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ヴォルフ:愛の春(Wolf: Liebesfrühling, Op. 9, No. 2)

Liebesfrühling, Op. 9, No. 2
 愛の春

Ich sah den Lenz einmal
Erwacht im schönsten Tal;
Ich sah der Liebe Licht
Im schönsten Angesicht.
 私はかつて
 きわめて美しい谷間で春が目覚めたのを見た。
 私は愛の光を
 きわめて美しい顔の中に見た。

Und wandl' ich nun allein
Im Frühling durch den Hain,
Erscheint aus jedem Strauch
Ihr Angesicht mir auch.
 そして私が今ひとりきりで
 春の林をぶらついていると
 各々の茂みから
 彼女の顔があらわれるのだ。

Und seh ich sie am Ort
Wo längst der Frühling fort,
So sprießt ein Lenz und schallt
Um ihre süße Gestalt.
 そして彼女を
 春がとうに過ぎ去った場所で見ると
 春が芽生え、響きわたるのだ、
 彼女の愛らしい姿のまわりで。

詩:Nikolaus Lenau (1802-1850), "Liebesfrühling", appears in Gedichte, in 4. Viertes Buch, in Liebesklänge 
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Liebesfrühling", op. 9 no. 2 (1876)

作曲:1876年1月29日(木)に着手・完成

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ヴォルフが付与した作品番号9の第2曲も、第1曲同様ニコラウス・レーナウの詩によるもので、タイトルは「愛の春」です。

ドイツ語で「春」はFrühlingですが、雅語としてLenzも使われます。このレーナウの詩ではFrühlingとLenzが両方使われていて、意図的に使い分けているのかと思ったのですが、全ての行が弱強のリズムで統一している為、2音節の時にFrüh-ling(強-弱)、1音節の時にLenzを使っているようです。

第1連では主人公の過去の体験が語られ、ある谷間で春が目覚めた(レーナウの原詩では「花開いた」)のを見て、美しい顔の中に愛の光を見たと言います。
第2連以降は現在形で、春の林を散策しているとあらゆる茂みから彼女の顔(ihr Angesicht)があらわわれます。この「彼女」というのが、主人公の恋人なのか、もっと一般的な対象なのかはっきりしませんが、おそらく主人公が愛する対象なのでしょう(春をあらわすFrühling、Lenzはどちらも男性名詞なので、春の擬人化ではなさそうです)。
春がとっくに過ぎ去った場所で「彼女」を見ると、彼女の姿のまわりで「春が芽生え、響き渡る」のです。この「春の芽生え」は「愛の芽生え」なのかもしれません。季節の春は過ぎたものの、人生の春である「愛」が芽生えたということでしょうか。主人公にとっては明るい未来が予感されそうですね。

ヴォルフはこの詩にト長調の軽快な響きで作曲しており、「Allegro scherzando(速く、戯れるように)」という指示を与えています。
ピアノの右手と左手が下行音型をずらして演奏し、主人公と愛する姿がじゃれあっているさまを暗示しているかのようです。
第2連で「そして私が今ひとりきりで/春の林をぶらついていると」の箇所で"langsam(ゆっくりと)"に変わりますが、その後すぐに彼女があらわれる箇所で「lebhaft(生き生きと)」となり、陽気な音楽が戻ってきます。第3連も「そして彼女を/春がとうに過ぎ去った場所で見ると」で「langsamer(よりゆっくりと)」という指示に変わり、続く「春が芽生え、鳴り響くのだ」で「sehr lebhaft(非常に生き生きと)」になります。テキストに細かく対応するところは、後年のヴォルフの兆しが感じられるように思います。これまでの作品同様、この曲でもメリスマのパッセージはいくつかあります。当時のヴォルフはオペラ的な技巧を歌曲に盛り込もうとしていたのかもしれません。あっというまに終わる短い作品ですが、なかなか魅力的だと感じました。

2/4拍子
ト長調(G-dur)
Allegro scherzando

●[Hugo Wolf:] Liebesfrühling (Ich sah den lenz einmal) , Op. 9, No. 2
ベンジャミン・ヒューレット(T), ショルト・カイノホ(P)
Benjamin Hulett(T), Sholto Kynoch(P)

Channel名:ベンジャミン・ヒューレット - トピック(オリジナルのリンク先はこちら)
ライヴ録音:13 & 15 October 2012, Holywell Music Room, Oxford, U.K.

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(参考)

The LiederNet Archive

Hugo Wolf: Hugo Wolf Kritische Gesamtausgabe - Nachgelassene Lieder III (1875-1878)
stretta music
Musikwissenschaftlicher Verlag

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