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エディット・マティス(Edith Mathis)逝去

オペラ、オラトリオから歌曲まで、数々の名演を残したソプラノのエディト・マティス(Edith Mathis)が2月9日に亡くなったそうです。87歳の誕生日の2日前のことでした。ちょうど彼女の誕生日のお祝いの記事を書こうとして、検索していた時に彼女の訃報を知り、力が抜けました。

彼女の来日公演はキャリアの後半になってからですが幸い何度か聞くことが出来て(小松英典、コート・ガーベン、イェルク・デームスなどとの共演)、幸せな思い出となっています(プログラムが部屋から出てきたら記事にしたいと思います)。マスタークラスも一度だけ聞くことが出来て、一人の女性としてもとてもチャーミングな方だなぁと感じたものでした。
彼女はフィッシャー=ディースカウのDGへのシューマン歌曲全集で省かれた女声用歌曲の歌手に抜擢され、3枚組のLPを1979年9月、1981年10月に録音しました。
その中に「くるみの木」が入っていなかったのが残念でなりませんでした。この曲はF=ディースカウがすでに録音していたのですが、マティスの録音した曲の中にはF=ディースカウの録音した曲と重複した曲もいくつか含まれていて、それならば「くるみの木」はなぜ録音してくれなかったのだろうと思っていました。シューマンの歌曲の中でもとりわけとろけるような甘美さをもった作品であり、マティスの歌声はまさに理想的に思えます。

その後、数年前にルツェルン音楽祭の彼女のリサイタル・ライヴ録音(カール・エンゲルのピアノ)がリリースされ、そこにとうとう「くるみの木」が収録されたのです。
その演奏がこちらです。

●Myrthen, Op. 25: No. 3 Der Nussbaum (Live)
Edith Mathis(S), Karl Engel(P)
Recording: 3 Sep. 1975, Kunsthaus, Lucerne (live)

その他の貴重な音源をご紹介します。

●若杉弘/ドレスデン国立歌劇場管来日公演① ◇R・シュトラウス/交響詩「ドン・ファン」&四つの最後の歌(S:エディト・マティス)
指揮:若杉弘/ドレスデン国立歌劇場管弦楽団

1989年4月5日 サントリーホール。「四つの最後の歌」は21:41~。マティスはこの歌曲集をスタジオ録音で残さなかったと思うので、来日公演の動画が残っていて感激しました。
Channel名:kouichi Kimura(オリジナルのサイトはこちらのリンク先です)

●An Edith Mathis Recital (Salzburg, 1983)
Edith Mathis(S), Heinz Medjimorec(P)
Recording: 5 August 1983, Kleines Festspielhaus, Salzburg (live)

クラーラ・シューマンの歌曲をまとめて歌っているのが印象的なライヴです。みな最高ですが、特にブラームスの「ひばりの歌」は絶品です!ちなみにモーツァルトの歌曲R.シュトラウスの歌曲(それぞれ抜粋)はORFEOレーベルからCD化されています。
Channel名:kadoguy(オリジナルのサイトはこちらのリンク先です)

I. W.A. Mozart: Eight songs(モーツァルト:8つの歌曲)
Abendempfindung(夕べの想い), K. 523 0:00
Als Luise die Briefe ihres ungetreuen Liebhabers verbrannte(ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いた時), K. 520 4:55
Das Veilchen(すみれ), K. 476 6:46
Wie unglücklich bin ich nit(なんと私は不幸なことか), K. 147 9:29
Dans un bois(淋しい暗い森の中を), K. 308 10:32
Oiseaux, si tous les ans(鳥たちよ、おまえたちは毎年), K. 307 13:28
Die Zufriedenheit(満足), K. 473 15:08
Der Zauberer(魔法使い), K. 472 17:56

II. Clara Schumann: “Sechs Lieder”, op. 23(クラーラ・シューマン:6つの歌曲Op.23)
Was weinst du, Blümlein(花よどうして泣くの) 19:59
An einem lichten Morgen(ある明るい朝の日に) 22:10
Geheimes Flüstern hier und dort(ひそかなささやき) 24:57
Auf einem grünen Hügel(みどりの丘の上で) 28:27
Das ist ein Tag, der klingen mag(それはある日のこと) 30:31
O Lust, o Lust(ああ、なんという心地よさ) 31:54

III. Johannes Brahms: Seven songs(ブラームス:7つの歌曲)
Vergebliches Ständchen(甲斐なきセレナード), op. 84, no. 4 33:47
Klage(嘆き), op. 105, no. 3 35:43
Über die See(海を越えて), op. 69, no. 7 38:07
Mondnacht(月夜), WoO. 21 40:10
Mädchenlied(娘の歌), op. 107, no. 5 43:21
Lerchengesang(ひばりの歌), op. 70, no. 2 44:52
Frühlingslied(春の歌), op. 85, no. 5 47:23

IV. Richard Strauss: Six songs(R.シュトラウス:6つの歌曲)
Morgen(あした), op. 27, no. 4 48:35
Ach Lieb, ich muß nun scheiden(ああ、愛するひとよ、別れなくてはならない), op. 21, no. 3 52:07
Schön sind, doch kalt die Himmelssterne(星影は美しく、しかし冷たく), op. 19, no. 3 53:59
Die Verschwiegenen(もの言わぬ花たち), op. 10, no. 6 55:55
Heimkehr(帰郷), op. 15, no. 5 57:10
Schlagende Herzen(高鳴る胸), op. 29, no. 2 59:24

V. Encores(アンコール):
Strauss(R.シュトラウス): Hat gesagt - bleibt's nicht dabei(言いました-それだけではすみません), op. 36, no. 3 1:02:09
Brahms(ブラームス): Dein blaues Auge(あなたの青いひとみは), op. 59, no. 8 1:04:23
Brahms: Mädchenlied(娘の歌), op. 95, no. 6 1:06:31
Brahms: Wiegenlied(子守歌), op. 49, no. 4 1:08:00

マティスさん、これまで素敵な演奏を有難うございました。どうか安らかにお休みください。

Bayerische Staatsoper: KS. Edith Mathis verstorben (by Malte Krasting)

BR-KLASSIK: Edith Mathis mit 86 Jahren verstorben (by Volkmar Fischer)

New York Times: Edith Mathis, Radiant Swiss Soprano, Is Dead at 86 (by Adam Nossiter)

lucernefestival (Instagram)

Slippedisc: Renowned soprano, RIP (by norman lebrecht)

Deutsche Oper Berlin: In memory of Edith Mathis

Presto Music: Obituary: Edith Mathis (1938-2025)

NPO klassiek: Sopraan Edith Mathis zingt Mozart en Mahler
zaterdag 12 april 1975: Edith Mathis (sopraan), Aafje Heynis (alt), Toonkunstkoor Amsterdam, Koninklijk Concertgebouworkest, Bernard Haitink (Dirigent)
(マティスがハイティンク指揮コンセルトヘバウ管とモーツァルト「イドメネオ」のアリアとマーラー「復活」を歌ったオランダでのライヴ録音です(アルトはアーフィエ・ヘイニス))

france musique: Hommage à Edith Mathis (フランスのラジオ局によるマティスへのオマージュです。様々な録音が流れます)

Stimmen hören: Mozart-Stimme einer Generation (ORF)

Soprano Edith Mathis: A Conversation with Bruce Duffie

ぶらあぼONLINE:In memoriam エディット・マティス

月刊音楽祭:訃報 〓 エディト・マティス(86)スイスのソプラノ歌手

エディト・マティス(Wikipedia)

エディット・マティスのインタヴュー(「カメラータ・トウキョウ ニュース」より)2001年8月10日付

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コメント

私は12日の新聞で知りました。合掌。

LPのモーツアルトは何回も聞きました。確かご主人がピアノを弾いていたと思います。好きなLPです。

彼女やヤノヴィッツやポップ、ファスベンダーは私にとってはアメリングに続いて聞いたすばらしい歌手たちの一人でした。

公演は1986年に大阪のシンフォニーホールで小林道夫さんのピアノで聞いた一回のみです。やはりモーツアルトが良かったと記憶しています。

投稿: LIEDERKREIS | 2025年2月12日 (水曜日) 09時46分

LIEDERKREISさん、こんにちは。
お久しぶりですね。お元気ですか。

マティスの訃報は新聞にも出たのですね。クラシックの歌手のニュースが一般紙に掲載されるというのは彼女の人気の高さゆえなのでしょう。容姿も愛くるしい感じで魅力的でした。初来日時のベルリンドイツオペラでの人気はきっと凄かったのでしょうね。

元ご主人のベルンハルト・クレーのピアノによるDGのモーツァルト歌曲集ですね。あれは名盤ですよね!
その後Novalisレーベルにもカール・エンゲルと再録音していて、2枚を聞き比べるのも楽しいです。

1986年の大阪公演に行かれたのですか!東京公演はNHKで放送されましたよね。あの場にいたかったです。小林道夫さんのピアノでベートーヴェン、ブラームス、シュトラウスの歌曲がマティスのくっきりとした歌声とチャーミングな表情で歌われて、魅了されました。再放送されないかなぁ。

一度小さなサロンで彼女のリートを聞いたことがあり、あれぐらいのスペースで聞くマティスも格別でした。

エディト・マティスさんのご冥福をお祈りいたします。

投稿: フランツ | 2025年2月12日 (水曜日) 18時30分

フランツさん、こんばんは。

マティス亡くなったのですか。さみしいですね。。
私は実演には恵まれませんでしたが、1990年代にCDをよく聞いたものです。
クリスタルガラスのように透明で、可憐だけど芯の強さも感じさせる声でしたよね。
当時習っていた歌の先生が、マティスを大好きで、特に彼女の歌うシューマンを熱く語っていました。

どこで読んだのかは忘れましたが、「日本人は、ドイツリートを、ドイツ人以上に愛し理解しているように思う」というようなことを言われていました。
いまや、ドイツ本国でも、リートを愛好する人少ないないのでしょうね。
上げてくださったくるみの木、うっとりと聞きました。
マティスさんのご冥福をお祈りいたします。
今頃は、天国で先に旅立った歌手たちとデュエットしているでしょうか。

投稿: 真子 | 2025年2月14日 (金曜日) 19時37分

真子さん、こんにちは。

マティス、亡くなったそうです。ちょうど彼女の誕生日当日に何か記事を書こうと検索した時に訃報を知って驚きました。昔から馴染んでいた音楽家が一人また一人と旅立たれるのは毎回のことですが寂しいです。
真子さんもCDで馴染んでおられたのですね。歌の先生が彼女のシューマンを熱く語っておられたとのこと、シューマン全集の女声用の曲を担当したというだけでなく、リサイタルでも頻繁に取り上げていて、彼女の十八番の一人だったのでしょうね。

>どこで読んだのかは忘れましたが、「日本人は、ドイツリートを、ドイツ人以上に愛し理解しているように思う」というようなことを言われていました。

この言葉は知りませんでした。マティスにそう言っていただけるのは嬉しいですね。全然異なる文化圏に住んでいながら日本人の琴線に触れるものがドイツリートにはあるのではないかと思っています。

このライヴ版「くるみの木」素敵ですよね。他にもライヴが発掘されないかなぁと期待したいところですが、当面はこのライヴを聞きこみたいと思います。

20世紀を彩ったあまたの歌手たちが天国で演奏会を開いていることでしょう。
音楽界に素晴らしい足跡を残した彼女に敬意を表して、いろいろ録音を聞いていきたいと思います。

投稿: フランツ | 2025年2月15日 (土曜日) 12時47分

フランツさん、こんばんは。

>このライヴ版「くるみの木」素敵ですよね。他にもライヴが発掘されないかなぁと期待したいところですが、当面はこのライヴを聞きこみたいと思います。
マティスにぴったりな「くるみの木」、他にももし見つかったらぜひお知らせくださいね。
一方で、一つの録音を何度も何度も聞き込むのもいいことですよね。

>全然異なる文化圏に住んでいながら日本人の琴線に触れるものがドイツリートにはあるのではないかと思っています。
1990年代にプライさんがしきりに来日してくれましたが、彼もまた、
「なぜ日本人がこんなに「冬の旅」に熱狂してくれるのか不思議だった。そして、きちんと自分のメッセージが届いているのか不安だった。しかし、ある時日本で歌舞伎で雪のシーンを見たときにこれだ!と、理解できた」と『音楽の友』で話していました。
「冬の旅」などは特にわびさびの世界と通じるものがあるように思います。
歌舞伎を見てそれを理解したプライさんもやはり芸術家ですね。

アメリカでは「ミスタープライ。冬の旅はすばらしい。しかし、もっと陽気なのを歌ってくれないかい?」と言われたと、自伝にありました(笑)

投稿: 真子 | 2025年2月15日 (土曜日) 20時09分

真子さん、こんにちは。

マティスの歌曲のライヴ音源は意外と少ないんですよね。
ザルツブルク音楽祭やオーストリア西部のシューベルティアーデはほとんどすべて放送用に録音しているでしょうから、そういう音源が出てくるといいなぁと思います。

今あらためていろいろマティスを聞いていますが、やはり素晴らしいですね。歌曲に限らずオペラアリアや宗教曲を聞いてもずっしりとした聴きごたえがあって、超一流の歌手だなぁとあらためて感銘を受けているところです。

プライの話、やはり芸術家ならではの見方で、すごいですね。私は歌舞伎は恥ずかしながら片手で数えられるほどしか見たことはないのですが、歌舞伎の劇場で「冬の旅」を意識することはありませんでした。ただ、真子さんもおっしゃるように日本人のわびさびの精神は「冬の旅」の余分なもののそぎ落とされた簡潔な世界観と共通するところがあるのかもしれませんね。

最後のアメリカでプライが言われた話、面白いですね。でもシューベルトの友人も「冬の旅」をはじめて聞いた時は戸惑ったそうなので、すぐに理解するのは難しいのかもしれませんね。

投稿: フランツ | 2025年2月16日 (日曜日) 12時58分

フランツさん、こんばんは。

「ひばりの歌」何度か繰り返して聞きました。
本当に美しい曲ですよね。
マティスの澄んだ声がこの曲とマッチしていて、曲の魅力を倍増しているように思います。


歌詞を検索していると、2018年8月10日のフランツさんのこの曲の記事が出て来ました。
ディースカウさんとイラーニさんとの演奏も聞きました。男性の優しい声でのこの曲もいいものですね。
コメントに書いておられた
「なんとなく漢字よりもひらかなの見た目がいい時があるので、視覚的にも伝わるものがあるとしたら・・」というお言葉に大変共感しました。
ひらかなは見た目も柔らかくなりますし、意味を限定してしまわない表現の広さも、ひらかなの利点ですよね。

投稿: 真子 | 2025年2月22日 (土曜日) 22時31分

真子さん、こんにちは。

「ひばりの歌」聞いてくださったんですね。マティス、いいですよね^^ 彼女はこの曲をよくリサイタルでも歌っているようです。来日公演がNHKで放送された時はこの曲の放送が省略されていたようで、残念でした(時間的な制約だったのかもしれません)。

以前書いた記事を読んでいただき、有難うございます。私自身は過去の記事は投稿し終わるとほとんど見ないので、久しぶりに見てこんなこと書いていたんだぁと懐かしく思います。
ひらがなと漢字、あるいはひらがなとカタカナでは視覚的に受ける印象が異なるので、訳す時はたまにこだわることがあります(いつも気にしているわけではないのですが)。真子さんのおっしゃる「意味を限定してしまわない表現の広さ」はひらがなの特権ですね。二つの意味をかけることも出来ますしね。歌曲の詩の翻訳は毎回本当に大変なのですが、少しでも歌を聴く助けになればいいなと思っています。

投稿: フランツ | 2025年2月23日 (日曜日) 14時46分

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