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ジークフリート・ローレンツ(Siegfried Lorenz)逝去

ドイツ出身の名バリトン歌手、ジークフリート・ローレンツ(Siegfried Lorenz: 1945.8.30 – 2024.8.24)が誕生日を6日後にひかえて亡くなったそうです。78歳と知って、もうそんな年齢だったのかと驚かされます。演奏家たちが現役ばりばりの頃のまま時がストップしてしまったかのようです。
F=ディースカウらの次の世代の注目株として名前が挙がっていたのが昨日のことのように感じられます。
ローレンツは来日したことがあるらしいのですが、それがいつなのか分からず(※(2024.9.7追記)調べて判明した来日公演の内容の一部を記事の下部に追記しました)、私自身は残念ながら実演を聞いたことがありませんでした。
ただ、シューベルトの歌曲集を沢山録音しているのが強く印象に残っていて、後年LP時代のものも含めてCD8枚組にまとめられています。
F=ディースカウの選曲をかなり意識したようなヴォルフ『メーリケ歌曲集』の録音を今あらためて聞くと、ディースカウと異なる資質をもったローレンツの楷書風の丁寧な歌声がとても爽快で、ヴォルフにとっつきにくさを感じている方にも聞きやすいのではないかと感じました。
ローレンツと長年コンビを組んでいたピアニストのノーマン・シェトラーも6月に亡くなって、その2ヶ月後にローレンツまで旅立つとは思ってもいませんでした。

この記事の後半にDiscogsに掲載されていたローレンツの歌曲の録音をまとめましたが、Discogsに載っていなかったブラームスの歌曲集が手元にあり、1989年、Lukaskircheの録音で『4つの厳粛な歌』+16曲の歌曲が収録されています。これもローレンツの柔らかい美声で丁寧に歌われたもので、シェトラーのピアノ共々素晴らしいので、中古ショップなどで見かけられたら入手してみるのもいいかもしれません。

また、これはApple musicのサブスクに含まれていた配信アルバムなのですが、"11th International Music Competition, Budapest"というブダペストのコンクールの入賞者によるHungarotonレーベルのアルバムの中で、ヘルベルト・カリガ(Herbert Kaliga)のピアノでブラームス、ベートーヴェン各1曲、R.シュトラウス2曲を歌っています。

●Zueignung, Op. 10 No. 1
11th International Music Competiton, Budapest
Siegfried Lorenz(BR), Herbert Kaliga(P)

ローレンツのインタビューとコンサートの3つの番組をつなげた3時間以上のボリュームの映像がアップされています。最初の「ジークフリート・ローレンツ-肖像と歌曲(Siegfried Lorenz - Portrait und Lieder)」は、インタビューの合間に歌曲などの演奏を挿入していますが、歌曲に関しては断片的ではなく1曲フルで見ることが出来ます。特にヴォルフの「戒めに」「別れ」などのユーモアとシニカルな表現を彼の映像で見ることが出来るのは貴重です。また、若かりしローマン・トレーケルに「夕星の歌」のレッスンをつける場面も長めに放送され、ローレンツの指導の仕方に穏やかな人柄があらわれているように感じました。
2番目の「音楽と詩(Musik und Poesie)」はピアニストのノーマン・シェトラーと、ヴィンフリート・ヴァーグナーのロマン・ロラン等の朗読を含んだ歌曲の夕べで、最後のブラームスとヴォルフを除いた歌曲はスタジオ録音がされていない貴重なレパートリーと思われます。
最後のシューベルトとシューマンの歌曲集はコルト・ガルベンのピアノで比較的有名な作品が演奏されています。シューマンについてもスタジオ録音されていないレパートリーと思われます。こういう映像で残されているのは歌曲のファンにとっては有難いですね。

●Siegfried Lorenz - Portrait und Lieder (VIDEO): Mozart, Bach, Wagner, Verdi, Schubert, Schumann u.a.

Channel名:Opernsänger DDR(オリジナルのサイトはこちらのリンク先)

4:26-6:13 Schumann: Zigeunerliedchen Nr. 2 "Jeden Morgen, in der Frühe", Op. 79/7b, with Norman Shetler, piano (シューマン:ジプシーの歌II)(ノーマン・シェトラー(P))

23:17-26:03 Wolf: Zur Warnung, with Cord Garben, piano (ヴォルフ:戒めに)(コルト・ガルベン(P))

28:24-31:04 Wolf: Abschied, with Cord Garben, piano (ヴォルフ:別れ)(コルト・ガルベン(P))

39:02-39:50 Wolf: Nicht länger kann ich singen (No. 42 from "Italienisches Liederbuch"), with Cord Garben, piano (ヴォルフ:もうこれ以上歌えない)(コルト・ガルベン(P))

42:39-49:42 ローマン・トレーケル(Roman Trekel)へのレッスン映像(Wagner: Wie Todesahnung - O du, mein holder Abendstern)(ヴァーグナー:夕星の歌)

49:43-52:54 Wolf: Sterb' ich, so hüllt in Blumen meine Glieder (No. 33 from "Italienisches Liederbuch"), with Cord Garben, piano (ヴォルフ:僕が死んだら体を花で覆っておくれ)(コルト・ガルベン(P))

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57:34- "Musik und Poesie" (Rostock 1985) 解説

58:09- ライヴ映像
Siegfried Lorenz, Bariton - Norman Shetler, Klavier - Winfried Wagner, Moderation
58:56- Beethoven: Mit einem gemalten Bande, Op. 83 No. 3 (ベートーヴェン:彩られたリボンで) + 朗読
1:04:58- Beethoven: Adelaide, Op. 46 (ベートーヴェン:アデライーデ) + 朗読
1:15:45- Mozart: Abendempfindung, K 523 (モーツァルト:夕暮れの情感) + 朗読
1:24:26- Schumann: Mondnacht, Op. 39/5 (シューマン:月夜)
1:28:37- Schumann: Der Nussbaum, Op. 25/3 (シューマン:くるみの木)
1:35:04- Mendelssohn: Auf Flügeln des Gesanges, Op. 34/2 (メンデルスゾーン:歌の翼に)
1:38:05- Mendelssohn: Das erste Veilchen, Op. 19a/2 (メンデルスゾーン:最初のすみれ) + 朗読
1:43:40- Brahms: Feldeinsamkeit, Op. 86/2 (ブラームス:野の孤独) + 朗読
1:51:25- Wolf: Storchenbotschaft (ヴォルフ:こうのとりの使い)

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1:56:06- LIEDER von Schubert und Schumann (1986)
Siegfried Lorenz, Bariton - Cord Garben, Klavier
Teil 1: Franz Schubert
- An die Musik (音楽に寄せて)
- Die Taubenpost (はとの便り)
- Die Forelle (ます)
- Heidenröslein (野ばら)
- Ungeduld (焦燥)
- Ständchen (セレナーデ)
- Wanderers Nachtlied I (旅人の夜の歌I)
- Wanderers Nachtlied II (旅人の夜の歌II)
- Der Musensohn (ムーサの息子)
2:19:01- Pausen-Interview mit SFB-Kulturredakteur Georg Quander!!!
2:33:34- Teil 2: Robert Schumann
- Widmung (献呈)
- Mein Wagen rollet langsam (私の馬車はゆっくり進む)
- Zigeunerliedchen I (ジプシーの歌I)
- Zigeunerliedchen II (ジプシーの歌II)
- Die Lotosblume (はすの花)
- Nachtlied (夜の歌)
- Mondnacht (月夜)
- Schneeglöckchen (まつゆきそう)
- Frühlingsfahrt (春の旅)
- Tragödie II (悲劇II)
- Lieder aus dem Schenkenbuch I + II (酌童の巻からの歌I + II)
- Freisinn (自由な心)
- Der Hidalgo (スペインの伊達男)

ローレンツはシューマン歌曲のアルバムを残さなかったのでしょうか。ちょっと調べた限りでは情報が出てきませんでした。その代わりに2001年の『詩人の恋』のライヴ音源がアップされていました。

●Dichterliebe (Schumann) - Siegfried Lorenz and Herbert Kaliga (2001)
Siegfried Lorenz(BR), Herbert Kaliga(P)
Recorded: March 24, 2001 in Coswig (Saxony)

Channel名:s w(オリジナルのサイトはこちらのリンク先)

正規商品なのか放送録音なのか分からないのですが、コルネーリウスの『クリスマスの歌』全6曲がアップされていました。これは彼にぴったりの素敵な選曲ですね。

●Siegfried Lorenz singt Peter Cornelius: Weihnachtslieder
Siegfried Lorenz(BR), Herbert Kaliga(P)

Channel名:Opernsänger DDR(オリジナルのサイトはこちらのリンク先)

ヴォルフの『イタリア歌曲集』全曲を歌っている1988年の貴重な映像があります。ローレンツのピアニストはコルト・ガルベンで、女声用歌曲はヘレン&クラウス・ドーナト夫妻の演奏です。

●Hugo Wolf: Italienisches Liederbuch (Donath, Lorenz, 1988)
Helen Donath(S), Klaus Donath(P)
Siegfried Lorenz(BR), Cord Garben(P)

Channel名:Opernsänger DDR(オリジナルのサイトはこちらのリンク先)

ジークフロート・ローレンツさんの安らかな眠りをお祈りいたします。

Hungaroton Classics: LPX 11534
11th International Music Competition, Budapest
Recorded: 1970?
Siegfried Lorenz, baritone
Herbert Kaliga, piano
Brahms: Wie bist du, meine Königin, Op. 32/9
Beethoven: Aus Goethe's Faust, Op. 75/3
R.Strauss: Ach weh mir unglückhaftem Mann, Op. 21/4
R.Strauss: Zueignung, Op. 10/1

Ars Vivendi: 2100209
Brahms: Lieder
Recorded: 1989, Studio Lukaskirche, Dresden
Wie Melodien zieht es mir, Op. 105/1
Wir wandelten, Op. 96/2
Komm bald, Op. 97/5
Trennung "Wach auf, wach auf", Op. 15/5
Trennung "Da unten im Tale", Op. 97/6
Ich schleich umher, Op. 32/3
Klage, Op. 105/3
Mondnacht
Ständchen, Op. 106/1
Auf dem See, Op. 59/2
Wie bist du, meine Königin, Op. 32/9
Von ewiger Liebe, Op., 43/1
Feldeinsamkeit, Op. 86/2
In der Fremde, Op. 3/5
Nicht mehr zu dir zu gehen, Op. 32/2
Auf dem Kirchhofe, Op. 105/4
Vier ernste Gesänge, Op. 121/1-4

ETERNA: 8 26 641
Brahms – Liebeslieder Op. 52 / Neue Liebeslieder Op. 65 (Walzer)
Recorded: 8-16 March 1974, Jesus-Christus-Kirche, Berlin
Barbara Hoene, soprano
Gisela Pohl, alto
Armin Ude, tenor
Siegfried Lorenz, baritone (Op. 52/1,3,5,14,15,18; Op. 65/2,4,14)
Rundfunk-Solistenvereinigung Berlin
Wolf-Dieter Hauschild, conductor
Dieter Zechlin, piano
Klaus Bäßler, piano

Berlin Classics – 0093972BC
Gustav Mahler - Siegfried Lorenz – Lieder
Recorded: 1/1978, Paul-Gerhardt-Kirche, Leipzig (Kindertotenlieder), 1/1979, Paul-Gerhardt-Kirche, Leipzig (Lieder eines fahrenden Gesellen),
12/1979, 1,2/1980, 12/1982, Christuskirche, Berlin (Fünf Lieder nach Friedrich Rückert)
3,12/1982, Christuskirche, Berlin (Vier Lieder aus "Des Knaben Wunderhorn")
Siegfried Lorenz, baritone
Gewandhausorchester Leipzig (Kindertotenlieder; Lieder eines fahrenden Gesellen)
Berliner Sinfonie-Orchester (Fünf Lieder nach Friedrich Rückert)
Staatskapelle Berlin (Vier Lieder aus "Des Knaben Wunderhorn")
Kurt Masur, conductor (Kindertotenlieder; Lieder eines fahrenden Gesellen)
Günther Herbig, conductor (Fünf Lieder nach Friedrich Rückert)
Otmar Suitner, conductor (Vier Lieder aus "Des Knaben Wunderhorn")

Berlin Classics: 0184142BC (8CDs)
Franz Schubert - Siegfried Lorenz, Norman Shetler – Lieder
Recorded: 1974-1987, Lukaskirche, Dresden
Siegfried Lorenz, baritone
Norman Shetler, piano
CD1: Die schöne Müllerin, Op. 25, D 795 (rec. March/1987)
CD2: Winterreise, Op. 89, D 911 (rec. Sep./1986)
CD3: Schwanengesang, D 957 (rec. Nov./1985)
CD4: 17 Lieder nach Goethe (rec. 23-26/Sep./1974)
CD5: 6 Lieder nach Schiller (rec. 17-20/May/1976)
CD6: 17 Lieder nach Mayrhofer (rec. July/1980)
CD7: 31 Lieder nach verschiedenen Dichter (rec. March/1983 (1-22), March/1977 (23-28))
CD8: 22 Lieder nach Dichtern des Freundeskreises, autobiographische Lieder (rec. March/1977 (1-8), Oct./1976 (9-22))

NOVA: 8 85 219
Siegfried Lorenz, Herbert Kaliga, Wilhelm Weismann, Rudolf Wagner-Régeny – Lieder Von Wilhelm Weismann Und Rudolf Wagner-Régeny
Recorded: 1981, Studio Christuskirche, Berlin
Siegfried Lorenz, baritone
Herbert Kaliga, piano
Wilhelm Weismann: Lieder und Balladen aus "Des Knaben Wunderhorn"
Wilhelm Weismann: Aus "Sechs Lieder für hohe Stimme"
Wilhelm Weismann: Drei Gesänge nach Worten von Friedrich Hölderlin
Rudolf Wagner-Régeny: Hermann-Hesse-Lieder
Rudolf Wagner-Régeny: Aus "Dahinter Wird Stille"
Rudolf Wagner-Régeny: Aus "Lieder der Frühe" (1924). Zwei Nietzsche-Lieder

ETERNA: 8 27 964
Hugo Wolf - Siegfried Lorenz, Norman Shetler – Mörike-Lieder
Recorded: 26-29 April 1984, Lukaskirche, Dresden
Siegfried Lorenz, baritone
Norman Shetler, piano
Hugo Wolf: 15 Mörike-Lieder

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(2024.9.7追記)

ジークフリート・ローレンツの来日公演について、東京文化会館のアーカイブで検索したところ、
1975年11月にクルト・マズア指揮ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏会でマーラー『さすらう若人の歌』を歌い、
1979年3月には小林道夫のピアノでシューベルト『美しい水車小屋の娘』を歌い、
1987年4月にはオトマール・スイットナー指揮ベルリン国立歌劇場のモーツァルト『フィガロの結婚』でアルマヴィーヴァ伯爵を歌っていたそうです。

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(参考)

slippedisc: Death of eminent German baritone, 78 (Norman Lebrecht)

Wikipedia: Siegfried Lorenz (baritone)

Discogs: Siegfried Lorenz

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コメント

フランツさん、こんばんは。

ローレンツのRシュトラウスの「献呈」聞きました。伸びやかな美声で、いい意味で癖のない誠実な歌いぶりが、目に心地よかったです。

他の演奏も少しずつ聞いてみますね(*^^*)

投稿: 真子 | 2024年9月11日 (水曜日) 22時00分

フランツさん、こんばんは。

ローレンツのRシュトラウスの「献呈」聞きました。伸びやかな美声で、いい意味で癖のない誠実な歌いぶりが、目に心地よかったです。

他の演奏も少しずつ聞いてみますね(*^^*)

投稿: 真子 | 2024年9月11日 (水曜日) 22時01分

真子さん、こんばんは。

ローレンツの「献呈」聞いて下さったのですね。

>伸びやかな美声で、いい意味で癖のない誠実な歌いぶりが、目に心地よかったです。

本当に実直で真っ直ぐで、この上なく美しいドイツ語のディクションで歌う彼は天性のリート歌いだと思います。「癖がない」のがこれほど美質に感じられる人も珍しいかもしれません。確かに派手さや圧倒するような迫力はあまりないかもしれませんが、リートを味わい深く聞かせてくれる要素はすべて持っておられると思います。バッハを沢山録音しているのも、彼の特質にふさわしいからでもあるのでしょう。
実演が聞けなかったのが残念ですが、録音を楽しみたいと思います。

投稿: フランツ | 2024年9月12日 (木曜日) 19時39分

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