エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:ヴォルフ「ただ憧れを知る者だけが(Wolf: Nur wer die Sehnsucht kennt)」
●Musings on Music by Elly Ameling - Wolf - Nur wer die Sehnsucht kennt
Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です)
エリー・アーメリングによる説明(大意)
親愛なる、ゲーテの詩とフーゴ・ヴォルフの歌曲のファンの皆さん、私たちは再び、大人の感情を持つ少女ミニョンを聴くことにします。ゲーテの小説「ヴィルヘルム・マイスターの修行時代」の中で、彼女の言葉はほとんど言葉で表すことの難しい「憧れ」を意味する「Sehnsucht」にあふれています。
「憧れを知る者だけが、私の苦しみを理解することができます。」
最初の小節から、このゲーテの詩のフーゴ・ヴォルフによる歌曲は、以前に「Musings on Music」シリーズで聞いたシューベルトの同じテキストの解釈とは全く異なることが明白です。ヴォルフのバージョンには、シューベルトの独唱版やソプラノとテノールの二重唱版のような胸を打つ叙情性はありません。ヴォルフの場合、前奏の最初の小節から歌の最後までドラマティックです。
(1:36-3:56 ヴォルフ:ミニョンII「ただ憧れを知る者だけが」全曲の演奏)
(3:57-5:06 アーメリングによる詩の朗読と英訳)
メロディーラインの半音階と、ほとんど無調といえる絶えず変化する和声によって生じるドラマと興奮が聞かれます。さらに、テンポは常に前後に揺れます。これらすべてが、ヴォルフの記譜で綿密に示されています。
楽譜編纂者がヴォルフの書いたあらゆる記譜と音符に正確に従っているかどうかを常に注意深くチェックしていたことはよく知られています。
(5:53-6:52 冒頭から"nach jener Seite"まで)
私たちは「jener Seite(あちら側)」という言葉を聞きました。そしてピアノは、この断片を毎回デクレッシェンドしながらどんどんゆっくりと繰り返し、聴く人にまさに「永遠」の感覚を与えています。
(7:19-7:39 "Seh ich an's Firmament nach jener Seite.")
ここでミニョンは「ああ、私を愛し、知る方は遠方にいる」と言います。
そしてヴォルフは、この歌詞の上に再びデクレッシェンドとリタルダンドを書き、その後2小節のピアノソロで「遠方にいる」を表現します。確かに遠く離れています。しかし、直前の「nach jener Seite」という歌詞で「永遠」を表現したときほど遠くはありません。永遠は愛する人の不在よりも遠いのです。
(8:30-9:11 "Seh ich ans Firmament"から"in der Weite."まで)
「私は眩暈がして、体が燃え上がります」
少女は自分の感情に溺れ、それはたった4小節、たった7語で表現されます。その後、ピアノソロがその2倍以上の時間でこの制御不能な状態を表現し、後に彼女が落ち着いて我に返り、悲しく孤独な憧れに戻ります。
「Nur wer die Sehnsucht kennt」の箇所に「innig」という指示があります。これは「親密に」または「内側から」という意味で、演奏者にとって非常に重要です。
最後のフレーズでは、冒頭の同じ単語がここでは違った響きになります。
(10:17-11:24 "Es schwindelt mir, es brennt mein Eingeweide."から最後まで)
フーゴ・ヴォルフは、わずか2分半の歌で、この詩の感情の完全なスケールを表現しました。
シューベルトと異なり、ヴォルフは詩のどの部分も繰り返しませんでした。
ただ、ゲーテ自身と同様に、ヴォルフは詩の最初の行だけを最後に繰り返しました。
この歌曲は 1888 年に作られました。シューベルトがこの詩に最後に2つのバージョンで作曲してから62年後のことです。
時代は変わり、スタイルも異なります。
それではフーゴ・ヴォルフのミニョンをもう一度聞きましょう。
(12:27-14:48 全曲の演奏)
エリー・アーメリング
ルドルフ・ヤンセン(ピアノ)
1983年10月18日, アムステルダム・コンセルトヘバウ
Elly Ameling
Rudolf Jansen, piano
18-10-1983, Concertgebouw Amsterdam
-----
Nur wer die Sehnsucht kennt
ただ憧れを知る人だけが
Nur wer die Sehnsucht kennt
Weiß, was ich leide!
Allein und abgetrennt
Von aller Freude
Seh ich an's Firmament
Nach jener Seite.
Ach, der mich liebt und kennt,
Ist in der Weite.
Es schwindelt mir, es brennt
Mein Eingeweide.
Nur wer die Sehnsucht kennt
Weiß, was ich leide!
ただ憧れを知る人だけが
私が何に苦しんでいるのか分かるのです!
ひとり
あらゆる喜びから引き離されて
私は天空の
あちら側に目をやります。
ああ、私を愛し、知る方は
遠方にいるのです。
私は眩暈がして、
内臓がちくちく痛みます。
ただ憧れを知る人だけが
私が何に苦しんでいるのか分かるのです!
詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), "Mignon", written 1785, appears in Wilhelm Meisters Lehrjahre, first published 1795
曲:Hugo Wolf (1860-1903), "Mignon II", published 1891 [ voice and piano ], from Goethe-Lieder, no. 6, Mainz, Schott
-----
(参考)
| 固定リンク | 0
« 【生誕100年】ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau):ザルツブルク音楽祭出演記録(歌曲・声楽曲編④):1971年~1975年 | トップページ | 【生誕100年】ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau):ザルツブルク音楽祭出演記録(歌曲・声楽曲編⑤):1976年~1979年 »
「音楽」カテゴリの記事
「エリー・アーメリング Elly Ameling」カテゴリの記事
「詩」カテゴリの記事
- エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:ヴォルフ「ただ憧れを知る者だけが(Wolf: Nur wer die Sehnsucht kennt)」(2025.01.26)
- エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:シューベルト「ただ憧れを知る者だけが(Schubert: Nur wer die Sehnsucht kennt, D 877/1)」(二重唱曲)(2024.12.13)
- コルネーリウス:シメオン (Cornelius: Simeon, Op. 8, No. 4)(2024.12.25)
- フォレ:降誕祭(Fauré: Noël, Op. 43, No. 1)(2024.12.24)
「ヴォルフ Hugo Wolf」カテゴリの記事
「ゲーテ Johann Wolfgang von Goethe」カテゴリの記事
- エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:ヴォルフ「ただ憧れを知る者だけが(Wolf: Nur wer die Sehnsucht kennt)」(2025.01.26)
- エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:シューベルト「ただ憧れを知る者だけが(Schubert: Nur wer die Sehnsucht kennt, D 877/1)」(二重唱曲)(2024.12.13)
- ブラームス「夕闇が上方から垂れ込め(Dämmrung senkte sich von oben, Op. 59, No. 1)」を聴く(2024.06.15)
- ブラームス/「打ち勝ちがたい(Unüberwindlich, Op. 72/5)」を聞く(2023.12.23)
コメント