レーヴェ「海の燐光」(Loewe: Meeresleuchten, Op. 145, No. 1)を聴く
Meeresleuchten, Op. 145, No. 1
海の燐光(りんこう)
Wie viel Sonnenstrahlen
Fielen golden schwer,
Fielen feurig glühend
In das ew'ge Meer;
Und die Woge sog sie
Tief in sich hinab,
Und die Woge ward ihr
Wildlebendig Grab.
どれほどの太陽の光が
濃い金色に降り注ぎ
真っ赤に燃えて
永遠なる海へと落ちたことか。
そして大波は陽光を
自らの深くへと吸い込み、
大波は陽光にとって
生きる墓となった。
Nun in stiller Nächte
Heil'ger Feierstund'
Sprühen diese Strahlen
Aus des Meeres Grund.
Leuchtend roll'n die Wogen
Durch die dunkle Nacht;
Wunderbar durchglüht sie
Funkensprüh'nde Pracht.
今や神聖な祝典の
静かな夜に
この光線が
海底から煌めく。
輝く大波は
暗い夜の間押し寄せる。
見事なまでに光は、
煌めく壮麗さを輝きで満たす。
詩:Carl Siebel (1836-1868)
曲:Carl Loewe (1796-1869), "Meeresleuchten", op. 145 no. 1 (1859?), from Liederkranz für die Bassstimme, no. 1
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レーヴェは、カール・ズィーベル(Carl Siebel: 1836-1868)の"Erinnerung(思い出)"という詩に、タイトルを"Meeresleuchten(海の燐光), Op. 145, No. 1"に変更して作曲しました。楽譜には「宮廷歌手アウグスト・フリッケ(August Fricke)の為に作曲され、彼に捧げられた」と記載されています。1959年に作曲され、5曲からなる"Liederkranz für die Bassstimme(バスの為の歌の冠)"の第1曲目として1869年に出版されました。
曲はリピート記号で繰り返される、2節の完全な有節歌曲です。レーヴェがバス歌手と指定しているだけあって、歌声部の最低音は最後に出てくるほ音(E)で、最高音はロ音(H)です。ソプラノの概念を超越したジェスィー・ノーマンがもし歌ったとしたら移調する必要はないかもしれませんが、基本的にこの曲を歌えるのは低声歌手に限られるでしょう。悠然とした伸びやかな旋律にしばしばあらわれるメリスマをいかに見事に歌うかがポイントの作品のように思えます。穏やかで美しいメロディーをもち、短いですが印象に残る作品です。
ピアノパートは基本的に右手で八分音符の和音を刻み、左手はオクターブのバス音をゆったり響かせています。
9/8拍子
ホ長調(E-dur)
Andante
●クルト・モル(BS), コルト・ガルベン(P)
Kurt Moll(BS), Cord Garben(P)
クルト・モルの重厚で包み込むような深いバスの美声が、この作品の魅力を余すところなく描いています。
●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), イェルク・デームス(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Jörg Demus(P)
ハイバリトンの印象の強いF=ディースカウですが、この曲の深く沈む低音を見事に表現していて素晴らしいです。
●カール・リッダーブッシュ(BS), リヒャルト・トリムボルン(P)
Karl Ridderbusch(BS), Richard Trimborn(P)
リッダーブッシュの声は深さと同時に優しさも感じられ、聞いていて癒される感じがしました。
●ヨーゼフ・グラインドル(BS), ヘルタ・クルスト(P)
Josef Greindl(BS), Hertha Klust(P)
息の長いメロディーを悠然と歌うグラインドルのバス歌手ならではの響きに魅了されました。
●フランツ・ハヴラタ(BS), ヘルムート・ドイチュ(P)
Franz Hawlata(BS), Helmut Deutsch(P)
現役世代にもここで聞けるような優れたリートを歌うバス歌手がいることが嬉しいです。ちなみにハヴラタは東日本大震災の直後にキャンセルせずに来日してオペラ出演したそうです。当時の観客は大いに励まされたことと思います。
●ピアノパートのみ(Taisiya Pushkar(P))
Meeresleuchten (Carl Loewe) - Piano Accompaniment in E Major
Channel名:All Things Piano(オリジナルのサイトはこちらのリンク先です。音が出ますので要注意)
楽譜表示付き。オリジナルのホ長調で演奏されています。ピアノだけで聞いてもとても美しいです。
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(参考)
IMSLP ("Meeresleuchten"はP.158)
Carl Siebel's Dichtungen (原詩の"Erinnerung"はp.106)
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コメント
フランツさん、こんにちは。
ご無沙汰していました。かねてから悪かった奥歯が悪化し、抜歯したりしていました。過去に二回、抜歯でドライソケットになり、大変な思いをしたので、びくびくしていましたが、なんとか今回はドライソケットを回避できました。
前置きが長くなりましたが、この曲癒されますね。
最近、何かと体調がよくないことが続いたので、この曲に心が包まれました。
深海の持つ神秘や広さ深さが美しく表現されていますね。
男性低音歌手たちの魅力を最大に引き出す曲でもありますよね。
ディースカウさんも、軽やかなバリトンだけでない一面を聞かせてくれています。
プライさん、なぜこの曲を録音しなかったのかな?
音質的にも音域的にも、彼の演奏スタイル的にも合っていると思うのですが。
仕方がないから、脳内で演奏しました(笑)
繰り返し聞きたい名曲ですね。
いつも素敵な曲のご紹介をありがとうございます(*^^*)
投稿: 真子 | 2024年9月 4日 (水曜日) 16時23分
真子さん、こんばんは。
ご無沙汰しております。
抜歯をされたのですか。大変でしたね。ドライソケットって何だろうと調べてみたら痛そうな症状ですね💦今回は回避出来たとのこと、良かったです。
くれぐれもお大事になさって下さいね。
このレーヴェの曲が真子さんを癒すことが出来たのでしたら、ご紹介して良かったです(^^)
> 深海の持つ神秘や広さ深さが美しく表現されていますね。
本当におっしゃる通りですね。何もかも受け入れてくれる海の包容力のようなものを感じました。
プライは数枚レーヴェ・アルバムを録音していますが、この曲は収録されませんでしたね。膨大な曲数の楽譜の中で見逃してしまったのか、それとも歌う機会がなかったのか、プライに合っていそうなので、聞いてみたかったですよね。
真子さんは脳内再生を楽しまれたようで何よりです。
今レーヴェの録音を少しづつ聴いていますので、また記事に出来たらいいなと思っています。
いつも励みになるコメントを有難うございます♪
投稿: フランツ | 2024年9月 4日 (水曜日) 20時33分