ヴォルフ:別れのまなざし(Wolf: Scheideblick)
Scheideblick
別れのまなざし
Als ein unergründlich Wonnemeer
Strahlte mir dein tiefer Seelenblick;
Scheiden mußt' ich ohne Wiederkehr,
Und ich habe scheidend all' mein Glück
Still versenkt in dieses tiefe Meer.
底知れぬ歓喜の海のように
君の深い魂のまなざしが僕に向けて輝いていた。
僕は別れなければならず、もう戻ってくることはない。
そして僕は別れる際、僕の幸せすべてを
ひそかにこの深い海に沈めた。
詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), "Scheideblick", appears in Gedichte, in 1. Erstes Buch, in Vermischte Gedichte
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Scheideblick", 1876
作曲:1876年後半 (2. Jahreshälfte 1876)
※この曲が出版されたヴォルフ全集第7/3巻(1976年)では編集者のHans Jancikは「1876年末頃(um das Jahresende 1876)」の作曲と記載している。その後、第7/4巻(1998年)の中で、編集者のLeopold Spitzerは、未完の「密猟者(Der Raubschütz, Op. 5)」(レーナウ詩)の第2稿(1876年6月24日作曲)同様、歌声部がヘ音譜表で書かれ、声部進行の誤り(Stimmführungsfehler)が時折みられることから、「密猟者」第2稿が作曲された後「ある墓(Ein Grab)」(1876年12月8-10日作曲)が作曲される前に作曲されたものと記している。
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前回取りあげた「静かな安心」同様、レーナウによる「別れのまなざし(Scheideblick)」も1876年後半に作曲されたものと推定されています(自筆譜は「静かな安心」の楽譜の裏側に書かれています)。こちらも歌声部がヘ音譜表で書かれていて、低声歌手が歌うことを想定しているものと思われます。
ちなみにヴォルフはこの曲にもタイトルを付けておらず、ヴォルフ全集第7/3巻に記載されているタイトル「別れのまなざし(Scheideblick)」は、詩人レーナウのオリジナルのタイトルによるものです。
詩は、恋人と別れる際に、これまでの幸せを海のような恋人のまなざしの奥深くに沈めたと歌われます。どことなくハイネの詩を思い起こさせます。
繊細な和音のピアノにのせて、歌は最初の2行で「君」の魂のまなざしの深さを順次進行で述べ、3行目以降の「僕」の別れの辛さを跳躍進行で表現しています。コラールのような信仰告白の響きのうえで苦悩が切々と歌われ、聴きごたえのある作品になっていると思います。
3/4拍子
ト短調(g-moll)
Sehr langsam (非常にゆっくりと)
●[Hugo Wolf:] Scheideblick (Als ein unergrundlich Wonnemeer)
マーカス・ファーンズワース(BR), ショルト・カイノホ(P)
Marcus Farnsworth(BR), Sholto Kynoch(P)
Channel名:マルクス・ファーンズワース - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:13 & 15 October 2012, Holywell Music Room, Oxford, U.K.
●【参考】ヨゼフィーネ・ラング(1815-1880):別れのまなざし Op. 10, No. 5
[Josephine Lang:] Scheideblick, Op. 10 No. 5
カトリオナ・モリソン(MS), マルコム・マーティノー(P)
Catriona Morison(MS), Malcolm Martineau(P)
Channel名:Release - Topic(オリジナルのリンク先はこちら)
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(参考)
Gedichte von Nicolaus Lenau: Erster Band: Stuttgart und Augsburg: J. G. Cotta'scher Verlag: 1857 ("Scheideblick"はP. 378)
Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag


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