ヴォルフ:~に寄せて(An ***)
An ***
***に寄せて
O wag' es nicht, mit mir zu scherzen,
Zum Scherze schloß ich keinen Bund;
O spiele nicht mit meinem Herzen;
Weißt du noch nicht, wie sehr es wund?
おお、私をからかわないでくれ、
ひやかしで契りを結んだのではない。
おお、私の心をもてあそばないでおくれ、
どれほど傷ついたことか君にはまだ分からないのか?
Weil ich so tief für dich entbrannte,
Weil ich mich dir gezeigt so weich,
Dein Herz die süße Heimat nannte,
Und deinen Blick mein Himmelreich:
私はこれほど深く君に燃え上がったので、
君にこれほど自分の弱さを見せたので、
君の心を「かわいい故郷」と呼び、
君のまなざしを「私の天国」と呼んだのだ。
O rüttle nicht den Stolz vom Schlummer,
Der süßer Heimat sich entreißt,
Dem Himmel, mit verschwiegnem Kummer,
Auf immerdar den Rücken weist.
おお、眠っている誇りを揺り起こさないでくれ、
それは「かわいい故郷」から身を振りほどき
苦しみを秘めたまま
永遠に「天国」に背を向けているのだ。
詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), "An *", appears in Gedichte, in 4. Viertes Buch, in Liebesklänge
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "An ...", 1877 [ voice and piano ]
作曲:1877年4月27日-5月8日, Windischgraz
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マティソンの詩による歌曲「追憶(Andenken)」の作曲から2週間ほど後、ヴォルフは再びレーナウの詩に戻り、「***に寄せて(An ***)」という歌曲を作曲します。
タイトルに伏字(*)が使われていることが気になりますが、レーナウが誰を想定していたのか何か分かったら追記したいと思います(AIに聞くとレーナウの当時の恋人の名前を答えてくれるのですが、エビデンスが見つからないのでここに書くのは今は控えますね)。
このテキストの男女、愛情の温度差が相当大きいように思えます。男女を特定する言葉は詩の中にありませんが、おそらく男性がこのテキストの主人公でしょう。
主人公は女性が彼の心を「もてあそぶ(spiele)」といって非難します。
どのようにもてあそんだのか具体的な記述はありませんが、「どれほど傷ついたことか(wie sehr es wund)」と言っていることから、主人公のプライドはずたずたにされたのでしょう。
第2連で主人公の彼女に対する愛情の深さを示すエピソードが歌われます。君にこれほど燃え上がり、自分の弱いところもさらけだしたからこそ、君の心を「かわいい故郷(die süße Heimat)」と呼んだし、君のまなざしを「私の天国(mein Himmelreich)」と呼んだんだ。それなのに...という恨み節なのでしょう。愛する二人だけの世界に入り込んでしまっていますね。
第3連で再び現実に戻って、心の奥底に眠らせておいた「誇り=プライド」を起こさないでほしいと彼女に頼みます。
プライドが目を覚ますと、「かわいい故郷=君の心」から「身を振りほどき」、「天国=君のまなざし」から「永遠に背を向ける」ことになるからです。
第1連と第3連が恋人のした仕打ちに対する主人公からの非難、まんなかの第2連は愛したからこそプライドを捨てて君のことを「故郷」だの「天国」だのとのろけたのだよと訴えます。
ヴォルフがA-B-A'の三部形式で作曲したのは、テキストの内容に寄り添っていることが分かります。第1連と第3連での各フレーズの歌い始めが休符で始まるのは主人公のためらいを表しているかのようです。
一方第2連は強起(拍のはじめ)から歌い始めていて、こんなに愛していたんだという思いを強くぶつけて、それが情熱的な第2連後のピアノ間奏にも受け継がれます。ただ、この第2連もピアノはシンコペーションを貫き、心臓がバクバク打っているような印象を受けます。
ヴォルフがこのレーナウのテキストに深く感情移入して作曲したことがうかがえると思います。
フィッシャー=ディースカウは2度にわたるヴォルフ全集だけでなく、演奏活動晩年にヴォルフの初期作品をまとめて録音した時にもこの曲を一度も歌いませんでした。曲としてはよく出来ていると思うのですが、センチメンタルに過ぎると思ったのでしょうか。
Lieder aus der Jugendzeit: Herausgegeben von F. Foll: Berlin: Bote & Bock, 1900
2/4拍子
ニ短調(d-moll)
Langsam und ausdrucksvoll (ゆっくりと表情豊かに)
●[Hugo Wolf:] An* * *
ニコ・ファン・デル・メール(T), ディド・クーニン(P)
Nico van der Meel(T), Dido Keuning(P)
Channel名:ダーモン…ニコ・ヴァン・デア・メール(テノール) - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
録音:January 1996, Utrecht
●Wolf: Lieder aus der Jugendzeit: No. 1, An ***
シュテファン・ゲンツ(BR), ロジャー・ヴィニョールズ(P)
Stephan Genz(BR), Roger Vignoles(P)
Channel名:ロジェ・ヴィニョールズ - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
録音:18-22 February 2002, Tonstudio Teije van Geest, Sandhausen, Germany
●[Hugo Wolf:] An* (O wag es nicht)
ベンジャミン・ヒューレット(T), ショルト・カイノホ(P)
Benjamin Hulett(T), Sholto Kynoch(P)
Channel名:ベンジャミン・ヒューレット - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:13 & 15 October 2012, Holywell Music Room, Oxford, U.K.
●[Hugo Wolf:] An (O wag' es nicht)
エネアス・フム(BR), ユディト・ポルガル(P)
Äneas Humm(BR), Judit Polgar(P)
Channel名:Äneas Humm - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
●【参考:アルベルト・ネポムセーノ(Alberto Nepomuceno: 1864-1920)作曲】O wag' es nicht
Erika Machado(MS), Regina Barros(P)
Channel名:Alberto Nepomuceno além da língua portuguesa(オリジナルのリンク先はこちら)
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(参考)
Gedichte / von Nicolaus Lenau / Stuttgart / Verlag der J. G. Cotta'schen Buchhandlung / 1879
("An *"はP.189)
Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder I (1877/78)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag
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