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ヴォルフ:別れのまなざし(Wolf: Scheideblick)

Scheideblick
 別れのまなざし

Als ein unergründlich Wonnemeer
Strahlte mir dein tiefer Seelenblick;
Scheiden mußt' ich ohne Wiederkehr,
Und ich habe scheidend all' mein Glück
Still versenkt in dieses tiefe Meer.
 底知れぬ歓喜の海のように
 君の深い魂のまなざしが僕に向けて輝いていた。
 僕は別れなければならず、もう戻ってくることはない。
 そして僕は別れる際、僕の幸せすべてを
 ひそかにこの深い海に沈めた。

詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), "Scheideblick", appears in Gedichte, in 1. Erstes Buch, in Vermischte Gedichte
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Scheideblick", 1876

作曲:1876年後半 (2. Jahreshälfte 1876)
※この曲が出版されたヴォルフ全集第7/3巻(1976年)では編集者のHans Jancikは「1876年末頃(um das Jahresende 1876)」の作曲と記載している。その後、第7/4巻(1998年)の中で、編集者のLeopold Spitzerは、未完の「密猟者(Der Raubschütz, Op. 5)」(レーナウ詩)の第2稿(1876年6月24日作曲)同様、歌声部がヘ音譜表で書かれ、声部進行の誤り(Stimmführungsfehler)が時折みられることから、「密猟者」第2稿が作曲された後「ある墓(Ein Grab)」(1876年12月8-10日作曲)が作曲される前に作曲されたものと記している。

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前回取りあげた「静かな安心」同様、レーナウによる「別れのまなざし(Scheideblick)」も1876年後半に作曲されたものと推定されています(自筆譜は「静かな安心」の楽譜の裏側に書かれています)。こちらも歌声部がヘ音譜表で書かれていて、低声歌手が歌うことを想定しているものと思われます。

ちなみにヴォルフはこの曲にもタイトルを付けておらず、ヴォルフ全集第7/3巻に記載されているタイトル「別れのまなざし(Scheideblick)」は、詩人レーナウのオリジナルのタイトルによるものです。

詩は、恋人と別れる際に、これまでの幸せを海のような恋人のまなざしの奥深くに沈めたと歌われます。どことなくハイネの詩を思い起こさせます。

繊細な和音のピアノにのせて、歌は最初の2行で「君」の魂のまなざしの深さを順次進行で述べ、3行目以降の「僕」の別れの辛さを跳躍進行で表現しています。コラールのような信仰告白の響きのうえで苦悩が切々と歌われ、聴きごたえのある作品になっていると思います。

3/4拍子
ト短調(g-moll)
Sehr langsam (非常にゆっくりと)

●[Hugo Wolf:] Scheideblick (Als ein unergrundlich Wonnemeer)
マーカス・ファーンズワース(BR), ショルト・カイノホ(P)
Marcus Farnsworth(BR), Sholto Kynoch(P)

Channel名:マルクス・ファーンズワース - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:13 & 15 October 2012, Holywell Music Room, Oxford, U.K.

●【参考】ヨゼフィーネ・ラング(1815-1880):別れのまなざし Op. 10, No. 5
[Josephine Lang:] Scheideblick, Op. 10 No. 5
カトリオナ・モリソン(MS), マルコム・マーティノー(P)
Catriona Morison(MS), Malcolm Martineau(P)

Channel名:Release - Topic(オリジナルのリンク先はこちら)

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(参考)

The LiederNet Archive

Gedichte von Nicolaus Lenau: Erster Band: Stuttgart und Augsburg: J. G. Cotta'scher Verlag: 1857 ("Scheideblick"はP. 378)

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag

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ヴォルフ:静かな安心(Wolf: Stille Sicherheit)

Stille Sicherheit
 静かな安心

Horch, wie still es wird im [dunklen]1 Hain,
Mädchen, wir sind sicher und allein.
 耳をすましてごらん、暗い林の中のなんと静かなこと、
 娘よ、僕らは心安らかで他に誰もいない。

Still [umsäuselt hier den Wiesenhang]2
Schon der Abendglocke müder Klang.
 静かにここの草原の斜面のまわりで
 もう夕暮れの鐘のかすかな音が響いている。

Auf den Blumen, die sich dir verneigt,
Schlief das letzte Lüftchen ein und schweigt.
 君におじぎをした花々の上で
 最後に吹いたそよ風が眠りにつき、沈黙する。

Sagen darf ich dir, wir sind allein,
Daß mein Herz ist ewig, ewig dein.
 君に言わせてほしい、僕らは二人きりだ、
 僕の心は永遠に永遠に君のものだ。

1 Lenau: "dunkeln"
2 Lenau: "versäuselt hier am Wiesenhang"

詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), "Stille Sicherheit", appears in Gedichte, in 1. Erstes Buch, in Vermischte Gedichte
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Stille Sicherheit", 1876

作曲:1876年後半 (2. Jahreshälfte 1876)
※この曲が出版されたヴォルフ全集第7/3巻(1976年)では編集者のHans Jancikは「1876年末頃(um das Jahresende 1876)」の作曲と記載している。その後、第7/4巻(1998年)の中で、編集者のLeopold Spitzerは、未完の「密猟者(Der Raubschütz, Op. 5)」(レーナウ詩)の第2稿(1876年6月24日作曲)同様、歌声部がヘ音譜表で書かれ、"Baryton"と記載されていて、声部進行の誤り(Stimmführungsfehler)が時折みられることから、「密猟者」第2稿が作曲された後、パウル・ギュンターの詩による「ある墓(Ein Grab)」(1876年12月8-10日作曲)が作曲される前に作曲したのだろうと記している。

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レーナウの詩による「静かな安心」は、同じくレーナウによる「別れのまなざし(Scheideblick)」(次回投稿予定)とともに1876年後半に作曲されたものと推定されています。両曲ともに歌声部がヘ音譜表で書かれ、「静かな安心」については「バリトン(Baryton)」と声種の指示まで書かれています(第7/3巻の校訂報告(Revisionbericht)参照)。

ちなみにヴォルフはこの曲にタイトルを付けておらず、ヴォルフ全集第7/3巻に記載されているタイトル「静かな安心(Stille Sicherheit)」は、詩人レーナウのオリジナルのタイトルによるものです。

恋人が二人きりでないことを心配している心理状態を反映したかのように曲は短調ではじまりますが、最後の2行で主人公がとうとう二人きりになったと宣言するところで、長調の穏やかな響きに変わり、ピアノ後奏が余韻を美しく奏でて終わります。

第1行の"im dunk-len"の3つの音が半音下降(e-es-d)しているのは偶然かもしれませんが、後のヴォルフの小さな萌芽かもしれないとつい思いたくもなります。しかし全体的には半音進行はほぼ見られず、素直な小品です。ただ、以前にはよく見られた過剰な装飾・メリスマは見られなくなり、簡潔なやりかたでテキストの音楽化を実現できているのは、ヴォルフの進歩に思えます。作品自体もなかなか魅力的だと思います。

2/4拍子
ニ短調(d-moll)
Langsam (ゆっくりと)

●[Hugo Wolf:] Stille sicherheit (Horch, wie still es wird)
マーカス・ファーンズワース(BR), ショルト・カイノホ(P)
Marcus Farnsworth(BR), Sholto Kynoch(P)

Channel名:マルクス・ファーンズワース - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:13 & 15 October 2012, Holywell Music Room, Oxford, U.K.

●【参考】ローベルト・フランツ(1815-1892):静かな安心 Op. 10, No. 2
[Robert Franz:] 6 Gesange, Op. 10: No. 2. Stille Sicherheit
白井光子(MS), ハルトムート・ヘル(P)
Mitsuko Shirai(MS), Hartmut Höll(P)

Channel名:白井光子 - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)

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(参考)

The LiederNet Archive

Gedichte von Nicolaus Lenau: Erster Band: Stuttgart und Augsburg: J. G. Cotta'scher Verlag: 1857 ("Stille Sicherheit"はP. 375)

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag

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エリーの要点「観察」(Elly's Essentials; “Observations")-ガブリエル・フォレ:夕暮れ(Gabriel Fauré: Soir, Op. 83, No. 2)

●Elly's Essentials; “Observations"

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です。音声が出ます。)

2:49-5:10 Gabriel Fauré: Soir, Op. 83, No. 2
Elly Ameling, soprano
Dalton Baldwin, piano
Recorded: June 1970, December 1973, January - March 1974, Salle Wagram, Paris
EMI

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Soir, Op. 83, No. 2
 夕暮れ

Voici que, les jardins de la nuit vont fleurir.
Les lignes, les couleurs, les sons deviennent vagues.
Vois, le dernier rayon agonise à tes bagues.
Ma sœur, n'entends-tu pas quelque chose mourir !...

Mets sur mon front tes mains fraîches comme une eau pure,
Mets sur mes yeux tes mains douces comme des fleurs,
Et que mon âme où vit le goût secret des pleurs.
Soit comme un lys fidèle et pâle à ta ceinture.

C'est la Pitié qui pose ainsi son doigt sur nous ;
Et tout ce que la terre a de soupirs qui montent,
Il semble qu'à mon âme enivré, le racontent
Tes yeux levés au ciel, si tristes et si doux.

(※『詩と音楽』藤井宏行様の対訳と解説はこちらのリンク先です。藤井様いつも有難うございます。)

詩:Albert Victor Samain (1858-1900), "Elégie", appears in Au jardin de l'Infante, first published 1893
曲:Gabriel Fauré (1845-1924), "Soir", op. 83 no. 2 (1894), published 1896, stanzas 7-9 [ medium voice and piano or orchestra ]

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(参考)

Elly's Essentials; “Observations" (YouTube)

The LiederNet Archive

Webサイト『詩と音楽』-フォーレ:夕暮れ(2007.11.09 藤井宏行:対訳・解説)

amazon - 『フランス歌曲の演奏と解釈』ピエール ベルナック (著), 林田 きみ子 (翻訳)

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ヴォルフ:真珠を採る人(Wolf: Perlenfischer)

Perlenfischer
 真珠を採る人

Du liebes Auge, willst dich tauchen,
In meines Aug's [geheimster]1 Tiefe,
Zu [späh'n]2, wo in blauen Gründen
Verborgen eine Perle schliefe?
 ねえ、かわいい眼よ、
 僕の眼の秘密の奥底にもぐってみたいかい、
 青い底に
 ひっそりと真珠が眠っているのを見るために。

Du liebes Auge, tauche nieder,
Und in die klare Tiefe dringe
Und lächle, wenn ich dir [dies Bild]3
Als schönste Perle wiederbringe.
 ねえ、かわいい眼よ、もぐって
 澄んだ奥底に行ってみなよ、
 そして微笑んでおくれ、僕が君にこの姿を
 極めて美しい真珠として返してあげた時には。

1 Roquette: "geheimste"
2 Roquette: ""spähen
3 Roquette: "dein Bildniß"

詩:Otto Roquette (1824-1896), "Perlenfischer"
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Perlenfischer", 1876 [ voice and piano ]

作曲:1876年5月3日(水), Prater (Wien)

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ルートヴィヒ・アウアーバハの詩による「黄金色の朝(Der goldene Morgen, Op. 9, No. 6)」の2日後にヴォルフが作曲したのは、オットー・ロケットの詩による「真珠を採る人(Perlenfischer)」です。この詩には、ローベルト・フランツやアドルフ・イェンゼン、マックス・レーガーなどの著名な作曲家も作曲しているようですが、録音は見つかりませんでした。

「僕の瞳の奥に真珠が眠っているからもぐってみなよ」と歌われます。この「真珠」というのは目の前にいる恋人の瞳(もしくは姿)が主人公の瞳に映っている状態を表現しているのでしょう。
この愛らしいテキストに、ヴォルフは繊細な曲を付けました。
左手と右手を交互に打つピアノのリズムにのって、歌は基本的に上行しながら慎ましやかに進みます。途中で細かい音価で畳みかけるように歌われる箇所もありますが、概して美しいメロディーで一貫しています。第2連で"langsam und innig(ゆっくりと内面的に)"という指示とともに歌はこれまでの上行から下行中心の旋律になります。ピアノの右手が細かい十六分音符の音型に変わり、後半から後奏にかけてはこの十六分音符が上がっては下がる弧を描きます。後奏の最後から3~4小節目はシューベルトの「釣り人(Der Fischer, D 225)」の影響を受けたものと思われます。無視するにはあまりにも惜しい魅力的な作品だと思います。

2/4拍子
変イ長調(As-dur)
(冒頭の標示なし)

●[Hugo Wolf:] Perlenfischer
メアリー・ベヴァン(S), ショルト・カイノホ(P)
Mary Bevan(S), Sholto Kynoch(P)

Channel名:メアリー・ビーヴァン - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:11 October 2011, Holywell Music Room, Oxford, U.K.

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(参考)

The LiederNet Archive

Otto Roquette (Wikipedia:独語)

Otto Roquette: Gedichte (Verlag der J. G. Cotta'schen Buchhandlung. Stuttgart, 1880)("Perlenfischer"は"P.16)

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag

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ヴォルフ:黄金色の朝(Wolf: Der goldene Morgen, Op. 9, No. 6)

Der goldene Morgen, Op. 9, No. 6
 黄金色の朝

Golden lacht und glüht der Morgen
Über maiengrünen Höh'n,
Und [die Seele bricht]1 voll Sorgen,
Und die Welt ist doch so schön!
 朝は黄金色に笑い、燃えている、
 五月の緑映える丘の上で、
 心は不安のあまり砕けているが
 世の中はかくも美しい!

[Vöglein singen, Glocken schlagen,]2
[Blütenduft durchzieht]3 das Land.
Wirf dein [Klagen und dein Zagen]4
[Ganz]5, in diesen Freudenbrand!
 小鳥たちは歌い、鐘は鳴り、
 花々の香しさが大地に広がる。
 おまえのためらいや嘆きを
 残さずこの燃え上がる歓喜の中に投げ入れてしまえ!

1 Auerbach: "du, Seele, sinnst"
2 Auerbach: "Glocken rufen, Vöglein schlagen,"
3 Auerbach: "Blütenlicht durchflammt"
4 Auerbach: "Zagen und dein Klagen"
5 Auerbach: "Herz"

詩:Ludwig Auerbach (1840-1882), "Goldner Morgen"
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Der goldene Morgen", op. 9 no. 6 (1876)

作曲:1876年5月1日, Wien

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ヴォルフが付与した作品番号9の第5曲はゲーテの詩による「五月(Mai, Op. 9, No. 5)」(歌い出し:Leichte Silberwolken schweben / durch die erst erwärmten Lüfte,)で、2つの稿が残されていますがいずれも未完成の為、現在のところ録音で聞くことが出来ません。
第1稿についてはほぼ完成しているので演奏可能だと思いますが、第2稿も途中まで録音してくれる演奏者が今後あらわれてくれることを期待したいと思います。
ちなみに「五月」は未完成作品なので、楽譜は「ヴォルフ全集」の第7/4巻(Fragmente)(Leopold Spitzer編纂:Musikwissenschaftlicher Verlag, Wien, 1998)に掲載されています。

・五月(第1稿) Mai (1. Fassung)
1876年4月25日(火)7時, プラーター左側の草地(in der Aue links Prater)にて着手
4月25日(火)午前9:30完成(「完成(vollendet)」とヴォルフは書いているが、下記の通り未完成箇所あり)
全3連中第1連の歌声部は完成、ピアノパートは最後の2小節が空白
全24小節
6/8拍子
ヘ長調(F-dur)
sehr schnell (非常に速く)

・五月(第2稿) Mai (2. Fassung)
76年5月1日午後3時改訂
18小節まで(第1連の9行中第6行(sich am reichen Ufer hin;)まで歌、ピアノともに書かれている)
2/4拍子
ヘ長調(F-dur)
(冒頭の速度表示なし)

作品番号9の第6曲(最終曲)は、ルートヴィヒ・アウアーバハ(Ludwig Auerbach: 1840-1882)のテキストによる「黄金色の朝(Der goldene Morgen, Op. 9, No. 6)」で、前曲「五月」の第2稿と同じ日に作曲されましたが、この曲は完成しています。1976年にヴォルフ全集第7/3巻(Hans Jancik編纂)として出版された時には詩人不詳(Dichter?)と記載されていたので、その後にアウアーバハのテキストであることが判明したのでしょう。

ヴォルフの曲は6/8拍子のたゆたうような心地よいピアノの響きにのって歌も穏やかに進行していきます。途中2箇所で3/8拍子を挿入したのはヴォルフなりの試みなのでしょう。全体はあっという間に過ぎていきますが、以前のようなメリスマは影をひそめ、簡潔で効果的な書法に進化したように思います。ピアノ後奏が長めなのはシューマンの影響かもしれません。コンサートのプログラムにのっていても問題ない完成度だと思います。

6/8拍子
ロ長調(H-dur)
(冒頭の標示なし)

●[Hugo Wolf:] Der goldene Morgen, Op. 9, No. 6
クイレイン・ドゥ・ラン(BR), ショルト・カイノホ(P)
Quirijn de Lang(BR), Sholto Kynoch(P)

Channel名:Release - Topic(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:11 October 2011, Holywell Music Room, Oxford, U.K.

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(参考)

The LiederNet Archive

Ludwig Auerbach (Wikipedia)

Internet Archive: Aus dem Schwarzwald, Gedichte (by Auerbach, Ludwig): Goldner Morgen

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878) / IV Fragmente (1875-1882)
stretta music (Nachgelassene Lieder III)
stretta music (Nachgelassene Lieder IV)
Musikwissenschaftlicher Verlag

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エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:ベルリオーズ「薔薇の亡霊(Hector Berlioz: Le Spectre de la Rose, Op. 7, No. 2)」(歌曲集『夏の夜(Les Nuits d'Été, Op. 7)』より)

●Le Spectre de la Rose - Berlioz - Musings on Music by Elly Ameling

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です)

2:21-8:44, 20:06-26:31
Hector Berlioz: Le Spectre de la Rose
Elly Ameling, soprano
Atlanta Symphony Orchestra
Robert Shaw, conductor
Recording: 21 March 1983, Symphony Hall, Atlanta
Telarc

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Le spectre de la rose, Op. 7, No. 2 (from "Les Nuits d'Été, Op. 7")

Soulêve ta paupière close
Qu'effleure un songe virginal ;
Je suis le spectre d'une rose
Que tu portais hier au bal.
Tu me pris encore emperlée
Des pleurs d'argent de l'arrosoir,
Et, parmi la fête étoilée,
Tu me promenas tout le soir.

Ô toi qui de ma mort fus cause,
Sans que tu puisses le chasser,
Toutes les nuits mon spectre rose
À ton chevet viendra danser :
Mais ne crains rien, je ne réclame
Ni messe ni De Profundis ;
Ce léger parfum est mon âme,
Et j'arrive du du paradis.

Mon destin fut digne d'envie ;
Et pour avoir un sort si beau,
Plus d'un aurait donné sa vie,
Car sur ton sein j'ai mon tombeau,
Et sur l'albâtre où je repose
Un poète, avec un baiser,
Écrivit : Ci-gît une rose
Que tous les rois vont jalouser.

(※歌曲投稿サイト「詩と音楽」の藤井宏行氏による対訳・解説「バラの幽霊」(2006.04.14)はこちら)

詩:Pierre-Jules-Théophile Gautier (1811-1872), "Le spectre de la rose", written 1837, appears in La Comédie de la Mort, first published 1838
曲:Hector Berlioz (1803-1869), "Le spectre de la rose", op. 7 no. 2 (1856) [ voice and orchestra ], from Les Nuits d'Été, no. 2, also set in German (Deutsch)

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(参考)

Le Spectre de la Rose - Berlioz - Musings on Music by Elly Ameling (YouTube)

The LiederNet Archive

歌曲投稿サイト「詩と音楽」の藤井宏行氏の対訳・解説「バラの幽霊」

テオフィル・ゴーティエ(Wikipedia)

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ヴォルフ:夕暮れの鐘(Wolf: Abendglöcklein, Op. 9, No. 4)

Abendglöcklein, Op. 9, No. 4
 夕暮れの鐘

Des Glöckchens Schall durchtönt das Tal,
Mir Ruhe zu verkünden;
Nur ich allein mit meiner Pein
Vermag sie nicht zu finden.
 小さな鐘の音が谷に響き渡る、
 それは私に休息の時を告げるためのもの。
 だが苦しみを抱く私だけは
 休息を見出すことができないのだ。

Wann läutest du denn mir zur Ruh'
Von deinem Kirchlein droben?
Sei ruhig, Herz! Ein jeder Schmerz
Hört einmal auf zu toben.
 いつになったら私に休息の鐘を鳴らしてくれるのか、
 おまえのいるあの小さな教会から?
 落ち着け、心よ!苦しみは
 いつか荒ぶるのをやめるから。

Einst wird dich schon des Glöckchens Ton
Mit deiner Qual versöhnen.
Und schweigt der Klang auch noch so lang,
Er muß doch endlich tönen!
 いつの日かお前を鐘の音が
 苦しみと和解させてくれるだろう、
 そして響きも長いこと静まっていたが
 ついに鳴るにちがいない!

詩:Vincenz Zusner (1804-1874)
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Abendglöcklein", op. 9 no. 4 (1876)

作曲:(1876年)3月18日(土)/(1876年)4月24日(月)7:45pm

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ヴォルフが付与した作品番号9の第4曲は、ヴィンツェンツ・ツスナーの詩による「夕暮れの鐘(Abendglöcklein, Op. 9, No. 4)」です。ヴォルフがツスナーの詩に作曲したのはこれが唯一です。ツスナーのWikipediaの記述を見ていたところ、彼は若い音楽家のパトロンでもあって、寄付金をもとに彼の死後、ヴィーン学友協会の音楽学校で毎年彼の詩による音楽作品に1位と2位の賞が授与されたそうです。Wikipediaのリストが1875/76年の学年が初回になっていて、ヴォルフのこの歌曲「夕暮れの鐘」も1876年3月~4月に作曲されているので、もしかしたらこの賞に応募しようと考えていたのかもしれません。

テキストは、弔いの鐘が聞こえるが、苦しみをかかえた主人公のためにはその鐘は鳴ってくれない。だがいつか主人公のために鐘が鳴る日が来るにちがいないという内容です。

ヴォルフは比較的音数を抑えた繊細な作品に仕上げました。左手がバス音だけでなく高音域の鐘の音も表現する為、右手と交差する場面が少なからずあるのが印象的で、この部分をヴォルフは見せ場として演奏したのかもしれません。
歌の旋律は語りのような部分とメロディアスな部分を巧みに使い分けて、なかなか魅力的な作品に仕上がっているのではないかと感じました。速度の変化も細かく指示しています。これまでのようないたずらに装飾的なメリスマを多用することはなくなり、必要最低限の音の使い方で魅力的な旋律を作りあげているように思います。ヴォルフ全集の楽譜第7/3巻では、編集者が臨時記号や音部記号を多く補っており、書法の面ではまだ見落としが多いようですが、音楽自体は成長が見られるのではないでしょうか。

C (4/4拍子)
嬰ハ短調(cis-moll)
Langsam und zart (ゆっくりと繊細に)

●[Hugo Wolf:] Abendglocklein, Op. 9, No. 4
メアリー・ベヴァン(S), ショルト・カイノホ(P)
Mary Bevan(S), Sholto Kynoch(P)

Channel名:メアリー・ビーヴァン - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:11 October 2011, Holywell Music Room, Oxford, U.K.

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(参考)

The LiederNet Archive

Vinzenz Zusner (Wikipedia:独語)

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag

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