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日本カール・レーヴェ協会コンサート・2024 (Nr. 35) (2024年9月23日 王子ホール)

第35回日本カール・レーヴェ協会コンサート・2024
レーヴェ&ドイツ歌曲のワンダーランド

2024年9月23日(月・祝)14:00-(16:20頃終演) 王子ホール

辻宥子(進行・朗読)
境澤稚子, 新居佐和子, 峯島望美(以上S)
竹村淳, 櫻井利幸, 杉野正隆(以上BR)
高須亜紀子, 菅野宏一郎, 東由輝子, 平島誠也, 松永充代, 田中はる子(以上P)
佐藤征一郎(監修)

境澤稚子(Sakaizawa Wakako)(S), 高須亜紀子(P)
レーヴェ:エフタの娘 (Loewe: Jephtha's Tochter, Op.5-2)
マーラー:私はほのかな香りをかいだ (Mahler: Ich atmet' einen linden Duft)
マーラー:夏に交代 (Mahler: Ablösung im Sommer)
マーラー:あなたが美しさゆえに愛するのなら (Mahler: Liebst du um Schönheit)

竹村淳(Takemura Atsushi)(BR), 菅野宏一郎(P)
レーヴェ:アーチバルト・ダグラス (Loewe: Archibald Douglas, op.128)

新居佐和子(Niori Sawako)(S), 東由輝子(P)
レーヴェ:時計 (Loewe: Die Uhr, Op.123-3)
ヴォルフ:アナクレオンの墓 (Wolf: Anakreons Grab)
ヴォルフ:人の好い夫婦 (Wolf: Gutmann und Gutweib)

~休憩(15分)~

櫻井利幸(Sakurai Toshiyuki)(BR), 平島誠也(P)
レーヴェ:渡し (Loewe: Die Überfahrt, Op.94-1)
レーヴェ:オルフ殿 (Loewe: Herr Oluf, Op.2-2)

峯島望美(Mineshima Nozomi)(S), 松永充代(P)
レーヴェ:ああ、お願いです、苦しみの聖母さま! (Loewe: Ach neige, du Schmerzenreiche, Op.9-1)
レーヴェ:鐘のお迎え (Loewe: Die wandelnde Glocke, Op.20-3)
ツェムリンスキー:愛らしいツバメさん (Zemlinsky: Liebe Schwalbe, Op.6-1)
ツェムリンスキー:小さな窓よ、夜にはお前は閉じている (Zemlinsky: Fensterlein, nachts bist du zu, Op.6-3)
ツェムリンスキー:青い小さな星よ (Zemlinsky: Blaues Sternlein, Op.6-5)
ツェムリンスキー:手紙を書いたのは私 (Zemlinsky: Briefchen schrieb ich, Op.6-6)

杉野正隆(Sugino Masataka)(BR), 田中はる子(P)
レーヴェ:蓮の花 (Loewe: Die Lotosblume, Op.9-1)
レーヴェ:ぼくは夢で泣いた (Loewe: Ich hab' im Traume geweinet, Op.9-6)
レーヴェ:詩人トム (Loewe: Thomas der Reimer, Op.135)

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日本カール・レーヴェ協会コンサートを聴きに、銀座の王子ホールに行ってきました。調べたところ前回王子ホールに来たのが9年前の2015年でした(サンドリーヌ・ピオー&スーザン・マノフ)。ここ数年はごく限られたコンサートぐらいしか出かけることがないのですが、これほど王子ホールが久しぶりとは思ってもいませんでした。9年ぶりの王子ホールは特に変わったところもなく、これまで同様の素敵なホールでした。

そういえばちょっと開演まで時間があったので、久しぶりに山野楽器でCDでも見ようとお店の前まで行ったところ、CDの販売を終了した旨の案内があり、驚きました。こんな大きなお店でもCDはもう売れないのでしょうか。CDショップも最近見かけなくなり、現物を買うにはネットかご本人のコンサート会場に行くしかなくなる日も近いのかもしれません(渋谷のタワーレコードには頑張ってほしいです)。

閑話休題。なぜ今回レーヴェ協会のコンサートに出かけたかというと、最近レーヴェの歌曲を少しずつ聞くようになり、cpoのレーヴェ歌曲全集を調べたりしていたところ、たまたまネットでこのコンサートの広告が目に入り、祝日ということもあり、曲目も興味深かったので出かけることにしたのです。

ピアニストの平島さんと東さんは以前に聞いたことがあり優れたピアニストであることは存じ上げていて、さらに今回進行役と朗読を務められたメゾソプラノの辻宥子さんは随分昔ですがこちらのリンク先のコンサートを聞いています。辻さんを含む4人の日本人歌手たちとドルトン・ボールドウィンによるこのロッシーニのコンサートは楽しかったのを覚えています。

日本カール・レーヴェ協会のコンサートは、私がこのブログを始めるよりも前に一度聞いた記憶があります(記憶が正しければ)。おそらく家のどこかにパンフレットがあると思います。
今回のコンサート、6人の歌手(ソプラノ3人とバリトン3人)と、それぞれ異なるピアニスト6人が、レーヴェのみ、もしくはレーヴェと他の作曲家の作品を合わせて披露していました。

最初の境澤稚子さん&高須亜紀子さんはレーヴェ1曲+マーラー3曲で、レーヴェの「エフタの娘」は聖書の話に基づくそうです。辻さんの解説によると、エフタが戦争に勝たせてくださいとエホヴァに祈り、もし勝利したら帰宅して最初に出迎えた者を捧げますと誓います。エフタが戦争に勝ち、帰宅したところ彼の愛娘が最初に出迎えて、エホヴァに捧げられることになります。バイロンの詩の独訳がテキストに用いられていますが、詩を読むとこの娘が気丈にも死ぬことを覚悟していることが分かります。父エフタが人身御供として娘を殺したという説と、殺されずにエホヴァに仕えて暮らしたという説があるようです。一方マーラーはしっとりとした2曲の間にコミカルな「夏に交代」がはさみこまれたプログラミングでした。

次の竹村淳さん&菅野宏一郎さんはレーヴェの10分以上かかる「アーチバルト・ダグラス」1曲を披露しました。歌曲としては10分はかなり長い方ですが、辻さんと竹村さんのトークでも触れられていましたが、実際にはもっと長い作品が沢山あり、cpoのレーヴェ全集を見ると、聞く前から身構えてしまいそうな長さの作品が多いことが分かります。この「アーチバルト・ダグラス」はレーヴェの作品の中では比較的よく演奏されていて、ヒュッシュからF=ディースカウ、プライ、ホッター、クルト・モル、クヴァストホフ、さらに現役世代のトレーケルやクリンメルまで録音しています。
アーチバルド・ダグラス伯爵はジェームズ王の子供の頃から支えてきましたが、アーチバルドの兄弟が謀反を起こした結果、ダグラス家は追放となります。7年間放浪したアーチバルドは再度ジェームズ王の前にあらわれ許しを請います。最初のうちはアーチバルドを見なかったこと、聞かなかったことにして、そのまま行こうとしますが、アーチバルドがもう一度だけ馬の世話をして故郷の空気を吸わせてほしい、それがかなわないのならばこの場で死なせてほしいと訴えます。それを聞いたジェームズ王は、その忠義心に胸を打たれ、彼を許して一緒に故郷へ向かうという内容です。レーヴェの曲がバラードの展開に沿って細やかに描かれていき、その長大さを感じさせない見事な作品だと思います。

前半最後の新居佐和子さん&東由輝子さんはレーヴェの有名な「時計」とヴォルフのゲーテ歌曲2曲を演奏しました。辻さんが最初の解説でこの「時計」というのは何のことをたとえているのでしょうと客席に問いかけて演奏が始まりました。最後の瞬間にひとりでに止まるであろう時計を神様にお返ししようとする主人公の心臓の鼓動を時計になぞらえているのでしょう。
ヴォルフの「アナクレオンの墓」は享楽主義の古代ギリシャの詩人を称えた名作。そしてなかなか実演で聞けない「人の好い夫婦」を聞けたのが楽しかったです(「人の好い夫婦」はレーヴェも作曲していますが、ここではヴォルフの作品が披露されました)。ヴォルフは先人が成功していると思った詩には作曲しなかったそうなので、レーヴェ作曲の「人の好い夫婦」には満足していなかったのかもしれません。

ここまで前半だけで1時間でしたがあっという間でした。

休憩15分をはさみ、後半は櫻井利幸さん&平島誠也さんのレーヴェ2曲で始まりました。最初の「渡し」は辻さんが「私」ではないですよと冗談をおっしゃり、場を和ませていました。この曲、歌手活動最晩年のディースカウも録音していて、川を渡る水の音を模すピアノパートに乗って美しい歌が静かな感銘を与えてくれます。何年も前に主人公が2人の友人と一緒にこの川を渡ったが、その2人は亡くなってしまった。再度同じ川を渡った後、今も絆のつながっている友人たちの分も含めた3人分の船賃を船頭に払うという内容です。一方で有名な「オルフ殿」はデンマークの詩のヘルダーによる独訳に作曲され、おどろおどろしい内容は、辻さんたちの解説でも触れられていましたが「魔王」によく似ています。演奏前に辻さんにふられて平島さんが前奏や夜が明けて朝になる場面の間奏を演奏してくれました。こういう実例の演奏は曲をはじめて聞く人にとっても大きな助けになるのではないかと思います。

続いて、峯島望美さん&松永充代さんはレーヴェ2曲とツェムリンスキー4曲を演奏しました。峯島さんはこのコンサート初登場だそうです。レーヴェの「ああ、お願いです、苦しみの聖母さま!」はシューベルトも作曲している「ファウスト」内のテキストによる作品で、凝縮した悲しみの表現が素晴らしい作品です。一方の「鐘のお迎え」は「追いかける鐘」と訳されることもある有名なリートで、教会にいきたがらない少年を鐘が追いかけるというユーモラスな作品です。続いてのツェムリンスキーは6曲からなる「トスカーナ地方の民謡によるワルツの歌Op. 6」からの4曲が演奏されました。初期のツェムリンスキーのまだ初々しさも感じられる耳に馴染みやすい作品群です。ピアノパートがすでに精緻でかなりの演奏効果をあげていました。

最後は杉野正隆さん&田中はる子さんによるレーヴェ3曲。最初の2曲「蓮の花」「ぼくは夢で泣いた」はいずれもシューマンの歌曲が有名ですが、レーヴェの作品も素晴らしいです。前者は舟歌のようなリズムにのって歌われる歌声部の繊細な響きが美しく、後者は上行する旋律が印象的で有節形式なので繰り返し聞くうちに耳に残ります。今回のコンサートの締めは有名な「詩人トム」です。詩人トーマスが寝そべっていると妖精の女王に出会い、口づけをすると7年私に仕えなければならないと言われたトムは喜んで口づけをし、なんとも幸せを感じながら(Wie glücklich)女王とともに馬を進めたという内容です。馬のたてがみに付けられている鈴の音がピアノパートで美しく再現されます。歌声部は詩の展開に沿って進みますが、基本的にはのどかで心地よい響きに満ちています。素性の知らない女性と会っても驚きもせず、帽子をとって挨拶するトムの人物像はおそらくオリジナルのスコットランドの詩に由来するのではないかと想像します。

演奏はみな素敵でした。ソプラノ3人はそれぞれ個性の違う方たちで、同じソプラノでも異なる声の響きで楽しませていただきました。特に峯島さんは声量が豊かで「ああ、お願いです、苦しみの聖母さま!」の悲しみの表現など素晴らしかったです。他のお二人もそれぞれの個性を生かした表現で楽しませていただきました。

バリトン3人の中ではおそらく竹村さんが若い方のようで、櫻井さんと杉野さんはベテランの貫禄が滲み出ていました。3人ともかなり声のボリュームが凄くて、王子ホールより大きなホールでも余裕で後部座席まで届きそうな豊かな声をされていました。竹村さんはとても丁寧で真摯な表現で今後楽しみな歌手だと思いました。そして櫻井さんと杉野さんは味わい深い声の響きと表現力に酔いしれました。

ピアニストは久しぶりに聴いたベテランの平島さんはもちろん素晴らしくレーヴェの作品の展開を描いていましたし、東さんの余裕のある美しい響きも良かったです。今回他の4人の方も含め、みなピアノの音がとても美しく、どれほど一つの音を出すのに入念な準備をされているのだろうと思うほど、磨き抜かれた響きでした。6人の素晴らしいピアニストを聞くことが出来て大満足でした。

忘れてならないのが進行・朗読を務められた辻宥子さんです。舞台左の椅子に座られ、最初から最後まで聴衆と演奏者どちらにも場を和ます気配りをされながら会の進行を務めておられました。まず語りが素晴らしく、詩の内容や背景などの説明から朗読まで、どこを取っても味わい深さが感じられるものでした。ちなみに詩の全訳ではなく抄訳の為、「朗読」という言葉を使うことをためらわれていましたが、眼前に情景が浮かぶような見事な語りを披露されていて、紛れもなく朗読という芸術を味わった気持ちでした。今一度辻さんの歌も聞いてみたい気がします。

最後に、このプロジェクトを立ち上げられた監修の佐藤征一郎さんにも大きな拍手を送りたいと思います。
配布された充実した内容のプログラム冊子(堀越隆一氏の解説も貴重な資料です)に「エピローグとしてのプロローグ」という文章を寄稿されていて、大変なご苦労があった中、現在は音源の整理や執筆活動をされているということが分かりひとまず安心しました。当日会場にいらっしゃったのかどうかは分かりませんでしたが、今後も執筆活動など楽しみにしたいと思います。ちなみに高橋アキさんやボールドウィンと組んだ佐藤さんのレーヴェのCDも素晴らしいので、興味のある方はぜひ聞いてみてください。

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(参考)

日本カール・レーヴェ協会(ホームページ)

日本カール・レーヴェ協会(facebook)

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エリーの要点「インフルエンサー」(Elly's Essentials; “Influencer”)

●Elly's Essentials; “Influencer”

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です。音声が出ます。)

(エリー・アーメリングの言葉の大意)

ある若い友人が私を喜ばせようとして「あなたは今やインフルエンサーだね」と言ったのですが、私はそうではありません。私がこの短い動画でやろうとしているのは音楽愛好家に考えてもらえるような音楽的、声楽的アイデアを提示することです。そうすることでおそらく彼らの想像力が豊かになるでしょう。

(0:58- Wolf: Rat einer Alten)
Elly Ameling, Dalton Baldwin

Rat einer Alten
 老女の忠告

Bin jung gewesen,
Kann auch mit reden,
Und alt geworden,
Drum gilt mein Wort.
 私だって若い時があったのだから
 若い子の話の輪に入れるさ、
 こうして年をとったから
 私の言うことは聞いといたほうがいいよ。

Schön reife Beeren
Am Bäumchen hangen:
Nachbar, da hilft kein
Zaun um den Garten;
Lustige Vögel
Wissen den Weg.
 きれいな熟れたいちごが
 低木に生(な)っている。
 お隣さん、庭に生垣があっても
 意味ないよ。
 元気な鳥たちは
 行き方を心得ているからね。

Aber, mein Dirnchen,
Du laß dir rathen:
Halte dein Schätzchen
Wohl in der Liebe,
Wohl in Respekt!
 でも、お嬢ちゃん、
 アドバイスをお聞き、
 あんたのいとしい人をつかまえておきなさい、
 愛情と
 敬意をもってね!

Mit den zwei Fädlein
In Eins gedrehet,
Ziehst du am kleinen
Finger ihn nach.
 2本の糸を
 よじって1本にしたら、
 あんたのちっちゃな指に
 彼氏をしっかり結ぶのよ。

Aufrichtig Herze,
Doch schweigen können,
Früh mit der Sonne
Muthig zur Arbeit,
Gesunde Glieder,
Saubere Linnen,
Das machet Mädchen
Und Weibchen werth.
 正直な心をもち、
 でも口をつぐむことが出来ること、
 太陽が顔を出す早朝から
 勇気をもって仕事に勤しむこと、
 健やかな身体と
 清潔な亜麻布を身に着けること、
 それが乙女と
 女性の価値となるのよ。

Bin jung gewesen,
Kann auch mit reden,
Und alt geworden,
Drum gilt mein Wort.
 私だって若い時があったのだから
 若い子の話の輪に入れるさ、
 こうして年をとったから
 私の言うことは聞いといたほうがいいよ。

詩:エドゥアルト・メーリケ(Eduard Mörike: 1804-1875), "Rath einer Alten"
曲:フーゴー・ヴォルフ(Hugo Wolf: 1860-1903), "Rat einer Alten", from Mörike-Lieder, no. 41

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(参考)

Elly's Essentials; “Influencer” (YouTube)

The LiederNet Archive

IMSLP (Volume 1, P.147)

Gedichte von Eduard Mörike (Stuttgart, Göschen'sche Verlagshandlung, 1867) (P.14: Rath einer Alten)

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エリー・アーメリング(Elly Ameling)の「Musings on Music」シリーズ:フォレ&ドビュッシー「それはもの憂い恍惚(C'est l'extase langoureuse)」

●Musings on Music by Elly Ameling - Fauré - Debussy, C'est l'extase langoureuse

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です)

フォレとドビュッシーの「それはもの憂い恍惚(C'est l'extase langoureuse)」(ヴェルレーヌ詩)についてアーメリングが解説しています。
実は一度この動画を見て記事を作り、ほぼ完成の状態までいったのですが、突然PCがフリーズしてしまい、原稿をクラウドに保管していなかった為、記事が飛んでしまいました。以前にも同様のことがあり、最近はこまめにクラウドやブログの下書きに保存していたのですが、今回それをさぼってしまいました。もう一度同じ作業をする気力が残っていないので、今回は動画の共有だけにとどめることにします。アーメリングが譜例で説明しながらフォレとドビュッシーの違いを解き明かしていますので、ぜひご覧ください。それにしてもアーメリング様はお元気でチャーミングです。

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ジークフリート・ローレンツ&ノーマン・シェトラー/シューベルト歌曲集(8CDs)

2024年に相次いで旅立った二人の名演奏家、ジークフリート・ローレンツ(Siegfried Lorenz)&ノーマン・シェトラー(Norman Shetler)は、ドレスデンのLukaskircheで13年間にわたってシューベルトの歌曲集、全150曲を録音してきました。その後、BERLIN Classicsから8枚組のCDボックスにまとめられてリリースされています。
内訳は下記の通りです。

CD 1: Schubert: Die schöne Müllerin, D 795 (rec. March 1987, Lukaskirche, Dresden)
『美しい水車屋の娘』

CD 2: Schubert: Winterreise, D 911 (rec. Sep. 1986, Lukaskirche, Dresden)
『冬の旅』

CD 3: Schubert: Schwanengesang, D 957 / D 965A (rec. Nov. 1985, Lukaskirche, Dresden)
『白鳥の歌』

CD 4: Schubert: Lieder nach Goethe (rec. Sep. 1974, Lukaskirche, Dresden)
『ゲーテの詩による歌曲集』

CD 5: Schubert: Lieder nach Schiller (rec. May 1976, Lukaskirche, Dresden)
『シラーの詩による歌曲集』

CD 6: Schubert: Lieder nach Mayrhofer (rec. July 1980, Lukaskirche, Dresden)
『マイアホーファーの詩による歌曲集』

CD 7: Schubert: Lieder nach verschiedenen Dichtern (rec. March 1983(1-22,29-31), March 1977(23-28), Lukaskirche, Dresden)
『様々な詩人の詩による歌曲集』

CD 8: Schubert: Lieder nach Dichtern des Freundeskreises; Autobiographische Lieder (rec. March 1977(1-8), Oct. 1976(9-22), Lukaskirche, Dresden)
『友人サークルの詩人の詩による歌曲集/自伝的な歌曲集』

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録音年代を見ると、ばらばらですので、時系列に並べ替えてみます。

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●1974年9月23-26日録音(※23-26日のデータは、国内盤LPの表記による)
CD 4: Schubert: Lieder nach Goethe (rec. Sep. 1974, Lukaskirche, Dresden)
Erlkönig, D328
Der Schatzgräber, D 256
Wandrers Nachtlied I, D 224 "Der du von dem Himmel bist"
Grenzen der Menschheit, D 716
An Schwager Kronos, D 369
Prometheus, D 674
Der Sänger, D 149
Der König in Thule, D 367
An den Mond I, D 259
Versunken, D 715
Liebhaber in allen Gestalten, D 558
Jägers Abendlied, D 368
An die Entfernte, D 765
Willkommen und Abschied, D 767
Geheimes, D 719
Heidenröslein, D 257
Der Musensohn, D 764

●1976年5月17-20日録音(※17-20日のデータは、国内盤LPの表記による)
CD 5: Schubert: Lieder nach Schiller (rec. May 1976, Lukaskirche, Dresden)
Der Pilgrim, D 794
Der Taucher, D 111
Der Jüngling am Bache, D 638
Sehnsucht, D 636 "Ach, aus dieses Tales Gründen"
Hoffnung, D 637 "Es reden und träumen die Menschen"
Die Bürgschaft, D 246

●1976年10月録音
CD 8: Schubert: Lieder nach Dichtern des Freundeskreises; Autobiographische Lieder (rec. Oct. 1976(9-22), Lukaskirche, Dresden)
An die Musik, D 547b
Der zürnende Barde, D 785
Des Sängers Habe, D 832
Schatzgräbers Begehr, D 761b
Der Jüngling und der Tod, D 545b
Abschied von einem Freunde, D 578
Selige Welt, D 743
Schiffers Scheidelied, D 910
Der Strom, D 565
Fischerweise, D 881
Jägers Liebeslied, D 909
Widerschein, D 949
Totengräberweise, D 869
Schwanengesang, D 744 "Wie klag' ich's aus, das Sterbegefühl"

●1977年3月録音
CD 7: Schubert: Lieder nach verschiedenen Dichtern (rec. March 1977(23-28), Lukaskirche, Dresden)
An die Sonne, D 272
Alinde, D 904
An die Laute, D 905
Hippolits Lied, D 890
Der Leidende, D 432
Das Heimweh, D 356 "Oft in einsam stillen Stunden"

●1977年3月録音
CD 8: Schubert: Lieder nach Dichtern des Freundeskreises; Autobiographische Lieder (rec. March 1977(1-8), Lukaskirche, Dresden)
Sängers Morgenlied, D 165
Liebeständelei, D 206
Das war ich, D 174
Sehnsucht der Liebe, D 180
Liebesrausch, D 179
Frühlingsglaube, D 686
Glaube, Hoffnung und Liebe, D 955
Grablied für die Mutter, D 616

●1980年7月録音
CD 6: Schubert: Lieder nach Mayrhofer (rec. July 1980, Lukaskirche, Dresden)
Sehnsucht, D 516 "Der Lerche wolkennahe Lieder"
Atys, D 585
An die Freunde, D 645
Die Sternennächte, D 670
Beim Winde, D 669
Nachtviolen, D 752
Heliopolis I, D 753 "Im kalten, rauhen Norden"
Der Schiffer, D 536
Wie Ulfru fischt, D 525
Auf der Donau, D 553
Gondelfahrer, D 808
Nachtstück, D 672
Der Sieg, D 805
Zum Punsche, D 492
Heliopolis II (Im Hochgebirge), D 754 "Fels auf Felsen hingewälzet"
Geheimnis, D 491
Lied eines Schiffers an die Dioskuren, D 360

●1983年3月録音
CD 7: Schubert: Lieder nach verschiedenen Dichtern (rec. March 1983(1-22,29-31), Lukaskirche, Dresden)
Die Forelle, D 550
Fischerlied, D 351 "Das Fischergewerbe gibt rüstigen Mut!"
Pflügerlied, D 392
Der Jüngling an der Quelle, D 300
Herbstlied, D 502
Das Grab, D 569
An den Tod, D 518
Geisternähe, D 100
Der Geistertanz, D 116
Klage, D 415
Der Tod und das Mädchen, D 531
Auf dem Wasser zu singen, D 774
Stimme der Liebe, D 412
Täglich zu singen, D 533
Lied vom Reifen, D 532
Adelaide, D 95
Lebenslied, D 508
Zufriedenheit, D 362
Skolie, D 507
Naturgenuß, D 188
Wiegenlied, D 498 "Schlafe, schlafe, holder, süßer Knabe"
Abendlied, D 499 "Der Mond ist aufgegangen"
Am Tage Aller Seelen, D 343
Die Perle, D 466
Der Wanderer, D 489 (formerly D 493) "Ich komme vom Gebirge her"

●1985年11月録音
CD 3: Schubert: Schwanengesang, D957/D965A (rec. Nov. 1985, Lukaskirche, Dresden)

●1986年9月録音
CD 2: Schubert: Winterreise, D911 (rec. Sep. 1986, Lukaskirche, Dresden)

●1987年3月録音
CD 1: Schubert: Die schöne Müllerin, D 795 (rec. March 1987, Lukaskirche, Dresden)

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1974年にゲーテ歌曲集を録音したのを皮切りに、翌年シラー歌曲集、続いて70年代から80年代前半にかけて個々の歌曲を録音していきます(特に1980年にはマイアホーファー歌曲集を録音しています)。そして1985年から87年にかけて毎年1枚ずつ3大歌曲集を録音していきます。これらの3大歌曲集はCapriccioレーベルからリリースされたものと同一音源と思われます。

参考までに、CDの内訳をエクセルにまとめましたので、興味のある方はこちらからダウンロードしてご覧いただければと思います。

ダウンロード(Excel)

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ブラームス「嘆き」(Brahms: Klage, Op. 105, No. 3)を聴く

Klage, Op. 105, No. 3
 嘆き

Feins Liebchen, trau du nicht,
Daß er dein Herz nicht bricht!
Schön Worte will er geben,
Es kostet dein jung Leben,
Glaub's sicherlich!
 素敵な恋するお嬢さん、信じては駄目よ、
 あの男があなたの心をズタズタにするわけがないなんて!
 彼は美辞麗句を並べ立てるでしょうが、
 それは若いあなたの命取りになるわ
 このことを絶対に信じていてね!

Ich werde nimmer froh,
Denn mir ging es also:
Die Blätter vom Baum gefallen
Mit den schönen Worten allen,
Ist Winterzeit!
 私は二度と楽しくなることはないでしょう、
 なぜなら私の身に起こったのは、
 木から葉っぱが
 あの美辞麗句すべてと共に落ちてしまったの、
 それは冬のこと!

Es ist jetzt Winterzeit,
Die Vögelein sind weit,
Die mir im Lenz gesungen,
Mein Herz ist mir gesprungen
Vor Liebesleid.
 今は冬、
 小鳥たちは遠くに行ってしまった、
 春には私に歌ってくれたの。
 私の心は張り裂けてしまった
 愛に苦しむあまり。

詩:Volkslieder (Folksongs) , collected by Kretzschmer and Zuccalmaglio, Berlin, first published 1838-40
曲:Johannes Brahms (1833-1897), "Klage", op. 105 (Fünf Lieder) no. 3 (1887/8), published 1888 [ voice and piano ], Berlin, Simrock

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アンドレアス・クレッチュマー(Andreas Kretzschmer: 1775-1839)とアントン・ヴィルヘルム・フォン・ツッカルマーリョ(Anton Wilhelm von Zuccalmaglio: 1803-1869)収集の『オリジナルの歌付きドイツ民謡集(Deutsche Volkslieder mit ihren Original-Weisen)』という全2巻の民謡集が1838年、1840年にベルリンから出版されているのですが、その第2巻(ツッカルッマーリョ収集)に収められているのが、この「嘆き」という民謡です。「ニーダーライン地方の民謡から(Vom Niederrhein)」と記載されています。
ツッカルッマーリョ収集の「嘆き」の楽譜が下記のものです。

Klage_1 
Klage_2 

ブラームスはこの民謡のテキストのみを用いて、おそらく1888年にオリジナルの民謡とは全く異なる曲を付けました(ただ、有節形式で作曲されているのは、オリジナルの民謡を意識しているのでしょう)。同年10月に『ピアノ伴奏付きの低声独唱のための5つの歌(5 Lieder für eine tiefere Stimme mit Begleitung des Pianoforte)』作品105の3曲目として出版されました。

ブラームスの曲は、前奏なしでいきなり歌が始まります。
1行目はヘ長調のトニックで終わりますが、2行目の最後(bricht:brechen(壊す、破る)の3人称単数)はVIの和音の疑終止で不穏な空気を醸し出し、歌声部の最後はニ短調で締めくくります。ただ、ピアノ後奏の最後はヘ長調の主和音に戻ります。

男に裏切られた女性が、その男を好きになった友人(もしくは姉妹)に警告しているのでしょう。うまい言葉に騙された女性の嘆きが短い音楽の中に凝縮されて、聞き手の心を揺さぶります。3節の一見簡素な有節歌曲で、これほどまでに深いドラマを描いてしまうブラームスの手法にただただ脱帽するのみです。

ピアノ後奏は、歌の最後の4つの音の進行を引き継ぎ、最後は音価(音の長さ)を拡張して終結します。ブラームスが民謡調の作品の中に込める密度の濃さを強く感じる作品の一つです。

Klage-ending 

・ベルリンのN. Simrock社から1888年に出版された初版楽譜(第3節は下の楽譜の次のページにあるのですが、音楽は同一です)

Brahms-klage 

3/4拍子
ヘ長調(F-dur)-ニ短調(d-moll)
Einfach und ausdrucksvoll(単純に、表情豊かに)

●ジェスィー・ノーマン(S), ダニエル・バレンボイム(P)
Jessye Norman(S), Daniel Barenboim(P)

ノーマンの繊細な語り口に魅了されます。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), ヴォルフガング・サヴァリシュ(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Wolfgang Sawallisch(P)

F=ディースカウは民謡の言葉からも深い心理描写を描き出していて、凄みを感じました。

●クリストフ・プレガルディアン(T), ウルリヒ・アイゼンローア(P)
Christoph Prégardien(T), Ulrich Eisenlohr(P)

プレガルディアンが真摯に歌っていて、心に沁みました。シューベルトの有節歌曲では装飾を加えていたプレガルディアンですが、ブラームスのこの曲では装飾を加えていませんでした。

●レベッカ・シュテーア(MS), トビアス・ハルトリープ(P)
Rebekka Stöhr(MS), Tobias Hartlieb(P)

ゆっくり目のテンポでしっとりとした雰囲気を醸し出すシュテーアの表現力が素晴らしかったです。ハルトリープも歌の雰囲気としっかり合致した演奏でした。

●ソフィー・レンネルト(MS), グレアム・ジョンソン(P)
Sophie Rennert(MS), Graham Johnson(P)

Hyperionのブラームス歌曲全集の10巻。オーストリアのメゾ、レンネルトが素直に歌っています。

●エンミ・ライスナー(A), ミヒャエル・ラウハイゼン(P)
Emmi Leisner(A), Michael Raucheisen(P)

ラウハイゼンによるドイツ歌曲プロジェクトの一環として録音されたものです。ライスナーの表情豊かで深々とした歌は古さを全く感じさせません。

●ピアノパートのみ(Mariya Broytman(P))
Johannes Brahms, Klage, Op.105, No. 3, Piano Accompaniment, F major, no voice

Channel名:accompaniment piano(オリジナルのサイトはこちらのリンク先。音が出ますので要注意)
ピアノパートだけで聴いてもブラームスの素晴らしさが伝わってきます!ゆっくり目の演奏ですので、一緒に歌ってみるのもいいですね。

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The LiederNet Archive

IMSLP (楽譜)

Deutsche Volkslieder mit ihren Original-Weisen / Zweiter Theil. (A. Wilh. v. Zuccalmaglio / Berlin, 1840 / Vereins-Buchhandlung) (リンク先はGoogleブックスに掲載されているこの書籍の表紙に飛ぶので、画面下の「この書籍内を検索」欄に例えば「Feins Liebchen, trau du nicht」と入力してリターンを押して下さい。すると2つ検索結果の画面が出るので、460ページと書いてある方をクリックすると表示されます)

Andreas Kretzschmer (Wikipedia (独語))

Anton Wilhelm von Zuccalmaglio (Wikipedia (独語))

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エリーの要点「美」(Elly's Essentials; “Beauty”)

●Elly's Essentials; “Beauty”

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です。音声が出ます。)

(エリー・アーメリングの言葉の大意)

「Beauty(美)」という言葉は今では多くのものに使われすぎてありふれた言葉になってしまいました。
「美」に感動していますか。
ハーモニーの使者として「美」を経験していますか。
人生に必要なものとしてハーモニーを経験していますか。
時間があればハーモニーや美に洗浄してもらうのですが、携帯電話やAIなど責務が肩にのしかかってきます。
6時になったら電化製品から離れて、シューベルトを聞きませんか?

6:29- シューベルト「夕映えの中で(Im Abendrot)」の演奏(エリー・アーメリング&ドルトン・ボールドウィン)

Im Abendrot, D 799
 夕映えの中で

O wie schön ist deine Welt
Vater, wenn sie golden strahlet!
Wenn dein Glanz herniederfällt,
Und den Staub mit Schimmer malet,
Wenn das Rot, das in der Wolke blinkt,
In mein stilles Fenster sinkt!
 おお、なんと美しいのだ、御身の世界は、
 父よ、世界が金の光を放つ時!
 また、御身の輝きが降り注ぎ、
 ほこりを微光で色づける時、
 雲の中でちらついている紅が
 私の静かな窓辺に沈み込んでくる時!

Könnt ich klagen, könnt ich zagen?
Irre sein an dir und mir?
Nein, ich will im Busen tragen
Deinen Himmel schon allhier.
Und dies Herz, eh es zusammenbricht,
Trinkt noch Glut und schürft noch Licht.
 私は嘆き、ためらっているのだろうか?
 御身も自分も信じられないのだろうか?
 いや、私は胸にしかと抱こう、
 もうここにある御身の天空を。
 そして、この心は、もろく崩れ落ちる前に
 さらに赤熱を飲み込み、光をすすり入れるのだ

詩:Karl Gottlieb Lappe (1773-1843), "Im Abendroth", first published 1818
曲:Franz Peter Schubert (1797-1828), "Im Abendrot", D 799 (1824?5)

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(参考)

Elly's Essentials; Elly's Essentials; “Beauty” (YouTube)

The LiederNet Archive (O wie schön ist deine Welt)

詩と音楽 梅丘歌曲会館(夕映えの中で)(※私がかつて投稿した対訳)

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