ヴォルフ:夕暮れの情景-N.レーナウによる3つの頌詩(Wolf: Abendbilder - 3 Oden von N. Lenau)
Abendbilder - 3 Oden von N. Lenau
夕暮れの情景-N.レーナウによる3つの頌詩
1. Friedlicher Abend senkt sich aufs Gefilde
平穏な夕暮れが広野に垂れ込め
Friedlicher Abend senkt sich aufs Gefilde;
Sanft entschlummert Natur, um ihre Züge
Schwebt der Dämmrung zarte Verhüllung, und sie
Lächelt, die holde;
平穏な夕暮れが広野に垂れ込め
穏やかに自然は眠り込む。自然の連なりのまわりで
たそがれの柔らかいベールが漂い流れ
愛らしい女(ひと)は微笑みかける。
Lächelt, ein schlummernd Kind in Vaters Armen,
Der voll Liebe zu ihr sich neigt; sein göttlich
Auge weilt auf ihr, und es weht sein Odem
Über ihr Antlitz.
父親の腕の中でまどろむ子供のように微笑みかけ、
父は、彼女への愛にあふれて身をかがめ、その神々しい
瞳は彼女を見つめたまま、
その顔に息を吹きかける。
詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), no title, appears in Gedichte, in 1. Erstes Buch, in Oden, in Abendbilder, no. 1
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Friedlicher Abend", from Abendbilder, no. 1
2. Schon zerfließt das ferne Gebirg
雲のかかった遠くの山脈はもう
Schon zerfließt das ferne Gebirg mit Wolken
In ein Meer; den Wogen entsteigt der Mond, er
Grüßt die Flur, entgegen ihm grüßt das schönste
Lied Philomelens
雲のかかった遠くの山脈はもう
海へと溶けていく。波間から月がのぼり、月は
野原に挨拶する。その月に向かって、美しい
さよなきどりの歌が挨拶を送る、
Aus dem Blütenstrauche, der um das Plätzchen
Zarter Liebe heimlichend sich verschlinget:
Mirzi horcht am Busen des Jünglings ihrem
Zaubergeflöte.
優しい愛を営む場所のまわりで
ひそかに絡み合う花咲く茂みから。
ミルツィは、若者の胸に抱かれながらさよなきどりの
魔法の笛に聞き耳を立てる。
Dort am Hügel weiden die Schafe beider
Traulichen Gemenges in einer Herde,
Ihre Glöcklein stimmen so lieblich ein zu
Frohen Akkorden.
あちらの丘では
ねんごろに一体となった二人が連れてきた羊たちが、一つの群れをなして草を食む。
羊たちの首のベルは
朗らかな和音となり、心地よく調和する。
詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), "Abendbild", appears in Gedichte, in 6. Sechstes Buch, in Erste Gedichte
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Schon zerfließt das ferne Gebirg", from Abendbilder, no. 2
3. Stille wird's im Walde
森の中は静まりかえる
Stille wird's im Walde; die lieben kleinen
Sänger prüfen schaukelnd den Ast, der durch die
Nacht dem neuen Fluge sie trägt, den neuen
Liedern entgegen.
森の中は静まりかえる。かわいい小さな
歌い手たちが枝を揺すって吟味している、
この枝が夜の間、新たに飛び立ったり
歌ったりするのに耐えられるかどうかを。
Bald versinkt die Sonne; des Waldes Riesen
Heben höher sich in die Lüfte, um noch
Mit des Abends flüchtigen Rosen sich ihr
Haupt zu bekränzen.
まもなく日が沈む。森の巨人たちは
空へさらに高く聳え立つ、
わずかな間の夕焼けの薔薇色で、
まだ頭に冠を飾ろうとして。
Schon verstummt die Matte; den satten Rindern
Selten nur enthallt das Geglock am Halse,
Und es pflückt der wählende Zahn nur lässig
Dunklere Gräser.
すでに草地は沈黙し、満腹な牛たちは
めったに首のベルを鳴らさない。
そしてえり好みする歯は無造作に
暗くなった草を摘む。
Und dort blickt der schuldlose Hirt der Sonne
Sinnend nach; dem Sinnenden jetzt entfallen
Flöt und Stab, es falten die Hände sich zum
Stillen Gebete.
そして無垢な羊飼いは
物思いに耽りながら、太陽が沈むのを目で追う。物思う者の手から今
笛と杖がすべり落ち、両手を組み合わせる、
静かに祈りを捧げるために。
詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), no title, appears in Gedichte, in 1. Erstes Buch, in Oden, in Abendbilder, no. 2
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Stille wird's im Walde", from Abendbilder, no. 3
作曲:1877年1月4日(木)夜10時着手、
1877年2月24日午前10時完了
-----
ベートーヴェンはかつて歌曲集『遥かな恋人に寄せて(An die ferne Geliebte, Op. 98)』を作曲した際、ヤイテレスの6編の詩を1編ずつ独立した曲にせず、それぞれの曲をピアノ間奏でつないで途切れることのない1つの作品としました。その後、シューベルト『美しい水車屋の娘』『冬の旅』、シューマン『リーダークライス』『詩人の恋』などの多くの歌曲集が誕生しましたが、それらは『遥かな恋人に寄せて』とは異なり、1曲ずつが独立した作品としての歌曲集でした。
フーゴー・ヴォルフも、後に『アイヒェンドルフ詩集』『メーリケ詩集』『ゲーテ詩集』『ケラー詩集』『ミケランジェロ詩集』などの詩人ごとにまとめた歌曲集(連作歌曲集ではありませんが)を作曲し、出版しましたが、どれも1曲ずつ独立した曲の集合体でした。
しかし、ヴォルフが17歳の時(1877年)に作曲した『夕暮れの情景(Abendbilder)』は、ニコラウス・レーナウが「夕暮れの情景」のタイトルのもとに3つ(I, II, III)に分けた詩をピアノ間奏でつないで1つの作品にしたもので、ベートーヴェンの『遥かな恋人に寄せて』と同じ手法をとった珍しい試みといえると思います。『N.レーナウによる3つの頌詩(3 Oden von N. Lenau)』という副題も付けられていて、いわば3曲からなる歌曲集ととらえることも可能だと思います。
ピアノ前奏の「ソーミーファーラソードー」が曲全体を統一するモティーフとしてあちこちに現れ、最終的にピアノ後奏でも繰り返されます。3つの詩がこのモティーフによって1つの作品として結びつきます。ただ、歌声部にはこのモティーフはそのままの形では使われず、もっぱらピアノパートにのみ現れます。
歌声部は概してピアノパートの対旋律のようなフレーズで、美しい旋律というよりは語りの要素が強まっているように感じられます。
歌、ピアノ共にテキストの展開に沿って通作的に進んでいきます。
第2曲の最後に羊たちが草を食みながらカウベルの音が朗らかに調和すると歌った後、第3曲との間のつなぎのピアノ間奏は細かい音価でかなりドラマティックに進行します。カウベルの響きというよりは第3曲の静かな情景との対比を際立たせる為にあえて派手な間奏にしたのではないかと想像します。
私はこの小さな歌曲集で描かれている夕暮れ時の敬虔な祈りの光景を聞くと、ミレーの「晩鐘」を思い出します(レーナウやヴォルフが意識していたかどうかは別として)。最終節の羊飼いは、日が沈もうとする時間帯に、一日の活動を無事終えることの出来た感謝の気持ちを祈っているのでしょうか。
【第1曲:Friedlicher Abend senkt sich aufs Gefilde】
3/4拍子
変ニ長調(Des-dur)
Sehr langsam (非常にゆっくりと)
【第2曲:Schon zerfließt das ferne Gebirg】
3/4拍子
イ短調(a-moll)
langsam, mit freiem Vortrag (ゆっくりと、自由に演奏して)
【第3曲:Stille wird's im Walde】
3/4拍子 - C (4/4拍子) - 2/4拍子 - 3/4拍子
変ホ長調(Es-dur)→変ニ長調(Des-dur)
Langsam (ゆっくりと)
●Wolf: Abendbilder
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ダニエル・バレンボイム(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Daniel Barenboim(P)
Channel名:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
0:00- 第1曲
2:32- 第2曲
5:11- 第3曲
●Wolf: Abendbilder
シュテファン・ゲンツ(BR), ロジャー・ヴィニョールズ(P)
Stephan Genz(BR), Roger Vignoles(P)
Channel名:ロジェ・ヴィニョールズ - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
●[Hugo Wolf:] Abendbilder (Friedlicher abend)
マーカス・ファーンズワース(BR), ショルト・カイノホ(P)
Marcus Farnsworth(BR), Sholto Kynoch(P)
Channel名:マルクス・ファーンズワース - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:13 & 15 October 2012, Holywell Music Room, Oxford, U.K.
●Hugo Wolf: Abendbilder. Drei Oden - Matthias Winckhler (Bariton) & Ammiel Bushakevitz (Klavier)
マティアス・ヴィンクラー(BR), アミエル・ブッシャケヴィツ(P)
Matthias Winckhler(BR), Ammiel Bushakevitz(P)
Channel名:Internationale Hugo-Wolf-Akademie(オリジナルのリンク先はこちら)
●ピアノパートのみの演奏
Hugo Wolf: Abendbilder, Piano Accompaniment
Channel名:Mario L. S. Barbosa(オリジナルのリンク先はこちら)
●【参考:夕暮れの情景1のテキストによる】ファニー・ヘンゼル=メンデルスゾーン作曲:夕暮れの情景 Op. 10, No. 3
[Fanny Hensel-Mendelssohn:] 5 Lieder, Op. 10: No. 3. Abendbild
ドロテア・クラクストン(S), バベッテ・ドルン(P)
Dorothea Craxton(S), Babette Dorn(P)
Channel名:Dorothea Craxton - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
-----
(参考)
Gedichte / von / Nicolaus Lenau. / Stuttgart und Tübingen, / Verlag der J. G. Cotta'schen Buchhandlung. / 1832.
Abendbilder: 1
Abendbilder: 2
Abendbilder: 3
Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder II (1876-1890)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag
| 固定リンク
« ヴォルフ:ぼくがきみの瞳を見つめると(Wolf: Wenn ich in deine Augen seh) | トップページ | エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:リヒャルト・シュトラウス「黄昏を通る夢(Richard Strauss: Traum durch die Dämmerung, Op. 29, No. 1)」 »
「音楽」カテゴリの記事
「詩」カテゴリの記事
- エリー・アーメリングYouTube公式チャンネルに最近投稿された音源(モーツァルト:夕暮れの感情(Mozart: Abendempfindung, KV 523))(2026.08.17)
- ヴォルフ:旅路で I, II (Wolf: Auf der Wanderschaft I, II)(2026.09.04)
- 「メムノン D 541」- ロベルト・ホルのシューベルト歌曲解説動画シリーズ「シューベルトの詩の世界-わが遺産」(Schubert: Memnon | Robert Holl in Schubert's poetischer Welt - "Mein Vermächtnis")(2026.07.26)
「ヴォルフ Hugo Wolf」カテゴリの記事
- ヴォルフ:旅路で I, II (Wolf: Auf der Wanderschaft I, II)(2026.09.04)
- ヴォルフ:太陽が輝くのが真実であるように(Wolf: So wahr die Sonne scheinet)(2026.07.04)
- ヴォルフ:悲しい道 (Wolf: Traurige Wege)(2026.06.07)
- ヴォルフ:夜のさすらい (Wolf: Nächtliche Wanderung)(2026.08.28)
「レーナウ Nikolaus Lenau」カテゴリの記事
- ヴォルフ:悲しい道 (Wolf: Traurige Wege)(2026.06.07)
- ヴォルフ:夜のさすらい (Wolf: Nächtliche Wanderung)(2026.08.28)
- ヴォルフ:~に寄せて(An ***)(2026.02.06)
- ヴォルフ:夕暮れの情景-N.レーナウによる3つの頌詩(Wolf: Abendbilder - 3 Oden von N. Lenau)(2025.12.05)
- ヴォルフ:別れのまなざし(Wolf: Scheideblick)(2025.10.31)
「ショルト・カイノホ Sholto Kynoch」カテゴリの記事
- ヴォルフ:旅路で I, II (Wolf: Auf der Wanderschaft I, II)(2026.09.04)
- ヴォルフ:太陽が輝くのが真実であるように(Wolf: So wahr die Sonne scheinet)(2026.07.04)
- ヴォルフ:夜のさすらい (Wolf: Nächtliche Wanderung)(2026.08.28)
- ヴォルフ:旅の歌(Wanderlied)(2026.02.20)
- ヴォルフ:~に寄せて(An ***)(2026.02.06)










コメント
フランツさん、こんにちは。
とても敬虔な祈りに満ちた曲ですね。
ヴォルフはこれを17歳の時に作ったのですね。
この内面性に驚きます。
ミレーの晩鐘を思い出されたとおっしゃるの分かります。
ビアノ前奏部から引き込まれました。
マティアス・ヴィンクラーのバリトン、美しいですね。
投稿: 真子 | 2025年12月21日 (日曜日) 12時58分
真子さん、こんにちは。
>とても敬虔な祈りに満ちた曲ですね。
そうですよね。ヴォルフ自身は信心深いというわけではなかったようなのですが、こういう美しい作品を若いころに作曲しているというのはやはり凄い才能(+努力)があったのだろうと思います。
ピアノ前奏の響きは一度聴いたら忘れられないですね。
マティアス・ヴィンクラー、私もはじめて聞いたのですが、とても良い歌唱ですね。ドイツではリートを聞く人が減っているとどこかで聞いた記憶があります。若い才能ある人たちが歌える場が沢山あるといいのですが。
ちなみにここでピアノを弾いているアミエル・ブッシャケヴィツは、すでに歌曲演奏の地位を確立していて、引く手あまたの超多忙な歌曲ピアニストです。
投稿: フランツ | 2025年12月21日 (日曜日) 16時19分