« エリーの要点「なぜ?」(Elly's Essentials; “Why?")-ブラームス:五月の夜(Johannes Brahms: Die Mainacht, Op. 43, No. 2) | トップページ | エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:ベルリオーズ「薔薇の亡霊(Hector Berlioz: Le Spectre de la Rose, Op. 7, No. 2)」(歌曲集『夏の夜(Les Nuits d'Été, Op. 7)』より) »

ヴォルフ:夕暮れの鐘(Wolf: Abendglöcklein, Op. 9, No. 4)

Abendglöcklein, Op. 9, No. 4
 夕暮れの鐘

Des Glöckchens Schall durchtönt das Tal,
Mir Ruhe zu verkünden;
Nur ich allein mit meiner Pein
Vermag sie nicht zu finden.
 小さな鐘の音が谷に響き渡る、
 それは私に休息の時を告げるためのもの。
 だが苦しみを抱く私だけは
 休息を見出すことができないのだ。

Wann läutest du denn mir zur Ruh'
Von deinem Kirchlein droben?
Sei ruhig, Herz! Ein jeder Schmerz
Hört einmal auf zu toben.
 いつになったら私に休息の鐘を鳴らしてくれるのか、
 おまえのいるあの小さな教会から?
 落ち着け、心よ!苦しみは
 いつか荒ぶるのをやめるから。

Einst wird dich schon des Glöckchens Ton
Mit deiner Qual versöhnen.
Und schweigt der Klang auch noch so lang,
Er muß doch endlich tönen!
 いつの日かお前を鐘の音が
 苦しみと和解させてくれるだろう、
 そして響きも長いこと静まっていたが
 ついに鳴るにちがいない!

詩:Vincenz Zusner (1804-1874)
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Abendglöcklein", op. 9 no. 4 (1876)

作曲:(1876年)3月18日(土)/(1876年)4月24日(月)7:45pm

-----

ヴォルフが付与した作品番号9の第4曲は、ヴィンツェンツ・ツスナーの詩による「夕暮れの鐘(Abendglöcklein, Op. 9, No. 4)」です。ヴォルフがツスナーの詩に作曲したのはこれが唯一です。ツスナーのWikipediaの記述を見ていたところ、彼は若い音楽家のパトロンでもあって、寄付金をもとに彼の死後、ヴィーン学友協会の音楽学校で毎年彼の詩による音楽作品に1位と2位の賞が授与されたそうです。Wikipediaのリストが1875/76年の学年が初回になっていて、ヴォルフのこの歌曲「夕暮れの鐘」も1876年3月~4月に作曲されているので、もしかしたらこの賞に応募しようと考えていたのかもしれません。

テキストは、弔いの鐘が聞こえるが、苦しみをかかえた主人公のためにはその鐘は鳴ってくれない。だがいつか主人公のために鐘が鳴る日が来るにちがいないという内容です。

ヴォルフは比較的音数を抑えた繊細な作品に仕上げました。左手がバス音だけでなく高音域の鐘の音も表現する為、右手と交差する場面が少なからずあるのが印象的で、この部分をヴォルフは見せ場として演奏したのかもしれません。
歌の旋律は語りのような部分とメロディアスな部分を巧みに使い分けて、なかなか魅力的な作品に仕上がっているのではないかと感じました。速度の変化も細かく指示しています。これまでのようないたずらに装飾的なメリスマを多用することはなくなり、必要最低限の音の使い方で魅力的な旋律を作りあげているように思います。ヴォルフ全集の楽譜第7/3巻では、編集者が臨時記号や音部記号を多く補っており、書法の面ではまだ見落としが多いようですが、音楽自体は成長が見られるのではないでしょうか。

C (4/4拍子)
嬰ハ短調(cis-moll)
Langsam und zart (ゆっくりと繊細に)

●[Hugo Wolf:] Abendglocklein, Op. 9, No. 4
メアリー・ベヴァン(S), ショルト・カイノホ(P)
Mary Bevan(S), Sholto Kynoch(P)

Channel名:メアリー・ビーヴァン - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:11 October 2011, Holywell Music Room, Oxford, U.K.

-----

(参考)

The LiederNet Archive

Vinzenz Zusner (Wikipedia:独語)

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag

| |

« エリーの要点「なぜ?」(Elly's Essentials; “Why?")-ブラームス:五月の夜(Johannes Brahms: Die Mainacht, Op. 43, No. 2) | トップページ | エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:ベルリオーズ「薔薇の亡霊(Hector Berlioz: Le Spectre de la Rose, Op. 7, No. 2)」(歌曲集『夏の夜(Les Nuits d'Été, Op. 7)』より) »

音楽」カテゴリの記事

」カテゴリの記事

ヴォルフ Hugo Wolf」カテゴリの記事

ショルト・カイノホ Sholto Kynoch」カテゴリの記事

コメント

フランツさん、こんばんは。

まず、ソプラノのメアリー・ベヴァンの声いいですね。繊細なこの曲にぴったりだと思います。

恋をしている時の心と言うものは、自分の心でありながら思いの通りにならないもの。
静まる事を知らない心のせいで、いつも苦しい。
やがては、休息の鐘がなり、安けさが訪れるだろう。
安けさが訪れた時、苦しみからは解放されるけれど、それは恋を失った瞬間かもしれない。恋の成就は恋の終わりなのかもしれません。苦しいことこそが恋の本質だとしたら。

と、苦しみを恋の苦しみと解釈さしましたが、詩を読むと、必ずしもそうとは言い切れないですね。
人生の苦しみなのか、病からくる苦しみなのか?
夕暮れと言う言葉からは、人生の終わりを示唆しているとも読めそうです。
何の苦しみかによって、歌曲表現も変わってきますよね。

投稿: 真子 | 2025年10月28日 (火曜日) 23時20分

真子さん、こんにちは。

メアリー・ベヴァン、いいですよね!
最近の若手歌手は彼女のような清冽な響きのソプラノ歌手が増えてきたようで嬉しいです。もう一人似た系統のソプラノにカタリナ・コンラーディという歌手がいて、注目しています。最近来日して「ばらの騎士」のゾフィー役で絶賛されたようです。

テキストについての真子さんの解釈を有難うございます!
なるほど、主人公の苦しみを恋するあまりの落ち着かない状態と解釈されたのですね。私はこの解釈は思いつかなかったので目からうろこでした。
安らぎを待ち望むという文脈から、年老いた人の現世での苦しみと思い込んでいました。

> 夕暮れと言う言葉からは、人生の終わりを示唆しているとも読めそうです。
何の苦しみかによって、歌曲表現も変わってきますよね。

おっしゃる通りですね。何の苦しみかがあえて書かれていないので想像力を掻き立てられますね。詩を読んだりリートを聞く醍醐味だと思います。

投稿: フランツ | 2025年10月29日 (水曜日) 12時39分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« エリーの要点「なぜ?」(Elly's Essentials; “Why?")-ブラームス:五月の夜(Johannes Brahms: Die Mainacht, Op. 43, No. 2) | トップページ | エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:ベルリオーズ「薔薇の亡霊(Hector Berlioz: Le Spectre de la Rose, Op. 7, No. 2)」(歌曲集『夏の夜(Les Nuits d'Été, Op. 7)』より) »