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レーヴェ「牧師の娘(Carl Loewe: Das Pfarrjüngferchen, Op. 62, Heft 2, No. 4)」を聴く

Das Pfarrjüngferchen, Op. 62, Heft 2, No. 4
 牧師の娘

1.
Herr Pfarrer hat zwei Fräulchen,
Die gar zu niedlich sind,
Sie haben kleine Mäulchen
Und Schühlein wie ein Kind
Und kleine flinke Händchen,
Zu knöppeln (klöppeln?) Spitz' und Käntchen,
Zu wickeln runde Knäulchen,
Zu drehen Rädchen wie der Wind.
 牧師様には2人の娘がいて、
 2人はとてもかわいらしく
 お口は小さく
 靴は子供のようで
 お手々は小さく器用で
 縁(ふち)をレース編みしたり
 糸をまるめて玉にしたり
 風のように糸車を回したりする。

2.
Im selbstgemachten Schöpfchen,
Im Lätzchen selbstgestickt,
Im selbstgeflochtnen Zöpfchen,
Im Strümpfchen selbstgestrickt,
Im selbstgebleichten Schürzchen,
Sie heben rußge Stürzchen,
Und rühren um im Töpfchen
Den Kohl, vom Gärtchen selbstbeschickt.
 自分で髪を整え
 自分で前掛けに刺繍をし
 自分でお下げ髪に編み
 自分で靴下に刺繍をし
 自分で前掛けを漂白して、
 二人は煤けた蓋を取り
 鍋の中の、
 自分でお庭から取ってきたキャベツをかき混ぜる。

3.
Am Sonntag, wenn zu lange
Der Vater läßt den Sand
Der Predigt rinnen, bange
Wird ihrer fleißgen Hand,
Verborgen unterm Stühlchen,
Sie halten da ein Spülchen,
Ein Künkelchen im Gange,
Man sieht es nicht im Gitterstand.
 日曜日に、あまりにも長いこと
 父が砂のように説教を
 垂れると
 不安になった二人の勤勉な手は
 椅子の下でこっそり
 糸巻をつかみ
 糸巻ざおを動かす。
 格子の囲いで見られることはない。

4.(1行目はレーヴェの付加。他の行は第1連の繰り返し)
Das sind des Pfarrers Fräulchen,
Die gar zu niedlich sind,
Sie haben kleine Mäulchen
Und Schühlein wie ein Kind
Und kleine flinke Händchen,
Zu knöppeln Spitz' und Käntchen,
Zu wickeln runde Knäulchen,
Zu drehen Rädchen wie der Wind.
 それが牧師の娘さんたち、
 2人はとてもかわいらしく
 お口は小さく
 靴は子供のようで
 お手々は小さく器用で
 縁(ふち)をレース編みしたり
 糸をまるめて玉にしたり
 風のように糸車を回したりする。

詩:Friedrich Rückert (1788-1866), "Die Pfarrjüngferchen", appears in Haus- und Jahrslieder, in 3. Des Dorfamtmannsohnes Kinderjahre [formerly, "Erinnerungen aus den Kinderjahren eines Dorfamtmannsohns"] 
曲:Carl Loewe (1796-1869), "Die Pfarrjüngferchen", op. 62, Heft 2 no. 4 (1837), stanzas 1-3 [ voice and piano ]

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フリードリヒ・リュッケルトの詩による「牧師の娘(Das Pfarrjüngferchen, Op. 62, Heft 2, No. 4)」はカール・レーヴェによって愛らしいリートとして1837年10月に作曲されました。私がこの曲をはじめて知ったのはファスベンダーとガルベンによるDeutsche Grammophonのレーヴェ歌曲集のCDでした。一回聞いただけで気に入り、一体何度聞いただろうというぐらい繰り返し聞いたものでした。

リュッケルトの原詩にはもともとレーヴェが作曲しなかった第4連があり、娘たちが何年も料理をしているうちにしわくちゃになってしまったので男たちの意欲が失せて独身のままだったという、今ならアウトな内容になっています。レーヴェがこの第4連を省略して、第1連を繰り返す形(1行目だけレーヴェによる改変がありますが)にしたのは妥当な判断だったように思います。

レーヴェは、第3連のみ若干の変化を加えた有節形式で作曲しました(A-A-A'-A)。第3連は説教する父親の目を盗んで編み物をするところで、途中からこれまでのニ長調の同主調にあたるニ短調に変わります。

レーヴェの歌曲の特徴の一つは歌声部にメリスマが多用されることだと思います。この曲でもそれほど多くはありませんが、メリスマがあります。弾き語りをするレーヴェにとって、装飾的な歌の技術に自信があったのでしょうか。

また、ピアノの間奏や後奏が糸車をくるくる回している様を思わせ、とても魅力的です。楽譜には特に指示はありませんが、コルト・ガルベンのようにアッチェレランドして速めていくとお茶目な感じが出て魅力的でした。

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C (4/4拍子)
ニ長調(D-dur)
Allegro grazioso

●ブリギッテ・ファスベンダー(MS), コルト・ガルベン(P)
Brigitte Fassbaender(MS), Cord Garben(P)

ファスベンダーとガルベンがDGに録音したレーヴェ歌曲集のCD(1987年10月ベルリン録音)によって、バラーデだけではないレーヴェのリートの魅力に開眼しました。このCDで解説を担当されている喜多尾道冬氏は日頃から歌曲を歌うファスベンダーを非常に高く評価していて、「F=ディースカウとならぶ大リート歌手」と言い切っておられるのが清々しいです。ピアノのガルベンは間奏や後奏をアッチェレランド気味に速めていく箇所など表現力が素晴らしいです。

●ガブリエレ・ロスマニト(S), コルト・ガルベン(P)
Gabriele Rossmanith(S), Cord Garben(P)

コルト・ガルベンによるcpoレーベルへのレーヴェ歌曲全集第4巻に収録されています。ロスマニトの清楚な美声で聞くと、テキストで歌われている娘さんたちのイメージが浮かびます。

●ルドルフ・ボッケルマン(BR), ミヒャエル・ラウハイゼン(P)
Rudolf Bockelmann(BR), Michael Raucheisen(P)

1943年2月5日録音。ピアニストのラウハイゼンがドイツリートの集大成を録音するというプロジェクトを進める中、戦争で中断を余儀なくされますが、レーヴェの作品についてはかなり多くの録音が残されました。この録音はその中の一つと思われますが、ボッケルマンのとぼけたユーモラスな歌唱が楽しいです。後奏の最後にボッケルマンがテクスト最後の"wie der Wind(風のように)"を追加して歌っています。

●エンゲルベルト・クッチェラ(BS), グレアム・ジョンソン(P)
Engelbert Kutschera(BS), Graham Johnson(P)

この曲は女声歌手しか歌わないというイメージをこれまで勝手に持っていたのですが、男声の低声歌手が歌うことでユーモラスな雰囲気が強まってなかなかいいですね。

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(参考)

The LiederNet Archive

IMSLP ("Das Pfarrjüngferchen"はp.84)

フリードリヒ・リュッケルト(Wikipedia:日本語)

Friedrich Rückert (Wikipedia:独語)

F. Rückert's gesammelte poetische Werke. [Edited by H. Rückert.], 第 1 巻(P.219)

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レーヴェ「オーディンの海の騎行」(Carl Loewe: Odins Meeresritt, Op. 118)を聴く

Odins Meeresritt (oder Der Schmied auf Helgoland), Op. 118
 オーディンの海の騎行(あるいはヘルゴラントの鍛冶屋)

Meister Oluf, der Schmied auf Helgoland,
Verläßt den Amboß um Mitternacht.
Es heulet der Wind am Meeresstrand,
Da pocht es an seiner Türe mit Macht:
 オールフ親方はヘルゴラントの鍛冶屋で
 真夜中に金敷(かなしき)を離れる。
 岸辺では風が咆哮している。
 その時、勢いよくドアをたたく音がする。

"Heraus, heraus, beschlag' mir mein Roß,
Ich muß noch weit, und der Tag ist nah!"
Meister Oluf öffnet der Türe Schloß,
Und ein stattlicher Reiter steht vor ihm da.
 「出て来い、出て来い、わしの馬に蹄鉄を打ってくれ。
 わしはまだ遠くまで行けねばならぬ。夜明けも近い!」
 オールフ親方が扉の錠を開けると
 一人の堂々たる騎士が目の前に立っている。

Schwarz ist sein Panzer, sein Helm und Schild;
An der Hüfte hängt ihm ein breites Schwert.
Sein Rappe schüttelt die Mähne gar wild
Und stampft mit Ungeduld die Erd'!
 鎧、兜、盾は黒く、
 腰には幅の広い剣を差している。
 彼の黒馬は荒々しくたてがみを振り
 苛立って地面をけっている!

"Woher so spät? Wohin so schnell?"
"In Norderney kehrt' ich gestern ein.
Mein Pferd ist rasch, die Nacht is hell,
Vor der Sonne muß ich in Norwegen sein!"
 「こんな遅くにどちらから?そんなに速くどちらへ?」
 「わしはノルダーナイ島に昨日立ち寄った。
 わしの馬は足が速く、夜は光が照らしてくれる。
 日が出る前にノルウェーに行かねばならぬ!」

"Hättet Ihr Flügel, so glaubt' ich's gern!"
"Mein Rappe, der läuft wohl mit dem Wind.
Doch bleichet schon da und dort ein Stern,
Drum her mit dem Eisen und mach' geschwind!"
 「翼があるというのでしたら、喜んで信じるのですが!」
 「わしの馬は風に乗って駆けるのだ。
 だがもうあちこちで星の光が薄くなっている、
 だから鉄を持ってきて早く打ってくれ!」

Meister Oluf nimmt das Eisen zur Hand,
Es ist zu klein, da dehnt es sich aus.
Und wie es wächst um des Hufes Rand,
Da ergreifen den Meister Bang' und Graus.
 オールフ親方は鉄を手に取る、
 鉄はとても小さかったが、その時伸びたのだ。
 なんと蹄(ひづめ)のふちまで広がり、
 親方は不安と恐怖に襲われた。

Der Reiter sitzt auf, es klirrt sein Schwert:
"Nun, Meister Oluf, gute Nacht!
Wohl hast du beschlagen Odin's Pferd';
Ich eile hinüber zur blutigen Schlacht."
 この騎手は馬にまたがり、剣が音を立てる。
 「では、オールフ親方、おやすみ!
 あなたはオーディンの馬にうまく蹄鉄を打ってくれた。
 わしは血なまぐさい戦に急ぐとしよう。」

Der Rappe schießt fort über Land und Meer,
Um Odin's Haupt erglänzet ein Licht.
Zwölf Adler fliegen hinter ihm her;
Sie fliegen schnell, und erreichen ihn nicht.
 黒馬は陸へ海へと突進して行き、
 オーディンの頭のまわりは光り輝く。
 12羽の鷲がその後を飛ぶ。
 鷲は速く飛ぶが、オーディンに追いつかなかった。

*4連2行:Norderney: Ost-Friesische Insel(ノルダーナイ島:東フリースラントの島)

詩:Aloys Wilhelm Schreiber (1761-1841)
曲:Carl Loewe (1796-1869), "Odins Meeres-Ritt", subtitle: "Der Schmied auf Helgoland", op. 118 (1851)

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カール・レーヴェ(Carl Loewe: 1796-1869)のバラーデは史実や神話などが元になっているものが多い為、文化の全く異なる日本人にとってはとっつきにくい感がなくもないのですが、テキストは別として音楽だけ聞くと、描写表現がとても分かりやすく、メロディーラインも美しいので、次から次へと情景が変わる紙芝居に通じるようなわくわく感が感じられます。

往年の歌手(スレツァークやシュルスヌスなど)から現代の歌手にいたるまで歌い継がれているのは、ヨーロッパ圏の人たちにとっては馴染みのある内容であり、かつレーヴェの作品の親しみやすさも関係しているのではないかと思います。ただ、レーヴェの膨大な量の作品の中で何曲知っているかと問われるといささか心もとなくなります。コルト・ガルベンがcpoレーベルに歌曲全集を録音してくれたこともあり、テキストの難解さはとりあえず脇に置いて、少しずつ未知の作品に触れていくというのもいいかなと思ったりもしています。

そんな中、レーヴェのバラーデの王道であり、名歌手たちがこぞって歌い、録音してきた作品の1つが「オーディンの海の騎行(Odins Meeresritt, Op. 118)」で、「海を行くオーディン」という日本語タイトルでも親しまれています。北ゲルマン人の神話をもとにして書かれたテキストに作曲されたこの作品、とにかく良く出来ていて、格好いい曲なので、人気が高いのもうなずけます。

このテキストの登場人物は第三者の語り手を除くと2人で、鍛冶屋の親方オールフと、駿馬(8本脚のスレイプニル)にまたがる神オーディン(ヴァーグナーの『ニーベルングの指輪』に登場するヴォータンと同一人物)です。ヘルゴラントの鍛冶屋オールフは真夜中まで働き、ようやく仕事場を離れました。風が強く、海が荒れている中、オールフの家の扉を強く叩く者があり、出てみると全身黒ずくめの立派な騎士オーディンが立っていました。オーディンはノルダーナイ島から来て、夜明け前にはノルウェーに到着しなければならないので、馬の蹄鉄を打ってくれと頼みます。そんな速く移動できるわけないといぶかりながらも、オールフは小さな鉄を手にすると、蹄のふちまで鉄が伸びて恐怖におののきます。それでも無事鉄を打つと、オーディンが感謝の言葉を述べて、ノルウェーの戦へと去っていきます。十二羽の鷲が後を追うものの、速すぎてはぐれてしまったという内容です。

テキストの作者アロイス・ヴィルヘルム・シュライバー(Aloys Wilhelm Schreiber: 1761-1841)による原タイトルは「Meister Oluf(親方オールフ)」で、鍛冶屋に焦点を当てていますが、レーヴェのバラーデのタイトルは「オーディンの海の騎行」、つまりオーディンが主役で、「ヘルゴラントの鍛冶屋」、つまりオールフのことを副題として扱っています。

1851年、レーヴェ55歳の作曲で、Richard Wigmoreによると、1951年に娘アデーレ(Adele Loewe: 1827-1851)を亡くし、失意から立ち直る最中のノルウェーで作曲されたそうです。レーヴェがどのような描写をしているのか実際に楽譜を見てみましょう。

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前奏もなくいきなり歌のみで始まり、オールフの紹介が歌われる箇所は、行進曲のようなリズム進行で、最初の1行でホ短調の主音に戻るところなど、鉄を鍛える様を暗示しつつ、オールフが職人肌の律儀な人であるさまを印象づけます。次に海が荒れる箇所ではsfで左手に細かい音型が出てきます。その後、オーディンがドアを叩くところではスタッカート付きの二つの和音が表現しています。そしてクレッシェンドで盛り上がったすえに「出てこい(Heraus!)」でffに到達します。その後、馬に蹄鉄を打ってくれと頼む箇所では、左手の細かい装飾音が馬のいななきをあらわしているかのようです。

「オールフが扉を開けると立派な騎士が立っていた」という第2連3-4行目は、1-2行目の音楽をほぼ同様に繰り返し、リタルダンドとフェルマータの付いた八分休符でいったん区切りを付けます。

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その後、moderato(中庸の速度で)で騎士の外見(鎧、兜、盾は黒く...)が、語るように落ち着いて表現されます。次に荒馬が落ち着きなく地面を蹴る様をfと強拍のsfの連続で示し、八分休符のフェルマータで再び場面転換をはかります。続いて、オールフが「こんな遅くにどちらから?」と聞く箇所のおずおずとしたさまをpとスタッカートで絶妙に描写します。その後も騎士の語るような旋律とオールフのおずおずとした言葉が対照的に描かれ、「わしの馬は風に乗って駆けるのだ」の箇所でピアノパートの細かい上行形が馬の疾風のような速さを描きます。

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オーディンに蹄鉄を早く鍛えるように急かされたオールフは、手に鉄をとるとそれはあまりにも小さかったが、「その時、伸びたのだ(da dehnt es sich aus)」という箇所をLentoで見事に表現していて、こういう物語の急展開を巧みに描く手腕はレーヴェの優れた点の一つだと思います。

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その後、馬の蹄の大きさまで鉄が伸びていく様をピアノパートが細かい音型で表現し、それを見て恐れおののくオールフのぶるぶる震えるさまをピアノパートのトレモロやトリルで描いています。

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最後の第7連・第8連で、オーディンは鍛冶屋のオールフに礼を言い、ノルウェーの戦場に向かうさまが語られますが、ここからは歌が1行歌うと、それに呼応してピアノソロが応じる形をとり、歌の内容をピアノの技巧的なパッセージが念押しするかのようです。歌とピアノソロが交互に応じあう曲というと、シューベルトの「愛の使い(Liebesbotschaft)」が思い出されますが、シューベルトは詩人と川の流れの対話を意図しているのに対して、シンガーソングライターのレーヴェは、歌とピアノそれぞれの名人芸をここで聴衆にアピールしようとしたのかもしれません。実際、この最後の2連は聞いていて徐々に高揚していく感じがたまらなく恰好よくて、最後へ向けて盛り上がる曲の代表格と言ってもよいかと思います。

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終盤の縦横無尽に駆け巡るピアノパートは、馬を駆るオーディンが鷲も追いつけないほどの猛スピードで戦場へ赴くさまがこれ以上ないぐらいドラマティックに表現されていて、ここはピアニストの腕の見せ所だと思います。レーヴェはピアノの腕前も優れていたそうなので、ここで聴衆に存分にアピールしたことでしょう。

C (4/4拍子) - 6/8拍子 - C - 6/8拍子
ホ短調(e-moll)
Andante maestoso - ...(テンポ表示が次々に変わる)

●トーマス・クヴァストホフ(BR), ノーマン・シェトラー(P)
Thomas Quasthoff(BR), Norman Shetler(P)

このCDを初めて聞いた時に驚嘆したのはピアノのシェトラー(先日惜しくも亡くなりました)。いつもはもっと落ち着いたクールな演奏をする印象があったシェトラーがこの曲では激しく雄弁に勢いよく前進していきます。走り出したら止まらない勢いです!今でもこの曲のピアノパートで一番のお気に入りです!若かりしクヴァストフのディクションの美しさも素晴らしいです。

●ヘルマン・プライ(BR), カール・エンゲル(P)
Hermann Prey(BR), Karl Engel(P)

1970年代Philipsのシリーズの一環として録音された音源ですが、クリーンとの「白鳥の歌」を彷彿とさせる情熱的なプライの歌唱です。語るところと突進するところのテンポのめりはりがはっきりしていて、特に後半の手に汗握る緊迫感のある歌はエンゲルの鋭利で輝かしい超絶技巧も相まって痺れます。

●ハンス・ホッター(BSBR), ジェラルド・ムーア(P)
Hans Hotter(BSBR), Gerald Moore(P)

ホッターの深々とした歌声はバラーデの語り部としても素晴らしいです。

●ヨーゼフ・グラインドル(BS), ヘルタ・クルスト(P)
Josef Greindl(BS), Hertha Klust(P)

グラインドルはバス歌手としては重くなく、ディクションも良かったです。クルストのピアノも良かったです。

●ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR), イェルク・デームス(P)
Dietrich Fischer-Dieskau(BR), Jörg Demus(P)

ディースカウはいつもながら巧みな表現力で隅々まで描き尽くしていました。デームスもいい演奏でした。

●コンスタンティン・クリンメル(BR), ドリアナ・チャカロヴァ(P)
Konstantin Krimmel(BR), Doriana Tchakarova(P)

かなりゆっくり目のテンポ設定で、それぞれの箇所の表現を丁寧に表現している感じがしました。途中で笑い声を入れたのは新鮮でした。ライヴだとこういう試みもしやすいでしょうね。

●カール・リッダーブッシュ(BS), リヒャルト・トリムボルン(P)
Karl Ridderbusch(BS), Richard Trimborn(P)

深みのあるリッダーブッシュの声がオーディンの威厳を感じさせてくれました。

●ピアノパートのみ
Carl Loewe: Odins Meeresritt op. 118 - Sing Along Lied

Channel名:Raul Neuman (オリジナルのサイトはこちらのリンク先。音声が出ます)
ここではニ短調に移調して演奏しています。レーヴェがこの曲のピアノパートにいかにドラマティックな要素をふんだんに盛り込んだかが分かります。そしてこのピアニストの演奏の素晴らしいこと!Bravo!

他に動画サイトにはアップされていませんでしたが、Hyperion RecordsのFlorian Boesch(BR), Roger Vignoles(P)によるレーヴェ・アルバム中の演奏も素晴らしかったです。こちらのアルバム、他の曲も含めてベッシュの語り口が非の打ちどころのないほど素晴らしく、ヴィニョールズも細やかに描写していて、とてもいいアルバムでしたので、興味のある方は聞いてみてはいかがでしょうか。

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(参考)

The LiederNet Archive

IMSLP (楽譜)

Hyperion RecordsのRichard Wigmoreによる解説

Liederabend - SV22 | Odins Meeresritt

Alois Wilhelm Schreiber: Gedichte. Erster Theil (1817, Bauer, Wien) ("Meister Oluf"は21~22ページ)

Aloys Schreiber (Wikipedia:独語)

ノルダーナイ島(Wikipedia:日本語)

フリースラント(Wikipedia:日本語)

オーディン(Wikipedia:日本語)

スレイプニル(Wikipedia:日本語)

カール・レーヴェ(Wikipedia:日本語)

Carl Loewe (Wikipedia:独語)

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エリーの要点「イーアー」(マーラー:高き知性への賛美)(Elly's Essentials; “ I - A ”)

●Elly's Essentials; “ I - A ”

Channel名:Elly Ameling (オリジナルのサイトはこちらのリンク先です。音声が出ます)

●エリー・アーメリングの言葉の大意

「人類は自然の上位にあるわけではなく自然の一部です。
私たちは種として滅亡の危機にあるのではないでしょうか。
私たちは自然の頂点に立たせてくれた脳を放棄し、人工知能(AI)に置き換えようとしています。
その止め方を誰か知っていますか?」

●演奏

エリー・アーメリング(S)
ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団
ズデニェク・マーカル(C)
1972年、オランダ音楽祭
(※2008年1月7日にオランダのNPO Radio4で放送されたものと同一音源ならば、1972年7月8日、De Doelen, Rotterdamのライヴ録音)

Elly Ameling, soprano
Rotterdam Philharmonic
Zdeněk Mácal, conductor
Holland Festival 1972

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Gustav Mahler: Lob des hohen Verstandes
 グスタフ・マーラー:高き知性への賛美

Einstmals in einem tiefen Tal
Kukuk und Nachtigall
Täten ein Wett' anschlagen:
Zu singen um das Meisterstück,
Gewinn' es Kunst, gewinn' es Glück:
Dank soll er davon tragen.
 昔、ある深い谷で
 カッコウとサヨナキドリが
 賭けをすることになった、
 どちらが立派な歌を歌うか、
 芸を手に入れようが、運を手に入れようが
 勝者は謝礼をもらうことになる。

Der Kukuk sprach: "So dir's gefällt,
Hab' ich den Richter wählt",
Und tät gleich den Esel ernennen.
"Denn weil er hat zwei Ohren groß,
So kann er hören desto bos
Und, was recht ist, kennen!"
 カッコウは言った「君さえ良ければ
 審査員を選んでおいたよ」
 そしてすぐにロバを任命した。
 「だってロバは2つの大きな耳があるから
 その分欠点も聞こえて
 何が正しいか分かるだろう。」

Sie flogen vor den Richter bald.
Wie dem die Sache ward erzählt,
Schuf er, sie sollten singen.
Die Nachtigall sang lieblich aus!
Der Esel sprach: "Du machst mir's kraus!
Du machst mir's kraus! I-ja! I-ja!
Ich kann's in Kopf nicht bringen!"
 彼らはすぐにこの審査員の前まで飛んで行った。
 事の次第を話すと
 ロバは仕事を始め、彼らに歌うように言った。
 サヨナキドリは愛らしく歌った!
 ロバは言った「君の歌はよく分からない!
 君の歌はよく分からんよ!イーヤー!イーヤー!
 私の頭に入ってこない!」

Der Kukuk drauf fing an geschwind
Sein Sang durch Terz und Quart und Quint.
Dem Esel g'fiels, er sprach nur
"Wart! Wart! Wart! Dein Urteil will ich sprechen,
Wohl sungen hast du, Nachtigall!
Aber Kukuk, singst gut Choral!
 続いてカッコウが急いで歌い始めた、
 3度、4度、5度音程の歌を。
 ロバは気に入り、ただこう言った、
 「待て!待て!待て!判定を言い渡そう。
 君もよく歌ったよ、サヨナキドリさん!
 でもカッコウさん、君は上手にコラールを歌ったな。

Und hältst den Takt fein innen!
Das sprech' ich nach mein' hoh'n Verstand!
Und kost' es gleich ein ganzes Land,
So laß ich's dich gewinnen!"
 それから拍子もうまく守っていた!
 これは私の高き知性にかけて述べるものだ!
 この歌はまるまる一国に値する、
 それゆえ君の勝ちとする!」

詩:from Volkslieder (Folksongs) , appears in Des Knaben Wunderhorn

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(参考)

The LiederNet Archive

IMSLP

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故コンラート・リヒター(Konrad Richter)について

日本を代表する共演ピアニストの平島誠也氏のブログ「落語ときどきピアノ」の記事で、平島氏の師のお一人だったコンラート・リヒター(Konrad Richter: 1935.12.2-2024.4.8)の逝去を知りました。
リヒターの実演に接する機会は残念ながらなく、もっぱら若い頃に聞いていたFMラジオやCDのみで接していたので、人物像などは全く知らず、歌曲演奏の他にウルマンの作品紹介に積極的だったことぐらいしか知りませんでした。平島氏のブログにそのあたりのことも含めて思い出が書かれていて、とても興味深いので、ぜひご覧ください。

リヒターといえばヘルマン・プライとのヴォルフ『アイヒェンドルフ歌曲集』ライヴによるバラード集(ヴォルフ「火の騎士」等)の録音が第一に思い浮かびますが、その他にもロベルト・ホルと複数の録音を残しています。

Musikvereinのアーカイヴで検索すると、1967年1月12日~1969年10月4日までヘルマン・プライと4回、1975年2月19日・23日にヴォルフの同一プログラムでハンス・ホッターと2回だけ(ホッターがスタジオ録音していない"Trunken müssen wir alle sein"も含まれていますが、ピアノパートがとても華やかな作品です)、1976年1月13日~1988年12月5日までロベルト・ホルとなんと17回にもわたって共演しています。ほとんどが小ホールのブラームス・ホール(Brahms-Saal)ですが、1986年5月17日の1回だけホルと大ホール(Großer Saal)で演奏しています。そういえばホルはホッターの弟子で、その関係でリヒターがホルと共演するようになったのでしょうか?ちなみにこのアーカイヴではリヒターのソロはありませんでした。

オーストリア西部で毎年催されるSchubertiadeのアーカイヴで検索すると、1978年6月20日から1989年6月19日まで(最初と最後はホルとの共演)39件もヒットしますが、興味深いことに歌曲の夕べ(Liederabend)だけでなく、13回にもわたるマスタークラス(Meisterkurs)やコンサートで演奏する曲目に関する講演会(Einführungsvortrag)なども含まれています。ここでもリヒターが共演するほとんどはロベルト・ホルですが、平島氏のブログでも触れられていますが、ハンス・ホッターと2夜にわたる『冬の旅』のコンサートに出演しています(1982年6月24日・26日)。そして、このシューベルティアーデではリヒターは2回にわたりソロ演奏を披露しています。1回目はレナード・ホカンソン、アーウィン・ゲイジと3人で分担してシューベルトのピアノ独奏曲を演奏するという、歌曲ピアニスト好きにとっては夢のようなコンサートが1981年6月17日に催されています。曲目はリンク先を見ていただくことにして、リヒターは晩年のハ短調のソナタD958を演奏しています。なんとなくですが、それぞれのピアニストの特質に合わせた選曲になっているような気がして微笑ましいです。そして2回目のソロコンサートは1984年6月1日に催され、モーツァルトの幻想曲ハ短調KV475(よく14番のソナタの前に演奏される曲)で始まり、あとはすべてシューベルトのピアノ曲です。締めは1981年にも披露していたソナタ19番ハ短調D958です。
それにしてもロベルト・ホルとの共演の多さが目につきます。ホルはリヒター以外のピアニストとも多く録音を残していますが、実演ではリヒターが共演しやすかったのかなと想像します。

東京文化会館のアーカイブでは12件ヒットしました。1980年のソロリサイタルから2006年の庄司祐美さんとの歌曲とピアノソロのコンサートまでこちらはかなりバラエティに富んだ内容でした。日本の錚々たる歌手たちだけでなく、浦川宜也さんとのブラームス:ヴァイオリンソナタ全曲というのもありました。

それにしてもクラシックを聴き始めて間もない頃からコンラート・リヒターという名前をなぜか知っていたのですが、きっかけが思い出せないのです。おそらくFMか何かで聞いたのだと思うのですが、誰との演奏だったのか、そのうちカセットテープを整理したら分かるかもしれません。

コンラート・リヒター氏の録音を聞いて偲びたいと思います。

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(参考)

落語ときどきピアノ~リヒター先生の思い出 遊俳・夏号より

Konrad Richter (Musiker) - Wikipedia

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Musikverein

Schubertiade

東京文化会館のアーカイブ

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