouTube公式チャンネルに最近投稿された音源(グノー:レチタティーヴォと宝石の歌「あの方は一体誰だったのか知りたい~昔トゥーレに一人の王さまがいて~花束だわ!...おお神さま!宝石じゃないの! ~ああ! 私は楽しげに自分を眺めているのだわ」:歌劇『ファウスト』より第3幕第6場(マルグリット)) »

ヴォルフ:悲しい道 (Wolf: Traurige Wege)

Traurige Wege
 悲しい道

1.
Bin mit dir im Wald gegangen;
Ach! wie war der Wald so froh!
Alles grün, die Vögel sangen,
Und das scheue Wild entfloh.
 きみと森に行った。
 ああ!森はなんと朗らかだったことか!
 すべてが緑に染まり、鳥たちは歌い、
 臆病な動物は逃げて行った。

2.
Wo die Liebe frei und offen
Rings von allen Zweigen schallt,
Ging die Liebe ohne Hoffen
Traurig durch den grünen Wald.
 自由であからさまな愛が
 あたりのあらゆる枝々から鳴り響くところで
 望みのない愛は
 悲しげに緑の森を歩いて行った。

3.
Bin mit dir am Fluß gefahren;
Ach! wie war die Nacht so mild!
Auf der Flut, der sanften, klaren,
Wiegte sich des Mondes Bild.
 きみと川を渡った。
 ああ!夜はなんと穏やかなことか!
 やさしく澄んだ水面に
 月影が揺れていた。

4.
Lustig scherzten die Gesellen;
Unsre Liebe schwieg und sann,
Wie mit jedem Schlag der Wellen
Zeit und Glück vorüberrann.
 若者たちは楽しそうに戯れあっていた。
 一方ぼくらの愛は押し黙り思いにふけっていた。
 波が打ち寄せるにつれ
 なんと時と幸福は通り過ぎて行くことか。

5.
Graue Wolken niederhingen,
Durch die Kreuze strich der West,
Als wir einst am Kirchhof gingen;
Ach! wie schliefen sie so fest!
 灰色の雲が垂れ込め
 十字架の間を西風がかすめ渡ったものだった、
 かつてぼくらが墓地に出かけたときには。
 ああ!みななんとぐっすり眠っていたことか!

6.
An den Kreuzen, an den Steinen
Fand die Liebe keinen Halt;
Sahen uns die Toten weinen,
Als wir dort vorbeigewallt?
 十字架にも墓石にも
 愛は休息を見出せなかった。
 死者たちはぼくらが泣くのを見ていただろうか、
 ぼくらがあそこを通り過ぎたときに?

詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), "Traurige Wege", appears in Gedichte, in 4. Viertes Buch, in Liebesklänge 
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Traurige Wege", 1878 [ voice and piano ] 

作曲:1878年1月22-25日, Wien
(終わりに追記:1878年2月3日)

------------

ヴォルフは、1877年5月にレーナウの詩による「~に寄せて(An*)」を作曲して以来半年ぶりに同じ詩人のテキストによる「願い(Wunsch)」を作曲します。
1877年11月26日~12月17日までヴィーンで作曲を進めましたが、52小節まで書いて、未完のまま放置されました。恋人と一緒に遠くの海へ旅したいというレーナウにしてはかなり前向きでロマンティックな内容なのが珍しく、それゆえにヴォルフも作曲の筆が止まってしまったのでしょうか。未完ということもあり、Stone Recordsのヴォルフ歌曲全集の録音にも「願い」は収録されていません(いつか未完成作品ばかり集めた録音がどこかのレーベルからリリースされるといいのですが)。なお、楽譜はMusikwissenschaftlilcher Verlagの全集VII/4巻に掲載されています。

曲名:願い(Wunsch)
詩:ニコラウス・レーナウ(Nikolaus Lenau)
歌いだし:Fort möcht ich reisen weit, weit in die See,(※テキスト全文はこちらのリンク先にあります)
作曲:1877年11月26日~12月17日, Wien
未完成(52小節まで:テキストは"Sie würde frohlockend dich halten im Sturm."まで)
Leidenschaftlich bewegt(情熱的に動いて)
拍子:C (4/4)
ハ長調 (C-dur)

「願い」の翌月には同じレーナウの詩による「悲しい道(Traurige Wege)」に作曲し、こちらは完成されました。
レーナウのテキストは、主人公が恋人と共に森へ行き、川を渡り、墓地を通り過ぎる際の周囲の明るさと自分たちの悲しみとの対比が描かれています。
ヴォルフは、テキストの内容を応じて歌声部やピアノパートを変化させて通作形式の趣で進めながらも、基本的には共通の素材を使ってA-Bの繰り返しで構成しています。

●使用楽譜:Lieder aus der Jugendzeit: herausgegeben von F. Foll: Ed. Bote & G. Bock, Berlin

前奏
Photo_20260607074401 

第1連
01_20260607074501 

第2連
02_20260607074501 

第3連
03_20260607074601 

第4連
04_20260607074601 

第5連
05_20260607074601 

第6連
06 

2連と4連は歌詞の後半のフレーズをピアノ間奏の右手最高音が繰り返す手法をとり、最終連(6連)では歌声部にこのフレーズがあらわれないにもかかわらず、ピアノ後奏に再びこのフレーズを取り入れて全体を有機的に構築しています。

2連後半2行と間奏
22_20260607081401 

4連後半2行と間奏(2連後半と同様)
422 

6連最後の3行と後奏(後奏にのみ同じフレーズがあらわれる)
63_20260607081401 

全体を通じてピアノパートは心理描写と情景描写をうまく組み合わせていて、例えば3連最終行で歌われる揺れる水面を模してピアノ間奏が引き継ぎます。
3_20260607081501 

他にも5連の暗い雲が立ち込める箇所では、歌声に同音反復が見られ、ピアノ右手はシンコペーションで胸の動悸を暗示し、ピアノ左手は2度下降進行で不気味さを醸し出すなど、テキストへのヴォルフの共感が強く感じられます。
フィッシャー=ディースカウは全集でこの作品を録音しませんでしたが、若い世代は続々と録音し、この曲の再評価を待っているかのようです。
5_20260607082101 

6/8拍子
変ホ短調(es-moll)
Sehr getragen (非常に荘重に;十分に音を保って)

●[Hugo Wolf:] Traurige wege
ニコ・ファン・デル・メール(T), ディド・クーニン(P)
Nico van der Meel(T), Dido Keuning(P)

Channel名:Dido Keuning - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
録音:January 1996, Utrecht

●Wolf: Traurige Wege
シュテファン・ゲンツ(BR), ロジャー・ヴィニョールズ(P)
Stephan Genz(BR), Roger Vignoles(P)

Channel名:ロジェ・ヴィニョールズ - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
録音:18-22 February 2002, Tonstudio Teije van Geest, Sandhausen, Germany

●[Wolf: Traurige Wege] ("Traurige Wege"は32:21まで進めてからご覧ください)
WolfZWölf Vol 7 「ハイネ・レーナウ作品集」
天羽明恵(S), 松川儒(P)
Akie Amou(S), Manabu Matsukawa(P)

Channel名:tan t.(オリジナルのリンク先はこちら)
2005年10月7日 ヴォルフ歌曲全曲演奏会「シリーズⅦ」

●[Hugo Wolf:] Traurige Wege
ベルンハルト・ベルヒトルト(T), アンヌ・ル・ボゼック(P)
Bernhard Berchtold(T), Anne Le Bozec(P)

Channel名:ベルンハルト・ベルヒトルト - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

●[Hugo Wolf:] Traurige Wege (Bin mit dir im Wald gegangen)
アンナ・ハントリー(MS), ショルト・カイノホ(P)
Anna Huntley(MS), Sholto Kynoch(P)

Channel名:アンナ・ハントリー - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:13 & 15 October 2012, Holywell Music Room, Oxford, U.K.

●[Hugo Wolf:] Traurige Wege (Bin mit dir im Wald gegangen)
エネアス・フム(BR), ユディット・ポルガル(P)
Äneas Humm(BR), Judit Polgár(P)

Channel名:Äneas Humm - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

●【参考】同じテキストによるファニー・ヘンゼル=メンデルスゾーン作曲「悲しい道」
[Fanny Hensel-Mendelssohn:] Traurige Wege
マールテン・コニンスベルハー(BR), ケルヴィン・グラウト(P)
Maarten Koningsberger(BR), Kelvin Grout(P)

Channel名:Maarten Koningsberger - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

-----

(参考)

The LiederNet Archive

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder I (1877/78)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag

IMSLP

|

« 「アッティス D 585」- ロベルト・ホルのシューベルト歌曲解説動画シリーズ(Schubert: Atys | Robert Holl in Schubert's poetischer Welt - "Mein Vermächtnis") | トップページ | エリー・アーメリングYouTube公式チャンネルに最近投稿された音源(グノー:レチタティーヴォと宝石の歌「あの方は一体誰だったのか知りたい~昔トゥーレに一人の王さまがいて~花束だわ!...おお神さま!宝石じゃないの! ~ああ! 私は楽しげに自分を眺めているのだわ」:歌劇『ファウスト』より第3幕第6場(マルグリット)) »

音楽」カテゴリの記事

」カテゴリの記事

ヴォルフ Hugo Wolf」カテゴリの記事

レーナウ Nikolaus Lenau」カテゴリの記事

コメント

フランツさん、こんばんは。
ご無沙汰しています。ずっと鼻の調子が悪かったのですが、リンパ腺が腫れグリグリができてなかなか引かない状態で、なんとなくしんどい日々が続いています。
そんなこんなで、すっかりご無沙汰してしまいいました。

さて、この曲、美しいですね。未完成のためか、ディースカウさんですら、録音をしていなかったのですね。
天羽明恵さんは好きなソプラノなんですが、この曲は、テノールで聴くのがなぜか、しっくり来ました。ニコ・ファン・デル・メール(T), ディド・クーニンのテノールがとても胸に染みました。

ところで、フランツさんは、パトリツィア ヤネチコヴァという若いソプラノをご存知ですか?
ドイツ生まれのスロバキアの歌手のようです。
とても美しい声で、フランツさんもお好きな声ではないかと思います。

投稿: 真子 | 2026年6月22日 (月曜日) 20時49分

真子さん、こんにちは。
ご無沙汰しております。
鼻の調子、大変ですね。早く回復されますよう祈っております。

コメント有難うございます!
同じ記事で2つの曲(「願い」「悲しい道」)について書いたので紛らわしかったと思いますが、未完なのは「願い」という曲で、動画を引用した「悲しい道」は完成されています。

ディースカウがヴォルフ全集を録音した時にはすでにこの「悲しい道」は出版されていたので、彼の中ではあまり評価していなかったのかもしれませんね。今となっては推測の域を出ませんが。

真子さんはテノールの演奏がしっくり来たとのこと、曲の雰囲気に合っていますよね。
初期の歌曲でこれほど多くの録音がされているのは珍しいので、今後のヴォルフ歌曲の録音でさらに聞く機会が増えるかもしれませんね。

パトリツィア・ヤネチコヴァというソプラノ、存じ上げませんでした。ご紹介有難うございます。
聞いてみましたが、声の質、響きともに素晴らしいですね。私も好きなタイプの声でした。若くして注目されたようですが、20代半ばで惜しくも病死されたのですね。これからという時にご本人もご家族もさぞかし無念だったこととお察しします。いろいろな動画が残されているのが救いですね。

投稿: フランツ | 2026年6月23日 (火曜日) 08時04分

フランツさん、こんばんは。

願いと混同していて、すみませんでした。きちんと書いておられたのに、私がちゃんと読めていませんでした(年々スマホの文字が読みにくくなって(^_^;))

パトリツィア・ヤネチコヴァさん、亡くなられていたのですか。。それはショックです。
ユーチューブを見ていたらたまたま出て来たので、聞いたらとても可憐な美声で、フランツさんもお好きそうだなと思ったのです。
残された録音、大事に聴きたいです。

投稿: 真子 | 2026年6月23日 (火曜日) 18時22分

真子さん、こんにちは。

いえいえお気になさらず。2つの曲を続けて書いてしまったので紛らわしかったと思います。

紹介してくださったソプラノ歌手、残念ですよね。癌だったそうです。動画を見て偲びたいと思います。

投稿: フランツ | 2026年6月24日 (水曜日) 06時53分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 「アッティス D 585」- ロベルト・ホルのシューベルト歌曲解説動画シリーズ(Schubert: Atys | Robert Holl in Schubert's poetischer Welt - "Mein Vermächtnis") | トップページ | エリー・アーメリングYouTube公式チャンネルに最近投稿された音源(グノー:レチタティーヴォと宝石の歌「あの方は一体誰だったのか知りたい~昔トゥーレに一人の王さまがいて~花束だわ!...おお神さま!宝石じゃないの! ~ああ! 私は楽しげに自分を眺めているのだわ」:歌劇『ファウスト』より第3幕第6場(マルグリット)) »