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ブラームス「嘆き」(Brahms: Klage, Op. 105, No. 3)を聴く

Klage, Op. 105, No. 3
 嘆き

Feins Liebchen, trau du nicht,
Daß er dein Herz nicht bricht!
Schön Worte will er geben,
Es kostet dein jung Leben,
Glaub's sicherlich!
 素敵な恋するお嬢さん、信じては駄目よ、
 あの男があなたの心をズタズタにするわけがないなんて!
 彼は美辞麗句を並べ立てるでしょうが、
 それは若いあなたの命取りになるわ
 このことを絶対に信じていてね!

Ich werde nimmer froh,
Denn mir ging es also:
Die Blätter vom Baum gefallen
Mit den schönen Worten allen,
Ist Winterzeit!
 私は二度と楽しくなることはないでしょう、
 なぜなら私の身に起こったのは、
 木から葉っぱが
 あの美辞麗句すべてと共に落ちてしまったの、
 それは冬のこと!

Es ist jetzt Winterzeit,
Die Vögelein sind weit,
Die mir im Lenz gesungen,
Mein Herz ist mir gesprungen
Vor Liebesleid.
 今は冬、
 小鳥たちは遠くに行ってしまった、
 春には私に歌ってくれたの。
 私の心は張り裂けてしまった
 愛に苦しむあまり。

詩:Volkslieder (Folksongs) , collected by Kretzschmer and Zuccalmaglio, Berlin, first published 1838-40
曲:Johannes Brahms (1833-1897), "Klage", op. 105 (Fünf Lieder) no. 3 (1887/8), published 1888 [ voice and piano ], Berlin, Simrock

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アンドレアス・クレッチュマー(Andreas Kretzschmer: 1775-1839)とアントン・ヴィルヘルム・フォン・ツッカルマーリョ(Anton Wilhelm von Zuccalmaglio: 1803-1869)収集の『オリジナルの歌付きドイツ民謡集(Deutsche Volkslieder mit ihren Original-Weisen)』という全2巻の民謡集が1838年、1840年にベルリンから出版されているのですが、その第2巻(ツッカルッマーリョ収集)に収められているのが、この「嘆き」という民謡です。「ニーダーライン地方の民謡から(Vom Niederrhein)」と記載されています。
ツッカルッマーリョ収集の「嘆き」の楽譜が下記のものです。

Klage_1 
Klage_2 

ブラームスはこの民謡のテキストのみを用いて、おそらく1888年にオリジナルの民謡とは全く異なる曲を付けました(ただ、有節形式で作曲されているのは、オリジナルの民謡を意識しているのでしょう)。同年10月に『ピアノ伴奏付きの低声独唱のための5つの歌(5 Lieder für eine tiefere Stimme mit Begleitung des Pianoforte)』作品105の3曲目として出版されました。

ブラームスの曲は、前奏なしでいきなり歌が始まります。
1行目はヘ長調のトニックで終わりますが、2行目の最後(bricht:brechen(壊す、破る)の3人称単数)はVIの和音の疑終止で不穏な空気を醸し出し、歌声部の最後はニ短調で締めくくります。ただ、ピアノ後奏の最後はヘ長調の主和音に戻ります。

男に裏切られた女性が、その男を好きになった友人(もしくは姉妹)に警告しているのでしょう。うまい言葉に騙された女性の嘆きが短い音楽の中に凝縮されて、聞き手の心を揺さぶります。3節の一見簡素な有節歌曲で、これほどまでに深いドラマを描いてしまうブラームスの手法にただただ脱帽するのみです。

ピアノ後奏は、歌の最後の4つの音の進行を引き継ぎ、最後は音価(音の長さ)を拡張して終結します。ブラームスが民謡調の作品の中に込める密度の濃さを強く感じる作品の一つです。

Klage-ending 

・ベルリンのN. Simrock社から1888年に出版された初版楽譜(第3節は下の楽譜の次のページにあるのですが、音楽は同一です)

Brahms-klage 

3/4拍子
ヘ長調(F-dur)-ニ短調(d-moll)
Einfach und ausdrucksvoll(単純に、表情豊かに)

●ジェスィー・ノーマン(S), ダニエル・バレンボイム(P)
Jessye Norman(S), Daniel Barenboim(P)

ノーマンの繊細な語り口に魅了されます。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Wolfgang Sawallisch(P)

F=ディースカウは民謡の言葉からも深い心理描写を描き出していて、凄みを感じました。

●クリストフ・プレガルディアン(T), ウルリヒ・アイゼンローア(P)
Christoph Prégardien(T), Ulrich Eisenlohr(P)

プレガルディアンが真摯に歌っていて、心に沁みました。シューベルトの有節歌曲では装飾を加えていたプレガルディアンですが、ブラームスのこの曲では装飾を加えていませんでした。

●レベッカ・シュテーア(MS), トビアス・ハルトリープ(P)
Rebekka Stöhr(MS), Tobias Hartlieb(P)

ゆっくり目のテンポでしっとりとした雰囲気を醸し出すシュテーアの表現力が素晴らしかったです。ハルトリープも歌の雰囲気としっかり合致した演奏でした。

●ソフィー・レンネルト(MS), グレアム・ジョンソン(P)
Sophie Rennert(MS), Graham Johnson(P)

Hyperionのブラームス歌曲全集の10巻。オーストリアのメゾ、レンネルトが素直に歌っています。

●エンミ・ライスナー(A), ミヒャエル・ラウハイゼン(P)
Emmi Leisner(A), Michael Raucheisen(P)

ラウハイゼンによるドイツ歌曲プロジェクトの一環として録音されたものです。ライスナーの表情豊かで深々とした歌は古さを全く感じさせません。

●ピアノパートのみ(Mariya Broytman(P))
Johannes Brahms, Klage, Op.105, No. 3, Piano Accompaniment, F major, no voice

Channel名:accompaniment piano(オリジナルのサイトはこちらのリンク先。音が出ますので要注意)
ピアノパートだけで聴いてもブラームスの素晴らしさが伝わってきます!ゆっくり目の演奏ですので、一緒に歌ってみるのもいいですね。

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The LiederNet Archive

IMSLP (楽譜)

Deutsche Volkslieder mit ihren Original-Weisen / Zweiter Theil. (A. Wilh. v. Zuccalmaglio / Berlin, 1840 / Vereins-Buchhandlung) (リンク先はGoogleブックスに掲載されているこの書籍の表紙に飛ぶので、画面下の「この書籍内を検索」欄に例えば「Feins Liebchen, trau du nicht」と入力してリターンを押して下さい。すると2つ検索結果の画面が出るので、460ページと書いてある方をクリックすると表示されます)

Andreas Kretzschmer (Wikipedia (独語))

Anton Wilhelm von Zuccalmaglio (Wikipedia (独語))

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